バトルスピリッツ 王者の鉄華   作:バナナ 

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第51ターン「暗闇のバトル」

「兄ィ!!」

 

 

ここは界放市中央病院。界放市の中で最も大きな病院である。その病室の引き戸を、余裕のない血相で勢いよく開けるのは、緑色の髪に、やや天パ気味の少年、鈴木イチマル。そのすぐ後ろには、皆の兄貴分、九日ヨッカも確認できる。

 

イチマルがここまで余裕がないのも無理はない。何せ、今朝、約1ヶ月も行方不明になっていた兄、元ライダー王のレイジがこの病院に搬入されたと連絡が入ったからだ。

 

 

「兄ィ、兄ィ……!!」

「騒ぐなイチマル。担当医に聞いた所、命に別状はない。もう意識もあるそうだ」

「兄ィ……よかった、よかったよホント」

 

 

安堵するイチマル。レイジに折られた、完治したての右手で、眠っている彼の手を握り締める。

 

 

「……」

「あれ、どうしたんすかヨッカさん。折角兄ィが見つかったのに黙り込んじゃって、元同僚だったんすよね?」

「ッ……あ、あぁ、もちろん嬉しいさ。ただ……」

「ただ?」

 

 

レイジが戻って来てくれて、本当に嬉しいとは思っている。

 

しかし、それ以上に気掛かりなのは、レイジを担いで来たのは「中学生くらいの華奢な女の子」だったと言う、担当医の証言だ。

 

レイジの身長はおよそ180cm。体格も良い。そんな大男を担いで来れる華奢な女の子なんて先ず存在しない。存在なんてするわけないのだが、この世でただ1人、自分だけは、そんな事ができる女の子を知っている。

 

 

「いや、やっぱなんでもねぇ。見舞いの花でも買ってくるか」

「おぉ良いっすね、オトモしますよ!!」

 

 

イチマルに気を遣わせまいと、どうにかこの場を取り繕うヨッカ。

 

しかしこの瞬間、窓越しからあるモノがその目に焼きついて………

 

 

「ッ……イチマル、悪りぃ、金は後でオレが出すから、花屋でなんか買って来い」

「え、ヨッカさんは?」

「直ぐ戻る」

 

 

慌てて飛び出すヨッカ。目指すその先は、窓越しから見えた、顔見知りの女の子。

 

 

******

 

 

「おい、待てよ、ライ!!」

「……」

 

 

中央病院の中庭。ここから駐車場を通り過ぎ、その向こうの正門から出る事ができる。ヨッカが慌てて見つけて飛び出した理由は、その中庭を歩くライの姿が見えたからだ。

 

 

「お、奇遇だねヨッカさん。散歩の途中でバッタリなんてさ」

「……どこの誰が散歩でこんなバカデカい病院に来るんだよ」

 

 

取り敢えずふざけて誤魔化そうとするライ。慌てて駆け寄って来たヨッカの血相から、自分が裏で何をやって来たのか大方察せられてしまったと、直感的に理解してしまったからだ。

 

 

「ライ、オマエ、昨日家に帰ってなかったよな」

「あぁ、昨日フウちゃん家行ってたんだよね。あの子一人暮らしだから、料理できる人来て欲しいって聞かなくてさ」

「……フウちゃんに直接訊いてもいいんだぞ」

「………なんで、そんなめんどくさい事するの」

 

 

しつこいヨッカに、苛立ちを覚えるライ。思わず自分の口からフウの家に行っていないと言う意味のある言葉を吐いてしまう。

 

 

「やっぱり……嵐マコトの隠れ研究所か、ガードマンを倒して回ってるのはオマエなんだろ、なんでそんな無茶を」

「……」

「あんなのどう考えても罠だ。せめてオレに相談してから」

「それだと遅いんだよ!!」

「!!」

「それだと遅いよ、こうしてる今でも、お父さんは絶対苦しんでる。それにこれは私が売られた喧嘩。ヨッカさんには関係ない、私だけで買ってやるんだ」

 

 

ライに鋭い剣幕を向けられ、拒絶されるヨッカ。信頼の無さを感じてしまい、割と大きなショックを受ける。

 

 

「……イナズマ先生がDr.Aの元部下だったのを黙ってた事、怒っているのか?」

「別にそれはどうでも、ただもう私には関わらないで。今ヨッカさんと話す事は、それだけだ」

「いや、そう言うわけには、おいライ!!」

 

 

ヨッカの言葉を待たずして走り去って行くライ。ヨッカもまた追いかけようとするが、彼女はそこら辺の大人よりも身体能力が高い。背中が小さくなって行くのを、ただ見届けるのみの結果となってしまった。

 

 

「クソ……オマエに何かあると、オレが先生に顔向けできねぇんだよ、ライ!!」

 

 

頼むからもっと自分の身体を大事にしてくれ。ヨッカはライにそう願うばかりであった。

 

そんな折、彼の懐にあるBパッドが着信を受信し、震え出す。電話を掛けてきたのは、お馴染み界放警察のアルファベット。

 

 

「なんすかアルファベットさん。今忙しい」

《どうやら、本当に春神がガードマンを倒していたらしいな》

「え、なんでそれを」

 

 

春神ライが隠れ研究所を探し出し、ガードマンを蹴散らし続けていた事を推理していたアルファベットだが、まだヨッカはその旨を伝えてはいなかった。

 

つまり、アルファベットが独自の方法で確定事項だと判断した事になるが……

 

 

《そりゃ、オマエのBパッドをハッキングさせてもらったからな》

「は?」

《さっきの会話は全て聴かせてもらった》

「え、ちょっと待ってください。アンタ警察、ポリースメーンっすよね?…人の個人情報……」

《ついでに、口封じのため、オマエが春神に隠れながら観ていたであろうエッチなビデオも確認済みだ》

「はぁ!?!……マジで何やってんだテメェ!!」

 

 

民間人のBパッドをハッキングすると言う、とても警察の身分を持つ者とは思えない最低な行いをするアルファベット。流石のヨッカも声を荒げて怒鳴りつける。

 

 

《せかせかするな。春神のBパッドもハッキングしておいた、これでアイツがどこに行くのかがわかるぞ》

「……ライが隠れ研究所に向かえば、直ぐにオレらもそこに向かえるって事かよ」

《そうだ。この状況をどうにかしたいのだろう、ならば共に行くぞ》

 

 

******

 

 

それから時は経過し、再び深夜。春神ライは、カード製造業社とは名ばかりの「嵐マコトの隠れ研究所」へと赴き、侵入していた。

 

今朝のヨッカとの一件や、いくらガードマンを倒しても、なかなか「エニーズ02」が見つからない事などが重なり、その表情はどこか重く、疲弊しているように見える。

 

 

「……ここが最後の研究所。絶対にここに、エニーズ02が、お父さんがいる」

 

 

ライが重たい身体を引きづり回してでも歩き続ける理由がコレだ。

 

飽くまでも彼女が下調べした中での範疇ではあるが、この場所が最後の研究所。彼女の推察通りならば、100%ここにエニーズ02、引いては自分の父「春神イナズマ」がいる。

 

彼のためならばライは、身体の疲れなど幾らでも忘れる事ができた。

 

 

「後1回、後1回バトルに勝つだけでいいんだ、後1回……」

 

 

『僕は反対だな。これ以上、君の身体が傷つくのを、見たくない』

「ッ……誰!?」

 

 

男性とも女性とも言える中性的な声が、ライの頭の中に響いて来た。驚いた彼女は辺り一面を見渡してみるが、暗がりの床と窓が見えるだけで、それ以外は何も存在していなかった。

 

 

「……気のせい、疲れてんのかな」

 

 

今の声がなんだったのかは定かではない。だが、その程度の事で足を止めるわけにはいかないライは、今の声は単なる幻聴程度と認識、その忠告を無視し、先を急ぐ。

 

 

******

 

 

隠れ研究所の地下4階。決まってここにいつもバトル場と実験室があり、ガードマンがいる。

 

今回の隠れ研究所で、それに値する場所に到達した春神ライは、その体育館程度に広いバトル場へと足を踏み入れる。そして、そこの中央にポツンと青年が1人………

 

 

「アンタが、ここのガードマン?……いや、それはもう聞くまでもないか」

「……」

「質問変えるよ、アンタが……エニーズ02?」

 

 

ここが最後の研究所。ライは癖毛で橙色の髪の青年に、直接エニーズ02なのかと質問を問う。

 

すると、青年の口角は少しずつ上がっていき………

 

 

「ケケケ……ゲッーゲゲゲ!!!」

「!」

「テメェが、ガードマンを倒して回ってるとか言う輩か。こりゃ傑作だ、どんな屈強な大男かと思ったら、こんなメスガキとはな」

「笑い声ヤバすぎだろ」

 

 

耳障りな笑い声を上げる青年。余程ライのような少女が、ガードマンらを相手に無双し続けて来た事実がツボだったのだろう。

 

因みに、ライよりも、彼の方がよっぽど「輩」のような容姿をしている。

 

 

「ゲゲゲ、そう怖い顔すんな、エニーズ02はオレだ」

「ッ……やっぱり」

 

 

青年が人造人間であるエニーズ02だと判明した途端、ライは「やっと見つけた」と言わんばかりの勢いで、懐から己のBパッドを取り出して左腕に装着し、バトルの構え。

 

 

「何、もうバトルすんのか?……折角だから少し腰下ろしてけよ、ここは退屈でよ」

「うっさい、さっさとアンタも構えなさいよ!!」

「藪から棒だな。喧しい女はモテないぜ」

 

 

人造人間という割にはヤケに話し方と言葉選びが人間臭いエニーズ02。飄々としていて、どこか掴み所がない。

 

だが、父親を誘拐した嵐マコトとの繋がりがあるのは確実。ライは、いつもの快活さを感じさせない、憎しみと怒りの籠った鋭い剣幕を彼へと向ける。

 

 

「ゲゲゲ、まぁいい、そこまで言うならちょいと遊んでやるよ。このオレに喧嘩売った事を後悔させてやる」

 

 

エニーズ02もライと同様に己のBパッドを左腕に装着し、バトルの構えを取る。

 

この瞬間、2人のバトルを承認したかのように、バトル場の高い天井にあるスポットライトが辺りを照らした。

 

 

「さぁ、バトスピタイムの始まりだ!!」

「ゲゲゲ……祭りを始めようか」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

そしてコールと共に、2人のバトルスピリッツがスタートする。

 

先攻は春神ライだ。父親であるイナズマを取り戻すべく、無我夢中でターンを進行して行く。

 

 

[ターン01]春神ライ

 

 

「メインステップ、ネクサス、溶岩海のエデラ砦を配置」

 

 

ー【溶岩海のエデラ砦】LV2(1)

 

 

「配置時効果でカウントを+1する」

 

 

ライの背後に、溶岩に浮かぶ要塞都市が配置される。その効果によりカウントが1増加する。

 

 

「ターンエンド。後1回、後1回勝つだけでいい」

手札:4

場:【溶岩海のエデラ砦】LV2

バースト:【無】

カウント:【1】

 

 

これまで何度もガードマンとバトルを行って来たライ。その疲れが表情に少し表れる中、ターンは未知数の実力を持つエニーズ02へと移る。

 

 

[ターン02]エニーズ02

 

 

「メインステップ、おいおいメスガキ、まさかそんな疲れ切った状態でこのオレ様に勝つ気か?」

「うっさい。誰がメスガキだ、私は春神ライ。超美少女天才カードバトラーだっつーの」

「ゲゲゲ、威勢だけは100点満点。魂鬼をLV1で召喚」

 

 

ー【魂鬼】LV1(1S)BP1000

 

 

「魂鬼、また紫か」

 

 

エニーズ02が召喚したのは、コスト0の紫のスピリット、鬼の顔をした言霊、魂鬼。

 

 

「続けてネクサス、No.3ロックハンドを配置」

 

 

ー【No.3ロックハンド】LV1

 

 

手の形をした巨岩、ロックハンドが、エニーズ02の背後に配置。魂鬼の非にならない程の圧をライに感じさせる。

 

 

「アタックステップ。破壊して来い、魂鬼」

 

 

このバトル最初のアタックステップ。エニーズ02の指示を聞き、魂鬼がライのライフバリア目掛け、フィールドを浮遊する。

 

前のターンに殆どのコアを消費したライに、これを回避する手段はない。

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉春神ライ

 

 

「ぐっ……ぐぁぁぁぁあ!?!」

 

 

魂鬼の体当たりが、ライのライフバリア1つを粉砕。その瞬間、彼女の身体中へ痛みが迸る。

 

ガードマンとのバトルは常に命懸け。ライフ減少による痛みなど当たり前だったのだが、その最後の砦、エニーズ02が与えて来る痛みは別格であり………

 

 

「ターンエンド。この程度でくたばんなよメスガキ、まだバトルは始まったばっかりじゃねぇか、もっとオレ様を楽しませろよ」

手札:3

場:【魂鬼】LV1

【No.3ロックハンド】LV1

バースト:【無】

 

 

「くっ……私の、ターンだ」

 

 

エニーズ02がライに向ける視線は、獲物を狩る狩人其の者。

 

疲弊し、体力が限界を迎えつつあるライのターンが再び開始される。

 

 

[ターン03]春神ライ

 

 

「ドローステップ時、エデラ砦LV2の効果、ドローする枚数を1枚増やして、1枚破棄」

 

 

メインステップの直前、ドローステップにて、エデラ砦の効果が発揮。ライの手札の質がより向上する。

 

 

「メインステップ、宙征竜エスパシオンをLV2で召喚」

 

 

ー【宙征竜エスパシオン】LV2(2S)BP7000

 

 

ライのフィールドに出現する機械時掛けの赤いドラゴン、エスパシオン。身体中から溢れんばかりの電力を帯電させ、力強い咆哮を張り上げる。

 

 

「召喚時効果でBP7000以下の魂鬼を破壊」

「ゲゲゲ、魂鬼の破壊時効果、上にソウルコアが置かれていれば、1枚ドローする」

 

 

エスパシオンの口内から放たれる電撃が、エニーズ02の魂鬼を薙ぎ払い、爆散へ追い込む。

 

しかし、魂鬼もただでは転ばない、ソウルコアの力により、エニーズ02の手札を1枚増やした。

 

 

「アタックステップ開始時。エスパシオンの効果、トラッシュのコアを5個までエスパシオンに追加、手札が4枚以下の時、2枚ドロー」

 

 

このタイミングでエスパシオンの強力な効果が発揮。エスパシオンのLVは3まで上昇し、ライの手札は6枚まで増加した。

 

 

「エスパシオン、そのままアイツのライフも砕け!!」

「ライフを受け取りな」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉エニーズ02

 

 

エニーズ02のライフバリアに飛びつくエスパシオン。そのまま鋭い鉄の爪と牙で荒々しくそれ1つを粉砕した。

 

 

「ハッ、効かねぇな」

「……ターンエンド」

手札:6

場:【宙征竜エスパシオン】LV3

【溶岩海のエデラ砦】LV1

バースト:【無】

カウント:【1】

 

 

ライの得意とするドローと破壊により、フィールドをコントロールしていく戦法。このターンはその第一歩、エニーズ02を相手に大きくアドバンテージの差をつけた。

 

疲れを感じさせない見事なターンであったと言えるが、これを受けたエニーズ02は何故か余裕綽々な表情を見せており………

 

 

[ターン04]エニーズ02

 

 

「ドローステップ時、ネクサス、ロックハンドの効果、手札にある呪鬼のスピリットカードを破棄する事で、ドロー枚数を3枚にする」

 

 

エニーズ02の配置した紫のネクサス、ロックハンドもまたエデラ砦と同様にドローステップ時に発揮する効果がある。

 

これにより、彼は手札1枚をトラッシュに捨て、1枚ではなく、3枚のカードをドロー。紫のデッキらしく、手札を潤していく。

 

 

「メインステップ、2体目の魂鬼とオーガモンを召喚する」

 

 

ー【魂鬼】LV1(1S)BP1000

 

ー【オーガモン】LV2(3)BP10000

 

 

「デジタルスピリットか」

 

 

増やした手札でエニーズ02が召喚したのは、2体目の魂鬼と、緑色の体色と2本の尖った角を持つ紫属性の成熟期デジタルスピリット、オーガモン。

 

この時点で彼が紫属性のデジタルスピリットの使い手である事が判明する。

 

 

「最強を謳う割には、強そうじゃないスピリットを出すんだね」

「ゲゲゲ、スピリットを見た目で判断するのは良くねぇな。オレのスピリットが泣いたらどうすんだ」

「今からアンタも泣かせてやるよ」

「怖すぎて草だな。だが、今から泣くのはオマエの方だぜ?」

「なに?」

 

 

エニーズ02はそう告げると、Bパッドの端末の画面をタップ、何かのスイッチを押す。

 

すると、バトル場の端、四角から薄紫色のスモークが放出されて………

 

 

「!!」

「ゲゲゲ……」

 

 

エニーズ02は、この薄紫色のスモークが何なのかを理解しているのか、服の裏に隠し持っていた、顔全体を覆い尽くす程のガスマスクを装着する。

 

何も持っていないライは、そのままその吹き出して来たスモークを浴びてしまい………

 

 

「え、ちょなに急に、臭!?……臭い終わってない!?」

「ゲゲゲ……臭いだけじゃねぇ、オマエも終わるのさ」

 

 

薄紫色のスモークが消え去る頃、ライは鼻を刺激するような悪臭とは別に、ある事に気がつく。

 

 

「アレ、なんか真っ暗。何も見えない、あの一瞬で電灯が消えた?」

 

 

そう。視界が暗闇の中に誘われたかのように真っ黒であった。この状況ではライは、己の手札やフィールド、その他自分の管理するカードや敵のカードテキストさえ確認する事ができない。

 

これがただ、地下の電灯が消えているだけなら良かったのだが………

 

 

「ゲゲゲ、な訳ねぇだろカス。教えてやんよ、電灯は消えちゃいねぇ、オマエの目が見えなくなっただけだ」

「ッ……な、なに!?」

 

 

その瞬間、ライの背筋が凍りつく。

 

基本的に怖い物知らずの彼女であるが、流石にこの一瞬ばかりは「恐怖」と言う感情が心の中を渦巻いた。

 

 

「詳しくは知らねぇがよ、あのスモークにはそう言う効果あんだ。でも安心しな、一時的なもんで1日経てば治る。だがこのバトルは……ゲゲゲ」

「汚いぞ、アンタ、最強とか名乗ってた癖に、こんな姑息な手でバトルを穢すのか!!」

「このバトルはオマエがいつもやっているような、お子様の娯楽じゃねぇんだよ。これは、命を賭けた戦い、どんなに汚い事をしても、最後に生き残った奴が勝つ。オレは自分が勝つための最善の選択をしただけだ」

「理由になってない、私とちゃんとバトルしろよ!!」

「ゲゲゲ、どこ見て喋ってんだアホ。精々足掻くんだな」

 

 

この男、エニーズ02。

 

己が勝つためならば手段を選ばず、どんなに汚いやり方にも手を染める。例えそれが、神聖なるバトルスピリッツを穢す事になろうとも、一切の躊躇を見せない。

 

 

「アタックステップだ。ライフをぶち壊して来い、オーガモン」

 

 

エニーズ02は、スモークが晴れたのを確認し、装着したガスマスクを軽く投げ捨てると、目の見えないライにオーガモンをけしかける。

 

 

「チクショウ、手札に何のカードがあるかわからない。負けてたまるか、あんな奴に、後1回、後1回勝つだけでお父さんが帰って来るのに……!!」

 

 

オーガモンが迫り来る中、ライの頭の中を駆け巡るのは、怒りと苦しみと渇望に加え、いつライフが砕けるかわからない恐怖。

 

それらが彼女の動揺を生み出していた。天才と自負するに相応しい実力を持つ彼女だが、まだ若過ぎるが故に、こう言った精神を擦り減らす状況下にはかなり脆いのだろう。

 

 

******

 

 

一方、ライが戦っている隠れ研究所の外。九日ヨッカとアルファベットは、ハッキングしたライのBパッドの信号を追い、同様の隠れ研究所を発見していた。

 

 

「ここですかアルファベットさん」

「あぁ間違いないな。信号がここで止まっている、おそらく地下だろう。どうやら誰かとバトルをしているようだ」

「ッ……絶対ガードマンだ。急ぐぜアルファベットさん、ライにこれ以上、この件に関わらせちゃいけない」

 

 

ライが戦っている事を知り、先を急ごうとするヨッカ。

 

そんな彼を、アルファベットは声一つで呼び止める。

 

 

「待て九日」

「何すか、急ぐって言ったじゃないすか。行きますよ」

「待てとも言っている。春神のBパッドをハッキングして、少しわかった事がある」

「わかった事?」

 

 

アルファベットは「あぁ」と言葉を足し、続ける。

 

 

「春神ライ、アイツのBパッドには、膨大なカードのデータがあった」

「カードのデータ?」

「あぁそうだ。調べれば復元し実際のカードとしても使う事もできるだろう。しかし、それが何なのかまではわからなかった。こちらから調べようとすれば、必ずエラーを吐いてしまうからな」

「……それとこれに何の関係が」

「AERIAL……エアリアル」

「!?」

 

 

………『エアリアル』

 

その名を耳にした途端、ヨッカは言葉を詰まらせてしまう。それは、彼がその言葉の意味を知っている証。

 

 

「それがエラーコードの名前だった。オマエは、コレが何なのかわかるんじゃないのか?」

「………」

「黙るなよ。オマエは頑なに春神をDr. A、引いてはこの事件に関わらせようとしなかった。それはこの『エアリアル』と言う名前が、春神イナズマと奴に関連しているからではないのか?」

 

 

少々強引な推理だが、辻褄は合っている。アルファベットはヨッカが「エアリアル」と言う名を知っているとほぼ確信し、今彼を問い詰めているのだ。

 

 

「九日、オレは今までオマエに何度も協力して来た。知る必要があるはずだ。オマエのみが知る真実をな」

「………」

 

 

口を閉じていたヨッカだったが、沈黙に耐えられなくなり、遂に、アルファベットにのみ話した。

 

春神イナズマ。エアリアル。

 

そして、春神ライの真実を…………

 

 

 

******

 

 

舞台は戻り、地下でのバトル。目が見えなくなってしまったライに、オーガモンが棍棒を振り回し、迫り来る。

 

 

 

落ち着け、今ある手札は目が見えなくなる前まで見ていた。この6枚の手札の中に、何があるのかはわかる。わからないのはカードの順番だ。

 

 

 

このままでは勝てない事、負ける事を悟り、ライは一度心を落ち着かせ、目が見えていた時の情報を頭の中で整理し始める。

 

何度も言うが、彼女はバトルの天才。フィールドの状況、手札の枚数、手札とトラッシュに何があるのかを瞬時に思い出して………

 

 

 

よし、わかる。どこに何のカードがあるのかわかるぞ。フィールドにはエスパシオン、敵スピリットが2体。

 

こここら私が勝つ方法は………

 

 

 

冷静さを取り戻したライは、己の頭の中で擬似的なフィールドを形成。

 

さらに、限られた6枚の手札で、この状況を覆すどころか、一気に勝利する方法を導き出して………

 

 

「オラオラどうした、BP10000のオーガモンが、オマエのライフを砕いちまうぞ!!」

「ッ……フラッシュ、手札にある、仮面ライダービルド ラビットラビットフォームの効果を発揮!!」

「!」

「互いのアタックステップ中、フラッシュタイミングで召喚できる。現れなさい、赤のライダースピリット!!」

 

 

ー【仮面ライダービルド ラビットラビットフォーム[2]】LV1(1)BP5000

 

 

「なに、迷いなくスピリットを召喚しただと!?」

「よし、感触あり。エラーも吐いてない、行ける」

 

 

ライに迫り来るオーガモンの行手を遮るかのようにフィールドへと降り立ったのは、バスターソードを片手に持つ赤きライダースピリット。

 

その名も仮面ライダービルド ラビットラビットフォーム。

 

 

「ラビットラビットがこの効果で召喚された時、相手のBP10000以下のスピリット1体を破壊し、破壊したらデッキから2枚ドローする。蹴散らすのはオーガモンだ」

「チッ」

 

 

ラビットラビットフォームは、バスターソードに膨大なエネルギーを溜め、そのまま迫り来るオーガモンに刺突をお見舞いする。

 

それにより、強靭な肉体が貫通してしまったオーガモンは、悲鳴を上げながら呆気なく撃沈、爆発で最後を迎える。

 

 

「ターンエンド。コイツ、まさか手札の何枚目にどのカードがあったのかを把握してんのか?」

手札:4

場:【魂鬼】LV1

【No.3ロックハンド】LV1

バースト:【無】

 

 

魂鬼だけで、ライダースピリットの立った今のライのフィールドへ攻め込むのは愚策と考えたか、エニーズ02はそのターンをエンドとする。

 

彼が最も驚いたのは、ラビットラビットの相手ターン中でも召喚可能なカウンター効果ではなく、ライのその記憶力の高さだ。

 

一見手札のどこに何のカードがあるのかを把握する事は簡単そうに見えるが、それは飽くまで予め覚えようとしていた時の話。今回のように、突然見えなくなった場合、先ず6枚ものカードの位置を全て想起する事は不可能に等しい。

 

 

「伊達にガードマン相手に連勝してませんってか。おもしれぇ、実質6枚の手札でどれだけ抗えるか、見届けてやろうじゃねぇか」

 

 

ライの実力を知るエニーズ02は、口角を不気味な角度に上げる。予想だにしない強敵の登場に胸が高鳴っているのだろう。

 

そんな彼の表情も見えないライ。限られたカードだけで勝利を目指す。

 

 

[ターン05]春神ライ

 

 

「メインステップ、赤のパイロットブレイヴ、式波・アスカ・ラングレーを召喚し、エスパシオンに直接合体、LV2にアップ」

 

 

ー【宙征竜エスパシオン+式波・アスカ・ラングレー-テストスーツ-】LV2(2)BP13000

 

 

エスパシオンの見た目に全く変化はないが、ライは赤属性のパイロットブレイヴ、式波・アスカ・ラングレーを、それに合体。強力な合体スピリットへと変貌を遂げた。

 

 

「さらにネクサスカード、ドラゴンズミラージュを、ミラージュとしてセット」

 

 

立て続けにライはミラージュのセット。バーストゾーンに赤い龍の紋章が浮かび上がる。

 

 

「効果発揮。手札にあるコスト4以上の機竜のカード、鳳凰竜フェニック・キャノンを破棄し、相手のネクサスカードを破壊」

「!」

「ロックハンドとはお別れだ」

 

 

ライがコストを払った事により、ドラゴンズミラージュの紋章が、より赤く点滅。

 

するとエニーズ02の背後にある大岩、ロックハンドが崩壊。この場から塵芥となり消滅する。

 

 

「アタックステップ、その開始時にエスパシオンの効果を発揮、トラッシュのコア4つを自身の上に置き、LV3にアップ、ついでに2枚ドロー」

 

 

エスパシオンの効果により、使用済みのコアを回収。LVは3、BPは合体込みで18000まで上昇。

 

オマケのように2ドローも行ったが、視界を失った今のライにとって、それは死札も同然である。

 

 

「合体したエスパシオンでアタック、その効果で魂鬼を破壊、ミラージュをセットしている事により、破壊時効果は発揮されない」

「……」

 

 

機械音混じりの咆哮を張り上げながらフィールドを飛び立つエスパシオン。口内から電撃を放ち、魂鬼を爆散へと導く。

 

さらにこのタイミングで、今度は合体している、アスカの効果が発揮されて………

 

 

「アスカの効果、相手のスピリットを効果で破壊した時、自身を回復」

 

 

つまりはエスパシオンが回復する。これにより、少なくともこのターンは二度目のアタックが行えるようになった。

 

 

「赤のダブルシンボルアタック、それが2回。合計4点のダメージで、私の勝ちだ!!」

 

 

吠えるライだが、それを「甘い」と言わんばかりに、エニーズ02は、己の手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつける。

 

 

「フラッシュマジック、ネクロブライト」

「!」

「効果により、トラッシュにあるコスト3以下の紫スピリットをノーコスト召喚できる」

 

 

使用したのは、ネクロブライト。紫属性らしい、トラッシュからスピリットを展開する効果を持つ。マジックが低コストであるが故に、同様に低コストのスピリットしか召喚できないが、それでも十分に強力な制限カードだ。

 

 

「コスト3以下、また魂鬼か」

「ゲゲゲ……オレはトラッシュから紫の成長期スピリット、インプモンをノーコスト召喚」

「ッ……!?」

 

 

ー【インプモン】LV1(1)BP2000

 

 

今までの戦いから、ライは召喚されるスピリットは魂鬼だと推理したが、それはハズレ。

 

召喚されたのは、黒い、小さな子供の悪魔。紫属性の成長期スピリット、インプモンだ。召喚されるなり、イタズラな笑みを浮かべながら、指先に火を灯す。

 

 

「成長期スピリット、そんなカード、いつトラッシュに……あ、ロックハンドか」

「御名答。コイツは系統に成長期と呪鬼を持つスピリット、ロックハンドの効果でコストにしていたのさ。召喚時効果を発揮、デッキ上から3枚オープンし、その中にある対象カード1枚を手札に加える」

 

 

インプモンの効果が発揮。デッキ上からオープンされた3枚のカードは『デスタメント』『ベヒーモス』『ベルゼブモン』………

 

この中で手札に回収できるカードは1枚だ。よってエニーズ02はそれを強制的に加える事となる。

 

 

「ゲゲゲ……来やがったな。オレはベルゼブモンのカードを手札に加え、残りを破棄する」

「ベルゼブモン??……聞いた事ないカードだ」

 

 

名前からしてデジタルスピリットではあるのだろうが、その名前に疑問符を浮かべるライ。

 

しかし、今は目が見えない。目が見えないと言う事は、カードテキストの確認もできないと言う事。普通なら聞けば済む話だが、目の前の奴がそんな事をしてくれる相手な訳がない。

 

今できる事は、それをガン無視して、このまま勝利を目指し、突き進む事だけだ。

 

 

「さぁ、BP2000、インプモンの壁をどう攻略する」

「んな貧弱な壁で防げる訳ないでしょ、フラッシュマジック、レーザーボレー」

「!」

「エスパシオンのLVを2に下げて使用コストを確保。効果でBP15000以下のインプモンを破壊!!」

 

 

天より照射された、赤いレーザー光線が、エニーズ02のインプモンに直撃し、爆散させる。

 

これにより、彼のフィールドは再び0。敗北一直線コースに元通りとなるが………

 

 

「成る程、ここまでは計算通りって事か」

「……」

「今のオマエが使えるカードは、実質目が見えるまで手札にあった6枚のカードのみ……『ラビットラビット』『式波・アスカ・ラングレー』『ドラゴンズミラージュ』『鳳凰竜フェニック・キャノン』『レーザーボレー』……と、オマエはここまで5枚のカードを使った。つまりまともに使える手札のカードは、あと1枚ってこった」

「だからなんだよ」

「だから、オレに勝てないって言いたいのさ。手札にあるベルゼブモンの効果を発揮」

「ッ……このタイミングでスピリット効果!?」

 

 

完全に意識外からの効果発揮の宣言。

 

エニーズ02が手札に加えた『ベルゼブモン』とは、そう言うカード。突如フィールドに舞い降り、敵を絶望の淵に追いやる、悪魔のスピリット。

 

 

「このスピリットカードは、自分のコスト3以下の紫のスピリットが破壊された時、1コスト支払って召喚できる。孤高なる魔王よ、正義と悪をも超越し、この世に調和を齎せ!!……紫の究極体、ベルゼブモンをLV2で召喚!!」

 

 

ー【ベルゼブモン】LV2(3)BP11000

 

 

禍々しいオーラと共にフィールドへ降り立ったのは、黒いレザージャケットに、二丁の拳銃を装備した、どこか退廃的なスピリット。

 

その名はベルゼブモン。孤高の魔王の名を持つ、究極体のデジタルスピリットだ。

 

 

「召喚アタック時効果、相手スピリット1体から、コア2個をリザーブに置く」

「コア除去効果か……」

「ゲゲゲ……そして、この効果はトラッシュにあるデジタルスピリットの数だけ強化される。ラビットラビットは消滅!!」

 

 

ベルゼブモンは二丁の拳銃を構え、連射。狙った先は、アタック中のエスパシオンではなく、待機していたラビットラビット。

 

油断していたラビットラビットは、それに全弾被弾してしまい、爆散してしまう。

 

 

「この効果で消滅した時、1枚ドロー」

「くっ……だけどまだエスパシオンのアタックは継続中だ」

 

 

飛翔し、上空に佇むエスパシオン。エニーズ02の残り4つのライフバリアを全て砕くべく、急降下する。

 

 

「ベルゼブモンが召喚された事により、トラッシュにある紫のブレイヴ、ベヒーモスの効果が発揮」

「なに、今度はトラッシュで効果の誘発!?」

「自身をトラッシュからノーコスト召喚。ベルゼブモンに直接合体させるぜ」

 

 

ー【ベルゼブモン+ベヒーモス】LV2(3)BP17000

 

 

ベルゼブモンが地に向かって手を翳し、その先に邪悪なオーラを送り込むと、黒々としたバイク型のマシーン、ベヒーモスが登場。

 

ベルゼブモンはベヒーモスに跨り、合体スピリットとなる。

 

 

「エスパシオンは合体したベルゼブモンでブロック。負ける訳ないよなぁ?」

 

 

急降下して来たエスパシオンの機翼に、ベルゼブモンは己の拳銃で弾丸を撃ち込む。

 

撃ち込まれた弾丸により、機翼が貫通してしまったエスパシオンは地上に落下。再び立ち上がる間もなく、ベヒーモスを乗りこなしたベルゼブモンに轢かれ、無残にも爆散してしまった。

 

 

「クッソ……」

「どうしたよ、まだ使えるカードが手札に1枚あるんだろ。もっと足掻いて見せろよ」

「……ターンエンド」

手札:6

場:【式波・アスカ・ラングレー】LV1

【溶岩海のエデラ砦】LV1

バースト:【無】

ミラージュ:【ドラゴンズミラージュ】

カウント:【1】

 

 

ライのフィールドには、取り残された赤のパイロットブレイヴカードのみ。このターンでの勝利はほぼ不可能どころか、目が見えず、残りの手札は本当に何があるのかわからないため、このバトルの勝利も危ぶまれる。

 

 

「ケッ……何だよ、もう戦意喪失かよ、つまんねぇな」

 

 

次は、超人的な引きの強さでライの猛攻を返り討ちにして見せた男、エニーズ02のターン。

 

ライの弱々しいターンエンド宣言に少々呆れながら、それを進行していく。

 

 

[ターン06]エニーズ02

 

 

「メインステップ、3体目の魂鬼、2体目のオーガモンを召喚」

 

 

ー【魂鬼】LV1(1S)BP1000

 

ー【オーガモン】LV1(1)BP8000

 

 

「さらにマジック、デスタメント。残った式波・アスカ・ラングレーを破壊だ」

 

 

圧倒的優勢に立っても一切気を緩めないエニーズ02。追い討ちをかけるように手札から2体のスピリットを展開するばかりか、次なる合体を未然に防ぐために、マジックカードでアスカまでもを除去していく。

 

 

「アタックステップ、ベルゼブモンでアタック。ベヒーモスとの合体により、ダブルシンボルのアタックだぞ」

「……ら、ライフで受け……ぐ、ぐぁぁぁぁあ!?!」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉春神ライ

 

 

ベヒーモスに跨っているベルゼブモン。再び二丁の拳銃を連射し、今度はライのライフバリアを一気に2つ撃ち抜く。

 

ライフが減少した際に砕け散る強い衝撃が、ライの身体に痛みとなって反映される。

 

 

「て、手札にある絶甲氷盾の効果を発揮」

「!」

「コレをノーコストで使用して、このターンのアタックステップを終了させる」

 

 

目の見えないライが使ったのは、最も汎用性の高い防御マジック『絶甲氷盾〈R〉』………

 

これにより、少なくともこのターンに敗北する事はないが。

 

 

「絶甲氷盾。それが6枚目のカードか、これでわかるカードは全部使い切っちまったなぁ」

「………」

「ターンエンド」

手札:2

場:【ベルゼブモン+ベヒーモス】LV2

【オーガモン】LV1

【魂鬼】LV1

バースト:【無】

 

 

そう、このカードの使用により、ライは手札にある知り得るカード全て使い切ってしまった。

 

判明しているカードと言えば、トラッシュのカードと、フィールドのエデラ砦とミラージュのドラゴンズミラージュのみ。しかし、それだけではどうしようもできないだろう。

 

 

「私の、ターンだ」

 

 

目が見えないとは言え、折角繋ぎ、巡って来たターン。ライは絶体絶命の状況の中、最後の戦意を振り絞り、それを進めていく。

 

 

[ターン07]春神ライ

 

 

「メインステップ……負けられない、私は負けられないんだ」

 

 

勝つための考えを止める訳には行かない。負ける訳にはいかない。その想いを胸に、ライは、見えない瞳で、6枚もある手札を見つめながら、その思考を回していく。

 

 

 

手札は6枚。相手のスピリットは3体、内1体は究極体のデジタルスピリット。

 

当てずっぽうでカードを使うか?

 

ダメだ。

 

仮にそれがカウンター用のマジックカードだった場合、無駄にコストを浪費するだけになる。スピリットだったとしても、何のスピリットかわからない以上、作戦を立てる事ができない。

 

 

 

ダメだ。

 

ダメだ。ダメだ。

 

ダメだ。ダメだ。ダメだ。

 

 

 

何をやるにしても、手札のカードが見えないと、どうしようもない。

 

 

私は、負ける。

 

 

 

「エデラ砦のLVを2に上げて……ターン、エンド」

手札:6

場:【溶岩海のエデラ砦】LV2

バースト:【無】

ミラージュ:【ドラゴンズミラージュ】

カウント:【1】

 

 

考えれば考える程、結末は敗北、若しくは絶望。

 

ライは生まれて初めて、バトルスピリッツで敗北を確信。完全に戦意を喪失させてしまった。

 

 

「残念だよオレは、おもしれぇ奴だと思ったんだがな」

 

 

ここまで来たら、エニーズ02にとってはただの作業だ。ライの残り2つのライフを破壊すべく、再び巡って来た己のターンを進行させていく。

 

 

[ターン08]エニーズ02

 

 

「メインステップ、ベルゼブモンのLVを3に上げ、アタックステップ、もう一度、このベルゼブモンでアタックする」

 

 

メインステップはLV上げのみに止まり、エニーズ02は、ベヒーモスとの合体によりダブルシンボルとなっているベルゼブモンで再度アタックを仕掛ける。

 

 

「ごめん、お父さん……ごめん」

 

 

ベルゼブモンが二丁の拳銃をライに向ける。先程と同じように、またライフバリアを2つ破壊するつもりなのだ。

 

そして、負けを確信し、己の不甲斐なさに涙を流すライに、無慈悲の発泡。

 

 

「あばよ、ガキ」

 

 

その言葉を最後に、このバトルはライの残り2つのライフを砕いたベルゼブモンのアタックにより終了。

 

エニーズ02が、完全に勝利を収めた………

 

はずだった。

 

 

『手札、右から2番目のカード、白晶防壁だ、ライ』

「!!」

 

 

ここに来た直後と同じ、幻聴かと思われた中性的な声が、突如としてまたライの頭の中に直接響いて来る。

 

 

「フラッシュマジック、白晶防壁!!」

「なに!?」

「このターンの間、カウントが1以上なら、私のライフは1しか減らない。ベルゼブモンのアタックはライフで受ける……あ、ぁぁぁぁぁあ!!?」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉春神ライ

 

 

謎の声の導きにより、藁にもすがる思いで、ライが咄嗟に使用したのは、白の防御マジック『白晶防壁〈R〉』………

 

ライの前方に展開される半透明のバリアが、ベルゼブモンの銃撃を緩和、ダメージを2から1に抑える。さらにターン中は、如何なる手段であってもライフは減少しなくなるため、エニーズ02は、このターンをエンドにせざるを得ない状況に追い込まれてしまう。

 

 

「ターンエンド。馬鹿な、見えなくなるまでの6枚の手札は全て使い切ったはずだ。何でカードの位置がわかった」

手札:3

場:【ベルゼブモン+ベヒーモス】LV3

【オーガモン】LV1

【魂鬼】LV1

バースト:【無】

 

 

白晶防壁の効果を終了させるために、一度自分のターンをエンドとするエニーズ02。

 

今一度ライにターンが回って来るが………

 

 

『もう黙って見ている事はできない。僕も一緒に戦うよライ。安心して、僕がいる限り、君に負けはない』

 

 

ライの頭の中に響き続ける声。その声が徐々に大きくなると共に、ライのBパッドは青白く光り輝き、彼女の目から頬にかけて、それと同じ色の線が刻み込まれていく。

 

 

『僕の名はエアリアル、君の相棒だ』

 

 

眩い輝きが、謎の声が、今、ライに眠る真の力を呼び覚ます。

 

 




次回、第52ターン「覚醒の核、その名はエアリアル」
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