バトルスピリッツ 王者の鉄華   作:バナナ 

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第29ターン「ブスジマ・ブラザーズ」

8月も中旬。

 

日本のバトスピ最大都市、界放市の中学生らが激闘を繰り広げる、界放リーグの熱りは冷めて来たものの、夏場の暑さはまだまだ健在な今日この頃。

 

少年、鉄華オーカミは、お金を稼ぐため、今日もカードショップ「アポローン」で働き続ける。

 

 

******

 

 

「あの〜〜〜すみません」

「?」

 

 

昼下がり。おそらくアポローンのお客様であろう女性が、丁度モップで床を拭こうとしていたオーカミに声を掛ける。

 

 

「黄色のカードって、どこら辺にありますか?」

「あぁ、それならあっちのケースに」

「あ、ありがとうございます!」

 

 

軽く指を指して教えると、床磨きに戻る。その様子をレジで見ていたのは、店長で、彼の兄貴分「九日ヨッカ」と同じくバイトで、4つ上のお姉さん「アネゴ」こと「雷雷ミツバ」…………

 

 

「………なんかオーカ、最近ちょっと接客上手くなった??」

「あぁ?……どうしたミツバ、急に」

 

 

さっきのオーカミの対応を見て、ミツバがヨッカにそう告げた。

 

 

「別に何も変わってねぇだろ。相変わらず敬語は全く使わねぇし、笑わねぇし」

「う〜〜ん、そう言う事じゃないんすよね。なんかこう、言語化がむずいな………雰囲気が柔らかくなった、的な?」

「まぁオマエが言わんとしてる事もわからなくはねぇよ。ここ最近、色々あったからな」

「色々?」

「あぁ、色々な」

 

 

ヨッカの言う通り、ここ最近は色々あった。

 

界放リーグ決勝での、目から流血しながら倒れ、病院に搬送されたのもそうだし、姉である「鉄華ヒメ」にバトスピだけはやめて欲しいと言われ、本当にバトスピを辞めようとしていた直後に、界放警察の警視「アルファベット」にバトルを挑まれるなど、普通のカードバトラーでは全く経験できないほどの体験を積んだに違いない。

 

そして今は、悩みだったヒメとの関係も元通りになり、今の彼は、周囲から見たら、いつもよりやや清々しさを感じるのだろう。

 

 

「まぁ別に、オマエが気にするような事じゃねぇよ」

「なんすかそれ、めっちゃ気になるじゃないですか!!」

 

 

何にせよ、バトスピを辞めずに続けてくれるのだ。彼の事を誰よりも気にかけているヨッカにとって、これ程嬉しい事はない。

 

 

「おいオーカ、床はもういい。今からちょっと買い出しに行って来て来んねぇか?」

「うん、いいよ」

 

 

相変わらずの無表情、二つ返事であっさりそれを承諾。短い間で買い物カゴを持ち、街中のスーパーへと歩みを進めるのであった。

 

 

******

 

 

「………」

 

 

オーカミが買い出しに出てから、およそ数十分。トイレットペーパーやペン、用紙などの備品を買い揃えたオーカミは、買い物カゴにそれを詰め、今にもスーパーを後にしようとしていた。

 

無表情のため、全く感情が読めない彼だが、今日は店じまいの後に、兄貴分のヨッカに、バトルの稽古をつけてもらう約束をしているので、実は今、結構機嫌が良い。

 

だがそんな時だ。聞き馴染みのある叫びが、彼の耳を通過して来たのは…………

 

 

「ゼロワン シャイニングアサルトホッパー!!!」

「ッ………この声」

 

 

聞いたことのある声、スピリット名。オーカミはすぐにその声の発声元が、スーパーの一部となっているバトル場からだと言う事を突き止めると、本能的にそこへ足が動いた。

 

ラバー製の床で敷き詰められた広いバトル場。そこにいたのは他でもない…………

 

 

「イチマル………」

 

 

そう。受験勉強があるからと、界放リーグ後から全く絡みのなかった1学年上の友「鈴木イチマル」だ。

 

今なお絶賛バトル中の様子。

 

 

「シャイニングアサルトホッパーの効果!!……相手の疲労しているスピリット1体につき、シンボルを1つ追加!!」

「な、なにぃぃ!?!」

「今のオマエのスピリットは『アルケニモン』『マミーモン』の2体、いずれも疲労状態!!……よって合計2シンボルを追加、トリプルシンボルのアタック!!……決めろ、シャイニングアサルトホッパー!!」

 

 

魔女と毒蜘蛛を合成したような完全体デジタルスピリット「アルケニモン」

 

ミイラのように、包帯で身を包んだ完全体デジタルスピリット「マミーモン」

 

それらを素早く通り抜け、緑のライダースピリット「ゼロワン シャイニングアサルトホッパー」は、対戦相手のライフバリアへと突撃し、それらを1つ残らず殴り、砕き割る。

 

 

「ぐっ………うおぉぉお!!?」

 

 

〈ライフ3➡︎0〉ブスジマ

 

 

その一撃が決定打となり、このバトルはイチマルが制した。

 

因みに、言うまでもないが、やられたのは同じくオーカミから見て1学年上の「ブスジマ」だ。

 

 

「く、くそ……もう1回だ鈴木!!」

 

 

立ち上がるブスジマ。普段は素行と意地汚さから、嫌われ者となっている彼だが、今回はやけに必死な様子。言い方を変えると、余裕がないとも言えるか。

 

 

「………やだね」

「!!」

「オマエなんかとやっても、オレっち自身のスキルアップにはなんねぇよ」

「何でそんなこと言うんだよ!!……ダチ公じゃねぇか!!」

「ゲェ引っ付くなよ気持ち悪いな、ダチっつーか、どっちかっつーと悪友だろうが!!」

「それでもダチじゃねぇか!!」

 

 

何か訳ありでイチマルとバトルしていた様子。2人はどうやら同じ学年、同じ学校と言う事もあってか、仲は良いらしい。

 

見た目はチャラ男のイチマルと、ガキ大将感のあるブスジマ。確かにどこか似合う気もする。

 

 

「………バトルくらい、いいんじゃない、イチマル?」

「ッ……鉄華オーカミ」

「お、オマエ!!」

 

 

折角なので、オーカミは取り敢えずイチマルに声を掛ける。だが、いち早く彼に飛びついて来たのはブスジマの方で………

 

 

「オマエ、いったいどんなコネ使って界放リーグ準優勝になりやがった!?」

「あ?」

「バトスピはじめてたったの3ヶ月で界放リーグ準優勝なんてなれる訳ねぇだろ!!……いいから教えろ、いったいどんなカラクリだ。金か、金なのか!?……どこに行けばいい!?」

「急にどうしたんだよ………モスジマ」

「オレはブスジマだ!!!……何回名前間違える気だよ!!」

 

 

これは思ってた以上に余裕がないなと感じるオーカミ。いったい何でこんな事になっているのかを、イチマルが説明する。

 

 

「なんか、コイツ、急にバトスピ学園に入るとか言い出してな。実技試験を突破するために、バトルの腕を磨きたいんだと」

「ふーーん」

「そうなんだよ………オレ、今まで弱い者イジメしかしてなかったからよ………弱いんだ、バトスピ」

「自業自得じゃん」

 

 

界放市を代表する6つのバトスピ学園に入学したいブスジマ。だが、今の実力では到底入学は無理だと判断、焦りを覚え、悪友であるイチマルに無理を言って、バトルの稽古をつけてもらっていたのだ。

 

 

「なぁ頼むよ!?……オレのバトスピの腕をスキルアップさせてくれ!!」

「鉄華オーカミにまで泣きつくか………」

「うーーん。とは言われても……オレ、誰かにバトスピを教えた事はないしな」

 

 

余りにも必死過ぎるブスジマに呆れ掛けるオーカミとイチマル。

 

だがそんな時、2人には聞き慣れないが、逆にブスジマには聞き慣れた太い声が、バトル場に響き渡る。

 

 

「トウヤァァァァ!!!!」

「!!」

「…………誰?」

 

 

その声を耳にするなり、反射的に背中が反り上がるブスジマ。オーカミとイチマルが、その声のする方へと体ごと首を向けると……………

 

そこには、二回りくらい大きな…………ブスジマがいた。

 

 

「え………ブスジマが2人?」

「い、いや……違うぞ鉄華オーカミ。この人は………」

 

 

身体の大きさ以外は瓜二つの2人。オーカミは混乱仕掛けるが、イチマルはその正体に気づく。

 

 

「見つけたぞトウヤ。母ちゃんから事情は聞いた………稽古なら、このオレ様が付けてやろう!!」

「に、兄ちゃん………!!」

「兄ちゃん!?」

 

 

目の前にいるデカいブスジマは、歳の近いブスジマと兄弟関係にあるよう。確かにそれだと瓜二つなのも説明がつく。

 

 

「やっぱり、ブスジマの兄………て事は」

「おぉ、トウヤの同級生か。オレは「毒島富雄」……コイツの兄だ」

「!!」

 

 

………『毒島富雄』

 

その名前にイチマルが強く反応を示す。

 

 

「いつも弟がお世話になってるな、ガハハハハ!!!」

「いや、オレは1つ下だけど」

「何にせよ、ありがとうな。こんな捻くれ者」

「お、おい鉄華オーカミ!!……まさかオマエ、毒島富雄を知らねぇのかよ!!」

「え、ブスジマの兄ちゃんじゃないの?」

「違う、そう言う意味じゃない」

 

 

ブスジマの兄「毒島富雄」について知らないオーカミに、イチマルが軽く説明する。

 

 

「いいか、目の前のこの毒島さんはな。あの世界を二度救った英雄「芽座椎名」さんの2つ上の先輩に当たるお方なんだ!!」

「…………なにそれ、凄いの?」

「凄えよ!?」

 

 

世界を二度も救った英雄「芽座椎名」と言う少女が存在する。彼女もまた、バトスピ学園出身の者なのだが、ブスジマの兄、毒島富雄は、そんな彼女の2個上の先輩に当たり、彼女と共に切磋琢磨したと言う記録が残っているのだ。

 

 

「フ………芽座椎名か。懐かしいぜ、奴を倒すために思考を練りに練りまくった日々をな………」

「か、カッケェ………!!」

「ガハハハハ、ガハハハハ!!!……そうだろそうだろう!?……もっとオレ様を褒めてくれ少年!!……ガハハハハ!!」

「………なんか、合わない。この人のキャラと、周りの空気が………」

 

 

イチマルに褒め称えられ、鼻高く笑い出す毒島富雄。オーカミはその様子に強い違和感を覚える。

 

 

「兄ちゃん。それでわざわざ界放市まで帰って来てくれたのかよ」

「おぉ!!……弟のピンチはほっとけないからな!!」

「に、兄ちゃん……!!」

「さ、流石レジェンドカードバトラーの1人、毒島富雄さん。気さくで優しくて、良い人なんだな………!!」

「…………」

 

 

気さくで良い人なのは伝わって来るけど、オーカミには、どうもアレが強いとは思えない。

 

 

「むむ、赤髪の君はこのオレのレジェンドさが、あんまり伝わってねぇみたいだな」

「レジェンドさってなんだよ」

「ガハハハハ、いいだろう!!……特別に、このオレ様のレジェンドさを堪能させてやる、Bパッドを抜きな!!」

「いや、だからレジェンドさってなに」

 

 

訳を理解できぬまま、強引にバトルを挑まれる。

 

 

「いいな〜鉄華オーカミ、あの毒島富雄さんとバトルできるなんて」

「………そんなに羨ましがられる事なの?」

 

 

わからない。

 

なんでブスジマの兄がここまで絶大な支持を得ているのかを…………

 

 

「トウヤ!!」

「!!」

「兄ちゃんの戦う背中から学べ。よおく見とけよ」

「お、おう!!……頑張れ、兄ちゃん!!」

 

 

弟にもメチャクチャカッコつけた所で、毒島富雄もまた己のBパッドを取り出し、左腕にセット。デッキを装填してバトルの準備を進める。

 

 

「………イチマル、買い物カゴ頼む」

「おう、わかったぜ」

 

 

乗り気にはなれないものの、バトルから逃げる事はできない。

 

オーカミは買い物カゴをイチマルに渡し、同じようにBパッドを左腕にセットし、デッキを装填。バトルの準備を完了させた。

 

 

「ガハハハハ!!!……見せてやるぜ、このオレ様のレジェンドっぷりをな!!」

「………もうなんでもいいや、行くぞ、バトル開始だ……!!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

急な展開だったが、鉄華オーカミとブスジマの兄、毒島富雄によるバトルスピリッツが、ジークフリード区にあるスーパーマーケット内に設立されたバトル場で、コールと共に開始される。

 

先攻は鉄華オーカミ。

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ……バルバトス第1形態をLV1で召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

地響きと共に、地中から、ガンダムと悪魔の名を持つモビルスピリット、バルバトス、その第1形態が出現する。

 

 

「バルバトス………そうか、オマエが今年の界放リーグジュニアの部で準優勝した鉄華オーカミか」

「あぁ、召喚時効果発揮………『鉄華団モビルワーカー』を手札に加えて、残りは破棄」

 

 

バルバトスの登場により、毒島もまた、対戦している、目の前の人物が誰なのかを認識する。

 

 

「ターンエンド」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

バースト:【無】

 

 

「ガハハハハ!!!……成る程な、全力で殴りかかって良い相手なのは理解したぜ!!……まさか弟の、トウヤの友達がジュニアの部で準優勝する程の奴とはな!!」

「いや、別に友達じゃないけど」

 

 

オーカミの第1ターンが終了。レジェンドカードバトラーの1人、毒島富雄の第2ターンへと移る。

 

 

[ターン02]毒島富雄

 

 

「メインステップ………先ずはネクサス、ダークタワーだ!!」

「!!」

 

 

ー【ダークタワー】LV1

 

 

毒島の背後に、無機質で黒ずんだ一柱の塔、ダークタワーが配置される。塔を名乗る割には、人が入るスペースはなさそうだ。

 

 

「毒島家は、皆初手に紫のネクサスを配置するのがお決まりだぜ!!……このダークタワーがある間、お互い少年のターンの間、バースト効果以外でスピリットをノーコスト召喚できず、煌臨もできない!!」

「……ノーコスト召喚のメタカードか」

「ガハハハハ!!!……そのリアクション、少しは刺さっているようだな。オレ様はこれでターンエンドだ!!」

手札:4

場:【ダークタワー】LV1

バースト:【無】

 

 

オーカミのデッキ『鉄華団』のカード達には、いくつかノーコスト召喚を行うカード達も存在する。それらにとっては、毒島富雄のダークタワーは天敵とも言える。

 

 

「ダークタワーか、いきなりきちぃネクサスを配置されたな…………鉄華オーカミの奴、勝てんのかよ」

「勝てるわけねぇだろ!!……兄ちゃんはあの芽座椎名と肩を並べる実力があるんだぞ!?」

「あぁ、そっか……そう、だよな………」

 

 

このバトルを見届けているイチマルとブスジマが、そう言葉を交える。

 

確かに、相手はレジェンドカードバトラーの1人。側から見れば勝つのは毒島富雄の方だ。だがイチマルは、不思議と、知らず知らずのうちに、勝つのは鉄華オーカミの方だと錯覚していて……………

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………モビルワーカーを召喚して、創界神ネクサス、オルガ・イツカを配置!!」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

「神託の対象は1枚、よってオルガにコアを1つ追加する」

 

 

鉄華団スピリットの中で最もコストの軽量な車両型スピリット、モビルワーカーがバルバトス第1形態の横に並ぶのと同時に、場には何も出現しないが、創界神ネクサスのオルガ・イツカが配置される。

 

 

「バルバトス第1形態のLVを2にアップして、アタックステップ………いけ、バルバトス!!」

 

 

バルバトス第1形態のLVを上げると、すぐさまアタックステップへと移行して、攻撃を仕掛ける。バルバトス第1形態は背部に備え付けられたスラスターを稼働させ、低空飛行で駆け抜けていく。

 

 

「ライフだ、くれてやる!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉毒島富雄

 

 

勢いのまま鉄の拳で毒島のライフバリアを殴りつける。それは1つ砕け散り、残り4つとなる。

 

 

「良い攻撃じゃねぇか少年!!……どうした、もう1体でも来いよ!!」

「…………ターンエンド」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV2

【鉄華団モビルワーカー】LV1

【オルガ・イツカ】LV1(1)

バースト:【無】

 

 

安い挑発には乗らず、そのままターンをエンドとする。

 

次は毒島富雄のターン。ここから、彼のデッキが牙を剥き始める……………

 

 

[ターン04]毒島富雄

 

 

「メインステップ………このオレ様、毒島富雄と言えばこのスピリットだよなぁ!!……アルケニモンをLV2で召喚!!」

 

 

ー【アルケニモン】LV2(3)BP7000

 

 

宛ら、蜘蛛の女王と言った姿をした、魔獣型の完全体デジタルスピリット、アルケニモンが召喚される。

 

このスピリットは、毒島家が皆愛用するスピリットの1体である。毒島富雄もまた、これを多用し、芽座椎名と何度もバトルを繰り広げては負けていた。

 

 

「アタックステップだ。アルケニモンでアタック、その効果で疲労状態のスピリット、バルバトス第1形態を破壊する事で、ボイドからコア1つを自身に追加!!」

「!!」

 

 

アルケニモンは手から蜘蛛の糸を伸ばし、バルバトス第1形態の鋼鉄のボディを切り刻む。やがて耐えられなくなったバルバトス第1形態は片膝を突き、直後に爆発した。

 

これだけでも十分に強力なアルケニモンだが、効果はそれだけではなくて………………

 

 

「アルケニモンの更なる効果!!……紫のネクサスがある時、デッキから2枚オープンし、その中にある完全体、究極体のデジタルスピリットカード1枚をノーコスト召喚する!!」

「ッ……デジタルスピリットをノーコスト召喚!?」

「ガハハハハ!!……オレ様のターンなら、ダークタワーの影響は受けねぇのさ。ほれ、カードオープン!!」

 

 

アルケニモンの効果で、毒島のデッキから2枚のカードがオープンされていく。

 

その中には……………

 

 

「いつもならここでアルケニモンの背景世界での相棒『マミーモン』を召喚するのが鉄板なんだが…………今回のオレ様は一味も二味も違うぜぇ!!……アルケニモンのLVを1に下げ、完全体デジタルスピリット、パイルドラモンをLV2で召喚!!」

「えぇ!?!」

 

 

ー【パイルドラモン】LV2(3)BP10000

 

 

そのスピリットの登場に誰よりも驚きを見せたのは、バトルを見ているイチマルの方だった。

 

無理もない。毒島が今召喚した、甲殻に覆われた竜戦士は、一般的に知られている、彼の使用カードではないのだから……………

 

 

「……今度はドラゴン」

「召喚時効果、コスト7以下のスピリット1体を破壊!!……モビルワーカーだ!!」

「くっ……!」

 

 

パイルドラモンは召喚されるなり、その効果を発揮。腰に備え付けられた二丁の機関銃を掃射し、モビルワーカーを爆散に追い込む。

 

これでオーカミのスピリットは0。アルケニモンのアタックも尚継続中である。

 

 

「モビルワーカーの破壊時、自分のデッキの上から1枚を破棄して、1枚ドロー………アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ

 

 

接近して来たアルケニモンが、鋭い爪による引っ掻く攻撃で、そのライフバリア1つを引き裂く。

 

 

「ガハハハハ!!!……まだまだ行くぜ、今度はパイルドラモンでアタック、LV2、3のアタック時効果で、ボイドからコア2つを自身に追加し、さらにターンに一度回復!!」

「なに………コアブしながら回復まで」

 

 

パイルドラモンは自身にコアを追加しながら、一度だけ回復状態になると言う、単純明快且つ強力な効果を持つ。

 

毒島はそれを遺憾なく発揮している。毒島なのに。

 

 

「アタックはライフで受ける!!」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

「もう一度だ、このタイミングでもコアブースト!!」

「…………それもライフで受けだ………ぐっ!?」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

パイルドラモンが、拳で怒涛の二連撃を叩き込み、オーカミのライフバリアは一気に残り2つまで追い込まれてしまう。

 

 

「ガハハハハ!!!……オレ様はこれでターンエンドだ」

手札:4

場:【パイルドラモン】LV3

【アルケニモン】LV1

【ダークタワー】LV1

バースト:【無】

 

 

アルケニモンとパイルドラモンの2体で怒涛のコンボを決め、コアを5つ追加し、オーカミのスピリットを全滅させた挙句、ライフまで大きく削った毒島。

 

大満足でそのターンを終える。

 

 

「この人、思ったより強い…………面白くなって来た」

 

 

一方で毒島の強さを認識させられ、鉄華オーカミにもようやく火がついた。

 

逆襲の狼煙を上げるべく、己のターンを開始していく。

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………鉄華団モビルワーカーを2体連続召喚」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

このバトルでは2、3体目となるモビルワーカーを召喚。さらに手札へ手をかけ、あのスピリットも呼び出す…………

 

 

「大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態!!……LV3で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

上空から降り立ったのは、オーカミのエースカード、バルバトス第4形態。黒い槌矛、メイスを手に握り、堂々の登場を果たす。

 

 

「ほぉ、どうやらそれが少年のエースみたいだな」

「アタックステップ!!……第4形態!!」

 

 

エースの登場に勢いづき、早速アタックステップへと突入するオーカミ。バルバトス第4形態がメイスを手に、地上を駆け出す。

 

 

「アタック時効果、相手スピリットからコア2つをリザーブへ」

「!!」

「パイルドラモンとアルケニモンから、コアを1つずつ取り除く………アルケニモンは消滅だ」

 

 

ー【パイルドラモン】(7➡︎6)

 

ー【アルケニモン】(1➡︎0)消滅

 

 

バルバトス第4形態は、メイスを大地に叩きつけ、いわゆるストーンエッジを形成。連なる大地の破片は、アルケニモンとパイルドラモンを襲い、その内アルケニモンを消滅へと追い込んだ。

 

 

「さらにLV3のアタック時効果でダブルシンボル………ライフを2つもらう」

 

 

残ったパイルドラモンは疲労しているため、ブロックに参加できない。

 

バルバトス第4形態の攻撃が刺さり、鉄華オーカミが一気に形成逆転かと思われたその直後、毒島富雄は徐に手札から1枚のカードを引き抜く……………

 

 

「言ったはずだぜ、今日のオレ様は一味も二味も違うとな!!……BP8000以上の相手スピリットがアタックしている時、手札からこのブラックウォーグレイモンを1コストで召喚できる」

「は……ウォーグレイモン!?」

「パイルドラモンのLVを2まで落とし、このブラックウォーグレイモンをLV3で召喚するぜ!!」

 

 

ー【ブラックウォーグレイモン】LV3(4)BP15000

 

 

毒島の場に現れる、闇の力が込められた黒い球体。それを斬り裂き、中より姿を見せたのは、その名の通り黒いウォーグレイモン、ブラックウォーグレイモン。

 

ヒバナのモノとはまた違うウォーグレイモンに、オーカミは驚きを隠せない。

 

 

「ブラックウォーグレイモンの召喚時効果、BP12000以下の相手スピリット1体を破壊する」

「!!」

「対象は丁度いいのがいるな、バルバトス第4形態を破壊するぜ!!」

「くっ………」

 

 

ブラックウォーグレイモンは、登場するなり、両手で巨大な黒炎の火球を形成。それを向かって来るバルバトス第4形態へと投げ飛ばし、直撃させる。

 

バルバトス第4形態はそれに吹き飛ばされ、呆気なく爆散してしまった。

 

 

「BP12000。エースにしては低いパワーだな少年よ」

「それ、カッコつけて言う事じゃないだろ…………フラッシュ、オルガの【神域】でデッキから3枚破棄して、1枚ドロー…………ターンエンドだ」

手札:4

場:【鉄華団モビルワーカー】LV1

【鉄華団モビルワーカー】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(4)

バースト:【無】

 

 

大量にスピリットを展開した事でLVの上昇していた、オルガの効果を発揮させ、ドローを行うが、攻めの起点となるバルバトス第4形態が破壊されては、攻めようにも攻められない。

 

致し方なく、オーカミは一度ターンをエンドとする。次は完全体パイルドラモンと、究極体ブラックウォーグレイモンをフィールドに並べた毒島富雄のターンだ。

 

 

[ターン06]毒島富雄

 

 

「メインステップ………弟の前で恥はかけねぇ、そろそろ締めにしてやるか。パイルドラモンのLVを再び3に上げてアタックステップ!!」

 

 

パイルドラモンとブラックウォーグレイモン。2体の強力なデジタルスピリットのLVを最大にまで整え、締めのアタックステップへと突入した毒島富雄。

 

だが、そのスピリットらでアタックを行うよりも早く、オーカミは効果の発揮を宣言して…………

 

 

「待った………お互いのアタックステップ開始時、オルガ・イツカの【神技】を発揮!!」

「!?」

「トラッシュから鉄華団スピリットを、ノーコストで復活させる………再び大地を揺らせ、バルバトス第4形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

創界神ネクサスであるオルガの効果が発揮され、前のターンに破壊された、バルバトス第4形態が、大地を砕き、地の底より復活を果たす。

 

 

「ダークタワーのノーコスト召喚を封じる効果は、オレのターンだけ、アンタのターンなら、ノーコスト召喚は可能だ」

「考えたな少年よ。だが、そのタイミングでそれを復活させても意味はないぜ、このブラックウォーグレイモンが全てを蹴散らす………アタックステップ続行、アタックだ、ブラックウォーグレイモン!!」

 

 

ダークタワーの効果の穴を掻い潜り、早々に復活を果たしたバルバトス第4形態。しかし毒島はそれに目もくれず、アタックステップを続行、ブラックウォーグレイモンで攻撃を仕掛ける。

 

 

「ブラックウォーグレイモンのアタック時効果!!……相手スピリット1体を指定アタックできる」

「!!」

「オレ様は、バルバトス第4形態を指定するぜ。そしてこの時、最もBPの高いスピリットを指定した時、ブラックウォーグレイモンは回復する!!」

「ッ………じゃあ、オレのスピリットがいる限り、無限にアタックできるのか」

「当たりだ、少年!!」

 

 

バルバトス第4形態目掛けて突撃して来るブラックウォーグレイモン。鉤爪ドラモンキラーで鋭く、速い攻撃を何度も繰り返していき、バルバトス第4形態の装甲に少しずつ傷をつけていく。

 

バルバトス第4形態も負けじと戦棍、メイスを横に振るうも、ブラックウォーグレイモンは素早い身のこなしでそれさえをも回避、すぐさま攻撃に戻り、バルバトス第4形態を防戦一方の状況に陥れる。

 

 

「ガハハハハ!!!……良い腕だが、まだまだだな少年、今はこのオレ様のレジェンドっぷりを糧に成長するんだな!!」

 

 

意味不明な事を叫ぶ毒島。

 

だが、その光景を見ていたイチマルもブスジマも、この時点では100%彼が勝つのだろうと思っていた。

 

鉄華オーカミが、手札から1枚のカードをBパッドに叩きつけるまでは……………

 

 

「うん。そうさせてもらうよ………フラッシュマジック、スネークビジョン!!」

「…………あれ」

「不足コストは2体のモビルワーカーから確保。よって消滅する…………効果でアンタのスピリット全てのコアを、1個になるようにリザーブに送る………これでブラックウォーグレイモンも、パイルドラモンも、LV1に弱体化する」

 

 

ー【ブラックウォーグレイモン】(4➡︎1)LV3➡︎1

 

ー【パイルドラモン】(5➡︎1)LV3➡︎1

 

 

不足コストで2体のモビルワーカーが消滅。

 

しかし直後に突如、フィールド全体で発光する紫の光。それは毒島の操る全てのスピリット達の体内に眠るコアを取り除き、大きく弱体化させていく。

 

そして、この時で一番大事な事は、弱体化させられたブラックウォーグレイモンは、今なおも、バルバトス第4形態とのバトルの真っ最中であると言う事で……………

 

 

「ブラックウォーグレイモンのLV1BPは………9000!?」

「バルバトス第4形態のBPが低いなら、他のカードで補ってやればいい…………これでバルバトス第4形態の方が強くなった」

「おいおい冗談だろ!?」

「いけ、バルバトス!!」

 

 

スネークビジョンにより、攻撃の手が緩まった瞬間を、バルバトス第4形態は見逃さない。メイスを強く握り、ブラックウォーグレイモン目掛けてそれを縦一閃に振るう。

 

その渾身の一撃は、ブラックウォーグレイモンの強固な鎧ごと、打ち砕き、爆散させた。

 

 

「くっ……パイルドラモンはLV1じゃ効果を使えねぇ…………ターンエンドだ」

手札:4

場:【パイルドラモン】LV1

【ダークタワー】LV1

バースト:【無】

 

 

「う、ウソだろ!?……兄ちゃんのあの攻撃を」

「すげぇ………鉄華オーカミの奴、あの毒島富雄の攻撃を止めるどころか返り討ちにしやがった」

 

 

 

…………『オレっちの知らないところで、また強くなってる………なのに、オレっちは………』

 

 

完璧な読みからの鋭いカウンター。今の一連の流れを見て、鈴木イチマルは、鉄華オーカミが界放リーグ後から、また一段と強くなっているのを確認するが……………

 

その事実を、どうしても今の自分と比べてしまい、劣等感でとても悔しくて、悲しくて、切なくなった。今はただ、黙って拳を固く握ることしかできなくて………

 

 

「………オレのターンだな」

 

 

そんなイチマルの気持ちなど、知るよしもなく、鉄華オーカミは巡って来た己のターンを開始していく。

 

 

[ターン07]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………パイロットブレイヴ、三日月・オーガスを、バルバトス第4形態に直接合体!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV3(4)BP18000

 

 

鉄華団の専用ブレイヴ『三日月・オーガス』のカードを、バルバトス第4形態に合体させる。パイロットブレイヴであるため、見た目の変化は一切ないものの、その強さは先程までとは比べ物にならない…………

 

 

「アタックステップ、バルバトス第4形態でアタック!!……その効果で残ったパイルドラモンを消滅!!」

「ぬうっ……!!」

 

 

ー【パイルドラモン】(1➡︎0)消滅

 

 

突撃するバルバトス第4形態。横一閃に振るったメイスの一撃が、パイルドラモンにクリーンヒットし、それを消滅させる。

 

 

「さらに三日月の合体時効果で、ダークタワーの維持コアを上げて消滅。リザーブのコアを1つトラッシュに」

「!?」

 

 

ー【ダークタワー】(消滅)

 

 

今度はメイスを投擲し、ダークタワーを中心から砕く。投げたメイスは地に落ちる前にキャッチすると、そのまま毒島富雄のライフバリア目掛けて駆け出した。

 

 

「アタック時効果、合体と合わせて、トリプルシンボルのアタック」

「ッ………ライフで受ける………ぐうぉ!?!」

 

 

〈ライフ4➡︎1〉毒島富雄

 

 

大地をも砕く、メイスを叩きつける一撃が、毒島富雄のライフバリアを一気に半数以上、3つも破壊する。

 

これで残り1つ。その残り1つを破壊しなければ、鉄華オーカミに勝利はないが、その算段も、既に整っていて……………

 

 

「バトル終了時、バルバトス第4形態の更なる効果………トラッシュから1コストで鉄華団スピリットを召喚する」

「なにぃぃー!?」

「1コストで戻って来い、バルバトス第1形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

アタックしたバトルの終了直後、バルバトス第4形態が、その緑の眼光を、瞬間的に強く輝かせると、それに共鳴するかの如く、地中よりバルバトスの最初の姿、第1形態が飛び出して来る。

 

バルバトス第4形態を起点に、更なる鉄華団を次々と呼び出していく。それが鉄華オーカミの鉄華団デッキの必勝パターンだ。

 

 

「同じデジタルスピリットの使い手なら、アイツ(アルファベット)の方が百倍強い…………トドメのアタックだ、バルバトス第1形態!!」

 

 

背部のスラスターで猪突猛進。目指すのは、毒島富雄の最後のライフバリア。そして、彼にはもう、コレをどうにかする手札は残っていなくて…………

 

 

「うおぉぉお!!?……やっぱオレ様はいつも最後こうなるのね〜〜〜!!!!……ライフで受ける!!!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉毒島富雄

 

 

自虐ネタを披露しながらも、バルバトス第1形態のラストナックルを甘んじて受ける。

 

その最後のライフバリアは、全て砕け散り、彼のBパッドからは「ピー………」と言う、敗北を知らせる無機質な音声が流れ出した。

 

そして、それは同時に鉄華オーカミの勝利を表しているのと同義。見事レジェンドカードバトラーの1人、毒島富雄に勝利して見せた。だが、その表情は不思議と余り嬉しそうではなくて…………

 

 

「………単体じゃパワー不足………か」

 

 

バトルの終了直後、オーカミが見つめたのは、フィールドに最後まで残ったエースカード『バルバトス第4形態』…………

 

除去から、スピリットの展開、バトルのフィニッシュまで多種多様な活躍をして来た、バトルには欠かせない存在で、バトスピを始めた時から愛用している大事なカードではあるが、今回のバトルで、それに大きな弱点がある事を明確に痛感させられた。

 

それは、単体での力不足。今後の課題が見つかった事は、彼にとっては大きな収穫なのかもしれない。

 

 

「ガハハハハ!!!……負けた負けた、流石は界放リーグ準優勝と言ったところか」

「あぁ、うん」

「ナイスバトルだったぜ、またやろう」

「こっちこそ、ありがとう」

 

 

最初は見た目と雰囲気だけでなんか弱そうと、今思えば失礼極まりない事を考えていたオーカミだったが、このバトルを経て、その誤解は解かれた。

 

2人は互いのナイスバトルに感謝し合い、固い握手を交わす。

 

だが、それを見たイチマルは…………

 

 

「なんで、そこにいるのがオレっちじゃないんだ」

 

 

小声でそう呟くと、オーカミから手渡された買い物カゴをそっと地に置き、誰にも気づかれないまま、この場から立ち去ってしまう。

 

 

「兄ちゃん!!……オレ、感動したよ。いつか絶対、兄ちゃんみたいなカードバトラーになるよ!!」

「おぉ、そうかトウヤ!!……オレは嬉しいぞ!!……それじゃあ早速やるか、目指せバトスピ学園合格だぜ」

「おぉ!!」

 

 

仲睦まじい毒島兄弟。その和気藹々とした声が、立ち去ろうとしていたイチマルの耳を通過し、強い印象を残した。

 

 

「………なぁイチマル、勉強が忙しいのはわかるけど、折角だから、今日は一緒にバトスピしないか………アレ、イチマル??」

 

 

その場にいたと思ったイチマルに声をかけたつもりが、既にそこに彼はおらず、空振りに終わってしまう。

 

そしてこの日、もっとイチマルに気を向けてやればよかったと、後悔する事になる……………

 

 

 

******

 

 

夜の暗い帰り道。人通りの少ない裏通りを歩き、イチマルは想起していた。

 

鉄華オーカミと言う天才的なカードバトラーが現れてからの出来事を……………

 

 

………『オーカは、小さいけど……強くて、クールで、カッコいいんだ』

 

 

脳内にいる一木ヒバナが言った。自分が好意を寄せる彼女に好意を寄せられている鉄華オーカミが妬ましかった。

 

 

………『なんてったって、オーカはオレの弟分だからな!!』

 

 

脳内にいる九日ヨッカが、そう自慢気に口にした。正直、鉄華オーカミと出会う前から知り合いだったのに、何故こっちが弟分じゃないんだ…………

 

バトルスピリッツの才能に満ち満ち溢れている、鉄華オーカミが憎い。

 

 

『鉄華オーカミは凄い』     『鉄華オーカミは素晴らしい』

『鉄華オーカミは天才だ』    『オーカミ君なら、いつかこの界放市のモビル王にだってなれる』   『鉄華オーカミなら』    『鉄華オーカミは強い』   『鉄華オーカミが強い』     『鉄華オーカミの方が強い』

 

 

……………『イチマルよりも、オーカミの方が強い』

 

 

頭の中はそれでいっぱいだった。自分の才能のなさを思い知らされるのが、苦しくて苦しくて、仕方なかった……………

 

 

「こんばんわ」

「!?」

 

 

そんな折、自分のどうしようもない思考を遮るかの如く、帰路に立ち塞がる1人の深いフードを被った女性。

 

その女性は、すぐさまそのフードを脱ぎ捨て、正体を見せる。

 

 

「この間の界放リーグ、ベスト8。おめでとうございます」

「は、早美あお、アオイ…………さん???」

「えぇそうです。私の名は早美アオイ」

「な、なんでこんな所に………!?」

 

 

イチマルの前に突然現れたのは、16という若さでプロのカードバトラーとなり、界放市の王者の1人『モビル王』にまで輝いた、若き秀才少女『早美アオイ』……………

 

その声に熱は篭っていない。氷のような冷たく、冷徹な囁きに、イチマルは怯えて震える。直感的に、彼女がヤバい人間なのだと、悟った。

 

 

「界放リーグベスト8。確かに優秀な成績でしたが、貴方はおそらくそこ止まりだと思われます」

「!!」

「何を驚いてるんですか。それはそうでしょう、だってバトスピを始めて、たったの3ヶ月足らずのオーカミ君に、貴方は負けたのですから………それ以上の成長なんて、見込めませんよ」

「…………」

 

 

早美アオイに掛けられた言葉は、まるで自分を試すような、挑発するような、意外なモノだった。

 

イチマルは一瞬固まるが、直後に恐怖を振り切り、発言する。

 

 

「どうやったら………」

「?」

「どうやったら、勝てますか。鉄華オーカミに!!………わかるんでしょ、貴女なら!!……オレっちがここからさらに強くなる方法!!……だからオレっちなんか待ち伏せしたんでしょ!?」

 

 

藁にもすがる思いで、イチマルは叫んだ。

 

自分を『強くしてくれ』…………と。

 

それを耳にするなり、早美アオイは不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「フフ………では、貴方にこれを差し上げます」

「!?」

「これは、悪魔の魔道具『ゼノンザードスピリット』………その一柱『「千年杉」ヤクーツォーク』………必ず、貴方のお役に立ちますよ。オーカミ君なんて、目じゃありません」

「………!!」

 

 

そう言いつつ、イチマルに手渡したのはおそらく悪魔の科学者『Dr.A』が開発したと思われるカード。

 

それを迷わずに、何の躊躇いもなく手に取るや否や、イチマルの温かみのある瞳は、まるでそれに侵食されたように青く、冷めたモノとなって……………

 

 

「………これがあれば、オレは鉄華オーカミを超えられる程強く…………いや、鉄華オーカミだけじゃない、他の誰よりも強くなって、ライダー王の兄ィにも認められる!!」

 

 

イチマルの変わり果てた様子を見るなり、早美アオイは小さく口角を上げながら「6枚のゼノンザードスピリットは全てばら撒いた。これで、STEP3は完了」と口にする。

 

早美アオイとDr.Aによる、大いなる計画が、また一歩前進した。

 

 

 




次回、第30ターン「激進のゼノンザードスピリット、ヤクーツォーク鳴動」



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