バトルスピリッツ 王者の鉄華   作:バナナ 

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第26ターン「アイカツ☆オンステージ」

界放市ミカファール区。界放市にある6つの区の中でも、特に娯楽に特化しているこの区では、所謂「バトスピアイドル」なる職業が存在し、今となっては世界でも大きな話題を生み出す程となっていた。

 

 

「会場のみんな〜〜今日も来てくれてありがとう!!!………青葉(あおば)アカリ、オンステージ!!」

 

 

舞台のスポットライトを一点に浴び、今日もミカファール区でバトスピアイドルのトップに君臨する15歳の少女「青葉アカリ」が雅やかな衣装を身に纏って、会場の誰もを虜にして行く…………

 

 

******

 

 

毎年夏に開催される、界放リーグジュニアも終わり1日が経った。

 

場所は病院。鉄華オーカミは今正に退院しようとしていた。すぐそばには多忙な彼の姉に代わって、保護者代理の『九日ヨッカ』、診てくれた先生『嵐マコト』、同僚の早美ソラがいる。

 

 

「本当にもう大丈夫なのか?」

「まぁ別に、元から大した怪我じゃなかったし」

「よく言うぜ、目から血が出てたんだぞ」

 

 

ヨッカがそう言うと、オーカミが答える。

 

 

「念のために眼科の方にも診てもらいましたが、一時的に出血していただけらしく、特に問題ないとの事でしたよ。でも、くれぐれも無茶はしないでくださいね、オーカミ君」

「いや〜〜すみませんね先生、コイツがお世話になりやした」

 

 

主治医の嵐マコトが、落ち着きのある、優しい口調でヨッカとオーカミにそう告げた。ヨッカが聞いた所によると、彼は相当な腕前の医者らしく、かなり診療性も高い。本当にオーカミは無事なのだろう。

 

 

「またねオーカミ」

「ソラ」

「僕もいつか病気を治してここを出るよ。そしたら今度は外でバトルしよう、もちろんBパッドを使ってね」

「あぁ、もちろんだ。待ってるよ」

 

 

互いに握手を交わしながら約束する2人。あのあまり言葉に感情が籠らないオーカミに、心なしか感情が篭っているように感じる。

 

ただそれ程までに仲が良くなったのだとヨッカは思い…………

 

 

「よし、行くかオーカ」

「うん」

 

 

やや誇らしげにそう告げたヨッカ、オーカと共に病院を後にした。

 

 

******

 

 

界放リーグが終了してから3日が経過した昼の出来事。

 

鉄華オーカミがアルバイトとして働く界放市ジークフリード区にあるカードショップ「アポローン」に、ある変化が起こっていた。

 

 

「な、なんだこの客の数は………」

「せ、センパイ。私目が回りそうなんですけど」

「頑張れミツバ」

「………おつり200円です」

 

 

九日ヨッカ、雷雷ミツバ、鉄華オーカミのアポローンスタッフの3人は次々にやって来る無数のお客様に接客していた。

 

お店が繁盛しているのは大変素晴らしい事なのだが、ここまで来ると流石に目を回してしまう。

 

ここまで人気が出たのは間違いなく鉄華オーカミが界放リーグで準優勝したと言う輝かしい成績を収めたからだろう。鉄華団と言う、誰も見たことがない特異なデッキを使用していた事もおそらく理由の1つ。

 

 

「オーカミさん、是非オレとバトルしてください!!」

「いやいやオレと!!」

「私と!!」

「鉄華団のカードってどこに売ってるんですか!?」

 

 

などと言われながら、次々と詰め寄ってくる客の数々。オーカミは内心では「めんどくさ」と思いながらも、時間をかけ、少しずつお客様の相手をして行った…………

 

勝率はもちろん全戦全勝。

 

そして、時刻は夕方。お客様もだいぶ少なくなったこの時間帯。散々バトルさせられたオーカミは流石に疲れたか、ショップ内にあるベンチで腰を下ろしていた。

 

そんな折、ある人物たちが彼に声を掛ける。

 

 

「よお鉄華オーカミ」

「お疲れオーカ」

「あぁヒバナ、イチマル」

「界放リーグの準優勝者さんは忙しいな…………ほれ、オレっちからの奢りだ。ありがたく受け取れよ」

「ありがとう」

 

 

ヒバナとイチマルだ。オーカミはイチマルからスポーツドリンクを貰い、それをグイッと勢いよく飲んだ。余程水分を欲していたらしい。

 

 

「病み上がりであんなにバトルして大丈夫?」

 

 

ヒバナがオーカミに聞いた。

 

 

「別に大丈夫だよ。これも仕事だし、それに今はいっぱいバトルしたいんだ。もうあんな負け方したくないから」

「…………そう」

 

 

界放リーグで後一歩の所まで獅堂レオンを追い詰めたオーカミ。だが結局は負けた。

 

普段はあまり感情を見せない彼だが、そんな負け方をして悔しくないわけがない。その心意気はもっと強くなりたいで埋まり、満たされていた。

 

 

「でも偶には休息しないとね」

「?」

 

 

ヒバナはそう言いながら懐からある物を取り出した。どうやら、何かのチケットみたいだ。

 

 

「じゃーん!!……ミカファール区のバトドル『青葉アカリ』ちゃん、縮めて『アカリン』のライブチケットよ!!」

「………誰」

「えぇ、オーカ知らないの!?」

「だから言ったろヒバナちゃん。鉄華オーカミがバトドルに興味あるわけないって」

 

 

見せつけたのはバトスピアイドルのライブチケット。合計で3枚確認できる。バトスピアイドルの事を全く知らないオーカミは思わず素っ気ない反応をしてしまう。

 

 

「ごめん。で、何それ」

「バトスピアイドル。通称『バトドル』だな。歌って踊ってバトルもできるスーパーアイドル」

 

 

イチマルがオーカに説明して行く。

 

 

「その中でも「青葉アカリ」ちゃんはこの界放市のバトドルの中でもトップに君臨するバトドルなんだ」

「ふーーん」

 

 

界放市の中でもトップの人気を誇るバトドル「青葉アカリ」………

 

一見範囲の狭いトップに聞こえるが、この界放市は日本の中で最もバトスピが栄えている大都市。青葉アカリの知名度もまたそれに比例して高いのだ。

 

 

「で、なんとそのライブチケットが3枚も当たったから、3人で行かない??……って事だったんだけど」

「あぁ……うん、別にいいよ」

「やった!……じゃあ明日1時にジークフリードスタジアムに集合ね」

「え、明日なの。まぁ行くけど」

 

 

アイドルというのはイマイチよくわからないが、バトスピをすると言うなら話は別だ。興味の湧いたオーカミはあっさりそれを承諾。

 

だがイチマルは…………

 

 

「ごめんヒバナちゃん、オレっちはやっぱやめとくわ」

「え……どうしたのイチマル、アンタらしくない」

「珍しい、ヒバナが行くとこは大体行きたがるのに」

 

 

オーカミの言うように本当に珍しい。ヒバナの事を一途に想う彼は常にヒバナと共に行動するようにしていたが、今回は自らそこを離れようと言うのだ。

 

 

「はは、オレっちはこう見えて一応3年生だしな。そろそろバトスピ学園の受験勉強始めないと」

「べ、勉強って……アンタ本当にイチマルなの!?」

「酷いヒバナちゃん!!……オレっちだって勉強するよ!?……優秀な成績を収めてるよ!?」

 

 

そう言えばそうだった。鈴木イチマルは2人より1つ上の中学3年生。後半年もすればバトスピ学園、もとい高校の入試試験が訪れる。それに向けて勉強しなければならないと言うのは至極当たり前の理由だ。

 

まぁ、それがイチマルの口から出てくる事自体が意外だったのだが…………

 

 

「んじゃオレっちは今日はこれで、2人とも楽しんで来いよ」

「う、うん」

「…………」

 

 

背中を向けてアポローンを後にしようとするイチマル。その背中で何とも言えない不穏なものを感じ取ってしまったオーカミは思わず口が開く。

 

 

「なぁイチマル」

「ん?」

「何かあったら相談しろよ。オレ達友達だろ?」

「…………あぁ、わかってるよ」

 

 

笑顔を向け、去って行くが、2人にはその背中がどこか哀愁を漂わせているようにも見えて…………

 

 

「イチマルの奴、どうしたんだろ。珍しく元気なかったね」

「……まぁ大丈夫だろ。イチマルだし」

「うん、そうだね……そうだと、いいんだけど………」

 

 

いつもは彼の事を鬱陶しく思っているが、こればかりは心配にならざるを得ないヒバナ。だが今はオーカと共にイチマルを信じるしかなかった。

 

 

「でも結局、ライブチケット1枚余っちゃったね……ミツバさんかヨッカさんあたりでも誘おうか」

「アネゴはうるさいからいいや、アニキが良い」

 

 

そんな理由でライブチケットの最後の1枚はヨッカの手に渡った。

 

 

******

 

 

ライブ当日。基本的にミカファール区で活動する青葉アカリだが、今回は何故かここジークフリード区のジークフリードスタジアムでライブを行うとの事。

 

鉄華オーカミ、一木ヒバナはそんな彼女のライブを観ようと、チケットを握り、スタジアム前まで来ていた………が。

 

 

「で、なんで新世代女子がここにいんの?」

「なんでって、ヨッカさんが行けなくなったからその代理で…………つーかアンタ、いつまで私の事新世代女子って呼ぶつもりよ!!……私には春神ライって言う立派な名前があるの!!」

「この子って確かあの時の………」

 

 

ヨッカに手渡されたライブチケットは黄色がかった白髪でショートヘアの少女、春神ライの手に渡り、結果的に彼女が3人目としてここに来ていた。

 

 

「あ、えぇっと……一木ヒバナさんですね」

「!!………あ、はいそうです、一木ヒバナです!!」

 

 

オーカと話している時と態度が全然違うと思い、戸惑いながらもライに対して返答するヒバナ。

 

 

「急な話で変わっちゃってホントごめんなさい。私は春神ライ、訳あって今はヨッカさんの家に居候してるんだ」

「そうだったんだ。うん、私は全然気にしてないよ。そんなに固くならなくていいから、今日は一緒に楽しもう!!」

「!!」

 

 

ヒバナにそう言われると、ライは嬉しそうな表情を見せる。

 

 

「じゃあ私達友達って事!?」

「え、うん。そうだね!!……よろしく、ライちゃん」

「おぉ、フウちゃんに続いて2人目のジャパニーズフレンド!!……こちらこそよろしく、ヒバナちゃん!!」

 

 

なんか急に仲良くなったな。肩身が狭いんだけど。

 

そんな事を思うオーカミの横で、一木ヒバナと春神ライは急激な速度で仲良くなった。女の子って凄い。

 

 

「よし、じゃあ今日は私とライちゃんとオーカの3人でアカリンのライブを楽しむぞ!!」

「おぉ!!………アンタもノリに合わせて『おぉ!』って言いなさいよ」

「なんで」

「こう言うのは合わせるもんでしょ?……相変わらず協調性がないわね。今日こそはアンタと決着つけてやるって思ってたけど、折角のライブだしね、また今度にしてやるわ」

「ふふ、それじゃそろそろ中に入ってようか」

「おぉ!!」

「…………」

 

 

笑顔を向け合い、仲良く腕を組みながら会場に入って行く2人。

 

彼女らを見て、内心で「女の子ってよくわかんないな」と思いながらも、オーカミはそんな2人の後ろについて行った。

 

 

******

 

 

会場内。ジークフリード区にもその名が知れ渡っている青葉アカリの影響力は凄まじいようで、あの界放リーグと同等、もしくはそれ以上の観客たちが彼女のライブを観ようと集まっていた。

 

そんな大勢の人々の中に、鉄華オーカミ、春神ライ、一木ヒバナはいた。

 

 

「ねぇ、ライちゃんはアカリンのどう言うとこが好きなの?」

「え?………あぁ、えぇっと………」

 

 

ヒバナがライにそう聞いた。ライは直後に困った顔を見せる。

 

無理もない。本当は全くの知識もなく、とある事情があってここまでやって来たのだから…………

 

 

「………笑顔が素敵な所」

 

 

困り果てたライは、ありふれた返答で誤魔化す作戦に出る。

 

 

「わかる!!……バトドルだから絶対仕事が忙しくて辛いはずなのに、私たちファンには絶対素敵な笑顔を振る舞ってくれるって考えたら本当泣けるよね!!」

「う、うん」

 

 

誤魔化せたが何故か感涙された。余程彼女の事を語りたかったのだろう。オーカミはバトドルには全く興味がなさそうだし、無理もないか。

 

 

「ヒバナって、意外とテレビの人とか好きだよな」

 

 

今度はオーカミがヒバナに聞いた。彼の言うテレビの人とは、おそらく「芸能人」と言う言葉が出てこなかったからだと思われる。

 

それはさておき、彼の言う通り、確かにヒバナは他にも早美アオイなどの所謂有名人に憧れるなど、ミーハー気質を持っているようにも思える。

 

 

「いやほら、私って一木花火の娘だけど、なんか全体的に普通だから、やっぱり憧れちゃうって言うか」

「界放リーグでベスト4に入った人が普通なわけないでしょ」

 

 

この間の界放リーグの試合のほとんどを観戦したライ。軽く笑いながら返答した。

 

 

「あっはは、確かに界放リーグでベスト4に入れたのは嬉しかったし、自信はついたんだけどね………でも最近たまに思うんだ。私がここまで勝ち残れたのは、一木花火の娘だからなんじゃないかって」

「一木花火??」

「知らないの?……ヒバナの父さん、プロのカードバトラーなんだって」

「へぇ〜」

 

 

今年の界放リーグにおいて、優秀な成績を収めたヒバナ。初参加にしてこの成績は実際かなりのモノであり、誇らしく思ってもいいだろう。

 

しかし、ややそれに迷いが生じているみたいだ。

 

 

「アオイさんやアカリンは、多分私と違って何もない所からのスタートのはずだったのに、並々ならぬ努力で、今となっては誰からも尊敬される凄い存在になってる。そう考えたら、本当に凄いなって思ってて、だからそう言う人達って尊敬してるんだ」

「…………」

 

 

ヒバナがそこまで言い切ると、少し考えたら、オーカミが口を開く。

 

 

「………なんかよくわかんないけど、誰の親だからとか、そう言うの関係ないと思う」

「!!」

「て言うか、コレをオレに教えてくれたのは多分ヒバナだ」

 

 

ヒバナのこれまでのバトルスピリッツに対する姿勢、向き合い方から、オーカミはヒバナの強さが父親のお陰ではない事は直感的に理解していた。

 

その旨を伝えると、ヒバナは自然と笑みが溢れて………

 

 

「えっへへ……そうだね。そうだったよ………一木花火の娘だからって言われるのが嫌だったけど、私自身がこう言う考え方だから、きっと嫌だって感じてたんだ…………よし、もう気にしない。私は私だ!!」

「うん。それでこそヒバナだ」

「よぉし、手始めにプロのカードバトラーになって、ついでにバトドルにもなってあげますか………夢はでっかく」

 

 

界放リーグを経てから、嫌、正確には獅堂レオンとのバトルに負けて、復帰した時から、ヒバナは凄く自信がついた、もしくは前向きになっていた。

 

前向きな人間は成長し続ける者だ。きっと、ヒバナはこれからもまだまだ強くなる事だろう…………

 

 

「プロとバトドルはやばくない??……なんて言うか、スケジュール的に」

「じゃあライちゃんもバトドルになろうよ!!」

「え、私がバトドル??」

 

 

ヒバナにそう言われると、ライは頭の中で自分がアイドルになってフリフリな衣装で歌って踊る所を妄想してみる。

 

自分でこんな事を思うモノではないとわかってはいるが、我ながら可愛いではないか。そう思い至る。

 

 

「ふ……そうなったらヒバナちゃんどころかアカリンも目じゃないかもね」

「じ、自信が凄い!?」

「新世代女子がアイドル………?」

 

 

今度はオーカミがライがアイドルになった所を想像してみる。そこにはマイクを片手に持ったライを前に、倒れていく数々のカードバトラー達の屍が聳え立っていた……………

 

 

「あ……フウちゃんから電話だ。ごめんヒバナちゃん、私ちょっと電話出てくる」

「え、今!?……もうすぐライブ始まっちゃうよ!?」

「大丈夫、すぐ戻るし、別に途中から観ても問題ないでしょ」

 

 

最後にそう言うと、ライは席を立ち、一度会場から離れた。そしてその約数秒後と言ったタイミングで会場から明かりが消え、真っ暗になる。

 

ライブが間も無く始まると言う合図だ。

 

 

「あーーライブ始まっちゃう。ライちゃんにはライブの最初から観て欲しかったな」

「なに、停電?」

「違うよオーカ、今から始まるんだよ」

 

 

ヒバナが軽くドルオタなのを発揮した所で、会場の舞台から一点の光が刺す。そしてその先には会場内の誰もが待ち望んでいたバトドル界のトップ、青葉アカリの姿が…………

 

 

「会場のみんな〜〜今日も来てくれてありがとう!!!………青葉アカリ、オンステージ!!」

 

 

スポットライトを一点に浴びた彼女のからの甘い声に、観客たちは産声を上げるような歓声を張り上げてしまう。

 

 

「わぁぁ来た来たアカリンだぁ!!……オーカァァァー!!!」

「うん、わかった、わかったから落ち着け」

 

 

ヒバナもその例外ではない。興奮の余り両手で横にいるオーカミの肩を全力で頭ごと揺らす。

 

やがて軽やかな音楽と共に、彼女は歌い、踊り出す。その神がかった美声は、会場にいる誰もを興奮の渦に巻き込んだ。鉄華オーカミ以外は…………

 

 

「わぁ〜〜感動………オーカ、やっぱりこういうのそんなに好きじゃない?」

 

 

ペンライトを振りながら感動するヒバナ。だがオーカミの相変わらずの無表情を見て少し気が変わる。楽しくもないのに無理矢理連れてきてしまったのではないかと、罪悪感的な何かを感じたのだろう。

 

 

「ん……いや、そんな事はないんだけど。なんか、慣れないんだ。昔は友達いなかったし」

「な、なんかごめん………」

「なんで?」

 

 

鉄華オーカミは昔から感情の起伏が乏しい。正直、楽しいと言えば楽しいし、それがヒバナという名の友達といるなら尚更である。だが昔は友達がいなかったからと言う理由が余りにも悲壮感が漂う。

 

そんなこんなあり、オープニングソングは終了。会場は拍手喝采を青葉アカリに浴びせる。そして彼女はマイクを片手に取り、挨拶を行う。

 

 

「改めまして、バトスピアイドルの『青葉アカリ』です!!………ご存知の通り、いつも私はミカファールで活動させてもらってるんですけど、ジークフリードでもこんなに沢山のファンの皆様が集まってくださって、ホントに嬉しいです!!」

 

 

またもや拍手喝采、そして指笛まで聴こえて来る。ジークフリード区でも彼女の人気が高い証拠ではあるのだろうが、きっとおそらくミカファール区や他の区から追っかけて来たファンも大勢いるのであろう。

 

 

「本日は新曲を披露!!……と行きたい所なんですけど、先ず最初は皆様の中から代表で1人、この私とバトルスピリッツをして貰います!!」

 

 

またまたまた大喝采。会場はかなりの冷房をこしらえていると言うのにも関わらず、凄まじい熱量に包まれて行く。

 

無理もない、現役のバトドル、しかもその中でもトップクラスの人気を誇るあの「青葉アカリ」とサプライズ的にバトルスピリッツを行えるのだ。ファンからしたら堪らない至福の時になる事は先ず間違いないだろう。

 

 

「ではでは選出方法〜〜!!……この光る3つのスポットライトが重なった先にいる方が私の対戦相手です!!!………それでは参ります〜〜!!」

 

 

3つのスポットライトがドラム音と共に会場をぐるぐると回って行く。会場の殆どはそれらが自分に止まることを願っている…………

 

そしてドラム音が止まり、3つのスポットライトが同時に同じ場所へと焦点を当てる。その先にいた人物は…………

 

 

「あ?………何、眩しい」

「決まりました!!……そこの赤い髪の男の子!!」

 

 

まさかの鉄華オーカミだった。無自覚だが、相変わらずの豪運っぷりである。

 

 

「何?」

「お、オーカ凄い、凄いよホントに!!……アカリンとバトルができるなんて!!!」

「あぁ、スポットライトってこれの事」

「では赤い髪の君!!……私と同じ舞台へ、レッツ、オンステージ!!」

 

 

急展開に頭が追いつかないオーカミ。戸惑いながらも席を立ち、青葉アカリと同じステージへと立つ。

 

 

「舞台に上がってくれてありがとう。2人でもっと楽しい時間を作ろうね!!」

「え、あぁ……うん、はい」

 

 

オーカミは多分歳上であろう彼女に、取り敢えずおぼつかない敬語を使って見る。

 

 

「君の事は何て呼べば良いかな?」

「あぁ……別になんでも良いけど、じゃあオーカミで」

「オーカミ君!!……よろしくね!!……私の事はアカリンでいいよ!!」

 

 

アイドルと言うものが特段苦手なわけではないが、青葉アカリの言葉の節々から感じ取られる、アイドル然たるキャラクター感に違和感を感じずにはいられない。

 

 

「おい、アレって鉄華オーカミじゃねぇか?……今年の界放リーグ準優勝した」

「あの鉄華団とか言うカードの使い手か!!………獅堂レオンも追い詰めたって言う」

「マジかスゲェ!!……これは世紀の一戦だ!!」

 

 

ここらで会場の観客達の殆どがオーカミが誰なのかに気がつく。今年の界放リーグが終了してからまだ日が浅いので、必然ではある。

 

 

「では観客の皆様!!……この私、青葉アカリと……オーカミ君によるバトルスピリッツをご堪能ください!!」

「バトルするならアイドルだろうと手は抜かない………行くぞ、バトル開始だ……!!」

 

 

そう言うと、互いにBパッドを展開し、デッキをセット。そして、会場全体の期待値が上昇して行く中、それは始まる。

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

いつものコールと歓声と共に、鉄華オーカミと界放市トップのバトドル青葉アカリによるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻は鉄華オーカミだ。そのターンシークエンスを進めて行く………

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………ガンダム・バルバトス第1形態を召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

オーカミのフィールドに姿を見せるモビルスピリットは、相棒であるバルバトスの最初の姿である第1形態。

 

バルバトスの早速の登場に、またもや観客が沸く。

 

 

「へ〜〜これがバルバトス」

「召喚時効果、3枚オープンして鉄華団カードを手札に加える………オルガ・イツカを手札に加えて、ターンエンド」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

バースト:【無】

 

 

第1形態の効果で創界神ネクサスカードである『オルガ・イツカ』を手札に加え、そのターンをエンドとするオーカミ。

 

次は界放市中から愛されるトップバトドル、青葉アカリのターン。

 

 

「いっきま〜〜す!!……私のターン!!」

 

 

会場の期待とスポットライトの光を一身に背負い、巡って来たそれを進めて行く…………

 

 

[ターン02]青葉アカリ

 

 

「メインステップ!!……アイカツスピリット!!……シルキーラブデビルコーデ・大地ののをLV2で舞台へ!!」

 

 

ー【[シルキーラブデビルコーデ]大地のの】LV2(2S)BP3000

 

 

「アイカツスピリット……?」

「その名の通り、アイドルのスピリットです……可愛いでしょ?」

 

 

青葉アカリが召喚したスピリット、いやアイドルは紫の衣装に身を包んだツインテールの少女、大地のの。

 

バトルスピリッツにおいて、メインとなるスピリットは所謂モンスター。ドラゴンやロボット、勇敢なる戦士から異形まで幅広く存在するが…………

 

『アイカツスピリット』…………

 

そのバトドル専用のスピリット群は、どこからどう見ても何も武装を施していない、ただの人間である。

 

 

「そしてこの召喚がキーとなり、手札にあるシルキーラブデビルコーデ・白樺リサの効果!!……この子も舞台へ招待しゃいまーす!!」

「!!」

「この効果でボイドからコア1つを追加、LVは2だよ♡」

 

 

ー【[シルキーラブデビルコーデ]白樺リサ】LV2(2)BP3000

 

 

軽やかに舞台へ呼び出されたのは、大地ののと同じ衣装をその身に纏う黒髪ロングでクールそうな少女、白樺リサ。その効果で青葉アカリの使用コア数を増やす。

 

 

「アタックステップ!!……行きます、先ずはののちゃんでアタック〜〜!!……そしてその効果【フィーバーアピール】を発揮しちゃいま〜す!!」

「!!」

「このスピリットのコアをトラッシュに置く事で、ボイドからコア1つを追加。そうした時、トラッシュにあるソウルコアはリサちゃんに渡りま〜す!!」

 

 

アイカツスピリット特有の効果【アピール】が発揮される。大地ののは手にソウルコアを出現させ、そのまま歌やダンスを披露。およそ10秒程度でそれを終えると、その手に持つソウルコアを白樺リサへと華麗に投げ渡す。

 

 

「またコアを増やした………アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ

 

 

大地ののは高い脚力で跳び上がり、そのままライダースピリット顔負けの跳び蹴りを披露。鉄華オーカミのライフバリアを1つ粉砕した。

 

 

「続けてリサちゃんでアタック!!……【フィーバーアピール】でソウルコアをトラッシュに置く事で1枚ドロー!!……ソウルコアはののちゃんの上に移動!!」

「ソウルコアの移動量凄いな………」

 

 

今度は白樺リサの【フィーバーアピール】…………

 

その効果で青葉アカリは1枚ドロー、そして白樺リサは大地のの同様に歌って踊り、ソウルコアと言う名のバトンを彼女に手渡した。

 

 

「アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

ライダースピリット顔負けのライダーパンチを披露する白樺リサ。オーカミのライフバリアがまた1つ損壊する。

 

 

「アイドルのスピリットって言ってたけど、結構武闘派揃いじゃん」

「まっ……ライフは壊さないとバトルが進まないからね〜〜そこら辺はしょうがないと言う事で!!……ターンエンド!!」

手札:4

場:【[シルキーラブデビルコーデ]大地のの】LV3

【シルキーラブデビルコーデ]白樺リサ】LV2

バースト:【無】

 

 

所々でスピリットとしてのパワーが見え隠れするアイカツスピリット達。ただそれもアイカツスピリットの人気の高さの理由の一つと言えよう。

 

未知なるスピリットとの遭遇に少しワクワクしながらも、それを全く顔に出さないまま、鉄華オーカミは巡って来たターンを進めて行く………

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………モビルワーカーを召喚して、このカード、オルガ・イツカを配置する」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

オーカミが召喚、配置したのはいつものメンバー。武装を施した車両モビルワーカーと、創界神ネクサスのオルガ・イツカだ。

 

オルガはフィールドにこそ出現しないが、そのシンボルと効果は発揮される。神託も当然発揮され、その上にコアが3つ追加された。

 

 

「そしてコイツだ………大地を揺らせ、未来へ導け……バルバトス第4形態……LV2で召喚!!」

「!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2(2)BP9000

 

 

上空から降り立ったのは、オーカミのエースカード、バルバトス第4形態。黒い鈍器、メイスを手に握り、堂々の登場だ。召喚につき、創界神であるオルガにコアが+1される。

 

 

「姉ちゃんが言ってたな『女の子には優しくしろ』って……でもバトスピのスピリットなら話は別だよな………アタックステップ、バルバトス第4形態でアタック」

 

 

アタックステップへと直行するオーカミ。バルバトス第4形態の効果を存分に振るう。

 

 

「アタック時効果、相手スピリットのコア2つをリザーブに!!」

「!!」

「2体で連携するなら、先ずはその連携を潰す………白樺リサからコア2つをリザーブに、よって消滅する」

 

 

バトルならば、スピリットならば、例え相手が女の子でも容赦はしないオーカミ。バルバトス第4形態が命令通りメイスを白樺リサに対してメイスを振るう……………

 

が。

 

 

「ん?」

 

 

直撃したかと思った攻撃。だがそれは白樺リサを包み込むように出現した、半透明の頑丈そうなバリアによって防がれており、本人には傷ひとつなかった。

 

そしてその後、白樺リサは「バイバイ〜〜」とでも言うようにバルバトス第4形態に対して手を振りながらバリアと共にゆっくりと消滅して行った。バルバトス第4形態もそれに合わせて軽く手を振る。

 

 

ー【[シルキーラブデビルコーデ]白樺リサ】(2➡︎0)消滅

 

 

余りにシュールする絵面に、流石のオーカミもドン引く。

 

 

「え………なに?」

「ふふ、面白いでしょ、私のアイカツスピリット」

「面白いって言うか、なんか怖いな…………オルガの【神域】の効果でデッキから3枚破棄して1枚ドロー」

「バルバトス第4形態のアタックはライフで受けちゃいます!!………あいた」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉青葉アカリ

 

 

気を取り直したバルバトス第4形態。メイスを横一線に振るい、今度は青葉アカリのライフバリアを1つ砕いた。

 

 

「ターンエンド。なんか、調子狂うな」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【鉄華団モビルワーカー】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(4)

バースト:【有】

 

 

青葉アカリのアイカツスピリットの快活さと特殊な仕様にバトルのテンポがイマイチ掴めないオーカミ。念のためブロッカーを2体残し、そのターンをエンドとした。

 

次は青葉アカリのターンだ。

 

 

[ターン04]青葉アカリ

 

 

「メインステップ〜〜!!……先ずはののちゃんのLVを1に下げまして、今度はこの子、マーガレットプリズムコーデ・新条ひなきをLV1で舞台へ!!」

 

 

ー【[マーガレットプリズムコーデ]新条ひなき】LV1(1)BP4000

 

 

また別のアイカツスピリットが姿を見せる。それは夏を感じさせるような白を基調としたデザインの衣装に身を包む金髪ショートヘアの少女、新条ひなきだ。

 

 

「この子の見せ場は召喚時効果!!……手札から友達を連れて来ます!!」

「つまり召喚するって事か」

「YES!!……現れて、本日の主役!!……ホワイトスカイヴェールコーデ・大空あかり!!」

 

 

ー【[ホワイトスカイヴェールコーデ]大空あかり】LV2(4S)BP10000

 

 

新条ひなきに続けて舞台へと華麗に降り立つアイカツスピリットが1人…………

 

その名は大空あかり。使用者である青葉アカリと同じ名前のアイカツスピリットだ。青い空と白い雲と笑顔のドレスで、今日も観客達を感動の渦へと巻き込む。

 

 

「同じ名前……アンタのエースか」

「察しがいいね!!……あかりちゃんの召喚煌臨時効果、私の手札全てをあなたに見せちゃいます!!」

「!?」

 

 

召喚時効果を発揮したかと思えば、いきなり手札を見せつけられるオーカミ。手札の内容だけが相手に知れ渡るだけのこの行動になんの意味があると思った彼だったが…………

 

 

「その中にある系統「衣装」を持つカード1枚につき相手のスピリット1体をデッキの下に戻しちゃいま〜〜す!!」

「!?」

「私の手札は3枚中3枚が系統「衣装」を持つカード………よってバルバトス第1形態、第4形態、鉄華団モビルワーカーの全てをデッキの下へ!!……バイバーイ!!」

 

 

どこからともなく3つの斧を取り出した大空あかり。それを順番よく鉄華団のスピリット達に向かって投擲。

 

3体のスピリット達は、機械なのに目を丸くして困惑しながらも、それをモロに受け、たちまち爆散していった。

 

 

「ッ……さっきから攻撃方法ヤバすぎだろ」

「これであなたのスピリットは0、対する私のスピリットは3体、そしてあなたのライフも3………これで決まりね、アタックステップ!!」

 

 

その華奢な女の子が繰り出すとは思えない攻撃方法に戸惑うのはスピリットだけではなく、オーカミも同じ。

 

だが冷静さは失わないか、このタイミングで発揮できる効果を発揮させて行く…………

 

 

「互いのアタックステップ開始時………オルガの【神技】を使用」

「!!」

「コアを4つ払い、トラッシュから鉄華団スピリットをノーコストで召喚する………轟音打ち鳴らし、過去を焼き切れ!!……ガンダム・グシオンリベイクをLV2で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイク】LV2(3)BP9000

 

 

全滅したオーカミの場に新たに巨漢のモビルスピリットが出現。その名はガンダム・グシオンリベイク、鉄華団デッキの守護神だ。

 

 

「召喚時効果、相手フィールドのコア2つをリザーブに置く……よって、大地ののと新条ひなきのコアを1つずつ外し、消滅させる!!」

「ッ……このタイミングで除去効果」

 

 

ー【[シルキーラブデビルコーデ]大地のの】(1➡︎0)消滅

 

ー【[マーガレットプリズムコーデ]新条ひなき】(1➡︎0)消滅

 

 

グシオンリベイクが武器であるハルバードを横一線に振るう。それから生まれた斬撃の衝撃波が大地ののと新条ひなきの2体を消滅させる。

 

もちろん、衝撃波との衝突は全て突然展開された謎バリアが防いだ。グシオンリベイクに向かって「バイバーイ」と言いながら帰って行く彼女らに、グシオンリベイクは僅かながらに頬を赤く染める。

 

 

「これでスピリットは1体ずつだ」

「やるね、流石は界放リーグの準優勝者………でもこれだけで私の可愛いアイカツスピリット達を止められると思ったら大間違い」

「!!」

「アタックステップは続行、行きます、エースカード大空あかりちゃんでアタック!!………その効果【フィーバーアピール】を発揮!!」

「ッ……またその効果か」

 

 

ソウルコアをトラッシュに置く事で発揮できる【フィーバーアピール】………

 

唯一場に残ったアイカツスピリット、大空あかりもまたその効果を使える存在であった。

 

 

「その効果により、あかりちゃんは回復し、次の私のスタートステップまで黄のシンボルを1つ追加、さらに相手の効果を受けない!!」

「マ、マジか……効果多過ぎだろ」

 

 

大空あかりが発揮した効果は『回復』と『シンボルの追加』『完全耐性』…………

 

バトルスピリッツと言うゲームにおいて、強い効果がこれでもかと敷き詰まっている。

 

 

「最初の攻撃はライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎1〉鉄華オーカミ

 

 

大空あかりは、大地ののや白樺リサ同様、ライダースピリット顔負けのライダーキックを披露し、鉄華オーカミのライフバリアを一気に2つも破壊する。

 

 

「回復につきもう一度アタック!!」

「くっ………グシオンリベイク、ブロック頼む」

 

 

二度目のアタックは堪らずグシオンリベイクでブロック宣言する。グシオンリベイクにはアタックブロック時に疲労状態の相手スピリット1体を破壊する効果があるが、大空あかりの完全耐性の力により、それは無効化。

 

 

「あかりちゃん、やっちゃえぇぇ!!」

 

 

青葉アカリがそう叫ぶと、それに合わせるように、大空あかりは何故かロケットバズーカを構え、放つ。

 

グシオンリベイクは戸惑いながらそれに直撃、爆散。あっさり敗北してしまった。

 

 

「コイツら、何でもありかよ」

「うんうん、それもアイカツスピリットだよね!!……ターンエンド」

手札:3

場:【[ホワイトスカイヴェールコーデ]大空あかり】LV2

バースト:【無】

 

 

好き放題暴れ回ったアイカツスピリット達の攻撃はこれで終わり、再びオーカミへとターンが回って来た。彼は増えたコアを巧みに使い、怒涛の大反撃を始める。

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ!!……このターンで決める、モビルワーカー2体を連続召喚」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

本日2、3体目となるモビルワーカー。それらの召喚直後に、オーカミは手札のカードをさらに1枚抜き取った。

 

 

「そして、4を超えた先で、未来を掴め!!……バルバトス第6形態をLV3で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]】LV3(4)BP12000

 

 

オーカミのフィールドに現れる最強のバルバトス、第6形態。重厚感のある白き重装甲が会場のスポットライトに照らされる。

 

 

「アタックステップ!!……鉄華団モビルワーカーでアタック!!……オルガの【神域】でデッキから3枚破棄して1枚ドロー……さらにこのターン、アンタはオレのアタックステップを止められない」

「………ライフで受けます」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉青葉アカリ

 

 

「もう1体のモビルワーカーでアタック!!」

「それもライフ!!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉青葉アカリ

 

 

2体のモビルワーカーが走り出し、体当たりで青葉アカリのライフバリアを1つずつ粉砕して行く。

 

これで彼女の残りライフは2つ、満を辞してバルバトス第6形態が動き出す。

 

 

「バルバトス第6形態でアタック!!……その効果で一度だけ回復」

「えぇ、そんな効果あるの!?」

 

 

緑の眼光を強く輝かせ、レンチメイスを構えるバルバトス第6形態。その効果は大空あかりと同じく1ターンに二度の戦闘を可能にする回復効果。

 

 

「あ、アタックはライフで受けるよ」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉青葉アカリ

 

 

「ラストアタックだ、バルバトスッ!!」

「………あちゃ〜〜ここまでだったか……でも最後まで笑顔は忘れない!!………ライフで受ける!!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉青葉アカリ

 

 

バルバトス第6形態による怒涛の二連続攻撃。それにより青葉アカリのライフバリアは全て粉砕。

 

よってこのバトル、勝ったのは鉄華オーカミだ。はじめてのアイカツスピリットに翻弄されながらも、見事に勝利して見せた。

 

 

「見事、私に勝利したオーカミ君に盛大な拍手を!!」

 

 

青葉アカリがそう言うと、会場は彼らに向かって盛大な拍手を送った。中には敬意を込め過ぎてスタンディングオベーションまでしている者もいる。

 

 

「ありがとう。良いバトルだったね」

「あぁ、こちらこそ」

「バトルに勝ったオーカミ君には、こちらの私のグッズセットをプレゼント致します!!」

「え?」

 

 

どこからともなく並び出す青葉アカリのグッズセット。彼女が映っている抱き枕や目覚まし時計、クッション、さらにはファン専用のペンライトなど、それらは豊満な種類を備えていた。

 

どれもファンなら喉から手が出る程欲してしまうものだ。ただ別にアイドルに興味があるわけではないオーカミは微妙そうな顔をする。

 

 

「それじゃあ次は新曲を披露ですね!!……オーカミ君もなんか歌う?」

「いや、いい」

 

 

この後、ライブは小一時間ほど続いた。新曲の披露等もあり、会場はバトルの時以上に大きな盛り上がりを見せ、ヒバナも大満足な様子であった。

 

途中で長い電話から戻って来たライも無事ライブを観ることができ、少なくとも3人にとってはかなり充実した1日となった事だろう…………

 

 

******

 

 

 

ライブ後、楽屋裏にて。

 

スポンサーやディレクターに一通り挨拶を終えた超人気バトドル、青葉アカリは、1人ベンチで一息着くように腰を下ろした。

 

そして、懐からある1枚のカードを取り出し、うっとりと眺めながら、このような事を1人呟くのだった…………

 

 

「………アレが、Dr.Aの言ってた鉄華オーカミ君か。今度会ったらこのゼノンザードスピリット『アオバ』様で傷つける事ができるんだね…………あぁ、待ち遠しい」

 

 

その手に持つカードの名は『「双龍頭領」アオバ』…………

 

おそらく、Dr.Aが裏で密かに呟いていたゼノンザードスピリットの1体で先ず間違いないだろう。つまり、彼女はそちら側の人間。

 

いつか必ず、本当の牙を剥ける事だろう…………

 

 

 

******

 

 

時は夕暮れ。

 

青葉アカリの正体などつゆ知らず、鉄華オーカミはヒバナ、ライと別れ、1人帰路に着いていた。少し2人に分けたとは言え、その両手にはバトルの景品である、大量の青葉アカリグッズが握られている…………

 

 

「………色んな奴がバトスピやってんだな。これだから、バトスピはオレを飽きさせてくれない」

 

 

今日のバトルを思い返しながらそう呟いた。界放リーグで負けた悔しさも、今回の一件でどうやら晴れたらしい。

 

そして、彼は住まいであるマンションに辿り着くのだが…………

 

 

「ん?……鍵開いてる」

 

 

珍しく家の鍵が開いていた。オーカミは何の疑いもなく扉を開け、入室する。

 

 

「おかえり、オーカ」

「姉ちゃん。今日は早いんだな、珍しい」

「はは、そりゃそう言う日もあるよ」

 

 

オーカミの姉であり、現役のモデル、鉄華ヒメがそこにいた。まるでオーカミの帰りを待っていたかのように、玄関で…………

 

 

「てか、それ何持ってるの?」

「あぁ、なんかアイドルグッズだって、いっぱい貰ったから、クッションとか、使えそうな奴だけ持って帰って来た」

「そう」

「?」

 

 

何やら不思議な感じだ。気まずいと言うか、不穏な空気と言うか…………

 

オーカミがそんな事を感じ取っていると、ヒメは突然打ち明けた。

 

 

「単刀直入に言うわオーカ…………バトスピを、やめて欲しい」

「………え?」

 

 

切羽詰まったような姉の表情を見るに、どうやら本気らしい。

 

バトスピをはじめて早3ヶ月。鉄華オーカミにとって、ある意味最大の障壁とも呼べる試練が幕を開けた…………

 

 

 

 




次回、第27ターン「黒い鎧のデジタルスピリット」

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