バトルスピリッツ 王者の鉄華   作:バナナ 

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第28ターン「デスティニーVS赤いエヴァンゲリオン」

辺り一面が黒く染まった謎の空間。

 

ここに立つ獅堂レオンにも、ここがどこだがわからない。だが関係のない事だ。彼にとっては、鉄華オーカミと、そのエース、バルバトスを倒すことさえできれば、それでいいのだから………

 

 

「オマエの甘いバトルスピリッツではオレを倒せないと、ここで証明してやるぞ………鉄華!!」

「…………」

 

 

レオンと相対するのは当然鉄華オーカミ。彼は無言でレオンとのバトルを承諾するかのように、Bパッドを展開し、カードをセット。バルバトス第4形態を召喚した。

 

 

「そう来なくてはな………行くぞ、デスティニー!!」

 

 

レオンも負けじと、自分の魂とも呼べるエーススピリット、デスティニーガンダムを召喚。オーカミのバルバトスとの戦いの火蓋が切って落とされる。

 

バルバトスでは到達する事のできない高さで飛行するデスティニーは、その利を活かし、長大な機関銃を、地に足をつけるバルバトスへ向けて何度も掃射する。

 

 

「いいか鉄華、バトルとは楽しむ者が勝つのではない!!……勝つ者が楽しいモノなのだ!!……そして、オレはこれからもオマエに勝ち続ける、絶対王者として!!」

 

 

バルバトスは黒々とした鈍器、メイスを盾代わりにそれを凌ぐが、それでも微かな隙間を通り抜けて弾丸は命中し、少しずつその装甲に穴が空いていく。早くも防戦一方となった対決に、オーカミは…………

 

 

「おいバルバトス………いつまでソイツに手こずってる………早く、倒せよ………!!」

「ッ………オマエ、その赤い目は………あの時の」

 

 

バルバトスに対し、激昂とも鼓舞とも呼べる言葉を投げ掛けると、オーカミのその瞳は赤く光り出し、薄らと鉄華団の赤い花のマークが刻まれる。そしてバルバトスもまた、それに応えるように機眼を緑から血のような赤へと変色させ、その内に眠る力を全て解放した…………

 

誰が見ても不可思議だと言えるこの現象。ただ、あの界放リーグ決勝戦を彼と争ったレオンならば知っている。その力も、その先に何が起こるのかも…………

 

 

「くっ……怯むなデスティニー!!……奴を、奴を蹴散らせ!!」

 

 

オーカミの中に宿る不思議な力を思い出し、怯えるレオン。早くバルバトスを倒すように指示を出す。それを受け、デスティニーは再び機関銃を手に取り掃射するが、バルバトスは目では追えないような速度で地上を駆け抜け、それら全てを回避する。

 

レオンはそのモビルスピリットらしからぬ、獣じみた動きに困惑する。

 

 

「な、なんだその動きは………!?」

 

 

途端、上空から鉄がぶつかり合う豪快な金属音が聞こえて来た。レオンがふと見上げると、そこにはバルバトスのメイスが胸部に突き刺さったデスティニーの姿が。

 

バルバトスが投擲したのだろう。そして隙を突き、バルバトスは上空にいるデスティニーの背中へ飛び乗ると、その機翼を両手で引きちぎる。飛行能力を失ったデスティニーはそのまま撃墜、地面へと落下、大爆発を起こす…………

 

獅堂レオンのデスティニーガンダムの完全敗北だ。このバトル、最早勝者は鉄華オーカミとバルバトスも同然…………

 

爆発による爆炎と爆煙の中、バルバトスは次の標的として、レオンを視界に捉えて…………

 

 

「ば、馬鹿な………何故負ける。このオレが、貴様なんぞに………!!」

「そりゃそうでしょ」

「!!」

「ただ芽座葉月の真似事がしたいだけの奴に、オレとバルバトスが負けるかよ」

「なん………だとォォォ!!!」

「やれ、バルバトス」

 

 

彼の無慈悲な宣言。バルバトスは再び手に取ったメイスを振り翳し…………

 

 

「それのなにが悪い!!……強い者に憧れて、何が悪い!!………貴様に、オレの何がわかる!!!!!」

 

 

それを、叫ぶ彼に向けて振り下ろした。

 

 

******

 

 

 

「ッ………!!」

 

 

横たわっている場所は、自室のベッドの上。雀が囀り合う音が耳に入り、差し込んでくる朝日が眩しい。

 

エアコンの効いた部屋で、レオンは1人目覚めた。

 

 

「夢………か」

 

 

レオンは寝癖で捻じ曲がった髪を頭ごと掻きながら、さっきまでの出来事が全て自分の見ていた夢である事を自覚する。今思えば、鉄華オーカミが自分の師匠の名前など、知っているわけがない。

 

そんなわけが、ないのだが…………

 

 

………『ただ芽座葉月の真似事がしたいだけの奴に、オレとバルバトスが負けるかよ』

 

 

「くっ………目覚めの悪い朝だ」

 

 

オーカミに言われたその言葉が頭を離れない。ふとする度に、頭の中を針で刺されたような感覚や苛立ちが彼を襲い続ける。

 

師匠、芽座葉月は死した後も確かに自分の憧れだ。圧倒的な強者に惹かれ魅力され、影響され、今の自分がいる。当然そうなりたいと言う自分もいるだろう、理解している。

 

だが、そのせいで勝てないと言われるのは、不服以外の何モノでもない…………

 

 

「…………はよーーー」

「あ、坊ちゃん、おはようございます」

 

 

早々にキッチンに行くと、そこにはメガネと長い青髪が特徴的な女性、同居人である「ティア」がいる。エプロンを着ている事から、おそらく今日の飯当番は彼女なのだろう…………

 

 

「レオン!!……夏休みだからってダラダラし過ぎじゃねぇか!?……よし、今日はアタシ様と一緒にROUND1でも行くか!!」

「行かねぇよ、バカかテメェは」

「誰がバカだ!!……バカって言う方がバカなんだぞ!?」

「やめなさいよルージュ、大人気ない」

「ちぇ、昔はしょっちゅう行ってたのになぁ」

 

 

ティアに宥められている、頭の悪そうな赤い短髪の女性「ルージュ」………

 

レオンと共に暮らしている2人目の同居人だ。

 

 

「坊ちゃん。朝食はできてますよ、早く食べてくださいね」

「………なぁティア、いい加減坊ちゃん呼びはやめてくれ。もうそんな年齢じゃない」

「何言ってんですか〜〜……坊ちゃんはいつまで経っても坊ちゃんですよ」

「………」

 

 

まぁいいや。そう思って取り敢えずテーブル前に腰掛ける。そこには何とも美味しそうな目玉焼きと、チーズがオンした食パンが置かれている。

 

ティアが飯当番の日は当たりだ。対してルージュの日はハズレだ。全て丸焦げにするから、何も美味しくない。

 

 

「………おや、やっと起きて来ましたか。おはようございます、坊っちゃま」

「おう、スイート。今日も早いのな」

「仕事ですから」

 

 

部屋に入って来たのはスーツを着た、金髪のセミロングの女性。彼女は3人目の同居人の「スイート・サンダーボルト」だ。獅堂レオンはこの血筋も顔もバラバラの3人の若い女性達と共に暮らしている。

 

 

「そう言えば聞いてくださいスイート。ルージュったら、またバイトの面接落ちたって」

「おい、それ言うなよティア!!……恥じいだろが!!」

 

 

3人の中では姉のような存在のスイートに、ティアが告発。言われたくなかったのか、ルージュが少し赤面しながら声を荒げる。

 

 

「はぁ、ルージュ。私たち3人の中で、働けてないのは貴女だけですよ?」

「うっせぇ、このアタシ様に合う職場がねぇんだ。恨むならこの界放市を恨むんだな」

「別に恨んでなんていませんよ。貴女も今年で18なのですから、社会の経験は今のうちに積んでおきなさいと言ってるのです」

「そうそう。どこでも良いからさっさと入っときなさいよ」

 

 

ルージュは3人の中でも1番知性がなく、1番気性が荒く、1番子供っぽい上に、1番プライドが高い。真面目なティア。学のあるスイートと違って、多分働くと言う行いそのものが向かないのだろう。

 

と言うのが3人と共に暮らして来たレオンの考え。

 

 

「ったくなんだよ2人して仕事だの社会経験だのって!!……わぁったよ、仕事探せば良いんだろ、探せば!!」

「あ、ちょっとルージュ…………行っちゃった」

「Bパッドで検索もせずに、歩いて仕事を探す気なのか…………はぁ、これは先が思いやられるな」

 

 

ルージュは仕事をするしないの以前の問題かも知れない。

 

と、レオンは1人、食パンを口にしながら、朝で回らない頭をフルに活かし、考えた。

 

 

「あ、そうそう。坊ちゃん!!」

「あぁ?……何」

「今日お遣いお願いね!!」

「……………は?」

 

 

急にニッコニコの笑顔で何を言い出すのかと思えば、ティアはいきなりテーブルに買い物カゴを置き、レオンにお遣いの要求をして来た。

 

界放リーグを三連覇した少年も、この場ではただの子供なのだ。

 

 

「買い物リストはカゴの中に入ってるから、よろしくね」

「おい、勝手に話を進めんな。誰が買い物なんぞ…………」

「ルージュみたいな事言わないの。今日はスイートも私も仕事だし、ルージュもあんな調子だから、ね?」

「ぬぅ………」

「うんうん。そうだぞ坊っちゃま、偶には家族に貢献しなさい」

「…………ぬうっ………」

 

 

日頃から、コイツらには世話になっている。そう思うと、レオンはティアからのお願いが妙に断り辛くて…………

 

 

******

 

 

「………で、結局パシリに遣わされたと。何やってんだオレは………」

 

 

結局断る事はなく、レオンは買い物カゴを片手に、品揃え満点、安いでお馴染みの駅前スーパーに来た。

 

いくら身長が彼女らを超えても、立場までは超えられないと言う事だろう。

 

 

「まぁいい。サクッと終わらせて、サクッと帰ってやる…………先ずは大根か」

 

 

そう言って野菜コーナーへと足を運び、そこの大根がある方へと目をやる。

 

そして、1本だけ残っているそれへと手を伸ばすが…………

 

 

「………あぁ?」

「………むぅ?」

 

 

自分とは違う、もう1人、肩まで掛かった黄色味のある白髪の少女の手が、そこへと伸びているのを確認する。

 

その少女は、春神ライだ。

 

 

「………これ、私が先にとったわよね?」

 

 

ライがレオンにそう告げた。

 

 

「フ……な訳ないだろ。どう考えても、この大根はオレの物だ」

「なにぃ!?……いいからその手どかしなさいよ」

「指図するな、モブめ」

「誰がモブよ!!!………って、アレ。アンタどっかで………」

 

 

口論になり、周囲から痛々しい目が向けられていく中で、ライはレオンがどこかで見覚えのある人物である事に気がつく。

 

そんな折、彼女の親友、夏恋フウがご機嫌な様子で、現場に到着する。

 

 

「ライちゃ〜ん。鍋キューブあったよ〜〜……3割引だって、すごくない??」

「あ、フウちゃん」

「またモブが増えたか」

「ん………え、えぇぇ!?!……獅堂レオン!?!……何でぇ!?!」

 

 

その顔を完全に把握しているフウは、ライと言い争っている人物に驚く。あの世界的にも有名な界放市の界放リーグで三連覇をした少年なのだ、どちらかと言えば、彼女の反応の方が、ライよりも普通である。

 

『獅堂レオン』の名を聞いたライも、ようやくそこで目の前にいるのがその本人である事に気がつく。

 

 

「あ、そっか。獅堂レオン………界放リーグで優勝した奴か」

「ッ………オレは、界放リーグで優勝してなどいない!!」

「?」

 

 

ライの何気ない一言に反応し、突然激昂するレオン。その強い圧に、フウは恐怖と共に、周りの空気が一気に硬直したのを感じた。

 

それを一番間近で受けているはずのライは、何故か平気そうな顔をしているが………

 

 

「………なんか知らないけど、悪かったわね。そうだ、この大根賭けて、私とバトルしない?」

「なに?」

「私、ちょっと家の事情があって界放リーグに出れなかったからさ〜〜あの赤チビと良い勝負したアンタとは、一度バトルしてみたいって思ってたんだよね」

 

 

ライの言う「赤チビ」とは、鉄華オーカミの事。レオンはそれにいち早く気がつく。

 

 

「貴様、鉄華を知ってるのか?」

「まぁね」

「………いいだろう。丁度憂さ晴らしがしたかった所だ………相手になってやるぞ、モブ女1号」

「誰がモブ女1号よ!?!」

「………アレ、ひょっとして私はモブ女2号って事!?……キャーーー獅堂レオンさんに渾名つけてもらえた!!」

「わぁ、フウちゃんってば物好き………」

 

 

別に呼ばれてもない渾名で感動するフウ。彼女はバトルが下手と言うか全くできないので、レオンのような強いカードバトラーと絡めただけで光栄だと思っているのだろう。

 

何にせよ、ライからの挑戦状は承諾だ。3人は大根を割り勘で購入したのち、スーパー前にある広場へと足を運んで…………

 

 

******

 

 

駅前のスーパー付近にある公共の広場。公園と呼ぶには遊具やベンチなどはなく、非常に見窄らしい。

 

上を見上げれば電車が走っている橋が見える。偶に電車が走行する音が聞こえて来て喧しい。いいところの全くない広場だが、唯一のいいところは、広すぎてバトルするにはもってこいのスペースであると言う事だ。

 

今、そんな場所で、獅堂レオンと春神ライは対峙している。

 

 

「頑張って、ライちゃ〜ん!!……ぶっちゃけ負けても別のスーパーで大根買えばいいと思うけど頑張って〜!!」

「えぇ、フウちゃんちょっとキツくない??」

 

 

夏恋フウは単純に応援しているのか、心の奥底では面倒臭いと思っているのかわからない発言をする。その手には先程購入した大根が握られている。

 

 

「フン……大根ごと叩き潰してくれる」

「いや、大根潰したらダメでしょ。アンタ欲しくないの??………まぁいいわ、私の名前は春神ライ。そんじゃ、始めるわよ」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

Bパッドを展開し、いつものコールで獅堂レオンと春神ライによるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はレオン。

 

 

[ターン01]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………創界神ネクサス、ギルバート・デュランダルを配置」

 

 

ー【ギルバート・デュランダル】LV1

 

 

「………こっちのスピリットを強制的にLV1にする奴か」

「配置時の神託により、コアを1つ追加する」

 

 

レオンが早々に配置したのは、彼のデッキの創界神ネクサス。フィールドには何も出現しないが、ライはその内に秘める強力な効果を想起させる。

 

 

「ターンエンド。貴様の番だ」

手札:4

場:【ギルバート・デュランダル】LV1(1)

バースト:【無】

 

 

レオンの第1ターン目が終了し、ライのターンへと移り変わる。

 

 

[ターン02]春神ライ

 

 

「メインステップ………そうだな、じゃあ母艦ネクサス、AAAヴンダーをLV1で配置」

「ッ……母艦ネクサス」

 

 

ー【AAAヴンダー】LV1

 

 

ライの背後に出現するのは、機翼を持つ巨大な飛行船。

 

通常『母艦ネクサス』とは、世界三大スピリットの1つである「モビルスピリット」をサポートするネクサスの事を指すが…………

 

 

「……貴様もモビルスピリット使いか?」

「ふふ……それはどうかな?………さらに私は、ミラージュとして、ドラゴンズミラージュをセット!!」

 

 

ライのフィールドの、バーストゾーンに当たる場所に、赤いドラゴンの紋章が出現する。

 

『ミラージュ』とは、バーストゾーンに指定されたコストを支払い、表向きでセットする事ができるカード。セットさえできればそのカードの【セット中】の効果を発揮できるようになる。

 

 

「ミラージュか。珍しいカードを使うな」

「………まぁ、こんなもんか。ターンエンド」

手札:3

場:【AAAヴンダー】LV1

バースト:【無】

ミラージュ:【ドラゴンズミラージュ】

 

 

ミラージュはセットしたものの、それ以外のアクションはせず、ライは一度ターンをエンドとする。

 

 

[ターン03]獅堂レオン

 

 

「メインステップ……ザクウォーリア2体を連続召喚」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

 

「対象スピリット2体の召喚により、ギルバートにコアプラス2」

 

 

レオンのフィールドに現れたのは、緑色の装甲を持つ、小型のモビルスピリット、ザクウォーリア。彼のデッキの歩兵のような存在である。

 

 

「アタックステップ……は、何もしない。だがギルバートの【神技】を発揮、オレはもう一度ドローステップを行い、ドロー!!……ターンエンドだ」

手札:4

場:【ザクウォーリア】LV1

【ザクウォーリア】LV1

【ギルバート・デュランダル】LV1

バースト:【無】

 

 

『ギルバート・デュランダル』の、自身のコア3つをコストに、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップをもう一度行えると言う効果を使用するレオン。

 

ドローステップで手札を増やし、アタックは無し。このターンをエンドとした。互いにバトルのないまま、バトルは第4ターン目へと進む。

 

 

[ターン04]春神ライ

 

 

「メインステップ……それじゃあ、いっちょ動いてみますか!」

「………」

「先ずはロケッドラを召喚………そして、宙征竜エスパシオンをLV2で召喚!!」

 

 

ー【ロケッドラ】LV1(1)BP1000

 

ー【宙征竜エスパシオン】LV2(2S)BP7000

 

 

「エスパシオン………見慣れないカードだ」

 

 

ライが動き出す。背中に小型のロケットを背負った小型のドラゴン、ロケッドラと、雷雲落雷と共に、サイボーグドラゴン、エスパシオンが場へと出現した。

 

 

「エスパシオンの召喚アタック時効果。相手のBP7000以下のスピリット1体を破壊し、自分のミラージュがあれば、そのスピリット効果は発揮されない」

「なに……?」

「ザクウォーリア1体を破壊!!……ミラージュにドラゴンズミラージュがあるため、その効果は無効!!」

 

 

エスパシオンは登場するなり、口内から電撃弾を放つ。ザクウォーリア1体はそれに被弾し、大爆発を起こす。

 

本来であれば、ザクウォーリアは破壊時にボイドからコア1つを増やし、自身をトラッシュではなく、手元に置くと言う強力な効果を発揮するのだが、エスパシオンによって今回それは無効となった。

 

 

「そしてこの瞬間、ロケッドラの効果。自分のターン中、相手のスピリット、ネクサスを破壊した時、デッキから1枚ドローする。さらにAAAヴンダーの効果、1ターンに一度、相手のスピリット、ネクサスを破壊した時、同じくデッキから1枚ドローする。よって、私は計2枚のカードをドロー!!」

「ッ………こっちの破壊に反応し、ドローする効果」

 

 

ライの使用する『ロケッドラ』と『AAAヴンダー』は、いずれも相手のカードを破壊した時に、ドローを行うという代物。今回はエスパシオンでの破壊がトリガーとなり、彼女に2枚の手札をもたらす。

 

そして、これはまだ序の口、終わりではない。

 

 

「まだ終わらないわ!!……アタックステップ、その開始時にエスパシオンのLV2、3の効果を発揮。トラッシュにあるコアを5個まで機竜スピリットかネクサスに置く。私はトラッシュにある3つのコアの内2つをロケッドラに、1つをAAAヴンダーに追加。それぞれLV2にアップ!!」

「………」

「この時、私の手札が4枚以下の時、追加で2枚のカードをドローできる!!………今の私の手札は丁度4枚、また2枚ドローさせてもらうわ」

 

 

トラッシュのコアを回収しつつ、手札まで補強すると言う、至り尽せりな効果を発揮するエスパシオン。さっきまで2枚しかなかったライの手札が、今では6枚にまで回復した。

 

 

「アタックステップ続行!!……エスパシオンでアタック、もう一度その効果を発揮し、残ったザクウォーリアを破壊!!」

「くっ……」

「その破壊時効果は当然発揮されない。ロケッドラの効果で1枚ドロー」

 

 

二発目の電撃弾を放つエスパシオン。それは残りのザクウォーリアへと命中、瞬時に爆散させる。これでレオンの場に残ったのは、創界神ネクサスのギルバート・デュランダルのみとなるが………

 

 

「さらにフラッシュ。ドラゴンズミラージュのセット中効果。手札からコスト4以上の機竜カードを破棄する事で、相手のネクサス、創界神ネクサス1つを破壊し、その効果を発揮させない」

「!?」

「2枚目のエスパシオンを破棄して、ギルバート・デュランダルを破壊する」

 

 

止まらないライの破壊とドローの嵐。レオンのBパッド上に置かれている、ギルバート・デュランダルのカードが謎の浮力で浮かび上がり、トラッシュへと移動。

 

これで彼の場は真の意味で全滅、振り出しへ戻されてしまって………

 

 

「ロケッドラの効果でドロー……エスパシオンのアタックは継続中!!」

「………ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉獅堂レオン

 

 

レオンの元へ急接近するエスパシオン。電撃を纏った鋭利な爪の攻撃で、それを1つ引き裂いた。

 

 

「ロケッドラでアタック!!」

「………それもライフだ」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉獅堂レオン

 

 

背中のロケットの逆噴射を利用して突撃するロケッドラ。所謂ロケット頭突きで、そのライフバリア1つを砕いた。

 

 

「………まぁこんなもんか、ターンエンド」

手札:7

場:【宙征竜エスパシオン】LV2

【ロケッドラ】LV2

【AAAヴンダー】LV2

バースト:【無】

ミラージュ:【ドラゴンズミラージュ】

 

 

…………『この女、モブだと思っていたが………強い、何者だ』

 

 

レオンの場のカードを全滅させつつ、自分はスピリットの展開とドローまで一度のターンにこなしたライ。その卓越された技術を目の当たりにしたレオンは、初めてライが普通のカードバトラーではない事を認識して…………

 

 

「凄いライちゃん!!……あの獅堂レオンに善戦してるよ!!」

「ブイ。そりゃもちろんよフウちゃん。私は天才だからね〜」

「………オレのターンだ」

 

 

お調子者のライは、応援してくれるフウにブイの字のサインを送る。レオンはそんなライを警戒しつつ、ターンを開始した。

 

 

[ターン05]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………」

「どう?……カードを出したくても、軽減シンボルが場にないから、出しづらいんじゃない?」

 

 

バトルスピリッツと言うゲームの定石は、場にスピリットやネクサスを出し、軽減シンボルを確保、その後にエース級のスピリットを召喚すると言うケースが殆ど。獅堂レオンも例に溺れず、その定石に基づいてプレイしている。

 

故に、前のターンにカードを全滅させられた事によって、彼は今、かなり苦しい状況に立たされているのだ。

 

だが、彼は仮にも界放市のジュニア最強。既にそこら辺のプロよりも強いと言われる腕前、劣勢時の切り替えや起点の速さは他の群を抜いていて………

 

 

「……この程度、どうと言う事はない。全滅させられたなら、また立て直すだけだ………母艦ネクサス、ミネルバをLV2で配置」

 

 

ー【ミネルバ】LV2

 

 

「配置時効果、デッキから3枚オープンし、その中にある対象カード1枚を手札に加える………」

 

 

彼の背後に配置される白銀の母艦ネクサス、ミネルバ。その配置時効果でレオンのデッキから3枚のカードがオープンされるが、彼はそれを目に入れるなり、口角を上げて………

 

 

「フ……オレはこのカード、我が魂デスティニーガンダムを手札へ加え、残りをデッキの下に戻す」

「おぉ、デスティニーか」

 

 

レオンの絶対的なエースカード、デスティニーガンダムのカードがその手へと渡る。

 

それにより、今度は一転してライの方が難しい状況になるが、彼女の表情は依然として涼しいままだ。

 

 

「もう1枚ミネルバを、LV2で配置………配置時効果でコアスプレンダーを手札へ、ターンエンドだ」

手札:5

場:【ミネルバ】LV2

【ミネルバ】LV2

バースト:【無】

 

 

「へぇ、頑張るじゃん」

「フ………このオレに対して上から目線のそのデカい態度、ムカつくな。だが、ミネルバには【弾幕:コスト4以下】の効果がある。もうドラゴンズミラージュで貴様の好きなようにはできんぞ」

「…………」

 

 

母艦ネクサス特有の効果【弾幕】…………

 

これにより指定されたコスト以下のカード効果を受け付けないのだが、それにより、ライのドラゴンズミラージュも、実質的に効力を失う事となる。

 

 

「まぁ、だからなんだって話よね………私のターン」

 

 

己の才能を見せつけるべく、ライは巡って来たそのターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン06]春神ライ

 

 

「メインステップ………2体目のロケッドラをLV1で召喚」

 

 

ー【ロケッドラ】LV1(1)BP1000

 

 

ライの場に、2体目のロケッドラが召喚される。2体目のロケッドラは、登場するなり、1体目のロケッドラと囀り合うように甲高い鳴き声で吠える。

 

 

「アタックステップ!!……アンタの残りライフは3。このまま一気に決めるわよ、エスパシオン!!」

「!!」

 

 

短いメインステップを終え、アタックステップへと突入。エスパシオンが咆哮を張り上げながら、低空飛行で地を翔ける。

 

2体のロケッドラと合わせ、フルアタックが通ればその時点でライの勝利となる。が、ここで粘れなければ絶対王者ではない。

 

 

「甘い、フラッシュ!!……ミネルバのLV2効果」

「!!」

「1ターンに一度、2コストを支払う事で、相手のコスト6以下のスピリット1体か、コスト3以下のスピリット全てを手札に戻す!!……今回は後者だ、ロケッドラ2体を貴様の手札へ!!」

「………」

 

 

母艦ミネルバに備え付けられる銃火器がライの場に火を吹く。ロケッドラ2体はそれに吹き飛ばされ、たちまち粒子化。彼女の手札へと戻ってしまう。

 

 

「………だけど、エスパシオンのアタックは継続だ」

「それはライフだ」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉獅堂レオン

 

 

エスパシオンは、再び電撃纏った爪の一撃で、レオンのライフバリアを切り裂く。

 

これで彼の残りライフは僅か2。無傷の5を維持するライとは、かなりの差がついてしまったと言える。

 

 

「やるじゃん。その効果は界放リーグでは使ってなかったから、わからなかったよ」

「…………」

「ターンエンドだ」

手札:7

場:【宙征竜エスパシオン】LV2

【ロケッドラ】LV2

【ロケッドラ】LV1

【AAAヴンダー】LV2

バースト:【無】

ミラージュ:【ドラゴンズミラージュ】

 

 

動揺するそぶりは一切見せないものの、ミネルバの効果に一杯食わされたライ。致し方なくそのターンはエンドとする。

 

次は、既にあのカードを手札に加えているレオンのターン。逆襲を開始すべく、そのターンシークエンスを進めていく…………

 

 

[ターン07]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………時は満ちた。行くぞ、モブ女1号」

「…………」

 

 

そう告げ、レオンは手札にある1枚のカードを引き抜いた。

 

そのカードとは、彼と言うカードバトラーを知っているのであれば、誰もが想像できる物であり…………

 

 

「運命をも覆す、我が魂!!………デスティニーガンダム、LV2で召喚!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム】LV2(2)BP15000

 

 

暗雲、落雷と共に現れたのは、獅堂レオンの絶対的エーススピリット、白き装甲、黒と赤の機翼を持つ天下無双のモビルスピリット、デスティニーガンダム。

 

 

「おぉ、デスティニーガンダム!!……間近で見ると、よりカッコいいなぁ」

 

 

そう声を荒げたのは、バトルをしている2人ではなく、賭けられている大根を手にしている、夏恋フウだ。忘れずにBパッドでしっかり写メも撮っていく。

 

 

「はは、フウちゃんってば………マイペースだなぁ」

「よそ見してる場合じゃないぞ………アタックステップだ」

「!!」

「出撃せよ、デスティニー!!」

 

 

レオンの言葉に応じるように、デスティニーガンダムは機翼から紫の光を放出し、上空へと飛び上がる。

 

 

「デスティニーのアタック時効果、BP以下の相手スピリット1体を破壊し、そのシンボル分、相手ライフをボイドに置く」

「…………」

「対象は当然、エスパシオン!!」

 

 

背部にマウントしていた長大な機関銃から極太のレーザー砲を掃射するデスティニーガンダム。見事にエスパシオンの機械の肉体を貫き、爆散させた。

 

そして、その爆発による余波は、ライのライフバリアをも破壊して…………

 

 

「ッ………!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉春神ライ

 

 

「アタックは継続中!!」

「………それもライフだ」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉春神ライ

 

 

地上に降り立ち、ライの眼前へと現れるデスティニーガンダム。太腿にあたる部分から小型のナイフを取り出し、それをライのライフバリアへと突き刺して、1つ破壊した。

 

 

「フ………ターンエンド。貴様の召喚するスピリットなど、この我が魂デスティニーガンダムが全て打ちのめしてくれる」

手札:5

場:【デスティニーガンダム】LV2

【ミネルバ】LV2

【ミネルバ】LV1

バースト:【無】

 

 

…………『オレの手札には絶甲氷盾がある。デスティニーの回復効果、ミネルバのLV2効果と合わせ、次のターンを耐え抜き、必ず勝利する』

 

 

ターンを終えたレオンの目線の先には、己の手札、その中の1枚『絶甲氷盾〈R〉』が確認できる。おそらく、デスティニーガンダムの回復する効果を使用しても、まだライのライフを全て破壊できない事を見越しての選択なのだろう…………

 

普通のカードバトラーでは、この布陣を突破するのはおろか、デスティニーガンダムさえ倒す事などできないだろう。

 

だが…………

 

 

「ふふ………やっぱ、アンタはそのデスティニーガンダムに、絶対的な自信があんのね」

「………だからなんだ」

「いや、何でも。ただそれくらい強い奴とのバトルを望んでたから………『運命をも覆す』って言うなら、私がこれから見るであろう未来も、覆して見なさいよ」

「!?」

 

 

さぁ、ラストターンの時間です!!

 

 

「ッ………!?」

 

 

ライのいつもの決めゼリフ。勝利を確信、及び勝利の未来が見えた瞬間に、指パッチンと共に使う言葉だ。

 

そこら辺に転がっているカードバトラーであれば、その程度の言葉は、単なる煽りにしか聞こえない。

 

だが、獅堂レオンは違った。見えた、確かにその目が一瞬だけ赤く光るのが………それと同時に震え上がった、何せそれは、あの時、界放リーグの決勝で見た、鉄華オーカミのモノと酷似していたからだ。

 

 

「き、貴様は………いったい……!?」

 

 

[ターン08]春神ライ

 

 

「メインステップ………凄く強いアンタを評して、見せてあげるわ、私のエーススピリット……!!」

「!!」

 

 

ライはそう告げると、手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつける。

 

全ては一瞬だけ脳裏によぎった、勝利の未来に従って…………

 

 

「エヴァンゲリオン新2号機α・ヤマト作戦!!……LV1で召喚!!」

「!?」

 

 

ー【エヴァンゲリオン 正規実用型 新2号機α-ヤマト作戦-】LV1(1S)BP8000

 

 

「え、エヴァンゲリオン!?………そいつは、あの伝説と呼ばれるエヴァンゲリオンスピリットだと言うのか!?!」

「えぇ、そうらしいわね」

 

 

ライのフィールドに、豪快な落雷と共に飛来したのは、伝説のエヴァンゲリオンスピリットの1体、新2号機α・ヤマト作戦。

 

赤と深緑の上下アンバランスな装甲に加え、全身凶器とも呼ばる程の武装を内装、まさに攻撃的なバトルを得意とするライのエースらしいスピリットである。

 

 

「何故こんな奴が、そんな大層な物を………」

「さぁ行くわよ、新2号機α・ヤマト作戦!!……アタックステップ、アタック!!」

 

 

開始されるラストターンのアタック。この瞬間に、新2号機α・ヤマト作戦には、いくつか発揮できる効果があり…………

 

 

「新2号機α・ヤマト作戦のアタック時効果!!……トラッシュにある全てのコアを、このスピリットへ」

「なに、全て!?」

「これでLV3、BP16000までアップ!!」

 

 

ー【エヴァンゲリオン 正規実用型 新2号機α-ヤマト作戦-】(1S➡︎8S)LV1➡︎3

 

 

新2号機α・ヤマト作戦は、己の覇気を飛ばすと、召喚に使用した全てのコアを巻き上げ、自身の体内へ吸収。その強さは限界値を迎え、新たなる効果も獲得する…………

 

 

「LVアップにつき、LV2、3の効果も解放!!……BP20000まで、相手のスピリットを好きなだけ破壊する」

「!!」

「気づいた?……新2号機α・ヤマト作戦のコストは8。デスティニーガンダムの【VPSシフト装甲:コスト7以下】を突破できる」

 

 

美しいフォルムで、縦横無尽にフィールドを駆け抜ける新2号機α・ヤマト作戦。

 

高く跳び上がり、地上で戦闘に備えているデスティニーガンダムへ向けて短剣やクナイを次々と投げ、それの逃げ場をなくすと、巨大な電磁砲をそこに放射。デスティニーガンダムの強固な装甲を安易と貫き、爆発へと追い込んだ…………

 

 

「AAAヴンダーの効果で1枚ドロー………」

「くっ……馬鹿な、オレのデスティニーが負けるだと!?」

「アンタも今から負けるのよ。その後、手札2枚を破棄する事で、相手ライフ1つをリザーブに置く」

「なッ……ぐぉっ!?!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉獅堂レオン

 

 

デスティニーガンダム撃破後、新2号機α・ヤマト作戦は、余ったクナイを無駄のない動きでレオンのライフバリア1つを破壊する。

 

これで残りライフは1つ。新2号機α・ヤマト作戦がアタック中のため、今このタイミングで『絶甲氷盾〈R〉』の効果を発揮しても意味がない。

 

 

「これで絶甲氷盾は使えないでしょ?」

「ッ………貴様、それを知ってて………」

「トドメよ、新2号機α・ヤマト作戦!!」

「!!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉獅堂レオン

 

 

レオンにゆっくりと距離を詰めた、新2号機α・ヤマト作戦が、彼の最後のライフバリアを拳で砕いた。

 

ライフ0に伴い、彼のBパッドからは、敗北を告げるように「ピー……」と言う甲高い機械音が流れ出す。これにより、勝者は春神ライだ。見事、界放リーグを三連覇した少年を倒してみせた。

 

 

「………負けた。このオレが………また、赤い目の奴に」

「ん……まぁ、こんなもんか」

「凄いライちゃん!!……あの獅堂レオンさんに勝つなんて!!」

「わ、フウちゃん!?……距離近!!」

「凄すぎるよ〜〜!!」

 

 

勝利直後に、テンションのハイになったフウが、ライの方へと駆け寄る。ライは軽く彼女を制止させつつ、その手に握られた大根を見て、賭け事をしていた事を思い出す…………

 

 

「あ、大根忘れてた………ねぇ獅堂……って呼べばいいのかな??……私とフウちゃんだけじゃ、こんなデッカい大根食べきれないし、折角だからアンタにも半分………って、アレ??」

 

 

正直、大根は今回のバトルのキッカケ作りに過ぎなかった。折角だからと振り返ってみるが、そこにはもう獅堂レオンはいなくて…………

 

 

「どこ行ったのよ」

「あぁ!!……獅堂レオンからサイン貰うの忘れてた………」

「フウちゃんはマイペースだねぇ……」

 

 

ライは親友と何気ない平凡な会話を繰り広げるが、あのバトルで、獅堂レオンの心の傷を広げてしまった事を、理解していなくて…………

 

 

 

******

 

 

 

「ハァッ………ハァッ!!」

 

 

実質的に三度目の敗北を喫したレオンは、ジークフリード区の市街地をひたすらに走り込んでいた。悔しさと虚しさと無力感を、抑制したいからであろう。

 

ただ自分は弱くない。自分は無力ではないと、言い聞かせるために………

 

 

「何故だ………何故負ける、何なんだあの赤い目は!?………何故何故何故何故!!!………ッ」

 

 

………『貴方、オーカミ君が怖いんでしょう、恐ろしいんでしょう?』

 

 

「……違う!!」

 

 

界放リーグで早美アオイに言われた言葉をふと思い出す。レオンは唇を噛みながら、必死にそれを否定するが、彼女の言葉がまた脳裏に浮かぶ…………

 

 

………『貴方は悟ってしまったんです。あの力の前には敵わないと………本当は再戦がしたくて会場に立っていたんじゃない。なすすべなく敗北しかけた事による恐怖から足が動かなくなっただけなんですよ』

 

 

「黙れ!!」

 

 

脳内の早美アオイは黙るが、今度は鉄華オーカミの言葉が聞こえて来る。

 

 

………『ただ芽座葉月の真似事がしたいだけの奴に、オレとバルバトスが負けるかよ』

 

 

「黙れ黙れ黙れ!!……貴様らに何がわかる。何かしらの才能に恵まれた、貴様らなどに!!………ッ」

 

 

直後にもう1つだけ思い出した。界放リーグでの戦いを全て終えたあの時、早美アオイの、悪魔からの囁きを…………

 

 

………『………これは私の連絡先です。興味があったらそこに連絡をください………来れば必ず、Dr.Aが貴方を強くしてくれます』

 

 

「………Dr.A」

 

 

その名は誰もが知る悪魔の科学者。昔『芽座椎名』と言う英雄がそれを討ち倒し、今は死したと言うのが常識。だが、早美アオイは、それがまだ生きているのだと言う………

 

俄には信じられないが、レオンは藁にもすがる思いで、Bパッドで早美アオイに連絡を取り始めた。そしてその時、彼の心情を表すかのように、にわか雨が降り始める。

 

 

《はい、もしもし。早美です》

「早美アオイ………」

《………あらレオン君。ごきげんよう、何の用かしら?》

 

 

レオンは雨に打たれながら、濡れながらも、それを意に介さず、口を進める。

 

 

「………貴様なら、オレが何を言いたいか、もうわかってるんじゃないのか?」

《………そんなに欲しいですか、強さが?》

「欲しい」

 

 

即答だった。今までの負けが、余程応えたのだと言う事が、その一言でよくわかる。

 

 

「寄越せ。Dr.Aの力でも何でもいい………オレに、あの赤い目を使う奴らにも勝てる力を………寄越せ!!」

 

 

彼の言う『赤い目』とは、おそらく鉄華オーカミと春神ライの事を指しているのだろう…………

 

今、レオンは悔しさから『自分も同様の力さえあれば負けない」と言う一点の考えに凝り固まってしまっている。そして、その考え方は、早美アオイにも好都合で…………

 

 

《………いいでしょう。では今から言うポイントまで来てください。そこでお渡ししますよ………悪魔の科学者Dr.Aが、貴方のために開発した、ゼノンザードスピリット『百獣・ヴァイスレーベ』を》

 

 

人知れず、闇の中で、少年少女の美しくも脆い心を利用した、悪魔の計画が進行していく………………

 

 

 




次回、第29ターン「ブスジマ・ブラザーズ」
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