バトルスピリッツ 王者の鉄華   作:バナナ 

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第31ターン「ルプスの鼓動」

この世の緑を、大自然を全て敵にしているかのような、圧倒的且つ壮大な存在感を放つ、ゼノンザードスピリット「ヤクーツォーク」…………

 

大地に根を張るように、黒く澄んだ闇のオーラを体内から放出し、イチマルを、フィールドを、支配する。

 

 

「ゼノンザードスピリットって何………イチマル、どこでそんなカード手に入れたのよ!?」

 

 

ヒバナが声を荒げながら、イチマルに問い掛ける。

 

すると、彼は不気味な笑顔を浮かべながら答えた。

 

 

「フフ………早美アオイさんだよ」

「え………!?」

「………!!」

 

 

イチマルの声から聞こえたその名に、ヒバナもオーカミも驚きが隠せない。彼女から「勇気の紋章」をもらったヒバナは特に…………

 

 

「う、嘘よ。なんでアオイさんがそんなカードをアンタに………」

「これは『悪魔の魔道具』………あの人はそう言っていた。これがあればオレは、みんなからも、ライダー王のレイジ兄ィにも認められる!!」

「れ、レイジ!?……ライダー王の!?」

 

 

ヤクーツォーク召喚後からと言うモノ、それが放つ邪悪な闇のオーラに連動するかの如く、イチマルの負の感情はさらに昂る。

 

抑えられない衝動が、秘密であった「ライダー王レイジの弟」である事実をこの場で露呈させてしまう。

 

オーカミは元々知っていたが、ヒバナは今初めてそれを知り、またも驚愕する。

 

 

「イチマル……アンタ、ライダー王レイジの弟だったの……!?」

「あぁ、そうさ、オレは界放市最強のライダースピリット使いの弟………ずっと、ずっとオレはあの人に認められるためにバトルに励んだ。努力した。だけどあの人は一切振り向いてさえくれない!!……それはオレが、オレが弱過ぎるからだ。才能が欠片だってないからだ。界放リーグの本戦だって1回戦も勝ち上がれないクソ雑魚野郎だからさ」

「何言ってんの、アンタはもう十分強いじゃない!!」

「嘘つけ、ヒバナちゃんだって、本音ではオレの事を見下してんだろ!!」

「そんな事ない!!」

「そんな事あるさ!!……見てろ、このゼノンザードスピリット、ヤクーツォークで二度と見下せないようにしてやる!!」

「……!!」

 

 

ヒバナとの言い合いに区切りを入れると、イチマルは再びバトルへと意識を戻す。

 

必ず仕掛けて来ると確信したオーカミは、今一度Bパッドを構え直した。

 

 

「まだアタックステップにはいかねぇ。ゼロワンとフライングファルコンから全てのコアを取り外し、ヤクーツォークのLVを最大にまで引き上げる」

 

 

ー【「千年杉」ヤクーツォーク】(3➡︎8)LV1➡︎3

 

 

「雑魚スピリットは大人しく、ゼノンザードスピリットの礎になるんだな」

「ひょっとして、あのスピリットのせいでイチマルはおかしくなってるのか……?」

 

 

明らかに異常すぎるゼノンザードスピリット「ヤクーツォーク」と、それを召喚するなり、さらに荒れていったイチマル。

 

それを見て、オーカミはそれ自体に何かがあると察する。

よく理解できるモノではないが、きっと、自分の理解の範疇を超えた何かがそこにはあるのだろうと。

 

 

「アタックステップ!!……待たせたな、ヤクーツォークでアタックだ!!……その効果発揮、このスピリットの緑のシンボルを4点、クアドラプルシンボルに固定する!!」

「ッ……なんだって」

「シンボルを4点に固定!?……今のオーカのライフは4。この一撃を受けたら終わっちゃう……」

 

 

イチマルの指示を聞くなり、緑の生命に満ちたエネルギーで構成された口を大きく開き、空間を震撼させてしまう程の咆哮を張り上げるヤクーツォーク。

 

そのシンボルは緑の4点。残りライフが4つしかないオーカミは、この攻撃を受けたらひとたまりもない。当然、ブロック以外の選択肢はなくて…………

 

 

「ブロック頼む、モビルワーカー」

 

 

サイズもBPも凄まじい程に劣っている車両型のスピリット、モビルワーカーにブロックを任せるオーカミ。

 

だが、その程度ではヤクーツォークを止められない。

 

 

「フフハハハハ!!!……そんなんでヤクーツォークが止められるとでも思ったのかよ??……ヤクーツォークの更なる効果。バトルで相手のスピリットを破壊した時、このスピリットのシンボル分のダメージを与える!!」

「!!」

「気づいたか。今のオマエのライフは4。対するヤクーツォークのシンボルも4。モビルワーカーのBPじゃ足元にも及ばない。終わりだ、オレの成長の糧となれ!!」

「オーカ!!」

 

 

ライフ貫通効果まで併せ持つヤクーツォーク。このままだとモビルワーカーごと、オーカミのライフバリアは全て消し炭にされてしまうだろう…………

 

そんな彼のピンチに、ヒバナが声を荒げる。

 

だが、ただ手をこまねいてみているだけでは終わらないし、終わらせるわけにはいかない。オーカミはこの一撃で負けないために、手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつけた。

 

 

「フラッシュマジック、オラクルⅦオーバーチャリオット!!」

「!!」

「不足コストはバルバトス第4形態のLVを1に下げて確保。これにより、このターンの間、オレのライフはコスト4以上のスピリットによるアタック、効果によるダメージで、0にならない」

 

 

オーカミが発揮した白のマジックのカードにより、少なくとも、このターンでの敗北は回避できるようになった。

 

しかし、それでも完全にダメージを回避できるようになったわけではなくて…………

 

 

「構うなヤクーツォーク。モビルワーカーを捻り潰せ!!」

「!!」

 

 

大樹で覆われた巨大な拳を、モビルワーカーへ向けて振り下ろすヤクーツォーク。モビルワーカーはそれを受け、ひとたまりもなく爆散していった。

 

 

「バトル勝利時、ヤクーツォークの効果!!……4点分のダメージを受けろ!!」

「オーバーチャリオットの効果で、オレのライフは0にならない」

「だが、1になるまでダメージは受けてもらう!!」

 

 

今度はオーカミに向けて振り下ろされるヤクーツォークの鉄槌。

 

彼に、この一撃を完全に回避する手段はなくて…………

 

 

「ぐっ………ぐァァァァァァッ!!」

 

 

〈ライフ4➡︎1〉鉄華オーカミ

 

 

「オーカ!!」

 

 

4層もあったライフバリアが、1枚になるまで一気に砕け散る。

 

オーカミの悲痛な叫びが、天空に響き渡った。

 

このバトルが始まって以降、彼にのみ、ライフが破壊された際に激痛が走っているが、それもおそらくゼノンザードスピリット「ヤクーツォーク」の影響と見て違いないだろう。

 

 

「ぐっ………モビルワーカーの破壊時効果、デッキの上から1枚破棄して、1枚ドロー………」

「踏みとどまったか。だけどたった1つのライフ、風前の灯とはまさにこの事だな」

「どうした。オレのライフはまだ1つも残ってるぞ」

「1つしかねぇんだろバカが。ターンエンド!!」

手札:5

場:【「千年杉」ヤクーツォーク】LV3

【ライズホッパー】LV1

【ライズホッパー】LV1

バースト:【無】

 

 

唯一のスピリット、ヤクーツォークでアタックを行い、イチマルはそのターンをエンドとする。

 

 

「オーカ、やっぱりもうやめようこんなバトル。もう私、見てられないよ」

「ヒバナ」

 

 

イチマルが豹変し、オーカミが傷ついていくこのバトルを、ただ見守る事しかできないヒバナがそう告げて来た。

 

オーカミはそれに対し、ほんの少しだけ間を置き、返答する。

 

 

「それはダメだ」

「な、なんで」

「確かにこのバトル、楽しくない。でも、今ここでオレが逃げたら、イチマルも一生逃げたままになる。イチマルを元に戻すためには、このバトルしかないんだ」

「!!」

「だからこのバトル、オレは絶対に背中は向けない。逃げずに戦う」

「………」

 

 

ボロボロになりながらも、決してイチマルのためにその闘志は失わないオーカミ。痛みで身体が揺れながらも、巡って来た己のターンを進めていく…………

 

その後ろ姿をただ見守ってあげる事しかできないヒバナ。悔しさで歯を噛み締める。

 

 

[ターン06]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………」

「フ……オレが逃げてる?……調子乗るのもいい加減にしろよオマエ」

「そっちこそいい加減にしろよイチマル。あんなデカいだけのスピリット従えて、強くなった気でいるのかよ」

「んだと……!!」

 

 

まるでイチマルの虚勢の塊であるとでも言わんばかりに、ヤクーツォークを指差しながらそう告げるオーカミ。

 

その後はイチマルを取り戻すべく、メインステップを進めて行く…………

 

 

「2体目のモビルワーカーを召喚し、バルバトス第4形態、漏影のLVをそれぞれ3にアップ」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】(1➡︎4)LV1➡︎3

 

ー【漏影】(1➡︎5)LV1➡︎LV3

 

 

2体目のモビルワーカーが呼び出され、バルバトス第4形態と漏影のLVが最大にまで引き上げられる。

 

 

「アタックステップ!!……バルバトス第4形態でアタック、その効果でヤクーツォークからコア2つをリザーブへ」

「だが、ヤクーツォークの本来のLV3維持コアは6。2つ取り除かれたくらいじゃLVダウンはしないぜ!!」

 

 

ー【「千年杉」ヤクーツォーク】(8➡︎6)

 

 

バルバトス第4形態のアタック時効果が発揮され、その眼光が強く輝くと共に、ヤクーツォークの体内から2つのコアが取除かれるものの、未だにLVは3を維持している。

 

おそらく、イチマルはこれを見越してヤクーツォークに多くコアを乗せていたのだろう。

 

 

「バルバトス第4形態、LV3のアタック時効果で、ダブルシンボルのアタック。一撃で2つのライフを破壊する!!」

「バカの一つ覚えのバルバトス第4形態。そんなの、もう見切ってんだよ、ライフで受ける!!」

 

 

残り3つのイチマルのライフバリア。このターンでそれら全てを破壊する勢いで、オーカミのバルバトス第4形態が地を駆け抜け、メイスをそれに向けて縦一閃に振るうが………

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鈴木イチマル

 

 

「フフ……」

「ッ………1つしか破壊できない!?」

「驚いたか。これがヤクーツォークの最大の効果、このスピリットがいる限り、自分が受けるアタックダメージはー1される。つまり、2点のダメージは1点に、1点のダメージは0点に抑えられる」

「!!」

 

 

イチマルのライフバリアやフィールドを朧げにただよう、神秘的な光の粉。

それはヤクーツォークから常に降り注いで来る物であり、これがある限り、イチマルへのダメージは減少する。

 

ダブルシンボルになる力を持つ、バルバトス第4形態だからこそ1点だけライフを破壊できたが、シンボルが1つしかない他のスピリットたちはそうはいかない。実質、彼のアタックステップはこの効果だけで止められたに等しい。

 

 

「そして、ちょっとばかし仕返ししてやる。オレのライフが減った時、手札からシックスブレイズの効果を発揮」

「!!」

「BP12000になるまで、相手のスピリットを好きなだけ破壊する。これを、2枚使うぜ!!」

「なに……!!」

 

 

追い討ちを掛けるように、イチマルの手札からカウンターのマジックが発揮される。

 

 

「1枚目はモビルワーカーと漏影。2枚目はバルバトス第4形態を焼き払え!!」

 

 

イチマルの背後から放たれる12の火炎弾。それらは内6個がバルバトス第4形態に、残り3個ずつがモビルワーカーと漏影に命中。

 

その鋼のボディごと焼却され、爆散してしまった。

 

 

「これでオマエのスピリットは0体だ」

「そうはさせない。鉄華団スピリットがフィールドを離れた時、手札にあるグレイズ・流星号の効果。手札からノーコストで召喚する」

「!」

 

 

ー【グレイズ改弍[流星号]】LV2(3)BP3000

 

 

「召喚により、オルガにコア+1。効果でデッキから1枚ドローだ」

 

 

オーカミのフィールドに救援が参上する。マゼンタのカラーに身を包んだ小型のモビルスピリット、グレイズ・流星号だ。

 

しかし…………

 

 

「バカがよ。その程度のスピリットのアタックじゃ、ヤクーツォークの効果でダメージは0。いる意味なんてねぇ」

「……ターンエンドだ」

手札:5

場:【グレイズ改弍[流星号]】LV2

【オルガ・イツカ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

イチマルの言う通り、ヤクーツォークの支配するこのフィールドでは、グレイズ・流星号のアタックは無力に等しい。

 

オーカミもそれを理解しているからか、召喚後は何も仕掛ける事はなく、そのターンをエンドとした。

 

 

[ターン07]鈴木イチマル

 

 

「メインステップ。リザーブのコアを有りっ丈ヤクーツォークへ追加する」

「………」

 

 

ー【「千年杉」ヤクーツォーク】(6➡︎15S)

 

 

リザーブにある有りっ丈のコアがヤクーツォークに追加される。

鉄華団デッキなどの紫デッキにおいて、大量のコアを置く行為は、除去耐性を付与する感覚に近い。

 

これにより、ちょっとやそっとでは、ヤクーツォークを倒せなくなってしまう。

 

 

「アタックステップ。今度こそそいつを捻り潰せ、ヤクーツォーク!!」

「!!」

 

 

イチマルが再びヤクーツォークにアタックの指示を送る。

 

その効果により、シンボルは緑の4点。一度に4つものライフを粉砕できる。残りライフが1つしかないオーカミにとってはかなりのオーバーキルだ。

 

 

「ブロックだ、グレイズ・流星号」

「BP3000に何ができる!!」

「フラッシュマジック、革命の乙女!!」

「!?」

 

 

唯一のスピリットであるグレイズ・流星号でブロック宣言を行った直後、オーカミが使用した1枚のマジックカードは「革命の乙女」…………

 

鉄華団に関する効果を持ったマジックカードであり、イチマルと最初にバトルを行った際にも使った事がある。

 

 

「革命の乙女??……フフ、自暴自棄になったか鉄華オーカミ。そのカードをこのタイミングで使用しても意味はない!!」

 

 

革命の乙女は、このターンの間、相手のスピリットがアタック、ブロックする際に、それらスピリットからコア1つをトラッシュに置かなければならないと言う制約を課す効果だが、肝心のヤクーツォークは既にアタック中…………

 

そう。その効果には、全く意味がない。

 

だが、意味があるのは効果ではなく、そのコストであり………

 

 

「不足コストはブロックしたグレイズ・流星号から全て確保。よって消滅する」

「!?」

 

 

ー【グレイズ改弍[流星号]】(3➡︎0)消滅

 

 

大樹で覆われた巨大な拳でグレイズ・流星号を殴りつけようとしたヤクーツォークだったが、直前でそれが維持コア不足で消滅してしまった事により、その拳は空を切り、大地と激突する。

 

 

「くっ………ヤクーツォークは、バトルで相手のスピリットを破壊しないと、ライフ貫通効果を発揮できない……!!」

「あぁ、消滅させれば使えないだろ」

 

 

これにより、ヤクーツォークはただただ疲労状態となっただけのような扱いとなる。

 

オーカミのマジックカード無駄打ちはこれが目的だった。カードは多く消費したものの、見事にヤクーツォークの重たい一撃を回避して見せた。

 

 

「だけどそんな強引な回避、一時凌ぎにしかならねぇ上に、そう何度も出来る事じゃねぇ………次のターンで必ず仕留める。ターンエンドだ」

手札:4

場:【「千年杉」ヤクーツォーク】LV3

【ライズホッパー】LV1

【ライズホッパー】LV1

バースト:【無】

 

 

なんとかこの場を凌ぐものの、イチマルの言う通り、そう何度も今のような回避が行えるわけがない。

 

劣勢には変わりないこの状況、打破すべく、カードをドローしていく…………

 

 

[ターン08]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ。3体目のモビルワーカー、ガンダム・バルバトス第1形態を召喚!!」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV2(3)BP3000

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV3(5)BP6000

 

 

オーカミの場に召喚されるのは、モビルワーカーと、肩の装甲がなく、フレームが剥き出しになっている不完全なバルバトス、第1形態。

 

 

「バルバトス第1形態の召喚時効果発揮……3枚オープンして、その中から鉄華団カード1枚を手札に加える………」

 

 

デッキの上から3枚のカードが浮かび上がり、オーカミはその内1枚を選択、それを手札へと加え、残りはトラッシュへと破棄した。その中には鉄華団のパイロットブレイヴ「三日月・オーガス」も確認できる。

 

 

「アタックはしない。ターンエンドだ」

手札:4

場:【鉄華団モビルワーカー】LV2

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV3

【オルガ・イツカ】LV2(5)

バースト:【無】

 

 

「アタックもなし、遂に諦めたか」

「……」

「覚悟しろよ、オレのこのターンで決着をつけてやるぜ!!」

 

 

ヤクーツォークの効果を考慮してか、前のターン以上に何もできずにそのターンをエンドとしてしまうオーカミ。

 

勝利を確信し、イチマルは幽玄な笑みを浮かべながら、巡って来たそのターンを進めて行く…………

 

 

[ターン09]鈴木イチマル

 

 

「メインステップ。ヤクーツォークからコアを使い、ゼロワン シャイニングホッパーを2体連続召喚」

 

 

ー【「千年杉」ヤクーツォーク】(15S➡︎7)

 

ー【仮面ライダーゼロワン シャイニングホッパー】LV1(1)BP7000

 

ー【仮面ライダーゼロワン シャイニングホッパー】LV1(1)BP7000

 

 

イチマルの場に、ゼロワンが1段階強化を受けた姿、ゼロワン シャイニングホッパーが2体出現する。

 

 

「前のターンのようにはいかねぇ、この数なら捌き切れねぇだろ」

「イチマル。今のオマエに、何を言っても無駄なんだろうけど、なんとなく、これだけはわかる」

 

 

スピリットを並べたイチマルがアタックステップに入る直前。オーカミがその思っている事を伝えるために口を開く…………

 

その脳裏に浮かんでくるのは、界放リーグの際に見たイチマルの兄、ライダー王レイジの傲慢さと器の小ささ。

 

 

「オマエの兄ちゃんよりも、オマエの方が強い。絶対に…………アタックステップ開始時、オルガの【神技】を発揮。トラッシュから鉄華団ブレイヴ、三日月をバルバトス第1形態に直接合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]+三日月・オーガス】LV3(5)BP12000

 

 

ずっと疑問だった。イチマルがなんであんな奴に認められたいのかを…………

 

きっと、本当に血の繋がった兄弟故に、自分では分かり得ない何かがその胸の内にはあるのだろう。

しかし、これだけはわかった、誰よりも優しく、バトルの努力を欠かさないイチマルの方が、遥かに強い。あんな奴に、認められる必要なんてない。

それだけは、この場で伝えないといけないと悟った…………

 

 

「第1形態を強くしてどうする!!!……オマエはこれで終わりだ、ヤクーツォークゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

 

オーカミの言葉にとうとう耳も貸さず、イチマルはヤクーツォークに三度目のアタックの指示。

 

ヤクーツォークは地球の産声のような太い咆哮を張り上げ、雲を、大地を震撼させる…………

 

 

「だけど、今のオマエじゃダメだ。そのままじゃ本当にみんなから認められなくなる………そうなる前に止める。オレと、オレのバルバトスが……!!」

 

 

そこまで告げると、元の優しいイチマルを取り戻すために、オーカミは手札にある1枚をBパッドへと叩きつける。

 

 

「フラッシュ【煌臨】発揮、対象はバルバトス第1形態」

「なッ!?……オマエが、鉄華団デッキで煌臨だと!?」

 

 

ソウルコアをコストに、場のスピリットを進化させる効果【煌臨】…………

 

強力な効果故に様々なカードバトラーが愛用している効果だが、オーカミの持つ鉄華団にはそれが今まで存在していなかった。

 

だが、遂に来たのだ。煌臨、つまり進化を果たせるスピリットが。

 

 

「来る、新しい鉄華団の………進化した、ガンダム・バルバトス」

 

 

そのカードの存在を知っているヒバナがそう口にすると、フィールドのバルバトス第1形態は、背中のブースターで飛翔し、天空を一直線に翔け上がる。

 

そして、衝撃波でクレーターができる程の勢いで、日光を遮る巨大な雲へ飛び込んで行った……………

 

今、鉄華オーカミの相棒、バルバトスが、新たな姿となって顕現する。

 

 

「天空斬り裂け、未来を照らせ!!………ガンダム・バルバトスルプス、LV3で煌臨ッッ!!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス+三日月・オーガス】LV3(5)BP19000

 

 

バスターソード状の戦棍メイスを振い、雲を斬り裂き、太陽の輝きによる暁光と共に姿を見せたのは、進化した新たなバルバトス、バルバトスルプス。

 

鉄華団の花のマークが刻まれた赤き肩の装甲に加え、頭部の黄色の角も肥大化。顔つきもより鋭利となり、まさに悪魔の強化形態に相応しい…………

 

 

「が、ガンダム・バルバトスルプス!?……なんだそのバルバトスは、知らない。このオレでも………」

「鼓動を感じる。オレと、バルバトスルプスの…………行くか相棒、取り戻すぞ、友達(イチマル)!!」

 

 

高なる鼓動を刻み、進化したバルバトス、バルバトスルプスが、その効果のベールを脱ぐ…………

 

 

「バルバトスルプスの煌臨アタック時効果、自分のデッキを上から2枚破棄」

 

 

オーカミのデッキの上から2枚のカードが破棄され、トラッシュへと送られる。

 

そのカードは「ガンダム・バルバトス[第6形態]」と「ガンダム・バルバトス[第2形態]」の2枚、いずれも鉄華団のカードだ。

 

 

「この効果で破棄した鉄華団カード1枚につき、相手のコア3個以下のスピリット1体を破壊する!!」

「!!」

「破棄したカードはどっちも鉄華団。2体のシャイニングホッパーを破壊してやれ」

 

 

バルバトスルプスは、上空から地上へと降り立つと、すぐさま地を駆け抜け、イチマルの2体のシャイニングホッパーに接近する。

 

そして新武器、ソードメイスで弧を描くように瞬く間に叩きつけ、斬り裂き、爆散させる。

 

 

「だ、だが、進化したところで、ヤクーツォークのアタックは止められねぇ!!……潰しちまえ!!」

「ブロックだ、バルバトスルプス!!」

 

 

シャイニングホッパーを瞬殺したのも束の間、バルバトスルプスへ向けて、ヤクーツォークが大樹で覆われた拳を振り下ろして来た。バルバトスルプスはソードメイスを盾代わりに、なんとかその攻撃を防ぐ。

 

ヤクーツォークのBPは25000。対するバルバトスルプスのBPは三日月との合体を合わせても19000。

 

一見覆しようもない差があるようにも思えるが……………

 

進化したバルバトスの効果は、その程度では終わらなかった。

 

 

「バルバトスルプス、合体中のアタックブロック時効果!!……相手のフィールドのコア2つをリザーブに送る」

「な、なに!?……ブロック時にもコア除去を!?!」

「バルバトスルプス!!」

 

 

盾にしたソードメイスを全力で握り振い、大樹の拳を薙ぎ払うバルバトスルプス。直後に左腕から滑空砲を展開、それをヤクーツォーク本体へ向けて発泡。

 

鉛玉の詰まった弾丸は、ヤクーツォークの体内に眠る力の根源、千年杉を打ち抜き、傷つける。

 

 

ー【「千年杉」ヤクーツォーク】(7➡︎5)LV3➡︎2

 

 

突如として走り抜けて行く身体への激痛に、ヤクーツォークは地震を錯覚させるような、悲痛で、大きな喘ぎ声を上げる。

 

 

「ヤクーツォークのLV2BPは15000、バルバトスルプスは19000。これで、バルバトスルプスの方が上回った」

「!?!」

「あのデカブツに、オマエの強さを叩きつけてやれ、バルバトスルプス!!」

 

 

バックパックのブースターで飛翔し、ヤクーツォークの元まで翔け上がるバルバトスルプス。

 

そのままヤクーツォークの動力源とも呼べる千年杉を、ソードメイスで一刀両断。緑のエネルギーと、大樹で固められた巨大な身体に大きな風穴を開ける。

 

この強烈な一撃には流石のヤクーツォークとて堪えたか、爆音のような喘ぎ声を張り上げ、大爆発を起こし、フィールドから散っていった。

それに伴う爆煙、爆炎の中より姿見せるのは、バルバトスルプスのみ。

 

 

「ヤクーツォークが、オレのゼノンザードスピリットが負けた………なんでだ、なんでだよォォォォォォ!!」

「イチマル………」

「なんでオレは、オマエに勝てない!!……なんでゼノンザードを持たないオマエが、オレよりも強いんだ!!」

 

 

ヤクーツォークが破壊され、敗北を悟ったイチマルが叫んだ。それをヒバナが心配そうに見守る中、オーカミが口を開く。

 

 

「さっきのアタックステップ。アタック時に相手のスピリットを疲労できる、シャイニングホッパーからアタックされてたら、ルプスがブロックできなくて、オレの負けになってた」

「!?」

「でもイチマルは、ヤクーツォークの力を過信しすぎた。オマエはオレに負けたんじゃない、自分自身に負けたんだ」

「ッ……オ、オレは」

 

 

イチマルは何もできなくなったためターンエンド。結果的に、ネクサスであるライズホッパー2枚のみが場に残った状態となる。

 

オーカミの言う通り、シャイニングホッパーからアタックしていれば、この結果は変えられたに違いない。

 

 

[ターン10]鉄華オーカミ

 

 

「アタックステップ。翔け抜けろ、ルプス!!」

 

 

メインステップをすっ飛ばし、残ったルプスとモビルワーカーのみでアタックステップへと早々に突入する。

 

オーカミからの指示を受け、バルバトスルプスは再び背中のブースターで飛翔する。

 

 

「三日月の効果でライズホッパーを1枚消滅。この効果発揮後、リザーブのコア2つをトラッシュへ」

「!!」

 

 

イチマルの眼前で着地したバルバトスルプス。ソードメイスをライズホッパー1つに突き立て、消滅させる。

 

そして、今のバルバトスルプスは合体によりダブルシンボル。対するイチマルの残りライフも2。

 

 

「バルバトスルプスはダブルシンボル、ライフを2つ破壊する」

「お、オレは……オレっちは………」

 

 

ヤクーツォークが常に放っていた闇のオーラ、その残滓が消え失せて行く中、イチマルは徐々に正気を取り戻して行く。

 

今までの苦悩や誤ちをを全て思い出し、理解する。その表情は後悔の気持ちと、申し訳なさで満ち溢れ…………

 

 

「ライフで、受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉鈴木イチマル

 

 

バルバトスルプスはソードメイスを縦一閃に振い、イチマルの僅かに残ったゼノンザードスピリットによる邪念ごと、残ったライフバリアを全て叩き壊す。

 

これにより、彼のライフは0。Bパッドからは敗北を告げる「ピー………」と言う甲高い機械音が鳴り響く。

 

鉄華オーカミは、新しいバルバトス、ルプスを使い、強敵だったゼノンザードスピリット「ヤクーツォーク」を退け、勝利して見せた。

 

 

「イチマル」

「鉄華オーカミ……オーカミ、オレっちは……オレっちは………!!」

「よかった。ようやく元に戻ってくれた」

 

 

バトルが終わり、ルプスとモビルワーカーが消えゆく中、我にかえり、これまでの事を後悔するイチマル。その瞳は涙で潤う。

 

本当は、ただオーカミが羨ましかっただけだったのに、その羨望はいつの間にか嫉妬に変わり、追いつきたいと願い、焦り、背伸びがしたいがために、悪から差し伸べられた手を取っていた。

 

 

「オレは最低だ………なんて、オマエに謝れば」

「謝るも何も、もういいんじゃない。過ぎた事だし」

「!」

「そんな事より、もう一度バトルしないか?……今度は普通に」

「……」

 

 

イチマルが元に戻ったのなら、後はどうでもいいやと言わんばかりに、気持ちの切り替えが早いオーカミ。本気でイチマルが元に戻ってくれれば、それだけでよかったのだろう。

 

鉄華オーカミの器の大きさを感じ「やっぱり、まだまだ届かないな」と、内心で心を掴まれると、今回のバトルをずっと傍観していたヒバナが寄って来て…………

 

 

「ヒバナちゃ」

「バカ!!」

「!!」

 

 

ヒバナはイチマルを全力で平手打ちした後に、抱き締める。仄かな甘い香りがイチマルの花を通る。

 

 

「信じらんない。アンタって本当にバカ!!……誰がいつアンタを見下したの。いつ雑魚だなんて罵ったのよ」

「………」

 

 

ヒバナは、涙声になりながらも必死に伝える。

 

 

「ライダー王のお兄さんとどんな関係だったかは知らないけど、これ以上もう絶対バカな真似しないでよね。次こんな事したら、ただじゃおかない」

 

 

ー『オレっちは大馬鹿者だ』

 

イチマルは泣きながらそう思った。こんなにも優しい友達がたくさんいたのに、いったい何を焦っていたんだ。高め合っていけばよかったじゃないか、ずっと、これからも…………

 

本当に、馬鹿すぎる。

 

 

「ごめん。ごめんよ、ヒバナちゃん………オーカミ」

「よし、じゃあ許す………オーカも、いいよね?」

「うん。もちろん」

「はい、じゃあこの話はもう終わりね………もうすぐ夏休みも終わるんだし、今から3人でどっかでかける?」

 

 

ヒバナが手を合わせ、半ば強引にこの話を終わりにする。その表情は非常に明るく、イチマルが元に戻って安心した事が窺える。

 

 

「オーカ、どこか行きたい所ある?」

「アポローンかな、アニキがいるし、バトル場あるし」

「そればっかだね。イチマルは?」

「………」

 

 

イチマルは涙を腕で拭うと、爽やかな笑顔で答える。

 

 

「オレっちは、ヒバナちゃんが行く所ならどこへだって着いていってやるぜ〜〜!!!」

「キモ」

「何で!?」

 

 

綻びかけた3人の絆は、結果的として、より強固に、よりかけがえのないモノへと進化を果たす。未来永劫、ここに亀裂は生じない…………

 

はずだった。

 

 

 

ー…………

 

 

「鈴木イチマルは負けたか。まぁ、そうだろうな」

「彼はよくやってくれたわ。Bパッドを通して、ヤクーツォークに莫大な戦闘データを蓄積してくれたのだから」

「そのヤクーツォークはどうするつもりだ、回収するのか?」

「大丈夫よ、いずれ必ず帰って来るから」

 

 

オーカミら3人が、ヴルムヶ丘公園を後にした直後、今日のバトルをもっと離れた所で傍観していた2人組みの男女がそう話し合う。

 

獅堂レオンと、早美アオイだ。

 

 

「では、今日は解散しましょうか」

「待て。オレはいつ、鉄華と戦えばいい?」

 

 

レオンがアオイに訊いた。

 

 

「その時が来るまで………としか、今は言えませんね。あの子はこれから、あのモビルスピリットと共にきっともっと強くなる。ゼノンザードスピリットの戦闘データを得るには、うってつけすぎる存在ですから」

「そうか」

 

 

早美アオイが欲するモノは、Bパッドを通して得られる、ゼノンザードスピリットの戦闘データ。

 

それが具体的にどう言ったモノなのかはわかった事ではないが、おそらくDr.Aのためだと思われるので、ろくな事には使われないに違いない。

 

 

「そろそろ植えた種も発芽する頃です。なので今はまだ、様子を見ましょう」

「植えた種?」

「えぇ。きっと、バルバトスルプスと戦ってくれる事でしょう」

 

 

植えた種が発芽すると発言する早美アオイ。これもまた、どう言ったモノなのかは、まだ判明せず。

 

 

「バルバトスルプス。まさかまだ進化を重ねられるとはな、やはりアイツは、鉄華はオレの好敵手に相応しい男だ。いずれ、必ず見せつけてやる。オレと、オレのゼノンザードスピリット「ヴァイスレーベ」の力をな」

「うっふふ。期待していますよ、レオン君」

 

 

レオンの手の中には白いカードが握られている。それが白属性のゼノンザードスピリットのカードであるという事は、言うまでもない。






次回、第32ターン「超・激突、爆走番長!!」
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