「姉さん!!」
およそ7年くらい前か、まだ早美アオイと、その弟である早美ソラが幼かった日の頃。両親も亡くなってはおらず、もちろんソラも原因不明の病にかかっていない幸せの時間を探していた頃。
ソラの無邪気で元気な声が、アオイの耳に心地良く響く。
「どうしたの、ソラ?」
「僕、いつか絶対絶対、ぜーったい!!……プロのカードバトラーになるよ。界放リーグに出てた人達と絶対バトスピしたいんだ!」
「あっはは、彼らはまだ高校生で、プロではないですよ?」
テレビでやっていた当時の界放リーグのバトルを観てからと言うモノ、ソラはバトスピに夢中だった。
芽座椎名や赤羽司、現代ではレジェンド級のカードバトラー達の若かりし頃の熱いバトルに、ソラは触発されていた。いや、夢を与えられた、とでも言うべきか。
「そうなの?……でも僕、絶対強い人達とバトスピしたい!!…そのために、プロになるんだ」
「うっふふ、ソラならできますよ。でも先ずは私に勝つ所からスタートしなきゃですね」
「よぉし、今日こそは負けないよ、姉さん!!」
この時はまだ、そんな平和で楽しい、笑顔が溢れる日々がずっと、永遠に続くのだと、本気で思っていた。
******
「あと少し、あと少しであの時のソラの笑顔に手が届く」
早美邸。豪華絢爛な凄まじい豪邸の中でも最も広大なスペースを有する中央ルームにて、早美アオイはそう呟いた。
その手には白紙のバトスピカードが1枚握られており、すぐそばには九日ヨッカが無表情且つ無言で立ち尽くしている。
「待っててねソラ。もうすぐ姉さんが貴方の患った病気を治してあげますから、このカードの力で」
ソラを救うためとは言え、ヒバナやイチマル、レオン、多くの人達を犠牲にして来たアオイ。ストレスのせいか、目の下には隈ができ、その美しい顔もやつれ、疲弊し切っているのが窺える。
だがそれでも彼女は止まることはできない。弟、ソラとまた一緒に笑いあうために。
「お嬢……!!」
「フグタ」
そんな折、勢いよく扉を開け、この空間に土足で踏み入る者が2人。
早美家の執事である青年フグタと、界放警察の警視アルファベットだ。
「……九日、助けに来たぞ」
「………」
「九日?」
入室するなりアルファベットがヨッカに向かってそう告げるが、ヨッカはそれを無視。いや、聞いてすらいないと言ったところか。
「フグタ、まさか何年も早美家に仕えてきた貴方が、この私を裏切るなんてね。そこの殿方はどなた?…助っ人?…そんなの呼んで来ても無意味よ。今の私には誰も敵わない」
「お嬢、もうやめようこんな事。お嬢が命張って坊ちゃんの病気を治しても、坊ちゃんは絶対に喜ばない」
「だから何だと言うの。例えこの先恨まれても、何としてでもソラの命は私が救ってみせる」
「まだわからないのかよ。坊ちゃんの病気が治っても、お嬢がそこに居なければ意味ないんだよ」
「………」
フグタの決死の説得に言い返す言葉がないか黙り込むアオイ。そんな彼女を守護するように、ヨッカが彼女の前に出る。
「九日、オマエまさか」
「そのまさかです。この方は今、青のゼノンザードスピリットの力により、洗脳を受けています。1人でノコノコとやって来て、捕まって、傀儡に成り下がって………ホント、お笑いですわよね」
「……なるほど、Dr.Aが使って来そうな手口だ」
アルファベットはここまでの状況を軽く理解すると、懐から己のBパッドを取り出し、左腕にセットする。
「ならばバトルだ九日。先ずはオマエの目を醒させてやる」
「………」
「フン……この方の正体は元モビル王「Mr.ケンドー」ですのよ、どこの馬の骨とも知らないカードバトラー風情が勝てるものですか」
洗脳されているとは言え、カードバトラーとしての本能は残っているのか、ヨッカは無言でBパッドを取り出し、左腕にセット。アルファベットに合わせて構える。
「お、おいアンタ、ホントに九日ヨッカに勝てるのか!?」
慌ててフグタがアルファベットに訊いた。この場にいる誰も、アルファベットの正体を知らないのだ。
「勝てるか、勝てないかの問題ではない、目を醒させてやると言っているのだ。来い九日、貴様に宿る情熱を再び焚き付けてやる」
「………」
………ゲートオープン、界放!!
バトルの準備が終わり、アルファベットのコールでヨッカとのバトルスピリッツが幕を開ける。
早美アオイとフグタが見守る中、バトルの先攻はアルファベットで始まって行く。
[ターン01]アルファベット
「メインステップ、英雄皇の神剣を配置する」
ー【英雄皇の神剣〈R〉】LV1
早々にアルファベットの背後で地面に突き刺さるのは、巨大な神剣。
赤のネクサス『英雄皇の神剣〈R〉』
いわゆる「罠カード」であるバーストを多用するデッキではよく見受けられるカードである。
「バーストをセット、英雄皇の神剣の効果で1枚ドロー」
「バーストデッキ。果たしてかのMr.ケンドーを突破できるようなカードはあるのかしら」
「ターンエンドだ」
手札:4
場:【英雄皇の神剣〈R〉】LV1
バースト:【有】
アルファベットのデッキがバーストデッキであると、皆に認識されて行く中、洗脳されている九日ヨッカにターンが巡って来る。
[ターン02]九日ヨッカ
「ドローステップ」
ようやく初めて言葉を発したが、その内にいつもの熱量は含まれていない。マシーンの如く冷徹にターンを進めていく。
「メインステップ、最後の優勝旗。配置時効果」
ー【最後の優勝旗】LV2(1)
「ネクサス効果でコアブーストか、小癪だな」
ヨッカもネクサスカードを配置する。その名は『最後の優勝旗』
配置時効果でコアが1つ増加する。
「バーストセット、ターンエンド」
手札:3
場:【最後の優勝旗】LV2
バースト:【有】
「もうターンエンドか。いつものお喋りはどうした、オレはオマエ程喧しいカードバトラーを知らないぞ」
「………」
ヨッカの心を揺さぶろうとしているのか、アルファベットがその旨がある発言をするが、ヨッカは無反応。
バトルのターンはまた巡り回って、アルファベットの番となる。
[ターン03]アルファベット
「メインステップ、さまよう甲冑を召喚」
ー【さまよう甲冑】LV1(1S)BP2000
「召喚時効果で1枚ドロー」
アルファベットが呼び出したのは、紫色の甲冑を着用した赤い一つ目のスピリット、さまよう甲冑。
彼はその効果でデッキから1枚ドローするが、それにより前のターンにヨッカがセットしたバーストカードが蠢き………
「手札増加時、バースト。阿弥陀如来像」
「バーストのネクサスか」
「効果で配置、1コア追加」
ー【阿弥陀如来像】LV1(1)
勢いよくバーストカードが反転したかと思えば、ヨッカの背後に神々しくも威厳のある仏像が出現する。
その配置時効果は最後の優勝旗と同様、ヨッカはまた1コアをブーストさせた。
「ターンエンド」
手札:5
場:【さまよう甲冑】LV1
【英雄皇の神剣】LV1
バースト:【有】
アルファベットはガラ空きのフィールドに向かってアタックはせず、一度そのターンをエンドとする。
[ターン04]九日ヨッカ
「メインステップ。最後の優勝旗、2枚」
ー【最後の優勝旗】LV1
ー【最後の優勝旗】LV1
「配置時効果」
ターン開始の早々、ヨッカは2、3枚目の最後の優勝旗を並べ、その効果でさらにコアを2つ追加する。
「フォースブライトドロー」
「赤のマジック、手札を増やすか」
増えたコアで使用しするのは赤のマジック。手札が4枚になるまでドローする効果により、ヨッカは新たに3枚のカードをデッキから手札へ加えた。
「ターンエンド」
手札:4
場:【阿弥陀如来像】LV1
【最後の優勝旗】LV1
【最後の優勝旗】LV1
【最後の優勝旗】LV1
バースト:【無】
互いに大きな動きを見せぬまま、バトルは中盤へと差し掛かって行く。次はアルファベットのターンだ。
******
「時にオーカミよ」
「何」
「貴様らと共に行動していた、あのサングラスの男についてだが」
「あぁ、アルファベットの事」
鉄華オーカミと獅堂レオン。2人が中央ルームへと向かう道中、レオンがオーカミに訊いた。
「奴は何者だ?」
「何者って、ただの警察の人だよ」
「……奴は貴様やモブ女を苗字で呼んでいたのに対し、オレだけは下の名前で呼んでいた」
「だから?」
「変だとは思わないか?」
「いや別に、そう言う時もあるんじゃない?」
アルファベットの言動、引いては呼び方がどうも引っ掛かっていたレオン。その点をオーカミに質問するが、彼はさっぱりだ。
「あ」
「あ」
そんな折、突き当たりの曲がり角にて、オーカミは春神ライとバッタリ再開する。2人とも一瞬、敵にバレたと思い込み、思わずヤバいの意味がある声が漏れる。
「なんだ新世代女子か、アルファベットと羊の人はどうしたの」
「なんだとは何。アルファベットさん達とは敵の巧妙な罠によって分断されちゃった」
「そ、じゃあ一緒に行く?」
「行く」
安心すると、ライはコレまでのことをざっくり説明する。オーカミも限りなくツーカーに近い会話で話をまとめ上げる。
「つか、アンタ達ここ地下だけど、まさか迷子?」
「さぁ、どうなんだよ獅堂」
「フン、任せろ。監視から逃れるために安全なルートを利用しているだけだ」
「ホントかな」
道案内役が獅堂レオンと言う事で、かなりの不安が漂うが、今は彼を信じてついて行くしかない。
「ま、しゃーなしか。アンタ達の問題はもう解決したの?」
「もちろんだ。オレとオーカミの熱かりしバトルスピリッツの話を聞くか?」
「聞かない」
レオンの一件もどうやら決着がついた事を何となく理解し、取り敢えず安心するライ。
こうして、3人は肩を並べ、アルファベットとヨッカのいる中央ルームへと歩みを進めた。
******
舞台は中央ルームに戻り、アルファベットとヨッカのバトルが続く。
お互いに序盤はアタックを行わなかったが、このターンからアルファベットが動き出す。
[ターン05]アルファベット
「メインステップ、さまよう甲冑2体を召喚」
ー【さまよう甲冑】LV1(1)BP2000
ー【さまよう甲冑】LV1(1)BP2000
「それぞれの召喚時効果により、デッキから2枚ドロー」
これで合計3体のさまよう甲冑が、アルファベットのフィールドに並ぶ。
「アタックステップ、1体目のさまよう甲冑でアタック」
効果によりデッキからドローしたカードを確認する間もなく、アルファベットはアタックステップへと突入。最初に召喚されたさまよう甲冑が刀を手に、フィールドを駆け出す。
「今この時も、オマエを慕う春神は、オマエのために戦ってくれているぞ」
「春神……春神、ライ……?」
〈ライフ5➡︎4〉九日ヨッカ
さまよう甲冑が刀でヨッカのライフバリアを斬り裂いた瞬間、洗脳されているヨッカの脳裏に、春神ライと出会った時の過去のビジョンが映る。
それはおよそ1年、ライが行方不明になった父「春神イナズマ」を探すために界放市にやって直後の出来事だ。己の師匠の娘と言う事もあって、2人はいつの間にか兄妹のような関係を築いて行った。
「2体目のさまよう甲冑でアタック。春神だけではない、鉄華もまたオマエのために奮闘している」
「鉄華、オーカ……ッ!?」
〈ライフ4➡︎3〉九日ヨッカ
2体目のさまよう甲冑も、手に持つ刀でライフバリアを斬り裂く。脳裏にオーカミとの出会いや、その後起きた濃ゆ過ぎて面白い毎日がフラッシュバックし、頭部に激痛が走る。
「皆オマエのためにここまで来たと言うのに、とうのオマエがこの有様でどうする!!……3体目のさまよう甲冑でアタック」
「くっ……オレは」
〈ライフ3➡︎2〉九日ヨッカ
3体目のさまよう甲冑の一撃も同様にヒットし、その残りライフは2となる。
「ターンエンド。容赦はしない、次のターンで終わりだ、覚悟しろ」
手札:6
場:【さまよう甲冑】LV1
【さまよう甲冑】LV1
【さまよう甲冑】LV1
【英雄皇の神剣〈R〉】LV1
バースト:【有】
「オレは、オレは……誰だ」
「洗脳が解けかけてる、アルファベットさんの攻撃が効いているのか?」
必要最低限の言葉しか吐かなかったヨッカが、ここに来て動揺の意味を含む言葉を吐き散らす。
アルファベットの攻撃、もとい口撃がヒットした事で、フグタの言う通り洗脳が解け掛けて来ているのだろう。
「何をしているのですMr.ケンドー。貴方は一介のカードバトラー程度に遅れをとるような方ではない、目の前の敵を、徹底的に潰しなさい」
「目の前の敵……オレの、敵」
焦り狂った表情、充血した目をアルファベットに向けるヨッカ。アオイから「敵」と言う単語を聞くなり、アルファベットの姿を、自分から師である春神イナズマを奪った悪魔の科学者「Dr.A」と重ね合わせる。
「敵、オレの敵……そうだ、オレは、必ず取り返すんだ」
「フ……そうだその意気だ九日。向かって来い、その熱量のまま」
完全に洗脳が解けたわけではない。ただヨッカは本能のまま、記憶に刻まれた敵を倒すために、己のターンを進めていく。
「妙ですね。あの男、何故6ターンも発動できないバーストを張り替えない。場には英雄皇の神剣もあると言うのに」
ここまでのアルファベットのバトルを見たアオイがそう言葉を落とす。
彼女の言う通り、確かになかなか発動できないバーストは破棄し、新しいバーストを伏せるのが定石。それはバーストをセットする度にドローができる英雄皇の神剣があるなら尚更の話。
「不気味な男。ふふ、だけどそれがどんなカードであっても、Mr.ケンドーの勝利は揺るがない、何せ、次のターンには必ずあのスピリットが着地するのだから」
[ターン06]九日ヨッカ
「メインステップ……」
「………」
ヨッカが手札にある1枚に手を掛けると、アルファベットはその瞬間に空気が張り付くのを感じる。
その感触は、間違いなくエースカードが呼び出される瞬間であり………
「司るは青。深海をも統べる、海原の覇者!!……ゼノンザードスピリット、深海の主・アレシャンドをLV2で召喚」
ー【「深海の主」アレシャンド】LV2(3)BP13000
フィールド全体を青く染め上げる津波。それら全てをその身に纏ってこの場に立つのは、青き逆鱗を持つ深海の龍。深海の主・アレシャンド。
ヨッカの手に渡された、青属性のゼノンザードスピリットである。
「こ、九日ヨッカが青のゼノンザードスピリット!?」
「やはりな」
驚くフグタとは違い、アルファベットは初めからそうだと予想していた様子。
「アレシャンドの召喚時効果。フィールドかリザーブのコア3つまでボイドに送る事で、送った数1つにつき、手札からスピリット1体をノーコストで召喚する」
「!」
「リザーブのコア3つをボイドに送り、スサノオ3体を手札からノーコスト召喚!!」
ー【スサノオ】LV2(2)BP12000
ー【スサノオ】LV2(2)BP12000
ー【スサノオ】LV1(1S)BP10000
登場するなり、手に持つ巨大な杖を大地に打ち付け、大きな渦潮を呼び起こすアレシャンド。その渦の中から、侍の甲冑を思わせる黒い装甲を見に纏ったモビルスピリット、スサノオが3体も繰り出される。
自身も含め、一度に4体もの強力スピリットを呼び出す、大技だ。
「スサノオ3体はマズイ、アルファベットさん!!」
「安心しろ。オレを誰だと思っている」
「いや、知らんが!?」
フグタと漫才などしている場合ではない。ヨッカのアタックステップの開始時、3体のスサノオがアルファベットを葬るべく、その内に眠る力を解き放つ。
「アタックステップ。開始時にスサノオ3体の【武士道】発揮。さまよう甲冑3体と強制バトル、スサノオが勝てばライフを3つ破壊する」
「……」
スサノオの持つ効果【武士道】
その力により、さまよう甲冑3体がスサノオに惹かれ合うに戦闘を開始する。だがそのBP差は歴然、3体のスサノオは鉄製の鉈を振い、さまよう甲冑を全滅させる。
〈ライフ5➡︎4➡︎3➡︎2〉アルファベット
「………効かんな」
始動するヨッカの猛攻。スサノオ3体が飛び掛かり、流れるような鉈捌きでアルファベットのライフを1つずつ粉砕する。
この時、ゼノンザードスピリット使いが齎すリアルダメージも同時に発生しているはずだが、アルファベットは寧ろ仁王立ちで構えながら煽って来る程の余裕っぷりを見せつける。
「ライフ減少により、バースト発動」
さらにここで、第1ターンから不動を極めていたアルファベットのバーストカードが遂に発動。待ち侘びたと言わんばかりに、それは勢い良く反転する。
「効果により、相手スピリット1体をデッキ下へ。目障りだ、失せろ青のゼノンザードスピリット」
「!」
「ッ……アレシャンドを一瞬で蹴散らした!?」
一番驚いたのは、Dr.Aの力を誰よりも信じる早美アオイだった。アレシャンドの足元から、その巨大を埋め尽くす程大きなデジタルゲートが出現、アレシャンドはそこへと自由落下していき、やがて粒子化、消えていってしまう。
さらにアルファベットのバースト効果はまだ続く。発動したバーストカードはスピリットカード。よってその後に行われるのは、それの召喚である。
「この効果発揮後、コレをノーコスト召喚する。現れよ、黒きロイヤルナイツ、アルファモン!!」
ー【アルファモン】LV3(6S)BP20000
「え」
「は?」
アルファベット側にも出現するデジタルゲート。その中より出でるのは、黒く気高い鎧を持つ、究極体にして伝説のデジタルスピリット、ロイヤルナイツの一柱、アルファモン。
世界に13種1枚ずつしか存在しない伝説のスピリットの登場に、早美アオイもフグタも、驚愕の余り一瞬言葉が詰まり、思考が停止する。
「あの男、なんで伝説のロイヤルナイツのカードを!?」
「オレは、オマエに勝つ。スサノオでアタック!!」
アオイの戸惑いが消えぬまま、ヨッカが1体目のスサノオでアタックの宣言。鉈を構え、アルファモンのいるアルファベットのフィールドへと駆け抜けて行く。
「愚か者、アルファモンの効果を忘れたか。アルファモンでブロック、そのアタックブロック時効果で2体目のスサノオから2コアリザーブへ、よって消滅する」
「!」
「そしてBPはアルファモンが上だ」
スサノオの猛々しい鉈捌きを片手で受け止めるアルファモン。余った片手を天に掲げると、2体目のスサノオの周囲にデジタルゲートが出現、そこから無数の波動弾が飛び出す。なす術なく被弾し、爆散させられる。
アルファモンはその光景を見届けると、天に掲げた拳を握り締め、目の前のスサノオを殴り付ける。余りの威力に装甲が砕け、吹き飛ばされるスサノオ、こちらも呆気なく爆散した。
「うぉぉぉぉ3体目のスサノオでアタック!!」
ダブルシンボルのスサノオのアタック。残りライフが2つしかないアルファベットはこの一撃を受けて仕舞えば敗北となってしまう。
だが、その程度で終わってしまうわけもなく………
「フラッシュマジック、天下烈刀斬」
「!」
「不足コストはアルファモンのLVを2に下げて確保する。効果で阿弥陀如来像を破壊、ソウルコアをコストとして支払った事で、ダブルシンボル以上のスピリット、最後のスサノオも破壊する」
アルファベットの放つ1枚の赤マジック。フィールドからブイの字の炎が唸り、最後のライフを貰い受けんとしていた最後のスサノオと、ヨッカの背後に佇む神々しい仏像、阿弥陀如来像を焼き払って行く。
「どうした九日、もうアタックできるスピリットがいないようだが。こんなものか?」
「………ターン、エンド」
手札:1
場:【最後の優勝旗】LV1
【最後の優勝旗】LV1
【最後の優勝旗】LV1
バースト:【無】
スピリットがいなくなって仕舞えば、最早アタックする事はできない。洗脳されているヨッカは、ここで致し方なくターンエンドの宣言。
次はアルファモンを従えたアルファベットのターンだ。
「あ、アルファベットさん、何て人だ。アレだけのスピリットの猛攻を凌ぎ切るどころか、ものの1ターンで壊滅させるなんて」
仮にも元モビル王である九日ヨッカ。それを軽く遇らうアルファベットのその強さに感嘆するフグタ。
対してアオイはこの状況が不服か、歯軋りする。
「あの男、何者なの」
[ターン07]アルファベット
「メインステップ。アルファモンのLVを3に戻し、白の成長期デジタルスピリット、ハックモンを召喚」
ー【ハックモン】LV2(2S)BP4000
アルファベットのフィールドに、赤いマントを羽織った、小型の白い竜、ハックモンが呼び出される。
「そのハックモンを対象に【煌臨】を発揮。ハックモンの効果により、自身にコアを3つ増やす」
ソウルコアをコストに、スピリットを進化させる【煌臨】の効果が発揮。ハックモンは白いオーラに身を包み込み、その中で姿形を大きく変化させて行く。
「現れよ、剣纏いしロイヤルナイツ、ジエスモン!!」
ー【ジエスモン】LV3(4)BP14000
「こ、今度はジエスモン!?」
「いったい何体のロイヤルナイツを従えていると言うの……」
ハックモンを煌臨元に現れたのは、全身が剣でできた白き竜型のロイヤルナイツ、ジエスモン。
「ジエスモン煌臨時効果。最後の優勝旗3枚を手札に戻す」
ジエスモンの周囲を浮遊する3つの橙色のオーラ。それが飛び交い、ヨッカの背後にある最後の優勝旗と接触、粒子化させる。
これでヨッカのフィールドは、スピリットどころかネクサスまでもが消えていなくなってしまう。
「アタックステップ、ジエスモン!!」
3つのオーラが自身の周囲に帰還したのを確認すると、ジエスモンは宙を舞い、ヨッカのライフバリアが目掛けて飛行する。
「アルファモンにジエスモン、この2枚のロイヤルナイツを操るカードバトラー……まさか、いやでも」
その間、アオイはアルファベットの正体に勘づく。だが、仮にそうだとしたら自分達が得た情報とは食い違いが発生してしまい。
「ライフで受ける」
〈ライフ2➡︎1〉九日ヨッカ
ジエスモンの目では追えない剣技が、ヨッカのライフバリア1つを紙切れのように斬り裂く。
「トドメだ、さっさと戻って来い九日。アルファモンでアタック!!」
「オレは九日………そうか、九日、ヨッカ」
アルファモンが徐に足を進める。その進行方向は当然ヨッカの最後のライフバリア。
これまで何度も受けて来たアルファベットの呼び掛けに、ヨッカは遂に自身の名前を思い出す。
「ライフで受ける」
〈ライフ1➡︎0〉九日ヨッカ
アルファモンの拳が、ヨッカの最後のライフバリアを容赦なく打ち砕く。
直後、彼のBパッドから「ピー…」と言う無機質な機械音が流れ、アルファベットの勝利を奏でる。
「九日!」
「………」
バトル終了に伴い、2体のロイヤルナイツが姿を消す中、アルファベットは倒れるヨッカの元へと駆け出す。
そしてその間に、あの3人もようやくこの中央ルームへと顔を出して。
「アニキ……!」
「ヨッカさん、アルファベットさん」
鉄華オーカミ、春神ライ、そして獅堂レオンの3人が到着。オーカミとライは真っ先にヨッカの方へと顔を向ける。
「案ずるな。生きている、直に起きるだろう」
「なんだ、よかった」
アルファベットはそう告げながらヨッカを抱えて3人の方へ向かい、ヨッカをライに託す。ヨッカ程の大男を抱き抱えてられないライは、大人しく彼を自身の膝に寝かせる。
「鉄華、オマエ達のバトルは終わったのか?」
「見てわかんない?……終わったよ、獅堂も元に戻った」
「そうか、よかった」
「何故貴様はオレの心配などする。誰だ?」
「………」
レオンが白のゼノンザードスピリットから解放された事を知り、安堵するアルファベットだったが、その点で彼に疑問を抱かれる。
無論、アルファベットの正体は彼の師である「芽座葉月」だからなのだが、アルファベット側からしたらそれを教える訳にはいかない。少しだけ考えると、レオンに返答する。
「オレは界放警察の警視アルファベット。この街の市民の安全を守る義務がある」
「私らは雑に扱うクセに」
下手な演技をするアルファベットに、ライがツッコミを入れる。そのツッコミに同意するように、オーカミが首を縦に振る。
「ま、そんな事より、残ってるのアンタだけみたいだけど、青い髪の人」
「……」
「お嬢」
オーカミがそう告げると、皆の視線は早美アオイへと向けられる。この場に於いて、彼女の思想目標のために手を貸してくれる人物はもう誰もいない。
だが。
「うっふふ。あっはは、アーッハッハッハ!!!」
その状況下であっても、早美アオイは口角を不気味な角度で上げ、高笑いする。
一見追い詰めれて気が狂ってしまった様にも見えるが、決してそう言う訳ではない。来たのだ、自分が心待ちにしていたパーツが、自らやって来たのだ。
「残ったのは私だけ?……面白い事言うんですねオーカミ君。私にはまだコレがある」
「アレは」
「白紙のカード?」
アオイが天に掲げたのは何も描かれていない白紙のカード。誰もがそのカードについて疑問を抱く中、彼女は高らかに吠える。
「待ち焦がれましたよ、全てのゼノンザードスピリット達よ。さぁ今こそ集うのです、己の戦いの記憶を、このカードに宿しなさい!!」
「!」
すると、彼女の手元から赤紫緑3枚のゼノンザードスピリットカードが浮遊し、離れて行く。同様に、レオン、ライ、ヨッカの懐からも白黄青3枚のゼノンザードスピリットカードが飛び去って行き、天に掲げられた白紙のカード周辺に集う。
集結した6枚のゼノンザードスピリットは、それぞれの色に発光し、アオイが手に持つ白紙のカードに力を与える。
そしてその白紙のカードは、徐々に絵と色とテキストを得て行き………
「なんて幻想的なカード。そう、これがソラを救うための、奇跡の1枚」
運命の図柄を描く者・ラケシス……!!
白紙だったカードは、新たな7枚目のゼノンザードスピリットへと変貌を遂げる。果たしてそれはアオイにとっての「希望」となるのか、オーカミ達にとっての「絶望」になるのか………
次回、第43ターン「運命をも覆す、我が魂」