「お疲れ様です!!……お届け物に参りました!!」
「どうも」
夏休みも終了間近のとある日。鉄華オーカミが働くカードショップ「アポローン」にて、赤いエプロンを着用した、明るく元気な女の子の声が響き渡る。
艶やかで黒髪ロングが特徴的な女の子。清楚で大人びた印象を受けるが、年齢は目の前のオーカミと何ら変わらないように見える。その手には小さめのダンボールが収められているため、おそらくどこかから送られて来た小包を届けに来てくれたのだろう。
「どこかに何か書けばいいかな?」
「………」
「なに」
オーカミが、濃ゆい赤色のエプロンの袖口からペンを取り出しながら、そう彼女に問い掛けるが…………
彼女はオーカミをその目に入れるなり、唇を震わせていて………
「て、鉄華オーカミだ!!!」
「は?」
「凄い、ホントにいたんだ!!……わ、わわ私、夏恋フウって言います!!……カードショップ「ゼウス」でアルバイトしてます!!」
「あぁ、あのオカマの人の所」
「界放リーグの活躍見ました!!……とっても強かったです!!………よ、よろろよろしくお願いします!!」
「うん、よろしく」
緊張しながら話す少女の名前は夏恋フウ。カードショップ「ゼウス」とは、厳ついオカマな店長「ランスロット・武井」が経営するジークフリード区のカードショップの1つだ。
以前、オーカミも色々あって一度だけお邪魔した事がある。
「私、アレなんです。あの、えっと………ライちゃん。春神ライちゃんのお友達なんです!!」
「誰」
「えぇ!?……この間、バトスピアイドルの青葉アカリさんのライブを一緒に観にいったんじゃないんですか!?!」
「あぁ、新世代系女子の事。アイツと知り合いなんだ」
夏恋フウは、春神ライの大親友。
フウは、変な渾名で呼ばれて覚えられているライが気の毒に感じた。
「あ、そうそう!!……今日のお荷物凄いんですよ〜〜このダンボールの裏っ側見てください!!」
「………」
……『喧しい女の子だなぁ』
と、思いつつも、オーカミはフウからダンボールを受け取って、その裏側を視認する。
するとそこには達筆な文字で『鉄華オーカミ様へ』と記載された封筒が貼り付けてあって…………
「ッ………これ、どこで」
「それが、私も店長もわからないんです。アポローン用のダンボールに、知らない内に貼り付けられてて……」
「…………」
割と久し振りに来たこの封筒。中にはおそらく鉄華団の新しいカードが封入されているに違いない。
「うん。まぁ取り敢えず貰っとくよ、ありがとう。外暑いし、お茶でも飲んでく?」
「え……や、優しい!?!………うんうん、こりゃ惚れるのわかるわ〜〜」
「飲まないの?」
オーカミの素朴な優しさに胸が苦しくなるフウ。ライが彼の事を好きになってしまう理由がよくわかった。
そしてそんな折、またお店の自動ドアが開き、1人の人物が来店して来る。
一木ヒバナだ。
「ヤッホーオーカ、遊びに来たよ〜」
「ん、お疲れ」
「わぁ!!!……一木ヒバナさんだァァァ!!!」
「えぇ!?……なになに」
一木ヒバナの登場に、フウの落ち着きつつあったテンションがまた上昇する。
「凄い、凄いよこのお店!!……界放リーグ準優勝者がアルバイトしてて、ベスト4の1人が常連さんだなんて!!!……流石はヨッカさんの経営するお店!!」
「えと、オーカ、この子は??」
ヒバナがオーカミに訊いた。
「新世代系女子の友達だってさ」
「え、そうなの?……ライちゃんの友達!?」
「そうなんです!!……私、夏恋フウって言います!!……ライちゃんとは、親友オブ親友の関係なんですよ〜〜!!」
「私もこの間、ライちゃんとはアカリンのライブ一緒に行って、仲良くなったんだ〜〜!!……よろしくね、フウちゃん!!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!!……あ、お二人とも、よろしければサインをいただけないでしょうか?」
フウは、まるで狙っていたかのように色紙とペンを取り出して、2人に差し出して来た。
「え、サイン!?……私達の!?」
「ですです!!」
「こ、困ったな、私そう言うのは書いた事なくて………」
「まぁ、適当に名前だけ書いてあげればいいんじゃない?」
無下にもできないため、2人は交互にペンで色紙にフウの名前を記入した。ヒバナはそれだけでは申し訳ないと思ったのか、一応ハートマークも添えている。
「わぁ!!……ありがとうございます、ありがとうございます!!……一生の宝物にします!!……ありがとうライちゃん、私に広い交友関係を築かせてくれてありがとう!!」
「情緒の忙しい奴だな………」
「あっはは………」
「それではまだお仕事がありますので、これで失礼致します!!……ありがとうございました!!」
合計5回のありがとうを告げると、フウはサイン入り色紙を大事そうに鞄へしまい、ようやく2人へ元気よく手を振って、アポローンを後にした。
まるで嵐が過ぎ去った後のように、店内は静まり返る。
「夏恋フウちゃん……ライちゃんの友達、なんか納得かも。そういえばオーカ、今日ヨッカさんとミツバさんは?」
「あぁ、アニキもアネゴも今日は非番だよ。人も少ないだろうし、1人でやれるだろーって」
「えぇ……大変だね」
「慣れたよ」
オーカミとヒバナは2人でたわいもない話題で会話していると、ヒバナの目にオーカミの手に持つ封筒が目に飛び込んで来る。
「あ、それって噂の支給品??」
「ん?……あぁコレ、うん。さっきの子が届けてくれた。そう言えば、届くのは結構久し振りだったな」
「へ〜〜……綺麗な字」
鉄華オーカミに届く、鉄華団のカードが入った封筒。宛名もなく、未だに誰が何のために送りつけてくるのかも不明だ。
そんな封筒に、ヒバナは興味津々な様子で…………
「ねぇ、今開けてみようよ」
「今?」
「うん。私も新しい鉄華団のカードみたいし」
「……まぁ、いっか」
正直、まだバイト中なので、家に帰ってから開封しようと思っていたが、まぁ楽しみじゃないかと言われたら普通に楽しみなので、オーカミは、表情からは読み取り辛いが、少しワクワクした気分でそれを開封。中身のカードをヒバナと確認する。
そのカードは…………
「ガンダム・バルバトスルプス………??」
そう名の刻まれたカードだった。系統はもちろん「鉄華団」………
「これってひょっとして、バルバトスが進化した姿なんじゃ!?」
「…………」
カードのイラスト枠には、いつもの相棒「バルバトス」がより逞しい姿で剣のような武器を構えている絵が描かれている。
ヒバナの言う通り、名前からして先ず間違いなく、バルバトスの進化形態であろう。
「………」
「オーカ?」
今までも何度かあった「鉄華団」カード達との邂逅。最初こそ興味などなかったものの、バトスピを通し、鉄華団達を知れば知るほど、愛着が湧いていった。
そして、今回の新しい鉄華団「ガンダム・バルバトスルプス」…………
愛着のあるデッキの中でも、特に自分が相棒とも呼んでいる「バルバトス」の新しい姿に、今、彼は夢中になり、視線はそれに釘付けにされていたのだ。
「ねぇヒバナ。やっぱバトスピって良いな。オレ多分一生飽きないと思う」
「ふふ、私もだよ」
新しいカード達との出会いに、薄く口角を上げて、全力で喜ぶオーカミに、ヒバナがそれを見て優しい笑顔で微笑む。
早く新しいカードをデッキに入れて試したい。
そんな気持ちを込めて、オーカミがヒバナにバトルを懇願しようとした直後、再びアポローンの自動ドアが開いた。
「よぉ。鉄華オーカミ」
「!!」
2人がそこへと視線を向けると、そこには自分達より1つ歳上の中学3年で、もうすぐ受験だからと、界放リーグ後は全く一緒にいられなかった、鈴木イチマル。
そんな彼を見るなり、真っ先に声を掛けたのは、彼が好意を持つヒバナだった。
「イチマル!!……久し振りね、どうしたの今日は?……わかった、勉強の息抜きでしょ?」
彼女もなんやかんやイチマルの事を心配していたのか、思いの外明るく彼に接するが…………
「どけ」
「え?」
その口から放たれた意外な一言に、この場の空気は静まり返り、ヒバナの思考が停止する。
そしてイチマルは、片手でヒバナを軽く押し出すと、その先にいるオーカミの前へと立った。
「どうしたのイチマル。なんか今日は変じゃない?」
「別に変じゃないさ。オレはな」
オーカミがいつもの飄々とした顔つきでそう質問する。
一人称が「オレっち」ではなく「オレ」と言うようになったイチマル。醸し出す妙な雰囲気と合わせて、やはり何かが変だ。
「オレのコンディションなんてどうでもいい事さ。鉄華オーカミ、明日オマエにバトスピの決闘を所望する」
「!!」
「早朝、ヴルムヶ丘公園のバトル場にて待つ」
そんなイチマルがオーカミに提案して来たのは、バトスピによる決闘。
彼とは、最初に出会った時にも学校の屋上で決闘をした事があるため、オーカミは今のイチマルの不気味さと同時に、懐かしさも感じた。
「今じゃダメなのか?」
「あぁ、急にけしかけて勝っても、ちゃんと調整したオマエのデッキじゃないと、意味がないからな」
イチマルは直後に、オーカミの肩に手を置きながら「逃げんじゃねぇぞ」とだけ告げると、アポローンを後にした。
先程とは打って変わって白けた店内、オーカミとヒバナは互いに顔を見合わせる。
「イチマル、どうしちゃったんだろ」
「さぁね」
「もしかして、最近何かあったんじゃ……!?」
「…………」
ヒバナにそう言われ、オーカミはこの間、スーパーのバトル場にて、イチマルとブスジマとその兄に会った事、そしてブスジマの兄とのバトル直後に、突然イチマルが姿を眩ました事を思い出す。
自分が知る限りだと、そのタイミングしかないが………
「ま、明日になればわかるでしょ」
あまり深く物事を考えないオーカミ。イチマルとの決闘は一応引き受けるようだが、彼の口調や態度が一変した事について全く関心を示さない。
しかし、彼のそう言う、人との関わり方がやや不器用で、淡白な面が、イチマルの不満をさらに掻き立てていた事を、まだ知らなくて…………
******
翌日、その早朝。
鳩のなんとも言えない呑気な鳴き声がこだまする、ジークフリード区にある広い敷地を有する公園、ヴルムヶ丘公園。普段の休日であれば、多くの人々が使用するこの場所だが、早朝と言う事もあり、今はランニングや犬の散歩をしている人が偶に通るくらいだ。
そんなヴルムヶ丘公園のバトル場にて、鉄華オーカミと鈴木イチマルは、決闘の約束を果たすべく、Bパッドを構え、対面していた。その直ぐ側にはイチマルが心配で様子を見に来た一木ヒバナも確認できる。
「よく逃げずに来たな、鉄華オーカミ」
イチマルがオーカミに告げた。
「当然だ。バトルからは逃げない。それに、オマエとのバトルは楽しいからな」
「……そりゃ、ずっと勝ってれば楽しいだろうよ」
「?」
怨念含んだ言葉を言い放つイチマル。
それを聞いたヒバナが「……やっぱり今のイチマル、なんか変」と呟く。
「お喋りはもういいだろ。やろうぜ、バトルスピリッツをな」
「あぁ、バトル開始だ」
「今日こそオマエを、ぶっ潰す!!」
………ゲートオープン、界放!!
夏の日差しが差し込んでくる中、鉄華オーカミと鈴木イチマルのバトルスピリッツが幕を開ける。
先攻はイチマルだ。打倒オーカミに燃え、そのターンを進めていく。
[ターン01]イチマル
「メインステップ、仮面ライダーゼロワンを召喚」
ー【仮面ライダーゼロワン】LV1(1)BP3000
イチマルの場に現れたのは、緑のライダースピリット、ゼロワン。
「ゼロワンの召喚に合わせ、手札にあるネクサス、ライズホッパーの効果が発揮。自身をノーコストで配置し、配置時効果でトラッシュに1つコアブースト」
ー【ライズホッパー】LV1
天空より差し込んで来た光より、イチマルの横へ出現したのは、バイク型マシーン「ライズホッパー」…………
その効果で緑属性十八番のコアブーストを披露する。
「さらにゼロワンの召喚時効果。ボイドからコア1つを自身に置き、手札が3枚以下ならデッキの上から5枚オープン。その中にあるライダースピリット1枚を手札に加える」
今のイチマルの手札は3枚。よって彼のデッキから5枚のカードがオープンされる。
「オレは「ゼロワン フライングファルコン」を手札に加えて、残りはデッキの下に戻す」
「召喚時にコアブする奴か」
「最後にバーストをセットして、ターンエンド」
手札:3
場:【仮面ライダーゼロワン】LV1
【ライズホッパー】LV1
バースト:【有】
合計2コアのブーストに加え、手札の補強からバーストまで備えたイチマルの第1ターン。
過去最高の滑り出しとも言える好調でスタートを切り、彼はターンをオーカミへと譲った。
[ターン02]鉄華オーカミ
「メインステップ、創界神ネクサス、オルガ・イツカを配置」
ー【オルガ・イツカ】LV1
「配置時の神託で、デッキの上から3枚をトラッシュ。対象カードは3枚、オルガにコア+3だ」
オーカミの初動は鉄華団デッキにおいて重要な役割を担う創界神ネクサス「オルガ・イツカ」…………
「ターンエンドだ」
手札:4
場:【オルガ・イツカ】LV2(3)
バースト:【無】
今はそれ以外で使えるカードがなかったか、オーカミはそのターンをエンドとする。
「フ。なんだ、それだけかよ」
「………」
短いターンを終えたオーカミを軽く煽ると、イチマルは再び巡って来た自身のターンを進めていく。
[ターン03]鈴木イチマル
「メインステップ、フライングファルコンをLV2で召喚」
ー【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV2(4)BP6000
イチマルの2体目は、前のターンに効果で手札に加えた、ゼロワンの亜種形態「フライングファルコン」…………
装甲の色が薄い緑の通常形態とは異なり、マゼンタのカラーが色濃く目立つ。
「さらにゼロワンの召喚に合わせ、2枚目のライズホッパーの効果を発揮だ」
「!!」
「これをノーコストで配置し、トラッシュに1つコアブースト」
ー【ライズホッパー】LV1
2機目のライズホッパーがイチマルの横に配備される。
それの効果でコアが増えると共に、フライングファルコンの召喚時効果も発揮されて…………
「フライングファルコンの召喚時効果、トラッシュとゼロワンに1つずつコアブースト。この勢いでゼロワンのLVは2となる」
一気に2つものコアが増加する。前のターンで合わせてこれで5個目。
第3ターンにして、コアの総数は「10」となる。
「今日はやたらコアとシンボルを稼ぎたがるな」
「そりゃ、バトスピはコアとシンボルが要だからな。アタックステップ、フライングファルコンでアタックする」
腕を翼のように広げ、上空へと飛び立つフライングファルコン。その狙う先は当然オーカミのライフバリア。
前のターンにネクサスの配置のみでターンを終わらせた彼は、この攻撃をライフで受ける他ない。
しかし、それは茨の道であり…………
「ライフで受ける………ぐっ!?」
〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ
「ッァァァァ!?!」
上空から放った、フライングファルコンの飛び蹴りが、オーカミのライフバリアを襲い、1つ砕く。
だが、その際に、まるで連動するかのように、オーカミの身体へ激痛が駆け抜けて…………
「オーカ!?……どうしたの、オーカ!?」
「なんだ、今のは。身体が、痛い」
予想だにしなかった激痛に、オーカミは思わず片膝を突く。
通常、Bパッドで召喚したカード達は皆飽くまで立体的な「映像」であるため、先ずバトルダメージで痛みなど発生しない。
だが、さっきのフライングファルコンの一撃は、確かにライフバリアの破壊と共に、オーカミに激しい痛みを与えた。嘘のような信じられない話だが、現実にオーカミは虚を突かれ、片膝を突いている。
「イチマル、何したのアンタ!!」
このバトル、何かがおかしいと感じたヒバナが、イチマルに問い掛けた。
「何って、ただライフを破壊しただけだよ、ヒバナちゃん」
「ライフを破壊しただけでオーカがあんなに痛がるわけないでしょ!?」
「さぁ立てよ鉄華オーカミ。オマエがライフ1つを破壊された程度で、諦めるわけないよな?」
ヒバナに対して、イチマルは、部外者は引っ込んでろと言わんばかりにオーカミを煽る。
そして、そんな彼に呼応するかのように、オーカミは膝をゆっくりと地面から離し、身体を揺らしながらも立ち上がる。
「当然だ。もっと来いよ」
「ちょっとオーカ!!……もうやめよう、このバトル、なんか普通じゃない!!」
それでもイチマルとのバトルを続行しようとするオーカミに対し、ヒバナが制止を呼びかけるが…………
「でも、一度受けたバトルからは逃げられない。その相手がイチマルなら、尚更だ」
「………オーカ」
文字通り命が削られるようなバトルダメージを受けても尚、立ち上がってバトルをしようとするオーカミ。
剥き出しなった闘争本能は、もうバトルが終わるまでは誰にも止められない。
「フ……それでこそ鉄華オーカミだ。これ以上のアタックはしない、ターンエンド」
手札:2
場:【仮面ライダーゼロワン】LV2
【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV2
【ライズホッパー】LV1
【ライズホッパー】LV1
バースト:【有】
追撃は行わず、イチマルはそのターンをエンド。
オーカミへとターンが巡っていく…………
******
同時刻。
朝の日差しさえも届かない影の空間、ジークフリード区の広大な路地裏にて…………
高身長、白髪、褐色肌のオーカミの兄貴分「九日ヨッカ」と、サングラスをかけた、界放警察の警視、コードネーム「アルファベット」…………
この2人のナイスガイが対面していて…………
「アルファベットさん。もう十分だろ、オレはこの目で早美アオイと包帯巻きになったDr.Aが接触しているのを確認したんだ」
「…………」
「オレとアンタの2人で、早美邸へ乗り込もう。アンタだって、Dr.Aを捕らえたいはずだ」
早美アオイとDr.A。
Dr.Aとは、6年前に界放市を中心に世界を滅ぼそうとした、後の『A事変』と呼ばれる大きな事件を引き起こした狂気の科学者。
英雄となった少女『芽座椎名』によって倒されたはずだが、なぜか今でも生きながらえており、早美アオイと手を組んでいる。
故に、今の彼は『早美邸』と言う彼女が住む豪邸に匿われている可能性が極めて高いのだ。だからこそ、ヨッカは一刻も早く乗り出し、問題を解決したかったのだが……………
「……ダメだ」
「なんでだよ。アイツを野放しにすると、また界放市がとんでもない事になっちまうかもしれないんですよ!?」
「オマエの証言だけでは逮捕状は出ない。つまり、オレが自ら動く事もできないと言う事だ」
威厳のある顔付き、声色で淡々と自分が動けない理由を説明するアルファベット。
理屈はわかるが、ヨッカは納得ができない。
「警察の都合の問題じゃないでしょ……早くどうにかしてください」
「焦っても、何も始まらないぞ九日。オマエにバトスピを教えた師である「春神イナズマ」が気掛かりなのもわかる。元々Dr.Aの部下だった彼は、今はDr.Aに誘拐されている可能性が高いからな」
「…………」
「今は待て、もうすぐ必ず確固たる証拠を見つけて見せる」
春神イナズマ。
それは、九日ヨッカにバトスピを教えた師であり、Dr.Aの元部下。
今はこれしか伝えられない。
「それに、オレとオマエだけで早美邸へ乗り込んだところで、勝てる保証はない」
「界放警察の人で他に強い奴はいないんですか」
「いないな。少なくとも早美アオイに対抗できる奴は…………」
アルファベットは「だが」と、言葉を続ける。
「助っ人を考えている」
「助っ人?……誰ですか、早美アオイと並ぶ実力者なんて早々いやしないですよ」
「オマエもよく知っている2人………「鉄華オーカミ」と「春神ライ」だ」
「!?!」
アルファベットが早美邸へ乗り込む際に共に行動する助っ人として考えている人物は弟分の「鉄華オーカミ」と、同居人である少女「春神ライ」の2人であった。
2人の名前を聞いた途端、ヨッカは直ぐに頭へ血が昇って…………
「馬鹿なのかアンタ!?!……あの2人はまだ13と14の子供だぞ!?」
「だからなんだと言うのだ。カードを持つ以上、彼らは立派なカードバトラーだ」
「それ以前の問題なんだよ!!……第一、ライをDr.Aに合わせるわけには……」
合わせられる戦力は、子供であっても強引に全て合わせたい考え方を持つアルファベットと意見が分かれる。
これに関してはアルファベット側が明らかにおかしい。何故市民の安全を守る側に立つ警察の人間が市民を、しかも子供を巻き込んでまで事件を解決させようとしているのか…………
「兎に角ダメだ。2人は巻き込めねぇ……乗り込む時はアンタとオレとで十分だ」
「…………」
最後にそれだけ言い残すと、ヨッカは苛立ったように振り向き、この場から去って行った。
アルファベットは、彼の背中が小さくなっていくのを見届ける。
「まだ子供か………」
思い出したようにそう呟くと、彼の脳内で、界放リーグ決勝でのオーカミのバトルと、ライのバトルの2つが同時に流れ出す…………
それはいずれも、未来を見据えた、勝利へ誘われるバトル。
「オレには、
******
再び視点は戻り、鉄華オーカミと鈴木イチマルのバトルスピリッツ。
ライフダメージによる激痛に耐えたオーカミが、反撃の狼煙を上げる。
[ターン04]鉄華オーカミ
「メインステップ、モビルワーカーを召喚」
ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000
「対象スピリットの召喚により、オルガにコア+1」
このバトルでオーカミがはじめて召喚したスピリットは、車両型のスピリットで、鉄華団の中では最軽量のモビルワーカー。
「これで、オルガに乗っているコアは4つだ」
「………」
前のターンの神託でトラッシュに送られているカードを把握しているイチマルは、次にオーカミがやろうとしている一手を瞬時に理解する。
そして、オーカミはメインステップから、アタックステップへと移行し…………
「アタックステップ。その開始時に、オルガの【神技】を発揮、コア4つを取り除き、トラッシュから鉄華団カードをノーコスト召喚する」
「……来いよ」
「大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態!!……LV3で召喚!!」
ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000
上空から、大地を震撼させる程の勢いで着地したのは、白い装甲、黄色いツノを持つ、鉄華団スピリットのバルバトス、その第4形態。
黒き戦棍メイスを手に握り、イチマルの方へと構える。
「………待ってたぜ、バルバトス第4形態。オマエごと鉄華オーカミをぶっ潰してやんよ」
「アタックステップ続行だ。行け、バルバトス第4形態!!」
登場して早々、オーカミの指示でフィールドを駆け抜けるバルバトス第4形態。
その狙いは突然の如く、イチマルのライフバリアだ。
「アタック時効果、相手のスピリットのコア2つをリザーブへ!!……対象はゼロワンだ」
ー【仮面ライダーゼロワン】(3➡︎1)LV2➡︎1
「フ……2つ程度のコア除去で消えるゼロワンじゃないぞ」
バルバトス第4形態はメイスを大地へ叩きつけ、いわゆるストーンエッジと呼ばれる岩の破片を連らせ、ゼロワンを攻撃する。
だが、イチマルのコアブーストが幸いしたか、LVこそダウンしてしまうものの、消滅までは至らなかった。
「本命の効果はここからだ。バルバトス第4形態は、LV3のアタック時、紫のシンボルを1つ追加し、ダブルシンボルになる!!」
バルバトス第4形態はこの効果でダブルシンボルとなり、一撃で2つのライフバリアを粉砕できる力を得る。
イチマルはこれをゼロワンでブロックするか、ライフで受けるかの二択を迫られるが…………
「ライフで受ける」
〈ライフ5➡︎3〉鈴木イチマル
躊躇なく、ライフで受けるを宣言。バルバトス第4形態のメイスによる一撃が、彼のライフバリアを一気に2つ破壊した。
前のターンでオーカミのライフバリアが破壊された時と違い、彼は痛がるそぶりすら見せない。
さらにその直後、このタイミングで使える、手札の1枚のカードを使用して…………
「オレのライフが減少した事で、手札の絶甲氷盾の効果を発揮」
「!!」
「手札からノーコストでこれを使用。効果により、このバトル終了時、鉄華オーカミ、オマエのアタックステップは終了となる」
「…………」
放たれたのは汎用性の高い白の防御マジック「絶甲氷盾〈R〉」…………
これにより、オーカミはこれ以上の追撃を、行いたくても行えない状況となってしまう。
「バルバトス第4形態のLV2、3の効果。自分のアタックステップ中、各バトル終了時、トラッシュにある鉄華団スピリットカードを、1コストで召喚する」
「………」
「来い、漏影!!」
ー【漏影】LV1(1)BP3000
バルバトス第4形態の効果により、アタックステップが完全に終了する間際に呼び寄せたのは、鉄華団スピリットの漏影。鎧騎士のような外観に、バスターソードのような形状をした武器が特徴的だ。
「召喚により、オルガにコア+1。さらに漏影の召喚時効果、デッキの上から3枚を破棄、その後トラッシュにある鉄華団カード1枚を手札に戻す」
「へぇ、トラッシュからカードを回収するのか、紫らしいな」
「オレはこの効果で『鉄華団モビルワーカー』を手札に戻す」
アタックステップが終わる前に、場と手札の補強を行うオーカミ。
こう言った状況では、漏影は限りなく適任に近かっただろう。
だが、それがイチマルのバーストを発動させてしまう…………
「だけどその召喚時、もらったぜ。バースト発動、双翼乱舞」
「!!」
「デッキから2枚ドローし、その後コストを支払ってもう2枚ドロー!!」
つまり合計で4枚のカードをドローする事になる。イチマルは勢いよく反転させたそのバースト効果により、手札を1から5へと一気に回復させた。
「そして絶甲氷盾により、オマエのアタックステップは終わる!!」
「くっ………ターンエンドだ」
手札:5
場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3
【鉄華団モビルワーカー】LV1
【漏影】LV1
【オルガ・イツカ】LV1(1)
バースト:【無】
追撃を行えぬまま、致し方なくそのターンをエンドとするオーカミ。
次は再びイチマルのターンだ。コアだけでなく、手札も増やした、彼の取る戦法とは…………
[ターン05]鈴木イチマル
「ドローステップ……!!」
「?」
このターンのドローステップ。イチマルはドローカードを視認するなり、その口角を不気味な角度へ上げる。
それをしっかりと見ていたオーカミは、今一度身構え、彼の繰り出す次の一手を警戒する。
「メインステップ……オマエはさ、いいよな」
「ん?」
メインステップの開始直後、イチマルは手札を動かすよりも先ず、オーカミに囁いた。
「バトスピ初めてたったの3ヶ月だってーのに、界放リーグを準優勝できて、みんなからも認められて」
「イチマル??」
「それなのにオレは昔からバトスピやってるってーのに、良い成績を残せないどころか、身内にまで認めてもらえねぇ………なんなんだよこの差はよ」
イチマルが晒し出す、劣等感と言う名の本音、もとい深い闇に、流石のオーカミも困惑した表情を見せる。
「なぁイチマル。どうしたんだよ、昨日といい、やっぱりオマエ、なんか変だぞ」
「変なのはテメェだろうが!!!」
「!!」
心配したオーカミに対して怒りの叫びを吐露し、彼を黙らせる。
「フ、フフ……フハハハハハハハ!!!!…だからよ、手に入れたんだ。悪魔が作り出した、最高の魔道具をな」
「魔道具……!?」
「あぁ、今にわかる。行くぜ」
イチマルはそう告げると、手札にある1枚のカードを、己のBパッドへと叩きつける。
それは、あの早美アオイから授かった『悪魔の魔道具』…………
「司るは緑。その身に大樹を宿す、生命の根源!!………ゼノンザードスピリット、ヤクーツォーク!!……LV3で召喚!!」
彼の背後から、凄まじい速度で生い茂る木々。それらはやがて日光さえも遮ってしまう程の、巨大な大樹を形成。
さらに根から溢れ出る緑のエネルギーが、それ全体を包み込み、伝説の妖怪、ダイダラボッチのような圧巻な姿となって、今、鉄華オーカミと鉄華団スピリットたちの前に立ちはだかる……………
その名はゼノンザードスピリット、ヤクーツォーク。
ー【「千年杉」ヤクーツォーク】LV1(3)BP13000
「で、デカい。それになんだ、この邪悪な感じ………!?」
「さぁ第二ラウンドだぜ鉄華オーカミ!!……今日こそオレはオマエをぶっ倒してやるぜぇぇぇぇえ!!!」
全長5、6メートルはあるモビルスピリットでさえ、霞んで見えてしまう程の驚異的な巨躯を有するゼノンザードスピリット、ヤクーツォーク。
その圧倒的フィジカルが、効果が、鉄華オーカミを踏み潰そうとしていた………………
次回、第31ターン「ルプスの鼓動」……………