バトルスピリッツ 王者の鉄華   作:バナナ 

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第53ターン「本当の黒幕」

エニーズ。

 

かつて悪魔と呼ばれた科学者「Dr.A」が造り上げた怪物。彼はこれを大量に造り上げ、後の「A事変」と呼ばれる世紀の大事件を引き起こした。

 

 

そしてエニーズ02。

 

それは、Dr.Aの助手であった「春神イナズマ」と「嵐マコト」が、Dr.Aに対抗するために造り上げた怪物。

 

しかし、誕生直後、それを使い、Dr.A同様の狂気へ走ろうとした嵐マコトを察知し、春神イナズマがその幼体を連れ、再び逃走した。

 

 

そのエニーズ02は、今は春神ライと言う名前で、単なる人間として、平凡に暮らしていた。

 

 

******

 

 

「私が、エニーズ02……!?」

「そう。君は僕とイナズマ先生が丹精込めて造り上げた最高傑作、生まれた直後に「エアリアル」と言う契約カードにも選ばれた、まさにバトルスピリッツの申し子だ」

 

 

何もない、どこまで続いているのかもわからない真っ白な空間。

 

今ここにいるのは春神ライと嵐マコトのみ。無慈悲にも告げられた、衝撃の真実に、ライは足の力が抜け、その場に尻を地につけ、座り込んでしまう。

 

 

「イナズマ先生は用心深い人でね。僕らに捕えられた後も、君の情報は一切吐かなかった。だけどこうしてようやく見つけた、見つかってくれた。君のピンチに突如現れた、エアリアルがその証拠だ」

「……だから私をガードマンと戦わせたのか」

「アッアッア……随分と弱々しく返事するじゃないか、でもそうだよ。君のお父さんは君の正体がバレないよう、エアリアルを君のBパッドに閉じ込めた。君に危険が及ぶ際は復活できるようプログラムしてね。それは、九日ヨッカも知ってたんじゃないかな」

「!!」

「彼はイナズマ先生の協力者だからね。現に今、君は彼の家で寝泊まりしているだろう?」

 

 

九日ヨッカ。

 

春神イナズマの元教え子の1人である彼。一緒に住む事1年だが、ライは彼を実の兄のように慕うようになっていた。

 

だが、ヤケに自分をこの件に関わらせないようにしようとする気持ちは本気だった。きっと、知っていたのだろう。ライが本物の人間ではない事、そのBパッドの中には、彼女に宿る契約カードが眠っている事を………

 

つまり、彼はずっと、ライに嘘をついていた事になる。

 

嫌だ、嫌だ嫌だ。もう誰も信じられない、信じたくない。そう言ったネガティブな感情が、ライの心に渦巻いていく。

 

 

「何にせよ、ここで巡り会えたのは奇跡に等しい事だよ。さぁ、僕の所に来たまえよライちゃん、いやエニーズ02。そこにイナズマ先生もいる。君にしか、できない事があるんだ、さぁ」

「……私を使って、世界征服する気……?」

 

 

微かな拒絶の声、弱々しい声でそう言い返すライ。

 

心身共に疲労し切っているのがよく伝わる。無理もない、毎晩毎晩命懸けでバトルを行い、最後には自分が人間ではない、怪物だと真実を告げられたのだから………

 

 

「世界征服。確かに僕は君にわかりやすく伝えるためにその言葉を選んだが、厳密には少し違う。僕はDr.Aのようになりたいんだよ。圧倒的な力、誰も到達しえない頂きからの景色を見てみたいだけさ」

「……」

「もう抵抗する元気もないか」

 

 

さっさと連れ帰ろう。

 

そう思い、嵐マコトはライへ手を伸ばそうとした……

 

その直後だった。謎の叫びと共に真っ白な空間に黒い亀裂が生じはじめたのは。

 

 

「イ、ライ!!……ライ!!!」

「ッ……九日ヨッカ、まさかこんなに早くここに辿り着くとは」

 

 

亀裂を砕き、真っ白な空間に大穴を開けたのは他でもないヨッカ。

 

少なくとも、彼を見くびっていた嵐マコトだが、大なり小なり、彼の到着する速さに驚かされる。

 

 

「オラァァァ!!」

「ぐっふ!?」

 

 

その驚いた隙を突き、ヨッカは嵐マコトの頬を固めた右の拳でぶん殴る。

 

 

「ここは引くぞ、ライ」

「くっ……待ちなさい」

 

 

逃がすものかとヨッカとライに向かって手を伸ばす嵐マコトだが、おそらくアルファベットだろう、直後に空いた大穴から煙玉が投下され、視界を遮断される。

 

そして、その煙が晴れた頃には、真っ白な空間は元のバトル場に戻り、嵐マコトのみが取り残されていて………

 

 

「九日ヨッカ、アルファベット、もうちょっとの所で………く、クソがァァァァァァ!!!」

 

 

嵐マコトは、普段の柔和な態度とはとてもかけ離れた下品な叫び声で怒りを露わにし、それは冷え切ったバトル場に響き渡った。

 

 

******

 

 

夜が明け、鳩が羽ばたき鳴く時間帯。隠れ研究所からかなり離れた河川敷、コンクリートでできた橋の下。

 

春神ライ、九日ヨッカ、アルファベットの3人は、逃げるようにその橋の下に身を置いた。その3人の空気感は、ライを中心にかなりギスギスしていて……

 

 

「一先ず、ここまで来ればもう安全だな。これからどうする、九日?」

「……取り敢えず、ライをもっと安全な所に避難させましょう、話はそれから……」

「触らないで!!」

「!」

 

 

ライを安心させようと、その肩にさり気なく手を置こうとしたヨッカ。しかし、ライはその手を振り払い、強く拒絶する。

 

 

「私は、エニーズ02って言う名前の怪物だった」

「ライ、それは違う。オマエは人間だ。春神ライって言う先生が付けてくれた名前もある」

「嘘だ。知ってたんでしょヨッカさん。知っててずっと私を怪物だと思ってたんでしょ」

「な訳ねぇだろ、落ち着け」

「突然あなたは怪物ですって言われて、落ち着くもクソもないでしょ、何でだよ、何でずっと黙ってたんだよヨッカさん、何で嘘ついてたんだよ、信じてたのに」

「ライ!?」

 

 

酷く精神的に追い詰められているライ。今まで共にして来た時間の中で、ヨッカがそんな事を思う訳がないとわかっているはずなのに、彼の言葉を何も信用できなくなってしまっている…………

 

 

「チクショウ……チクショウ、何でだよ、何で何で何で何で何で!!!」

「おいライ!?」

 

 

耐えられなくなり、ヨッカから逃げ出すライ。橋の下から約10メートルはある橋の上まで軽く飛び上がる。通常の人間では先ず不可能な動きだ、これも彼女がエニーズ02であるが故。

 

当然、ただの人間であるヨッカが追いつける訳がない。すぐにその背中は遠くへ行き、消えて行く。

 

 

「ライ。何でこうなっちまうんだ。追いかけるぞアルファベットさん、さっきの会話で、敵の狙いがライなのがわかった。1人にはできねぇ、アイツのBパッドハッキングしてんだろ」

「いや、それは無理だ」

「なんで!?」

「エアリアルが奴のBパッドから解き放たれた影響で完全に解除されてしまった」

「はぁ!?……全く、肝心な時にはいつも役に立たねぇんだから」

「面目ない」

 

 

逃げ出したライを見つけ出し、追跡する手段を持たない2人。

 

だが、ヨッカにはそれを可能にする、最終手段があり………

 

 

「まぁいいさ、こうなりゃ人海戦術よ。意地でもライを見つけ出してやる」

 

 

そう呟くと、ヨッカは徐に己のBパッドを取り出す。

 

 

「もしもしヒバナ?……そっちにライ行ってねぇか?……うん、わかった、見つけ次第連絡くれ」

 

「おいイチマル、そっちにライ行ってねぇか?……おうわかった、見つけたらオレに連絡くれ」

 

「おいミツバ、そっちにライ行ってねぇか?……あぁ?…んな事より給料くれ?……バカ言ってんじゃねぇ一大事だ、必ずライを探し出せ」

 

「あぁ、ランスロットさん、ご無沙汰しておりますヨッカです。朝早くにすんません、そちらにライは来てないでしょうか?……え、そんな事よりデート?……いや、あのそれはまた今度で、取り敢えずライを見つけたらオレにご連絡ください。はい、失礼しやす」

 

「おいオーカ、起きてるか?……ライが行方不明になっちまった、探してくれ。あぁ頼む」

 

 

十数分掛け、ヨッカは取り敢えず信用できる知り合いに、片っ端からライの捜索を申し込む。

 

 

「人海戦術と言う割には、人が足りてないようだが」

「うるせぇ、信用できねぇ知り合いが多いんだよ。あ、待て待てもう1人いた、1番信用できる……えっとフウちゃんの番号は……」

 

 

ヨッカはライの親友であるフウの存在を思い出し、ダメ元で彼女にも電話を掛ける。

 

 

「あ、もしもしフウちゃん?……ヨッカだけど、そっちにライ来てないか?……そっか、悪りぃ、来たらオレに連絡くれ。うん、ありがとう、じゃあね」

 

 

ライが界放市に来て1年。ヨッカを除いて最も強い信頼関係を築いたであろう少女、夏恋フウの元にも来ていないようだ。

 

ヨッカとアルファベットはそれを知ると、自分達もまた、ライ捜索のために橋の下を離れた。

 

 

******

 

 

ここは界放市ジークフリード区にある最も大きな公園、その名もヴルムヶ丘公園。その中には、暑さを凌ぐ為に企画及び作成された、高さ10メートル、道のり100メートルの大きな湧水トンネルがある。

 

水路から水が流れるて来る音が聞こえて来るこの湧水トンネルの気温は、通年で16℃。それ故に、猛暑がこれでもかと続く夏場には非常にありがたい憩いの場ではあるが、逆にそれ以外の季節では余り盛んにはならず、必然的に客足は遠のく。

 

今の季節は秋。夏の残暑も消え去った今、当然の如く人影は微塵もない。たった2人を除いては………

 

 

「はい、私も探してみます。わかりました、はい、失礼します」

 

 

Bパッドで誰かと通話をしているのは、黒髪ロングで、清楚な美少女、夏恋フウ。その相手はヨッカ、ライが出て行ってしまったから探して欲しいとの事だ。

 

彼女の親友でもあるフウは、もちろんそれを快く引き受けるが、すでに彼女のすぐそばには、座り込んでうずくまる春神ライの姿があって………

 

 

「いきなり呼び出すから何かと思えば、ヨッカさん、心配してたよ、戻らなくていいの?」

 

 

悲しそうに背中を丸めるライに、フウが訊いた。ライとヨッカの喧嘩は何度も経験している彼女、その仲を取り持つ事など、朝飯前だ。

 

しかし、今回は少し勝手が違くて………

 

 

「いい。今日1日は、私とここにいてよ、フウちゃん」

「もう、わがままなんだから」

 

 

界放市に来てから1年。ライにとって最も親しい友人となったフウ。今のライの唯一の心の拠り所なのだろう。

 

フウもそれをわかっているのだろう、黙ってライのすぐ横に座り、悲壮感漂う彼女の肩に手を回した。

 

 

******

 

 

場面は変わり、九日ヨッカとアルファベットサイド。どこに逃げたかわからないライを見つけ出すため、ジークフリード区の街を走り回っていた。

 

 

「時に九日よ」

「なんすか」

「敵は何故春神を狙うと思う?……できる事があると言っていたが」

 

 

走りながら、アルファベットがヨッカに訊いた。純粋な疑問だ。ことの経緯をおおよそ把握しているヨッカならばわかることもあると考えたのだろう。

 

しかし、その答えは彼の求めていたモノではなくて……

 

 

「いや、正直それはオレもさっぱり……でもよ、オレからしたら、戦う理由は十分だ。ライを守って、イナズマ先生を助ける。わかりやすいぜ」

「……熱くなりすぎるなよ、熱されやすいのが、オマエの長所であり短所だ」

「んだよ、この後に及んで説教か」

「まぁだが、その考え方は正しい。オレにとっても、戦う理由なんぞ、それだけで十分だ」

 

 

アルファベットの言葉に、ヨッカは小さく微笑む。

 

どこか冷徹で、暖かさを見せないアルファベットだが、その内にはちゃんと温もりがあるのを見抜いているヨッカは、その彼の一旦を垣間見る事ができて、少しだけ嬉しいのだ。

 

 

「ところで、オマエはいつ春神の秘密を知っていた。知っていた上で、これまで行動して来たのだろう?」

「あぁ知ったのは、ライと出会った直後です。ホント、最初は衝撃的過ぎて、突然変な異世界にでも転生したのかと思いましたよ」

 

 

アルファベットにそう訊かれると、ヨッカは約1年と半年前、春神ライと初めて出会った日のことを想起する。

 

 

******

 

 

「ダルイ。余りにもダルイ。そして眠たいのになんか疲れ過ぎてお目目がパッチリ……なんの独り言だよ。バカかオレは」

 

 

春の季節、1年と半年前。九日ヨッカは自宅のソファに寝っ転がりながらそう呟く。

 

当時の彼はアポローンの営業開始直後、三王就任直後、アルファベットからの事件解決の協力依頼多数などなどで兎に角多忙を極めており、疲弊に疲弊しまくっていた。今日のように休みが1日あるだけで奇跡と言える。

 

そんな日に限ってやって来たのが、春神ライだった。

 

 

ピンボーン。

 

 

と、ヨッカの家のインターホンが鳴り響く。彼はその音を耳にするなり「ゲッ」と呟き、嫌な顔をする。こう言う時は大体アルファベットが面倒くさい事件を引っ提げてやって来るのを知っているからだ。

 

 

「絶対アルファベットさんだ」

 

 

ピンボーン、ピンポーン。

 

 

「は〜い、直ぐ行きますよアルファベットさん」

 

 

ピンボーン、ピンポーン。

 

ピンピンピンピンピンピンポーン。

 

 

「喧しいわ!!……直ぐ行くっつってんだろ!!」

 

 

喧しいインターホンの音に、ヨッカが声を荒げる。

 

 

「今度は何の事件だ全く、勘弁してくれ。毛布から出たくねぇよ」

 

 

毛布から出たくない余り、毛布にくるまりながらソファを離れ、芋虫の如く這いつくばり、玄関前へ赴くヨッカ。

 

しかし、このままではどうしても玄関を開ける事ができない。そう思った矢先だった、勝手にドアが開いたのは………

 

 

「……!」

「え」

 

 

ドアの向こう側に居たのは、当時12歳の春神ライ。まだ黄色がかった白髪が長く、1年の間に成長期が来たのか、今よりも身長が低く、身体つきや顔も幼く見える。

 

ライとヨッカは、少なくとも最悪の出会いだった。

 

それもそのはず、どうせアルファベットだと思って布団にくるまりながら玄関前に来たヨッカは、不本意とは言え、結果的にローアングルからライの丈の短いスカートの中にある白いモノを覗き込んでしまったのだから………

 

 

「あぁ、えっと……その、なんだ。取り敢えず、ご馳走様です」

 

 

ヨッカはこの気まずくなった空気をどうにかしようと、取り敢えず誤魔化すように例を言う。勿論、こんな事で許されるわけがないのだが………

 

 

「天誅!!」

「ぬおォォォ!?」

 

 

本能的に身の危険を感じたライは、いきなりヨッカを蹴りに掛かる。12歳の少女とは思えない強烈な蹴りだったが、同じく直感的に身の危険を感じたヨッカは毛布を犠牲にその攻撃を緊急回避する。

 

 

「いきなり何すんだ、危うく顔面陥没する所だったぞ!?」

「陥没するかぁ!!……後、いきなり何すんだはこっちのセリフじゃあ!!……今、私のパンツ覗きに掛かってましたよね……!?」

「いやそりゃ、まぁ見たけどさ。わざとじゃねぇよ、結構渋い理由がね?」

「知らん。女の敵は潰す、表出ろや」

「物騒!!……女の子が『天誅』とか『潰す』とか言っちゃダメだろ。つか、君誰?」

 

 

ライは、この時から行動の1つ1つがエネルギッシュ。

 

ヨッカは困りながらも、彼女の事を訊いた。名前もそうだが、何の用事があって来たのかもその言葉には含まれている。

 

 

「あ、すんませんすっかり忘れてた。私、春神ライって言います、5年ぶりに日本の界放市にやって来たんです!!」

 

 

さっきまでの極道みたいな表情とは一変、天使のような微笑みで自己紹介するライ。

 

彼女の「春神」と言う名字に、ヨッカが反応しないわけがない。

 

 

「春神ライ……え、春神って、もしかして春神イナズマ先生の……!?」

「はい、娘です」

「えぇ娘えぇ!?!……先生結婚してたの!?」

 

 

昔、自分にバトスピのイロハを叩き込んでくれた恩人にして師匠「春神イナズマ」………

 

目の前の少女が、その娘だと知る。

 

 

「先生に最後にあったの13年前だからな。確かにその間に結婚して、これくらいの子ができててもおかしくない……か?」

「ところで、お兄さんがお父さんの一番弟子の九日ヨッカ?」

「ん、あぁ、そうだけど」

「……なんか、思ったよりイケメンじゃなくてちょっとショック」

「何だとぉ!?……こう見えてオレ結構顔良いって言われるよ!?」

「そうやってギャーギャー喚いて否定して来る所もなんか嫌。私、目線が自分と同じくらいで、クールで、友達想いで、髪はできるだけ赤みがかってる人が好き」

「ストライクゾーン狭。最近の子はませてるなぁ」

 

 

出会ってまだ5分も経ってない女の子に、そこそこ自信のあった顔をディスられ、そこそこ大きなショックを受けるヨッカ。

 

これも時代の変化かと感じながらも、ライにイナズマの事を聞く。

 

 

「まぁんな事よりよ。先生はどうなんだ、元気にしてるのか?……ひょっとして、君と一緒に界放市に帰って来てたり!?」

 

 

だったら久し振りにお会いしたいな。

 

そう思い、ヨッカは心を躍らせる。しかし、それに対してライは、ほんの少しだけ表情を暗くして………

 

 

「お父さん、行方不明です」

「!?」

 

 

その言葉に、ヨッカは一瞬言葉を詰まらせる。

 

 

「1ヶ月前、インドにいたんですけど、少し出張して来るって行ったっきり戻って来なくて」

「……」

「それで、お父さんが言ってた言葉を思い出したんです。もしもお父さんに何かあったら、日本の界放市にいる九日ヨッカを頼れって、それでこっちに来て……」

「こっちに来てって……え、君オレの家泊まる気なの?」

「はい!!」

「え」

 

 

曇りなき真っ直ぐな瞳。この子は本気だとヨッカは悟る。

 

しかし、今はそんな事より恩師である春神イナズマ先生だ。

 

 

「まぁそれは一旦置いといて、ライちゃんだっけ、イナズマ先生の事は警察には言った……?」

「言ってないけど?」

「えぇ!?……まじか、今度アルファベットさんに相談してみるか。大丈夫かな先生」

「大丈夫ですよ、お父さん、絶対帰って来るって私に約束したから、その内何事もなかったかのように戻って来ます。なので私は、お父さんが戻って来るまで、ここで衣食住するって決めたんです」

「いや、まだ君を泊めるとは一言も……大丈夫なのか、PTA的に」

 

 

三王の事やカドショの事など、ただでさえ忙しいこの時期。ライがやって来た事によって、最悪のタイミングでヨッカの悩みが2つも増えた。

 

 

「実は日本観光、楽しみにしてたんですよね〜〜私、たこ焼きってヤツ食べたいです!!」

「大阪行け」

 

 

居候を断られる事など選択肢に入れてないライ。既に泊まる気満々でいるし、いつの間にか背負っていたリュックをソファの上に置いている。

 

 

「よし、じゃあヨッカさん。界放市のオススメスポット教えてくださいよ」

「いや、だからまだ泊めるとは」

「観光、観光〜!!」

「おい!!」

 

 

イナズマが行方不明になった事を告げる時とは打って変わり、明るいテンションで話すライ。

 

ウキウキな気分のままスキップをし、扉から外に出る。

 

 

「………このまま放っておいたら勝手に帰ってくれるかな」

「早く支度して来てくださいよ、ヨッカさん」

 

 

そんなわけはなく、扉の隙間からひょっこりと顔を見せるライに外出を要求される。

 

 

「わかったわかった。一緒に行ってやるから、ちょっと外で待ってろ」

「わ〜い」

 

 

なんて自由奔放な奴。

 

ヨッカがライに対してそう思いながらも、彼女のために外出の準備をしようとした直後だ。

 

彼のBパッドからコール音が鳴り響いたのは………

 

 

「知らねぇ番号。誰だ……もしもし?」

 

 

取り敢えず応答してみる。Bパッド越しに聞こえて来た、その声は………

 

 

《ヨッカ……すっかり男の声になったな》

「え………」

 

 

渋く、男らしく、芯のある声。

 

この声を、ヨッカは何年経っても忘れてはいなかった。

 

 

「せ、先生……なのか?」

《あぁ、久し振りだな》

 

 

声の主は、他でもない、己の恩師、春神イナズマだった。

 

ヨッカはそれを知った時、嬉しさよりも、先ず驚きの感情の方が上回った。十数年ぶりに言葉を交わしたのもそうだが、ついさっき彼の娘であるライから「行方不明」だと聞いていた事が、よりそれを助長させたのだ。

 

 

「先生、今アンタの娘から訊いた、行方不明だって……今どこに!?」

《ライの事だろ。悪いが、ライには私の事は話さないでくれ》

「なんで、ライちゃんはアンタの事を心配してるぞ」

《巨悪が動き出した》

「は?」

《私は今、彼らに誘拐されている》

「何……!?」

 

 

いきなり飛んで来た『巨悪』『誘拐』と言う単語に、ヨッカはまた驚愕させられる。

 

まだ何も話が見えて来ないが、何かとんでもない事件が背後に潜んでいる事だけは、即座に理解できた。

 

 

《もう話す時間はない。要点だけ話す、ライを守ってくれ》

「!!」

《今、頼れるのは、君しかいない》

「ちょっと待て、先生!!」

《頼んだぞ、ヨッカ》

 

 

その言葉を最後に、イナズマからの通話は途絶えた。メッセージボックスに送られた、URLと、おそらくそれ専用のパスワードを残して………

 

やがてヨッカは、そのURLから知る事になる。ライが人間ではなく、100%人工的に造られた人造人間、エニーズ02であると言う事、そのBパッドに契約スピリット、エアリアルが封印されている事。ライのピンチに反応し、そのエアリアルの封印が解かれる事を。

 

そして、ライのこの秘密は、誰にも話してはならない、と言う事を………

 

 

 

******

 

 

 

時は戻り、現代。ヨッカは走りながら、アルファベットに事の経緯を話し終えた。

 

 

「あの時から、オレはイナズマ先生を捜索する事を決心したんだ。探せとか、助けてくれ、とは言われなかったけど、何もしないなんて、オレらしくないからな」

「そうか」

「今思えば、アルファベットさんには最初から話しておくべきでした。ホントすんません」

「気にするな。事情を何も話さないのは、オレも同じだからな」

 

 

頭を下げるヨッカ。ただ、アルファベットは特に気にしてはいない。

 

 

「二手に分かれるぞ。オレはこっちを、九日は反対側から春神を探せ」

「ああ、見つけたら連絡くれ」

「当然だ。もうお互い、秘密と隠し事は無しだ」

 

 

ヨッカは頷き、アルファベットとは違う方向へと向かって走って行く。

 

この戦いの中で、幾度となく行動を共にして来たヨッカとアルファベット。最初こそ単なるビジネスパートナーのようなモノであったが、知らぬ間に、2人の間には友情のような感情が芽生えていたようで………

 

 

******

 

 

「………」

 

 

小柄で、無造作に伸びた赤髪の少年、鉄華オーカミ。今は右腕が動かないため、それを三角巾で固定している。

 

彼は広大な界放市ジークフリード区をただひたすらに歩き回っていた。兄貴分である九日ヨッカ、彼からの頼みにより、春神ライを捜索しているのだ。

 

朝早かったせいで寝起きだったのか、その顔はいつものクールさを感じさせない程に眠たそうであった。

 

 

「ライ、家出か。家出って事は、金がないって事、金がないって事は、何も買えないって事、何も買えないって事は………腹、減ってんのかな」

 

 

そう呟いたオーカミの視界には、コンビニが映っていた。彼は真っ直ぐ、吸い込まれるように、そのコンビニへと足を運ぶ。

 

 

ー………

 

 

数分後、コンビニの自動ドアから出て来るオーカミ。その左手には、クリームパンが2つ握られていた。

 

1つは開封済みで自分で食べる分。もう1つは………

 

 

「朝はやっぱりパンだよな、ライに会ったら食わしてやろう」

 

 

ライに食べさせてあげる分だった。

 

素朴な優しさを見せるオーカミ。コンビニから出た彼が次に視界に入れたのは、ジークフリード区では最も広大な公園、ヴルムヶ丘公園。

 

 

「ヴルムヶ丘公園。流石にこんな広いだけで原っぱしかない公園には隠れないよな………ん?」

 

 

その時、オーカミは気づいた。ヴルムヶ丘公園にある噴水。その下にある水路、さらにその先にある湧水トンネルに………

 

 

「一応行ってみるか」

 

 

隠れるなら最適だし、ワンチャンあるかもしれない。

 

そう思い、オーカミはヴルムヶ丘公園の湧水トンネルへと進む。

 

実際、その道は正解であり………

 

 

******

 

 

湧水トンネルの最新部。水が流れる音が鳴り響く中、春神ライはまだ悲しさに暮れていた。

 

その横に、付近の自販機で購入したのか、ペットボトルを片手に、彼女の親友である、夏恋フウが座り込む。

 

 

「はい、お水」

「ありがとう」

 

 

ライは、フウから受け取ったペットボトルの開け口に口を付け、中の水を飲む。

 

 

「……で、ヨッカさんと何かあったの?」

 

 

フウがライに訊いた。

 

弱々しい声、最低限の笑顔で接するライに、良い加減痺れを切らしたのだろう。

 

 

「んー……ごめん、今は言えない、かな」

「そんなに話すの嫌なの?」

「嫌……じゃないんだけど、なんて言うか、話がぶっ飛びすぎてて、信用してもらえるかわからないって言うか」

 

 

無論、教えて仕舞えば、フウを巻き込んでしまう事にもなる。自分がエニーズ02と言う、本来はDr.Aを倒すために造られた存在である、などと教えられるわけがない。

 

 

「そんな、友達だと思ってたのに」

「……ごめん」

「もっと私を頼ってよ、ライちゃん」

 

 

落ち込むフウに、少しだけ心がまた傷つくライ。

 

だが無理だ。ただでさえ自分が生まれたせいで、ヨッカやアルファベットなどの人間に迷惑を掛けているのだ。もうこれ以上、迷惑を掛ける人は増やせない。

 

 

「ねぇフウちゃん、バトスピしない?」

「え?」

「こう言う時って、バトルしないと落ち着かないんだよね。お父さんから教わったバトルが、やっぱり1番好きだから」

 

 

ライからの提案。まだまだ心配になる程弱々しい声だが、フウとしては、断る理由もない。

 

 

「いいけど、私、めっちゃ弱いよ、知ってるでしょ?」

「いや、そんな事ないよ、フウちゃんは強い。それは私が保証する」

「……ふふ、ライちゃんにそう言われると、なんか自信湧いて来るな。よぉ〜し、今日こそは本気出しますか!!」

 

 

頭は良い方だが、実はバトスピが下手くそなフウ。ライにお墨付きと自信をもらうと、左腕に己のBパッドを装着。右腕を回し、そのやる気を見せる。

 

 

「よし、負けないよ、フウちゃん……」

 

 

ライも少しだけ元気になったか、立ち上がり、同様にBパッドを装着しようとした直後だった。

 

彼女の身体に異変が起こったのは………

 

 

「ッ……!?」

 

 

突如、目眩がし、指先が痙攣、立ち上がったのも束の間、その場で倒れ込んでしまう。いったい何がどうなったのかもよく分からない状況に、その表情は困惑を極める。

 

 

「ニッヒッヒ………ニィッヒッヒッヒッ!!」

 

 

そんな折、1つの笑い声が、この湧水トンネルに響き渡る。

 

その声は、狂気に満ちているが、やや高めで、とても聞き覚えのあるモノだった。

 

そして、その声と声の主が一致した時、ライは戦慄する。

 

 

「……フウ、ちゃん……!?」

「あぁ、最高、面白い。ニッヒッヒ」

 

 

眼前で倒れるライに手を差し伸べず、不気味な笑い声を上げていたのは、数秒前まで彼女と仲睦まじく会話していた親友、夏恋フウだった。

 

その時、考えたくもない、残酷な真実が脳裏を過ぎる。

 

 

「さっき飲ませた水。あの中には象も3秒で眠らせてしまう程の、強烈な睡眠薬を混ぜてたんだけどな〜……大体3分くらいは効いてなかったよね、流石はエニーズ02」

「……!!」

 

 

フウの口から「エニーズ02」と言う単語が出て来た。

 

これで間違いない。ライの考えた、最悪の真実は証明されてしまう。

 

 

「凄いよねエニーズ02は、身体も頑丈で、頭脳も高くて………オマケに顔も可愛い♡」

 

 

そうだ。間違いない。

 

嘘だと思っても、信じても、この真実はもう決して覆る事はない。

 

1年間。今まで沢山楽しく過ごして来た思い出を思い出し、涙が出て来る。

 

 

「ヨッカさん達が探していた、かつてこの界放市に厄災を齎した悪魔の科学者『Dr.A』……本名『徳川暗利』……アレ、私のお祖父様なの」

「!?」

 

 

 

 

ニィッヒッヒッヒッ……

 

そう。

 

私の本当の名前は徳川フウ。

 

Dr.Aの孫で、貴女の敵。

 

 

 

 

受け入れたくない、残酷過ぎる真実。

 

それは『フウが敵である』と言う事。

 

そうだ。彼女は今まで、親友と言う名の上辺を装い、何食わぬ顔でライのそばにいた。そして今は、ライの目の前で小悪魔の如く、愉快に裏切りの嘲笑を浮かべている。

 

彼女の本当の名は『徳川フウ』………

 

この物語の、本当の黒幕である。

 

 

「マコト先生」

「はい、フウ様」

 

 

フウが呼ぶと、突然何もない空間に、黒々としたワームホールが開き、嵐マコトが現れる。

 

 

「ライちゃんを運んでちょうだい」

「かしこまりました」

「遂にこの時が来た、私と貴方の夢が叶う」

「ここまで長かったですね、とても楽しみです」

 

 

彼らの言葉遣いからして、関係性はフウ有利の主従関係のようだ。

 

嵐マコトは、全身が痺れ、意識がどんどん遠のいて行くライを担ぎ、どこかへ運ぼうとする。

 

そして、また移動しようとBパッドの機能でワームホールを開いた、その直後だ。

 

 

「おい、待てよ」

「!」

 

 

少年の声が響く。

 

鉄華オーカミだ。ここに来るまでに、これまでの会話を多少なり聞いていたのか、彼の表情は怒りを示していて………

 

 

「ライをどこに連れて行く気だ……!!」

「オー、カミ……」

 

 

遂に明かされた真の黒幕。

 

ライを守るため、オーカミの本当の戦いが幕を開ける。

 




次回、第54ターン「原初のエヴァンゲリオン」
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