バトルスピリッツ 王者の鉄華   作:バナナ 

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第2章 界放リーグ編
第14ターン「大会前夜」


モビル王、Mr.ケンドーが負けた。そして、ここに新たなモビル王、早美アオイが誕生する。

 

一部では「モビルスピリット同士の戦いには勝利してない」「デッキアウト」での勝利が起因となって炎上していたものの、数日経った今ではそれも鳴りを潜め、時代が動き、彼女がモビル王となったのだと言う認識が広まり、定着していった…………

 

そんな中、日本におけるバトスピ最大都市、界放市。そこで行われる世界的にも注目される大会『界放リーグ』…………

 

その中でも中学生が競い合う『界放リーグジュニア』の開催が翌日に迫っていて………

 

 

******

 

 

「…………」

 

 

部屋の中、ベッドの上で胡座をかき、誰も見たことがない「鉄華団」のカード達を並べているのは、小柄で無造作に伸びた赤髪が特徴的な少年、鉄華オーカミ。

 

明日の大会に向けてデッキを練り直しているようだ。彼にとっては初めての公式戦であるため、気合が入っているのだろう。

 

だがそんな折、家のインターホンが鳴り響く。少々面倒くさいと思いながらも、オーカは家のドアを開けに行く…………

 

 

「………はい」

「どーも!!……出前です、ラーメン一丁お届けに参りました!!」

「…………頼んでないんだけど」

 

 

来訪者はまさかの熱々のラーメンが入ったおぼんを手に持つラーメン屋の店員。しかも頼んだ覚えもない出前に来たのだと言う…………

 

 

「え?……確かに鉄華オーカミ様に届けるよう言われたんですがね〜……ここじゃありませんですかい?」

「…………あ」

 

 

ふとラーメンの置かれたおぼんに目をやると、よく見たらまたしても「鉄華オーカミ様へ」と書かれた封筒が存在していた…………

 

つまりまた新しい鉄華団のカードだ。誰かがオーカ宛にラーメン事それを送ったのだ…………

 

 

「………鉄華オーカミはオレです。ラーメン、貰います」

「毎度!!」

 

 

こうして、オーカは頼んだ覚えのないラーメンと、新しい鉄華団のカード達を手に入れた。

 

結局、送り主はわからずじまいなのが少々歯痒いが、大会前にカードを貰えるのは正直ありがたいと思っていて……………

 

 

******

 

 

「………よし」

 

 

出前でやって来たラーメンを食しながら引き続きデッキの調整を行っていたオーカ。新しいカードも加えられ、ようやく満足のいく構築ができた様子。

 

そしてその直後に、彼のBパッドへと一通のメールが届く。

 

 

「………アニキ?」

 

 

またアニキ、九日ヨッカだ。しばらくバイトも入ってなかったため、彼がMr.ケンドーとして敗北してからはまだ一度も会っていない。

 

そんな彼からのメッセージの内容は「今すぐアポローンに来い!」との事。

 

わざわざバイト先に来るよう要求すると言う事は、それだけ今仕事が忙しいのか…………

 

一応そう思って、オーカは早々に支度し、カードショップ「アポローン」へと向かって歩みを進めた。

 

 

******

 

 

「………アレ、閉まってる………」

 

 

十数分後、ようやくアポローンに到着。しかし、その自動ドアは開かず、中にも余り人はいないように感じた。

 

ヨッカがここに来いと言ったのは間違いないので、オーカは表出入り口であるここではなく、狭い場所にある裏の出入り口を使ってアポローンの店内へと入っていく…………

 

ようやくいつとのカードが陳列している風景に辿り着いたかと思えば………

 

 

「あ、オーカ来ましたよヨッカさん」

「おっ…やっと来たかオーカ」

「待ちくたびれたぞ、鉄華オーカミ!!…さぁ、オマエも準備を手伝え!!」

「………何、これ?」

 

 

中にいたのは、ヨッカだけではない。黒髪でツインテールの女の子、一木ヒバナと緑色の髪でチャラい印象が強い少年鈴木イチマル。

 

何やらみんなで飾り付けやら机やらお菓子やらを準備しているが…………

 

 

「オーカ、ヒバナちゃん、イチマルの3人が明日の界放リーグに出るから、今日はそのために激励会を開くんだよ」

「あ、アネゴ」

 

 

同じくバイトのお姉さん、「アネゴ」こと雷雷ミツバがオーカにそう説明する。

 

そう、オーカは知らされてなかったが、今日は界放リーグに出場する3人のための激励会。

 

 

「いやーーー長かった、ここまで実に長かった。まさかあのオーカが……何事にも興味を示さなかったアイツが、こうしてバトスピやって、界放リーグまで出るなんて………感激だ」

「……キモいですよセンパイ」

「ミツバうるさい」

「はは、ヨッカさんって本当オーカ好きですよね………」

 

 

オーカのこれまでを振り返り、軽く感涙するヨッカ。ヒバナやイチマルはそれを見て苦笑い。

 

 

「そう言う訳だ。オマエも手伝え、鉄華オーカミ!」

「………まぁ、仕方ない……か」

 

 

イチマルが両手いっぱいにお菓子の袋を持ちながら、オーカに告げた。

 

こう言った催しはあんまり気乗りしないが、せっかくアニキ達が企画した激励会。背中を向けて逃げるわけにも行かず、オーカは段ボールに多量に詰め込まれたお菓子の袋を手に持った。

 

 

ー………

 

 

数分後、料理やお菓子の袋も綺麗に並べられ、ようやく準備万端。皆紙コップに好きな飲み物を入れると、開会の挨拶的なヤツを、と言う事で、我らが九日ヨッカが立ち上がる。

 

 

「オーカ、ヒバナ、イチマル……もう一回オーカ、言うまでもないと思うが、明日は頑張れよ!!……特にオーカ!!」

「めっちゃ鉄華オーカミの名前だけ呼ぶじゃないですか!!」

「贔屓はダメすよセンパイ!!」

 

 

オーカだけが何度も名前を呼ばれる。やはり彼から最も情熱を注ぎ込まれているのは彼なのだろう。

 

そんな彼は話そっちのけで既にお菓子を齧っているが…………

 

 

「はい、じゃあ取り敢えず、明日の3人の健闘を祝って……乾杯!!」

 

 

………乾杯!!

 

 

ようやく始まった。皆談笑しながら好きな料理やお菓子やらを少しずつ口にしていく。

 

 

「うむ。ではでは、本日の主役である御三方に、明日の界放リーグの抱負や目標をお聞かせ願おうかな?」

「……どうしたんだミツバ、急に」

「こう言うのを聞くのは激励会ではお決まりなんすよ先輩」

 

 

突然ミツバがそう告げる。大会前における激励会では確かにそれらの話を聞いておくのは一般的かもしれない。

 

 

「はい、先ずはヒバナちゃん!!」

「え、私からですか!?……そうですね………」

 

 

ミツバが指を刺したのはヒバナ。彼女は少しだけ考え、それを答えていく……………

 

 

「………この間まで大会に出ようなんて思ってもいませんでした。面倒だし、活躍してもどうせお父さんの名前を盾にされるだけだって………」

 

 

彼女の父親の名前は「一木ハナビ」………

 

超一流のプロバトラーであり、娘であるヒバナも憧れの存在。しかし、周りからはどうしても比較されがちであり、七光り呼ばわりされるのが嫌で、あまり表舞台でバトルはしなかった。

 

 

「でも、ある人にウォーグレイモンに固執しすぎじゃないかって言われて気づいたんです。私だけの、私にしかできないデッキを作って、一木ハナビじゃない、一木ヒバナのバトスピを見せてやろうって!!…大会でそれができたらいいなって、思ってます!!」

 

 

彼女にそう告げたのは新モビル王となった早美アオイ。人生の先輩として告げた彼女の言葉は、ヒバナに相当な影響を与えている様子。

 

皆が微笑ましくその話を聞く中で、鈴木イチマルは1人スタンディングオベーション、つまり立ち上がって拍手して…………

 

 

「……凄い、素晴らしい!!……流石はオレっちの嫁」

「嫁じゃない」

「じゃあ彼女」

「ランク下げてもダメ」

 

 

どうしてもヒバナと結婚したいイチマル。さりげなく認めさせる作戦に出るが失敗。

 

そんなイチマルにミツバがビシッと指を刺す。

 

 

「ほい!!……じゃあ次イチマルね」

「お任せくださいよミツバさん。このイチマル、バシっと決めちゃいます!!」

「………なんかイチマル、テンション高いな」

「きっと夜間のせいで上がってるんだと思います」

 

 

ヨッカとヒバナがイチマルのテンションの高さを気にする中、イチマルが界放リーグへの抱負や意気込みを語る…………

 

 

「去年オレ、ベスト8だったんすよね。予選は突破したけど、1回戦落ち」

 

 

界放リーグジュニアクラスの本戦に出場できるのは8名。予選を突破できるだけでも十分凄いが、イチマルはそれだけでは満足できていないみたいで…………

 

 

「だから今年は最低でも2回戦進出!!……でもって優勝したら一木ヒバナちゃんと結婚します!!」

「結局それかアンタは。するわけないでしょ?」

「まぁ、絶対言うと思ったよな」

「右に同じ」

 

 

ヨッカもミツバもイチマルの最後の一文は容易に想像がついた。ぶっちゃけこれを言わないとイチマルではない。

 

鈴木イチマルと言う人物はいつもそうだ。ヒバナがそばにいれば必ずと言っていいほどに彼女に対する求愛を挟んでくる。まぁ、彼らしいと言えば、らしいが。

 

 

「………あぁ後、鉄華オーカミには勝ちます」

「……………ん、なんか言った?」

「あれ、ウソだろオマエ、聞いてなかったの!?」

 

 

イチマルがオーカの名前を出すと、皆オーカの方へと首を向けるが、彼は話を何も聞かずにお菓子を食べまくっているようで…………

 

 

「よし、じゃあ最後はオーカだ。明日の界放リーグでの抱負とか、目標とかある?」

「目標?……そうだな………」

 

 

お菓子を食べるのをやめ、一度改めて界放リーグへの目標を考えてみるオーカ。すると、色んな想いが浮かんでくるが、1番デカく、尚且つ真っ先に出て来た顔はアイツ…………

 

 

「………色々あるけど、1番はアイツ、獅堂レオン。アイツにだけは勝ちたい」

「え、獅堂レオンってあのジュニアNo. 1の!?……え、知り合いなのかよ鉄華オーカミ!?」

「あぁ、オーカは一度アイツとバトルして、エースのデスティニーを倒したんだ」

「なァァァァー!?!……ウソだろ!?……凄すぎんだろそれ」

 

 

オーカとレオンの関係を初めて聞いたイチマル。あの無敵のデスティニーを葬ったと耳にするなり驚嘆の声を上げる。

 

 

「けどバトルは負けた。ずっとアイツの手の平で転がされてたんだ……アイツの性格は凄く気に入らないけど、なんか不思議と、アイツに勝てたらきっともっと凄い自分になれる気がするんだ」

 

 

胸の内を、オーカは語る。彼が不本意ながら感じているのは己の向上心そのモノ。

 

不思議か、心の中ではアレ程嫌っている獅堂レオンの事を、彼は無自覚ながらライバルとして、超えるべき相手として強く認識しているのだ。

 

 

「うん。できるよ、オーカなら、絶対獅堂レオンにも勝てる」

「うん、ありがとう」

 

 

ヒバナが優しい口調でオーカに告げた。

 

 

「バトスピ初めて3ヶ月だってーのに、濃ゆいよなオマエのバトスピライフは」

「そう?」

 

 

イチマルが明るい口調でオーカに言った。オーカは相変わらずの仏頂面で愛想が全くないが、彼を長年見て来たヨッカにはわかる。

 

今の弟分は凄く楽しそうであると…………

 

やはりあの日、バトスピを無理矢理やらせて正解であったと自分の内心で納得した。こうして、界放リーグの激励会は、もう少しだけ話が盛り上がったのち、静かに幕を閉じていくのだった…………

 

 

******

 

 

時、ほぼ同じくして、界放市ジークフリード区にある、古臭い印象を受ける雑居ビルやこじんまりとした商店が方を寄せ合いひしめく一角。

 

13歳の少女、春神ライの住む家も、そんな街を構成する雑居ビルの中にある。

 

ちょうど、女の子の友達と鍋パをやっているようだ。鍋に火を通し、頃合いになった頃に具を次々と投入していく。

 

 

「フウちゃんイトコン好き?」

「好き!!」

「オッケー」

 

 

このもう1人の少女、春神ライの親友「夏恋フウ」………

 

黒髪ロング系、清楚系美少女で、ライとは似ても似つかない大人しい印象を受ける彼女、頭脳明晰でしかも容姿端麗、ライも絶大な信頼を寄せるが、唯一の欠点はバトルが弱い事。

 

 

「でも良いのかな〜……私たち、ここ数日毎日鍋パしてない?」

「良いよ美味しいし、それにヨッカさん、最近あんまり帰って来ないから、フウちゃんいないと寂しいし……団子入れる?」

「入れる!!」

「オッケー」

 

 

次々と具を追加しながら淡々と談笑していく2人。

 

この家はあのオーカの兄貴分「九日ヨッカ」の住まいでもあり、春神ライは彼と同居人の関係にあるのだ。

 

 

「ところでライちゃん」

「んーーなに?」

「ライちゃんは明日の界放リーグジュニアクラスに出るの?」

 

 

鍋の具を混ぜる事に集中していたライに、フウが訊いた。

 

 

「界放リーグ……あー、世界的にも有名なアレ……出たくないわけじゃないけど、私ヨッカさんに公式戦禁止されてるんだよね。界放リーグなんかどっぷり放送されそうだから絶対ダメって言われる」

「あーー……そうだったね、ごめん」

「それに学校にも通ってないしね〜〜」

 

 

ライの年齢は13歳。一般的には中学1年生に相当する年齢だが、彼女はある理由から学校には通っていない。明日からの界放リーグは、飽くまで中学生らの祭典。ライはその資格を持ってはいない。

 

それに資格があったとしても、やはり九日ヨッカが許す事はなかっただろう。彼は彼女に常々「バトスピの公式大会の参加」を禁止させていた。その深い理由は、天才であるライにも知る由はない。

 

 

「じゃあさ、明日の界放リーグ本戦、一緒に観に行かない?」

「!」

「観るだけなら、きっといいよね?」

 

 

確かに。飽くまで禁止されているのは自分がバトルする事のみ、人のバトルくらい遠い場所だったら全然観戦しても良いはず…………

 

 

「いいねフウちゃん、ベリーベリー賛成!!……行こう、明日の界放リーグ!!」

 

 

こうして、春神ライも明日の界放リーグへ向かう事になる。出場はしないものの、親友とのお出かけは非常に楽しみであった………

 

だが、彼女はまだ知らない。その界放リーグに、自分が散々追いかけ回した存在、鉄華オーカミが出場する事を…………

 

 

******

 

 

日はすっかり沈んだ。激励会も終わり、鈴木イチマルは1人帰路を歩いていた。もう間もなく自分の家に帰り着くだろう…………

 

 

「……『獅堂レオン。アイツにだけは勝ちたい』………か。オレっちは眼中にないって感じだったな………いや、本当はそんな事ないんだろうけど」

 

 

激励会でのオーカの言葉を思い返すイチマル。せっかく同じ大会に出場すると言うのに、自分は好敵手として見られてない気がして若干萎え気味のようだ。

 

 

「まぁ、別にあんな奴に忘れられようとどうでもいいんだけど、どうせ勝つのはオレっちだし…………後、どうせヒバナちゃんと結婚するのもオレっちだし」

 

 

凄まじく私的な感情を口にするイチマル。甘く見積もっても半分くらいは下心ありきで大会に出場してそうだ。

 

それでも彼の界放リーグに臨む気持ちは本物。もちろんガチで優勝しに行くし、鉄華オーカミにも、獅堂レオンにも、最愛の一木ヒバナにだって負けるつもりはない。

 

 

「よし、明日……頑張ろ」

 

 

そう強く意気込み、まもなく家に到着すると言うタイミング…………

 

イチマルはある人物とバッタリ顔を合わせる事となり…………

 

 

「あ………」

「あぁん?」

 

 

ガラの悪そうな筋肉質な男性。夜間にも一眼でわかるトサカ頭が目に残る。

 

この人物、なんと三王の1人、ライダー王の「レイジ」…………

 

ついこの前引退したMr.ケンドーと同期であり、今尚現役のライダー王として生きる伝説を作り続けている存在…………

 

だが、このライダー王のレイジ、実は…………

 

 

「……今帰り?……家に帰るのは久し振りじゃないか兄ィ?」

 

 

そう。

 

ライダー王のレイジの本名は「鈴木レイジ」………

 

実はイチマルの実の兄。血を分けた本物の兄貴なのだ。

 

 

「………オマエみたいな弱い奴はオレの弟じゃねぇ、失せろ雑魚」

「ご、ごめんごめん!!……怒らないでくれよ!!」

 

 

険悪な雰囲気を醸し出すレイジ。どうやら兄弟仲は最悪な様子。

 

 

「界放リーグ、また出るんだってな」

「ッ……う、うん。優勝目指して頑張るよ……!!」

「それ以外ありえねぇだろ。あんなレベルの低い………テメェ、オレとの関係、誰にも言うんじゃねぇぞ。テメェみたいな弱い奴と兄弟なんて知られたら、オレ様の人生終わりだ」

「言わない言わない!!……オレっちが口硬いの、知ってるっしょ!」

 

 

そう告げ、イチマルの気楽な態度が気に障ったのか、最後に舌打ちをすると、その場を去り、家へと向かっていくレイジ。

 

そんな彼の背中を見ながら、イチマルは強く拳を固めて………

 

 

「……ごめん兄ィ……オレっち絶対、兄ィが胸張ってオレの弟だって言えるくらい、強いバトラーになるからよ」

 

 

最後に出たのはガチの本音。

 

イチマルがバトルスピリッツを続ける理由………

 

界放リーグへと出場し続ける理由であった…………

 

 

******

 

 

時同じくしてカードショップアポローン。その屋上にて、光り輝く星々を眺めながら、鉄華オーカミは兄貴分である九日ヨッカと2人で男と男の話し合いをしていた。

 

 

「………この間の試合、負けたんだってね」

 

 

ド直球にオーカが言った。

 

 

「あぁ、負けたよ。完璧な戦術だった……オマエもデッキアウトには気をつけろよ」

「うん」

「何にせよ、これでMr.ケンドーも引退だ。これからは本職であるこっちを優先させてもらうよ」

「辞めちゃうんだ」

「なんだ、ダメか?」

「いや、アニキがそう決めたならそれでいい」

 

 

まだ公表こそしていないが、Mr.ケンドーとしての活動を引退するヨッカ。本職であるカードショップの店長に専念する様子…………

 

オーカとしては早美アオイにリベンジして欲しい気もあったが、彼自身が決めた事ならしょうがないと直ぐに割り切る。

 

 

「…………オマエは勝てよオーカ。応援しに行くぜ、赤羽カレンに獅堂レオンをぶっ倒して「鉄華団使いの鉄華オーカミここにあり!」ってーのを世に知らしめてやれ」

「あぁ」

 

 

淡々と返事をするオーカだが、その表情には珍しく笑みが溢れる。

 

だが、この後直ぐに「あ、そう言えば」と、何かを思い出したように言葉を吐くと…………

 

 

「あの新世代系女子、出るのかな?」

「…………」

「アイツにもリベンジはしたいな」

 

 

………『新世代系女子』………

 

ヨッカはその呼称を聞いて絶対にそれが自分の同居人、春神ライの事だなと勘づく。オーカはまだ彼と彼女の間柄を知らないのだ。

 

 

「はは、まぁ……強い相手だったらその内対戦する機会もあるんじゃないかな〜〜……なっはっは」

「?」

 

 

ライには公式戦を禁止させているため、出ないのは知っている。

 

こんな立派な成人男性が中学生くらいの女子と同居しているのは流石にちょっと知られたくないからか、棒読みで適当な事を言って誤魔化す。

 

 

「……何にせよ明日は頑張れよ兄弟………今までやって来た事を信じて、胸張ってやり切れ!!……まぁ、オマエには言うまでもないだろうがな」

「あぁ、最後はバルバトスで決める………観ててくれよ、アニキ」

 

 

最後にはそう告げ合いながら拳を合わせる2人。血は繋がっていないものの、こちらの兄弟の方が、鈴木家の兄弟よりも固い絆で結ばれているみたいだ……………

 

 

 

******

 

 

 

鳩の鳴き声が始まりを告げる朝。

 

今日は遂に界放リーグジュニアクラスの開催日だ。鉄華オーカミは自宅の自室で着替え、支度をする。最後にはデッキをズボンのポケットに入れ、いざ会場に向かわんとするが…………

 

部屋を出るなり、玄関前で倒れている女性の姿があって………

 

艶やかで長いブロンドヘアの髪型、ぶかぶかなパーカーにショートパンツなどの洒落た格好、手提げカバンからはみ出ている水着などから察するに、職業はモデル。

 

 

「…………お帰り、姉ちゃん」

「ん……あーーー……寝ちゃってたか、おはようオーカ」

「モデルの仕事してる人があんまり床で寝ない方がいいぞ」

「いや〜、もう疲れに疲れてね〜」

 

 

オーカの一声で起きる女性。彼女こそ、たびたび話に出ていた彼の実の姉、名前は「鉄華ヒメ」…………

 

13歳の頃からモデルの仕事でオーカを養っている、この年18歳の女性だ。どうやら仕事明けで疲れが溜まっている様子。

 

 

「朝飯、作って置いてあるから、食べていいよ」

「ん、ありがと。優しいねオーカは…………一緒に食べないの?」

 

 

ヒメがオーカに訊いた。

 

 

「食べない。今日は友達と待ち合わせしてるんだ」

「へ!?……オーカ友達できたの!?」

「そんな驚く?」

 

 

あの淡々としている一匹狼である弟から「友達と待ち合わせ」なんてフレーズを耳にするとは思っていなかった実姉。興奮で疲れも吹っ飛ぶ。

 

 

「え〜〜ウソ!!…あのオーカに友達なんて嬉しいな〜…界放市まで越してきた甲斐があったわね!!…女の子の友達もいるの?」

「いる」

「キャーーー!!…凄いじゃないオーカ!!…女の子の友達は大事にしなさいよ、いつかあなたの大事なパートナーになるかもしれないんだから!」

「うん」

「あ、でもパートナーにする前に、絶対私にも紹介するのよ!!…これは社会の常識だから覚えてなさい!」

「うん」

 

 

兎に角オーカの交友関係、もとい恋愛関係が気になってしょうがない鉄華ヒメ。これまでどれだけオーカを大事に育てて来たのかが容易に理解できる。

 

 

「オレ時間ないから、もう行くよ姉ちゃん」

「あ、ちょっと待って!…お友達とは何して遊ぶの?」

 

 

ヒメにそう訊かれ、オーカはポケットからデッキを取り出して、それを見せる。

 

 

「バトスピ。今日は友達とコイツの大会に出るんだ」

「え、バトスピ………!?」

「じゃあ、行ってきます」

「へ……あ、うん。いってらっしゃい」

 

 

オーカのバトスピカードを目に映した途端、愕然とした様子を見せるヒメ。流れるままにオーカを見送ったが……………

 

 

「………なんで、あの子がバトスピを………?」

 

 

1人になった直後、不穏になる言葉を吐いた。

 

その真意は、まだ誰にも分からなくて……………

 

 

 

 

 

 




次回、第15ターン「予選開幕、昂るゴモラ」
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