時は夕暮れ。ひぐらしが鳴く頃………
バイト帰りの中学2年生の少年、鉄華オーカミは帰り道道中にあるコンビニに足を運んでいた。立ち寄った理由としては単なる夕食調達のため、少量の冷凍食品を籠に入れ、レジの前に立った。
しかし、眼前にいる店員はバーコードを読み取る前にオーカを訪ねて来て………
「前のお客様から差し出し物だそうです!」
「え……?」
若い女性のコンビニ店員からオーカへと手渡されたのはなんの変哲もない封筒。しかし、そこに刻まれている「鉄華オーカミ様へ」と言う字には見覚えがあった………
「これってまさか………やっぱり、バトスピのカード」
そう。
最初に自分の家の郵便受けに入っていたデッキと同じ物。今回の封筒の中にも見た事がない新しい「鉄華団」のカードが封入されていた………
「あの、これ一体誰が……」
「それではお会計に入りますね〜」
「え……あ、あの………」
口封じでもされているのか、尋ねるオーカをシカトし、淡々と会計をしていく女性のコンビニ店員。結局自分にカードを渡してくる人物の特定はできなかった。
******
翌日。その早朝………
通っている中学校へと通学中のオーカ。昨日手に入れた新しい「鉄華団」のカードの1枚をマジマジと見つめながら歩いていた。
「三日月・オーガス……ブレイヴ………ブレイヴってなんだよ」
新しい鉄華団カード「三日月・オーガス」…………
ブレイヴと言うカードはバトスピバトラーにとっては非常に馴染み深いモノであるが、バトスピを初めてまた数日のオーカにはまだ未知の代物であった。これをどうやって使うのかを昨日一晩考えてみたが一切思いつかなかった。
「お〜いオーカ!!」
「あ、ヒバナ」
「おはよう!」
「うん、おはよう」
そんなオーカに声をかけて来たのは今では彼の大事な友人である少女、一木ヒバナ。黒髪のツインテールが印象に残る。
「どうしたの?…カードなんか見つめちゃって」
「ん?……あぁ、実は……」
丁度いい。バトスピ上級者のヒバナならこのブレイヴもわかるかもしれない………
そう思ってオーカはヒバナにブレイヴ、三日月・オーガスのカードを見せる。
「これって……パイロットブレイヴカード!?……しかも鉄華団専用の」
「パイロットブレイヴ?」
ヒバナの口から出た言葉はブレイヴの説明ではなく、ブレイヴの派生系っぽい単語の「パイロットブレイヴ」と言う単語。ただでさえわからなかったのに、よりわからなくなってしまった。
しかしそこはバトスピ上級者のヒバナ。抜群に気を使ってオーカに説明していく。
「パイロットブレイヴって言うのは、モビルスピリット専用のブレイヴカードの事よ……オーカのデッキだとバルバトスが該当するのかしら。簡単に言ったらバルバトスにそのカードを装備して強化できるの」
「おぉ………成る程」
これでもかと言う程にわかりやすい説明だった。
装備カードと言われ、オーカは自分の相棒、バルバトスが強化されるところを想像してみる。きっと今よりももっと強くなっているに違いない。そう思うとバトルするのが楽しみになり………
「装備カードか……うん。早く試したい。ヒバナ、また放課後バトルしない?」
「ッ……うん、オッケー!…今度は負けないからね!」
一刻も早くこれを試したい。オーカはバイト前の時間でもう一度ヒバナとのバトルを要求する。ヒバナは少し頬を赤くしながらも元気よくそれを承諾。放課後再びバトルする事が決まった。
しかしそんな時だ。ヒバナに声を掛けて来た人物が1人………
「ヒーバナちゃん!!……おはよう〜今日も天が見惚れる程可愛いね〜!!」
「………」
緑色のチャラい髪型が特徴的な少年がヒバナに話しかけて来た。その人物の声を聞き、顔を見るなり、せっかくのお楽しみムードが台無しになったヒバナは白々しい目で彼を見つめる。
「はぁ……朝っぱらから元気ね、イチマル」
「そりゃだって朝からヒバナちゃんの素敵なお顔を見れたなら得も得よ!!」
愛するヒバナのためならどこへだって現れるお気楽な少年イチマル。
そんな彼とオーカは初対面であり、オーカはヒバナに彼の事を聞く。
「誰コレ、ヒバナの友達?」
「別に友達じゃないわよ、ただの知り合いって感じ」
「ふーーん」
友達であるヒバナも彼の事に全く興味が無さそうなのが伝わって来たのか、自分もまたイチマルと呼ばれる少年に対しての興味があまり湧かなかった。
しかし、オーカがイチマルに興味がなくとも、イチマルにはあった。
「……つーかヒバナちゃん、横のそのチビ誰??……小学生?」
「鉄華オーカミ、最近ここに越して来たアポローンのバイトさん……こう見えて私と同い歳よ」
「同じ歳!?……14歳って事!?」
「どーも」
ヒバナに紹介され、軽くお辞儀するオーカ。
彼が無愛想なのもあるだろうが、イチマルはそんなオーカをあまり快く思っていないようで…………
「おいオマエ、ヒバナちゃんとはどう言う関係だ?……まさか彼氏とかじゃないだろうな!?」
「ッ………は、はぁ!?…何言ってんのよイチマル!!…そ、そんなわけないじゃない!!…オーカは友達よ友達!!」
「何ヒバナちゃんのその反応!?……もうヤダァァァー!!!…何なんだよオマエはァァァー!!」
(なんか急に喧しくなったな……うるさい…)
イチマルの言葉に頬を赤らめて否定するヒバナ。その反応を見て発狂するイチマルをオーカは内心で罵倒する。
その後、イチマルはすぐさま人差し指を全力でオーカの方へ向けると………
「よし決めた……オレは決めたぞ!!」
「?……何を?」
「今日の昼休み、オレはオマエに決闘を申し込む!!…無論、バトルスピリッツでな!!」
「決闘?」
彼に決闘を申し込んだ。何やら急な展開になっている事はオーカとて理解しているが、いまいちイチマルの心境が理解できないため、頭の上のハテナマークが中々取れない。
「そのバトルに勝ったらオレっちは一日中ヒバナちゃんを好きにできる権利をもらう!!」
「はぁ!?…何言ってんのよアンタ、最低!!」
「いやそれは言葉の綾って言うか、なんて言うか……好きにするって言ってもデートとかそんな感じです、ハイ」
どこかちゃっかりしているイチマル。このバトルに勝った暁月にヒバナとのデート権利を得ようとする。
「兎も角、オマエに拒否権は無いぞチビ助!!…昼休み、屋上にて待つ!!」
最後にそう告げると、デッキを見直して調整したいのか、イチマルは颯爽と先を歩いて行った。
「なんかごめんねオーカ……別に無理して行かなくてもいいから」
「イヤ一応行くよ、オレ色んなヤツとバトルしたいし」
「おぉ……向上心高………」
結局何がなんだかわからなかったオーカだが、バトスピをやってくれるなら大歓迎であるようで、なんやかんや決闘には向かうようだ。
******
昼休み。その屋上にて…………
校舎内と違って外壁のないここは、まるで2人の決闘を催促するかのように風が吹き荒れる。面と向かうオーカとイチマル。それを見守るようにヒバナもまた屋上に来ていた。
「逃げ出さずに来た事には褒めてやるぜチビ助。名乗ってなかったな、オレっちの名は「鈴木イチマル」!!…こう見えてかなり強いぜ!」
「………なんか普通だな、名前」
「それを言うな!!」
決闘前と言う事もあってか己のフルネームを名乗るイチマル。一般的過ぎるその名前をどこか気にしている様子。
因みに、どこかメジャーリーグとかで耳にする名前に似てると言っては行けない。
「いいか?…オレっちはこのバトルで勝ったらヒバナちゃんとのデート権利をもらう……鉄華オーカミとか言ったな…万に、いや億に一つオマエが勝ったとして、何をもらう?」
「じゃあオレが買ったら………そうだな………あ、購買の卵パン奢って」
「いいぜ、幾らでも奢ってやる!!」
「え………私の価値って卵パンと同じなの……?」
花より団子とは正にこの事。
オーカはこのバトルに購買の卵パンを賭けた。本人が特に恋愛感を持っていない事が理由であろう。ヒバナはそんなオーカの気持ちを知ってはいるものの、やはりパンと秤に掛けられたのは少しばかりショックな様子。
「さぁ、デッキとBパッドを抜け、バトルだ!!…けちょんけちょんにしてやる!」
「あぁ。アンタがどんなバトルするのか楽しみだ」
理由はどうあれ、バトルに対してのやる気は十分な2人。デッキとBパッドを取り出し、バトルの準備を瞬時に行なっていく…………
そして………
………ゲートオープン、界放!!
屋上にて、ヒバナと卵パンを賭けた2人の男のバトルスピリッツが幕を開ける。
先攻はオーカだ。イチマルとは違い、純粋にバトルする事だけが目的である彼は己のターンを躊躇いなく進めていく。
[ターン01]オーカ
「メインステップ、来いバルバトス第1形態!!」
「は………バルバトスだって!?」
ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1S)BP2000
蠢く地中より姿を現したのはモビルスピリット、ガンダム・バルバトス。その第1形態と言う事もあり、肩のアーマーが剥がれており、不完全な状態であるのが見て取れる。
最近巷で噂のバルバトス。その情報を耳に入れていたイチマルが驚愕するのも無理はない。何せ、まさか目の前の恋敵がそれを所持していたのだから………
「お、オマエがバルバトスの使い手だったのかよ………」
「まぁな。召喚時効果発揮、デッキから3枚オープンしてその中の鉄華団カード1枚を手札に加える………じゃあこれを手札に、残りはトラッシュ……先攻は最初のターン、アタックステップを行えない、ターンエンドだ」
手札:5
場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1
バースト:【無】
驚愕を隠せないイチマルを他所に、淡々とした様子で己のターンを進めていくオーカ。バルバトス第1形態の効果で新たなカードを手札に加え、そのターンをエンドとした。
次はイチマルのターン。
「未知のモビルスピリットバルバトス………まさかこんなチビが持ってたなんてな……だけど上等だ。そいつ事オマエのライフをぶっ飛ばしてやるよ!」
「!」
イチマルの言葉と共に放たれたのは確かなプレッシャー。ヨッカやヒバナ程錬成されたものではないにしろ、彼にもそれなりの実力はあるのだとオーカはこの時点で確信して…………
[ターン02]イチマル
「メインステップ!!…先ずはコイツ、ライダースピリット、仮面ライダーゼロワンを召喚!」
「………ライダー……スピリット??」
ー【仮面ライダーゼロワン】LV1(2)BP2000
突如現れた緑のシンボルが破裂。その中より出現したのは卓越された緑の体に赤い複眼を持つライダースピリット、ゼロワン。オーカのバルバトスにも負けず劣らずの強者の雰囲気を漂わせる。
そんなオーカは初めて耳にする「ライダースピリット」と言う名前を疑問視しているようであり、それを察したイチマルやヒバナが説明していく。
「なんだよオマエ、ライダースピリットも知らないでバトスピやってたのかよ………さては初心者だな?」
「あぁ、一応」
「ライダースピリットって言うのは通常のスピリット達よりも強力な効果を多く有した存在の事で、他にも似たような存在に私の使ったデジタルスピリット、そして今目の前にいるバルバトス、つまりモビルスピリットがあるの。そしてそんなライダー、デジタル、モビルスピリットの事を、総じて『世界三大スピリット』って呼ばれてるわ」
「ふーーーん……世界三大スピリット……」
ヒバナの説明である程度納得したオーカ。
この世界においての世界三大スピリット。今この世では多くのカードバトラーがその内のどれかを軸にデッキを組んでいる。それ程までにその三種のスピリット達の力が強いのだ。
「話の脱線はここまでだ。初心者だからと言って容赦はしないぜ、なんてったって、このバトルにはヒバナちゃんとのデートがかかってるんだからな!!」
「まぁやってあげても精々5分くらいかしらね」
「短い!!……でもまぁ5分でもいいや!!……ゼロワンが召喚された事により、手札にあるネクサスカード、ライズホッパーの効果発揮、このカードを手札からノーコストで配置する!」
「!!」
ー【ライズホッパー】LV1
神々しく、眩い天よりの光が差し込んで来ると、そこからバイク型マシーン、ライズホッパーが転送される。効果的にもどうやらゼロワンをサポートするカードのようだ。
「ライズホッパー配置時効果でボイドからコア1つをトラッシュに追加!」
「ッ……コアが増えた……」
「緑属性のカードの特徴ね、ライフが減らされなくとも着実にコアを増やしていく」
初めて緑属性のコアブースト効果をその目にかけるオーカ。正直ちょっとズルイと思ってしまったが、まぁカードの効果ならしょうがないかと直ぐに割り切る。
「さらにここで、召喚した仮面ライダーゼロワンの効果を発揮!!…ボイドからコア1つを自身に置き、オレっちの手札が3枚以下の時、デッキの上から5枚オープンして、その中のライダースピリット1枚を手札に加える!」
ー【仮面ライダーゼロワン】(2➡︎3)LV1➡︎2
「よし、当然効果は成功する!!…オレっちは仮面ライダーバルキリーラッシングチーターを手札に加え、残りはデッキの下に戻す」
「コアと手札を同時に増やした………」
「これでターンエンド!!…さぁさぁどっからでもかかって来いよ初心者チビ!!」
手札:4
場:【仮面ライダーゼロワン】LV2
【ライズホッパー】LV1
バースト:【無】
目まぐるしくデッキを回転させるイチマル。コアの量、手札の質を向上させ、そのターンをエンド。オーカにターンが巡ってくる。
[ターン03]オーカ
「メインステップ……新しいカード、早速使ってみるか……ネクサスカード、オルガ・イツカとビスケット・グリフォンを配置!」
ー【オルガ・イツカ】LV1
ー【ビスケット・グリフォン】LV1
オーカ初めてのネクサスカード。
オルガ・イツカは褐色肌でダンディな顔立ちの少年、ビスケット・グリフォンは帽子を被り、小太りした少年のイラストがそれぞれ刻まれている。
オーカの場や背後にそれらは姿を見せないが、当然ながらその強力な効果は使用できる。
「オルガ・イツカは配置した時に神託でデッキからカードを3枚トラッシュし、その中の対象カードの数だけ自身にコアを置く……今回は3枚全て対象のカードなので、コアを3つ追加だ」
ー【オルガ・イツカ】(0➡︎3)LV1➡︎2
特別なネクサスカード、創界神ネクサスであるオルガ・イツカのカード。その上にコアが3つ追加されるが、このコアは前のターンに行われたゼロワンのコアブーストとは違い、オルガ・イツカを対象とした効果でしか動かせないため、オーカの使えるコアが増えたわけではない。
「さらにビスケット・グリフォンの効果。自身を疲労させる事で、デッキからカードを1枚オープン。それが鉄華団カードなら手札に加える………!」
鉄華団デッキならば期待値の高い手札増加効果を持つビスケット・グリフォンの効果が適応。この効果でオープンされたのはオーカのデッキのエースカードである『ガンダム・バルバトス[第4形態]』のカード。よってそれが手札へと加えられた。
「流石オーカ。昨日覚えたネクサスカードをもう使いこなしてる………やっぱりセンスあるな〜〜〜〜」
「ム……オレっちの方がセンスあるぞヒバナちゃん!」
「はいはい」
オーカの上達の速さを見てヒバナが思わずそう言葉を漏らすと、イチマルが声を荒げる。余程ヒバナに褒められたいのだと推測できるが、当の本人はイチマルにセンスがあろうがなかろうが別にどうでも良さそうだ。
そんな2人の会話を耳にも入れず、オーカはさらにターンを進める。
「バルバトス第1形態じゃあの緑色のヤツには勝てない………ならこれでターンエンドだ」
手札:5
場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1
【オルガ・イツカ】LV2
【ビスケット・グリフォン】LV1
バースト:【無】
いつもは全力でフルアタックを見せるオーカだが、決して考える頭がないわけではない。ライフを削れないと判断し、このターンは見送った。
お互いに盤面が整い始めた所でイチマルにターンが巡る。
[ターン04]イチマル
「メインステップ!!……ここから一気に加速させる、仮面ライダーバルカンシューティングウルフとさっき手札に加えた仮面ライダーバルキリーラッシングチーターを召喚するぜ!」
「ッ………別のライダースピリット」
ー【仮面ライダーバルカンシューティングウルフ】LV1(2)BP3000
ー【仮面ライダーバルキリーラッシングチーター】LV1(1)BP3000
ゼロワンの両脇に出現したのは別種のライダースピリット………
青い体を持つのが仮面ライダーバルカン。オレンジ色で女性らしい細いフォルムの方がバルキリーである。どちらも同じマグナムを手に持っている事から、立場的に近しい存在なのが窺える。
「バルカンの召喚時効果、デッキから4枚オープンし、その中の対象カードを1枚手札に加え、残りはデッキの下へ………さらにバルキリーの召喚時効果でボイドからコア2つを自身とバルカンに、よって2体はLV2へ!!」
ー【仮面ライダーバルカンシューティングウルフ】(2➡︎3)LV1➡︎2
ー【仮面ライダーバルキリーラッシングチーター】(1➡︎2)LV1➡︎2
カードの補充とコアの増加。全く無駄と隙のない動きでカードを捌いていくイチマル。
オーカの場にはBPが低めのバルバトス第1形態のみと見て今度はアタックステップへと移行する。
「アタックステップ!!…ゼロワンもバルカンでアタックするぜ!」
「バルバトス第1形態でブロックしても勝てない……仕方ないか、ライフで受ける」
〈ライフ5➡︎4➡︎3〉オーカ
イチマルの指示に従いオーカのライフバリアを殴り蹴りで壊すゼロワンとバルカン。オーカのそのライフを一気に半数近くまで減らしてみせる。
先制点をもぎ取ったイチマルだが、オーカもオーカでBPでは勝てないバルバトス第1形態で無理なブロックはせず次に繋いでいるあたり、ナイスなプレイングであると言える。
「まぁそりゃブロックしないよな。これでターンエンドだ」
手札:4
場:【仮面ライダーゼロワン】LV2
【仮面ライダーバルカンシューティングウルフ】LV2
【仮面ライダーバルキリーラッシングチーター】LV2
【ライズホッパー】LV1
バースト:【無】
オレンジ色のバルキリーを守り手のブロッカーとして残し、そのターンを区切るイチマル。オーカにターンが回る事になる………
そしてこのターン、前のターンに加えたあのエースカードがようやく召喚できる………
[ターン05]オーカ
「メインステップ……LV3で来い、ガンダム・バルバトス・第4形態!!」
ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000
メイスと呼ばれる黒くて巨大な鈍器を片手に上空から着地して来たのはガンダム・バルバトス。その第4の形態。第1形態とは異なりしっかりと装甲が施され、機体としては万全の状態である。
「召喚により、創界神ネクサスのオルガ・イツカにコアを1つ神託」
「……どこからどう見てもそれがエースカードって感じだな……」
「あぁ。このターンで一気に追い詰める!!…アタックステップ、バルバトス第4形態でアタック!…効果でシンボルを1つ追加する」
メイスを片手に走り出すバルバトス第4形態。LV3の時は一撃でライフを2つ破壊できるダブルシンボルとなる。
さらに効果はまだそれだけではない。
「もう一つのアタック時効果でブロックできる方のライダースピリットからコア2個をリザーブに、よって消滅!!」
「!」
オレンジ色のライダースピリット、バルキリーに迫るバルバトス第4形態。その黒々とした鈍器、メイスを叩きつけるが…………
「………??」
バルキリーはその攻撃を難なく回避してしまう。当然な事に回避されたので消滅もできない。
この光景に疑問符を浮かべるオーカにイチマルが解説する。
「良い効果だけどやっぱ使い手がダメだな!!…バルキリーラッシングチーターの更なる効果、自分のライダースピリット全てのコアは1個より少なくならない!!」
「ッ……!!」
「気づいたか、スピリットのコアを0個にしないと消滅はできない。だからバルキリーがいる限り、そのバルバトスの効果はオレのライダースピリットには効かないんだよ!!」
紫属性お得意のコアシュート効果。それは相手スピリットの維持コアを0にし、消滅させる事でアドバンテージを得る効果。紫属性であるバルバトスもその例に漏れずそれを所有しているが………
イチマルの召喚したこのバルキリーは所謂メタカード。それが存在する限りオーカがバルバトスで有効打を取る事はかなり厳しくて………
「ダブルシンボルのアタックはライフだ!」
〈ライフ➡︎5➡︎3〉イチマル
当然な事に守りの要、バルキリーでブロックするわけにも行かず、バルバトス第4形態の攻撃はライフで受けたイチマル。
バルバトス第4形態のメイスが豪快にライフバリアに突き刺さり、それを木っ端微塵に一気に2つも砕いた。
「そんな防ぎ方もあったのか、やっぱ面白いなバトスピは………ターンエンドだ」
手札:5
場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1
【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3
【オルガ・イツカ】LV2
【ビスケット・グリフォン】LV1
バースト:【無】
カード効果の幅広さを知り、オーカはそのターンを終える。
効果が通らない事に塞ぎ込む事はなく、寧ろ新鮮だと言わんばかりに薄く口角を上げていた。
[ターン06]イチマル
「粋がってんじゃねぇぞチビ!!…オマエのライフはこのターンでゼロだ!!」
「!!」
「メインステップ!!…ゼロワンにコアを追加し、そのままアタックステップ……ゼロワンでアタック!」
メインステップの開始早々。スピリットにコアを追加するだけでアタックを仕掛けたイチマル。
ゼロワンがオーカのライフを再び討たんと拳を構えるが………
そのタイミングでイチマルが手札にあるカードを1枚切って………
「フラッシュチェンジ!!…仮面ライダーゼロワンシャイニングアサルトホッパー!!」
「チェンジ!?」
「チェンジはライダースピリット十八番の効果。このシャイニングアサルトホッパーはその効果で相手スピリット3体を疲労、さらにこのターンの間相手は疲労しているスピリットのコアを1個より少なくできない」
ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】(回復➡︎疲労)
突如として巻き起こる神風がオーカの場のブロッカーであるバルバトス第1形態に膝をつかせ、疲労させる。
………チェンジ。
それは主にライダースピリットが所有する特異な効果。一部のデジタルスピリットやモビルスピリットも使える例が存在するが、基本的にはライダースピリットが扱う印象が強い。
マジックのような感覚で手札から使えるが、その真価は効果発揮後に発揮される………
「この効果発揮後、対象としたライダースピリットと回復した状態で入れ替える!!…ゼロワンはこれでオレっちの最強カード、シャイニングアサルトホッパーに進化する!!」
「!!」
緑色のライダースピリット、仮面ライダーゼロワンがプログライズキーと呼ばれるカセットのようなモノをベルトに装填…………
……シャイニング!
アサルトホッパー!!
と言う甲高い音声と共に、頭上から降り立った巨大なバッタがゼロワンとリンク。これによりゼロワンは新たな姿、ゼロワンシャイニングアサルトホッパーへと変貌を遂げた。
ー【仮面ライダーゼロワンシャイニングアサルトホッパー】LV3(5)BP14000
「またフラッシュタイミングで姿が変わった……これがチェンジか」
「それだけじゃないぜ、バトル中のスピリットと入れ替わったチェンジスピリットは回復状態のままバトルを続ける事ができる」
「ッ……じゃあこのアタックと合わせて2回攻撃!?」
「その通りだ。言って来いシャイニングアサルトホッパー!!」
チェンジの最も優れている点はアタック中のスピリットと入れ替われば二度の攻撃が行えると言う事。シャイニングアサルトホッパーもその例に漏れずオーカのライフを破壊せんと歩みを進めていく。
そして、ここでもまたイチマルは効果を適用させて………
「シャイニングアサルトホッパーのLV2、3のアタック時効果、疲労している相手スピリット1体につき緑のシンボルを1つ追加する!」
「!」
「オマエの疲労しているスピリットはバルバトス第1形態と第4形態の2体、よってシンボルは2つ追加されて………」
「合計3つ……アイツは一撃で3つのライフを破壊できるって事か!?」
「そう。そしてオマエのライフも丁度残り3つ……これで終わりって事だよ!!」
「オーカ!!」
オーカの身を案じ、彼の名前を叫び、声を荒げるヒバナ。しかしそれで止まるわけもなく、シャイニングアサルトホッパーはオーカの元へと迫る………
二度目の攻撃を行うまでもなく、この一撃で終わり。少なくともイチマルの中ではそう言う算段だった…………
オーカがこのタイミングでカードを使うまでは…………
「そう簡単には終わらせない………フラッシュマジック、スネークビジョン!!」
「!!」
「不足コストはバルバトス第4形態をLV1にして確保………この効果でオマエのスピリット全てのコアを1個になるようにリザーブに戻す」
「なッー!?」
「……1個より少なくならないなら、みんな仲良く1個にするまでだ……行け、スネークビジョン!!」
ー【仮面ライダーゼロワンシャイニングアサルトホッパー】(5➡︎1)LV3➡︎1
ー【仮面ライダーバルカンシューティングウルフ】(3➡︎1)LV2➡︎1
ー【仮面ライダーバルキリーラッシングチーター】(2➡︎1)LV2➡︎1
オーカの放った1枚のマジックカード。それにより、紫色のオーラを纏った不気味で巨大な蛇がフィールド上空にて鳥栖を巻いて出現。その口内から放出される毒ガスがイチマルのライダースピリット全てのコアを消滅間近の1にしてしまう。
消滅はできなくとも、LV1にされるのは相当な痛手である。
「シャイニングアサルトホッパーのシンボルを追加する効果はLV2、3のアタック時効果だけ、つまりこのアタックで減らされるオレのライフは3点じゃなくて1点だ!!……ライフで受ける!」
「ぐっ、コイツ……!!」
〈ライフ3➡︎2〉オーカ
シャイニングアサルトホッパーは懐から斧のような武器を取り出し、オーカのライフバリアを叩き壊すが、LVを1まで下げられた事により、そのシンボルは1つ。
結果的にライフを残してしまうこととなった。
だが………
「だがそんなもんその場凌ぎにしかならねぇよ!!…オマエのスピリットは全て疲労状態、このターンで終わりに違いはねぇ!!……シャイニングアサルトホッパー、もう一度アタックだ!」
そう。
実際は大した問題にはならない。一撃か三撃になるかと言った程度であり、どちらにせよ3体のライダースピリットで攻撃を仕掛ければオーカのライフをこのターンで全て破壊する事が可能…………
な、はずだった…………
「さらにもう一度フラッシュマジック、ライフで減ったコアを使い、革命の乙女を使用!!」
「ッ……今度はなんだ!?」
オーカの場に長い鮮やかな金髪、赤いドレスが特徴的な可憐な乙女が出現。彼女がその目を見開くと、イチマルの場に紫の波動がその場を広く浸透して行く。
可憐な乙女はその後直ぐに消滅してしまうが、置き土産として残したそれはイチマルの場に多大なる影響を与えていて…………
「革命の乙女の効果……このターンの間、相手はスピリットでアタック、ブロックする時、そのスピリットのコアを1個トラッシュしなければアタック、ブロックできない」
「ッ……アタックにスピリットのコアを要求する効果?……バカかオマエ、コアシュート効果はバルキリーで………」
このターンのみ、相手のスピリットの行動にコア1個と言うコストを要求する革命の乙女の効果。
一見、イチマルの場にはコアシュート効果に対してのメタ効果があるバルキリーが存在するため、この効果は実質無効化され難なくアタックが行えるように見える…………
しかし、実際は異なっており…………
「い、いや違う……この手の効果はスピリットじゃなくてプレイヤー自身に掛かる効果だから、もしかしてイチマルのスピリット全てはもうこのターンアタック宣言すらできなくなってるんじゃ………」
「!?!」
ヒバナが気づき、イチマルは察した。
そう。このターン、革命の乙女の効果で、イチマルはアタックするスピリットのコア1個をトラッシュしなければアタックできないのだ。しかしバルキリーの効果でそのトラッシュ送りを阻害。
それが故に、イチマルはこのターン、アタック宣言そのモノが行えない。
「シャイニングアサルトホッパーの二度目のアタックもライフで受ける……!!」
〈ライフ2➡︎1〉オーカ
効果が適用される前に既にアタック宣言をしていたシャイニングアサルトホッパーのアタックは有効。手に持つ斧状の武器で再びオーカのライフを破壊した。
遂に残り1つまで追い込むも、スネークビジョンと革命の乙女のコンボでイチマルはこれ以上の攻撃ができなくて………
「ターンエンド………なんだったんだよ今の動きは、カード捌きは………コイツ本当に初心者なのかよ!?」
手札:5
場:【仮面ライダーゼロワンシャイニングアサルトホッパー】LV1
【仮面ライダーバルカンシューティングウルフ】LV1
【仮面ライダーバルキリーラッシングチーター】LV1
【ライズホッパー】LV1
バースト:【無】
「………凄いオーカ……たったの1日でこんなに強くなるなんて……」
余りにも早過ぎるオーカの成長に戦慄する2人。
彼の歯に着せぬ物言いや常に堂々した振る舞いもあり、その印象をより強く際立たせている。
「行くぞチャラい髪の人……このターンで決める……!」
「!」
そんなオーカの返しのターン。初心者らしからぬ凄みとオーラがイチマルを怯ませる。
そして疲労していた2体のバルバトスが立ち上がり、オーカの反撃が幕を開ける…………
[ターン07]オーカ
「メインステップ……バルバトス第4形態のLVを最大に戻す!」
ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】(1➡︎4)LV1➡︎3
再びLVを最大に引き上げるバルバトス第4形態。もう勝利への道筋は決まっているのか、オーカはその後すぐさまアタックステップへと移行する。
「アタックステップ、その開始時に創界神ネクサス、オルガ・イツカの【神技】の効果発揮!」
「ッ……ここで創界神ネクサスを……」
「自身の上に乗ったコアを4つボイドに置き、トラッシュにある鉄華団カード1枚をノーコストで場に呼ぶ!」
「トラッシュからカードを………!?」
このタイミングで発揮される創界神ネクサスのオルガ・イツカの効果。神託や効果で散々肥やしたトラッシュの中からオーカは1枚のカードを取り上げると、それを己のBパッドへと叩きつける。
「ようやくお出ましだ……来いパイロットブレイヴ、三日月・オーガス!!……バルバトス第4形態と合体!」
「!」
ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV3(4)BP18000
モビルスピリットを強化するカード、パイロットブレイヴの一種、三日月・オーガスがバルバトスに合体される。見た目は何も変わらないが、バルバトスには別の何かが宿ったかのように緑色の眼光が強く光って………
「来た、鉄華団の……バルバトスのパイロットブレイヴ……パイロットブレイヴが付けられたモビルスピリットの性能は他のスピリットを軽く凌駕する……」
ヒバナがそう言葉を漏らすと、オーカは合体したバルバトス第4形態を動かすべくアタックステップを続行させて………
「アタックステップ続行……行け、バルバトス第4形態!!…効果で紫のシンボルを1つ追加、三日月との合体により、そのシンボルの合計は3つだ!」
「くっ……オマエもトリプルシンボルスピリットを……」
その性能を引き出されたバルバトスの強さは群を抜いていた。このバトルがブロックされなければ前のターンのゼロワンシャイニングアサルトホッパーと同じく3点のライフを破壊できる。
しかし、それを阻む壁は多い………
「だけどいくらシンボルを増やしてアタックしても、ブロックして仕舞えばなんともない……バルバトスのコアシュート効果はバルキリーで凌げる!」
そう。どんなに強力なアタックもブロックして仕舞えば意味がない。バルバトスの効果をメタるバルキリーが存在する以上突破するのも難しい………
だが、不可能を可能にしてしまうのが鉄華オーカミの鉄華団のカード達であり…………
「今のバルバトスにその効果は効かない………合体した三日月の効果発揮!!」
「!」
「このターンの間、相手スピリットかネクサス1つのLVコストを1上げる……対象はバルキリーだ!」
「な……LVコストを上げる!?」
ー【仮面ライダーバルキリーラッシングチーター】(1)消滅
突如として足元から崩れ去り、消滅してしまうバルキリー。効果では決して消滅しないはずのそれが消えてしまったわけは維持コストの変動。
消滅とは維持コアがLV1コストよりも少なくなった場合に行われる処理。
通常ならほとんどのスピリットの維持コストは1で、消滅するにはコアを0個にするのが基本だが、今回、三日月の効果でそれが変動。バルキリーのLV1コストは1個から2個に変わり、結果、コアが1個のみのバルキリーはコア不足により消滅してしまったのだ。
「さらに三日月のさらなる効果で場の鉄華団スピリット1体につき、相手リザーブのコアをトラッシュに送る……オレの場にはバルバトス第1形態と第4形態、2体いる事により、アンタのリザーブ2つをトラッシュに送る!」
これだけでは終わらないパイロットブレイヴ三日月の効果。コアをトラッシュに送る事でイチマルの使えるコアを減少させた。
「そして、バルキリーが消えた事で、バルバトスのコアシュート効果は有効!!」
「あ………」
「バルカンとシャイニングアサルトホッパーのコアを1つずつリザーブに置き、消滅させる!」
「ま、マジで言ってんのかよ!?」
ー【仮面ライダーゼロワンシャイニングアサルトホッパー】(1➡︎0)消滅
ー【仮面ライダーバルカンシューティングウルフ】LV1(1➡︎0)消滅
水を得た魚の如く、地を駆けるバルバトス。黒い鈍器、メイスを振り回し、バルカンとシャイニングアサルトホッパーを吹き飛ばして行く。
2体のライダースピリットはなす術なくコアがなくなり、その場で消滅してしまう………
そしてこれでイチマルのブロッカーはゼロ。残った3つのライフを守ってくれる頼もしい存在はもうどこにもいない………
後はただただその攻撃を受け止めるのみ…………
「合体しているバルバトスのシンボルは3つ!!…一撃で3つのライフを破壊できる!」
「う、ウソだろ……まさかオレっちが………ライフで受ける……」
〈ライフ3➡︎0〉イチマル
迫り来るバルバトス第4形態。ライフを討つべくメイスをライフに叩き込む。イチマルの残ったライフは容赦なく消し飛んでいった………
ピー………
瞬間。そう言った無機質で甲高い音声がイチマルのBパッドから鳴り響く。それはこのバトルの勝者と敗者を同時に告げるサイレン。そしてこのバトルの勝者は鉄華オーカミ。見事にカード達を使い熟し、勝利して見せた。
「やったオーカ!!…凄いじゃんホント!…もうデッキを自分の手足のように動かせてるよ!」
「まぁヒバナが今日の授業の合間にカードの事教えてくれたからね。オルガ・イツカとか多分教えてくれなかったらわからなかった」
「えへへ」
照れるように頬をかくヒバナ。どうやらオルガ・イツカ、三日月・オーガスと言った新しいカードをオーカがある程度スムーズに動かせたのは彼女の教授があってこそのようだ。
それにしてもオーカの成長や直感には目を見張るモノがあるが………
「おいオマエ、鉄華オーカミとか言ったな」
敗北したイチマル。悔しさからか歯を噛みしめながらただならぬ雰囲気を漂わせながらオーカの元へと歩み寄って行く。
「ちょっとイチマル!!…アンタまだ懲りてないわけ!?…決闘なら一発勝負に決まってるでしょ、往生際が悪いわよ!!」
「いや、今回の負けはちゃんと認めてるよヒバナちゃん………見事な戦いぶりだった………ただオレっちはだなオーカミ。オマエを我がライバルとして認めたいだけだ」
「?」
「この去年ジュニアクラスベスト8の鈴木イチマルに認められたんだオマエは、光栄に思えよな!」
「ふーーん……まぁいいや、よろしく髪のチャラい人」
「誰が髪のチャラい人だ!!…鈴木イチマルだってちゃんと名乗っただろ!?…こんなわかりやすい名前他にいないよ!?」
イチマルの圧倒的な開き直りの速さにヒバナも少々呆れ気味………
そんな彼に好敵手認定されるオーカ。キョトンとした様子になるが、すぐさまそれを受け入れる。
「ワハハ!!…見てろよオーカミ!!……オレはいつかオマエにリベンジして、必ずヒバナちゃんとデートして見せるからな!」
「まだ諦めてなかったんかい!!」
「オレっちは生まれてこの方、ヒバナちゃん一筋だぜぇ!」
………どうでもいいけど、早く約束の卵パン奢ってくれないかな………
オーカがそう思い馳せ、空腹で腹の音を立てる。
これで、一つ歳上でモテたがりのチャラい少年鈴木イチマルによる決闘の騒動は幕を閉じたのだった。
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ほぼ同時刻。こかはオーカがバイトしているカードショップ「アポローン」………
平日の昼間と言う事もあり、子供達はおらず、店としてはあまり賑わっていないこの時間帯。店長である青年、九日ヨッカはダンボールに詰められた新品のカードパックを運んでいた。
非常に面倒臭い作業ではあるが、中学生のオーカ1人にやらせるわけにもいかないため、こうやってこの時間帯は自分が業務をこなしているのだ。
するとそんな時、この時間帯では滅多に開かない自動ドアが音を立てながら開いて行く。お客様がいらっしゃったのだ、ヨッカは気合を入れて挨拶をするが…………
「いらっしゃい!………ん、君は……確か」
歳は精々オーカ達よりも僅かに上程度か。縛っていない青々とした鮮やかな長い髪、モデルのようにスマートな体型、総合的に天女のような美少女がこの店に来店して来た。
どうやらかなり知名度がある人物なのか、ヨッカも思わず作業の手が止まってしまう。そんなヨッカを見て、青髪の少女は口を開くと………
「最近ここに、バルバトスと言う未知のモビルスピリットを所有するカードバトラーが現れたと情報を耳にしました」
「!」
「わたくし、是非その方とお会いしたいのです。何か知っていたら教えてくださいね、お兄さん」
甘いルックスに甘い声色。そんな彼女の口から発したのは他でもないオーカの持つ鉄華団、バルバトスのカード。
どうやらここから少々、ちょっとした波乱がオーカを待ち受けているようだ…………
次回、第4ターン「バルバトスとダブルオー」