「鉄華オーカミのヤツ、何やってんだ、遅刻だぞ?」
「珍しいよね〜…オーカが遅刻なんて………」
「自分から誘って来たクセに。さっさと来いってんだ」
間もなくMr.ケンドーと早美アオイがモビル王の座を賭けてバトルを繰り広げる界放市中央スタジアム。
その門前で鉄華オーカミを待っていたのは友人の「一木ヒバナ」と「鈴木イチマル」…………
「………もういっそ2人で入っちゃう?……いっその事デートしに行く?」
「行かなーい」
「ぬっ……相変わらずガードが固い」
「私にバトルで勝ってから言いなさいっていつも言ってるでしょ?」
待っている間、2人にとってはいつものやり取りが繰り広げられる。どこまでもヒバナLOVEなイチマルはどうしても彼女に目を向けられたいらしい………
「……って言うか、アンタもよく私なんかをずっと追いかけられるわね……こんなに振られ続けたら普通百年の恋も冷めるもんでしょ」
「いやいや、ヒバナちゃんはオレっちにとって特別ですから。なんて言うかな〜……詳しくは言いづらいんだけど、ヒバナちゃんカッコいいんだよね〜………後可愛いし」
「結局顔かい」
最早漫才とも取れる会話を繰り広げる2人。その間に、こちらを走って来る人影が見えて来た…………
「あ、オーカ!……お〜い、こっちだよ〜」
「ちぇっ、もうちょっと遅く来いよな鉄華オーカミ、折角ヒバナちゃんと2人っきりでお話ししてたのに」
「さっき「さっさと来いってんだ」とか言ってたクセに………でもなんか変ね、オーカ、『急いでこっちに向かっている』って言うよりかは『何かに追いかけられてるから逃げてる』って感じがするんだけど………」
オーカが何者かに追われている事を察するヒバナ。やがてその背後に存在している別の人物にも気が付いて…………
「いい加減止まって私ともう一戦しなさいよ!!…今度こそぶっ飛ばしてやるんだから!!」
「オレはこの後用事があるんだよ、って言うかさっきぶっ飛ばしただろ」
「あんな手抜きバトル許せるわけないでしょ!?……私がちゃんとやって勝つまでやってもらうわ!!」
「そんな無茶な」
赤髪の少年、鉄華オーカミは絶賛同じくらいの背格好の癖毛で桃色の髪の少女に追いかけられていた。理由としては、前回のバトルが原因である…………
「な、何やってんだ鉄華オーカミのヤツ……」
「女の子に追いかけられてる?」
この非常にコミカルな出来事にやや困惑気味の待ち合わせ組2人。そんな彼らにオーカが気づいて………
「あ、ヒバナ、イチマル………ごめん、先にスタジアムの中入ってて、オレまだちょっと寄るとこあるから」
「えぇ、ちょっとオーカ!?」
白髪の少女から逃げながらそう告げるオーカ。そのままヒバナとイチマルをおいてまた別の所へと走り去って行った…………
「……な、何だったの?」
「あの結構可愛い子、ひょっとして鉄華オーカミの彼女?」
「ッ……な、な訳ないでしょ!?…あのオーカよ!?」
イチマルの予想に、ヒバナは激しく動揺する。
「いや、ある!!……鉄華オーカミがさっきの子とカップリングになって、このイチマルがヒバナちゃんとカップリングになる展開!!……絶対にあると思います〜!!……ウヒャヒャヒャー!!」
「笑い方キモ!!」
オーカと白髪の少女との関係が気になる2人。実際には追いかけられていた事から、多分そんな事はないとは思われるが、ヒバナとしてはちょっと不安で、イチマルにとっては期待の塊でしかなかった。
「どっちにせよ、オレはヒバナちゃんと2人っきりならそれでいいけど!!」
「私はちょっと最悪。なんでアンタと2人っきりなのよ?」
「まぁまぁ、ここは鉄華オーカミの言ってた通り、2人で先にスタジアム行こうよ。良い席がなくなるかもしれないし」
「…………はぁ、仕方ないわね」
「よっしゃ!!…さぁ、行こ行こ!!」
オーカが来るからと言う理由で来たヒバナにとっては最悪の展開だが、この状況では致し方ない、オーカの言う通り、イチマルと共に界放市中央スタジアムの中へと足を踏み入れたのだった…………
******
「………遅ぇなオーカのヤツ、もうすぐ試合始まっちまうんだけど」
中央スタジアムの選手控室。その扉前で、Mr.ケンドーこと九日ヨッカは弟分であるオーカを待ち続けていた。
この世の誰よりも頼りにしている弟分。彼ならきっと念願のブレイドラパンを購入して来てくれると思っていたが…………
「あ、アニキいた」
「ッ……オーカ!!…サンキュー、よく来てくれた」
「ごめん、色々あってなんとかパンって言うのは買えなかった」
「え、そうなの………マジ?」
「マジ」
ようやく到着したオーカ。だが買えなかったと言う悲報にヨッカはショックを受ける。お腹も残念がるように音が鳴る。
それを聞くとオーカは申し訳なさが内心で加速する。
「ごめんアニキ」
「気にすんな!!…腹ペコだろうがオレは勝つさ。後ここではMr.ケンドーって呼んでくれ。正体バレるから」
「実はもう少しで買えてたんだけど、変なのに絡まれてさ」
「変なの?」
「うん、桃色髪でスカジャンの女」
「…………」
白髪でスカジャンの女…………!?
なんか、めっちゃ知ってる気がする………
「お、おいオーカ……ソイツ、ひょっとし………」
「あ!!……見つけたわよ、赤チビ!!」
「ゲッ……!」
特徴を耳にするなり何かを悟ったヨッカ。しかしその直後にオーカを追いかけ回し続ける白髪のショートヘアでスカジャンを羽織る女の子が姿を見せて…………
「や、やっぱり………ライ」
「今度こそ逃さないわよ、観念して私に負けなさいよ!!」
「なんでオレが負ける前提なんだよ……つーことだからアニキ、こんな状況だから試合もちゃんと観れるかわかんない」
「あ、おい、オーカ!」
「コラ待てぇ!!」
少女を見るなり一目散に逃げ出すオーカ。そしてそれを追いかける少女。
だが少女は赤い仮面を被ったMr.ケンドーの姿をしたヨッカを目にするなり一度足を止めて…………
「………どっかで会いました?」
「い、いや……君みたいな美しいレディは見た事ないなー……はっはっは」
「………そっか、ごめんなさいね!!」
驚き、思わず片言で言葉を返す。なんとか誤魔化せたか、少女はそう言うとまた逃げるオーカに向かって走り出した。
難を逃れたヨッカは重たい肩をホッと撫で下ろす。
「はぁ………変装しててよかった………マジか、まさかオーカとライがな」
オーカを追いかけ回している少女の事を知っている様子であるヨッカ。どうやらかなり深い関わりがあるみたいだ。
「……よし、ライも楽しそうだったし、まぁ良いだろ!…………んじゃ、行くかね、挑戦者の所に!!」
気合を入れ直すヨッカ。こうやってすぐさま切り替えができるのもまた彼が王たる故である。
服装や仮面に不備がないか確認すると、中央スタジアムのバトル場へと足を進めた…………
******
Mr.ケンドーが立ちはだかるスタジアムのバトル場、その入り口にて、挑戦者である早美アオイとその側近、フグタは………
「お相手さんが来やがったな。三王なだけあって風格が全然違ぇな」
「………彼のプレイングは散々研究して来ました。後は勝つだけです」
高校1年生にしてプロのカードバトラーである早美アオイ。同じモビルスピリットのデッキを使うモビル王、Mr.ケンドーを目前にしてそう意気込みを見せる。
しかし、それだけではなくて…………
「必ず勝てお嬢。じゃないと、ここで計画が終わる」
掛けているサングラスの位置を戻しながら、意味深にそう呟くフグタ。
「えぇ……わかってますわ。これは飽くまでも『STEP1』……必ず遂行して見せます」
「………あぁ、行って来い」
単語だけでは決して理解できない会話を繰り広げる2人。やがて早美アオイは緊張を吐き出すように深呼吸をすると、己のBパッドを左腕にセットし、界放市最大級の大きさを誇るスタジアム、中央スタジアムへと足を運んで行った…………
遂に揃う役者に、大盛り上がりする観客席。轟音の歓声が響く中、Mr.ケンドーこと九日ヨッカと早美アオイが対面した…………
「………結局オーカ間に合わなかったね……」
「きっとさっきの可愛い女の子とデートにでも行ったんでしょ?」
「………」
「ごめんてヒバナちゃん、そんな怖い顔しないで」
観客席の中にはヒバナとイチマルもいる。オーカは結局『ライ』と呼ばれる桃色髪の少女に追いかけられて、試合開始までに間に合わなかった様子。
ヒバナが残念そうに「折角席も空けたのになー……」と呟くと、バトル場にいる役者、早美アオイとMr.ケンドーが互いの健闘を称え、握手を交わした。
「……ようやく、この場でお会いする事ができましたね、Mr.ケンドーさん。そのモビル王と言う名の玉座、明け渡してもらいますよ?」
「強気なレディーだな。いいだろう、このMr.ケンドーが相手になってやる」
「………仮面被ると性格が変わるのは本当なんですね」
まるでイタイ人を見るかの如く目を向けるアオイ。それでもMr.ケンドーはお構いなしで、そのキャラを止める様子はない。
この一見イタイ人に見えるナルシストキャラこそが、九日ヨッカではない、Mr.ケンドーと言う人格なのだ。ギャラリーや自分のファンがいる中で、それを崩す事は決して許されない。
「後、君には色々と聞きたい事もある」
「………?」
「まぁ、それはおいおい話そう」
試合前にMr.ケンドーがそう告げる。「何かお話しする事でもあったか?」そう思うアオイだが、今は気にしていても仕方がない。セットしているBパッドにデッキを置き、バトルの準備を終える。
そしてMr.ケンドーもまたそれを終えて…………
「じゃあ、準備はいいかい?」
「はい、いつでも」
「うん。じゃあ、やろうか……!」
………ゲートオープン、界放!!
大歓声の中、中央スタジアムでMr.ケンドーと早美アオイによるモビル王の称号を賭けたバトルスピリッツが開始される。
カードバトラーとして、モビルスピリットの使い手として、互いのプライドを賭けたこの一戦、先攻は挑戦者側の早美アオイ。颯爽とターンを進めていく…………
[ターン01]アオイ
「メインステップ、私は母艦ネクサス、プトレマイオスを配置……!」
ー【プトレマイオス】LV1
シャトルのような形状をした青属性の母艦、プトレマイオスが彼女の背後に出現した。先ずはモビルスピリットならではの母艦ネクサスで足場を固める。
「ターンエンド……ですわ」
手札:4
場:【プトレマイオス】LV1
バースト:【無】
手堅い戦法で初ターンを終えるアオイ。次は現モビル王であるMr.ケンドー…………
[ターン02]Mr.ケンドー
「メインステップ……ネクサス、最後の優勝旗。配置時効果でコアブースト」
ー【最後の優勝旗】LV2(1)
Mr.ケンドーの背後に古びた巨大な旗が出現。その効果で彼の使用できるコアを1つ増加させた。
「バーストを伏せ、ターンエンドだ」
手札:3
場:【最後の優勝旗】LV2
バースト:【有】
「……バースト、ですか」
次にバーストをセットすると、そのターンを終える。アオイは彼の伏せたそれを警戒しながら己のターンを再び開始する。
[ターン03]アオイ
「メインステップ……青のモビルスピリット、ガンダムキュリオスを召喚しますわ」
ー【ガンダムキュリオス】LV1(1)BP2000
上空に現れた戦闘機が、この場へと向かって高速で急降下して来る。その間にそれは人型の姿へと変形を遂げ、着地してみせる。
そのスピリット、ガンダムキュリオス。系統「CB」を持つ早美アオイの所有するスピリットの1体だ。
「召喚アタック時効果、ターンに一度、ボイドからコア1つを自身に追加」
ー【ガンダムキュリオス】(1➡︎2)
その効果は至ってシンプルなコアブースト能力。Mr.ケンドー同様に使用できるコア数を増加させる。
「さらにネクサス、プトレマイオスの効果。系統「CB」を持つスピリットが存在する時、ターンに一度、1コストを支払い、デッキから2枚ドローし、その後1枚捨てます。私はこのカード「ガンダムキュリオス[トランザム]」を破棄」
ここで前のターンに配置していた母艦ネクサス、プトレマイオスが光る。青特有の手札交換能力も発揮させ、彼女は手札の質をより向上させる。
「アタックステップ、キュリオスでアタック……そしてこの瞬間【トランザム】の効果発揮」
「!!」
「自身を手札に戻し、トラッシュから同名のトランザムスピリットを召喚………先程トラッシュに破棄したキュリオストランザムをこの場に!!」
ー【ガンダムキュリオス[トランザム]】LV2(2)BP4000
キュリオスの装甲が赤みを帯びていく。溢れる赤き光はそれをトランザム体の姿として格段にパワーアップさせた。
「トランザム……CBのデッキではお家芸の戦法だな」
「召喚時、自身とプトレマイオスにコアを1つずつ追加致します!」
さらに加速するコアブースト。まだまだ序盤だと言うのに、手札とコアのアドバンテージに大きく差をつけていく。
「………召喚時、手札の増加、アタック。それらにそのバーストカードが反応しないと言う事は、ライフ減少時のバーストなのでしょう……スピリットがいないのに破壊後のバーストなんて普通しませんものね」
「ふふ、さぁ、どうだろうね」
ここまでの一連の動きに微動だにとしなかったMr.ケンドーのバースト。その事から、アオイは何が伏せられているのかを予測する………
そして…………
「貴方のバトルは研究済み、ここでそのバーストは開かせて貰います………アタック、キュリオストランザム!」
「………いいだろう、来たまえ。ライフで受ける……!」
まるでジェット機のような勢いで被弾するキュリオストランザムの弾丸がMr.ケンドーのライフを1つ貫く。
それに反応し、彼のバーストが勢い良く反転して…………
「ライフ減少後のバースト、選ばれし探索者アレックス」
「………やはりそれでしたか」
「この効果で自身を召喚、LV2だ。不足コストは最後の優勝旗から確保、よってLVダウン」
ー【最後の優勝旗】(1➡︎0)LV2➡︎1
ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV2(2S)BP6000
「その効果でこのターンのアタックステップは終了となる」
反転するバーストカードと共に現れたのは紫色のフードを深く被った人型のスピリット、アレックス。その効果でアオイのアタックステップが強制的に終了となり、エンドステップへと無理矢理移行される…………
「読み通り………エンドステップ時、キュリオストランザムの効果で自身をトラッシュに戻す」
「………成る程ね」
「えぇ、武士道の的にはさせません、ターンエンドです」
手札:6
場:【プトレマイオス】LV1
バースト:【無】
このアレックスは完全にアオイの予測通りだった様子。エンドステップに伴い、トランザムで強化されたキュリオスは粒子と化し、この場から消滅した…………
それに伴い、Mr.ケンドー側にはある不利益が発生していて…………
「……上手い、流石アオイさん」
「うん。エンドステップにはトラッシュに戻さないといけないトランザムスピリットの特徴を活かして、次のターンの武士道によるBP破壊の当て駒にされないようにしたんだ」
観客席にいるヒバナとイチマルがそう語り合った。特にイチマルは意外と戦況を隅々まで把握しているようで…………
「………イチマル、アンタ意外と考えるのね……ちょっと凄いかも」
「え、あ、そう!?……オレっちこう見えても結構努力型なんだよね〜……一応去年の界放リーグベスト8だったし」
「自分で言ったら台無しなんだよね」
手札とコアを多く稼ぎ、殆ど百点満点のプレイングを見せつけそのターンを終えた早美アオイ。
だが、アタックして敢えてアレックスをバースト発動させたのは覚悟の上、Mr.ケンドーの大反撃が彼女を待ち受ける………
[ターン04]Mr.ケンドー
「メインステップ………成る程、ガラ空きのフィールド。如何にもアタックしてくださいと言っているようなモノだ………アレックスの効果、自身を疲労させてコアブーストか1枚ドロー……今回はコアブーストを選択」
ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】(回復➡︎疲労)(2S➡︎3S)
アオイが敢えてアタックをし、自分にコアを与えさせ、強力な攻撃を待っているのは明白。
普通ならば、そんな見え見えの罠にかかりにいく訳にはいかないが………
「でも、折角の挑戦者の挑発だ。かかりにいかない訳にはいかないよな?」
「………」
罠であるとわかっていても、敢えて攻勢に回る。それこそがモビル王、エンターテイナー…………
今までもそうやって数多の挑戦者達を蹴散らしてきた無双のモビルスピリット使い、Mr.ケンドーのやり方なのだ。
手札にある1枚のカードを切り、それをBパッドへと勢い良く叩きつけた…………
「その剣技、天空をも斬り裂く!!……モビルスピリット、スサノオをLV1で召喚!!」
「!」
ー【スサノオ】LV1(1)BP10000
黒い外装に甲冑を思わせる角を施したモビルスピリット、スサノオがこの場より飛来して来る。手に持つ薙刀が日光に反射すると、それと同時に観客の人々がまた轟音のような歓声を沸かせた…………
無理もない、このモビルスピリットはモビル王たる彼の象徴。言わばヒーロー的な扱いを受けている存在なのだから…………
しかし………
「………来ましたねスサノオ。ですが私のスピリットがいない中では【武士道】の効果は無意味」
余裕の表情を見せるアオイ。
そう、スサノオの効果はアタックステップの開始時に相手スピリットとバトルする【武士道】の効果があってこそ…………
だが、それを想定していないMr.ケンドーではない。
「確かに効果は無意味だ。でも、スサノオの存在自体が無駄になっているわけではないぞ」
「!?」
「アレックスのLVを1に下げ、オレはブレイヴカード、GNビームサーベルをスサノオに直接合体!」
ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】(2S➡︎1S)LV2➡︎1
ー【スサノオ+GNビームサーベル】LV1(1)BP13000
天空より落下し、地に突き刺さる一本のエネルギー剣。スサノオは空いている左手でそれを引き抜き、合体スピリットとなった。
「ついでにまたバーストを伏せて置こう………GNビームサーベル、青のモビルスピリット使いの君なら理解しているだろう?」
Mr.ケンドーがアオイに聞いた。
「………GNビームサーベル、青のモビルスピリットとの合体では、その合体上限として数えない。「ガンダム」の名を持つか持たないかで効果が変わる特殊なブレイヴ………」
「そう。オレのスサノオは「ガンダム」の名を冠さないモビルスピリット、GNビームサーベルは「ガンダム」の名を持たないスピリットとの合体中は青のシンボルを1つ追加する………故に、今のスサノオは………」
「………トリプルシンボル、さらに武士道で敵を倒せば追加でライフも取れる……バケモノ……!!」
アオイは、スサノオの【武士道】を意識し、スピリットを残さない動きをして、尚の事正解だったと言える。
ここまでの一連の流れは、まだ4ターンしか経っていないのだ。僅か4ターンでこれ程強力なスピリットを爆誕させてしまうMr.ケンドーこそ、まさにバケモノだ。
彼女が一切研究せずに挑めば、きっともう負けていたに違いない………
だがそれでも、致死量にならない程度の強烈な一撃はやって来るのだが…………
「アタックステップ………合体アタックだ、スサノオ!!」
「ッ……ライフで受ける………ぐっ…ぐぅっ!?」
〈ライフ5➡︎2〉アオイ
元から持っている実体剣の薙刀とビームサーベル、2つの業物による二振りが、アオイのライフバリアを一気に3つも砕いていく…………
それにより、ライフは残り半分にも満たない、たったの2つのみ…………
「ターンエンド……オレのライフを中途半端に破壊して、中途半端にコアを増やさせて、中途半端な攻撃をさせる………そして増えたコアで自分が最高の攻撃を行う。君の筋書きは大方そんなとこだろう?………お望み通りそうしてやった。さぁ、このオレに全力で挑んで来い………!!」
手札:1
場:【スサノオ+GNビームサーベル】LV1
【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV1
【最後の優勝旗】LV1
バースト:【有】
「……今のが、中途半端……ですか、予想はしてましたが、やはり恐ろしいお方ですね」
アオイの行動を全て読み切った上での攻撃。敢えて誘いに乗り、予想以上の攻撃で大きなダメージを与えると共に、Mr.ケンドーはそのターンをエンドとする。
「おぉ、やっぱ強ぇな、Mr.ケンドー!!……クソカッコいいぜ!!…ヒバナちゃんもそう思うでしょ?」
「そうね………仮面はちょっとダサいけど」
「え、そう?……そんなにダサくなくない?……寧ろよりかっこよさが増してると思うんだけど?」
「多分だけどセンスないよ」
観客席のヒバナとイチマルは、Mr.ケンドーの赤い仮面について話題にする。どうやら見る人によってかなり偏った評価に分かれる様子…………
「謎の仮面バトラーMr.ケンドー、その素顔は誰も知らない武士道戦士………くうーーッ!!…いつかオレっちもバトルしてみてぇ!!…つーかお話ししてぇ!!」
「昔から好きよね、Mr.ケンドー……でもなんかあの人って、どっかで見た事ある気がするんだよね………」
2人は、実はよく通っているカードショップ「アポローン」の店長「九日ヨッカ」こそがMr.ケンドーの正体である事は知る由もない…………
次はアオイのターン、強烈な一撃で溜まったコアを使い、予定通り反撃に転ずる…………
[ターン05]アオイ
「メインステップ………先程手札に戻ったガンダムキュリオスを再召喚。効果でコアを増やします」
ー【ガンダムキュリオス】LV1(2)BP2000
前のターンと全く同じ。アオイはオレンジ色の装甲を持つキュリオスを再び召喚、コアブーストに繋げる。
ただ、その行いが、Mr.ケンドーのバーストを開かせる………
「バーストをもらおう、相手のスピリットの召喚時発揮後………」
「キングスコマンド………ですわね?」
「ご名答。オレのデッキを研究しているだけの事はある………効果で3枚引いて、1枚捨てる」
アオイも予想していた通り、ここは汎用性の高い青のバーストマジック、キングスコマンド。その効果でMr.ケンドーは手札を1枚から3枚に増やした。
その後、本来であればキングスコマンドのフラッシュで使えるアタック抑制効果を発揮したいところではあったが、今回はコアがカツカツであり、使用するには全てのスピリットからコアを弾かないといけないため、彼はそれを使わずにそのまま破棄した。
アオイはそれを見越した上でターンを進めていく…………
「もう1体、キュリオスを召喚、コアブースト!」
ー【ガンダムキュリオス】LV2(2)BP2000
合計2体のキュリオスが彼女の場へと並ぶ。加速していくコアブースト、彼女はそれを利用し、手札からあるカードをさらに引き抜く…………
「行きます……」
「来るか」
それはオーカ、鉄華団との戦いでは見せることのなかった己の切札………
「舞いなさい、天高く!!…ガンダムをも超越する戦士、ダブルオーライザー!!」
ー【ダブルオーライザー】LV2(3)BP11000
その輝きはまるで流星の如し………
上空から一線の光と共に地上へと出現したのは、ガンダムの名を持たない、いや、ガンダムを超越したからこそ、その名を持たないモビルスピリット、ダブルオーライザー。
手に持つ二振りのブレードを宣戦布告するようにMr.ケンドーへと向けた。
「………これが噂に聞くダブルオーライザーか………良いモビルスピリットだな」
「お褒めのお言葉、ありがとうございます。ダブルオーライザーは私のデッキの真のエースカード………このターンで勝ちます!!」
アオイはそう意気込むと、召喚したダブルオーライザーの効果を発揮させる…………
「ダブルオーライザーの召喚時効果、系統「CB 」を持つスピリット全てにコアを1つずつ追加します」
「!」
ダブルオーライザーの両肩に備え付けられたブースターが青い光を放出。それらが彼女のスピリットに力を与えるかのように、コアをまた新しく追加させた………
さらにそれだけでは終わらなくて…………
「さらにガンダムの名を持つスピリットが2体以上いる時、相手の手札を全て手元に置く!」
「む」
「ガンダムキュリオスが2体いますので、この効果も適用。今の貴方の手札は3枚、よってそれら全てを手元に!!」
「ッ……!」
ダブルオーライザーが二振りのブレードを振い、光の斬撃波を放つ。それらは一直線にMr.ケンドーの方へと向かっていき、直撃………
彼の持つ手札を弾き飛ばした。
バトルスピリッツにおける【手元】とは、基本的には『公開されただけの手札』と言ったところで、基本的には同じだが、一部のカードは手元では使用できなくなる場合がある。アオイは彼のデッキにそれらのカードがある事を見越してこの効果を発揮させたのだが…………
弾かれた手札の内1枚はMr.ケンドーがキャッチして…………
「残念だが、このカード「絶甲氷盾〈R〉」は手札にある間相手の効果を受けない」
「な……耐性持ちの防御マジック!?」
「よって、手札に残る」
残った2枚は「選ばれし探索者アレックス〈R〉」と「アヘッド近接戦闘型[サキガケ]」のカード。手札では特に効果はないこの2枚は手元に置かれるが、防御マジック「絶甲氷盾〈R〉」のカードは効果により彼の手札に戻った。
このカードは意外だったが、アオイは愕然とする。
「対策をしているのが君だけかと思ったか?」
「!」
「オレも忙しいけど、ある程度勉強はしてるんだぜ」
………「絶甲氷盾〈R〉」のカードがある限り、ライフ減少に合わせてアタックステップを終了させられる。
つまりこのタイミングではどうやっても決められない。詰めが甘かった。なんでこっち側を対策される事を考えなかったのか…………
アオイはやや焦りを覚え始める。
「……若いな」
「………なんでしょうか急に」
「君は若い。確かにそこら辺の学生と比べたら踏んだ場数は違うんだろうけど…………試合開始前に聞きたい事があると言ったのを覚えているか?」
「えぇ」
彼女のメインステップ中。Mr.ケンドーは彼女を呼び止め、質問をする。
「君は強い。しかも家柄も富豪でとても裕福だ。ただ、オレの経験上、それだけでプロになれるとは思えないんだ」
「凄く失礼ですわね」
「それはごめんよ」
失礼は承知の上、Mr.ケンドーは質問を続ける。
「ダブルオーと言うモビルスピリットは君が有名になるまで、オレでさえも知らなかった。そのカードはどこで手に入れたんだ?」
「………」
質問に対しての沈黙。ダブルオーの秘密に対しては答えられない様子…………
「答えられないか?……オレの勝手な予想なんだが、それはとんでもない悪い奴から譲り受けた物なんじゃないのか?……それはそれは君が答えられない程の、大悪党さ」
「…………」
「オレは知っている。人間の進化の力を利用して、最強のデッキを創造した男を……君の背後には、ソイツがいるんじゃないのか!?……脅されて、何かをさせられているんじゃないのか!?」
アオイの背後にいる何者かを探るMr.ケンドー、いや、九日ヨッカ。
彼の言う通り、かつて、人間の進化の力を利用し、最強のデッキを形成、界放市を中心に、世界を滅亡させようとした存在がいた。ある1人の英雄によってそれは免れ、その存在も死したはずだが…………
早い話『「ダブルオー」のカードはその存在が完成させたカードではないのか?』と言う事だ。
「………ぷ、あはははは!!!!」
「!」
アオイは何を言い返すのかと思えば、今度は腹を抱えて笑い出した。
「し、失礼しました。そんな訳ないじゃないですか!!……私は普通に頑張って、普通にプロになったただのカードバトラーですよ?」
「…………じゃあダブルオーはなんだ?」
「この世界には幾千幾億ものカードが存在する、三王の貴方でも知らないカードがまだあっただけですよ〜」
「………」
ヨッカは彼女のその笑顔の裏に、何かが隠れている気がしてならなかった。笑い飛ばしているだけで、何かが中で蠢いている気がしてならなかった…………
「それに、私のダブルオーより、鉄華オーカミ君の鉄華団、バルバトスの方がよっぽどそれらしく見えますけどね」
「………」
「さぁ、話はここまでです。バトルを再開しましょう。余り長く立ち話をしていては、折角足を運んでいただいたお客様に失礼ですからね………ダブルオーライザーのLVを3にアップ」
ー【ダブルオーライザー】(3➡︎5)LV2➡︎3
やや強引に話を切り、バトルを再開する。ダブルオーライザーのLVが最大の3へと上がり、そのBPは16000まで上昇。
「プトレマイオスの効果で1コスト支払い、2枚ドロー、その後1枚破棄………アタックステップ、目標を駆逐なさい、ダブルオーライザー!!……アタック時効果でフィールドと手元のアレックスを1枚ずつ破壊……!」
「!」
ダブルオーライザーがフィールドにいるアレックスを睨み付けると、アレックスは粒子となり消滅。同時に手元に置かれてい同名のカードもトラッシュへと送られる。
「………アタックはライフで受ける」
「ダブルオーライザーはダブルシンボル、ライフを2つ破壊します……!」
〈ライフ4➡︎2〉Mr.ケンドー
光速で迫り来るダブルオーライザー。二振りのブレードでMr.ケンドーのライフバリアを斬り裂く………
「ライフ減少時、絶甲氷盾の効果を発揮、このターンのアタックステップを終了させる」
直後に使用されるのは彼の手札で唯一残った「絶甲氷盾〈R〉」………
その効果により、このターンのアオイのアタックステップが又しても強制的に終了。ターンをエンドとせざるを得なくなってしまう。
「ターンエンドです」
手札:5
場:【ダブルオーライザー】LV3
【ガンダムキュリオス】LV1
【ガンダムキュリオス】LV1
【プトレマイオス】LV1
バースト:【無】
何も話す事はない…………
そう言いたげにも聞こえるエンド宣言。何かを隠している事に確信を抱きながら、Mr.ケンドーがターンを迎える。
[ターン06]Mr.ケンドー
「メインステップ……手元より、モビルスピリット、サキガケを召喚!」
ー【アヘッド近接戦闘型[サキガケ]】LV2(2)BP8000
前のターンにダブルオーライザーによって手元に送られたカードを召喚。フィールドに新たなモビルスピリット、紫がかった桃色の装甲を持つサキガケが大型のビームサーベルを片手に姿を見せる。
「まだ行くぞ、手札からブレイヴカード、牙皇ケルベロードを召喚し、スサノオと直接合体!!」
「ッ……ここに来て通常のブレイヴ!?」
「あぁ、さらにスサノオをLV3にアップ………これがスサノオの真の姿!!」
ー【スサノオ+牙皇ケルベロード+GNビームサーベル】LV3(5)BP24000
現れたのは鎧を着けた黒い獣。今すぐにでも噛み付かんと言わんばかりの咆哮を上げると、それは黒い翼となりスサノオの背部へと装着される。スサノオの装甲にも青い筋が入り、より強力な合体スピリットとなる。
「アタックステップ……その開始時、ようやく発揮できるな。サキガケとスサノオ、それぞれの【武士道】を発揮!」
「!」
「先ずはサキガケの【武士道】でBP2000のガンダムキュリオスを指定し、強制バトル!」
ここに来て発揮される【武士道】の効果。サキガケが大型のビームサーベルの切先を向け、キュリオスへと向かっていく。
銃撃で迎撃するキュリオスだったが、その弾丸はサキガケに擦りもせず、遂には懐に潜り込まれ、胸部を串刺しにされて力尽き、爆散した。
「サキガケの武士道で勝利時、デッキから3枚引いて、2枚捨てる」
この効果で0となっていた手札を1枚に増やすMr.ケンドー。そして次は本命のスサノオの武士道…………
「今度はスサノオの武士道!!……一騎打ちを所望する相手は当然、ダブルオーライザー……!!」
「くっ……BPは圧倒的にスサノオの方が上……」
両者エーススピリットが激突。先手必勝と言わんばかりにスサノオが薙刀をダブルオーライザーに向かって投擲するが、ダブルオーライザーはブレードでそれを叩き返す。
スサノオはその隙をついて距離を詰め、GNビームサーベルで近接戦闘に持ち込む。何度も刃を交えていく中、遂にダブルオーライザーの二振りのブレードが弾かれ、トドメの横一線の一撃を喰らい、爆散。
モビル王、Mr.ケンドーのモビルスピリットであるスサノオの勝利に終わる。
「………私のダブルオーライザーをこうも容易く斬り伏せるなんて………」
「スサノオの武士道勝利時、相手ライフ1つを破壊する」
「!」
〈ライフ2➡︎1〉アオイ
ダブルオーライザーを撃破した束の間、スサノオはGNビームサーベルを振い、飛ぶ斬撃を放つ。それは真っ直ぐ飛び行き、アオイのライフバリアを1つ斬り裂いた。
「………強い………!」
「あぁ強いさ、なんて言ったってオレはモビル王。全てのモビルスピリット使いの頂点に立つ男なんだからな……!」
スサノオの活躍に沸き上がる歓声、止まらぬケンドーコール。アタックせずにスピリットとライフを奪い抜く【武士道】の戦術で、これこそがモビル王であると見せつけていく…………
そして、ここからが本当のアタックステップだ…………
「目標を殲滅せよスサノオ………アタックだ!」
「!」
「牙皇ケルベロードのアタック時効果、デッキの上から5枚を破棄、そうした時ターンに一度だけ回復する」
ー【スサノオ+牙皇ケルベロード+GNビームサーベル】(疲労➡︎回復)
黒き翼を翻らせ、上空へと飛翔するスサノオ。その瞬間、合体している牙皇ケルベロードの効果が発揮。彼のデッキの一部のカードを犠牲にし、回復状態となった。
「GNビームサーベルの効果で青のシンボルを1つ追加、合計シンボル4点、クアドラプルシンボルのアタック……!」
「……2体目のキュリオスでブロックします」
残り1つしかないアオイのライフ。守護すべく、キュリオスが迫り来るスサノオの前に立ちはだかるが、その銃撃は強固な装甲の前では全く意味をなさず、あっさり斬り裂かれ、爆散してしまう。
これでアオイのスピリットは0。ブロックさえもできない状況に陥る。
「続けサキガケ!!」
「………」
今度はサキガケが行く。その鉄の眼光に映されるのは早美アオイの最後のライフバリア…………
これを受けて仕舞えば敗北は必至の彼女は、そうはさせまいと手札のカードを1枚引き抜く…………
「フラッシュマジック、リミテッドバリア!」
「………!」
「効果により、このターンの間、コスト4以上のスピリットのアタックではライフは減りません。さらにコストの支払いにソウルコアを使用したので、ネクサス、最後の優勝旗を手札に………アタックはライフで受けます!」
〈ライフ1➡︎1〉アオイ
彼女の前方に展開されるのは半透明で強固なバリア。それが出現すると同時に、最後の優勝旗が粒子化してMr.ケンドーの手札に戻る。
サキガケが大型のビームサーベルで何度かそのバリアを斬りつけるが、ビクともしない。
「リミテッドバリアとはまた良いカードを仕込んでいたな……だが、オレのスサノオの前では無意味………エンドステップ、ここでスサノオのアタック時効果発揮」
「!!」
「アタックステップとエンドステップを一度だけ繰り返す。リミテッドバリアの効力は最初のエンドステップで尽きるため、この攻撃は有効となる………トドメを刺せ、スサノオ!!」
ここでスサノオの第二の効果が起動。アオイの前方に出現していたリミテッドバリアは消え失せ、再び丸裸になる。
そこにスサノオが飛び込んで行き…………
手に持つビームサーベルで荒々しく、豪快に…………
フィニッシュを決めるはずだった。少なくとも、Mr.ケンドーと観客達はこの一撃で決まると思っていた…………
「【武力介入】………エクシア!!」
「………なに?」
「スサノオの攻撃を、ブロックなさい……!」
ー【ガンダムエクシア】LV2(2)BP4000
攻撃が決まる直前、身代わりになるかの如く天空から舞い降りて来たのは、青と白の装甲で彩られたスマートなガンダム、エクシア。
スサノオの一撃で一瞬にして儚く散っていくも、主人であるアオイのライフを守り抜いた。
「……まだ武力介入効果を持つスピリットを隠し持っていたとはな……これでターンエンド」
手札:1
場:【スサノオ+牙皇ケルベロード+GNビームサーベル】LV3
【アヘッド近接戦闘型[サキガケ]】LV2
バースト:【無】
「……ハァッ……ハァッ……!」
息つく間もなく続いた激しい攻撃。アオイは防御マジックと【武力介入】の効果でそれを辛うじて凌ぎ切るも、場の状況から、誰がどう見てもMr.ケンドーの優勢…………
あれだけの策を考えて来たと言うのに、その全てを無に返され、今こうして崖っぷちに立たされている…………
(………STEP1は私がこの人に勝ち、モビル王になる事………)
薄くなった勝ち筋。敗北が脳裏に過ぎる直後、すぐさま思い出したのは言い渡された計画の一部…………
そしてその計画遂行の果てに存在する1人の少年の笑顔を…………
それを頭に思い浮かべただけで彼女はその闘志を強く燃え上がらせる…………
(………実力差があり過ぎるのはわかってる。モビルスピリットの使い手として到底及ばない事もわかっている………でも私は負けられないんです………あの子のために………!!)
「…………」
そのために努力をして来たのだと目で訴えるように気迫を飛ばすアオイ。負けられないと言う強い想いがMr.ケンドーにも伝わって来る…………
そして、息を吹き返したアオイの逆襲のターンが幕を開けていく………
[ターン07]アオイ
「メインステップ………マジック、ストロングドロー……デッキから3枚引いて、その後2枚破棄します」
ターン開始早々、アオイは青属性を代表する手札入れ替えマジック、ストロングドローの効果を発揮させ、手札を大きく入れ替えて行く。
「さらに、追加で2枚のプトレマイオスを配置……」
ー【プトレマイオス】LV1
ー【プトレマイオス】LV1
2隻、3隻目のプトレマイオスが彼女の背後に出現。合計3つのネクサスカードが並ぶ盤面を作り上げた…………
そして、動き出す。
「鳴動せし伝説の巨兵、機動要塞キャッスル・ゴレム……LV1で召喚」
「ッ………なに!?……このタイミングでキャスゴ!?」
ー【機動要塞キャッスル・ゴレム】LV1(1)BP6000
地響きと共に地中から顕現したのは文字通り要塞の如く姿をした巨兵…………
その名はキャッスル・ゴレム………
世界三大スピリットに数えられる「デジタル」「ライダー」「モビル」そのどちらにも当てはまらない通常のスピリットではあるが、内包された驚異的な効果は世界的にも有名…………
それを今、早美アオイは使用する。
「召喚時効果、配置されたネクサス1枚につき5枚のデッキを破棄。今は3枚のプトレマイオスが存在するので合計15枚のデッキを破棄致します!」
「ッ………!!」
キャッスル・ゴレムの眼光が青く光ると、それと同じ色の波動がその鉄の身体から拡散していき、Mr.ケンドーのデッキのカードをトラッシュへと送って行く…………
サキガケや牙皇ケルベロードなどでデッキを元から少なくしていた彼にとって、これは大きな痛手であり、デッキの枚数は既に10枚を切ってしまった。
「………2体目のキャッスル・ゴレムを召喚」
「な……2体目、だと!?」
ー【機動要塞キャッスル・ゴレム】LV1(1)BP6000
Mr.ケンドーが愕然する暇も無く、再び地響きが唸り、地中から2体目となるキャッスル・ゴレムが姿を見せる。
並び立つ2つの巨兵。当然ながら、2体目も全く同じ召喚時効果を有していて…………
「………これでお終いです。沈みなさい、歴戦の王よ………召喚時効果!!」
「!!」
2体目のキャッスル・ゴレムから放たれた青き波動が、Mr.ケンドーのデッキのカードを全てトラッシュへと送り飛ばした…………
バトルスピリッツにおける2つの勝利条件。1つは『相手のライフを0にする』事。そしてもう1つは『相手のデッキを0にする』事…………
その内の後者をアオイはたった今満たして見せた。余りにも意外過ぎる出来事に、観客はケンドーコールを止め、会場全体が静まり返る…………
「………ターンエンド。モビルスピリット同士の戦いでは貴方に部があり過ぎる………だからとっておきを仕込ませていただきました。ダブルオーを貰うまで、本当はこの勝ち方が好きだったんですよ?」
手札:0
【機動要塞キャッスル・ゴレム】LV1
【機動要塞キャッスル・ゴレム】LV1
【プトレマイオス】LV1
【プトレマイオス】LV1
【プトレマイオス】LV1
バースト:【無】
「………フ、成る程。それは意外だったな」
アタックする意味は消え失せたため、アタックステップでのアタックを行わず、すぐさまそのターンを切るアオイ。
己の敗北を悟ったMr.ケンドーは、潔く、己の最後のターンを進めていった…………
[ターン08]Mr.ケンドー
「………スタートステップ。デッキ0でドローできるカードがないため、オレの負けだ………おめでとう、早美アオイ」
ターンを進め、あっさりと己の敗北を認めるMr.ケンドー。
最初は何も理解できなかった観客達だったが、次第にこの状況が歴史が動き出した決定的瞬間であると理解し出して行き、アオイの勝利、そして新たな麗若き三王の誕生を祝うかの如く、爆音のような大きな歓声を上げていった。
「か、勝った………勝てた。本当に……あのモビル王に、あのMr.ケンドーに………やった」
試合前や試合中はあんなに落ち着いていたと言うのに、今ようやく己が成してしまった事に自覚を持つアオイ。周りの轟音よりも心臓の鼓動の方がよっぽどうるさくなっているのを感じる。
そして、足が震えてしまって動けない彼女の前に、敗北し、今ここより『モビル王』ではなく『元モビル王』となったMr.ケンドーが姿を見せて………
「良いバトルだった!……これからモビル王の称号は君のモノだ。負けたオレが言うのもアレなんだが、モビルスピリット使いの手本となる良いバトラーになってくれ!」
「は、はぁ……」
握手を求められながらそう告げられ、困惑するアオイ。一応その握手には応答するが、自分の計画の事に関して一切触れようとしない事に疑問を抱いて…………
「じゃあ、これからお互い記者会見で忙しくなるだろうし」
「ちょ、ちょっと待ってください…………何も訊かなくて、良いんですか?」
さっさと帰ろうとするMr.ケンドーを呼び止め、その事をアオイは質問する。
それに対し、彼は大人の余裕とも言える、笑顔を浮かべながら答える。
「敗者に口なしさ。女の子に無理矢理聞き出すってのも、趣味じゃないしな!…………でも、君がオレ達が追っているヤツと深い関わりがあるって言うのなら、その時は全力で止めるかもな」
「…………」
真剣な眼差しを向け、そう言い残すと、Mr.ケンドーはバトル場を去って行く。彼の敗北を嘆き悲しむ声が多数聞こえて来る中、アオイもまた無言で、ようやく震えが収まってきた足を動かして、バトル場を出て行った…………
役者が消えたと言うのに、観客達の歓声と言う名の轟音は、しばらくの間途絶える事はなかった………
******
「……良くやったお嬢」
「なんで上からモノを言うのよフグタ。執事のくせに」
「いつもの事だろ?……逆に敬語バリバリ使いながら頭下げてるとこ想像してみろよ」
「………確かに、それはそれでキモいわね」
中央スタジアムの踊り場にて、生意気な執事フグタと言葉を交える。外では多くのマスコミ達がスタンバイしており、今か今かと彼女を待ち構えている。
「何にせよ、これに勝ったのはデカいな。おめでとうお嬢………いや、新モビル王と言うべきか?」
「ありがとう………でも、その名は正直今の私には荷が重いと思う」
「………なんで?」
「彼はモビルスピリットのスサノオだけで戦い抜いた。でも私はモビルスピリット同士の戦いに負け、結果スサノオも倒せず、最後は何も関係ないスピリットで勝ってしまった………そんな私がモビル王を名乗っても良いのでしょうか?」
最後はキャッスル・ゴレムのデッキ破棄効果によるデッキアウトで勝利を掴んだアオイ、どこか複雑な心境の様子。
その事を告げられたフグタは軽く笑みを浮かべながら、タバコに火を付ける。
「フ、何も気にする事じゃねぇだろ。内容がどうあれ、Mr.ケンドーが負けて、アンタが勝った。それでアンタが新しいモビル王になった………ただ、それだけの事だ。モビルスピリットがどうのこうのなんて関係ねぇんだよ」
「………良い感じに語ってるとこ悪いけど、多分関係なくはないと思うわよ」
「はい、マジレス禁止ね」
自分の日常が帰って来た感じがして落ち着きを取り戻して行くアオイ。だが、直後に彼女のBパッドから一通の電話が届く…………
その通話主の名前を確認するなり、いつもの優しく温かい表情から、冷酷そうで冷たい表情に変わり、それに応じる。
「………何でしょう?………はい。えぇ貴方の言う『STEP1』はこれでクリアしました…………次は何をすれば良いのでしょうか…………」
………Dr.A
アオイが口にしたその名前は、かつてこの界放市を中心に世界を滅ぼそうとしていた悪魔そのモノの名であった…………
次回、第14ターン「大会前夜」