「気分はどうですか、九日ヨッカさん?」
「まぁ、牢屋にしては居心地いいかな。飯も美味いし、ベッドも家のよりふかふかだ」
早美アオイの住う豪邸、早美邸。その地下、さらにそこにある牢屋。鉄でできた柵の向こう側に、九日ヨッカがいる。
早美アオイは、何の用があるのか、そんな彼と面会していた。
「随分と余裕ですね。捕まる前はあんなに怒り狂ってたと言うのに」
「ずっと怒ってたってしょうがないだろ?……取り敢えず今は助けが来るのを待つ、生きるのが先決だ」
「………誰か来ると思っているのですか?」
「来るさ。オレはその人を信用してる………ただ」
「ただ?」
「他の奴らを巻き添えにしないか心配だな。結構人使いが荒いから」
ヨッカの言う人物とは、おそらく界放警察の警視「アルファベット」だろう。
彼はある事件からDr.Aを追っているヨッカに協力しているからである。元から早美邸に突入する計画も立てていた事もあって、そもそも来るとしたら彼ぐらいしかいない。
他の誰かを引き連れて来なければ、話は別だが。
「……オーカミが界放リーグでぶっ倒れた時なんだけどさ」
「はい」
「そん時に行った病院で君の弟、ソラに会ったんだ」
「ッ……ソラに」
「姉弟仲がいいんだな。口を開けば二言目にはほとんど君の事ばっかり話してたよ」
早美アオイには早美ソラと言う、オーカミ達と何ら変わらない年齢の弟がいる。元は元気な子であったが、現在は重篤な病気を患っており、闘病生活を送っている。
彼女はそんなソラの病気を治すために………
「………だけどソラは早くて後1年で死ぬ」
「!」
「だから私は……」
「Dr.Aに力を貸してるってか」
「………」
アオイは黙ったまま頷く。
「いい加減にしろ、Dr.Aがそんな約束を守るわけないだろ」
遂に自分の口から本心を吐き出す。今ここには彼女とヨッカ以外誰もいない。きっと誰かにそれを聞いて欲しかったのだろう。
「そうだとしても、私は彼に頼る他ない。何を犠牲にしても私はソラを助ける」
「………ソラはそんな事望んでないと思うぞ」
「望まれてなくても、助けたい。貴方ならわかるでしょ」
「………」
そう言い返されると、彼は何も言えなくなる。ヨッカもまた春神イナズマと言う自分の師を助けようとしているからだ。
だが、何も言えなかったのはほんの数秒。やはりそれとこれとでは話が違う事に気づく。
「オレは違う。何も犠牲にしないで助ける」
「……それは、ただの我儘です」
そこまで告げると、アオイはとあるカードをヨッカへと向ける。そのカードは淡い青色に光り輝いている。
その不気味さから、ヨッカはそれがただのカードではなく、ゼノンザードスピリットのカードである事を察して………
「そいつは……!!」
「この世はギブアンドテイク。何かを成し遂げるためには、何かを犠牲にしないといけないんですよ。貴方も間もなく身をもってそれを知る事になる」
「!」
そのカードを見つめていくうちに、ヨッカの瞳孔はその光と全く同じ色となり、喜怒哀楽全ての感情を吸い尽くされたかの如く、その表情は無となり、目線は虚空を見つめるようになる。
「……これが貴方の新しいエースカード「深海の主・アレシャンド」です、受け取りなさい。そして倒すんです、今から私達の牙城を落としに来る不届者を」
「………」
何かの力による影響か、ヨッカは何も聞かず、無言でそのカードを受け取る。
それは、青属性のゼノンザードスピリット。Dr.Aが開発した魔道具の1つであった。
******
夏の残暑が消え失せ、少しだけ肌寒くなって来た、界放市ジークフリード区の朝。ヴルムヶ丘公園にて。
鉄華オーカミは、着用している、ぶかぶかで薄い緑のジャケットのポケットに手を突っ込みながら、ある人物達を待ち侘びていた。
それは、今から共に死闘を潜り抜けていく事になる仲間達であり………
「よっ!」
「ん、おはよう」
「ちょい、テンション低ッ……まぁいつもこんなんだったか」
1人目は春神ライ。朝の寒さを凌ぐためか、背部に虎の刺繍が入ったスカジャンを羽織っているが、下の方は健康的な脚を覗かせる黄色いショートパンツ1つのみと、かなり寒そうだ。
「デッキ組めた?……アルファベットさんに最強のデッキを組んで来いって言われてたでしょ」
「まぁ一応」
「へぇ〜〜ちょっと見せなさいよ」
「おい、勝手に触んな」
「いいじゃんいいじゃん。紫のモビルスピリットデッキ、実際ちょっと見てみたかったのよね」
己の好奇心に負け、ライはオーカミのジャケットの裏側を探り、彼のデッキを取り上げる。
「ふ〜〜ん、鉄華団。コスト低めのスピリットが多い速攻デッキかと思ったけど、こうして見るとそうでもないのね」
「最近色々増えたんだよ」
「増えたって、アンタこれどこで買ってんのよ。どう見ても市販のカードじゃないでしょ」
「なんか、偶に知らない人から封筒で送られて来る」
「はぁ!?……何それ羨ま!!」
今更だが、鉄華オーカミのカードは他の誰かから彼の元へ送られて来ているのだ。
その送り主が未だに誰なのかは特定できていない。わかっている事と言えば、字が達筆で綺麗な事ぐらいか。
「実は私が昨日召喚した新2号機α、お父さんがくれたカードなんだよね、多分アレも世界に1枚だけかも」
「そっか」
「少しは驚きなさいよ。あれ、何で紫のデッキに1枚だけ緑のカードなんて刺してんの、しかも汎用じゃないし」
会話の中、ライはオーカミのデッキの中に1枚だけ存在する緑のカードに目が止まる。
「お守りみたいなもんだよ」
「……意外とお茶目なとこあんのね」
「いいから、早く返せ」
オーカミはライから自分のデッキを取り上げる。
そこから少し間を置いて、ライはまた口を開き、別の話題を振る。
「………そう言えばさ、界放リーグの決勝、ヨッカさん達と見たんだけど、アンタも見えるの?……勝利の未来」
話題に上がったのは「勝利の未来」………
Dr.Aやアルファベットが「王者」と呼ぶ力である。彼らは未だその正式な名称を聞かされていないのだ。
「あぁ、アレ。うん、偶に」
「リアクション薄ッ……もうちょっと乗っかって来なさいよ」
「いや、なんかアレ好きになれないんだよ、インチキっぽくて」
「勝ちは勝ちだからよくない?」
「よくない。勝利は自分の手で掴みたい」
「うわ、男の子の考え方ダル」
「そもそも使い方もわからないし」
「うぅむ、そう言えば私も使い方はわからないな、なんとなく毎回見えるんだけど」
鉄華オーカミ、春神ライ。
この2人は己の勝利の未来を覗ける絶対的な力「王者」を使用できるが、「ライが一瞬だけ見える」のに対し、「オーカミはずっと見続ける事が可能だが、右目から流血し、身体への負担が大きい」など、その性質は全く異なる。
考えれば考える程、王者の力には謎が残るばかりだ。
そんな折、サングラスをした長身で茶髪の青年、アルファベットが現れる。
「待たせたな、2人とも」
「あぁおはようございますアルファベットさん!!……今日は晴れてて救出日和ですね」
「なんだその日本語」
「揃ったし、早く行こう。アニキが待ってる」
3人が揃うなり、オーカミが一刻も早く向かおうとする中、そんなはやる気持ちを抑えるように、アルファベットが口を開く。
「まぁ待て鉄華。向かうよりも前に、先ずは今回の協力者を紹介する」
「協力者、他に誰か助っ人でも呼んだんですか?……バトル要因だったらぶっちゃけ私だけでも」
「いや、そう言うわけではない。広大な敷地を誇る早美邸への潜入だ、ガイドが必要と思ってな………」
アルファベットがそう告げると、オーカミとライの2人の視線を誘導させるように、顔を逸らす。
そして、その視線の先に居たのは他でもない、早美アオイの側近として務める黒服の青年「フグタ」…………
「……誰、SPかなんかですか」
「早美アオイの羊みたいな人だろ」
「名乗るのは初めてだな。オレは「フグタ」……お嬢、早美アオイに仕える執事だ、羊じゃないぞ」
チンピラみたいな見た目の彼。話し方も執事らしからぬタメ口だ。
だがそんな事2人が気に留める訳ない。大事なのは名前や話し方ではなく、何故ここにいるのかだ。
「名前は別にいいよ。何でアンタがここにいるの、敵じゃないの?」
「いや言い方キツ」
「まぁ、そう言う認識になってもおかしくはないだろうな」
さっさと説明しろと言わんばかりに、喧嘩腰の発言をするオーカミ。ヒバナやイチマル、さらには兄貴分のヨッカまで傷つけた早美アオイに対する怒りあっての事だろう。
「オレから説明しよう。昨晩、オレが潜入のための作戦を考えていた頃、コイツから電話があってな。何でも、早美アオイを助けて欲しいらしい」
「早美アオイを助ける……?」
「あぁ、コイツは早美邸の内部事情にも詳しい。九日の救出に一役買ってくれるだろう」
怒るオーカミを宥めるように割って入ったのはアルファベット。どうやらフグタ自らが志願したらしい。
だが、オーカミとライは、敵である早美アオイを助けると言うワードに、違和感を覚える。
「早美アオイってヨッカさんを捕らえてる悪者じゃないの?」
ライがそう呟いた。背後にまだDr.Aと言う巨悪の事を知らないのも理由だと思われるが、オーカミとライ、少なくとも2人の中で、早美アオイと言う人物は、完璧な悪女なのだ。
「……今更こんな事、信じて貰えないかもしれない。だけどお嬢は悪くないんだ。お嬢はただ、病気になっている弟のソラ坊ちゃんを助けたい、その一心で」
「ッ……ソラを?」
早美アオイの弟、ソラの名前に反応したのは他でもない友達のオーカミ。
フグタはそんなオーカミの反応に、相槌を打つように首を縦に振ると、言葉を続ける。
「3年前までは平凡な暮らしをしていた。だけどある日、突然坊ちゃんが原因不明の病に侵され、過酷な闘病生活が始まった」
「………」
「それは何となく察しがつくと思う。だが問題だったのはそれからだ。一向に治らない病気と闘い続け、衰弱していく坊ちゃん、心が折れかけたお嬢の前に現れたのは………A事変で死亡したはずの悪魔の科学者、Dr.Aだった」
フグタが口にしたその名は、口にするだけでも震え上がってしまう程の恐ろしく、悍ましく、邪悪な人物。
もはや伝説となった悪魔の科学者、Dr.A。
その名が遂にオーカミとライの耳に入る。
「誰。なんか聞いた事あるようなないような」
「え、アンタDr.Aも知らないの。アレだよアレ、なんか6年か7年くらい前に界放市で暴れ回ったバケモノ的な?」
「オマエもよくわかってないじゃん。まぁ、とにかくなんかヤバそうな奴って認識で大丈夫?」
世界中の誰もがその情報を聞いた時点で、恐怖によって震え上がると言うのに、オーカミとライはマイペースで楽観的だ。
常識人のイチマルがこの場にいたら、きっと腰を抜かしていた事だろう。
「あぁ、今はその認識で問題ない。それでソイツが、お嬢にこう言ったんだ」
ー『願いがあるのなら、先ずは私の願いを叶えてください、さすれば私があなたの望みを叶えてあげますよ、絶対にね。ヌッフフ』
フグタがそう聞いたわけではない。この言葉はあの日、アオイが電話越しで聞いたのだ。そこから全てが始まり、今に至る。
「お嬢はそれを真に受け、奴の指示に従って来た。坊ちゃんの病気を治すためにな。そのためにプロにまで登り詰め、さらにはモビル王にまで輝いた。オレも最初は坊ちゃんの病気を治せるならそれで良いと思ってた。だけど命令は次第にエスカレートしていき、やがて関係のない他人にまで大きな被害を及ぼすまでになった」
「ゼノンザードスピリットか」
「そうだ。それのせいでお嬢も段々気が狂い始めてしまった。今更許してくれだなんておこがましいのはわかってる、だけど頼む、頼れるのはもうアンタらしかいないんだ。お嬢に取り返しのつかない事をさせる前に、助け出してやってくれ………この通りだ」
そう告げると、オーカミ達の前に頭を深々と下げるフグタ。
オーカミは正直今までの話全てがピンと来ているわけではないが、フグタのアオイを助けたいと言う真っ直ぐな気持ちだけは完全に伝わって来て………
「……オレ、難しい事はよくわかんないんだけど、何、そのDr.Aって奴をぶっ飛ばせばいいの?」
「そう簡単な話ではないと思うがな」
「ふ〜〜ん」
オーカミがそう言うと、アルファベットが返答する。
確かにそんなに簡単な事ではない。少なくともオーカミは、Dr.Aと言う男を知らなさ過ぎる。だが、だからと言ってそこで怯えて立ち止まる理由もなくて………
「まぁ別にオレはアニキを助けれたらそれで良いし、アンタがそれを手伝ってくれるって言うなら、オレもアンタを手伝うよ」
「ッ……じゃあ助けてくれるのか、お嬢を!?……君の友達に危害を加えたあの子を許してくれるのか」
「そう言う訳じゃない。でも、姉ちゃんが言ってたんだ『例え自分の嫌いな相手でも、困った時はお互い様だ』って」
「!」
「それに、ソラとは友達なんだ」
フグタが話した話をどこまで理解しているのかは定かではないが、少なくとも早美アオイだけが悪い訳ではない事を知ったオーカミ。言動からして、おそらく多少は許したのだろう。
「はは、素敵なお姉さんだな。ありがとう、本当に」
「うん。そう言うのいいから、早く行こう」
「ハッハッハ!!……君は面白い男だな」
急に馴れ馴れしくなったフグタに、オーカミは「うざい」と一蹴する一言。
その傍ら、アルファベットとライが口を開く。
「……アイツ、偶に優しいよね」
「それは少し解釈違いな気もするが………なんだ春神、惚れたのか?」
「ッ!!……ななな、な訳ないでしょ、こんなんで惚れるとか星1のギャルゲーかよ」
「どう言う日本語だ」
間もなくして、鉄華オーカミ、春神ライ、アルファベット、フグタの4人は、決戦の地である早美邸へと向かったのだった。
******
時は少し流れ早美邸、その正門前。軍馬に跨る騎士の形を模られた木製の巨大な扉が4人の視界に入る。
「アイツの家、デカいな」
「そりゃあ早美家と言えば、その昔、最も名の馳せた大富豪だからな」
そう呟くオーカミに、アルファベットが答える。
その情報だけでは有り余る程のお金をどうやって稼ぎ、何に使っていたのかはわからないが、少なくとも彼女が由緒正しき家柄で産まれたことだけは理解できる。
「もっとも、奴の両親が亡くなって以降、すっかり衰退してしまったそうだが」
「……あの人も、居ないんだ、お母さんとお父さん。だから弟君の病気を必死になって治そうとしてるのかな………独りにならないために」
アルファベットによって暴露される早美アオイの家族事情。父が行方不明になり、母に至っては顔すら知らないライは、少しばかり彼女に同情する。
「で、どこから入るの。流石に正門から堂々とは入れないでしょ」
オーカミがフグタに訊いた。
「あぁ、正門を入って直ぐの庭には警備員がゴロゴロいる。だからここじゃない裏口を使って侵入するぞ」
「裏口……まぁあるとは思うけどさ、普通そこにも何人か警備が張り付いてるもんじゃないの?」
今度はライがフグタに質問する。
「案ずるなよお嬢さん。今日は警備員に裏口はオレに任せてくれと頼んでいる。今日一日は誰も通ろうとしないはずだ」
「ワオ賢い」
「こう見えて何年もこの家に使わせてもらってるんでね。よし、オレに着いてきてくれ」
フグタがそう告げると、4人はフグタを先頭に、早美邸の外壁沿いを歩み始めた。
そしておよそ5分程か、遂に裏口らしき扉が見えた。先程の正門と比べると、小さくて古臭く、貧相なものだが、逆に侵入するにはこれくらいの入り口が丁度良いとも言える。
「………うん、誰もいないな。いいぞ、入って来てくれ」
フグタが先に入り、安全を確認すると、他の3人も後を追うように裏口から早美邸へと侵入する。
その中は廊下であっても問題なくBパッドを使ってのバトルが出来そうなくらいには、縦幅横幅共に広大である。
「ここのどこかにアニキが」
「にしても広い豪邸ね、ヨッカさん家とは大違い。ねぇ、ハリセンボンさん、ヨッカさんどこにいんの?」
「フグタだ。何その異次元な言い間違い。フグとハリセンボンって似てるようで全然違うからね?……九日ヨッカはおそらく今はお嬢と一緒に中央ルームにいるはずだ」
フグタの発言に疑問を持ったのは、アルファベットだった。
「……オレが調べた限りだと、ここには使われていない牢屋があったはずだ。九日はそこに入れられてないのか?」
「家に牢屋があるって凄いな。獄中ごっこできるじゃん」
「何それ」
「赤チビもお父さんとかとやった事ない?」
「多分ない」
元々ヨッカと共に潜入する予定だったのもあり、何度も何度も早美邸を調べていたアルファベット。
ヨッカが捕えられた事を確信した際に、必ずその牢屋に入れられていると考えていたのだが。
「それが、オレにもわからなくて、確かに最初は牢屋だったんだけど。兎に角先を急ごう」
「あぁ、しかしそうなると早美アオイとの衝突は避けられないな」
4人が早美邸の中央へ向かって歩みを進めようとした、その時だった。
進行方向から声が聞こえて来たのは………
「やはりな。来るならここしかないと思ってたぞ……鉄華」
「ッ……獅堂?」
その声の主は、獅堂レオン。今年の界放リーグの決勝戦でオーカミと激闘を繰り広げ、三連覇を成し遂げた少年。
「獅堂レオン。何故ここに………」
フグタがレオンに訊いた。
「今日この早美邸に鉄華が来ると、匿名でメッセージが来たもんでな。でもまさか貴様が早美アオイを裏切るとは思ってなかったぞ、チンピラ執事。まぁお陰でオレはこうして鉄華と対面できたわけだが」
元々知っていたフグタは兎も角、意外な登場人物の登場に、オーカミとライは首を傾げる。さらに、アルファベットは………
ー『何故だ。何故あの子がこんな所に………まさか』
額から冷や汗を流す程に動揺していた。冷静沈着で、今まで何件もの難事件を解決して来た凄腕の敏腕刑事が、この程度の事でだ。
「アンタ、なんでそっち側にいんのよ」
ライがレオンに訊いた。
「モブ女1号もいたか。貴様へのリベンジは後回しにしてやる……今のオレの獲物は鉄華、オマエだ」
「オレ?」
「あぁ、貴様を倒すために、オレは悪魔との契約を交わした」
「ッ……それは、まさか白のゼノンザードスピリットか!?」
「そうなの?」
レオンが「百獣・ヴァイスレーベ」のカードを見せつけながらそう告げる。
その行為と事実に一番驚き、一番傷ついたのは他でもないアルファベット。
「獅堂オマエ、それがどう言うカードかわかってるの?」
「知ってるさ鉄華。これは力、何物にも変え難い、我が牙だ」
「………」
レオンの様子が、今までとは何かが違う事を察したオーカミ。
このまま話してるだけでは時間の無駄だと感じた彼は、懐からBパッドを取り出すと、左腕にセット。バトルの構えだ。
「みんなは先に行っててくれ、アイツの狙いはオレみたいだし」
「そ、じゃあ任せるわ。行こうアルファベットさん」
「あ、あぁ」
「アルファベットさん?」
皆を先行させようとするオーカミ、それを聞き入れるライ。
その際のアルファベットの返答により、ライは彼が動揺している事に気がつく。
「何かありました?……さっきも珍しく驚いてたし」
「……いや、何でもない。確かにここは鉄華に任せるのが得策だな、オレ達は先を急ぐとしよう」
ゼノンザードスピリット使いが多数集結している可能性は考えていたが、その1人がまさかあのレオンだとは知らなかったアルファベット。
だがここで本来の目的を忘れて冷静さを欠くのはもってのほか。自分の左胸に手を当て、ざわめく心を落ち着かせる。
「鉄華」
「ん、何」
「……あの子を頼む」
「あの子、獅堂の事か」
「あぁ、レオンをゼノンザードスピリットの、Dr.Aの呪縛から解き放ってやってくれ。今はオマエにしかできない」
「要はアイツを倒せって事だろ。わかった、アニキの方は任せるよ」
オーカミに懇願するアルファベット。彼から了承の意のある言葉を耳にすると、口角を上げる。
「赤チビ、私との決着着ける前に負けんじゃないぞ」
「うん、そっちもな」
その後フグタを先頭に、オーカミを除いた3人はこの場を後にし、早美邸の中央ルームへと進んで行った。
取り残されたのは、好敵手の関係である鉄華オーカミと獅堂レオンのみで………
「これで、邪魔立てする者はいなくなったな。来いよ鉄華、今日こそバトルは楽しむものだと言う甘い考えを変えさせてやる」
「勝手にしろ。オレの邪魔をするなら、潰すだけだ」
「ハッハッハ!!……貴様を倒すために手に入れた白のゼノンザードスピリットの力、とくと味わうがいい!!」
「………バトル開始だ」
言い合いの中、互いにBパッドを展開し、バトルの準備を進める2人。
そして、装填されたデッキから初手の4枚カードをドローした直後………
………ゲートオープン、界放!!
間髪入れずにいつものコールでバトルを開始する。
鉄華オーカミと獅堂レオン、好敵手同士の三度目の対戦。今回の先攻は、鉄華オーカミだ。兄貴分であるヨッカのために、早々にターンを進めていく。
[ターン01]鉄華オーカミ
「メインステップ……初陣だ。創界神ネクサス、クーデリア&アトラ」
ー【クーデリア&アトラ】LV1
「ッ……新しい創界神ネクサス」
「配置時の神託。今回の対象カードは1枚、よってコア1つ追加だ」
オーカミの初動は、オルガに次ぐ新たな創界神ネクサス「クーデリア&アトラ」………
例の如く、フィールドには何も影響を及ぼさないが、イラストには金髪の女性と小柄な少女の、仲睦まじい様子が描かれている。
「ターンエンドだ」
手札:4
場:【クーデリア&アトラ】LV2(1)
バースト:【無】
鉄華団の新戦力を披露し、その第一ターンをエンドとするオーカミ。
次は彼を倒すために白のゼノンザードスピリットを獲得したレオンのターン。
[ターン02]獅堂レオン
「メインステップ……新しい鉄華団のカードか、面白い。それでこそ倒し甲斐があると言うモノ。マジック、双翼乱舞、この効果で2枚ドロー、バーストをセットしてターンエンドだ」
手札:5
バースト:【有】
マジックの使用と、バーストのセットのみでターンをエンドとするレオン。
フィールドに何も置いていない分、バーストへの警戒が集まる。しかし、それが罠だとわかっていたとしても、オーカミは前へ突き進む。
[ターン03]鉄華オーカミ
「メインステップ………よし、行くかイチマル」
オーカミはそう告げると、手札から1枚のカードを引き抜き、それをBパッドへと叩きつける。
それは、友人であるイチマルの想いが詰まったカードであって………
「仮面ライダーゼロワンを召喚」
「なに!?」
ー【仮面ライダーゼロワン】LV1(2S)BP2000
「召喚時効果で1つコアブースト。LVが2に上がる」
薄い緑色の装甲を持つ、スマートなライダースピリット、ゼロワン。
イチマルの相棒でもあるそれは、オーカミにコアの恵みを与える。
「何故貴様が緑の、しかもライダースピリットなんぞデッキに入れてるんだ」
「イチマルから託された」
「誰だ」
ゼロワンのカードを間近で見ても、同じ界放リーグに、しかも2年連続で同じ舞台に立ったはずのイチマルの事を思い出さない。
レオンは自分が興味のないカードバトラーの名前は一切記憶しない。きっと眼中にもいなかったのだろう。
「オマエが知る必要はない。アタックステップ、頼むぞゼロワン」
オーカミが最初のアタックステップへと突入。レオンの前方に展開されるライフバリアへと、ゼロワンが飛び出す。
「ライフだ」
〈ライフ5➡︎4〉獅堂レオン
ゼロワンの強烈な回し蹴りが炸裂。レオンのライフバリアは1つ砕け散り、先制点を許してしまう。
だが、それは想定内だと言わんばかりに、彼は伏せていたバーストカードの発動を宣言して………
「ライフ減少によりバースト発動、選ばれし探索者アレックス」
「!」
「効果でこれを召喚、その後アタックステップが強制終了」
ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV1(1)BP4000
裏側で伏せられていたバーストが勢い良く反転し、フィールドに現れたのはフードを深く被った、紫髪の人型スピリット。
その効果により、オーカミのアタックステップは、彼の宣言を待たずして強制終了となる。
「ターンエンドだ」
手札:4
場:【仮面ライダーゼロワン】LV2
【クーデリア&アトラ】LV2(1)
バースト:【無】
イチマルのゼロワンと共に戦うオーカミ。そのターンをエンドとし、レオンへターンを渡す。
ただ、レオンは彼が鉄華団以外のカードを召喚したからか、やや不機嫌になっていて………
[ターン04]獅堂レオン
「メインステップ……アレックスの効果、自身を疲労させる事で、コアブースト」
ターン開始早々、レオンは選ばれし探索者アレックスの効果でコア1つを捻出。
「そんなどこの馬の骨とも知らない雑魚のカードで、このオレに勝てると思うなよ、鉄華」
「………」
「フォースインパルスガンダムをLV2で召喚!!」
ー【フォースインパルスガンダム】LV2(2)BP7000
レオンの場に飛来して来るのは、ガンダムの名を持つ白いモビルスピリット。
その名はフォースインパルスガンダム。デスティニーの前座とも呼ばれる、彼の持つモビルスピリットカードだ。
「再びバーストをセットし、アタックステップ。フォースインパルスガンダムでアタック。そしてLV2効果【零転醒】!!」
「……転醒か」
「フォースインパルスを、裏側のソードインパルスに、転醒!!」
ー【ソードインパルスガンダム】LV2(2)BP9000
次の瞬間、青と黒色の配色だった、フォースインパルスの胸部と肩部が深い赤色に変更。武装も一新され、巨大なビームブレードを両手で握る。
「転醒時効果で自身を回復。さらにアタックは続行だ」
「……ライフだ」
〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ
「ぐっ……!!」
ビームブレードを大きく振い、オーカミのライフバリアを一刀両断するソードインパルス。
オーカミは、なんとかゼノンザードスピリットが持つ者が与える痛みに堪える。
「回復したソードインパルスで再度アタック!!……その効果でゼロワンを手札に戻す。そのカードは面白くない、失せろ」
ソードインパルスが、そのビームサーベルの剣先を向けたのは、イチマルのゼロワン。
それで斬りつけるが、ゼロワンはオーカミのフィールドを離れる事はなく、片膝をつきながらも生き長らえる。
「なに?」
「ゼロワンの効果だ、相手によってフィールドを離れる時、ボイドからコア1つを自身に追加して、代わりに疲労状態で残る」
「チッ……ちょこざいな。だがアタックそのものは終わってないぞ」
「ライフで受ける」
〈ライフ4➡︎3〉鉄華オーカミ
「ぐあっ!?」
イチマルのゼロワンのお陰でかなりコアが増えたものの、ソードインパルスの二撃目により早くも残りライフが3となってしまう。
「ターンエンドだ」
手札:4
場:【ソードインパルスガンダム】LV2
【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV2
バースト:【有】
待ちに待ったオーカミとのバトル故か、早くも荒々しい攻撃を展開し始めるレオン。
ターンは一度エンドとし、次のオーカミの動きを伺う。
[ターン05]鉄華オーカミ
「メインステップ……ゼロワンをLV1にダウン」
ゼロワンのLVを下げ、リザーブにコアを貯める。
そのコアを使い、オーカミは手札から新たなカードをフィールドへと送り出す。
「大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態、LV3で召喚!!」
ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(5S)BP12000
「対象スピリットの召喚で、クーデリア&アトラに神託」
上空から、大地を震撼させる程の勢いで着地したのは、白い装甲、黄色いツノを持つ、鉄華オーカミのエースカード、バルバトス、その第4形態。
「そうだ鉄華団だ、バルバトスだ。貴様はそれで来なければ困る」
「ごちゃごちゃとうるさいな、アタックステップ。行くぞ、バルバトス第4形態!!」
オーカミの命を受け、バルバトス第4形態が黒き戦棍メイスを手に、地を駆ける。目指すのは当然獅堂レオンのライフバリア。
「アタック時効果、アレックスからコア2つをリザーブに置き、消滅」
道中、バルバトス第4形態はアレックスを捉え、それにメイスを横一線で振るう。アレックスは強い衝撃に吹き飛ばされ、爆散に追い込まれる。
「さらに効果で紫シンボルを1つ追加、2つのライフを破壊できる」
「いいだろう、ライフだ!!」
〈ライフ4➡︎2〉獅堂レオン
レオンのライフバリア直前まで迫るバルバトス第4形態。今度はメイスを盾に振い、それを一気に2つ砕く。
強者でないカードバトラーであるのなら、この段階でほぼ負けが確定してしまうが、仮にも相手はあの獅堂レオン。ガラス細工のように砕け散っていくライフバリアの音をその胸に刻み、口角を上げ、伏せていたバーストカードを裏返す。
「ライフ減少後のバースト、アレックス」
「………2枚目か」
「効果により、これを召喚する」
ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV2(2)BP6000
「そして効果により、貴様のアタックステップは再び強制終了となる」
このターン中に、バルバトス第4形態が消滅させた選ばれし探索者アレックス。
それの2体目がレオンのフィールドへと出現する。このターンで勝利できるほどの猛攻を仕掛けたオーカミだったが、その効果により勝利を妨げられる。
しかし、だからとて何もできなくなったと言うのは早計であって………
「バルバトス第4形態の効果、各バトル終了時、トラッシュから鉄華団スピリット1体を1コストで召喚できる」
バルバトス第4形態のアタック終了時、オーカミはトラッシュのカードたちを手に取り、その中にある1枚をBパッドへと叩きつける。
「LV2で来い、バルバトス第6形態……!!」
ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]】LV2(3)BP10000
バルバトス第4形態の緑色の眼光が輝く時、それと呼応するかの如く、上空より空を切る音と共に現れたのは、白き重厚なる装甲に、大型肉食恐竜の大顎を模した形状をした戦棍、レンチメイスを携えた、バルバトス第6形態。
バルバトス第4形態と並び、何度もデスティニーガンダムと戦って来た、鉄華団スピリットの重鎮とも言える存在だ。
「4形態に6形態、揃って来たな。だがその程度では、もはやオレの渇きは癒せない事を教えてやるぞ、鉄華」
「今日のオマエ、一段とうざいな」
やがて終盤を迎えて行く鉄華オーカミと獅堂レオン。
果たして勝利を手にするのは鉄華団か、それとも白のゼノンザードスピリットか…………
次回、第40ターン「穿つ、グシオンリベイクフルシティ」
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「バトルスピリッツ 王者の鉄華」は、今月11日にて、遂に2周年を迎える事ができました。
ここまでやって来れたのは、いつもお読みになってくださる全ての読者の皆様方のお陰です。中には感想やTwitterでのコメントなどを送ってくださる方々もいらっしゃってて、とても励みになってます。
最近は本当に周囲の方々に恵まれたなぁと実感する毎日です。
本当に、本当にありがとうございます。
これからもオーカミと共に完結まで歩んで参りますので、今後も王者の鉄華を、何卒よろしくお願いします。