バトルスピリッツ 王者の鉄華   作:バナナ 

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第55ターン「クローズエボル、全ての進化の頂点に立つ者」

かつて、この界放市はおろか、世界さえ滅亡せんとした悪魔の科学者、Dr.A。

 

彼は頭脳だけでなく、バトルスピリッツの腕前も一級品であった、エースカードであるライダースピリット「エボル」を中心に、デジタルスピリットなどその他多数の強力なスピリット達を従え、巧みに使い、当時の戦士達を大いに苦しめた。

 

さらに、そのエースカードたる「エボル」には、進化を超越した『最終進化系』が存在していた。

 

その名も………

 

 

 

******

 

 

昼。最も日差しが強い時間帯。

 

現実を受け入れ切れず、逃げ出してしまった春神ライを捜索していた界放市の警視、コードネーム『アルファベット』は、広大な界放市ジークフリード区の先端にある、アビス海岸と呼ばれる場所に足を運んでいた。

 

白い砂浜に、静かな波の音がこだまする。ここで暴走していた早美ソラを、鉄華オーカミが止めた話は、まだ記憶にも新しい。

 

 

「ここなら誰も来ない、姿を見せろ、嵐マコト」

 

 

突然立ち止まったアルファベットが、何も存在しない空間にそう告げる。

 

すると、その空間から、黒々としたワームホールが出現して……

 

 

「アッアッア……バレてましたか、相変わらず勘が鋭いようで」

 

 

ワームホールから姿を見せたのは嵐マコト。

 

アルファベットは、捜索中に彼の存在に気づき、人気の少ないアビス海岸へと身を置いていたのだ。おそらく、彼との決着をつけるためだろう。

 

 

「出歯亀趣味は相変わらずだな、嵐マコト。オマエの狙いは春神ライではなかったのか?」

「頭がお悪い。とっくの昔に確保したから、こうして貴方の前に姿を見せたのですよ」

「!」

 

 

嵐マコトの口から、既にライが敵の手に捕えられてしまった事を知るアルファベット。思っている以上に、これは呑気に油を売っている場合ではない。

 

 

「捕らえた直後に鉄華オーカミが現れた時は驚きましたが、フウ様がいて助かりました」

「フウ?……夏恋フウの事か?」

「えぇ、ただ夏恋フウは偽りの名前、その正体はDr.Aと血を分けた実の孫、徳川フウなのです」

「ッ……夏恋が、Dr.Aの孫、敵だったのか……?」

 

 

フウの正体を告げる嵐マコト。あの悪魔の科学者の実の孫と言う、余りにも衝撃的過ぎる事実に、アルファベットでさえも驚愕する。

 

 

「そんな事も知らずに今まで彼女と接して来たのですか、刑事失格ですね」

「……」

「まぁ元々、貴方は悪を裁けるような立場じゃありませんがね、芽座葉月」

「その名は捨てたと言った」

 

 

そう言い放つと、アルファベットは己のBパッドを左腕に装着し、展開。そこにデッキを装填する。

 

 

「バトルだ、決着をつけるぞ。オレが勝ったら、春神ライと春神イナズマを解放してもらう」

「アッアッア、脳筋な貴方なら、そう来ると思ってましたよ。潰してあげますよ、フウ様の前に無様に散っていった、鉄華オーカミのように」

「オマエら、鉄華を……!!」

 

 

嵐マコトもまた、Bパッドを展開し、バトルの準備を行う。その間にオーカミに何があったのかを抽象的に告げられ、アルファベットはさらに怒りの闘志を滾らせる。

 

 

「先に言っておきますが、私のデッキは既に神の領域に達しています。貴方如きでは決して倒せない」

「寝言は寝て言え」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

波が優しく打ち寄せるアビス海岸にて、アルファベットと嵐マコトによるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はアルファベットだ。春神ライと春神イナズマを取り戻すべく、そのターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]アルファベット

 

 

「メインステップ、犀ボーグを召喚」

 

 

ー【犀ボーグ〈R〉】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果で1コアブースト、LV2にアップ」

 

 

アルファベットが初手で召喚したのは、動物のサイと同じ形をしたマシーン、犀ボーグ。その効果でコアが1つ追加される。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:4

場:【犀ボーグ〈R〉】LV2

バースト:【無】

 

 

行動はその1つのみ。アルファベットはターンをエンドとし、デッキが未知数である嵐マコトの様子を伺う。

 

 

[ターン02]嵐マコト

 

 

「さぁ久し振りのバトル、久し振りのメインステップ。そして初めてのデッキ。心が躍りますね」

「……」

「では先ず、緑のデジタルスピリット、テントモンを召喚します」

 

 

ー【テントモン】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果で、僕もコア1つをブーストしますよ」

 

 

嵐マコトが召喚したスピリットは、成長期のデジタルスピリット。てんとう虫型のテントモンだ。

 

犀ボーグとほぼ同様の召喚時効果により、コアが1つ追加される。

 

 

「……実体化してるな。スピリットアイランドの技術か?」

「おぉよくおわかりになりましたね。実にエクセレント、しかしコレは僕が独自で開発したモノ。データ化の技術を応用すれば、この程度はお茶の子さいさいなのです」

 

 

そのテントモンを見るなり、アルファベットはそれが実体を持つスピリットである事を見抜く。

 

そして、それらが齎す痛みも、彼は当然知っている。

 

 

「アッアッア、ではテンポ良く行きますよ、このデッキには貴方にお見せしたいカードが幾つも眠っているのでね」

 

 

そう告げると、嵐マコトは手札にある1枚のカードを取り出し、それを己のBパッドへと叩きつける。

 

そのカードは、アルファベットを驚かせるには、十分なカードであり………

 

 

「フィールドのテントモンを対象に【アーマー進化】を発揮します」

「!!」

「テントモンを手札に戻し、1コストを支払い、燃え上がる勇気、アーマー体デジタルスピリット、フレイドラモンを召喚します」

 

 

ー【フレイドラモン[2]】LV2(2)BP8000

 

 

「フレイドラモンだと!?」

 

 

テントモンがデジタル粒子に変換され、カードとなり嵐マコトの手札に戻る。

 

そしてその代わりに出現したのは、青き身体に炎模様のアーマーを纏うスマートな竜戦士、アーマー体デジタルスピリット、フレイドラモン。

 

アーマー体とは、デジタルスピリットの本来の進化ラインには属さないカード。それ以上進化できないデメリットこそあれど、成長期を好きなタイミングで成熟期以上、完全体以下程度のパワーへ強化できる、デジタルスピリットの希少種。

 

だが、アルファベットが驚愕したのは、それが理由ではない。

 

 

「オマエ、そのデッキ」

「おわかりいただけましたか、このデッキは、Dr.Aと貴方の妹にしてDr.Aを打ち破った英雄、芽座椎名を意識して作成したデッキなんです」

 

 

アルファベット、本名芽座葉月には、血を分けていない妹がいる。

 

名は芽座椎名。Dr.Aから世界を救った英雄にして、元祖エニーズの1人。

 

彼女が使うカードには、今アルファベットと敵対している、フレイドラモンも含まれているのだ。

 

 

「フレイドラモンの召喚アタック時効果、BP10000まで好きなだけ破壊します」

「……」

「消え去りなさい、犀ボーグ」

 

 

爆炎の拳で空を殴り、炎を弾丸のように飛ばすフレイドラモン。犀ボーグはそれに直撃し、爆散して行った。

 

 

「バーストをセットし、アタックステップ、フレイドラモンでアタックします。そのもう1つの効果により、アーマー体がアタックした事により、デッキ上から1枚ドローします」

 

 

スピリットの破壊に加え、手札を補う効果も併せ持つフレイドラモン。敵であるアルファベットにはディスアドバンテージを、使用者である嵐マコトに大きなアドバンテージを齎して行く。

 

 

「……アタックはライフで受ける」

「その身でお受けになりなさい、実体化したスピリットの力を!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉アルファベット

 

 

「ぐっ……ぐぉぉぉぉぉ!?!」

 

 

軽やかに突撃してきたフレイドラモンの拳による一撃に、アルファベットのライフバリアは1つ破壊される。

 

ただ、その際に伴うバトルダメージは、通常のモノとは比較しようがない、暴力の塊。尋常ではない痛みが、アルファベットに片膝をつかせた。

 

 

「ターンエンドです。困りますね、もう少しエクセレントでなければ、折角作ったこのデッキの実験台にもなりませんよ」

手札:4

場:【フレイドラモン[2]】LV2

バースト:【有】

 

 

「くっ……自分にだけ有利な状況にしておいて、よく言う。妹のデッキを愚弄した罪は重いぞ、嵐マコト」

「アッアッア、カードをデッキに入れただけで罪とは、可笑しい話だ」

 

 

負けられない理由がもう1つできた。

 

アルファベットは立ち上がり、自分にとっての2ターン目、第3ターンへと突入して行く。

 

 

[ターン03]アルファベット

 

 

「メインステップ、白の成長期デジタルスピリット、ハックモンをLV2で召喚」

 

 

ー【ハックモン】LV2(3)BP4000

 

 

赤いマントを羽織る、小さな白竜、成長期デジタルスピリットのハックモンが、アルファベットのフィールドへと呼び出される。

 

さらに彼は即座に新たなカードを手札から引き抜く。それは、誰もが知る伝説のデジタルスピリット………

 

 

「ハックモンを対象に【煌臨】を発揮。この時、ハックモン自身の効果でコア3個を自身にブーストする」

「来ますか」

 

 

ハックモンは眩い白銀の光に包み込まれ、その中で大きく姿形を変えて進化して行く。

 

 

「剣纏いしロイヤルナイツ、ジエスモン……!!」

 

 

ー【ジエスモン】LV3(6)BP14000

 

 

白銀の光を吹き飛ばし、中より現れたのは、伝説のデジタルスピリット、ロイヤルナイツの1体、ジエスモン。

 

波風と共に赤いマントを静かに靡かせる。

 

 

「煌臨時効果。フレイドラモンを手札に戻す」

 

 

ジエスモンは周囲に燃え盛る3つのオーラを出現させると、それをフレイドラモンへ向けて放つ。

 

放たれた3つのオーラに押し飛ばされ、フレイドラモンは粒子化し、嵐マコトの手札へと強制送還された。

 

 

「特異なアーマー体と言えど、所詮はデジタルスピリットの中の1種、その頂点に立つ、ロイヤルナイツの敵ではない」

「ふむ、そうですか」

「バーストをセットし、アタックステップ。翔けろ、ジエスモン」

 

 

アタックステップへと突入するアルファベット。さらにジエスモンには、この時にも発揮できる効果があり………

 

 

「ジエスモンのアタック時効果、オマエのバーストを破棄する」

「!」

 

 

アタック直後、ジエスモンは空を斬りつけ、斬撃波を飛ばす。その斬撃波は、嵐マコトのフィールドに伏せられていたバーストを一刀両断。それにより『絶甲氷盾』のカードが破棄されトラッシュへと送られた。

 

 

「そう言えばそんな効果もありましたね。アタックはライフで受けますよ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉嵐マコト

 

 

ジエスモンが瞬く間に嵐マコトの眼前まで急接近、彼のライフバリア1つを斬り裂く。

 

 

「ターンエンド」

手札:2

場:【ジエスモン】LV3

バースト:【有】

 

 

ロイヤルナイツのデジタルスピリット、ジエスモンの登場により、アルファベットが一気に有利な状況となる。

 

次は劣勢に立たされた嵐マコトのターンだが、彼は不思議と余裕のある笑みを見せていて………

 

 

[ターン04]嵐マコト

 

 

「メインステップ、もう一度テントモンを召喚。効果でコアブースト」

 

 

ー【テントモン】LV1(2)BP2000

 

 

前のターンにフレイドラモンの【アーマー進化】の効果で手札に戻っていたテントモンが再召喚。今一度コアブーストを行う。

 

 

「先程貴方は『アーマー体など、ロイヤルナイツの敵でない』……そう申し上げましたね」

「だからなんだ」

「いや、可笑しな話だと思いましてね。確かにロイヤルナイツは、その殆どがデジタルスピリットの最高位、究極体に属しています。けれどいるではないですか、1体だけ、アーマー体のロイヤルナイツが」

「ッ……まさか」

 

 

何かを察したアルファベット。ただ、それと同時にそんなわけがないと、否定の言葉が頭の中を泳ぐ。

 

嵐マコトは、また笑いながら「そのまさかです」と言い放ち、手札にあるカード1枚を引き抜く。

 

 

「【アーマー進化】を発揮、対象はテントモン」

「……」

 

 

そんなわけがない。

 

あるわけがない。

 

奴がロイヤルナイツに、選ばれるわけがない。

 

 

「ロイヤルナイツ、黄金の守護竜マグナモン、LV1で召喚」

 

 

ー【マグナモン】LV1(1)BP6000

 

 

「ば、馬鹿な!?」

 

 

テントモンがデジタル化し、嵐マコトの手札に帰還すると、代わりに現れたのは、黄金の太陽。

 

それを中より爆散させ姿を見せるのは、堅牢な黄金の鎧を身に纏う青き竜、マグナモン。ロイヤルナイツの中では唯一無二、究極体ではなくアーマー体のスピリットだ。

 

 

「召喚時効果、相手の最もコストの低いスピリット1体を破壊」

「!」

「もうおわかりですね。貴方のフィールドにいるのは1体、ジエスモンを破壊します」

 

 

マグナモンは現れるなり、その内に秘めている黄金の波動を解き放つ。それはアルファベットのフィールドにいるジエスモンを飲み込み、爆散へと追い込む。

 

 

「くっ……そいつは、レプリカか」

「エクセレント。流石ですね、このマグナモンはレプリカ。本物のロイヤルナイツと同じ力は何も持ち合わせてはいません。効果はもちろん同じですが」

「だろうな。オマエが椎名に変わり、マグナモンに選ばれるわけがない」

「うむ、辛辣なお言葉」

 

 

カードが偽造品、レプリカである事を一瞬で見抜くアルファベット。

 

マグナモンもまた、彼の妹である芽座椎名の持つカード。さらにそれは己にとっても特別なロイヤルナイツと来た、嵐マコトに対して内包していたその怒りは、より強まって行く。

 

 

「【アーマー進化】で戻ったテントモンをまたまた召喚します」

 

 

ー【テントモン】LV1(1S)BP2000

 

 

「召喚時効果でコアブーストし、その増えたコアを使い、マグナモンをLV2にアップです」

 

 

三度目の登場となるテントモン。嵐マコトがこのカードでコアを増やした数も3個目だ。

 

 

「アタックステップ、マグナモンでアタックします。実体化したロイヤルナイツの一撃、その身で味わいなさい」

 

 

マグナモンがアルファベットのライフバリアを砕くべく、低空を駈け抜ける。

 

ブロックできるスピリットがフィールドに1体もいない彼は、その攻撃を素直にライフで受けるしかなくて………

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉アルファベット

 

 

「ご、ぐふぁ?!」

 

 

黄金の光を纏った、マグナモンの拳の一撃は、アルファベットのライフバリア1つを粉砕し、彼に軽く吐血させる程の大きな痛みを与える。

 

 

「アッアッア、痛いでしょう痛いでしょう、今日が貴方の命日ですよ。精々楽しく最後のバトルを楽しんでくださいね」

「……ふざけるなよ」

 

 

だが、アルファベットも背負っているモノがある。責任から逃げぬように、歯を食い縛り、伏せていたバーストカードの発動を宣言して行く。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動」

「!」

「その効果により、オレは手札が4枚になるまでドローし、相手スピリット1体をデッキ下に送る」

「フ……マグナモンは相手のスピリット効果を受けませんよ」

「無論だ。テントモンをデッキ下に送る」

 

 

バースト効果により、アルファベットは2枚の手札を4枚になるようにドロー。さらにフィールドでは、テントモンの足元にデジタルゲートが開き、そこへ吸い込まれる。

 

手札の増強とスピリットの除去を熟せる強力なバースト効果。それだけで、そのバーストカードがなんなのかを理解できる。特にアルファベットのデッキを調べ尽くした嵐マコトは………

 

 

「アッアッア、来るのですね。貴方の最も信頼するロイヤルナイツが」

「あぁ、バースト効果発揮後、この黒きロイヤルナイツ、アルファモンをノーコストで召喚する」

 

 

ー【アルファモン】LV3(6)BP20000

 

 

アルファベットのフィールドにも同様のデジタルゲートが開き、そこから黒き鎧のロイヤルナイツ、アルファモンが舞い降りる。

 

 

「ターンエンドです。その足掻き方、やはりエクセレントだ。きっと貴方は良いモルモットになる」

手札:5

場:【マグナモン】LV2

バースト:【無】

 

 

「ほざけ。オマエとの戯れも、次のオレのターンで終いだ」

 

 

アタックできるスピリットを失い、そのターンをエンドとする嵐マコト。

 

アルファベットとしてはチャンス到来だ。呼び出したエースたるロイヤルナイツ、アルファモンで逆転を狙う。

 

 

[ターン05]アルファベット

 

 

「メインステップでバーストをセットし、そのままアタックステップに直行する」

「ほぉ、強気ですね」

「行け、アルファモン!!」

 

 

メインステップはバーストのセットのみ。アルファベットはLV3のアルファモンで攻撃を仕掛ける。

 

この時、アルファモンには発揮できる効果があり………

 

 

「LV2、3のアタック時効果を発揮、2コストを支払い、アルファモンを回復。そしてこれは、コアがある限り、何度でも使用できる」

「!」

「オレのコアの総数は12個。アルファモンのLVコストを加味しても、最大5回は回復できる」

「成る程、それでは疲労ブロック効果があるマグナモンでブロックしたとしても、私の4つのライフは守り切れそうにありませんね」

 

 

2コストを支払うたびに、再度アタックを可能にする効果を持つアルファモン。

 

これこそ、アルファベットの逆転の一手。疲労状態でのブロックを可能とする効果を持つとは言え、アルファモンよりBPの下回るマグナモンでは防御にすらならない。

 

 

「そのアタックはライフで受けましょう」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉嵐マコト

 

 

アルファモンが右手を翳すと、嵐マコトの眼前にデジタルゲートが開き、そこから無数の波動弾が彼のライフバリアを襲撃。それを1つ粉砕する。

 

 

「……」

「手札から効果の発揮もないか、詰みだな。アルファモンでもう一度アタックする、効果で2コストを支払い、回復」

 

 

再びアルファモンでアタック宣言するアルファベット。二度目の回復、三度目のアタックの可能。

 

最早誰にもアルファモンは止められない。このままパワーで嵐マコトをねじ伏せ、アルファベットに勝利を齎す。

 

はずだった。嵐マコトが、嘲笑いながら1枚のカードをBパッドへ叩きつけるまでは………

 

 

「アッアッア」

「!」

「やはり貴方は最高のモルモットだ。感激だよ、このカードを僕に使わせてくれるんだからね」

「なに」

「【煌臨】を発揮、対象はマグナモンだ」

「ッ……ロイヤルナイツを対象に煌臨だと!?」

 

 

発揮されるのは、ソウルコアをコストに使い、スピリットを更なる姿へと昇華させる【煌臨】の効果。

 

その元がロイヤルナイツであるマグナモンとなった事で、場は静まり返る。

 

 

「アッアッア、何が煌臨されるか気になりますか?……ではバトルの序盤で私が話した事を思い出してください」

「バトルの序盤………」

 

 

ー『おわかりいただけましたか、このデッキは、Dr.Aと貴方の妹にしてDr.Aを打ち破った英雄、芽座椎名を意識して作成したデッキなんです』

 

 

「Dr.Aと、椎名のデッキ……まさか!?」

「そうです!!……アーマー体共は芽座椎名の力、そしてこちらはもう一方の力。Dr.Aでさえ到達できなかった、あのスピリットの最終進化系」

 

 

アルファベットが察した事を理解すると、嵐マコトは、その最凶最悪の名を告げる。

 

 

「全ての進化の頂点に立つ、破壊の化身。仮面ライダークローズエボル!!……ロイヤルナイツを贄とし、いざ来たれり!!」

 

 

ー【仮面ライダークローズエボル】LV2(2)BP15000

 

 

突如嵐マコトのフィールドに現れる1つの幻影。それはマグナモンと重なり合い、1体のスピリットへと変化を遂げる。

 

それは、悪魔の科学者Dr.Aのエースカード、エボルの最終進化系。この世の全てをクローズさせる、最凶最悪のライダースピリット………

 

その名はクローズエボル。圧倒的王者の風格を纏い、今、この場に顕現する。

 

 

「クローズ、エボル……!?」

 

 

クローズエボル。その存在感はまさに畏怖の具現化そのモノであった。

 

歴戦の戦士たるアルファベットであっても、そのライダースピリットらしい青く大きな眼光で睨みつけられると、カードを持つ指先が思わず恐怖で震え出し、足は半歩後退してしまう。

 

 

「おぉ、そうだこの感覚、Bパッドから伝わるカードの力……これが、当時徳川先生が受けていた進化の力なのだ!!」

「嵐マコト……?」

「負ける気がしねぇ、負ける気がしねぇぇぇぞォォォォオ!!!」

「!」

 

 

クローズエボルが登場するなり、それの使用者たる嵐マコトにも異変が起こる。

 

クローズエボルのカードからBパッドを通し、彼の身体へと流れ込んで来る黒いオーラ。余程強大な力だったのだろう。それを浴びた嵐マコトの瞳は赤黒い邪悪色に染まり、高揚からか、大きな雄叫びを上げる。

 

その叫びは界放市のほぼ全域に響き渡る軽い衝撃波となり、アビス海岸の砂を巻き上げ、静かだった波は嵐でも来たかのように荒々しくなる。

 

 

「この感じ、まるでかつてのDr.Aのような……」

 

 

最早人とは言い難い進化を遂げる嵐マコトに、アルファベットはかつてのDr.Aに面影を重ねる。

 

 

******

 

 

「ッ……今のは」

 

 

視点は変わり、同じく春神ライを捜索していた九日ヨッカ。

 

遠くから感じ取った、謎の衝撃波に、違和感と嫌な予感を覚える。

 

 

「あの方向ってアビス海岸……アルファベットさん、まさか何かあったんじゃ」

 

 

何かあってからじゃ遅い。

 

そう思うと、ヨッカは衝撃波の中心部を目指し、走り出した。

 

 

******

 

 

視点はすぐさま戻り、アビス海岸でのアルファベットと嵐マコトによるバトル。

 

クローズエボルが、未だかつて体験した事のないプレッシャーをアルファベットに与える中、意を決して、彼はアルファモンに指示を送る。

 

 

「……新たなエボルが登場しようとも関係ない、これで決めさせてもらう。やれ、アルファモン!!」

 

 

しかしその直後、嵐マコトはアルファベットを嘲笑うかのように、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「クローズエボルの煌臨アタック時効果。コスト8以下のスピリット1体を破壊するか、相手スピリット1体のコア3つをリザーブに置く」

「ッ……なに」

「この効果により、アタック中で、コスト8のアルファモンを破壊します!!」

 

 

クローズエボルは、龍の形を模った青色に紫の混ざったオーラを拳に乗せ、空を殴り、それをアルファモンへと放つ。

 

その龍のオーラは、忽ちアルファモンの屈強な黒き装甲を砕き、爆散へ追い込む。ロイヤルナイツ最強の一角と言えども、エボルの最終到達点であるクローズエボルにとっては全く相手にならない事が、一瞬で理解できる光景だった。

 

 

「アルファモン……!!」

「この効果で破壊、消滅させた時2枚ドロー。さらにもう1つの効果でアルファモンはトラッシュには行かず、ゲームから除外されます」

「!」

 

 

アルファモンのカードは、バトル中回収不可となるゾーンである除外ゾーンへと移動される。

 

これでアルファベットは、目の前のあのバケモノに対し、対抗できる術さえ失った。

 

 

「さぁ、貴方にもうアタックできるスピリットはいない。ターンエンドの宣言をするのです」

「………ターンエンドだ」

手札:4

バースト:【有】

 

 

絶望の象徴たるスピリットが、希望たるスピリットを砕く。

 

そんなターンだった。最早アルファベットに勝ちの目は残されてはいない。

 

だが、アルファベットのそのサングラス越しに覗かせる瞳は、まだ諦めてはいなくて………

 

 

[ターン07]嵐マコト

 

 

「メインステップ。バーストをセット。クローズエボルのLVを3へ、そのBPは20000に到達します」

 

 

嵐マコトは、再びバーストをセットすると、クローズエボルのLVを最大の3まで上昇させる。その直後にすぐさまアタックステップへと移行し……

 

 

「アタックステップ、クローズエボル。貴方の力で奴を潰すのです」

 

 

クローズエボルでアタックの宣言。さらにそのフラッシュタイミングで手札にある1枚のカードをBパッドへ叩きつける。

 

 

「フラッシュマジック、ストームアタック。効果によりクローズエボルを回復させます」

「くっ……」

 

 

使用したのは緑マジック。クローズエボルの身体がほんの僅か緑色に発光し、回復状態となる。

 

 

「クローズエボルはダブルシンボル。一度のアタックでライフ2つを破壊します」

「……ライフで受ける」

 

 

フィールドにスピリットはいない。アルファベットは覚悟を決め、実体化しているクローズエボルの攻撃を受ける宣言。

 

そして、彼の眼前まで迫って来たそれは、右手に青、左手に紫のオーラを纏わせ、ライフバリアを2つ殴りつけ、玉砕する。

 

 

〈ライフ3➡︎1〉アルファベット

 

 

「がっ……はぁ!!」

 

 

身体中からマグマでも吹き出たかのような痛みが迸る。

 

常人ならば即死であろう一撃に、アルファベットはなんとか耐え抜くが、その掛けていたサングラスは砕け、残骸が砂浜に落ちると、彼の素顔が露わにする。

 

 

「ぐっ……おぉッ……!!」

「フ……良い悶えっぷりですね。さぁ、これで最後のアタックですよ」

 

 

痛みに悶えるアルファベットを見て、己の勝利を確信した嵐マコト。トドメの一撃を与えるべく、Bパッド上にあるクローズエボルのカードを捻ろうとするが………

 

 

「う、うぉぉぉぉ!!……ライフ減少により、バースト発動!!」

「!」

 

 

そんな彼の最後の一撃を防ぐべく、アルファベットは遠のいていく意識を、気合いと根性で無理やり呼び戻し、伏せていたバーストカードを反転させて行く。

 

 

「エクスティンクションウォール、効果により減った分のライフを回復」

 

 

〈ライフ1➡︎3〉アルファベット

 

 

「その後コストを支払い、フラッシュ効果を発揮。オマエのアタックステップは強制終了となる」

 

 

発揮したのは白属性のバーストマジック。減った分のライフを取り戻し、嵐マコトのアタックステップを強制的に終了させる。

 

いくら強力極まりないクローズエボルとは言え、この効果には無力。嵐マコトは、大人しくターンをエンドとせざるを得なくなり……

 

 

「首の皮一枚繋がりましたか、ターンエンドです」

手札:5

場:【仮面ライダークローズエボル】LV3

バースト:【有】

 

 

致し方なくそのターンをエンドとする嵐マコト。だが、圧倒的優位な立場にいるからか、その表情は余裕に満ち溢れている。

 

 

「嵐マコト、オマエはかつてのDr.Aと全く同じ力を使っているのか?」

 

 

己のターンの開始前、アルファベットが嵐マコトに訊いた。全身の激痛のせいで、その声色は、あのアルファベットにしてはどこか弱々しい。

 

 

「アッアッア……そうですとも。これはDr.Aが使った進化の力。今、それが私の全身で縦横無尽に駆け巡っているのです。故に、このクローズエボルも難なく扱える」

「……」

「最高の力です。まさに神にも等しい」

 

 

Dr.Aがかつて内包した進化の力。彼は昔それで若返りまで果たしているが、見たところ嵐マコトにその作用は出ていない。

 

だが、限りなくあのDr.Aに近づいている事は確実である。

 

 

「その力を得たDr.Aの末路を、オマエは知ってるのか?」

「は?」

「進化の力を増幅させ過ぎたDr.Aは、椎名にバトルで敗北した直後、その負荷に耐えられなくなり、消滅した」

「……」

「このままだとオマエ、バトルに負けた瞬間死ぬぞ」

 

 

昔のDr.Aの話をするアルファベット。

 

話を簡潔にまとめると、要するに死への忠告である。バトルで負ければ、Dr.Aと同じ轍を踏む事になるのだと………

 

 

「アッアッア、知っていますよそんな事。ですが、今の私が負けるわけがないじゃないですか」

「……」

「話で少しでも生きる時間を伸ばそうとしているのですか?……ムシケラの分際で延命など、欲張りな生物だ。さっさとターンを進めなさい」

 

 

当然ながら、今の自分に絶対的な自信を誇っている嵐マコトに、その程度の忠告では何も影響を与えられない。

 

 

「オレのターン……」

 

 

クローズエボルの猛攻を、満身創痍になりながらも凌いだアルファベット。どうにか繋いだ己のターンを進めようとするが………

 

 

「アルファベットさん!!」

「……九日」

「どうしたんだよ、そんなにボロボロになっちまって………ッ」

 

 

ヨッカがここで現れる。彼は満身創痍になったアルファベットと、不気味なオーラを纏う嵐マコト、そのフィールドで異常な存在感を放つライダースピリット、クローズエボルを視認する。

 

その余りにも畏怖たる光景に、思わず言葉を詰まらせ、唾を飲み込んだ。

 

 

「こ、コレは……」

「九日ヨッカ。隠れ研究所でのパンチは効いてましたよ、痛かったです。まぁでも許してあげます、僕は寛大ですからね」

「アレはクローズエボル。Dr.Aのエースカードだったライダースピリット、エボルの最終進化系だそうだ」

「ッ……それを、嵐マコトが使ってんのかよ。つーか、アイツが身に纏っているあの黒いオーラはいったい……」

 

 

一瞬で状況を把握できないヨッカだが、それが不利で劣悪極まりない事だけはわかる。

 

 

「いいからそこで黙って見ていろ九日、今からオレが、サクッと勝利してやる」

「何がサクっとだ。サクっとやられてんじゃねぇか。いいから逃げるぞアルファベットさん、Bパッドの電源を落とせ」

「……昔、死んだジジイから教わった。目の前のバトルから逃げる事だけは絶対にするなとな。何でも、カードバトラーとしての人生に、傷をつけるそうだ」

「今そんな事はどうでも……」

「オレを信じろ、仲間だろ?」

 

 

ヨッカの制止を振り切り、アルファベットは傷だらけになりながらも、巡って来た己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン08]アルファベット

 

 

「メインステップ、アルマジトカゲをLV3で2体、犀ボーグをLV1で1体召喚」

 

 

ー【アルマジトカゲ】LV3(3)BP4000

 

ー【アルマジトカゲ】LV3(3)BP4000

 

ー【犀ボーグ〈R〉】LV1(1)BP2000

 

 

「犀ボーグの召喚時効果、自身にコア1つを追加、LV2へアップする」

 

 

黒く、丸みを帯びた背中が特徴的なトカゲ型の低コストスピリット、アルマジトカゲが2体と、本日2体目となる犀ボーグが、アルファベットのフィールドへと召喚される。

 

さらに立て続けに、彼は手札のカードを引き抜き……

 

 

「まだ行くぞ、さまよう甲冑2体をLV1で召喚」

 

 

ー【さまよう甲冑】LV1(1)BP2000

 

ー【さまよう甲冑】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果が二度発揮され、デッキ上から2枚のカードをドロー」

 

 

甲冑を着用している亡霊、さまよう甲冑も2体召喚。アルファベットは0枚となった手札を、その効果で2枚まで回復させる。

 

 

「さらに引いたカードの中から、アルマジトカゲをもう1体、LV2で召喚」

 

 

ー【アルマジトカゲ】LV2(2)BP3000

 

 

コアブーストとドローを活かした、低コストスピリット達の召喚連鎖。これにより、アルファベットのフィールドには6体ものスピリットが並んだ。

 

 

「いくら雑魚を並べた所で、このクローズエボルには敵いませんよ」

「フ……だが、クローズエボルの煌臨アタック時に発揮される、破壊効果の対象となるスピリットは1体のみ。これだけ並べれば全て破壊するのも容易ではないだろう」

 

 

大量のスピリットを並べたアルファベットは、直後、強気にアタックステップの宣言をして……

 

 

「アタックステップ、先ずは犀ボーグでアタック」

「アルファベットさんのスピリットは6体、対して嵐マコトのブロッカーは1体、ライフは4。6体中5体のアタックが通れば、アルファベットさんの勝ちだ……!!」

 

 

6体ものスピリットの内、先ずは犀ボーグでのアタック。

 

ヨッカの言う通り、軍団でフルアタックを仕掛ければ、理論上はアルファベットの勝利となるが………

 

嵐マコトの作った英雄と魔王のデッキは、そう甘くはなくて。

 

 

「その程度の想定を僕がしていないとでも?」

「!」

「アタック後のバースト、トライアングルバーストを発動します」

 

 

嵐マコトは、前のターンに伏せていたバーストカードを勢い良く反転。

 

それの効果によるものなのか、彼の手札にある1枚が緑色に発光する。

 

 

「効果により、手札にあるコスト4以下のスピリットカード1枚をノーコスト召喚。来なさい、ピコデビモン」

 

 

ー【ピコデビモン】LV1(1)BP1000

 

 

嵐マコトが、緑色に発光したカードをBパッド上に叩きつけると、フィールドに継ぎ接ぎだらけで、丸い蝙蝠のような見た目のデジタルスピリット、ピコデビモンが召喚される。

 

 

「さらにこのピコデビモンは、成長期のデジタルスピリットです」

「……」

「この意味、貴方ならもうおわかりですよね。フラッシュ【アーマー進化】を発揮、対象はピコデビモン」

 

 

三度目の発揮となる【アーマー進化】の効果。

 

何のアーマー体が召喚されるのかを、アルファベットは大方見当がついている。おそらく、ジエスモンの効果で手札に戻した、アイツだ。

 

 

「1コストを支払い、燃え上がる勇気、フレイドラモンをLV2で召喚します」

 

 

ー【フレイドラモン[2]】LV2(2)BP8000

 

 

コストによりピコデビモンがデジタル化し、嵐マコトの手札へ即帰還すると、代わりに炎の紋様が描かれた装甲を纏いし竜戦士、フレイドラモンが出現する。

 

 

「フレイドラモンの召喚アタック時効果、BP10000まで好きなだけ相手スピリットを破壊。LV3のアルマジトカゲ2体、さまよう甲冑、消えなさい」

「複数体を除去するスピリット!?……そんな」

 

 

そう声を荒げたのは、アルファベット本人ではなく、その勇姿を見届けている九日ヨッカだった。

 

フィールドでは、フレイドラモンが両拳から火炎放射を放出。アルファベットのフィールドにいるアルマジトカゲ2体、さまよう甲冑1体、実に半数ものスピリット達が焼き尽くされた。

 

 

「犀ボーグのアタックは、クローズエボルでブロックしましょう」

 

 

嵐マコトのライフバリアを破壊してやろうと、背中の砲台から弾丸を射出する犀ボーグ。だが、その弾道に突然クローズエボルが割って入る。

 

クローズエボルは、その弾丸を拳1つで砕くと、瞬く間に犀ボーグの眼前へと迫り、顔面を蹴り上げ、それを爆散させる。

 

 

「……ターンエンドだ」

手札:1

場:【さまよう甲冑】LV1

【アルマジトカゲ】LV2

バースト:【無】

 

 

そのターンをエンドとするアルファベット。敗北を受け入れる覚悟を決めたいのか、その表情はどこか安らかであった。

 

次は最早人智を超えた存在となってしまった嵐マコトのターン。己の強さをアルファベットに見せつけるべく、それを進めて行く。

 

 

[ターン09]嵐マコト

 

 

「メインステップ、フレイドラモンのLVを3にして、アタックステップへ移行します」

「アルファベットさん」

「……」

「フレイドラモン、行きなさい。その効果でアルファベットの残りのスピリットを全て焼却。さらに1枚ドロー」

 

 

ターン回早々に、フレイドラモンのLVを最大まで上昇させて攻撃を仕掛ける嵐マコト。

 

フレイドラモンの両手から放たれる業火が、またアルファベットのフィールドを焼き尽くし、残った全てのスピリット達が焼き払われた。

 

 

「アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉アルファベット

 

 

「ぐっ……うおっ!?」

「アルファベットさん!!」

 

 

フレイドラモンの炎を纏った拳の一撃が、アルファベットのライフバリア1つを砕き、彼に大きなバトルダメージを与える。

 

 

「アッアッア!!……どうだアルファベット、どうだDr.A!!……この僕こそが、頂点に立つカードバトラーだ、世界を統べる覇者だ!!……アッアッア、アーアッアッア!!」

 

 

勝敗は決した。後は嵐マコトがクローズエボルのカードを横にするだけで、このバトルは終わりを迎える。

 

アルファベットでさえ一捻りしてしまう程の圧倒的な力を実感し、彼は大いに高笑い。

 

 

「最後に何か言い残す事はおありですか?……命乞いから仲間への遺言まで、幅広く耳に入れて差し上げましょう」

「……」

 

 

遺言を聞いてやろうと告げて来る嵐マコト。

 

アルファベットはほんの少しだけ考えると、話し出す。

 

 

「孤独だな、オマエは」

「……は?」

「強さだけを追い求める者は、必ず孤独になる。いくら強くなっても、その周りには誰もついてこない」

 

 

話した内容は、命乞いでも、ましてや仲間への遺言でもなく、まさかの「煽り」………

 

彼の「孤独」と言う単語に、嵐マコトは僅かに腹を立てたのか「何が言いたいのです」と、キレ気味に反応する。

 

 

「オレも元は孤独だったが、今では多くの仲間に恵まれた。そのお陰か、毎日幸せだ。オマエにもそれを分け与えてやりたいと、思えるくらいにな」

「……だから結局、何が言いたいのです!!」

「オマエが模倣しているのは、英雄芽座椎名でも、悪のカリスマ、Dr.Aでもなく、昔のオレ、芽座葉月と言う事だ。故にオマエは、頂点に立つカードバトラーにも、世界を統べる覇者にもなれん。ただ己の欲求を満たしたいだけの、自惚れ野郎だ」

「だ、黙れぇぇぇぇえ!!!……クローズエボルで、ラストアタックゥゥゥ!!」

 

 

自分より弱いクセに上から目線だった事に腹を立てたのか、はたまた大型図星だったのかは定かではないが、怒りが頂点に達した嵐マコトは、クローズエボルでラストアタック。

 

フィールドでは、クローズエボルがアルファベットの眼前まで赴き、その拳を構える。

 

 

「アルファベットさん!!」

「九日、後は任せた」

 

 

敗北を迎える間際、アルファベットは望みをヨッカへと託す。その表情は彼にしては珍しく、優しい笑みを浮かべていた。

 

 

〈ライフ2➡︎0〉アルファベット

 

 

「アルファベットさァァァァん!!!」

 

 

ヨッカの叫びも虚しく、クローズエボルは、右拳に龍を模った青と紫のオーラを纏わせ、それをそのまま、アルファベットのライフバリアへとぶつける。

 

他の何にも例えられない痛みが、アルファベットを襲い、遂に彼は気を失ってその場で倒れ込んでしまう。

 

 

「勝者は我、伝説となるカードバトラーだ!!」

 

 

これにより、勝者は嵐マコト。勝利の雄叫びを上げると、フィールドに残ったスピリット達も咆哮する。

 

 

「アルファベットさん!!」

 

 

倒れたアルファベットに駆け寄ろうと走り出すヨッカだが、彼が到達する前に、嵐マコトがアルファベットにその手を翳して………

 

 

「アーアッアッア!!……データの藻屑となりなさい、伝説のカードバトラー、芽座葉月!!!」

「!?」

 

 

そう叫ぶと、ヨッカの眼前で、アルファベットの身体がデジタル粒子となり、この地上から消滅した。

 

 

「………」

 

 

突然迎えた、仲間との別れ、死別に、ヨッカは何が起こったのかを理解できず、言葉を失った………

 

そして次第に、アルファベットが消滅した事実を理解し始める。

 

 

「う…うァァァァァァァァあ!?!!?!」

 

 

理解しても、ただ悲しみを乗せて叫ぶ事しかできなかった。

 

 

「アルファベットさん、どこ行ったんだよ、アルファベットさん!!」

「消えましたよ、彼は、安らかにね」

「……!」

 

 

困惑するヨッカに、嵐マコトがそう告げた。

 

アルファベットを消滅させた張本人である嵐マコトに、ヨッカは怒りの眼を向ける。

 

 

「実にノットエクセレント。彼は昔、ロイヤルナイツのカードを集めるためだけに、多くの罪を背負ったのだ、死して当然」

「うるせぇぇ!!……アルファベットさんを、返しやがれぇぇぇぇえ!!!」

 

 

怒りが収まらないヨッカは、嵐マコトに殴り掛かる。だが、その前に、嵐マコトはBパッドを操作し、いつもの黒々としたワームホールを空間に生成する。

 

 

「春神ライも既に我が手中に収めている。もうすぐ、あのお方の夢も叶う」

「ッ……ライに何しやがった!!」

「さらばです九日ヨッカ。もう二度とお会いする事はないでしょう」

「おい、待ちやがれ……アルファベットさんを、ライを、イナズマ先生を……返せぇぇぇぇえ!!!」

 

 

事態はヨッカ達にとっては最悪な状況、嵐マコトらにとっては最高な状況に向かっている事を告げられる。

 

嵐マコトは、自身で生成したワームホールの中に逃げ、ヨッカはただ1人、アビス海岸に残された。

 

 

「……ちくしょう」

 

 

優しい波の音、さざなみが聞こえて来る。

 

しかし、それだけだ。ヨッカの手の中には何もない。何も守れなかった。己の不甲斐なさに怒りが募って行く。

 

 

「チクショォォォォォォ!!!!」

 

 

ヨッカの怒りと悲しみを乗せた叫びが、アビス海岸に虚しく響いた。それを聞き届ける者は、もう誰もいない。

 

 

 

******

 

 

界放市ジークフリード区にある大きな公園、ヴルムヶ丘公園。

 

その中にある夏を涼むために造られた、水路が敷かれたトンネル、湧水トンネル。それが徳川フウと、彼女の操るエヴァンゲリオンスピリット初号機により崩壊。

 

鉄華オーカミは、実体化したスピリットのダメージに傷を負い、さらにはその崩壊崩落に巻き込まれてしまったが………

 

 

「オーカミ……起きるんだ、鉄華オーカミ」

「……」

 

 

誰かの声に呼ばれ、ヴルムヶ丘公園の原っぱで横たわっていたオーカミの意識が戻る。

 

決して無事とは言えない、血が滲んだ包帯巻きの身体。オーカミは何故、己がそうなったのかを思い出そうとする。

 

 

「……!!」

 

 

思い出した。

 

徳川フウ。ライを裏切り、何が理由なのかは定かではないが、ライを連れ去った。

 

彼女の心を深く傷つけたアイツだけは許せない。また怒りに心を支配されたオーカミは、己の身体の痛みを顧みず、動き出そうとする。

 

 

「やめろ。無理に動こうとすれば、今度こそ本当に死ぬぞ」

「……」

「大丈夫、オレの見立て通りなら、後1時間で血は止まって、身体の痛みも少しは楽になるだろう」

 

 

声の主が、震えながら上半身を起こそうとしたオーカミにそう告げた。

 

声の主は、ヨッカでもアルファベットでもない大人の男性で、彼がオーカミをあの崩壊から救出してくれた事だけはわかる。きっと、オーカミの手当をしてくれたのも、彼なのだろう。

 

ただ、オーカミは全身に迸る痛みのせいで目を開けられず、その顔を見る事はおろか、口を開けて会話する事すらままならない。

 

 

「アルファベットが倒れた。今、この事態に終止符を打てるのは、オマエしかいない」

「……」

「少し早いが、コレを使え」

 

 

オーカミを救出したであろう男性は、そう告げると、上着の懐から1体のカードを取り出し、それを包帯巻になったオーカミの左手へ握らせる。

 

 

「鉄華団に負けは許されない。次は必ず倒せ、完膚なきまでに」

「……」

 

 

声の主が去って行く。

 

何を言っているのか、どう言う意図あっての行動なのか、何故そこまで色々と詳しいのか、不思議であったが………

 

今は正直どうでもいい。オーカミは内心で「当然だ」と、声の主に言い返し、左手にあるカードをより強く握った。

 

そのカードに、赤い目のバルバトスが描かれている事を知るのは、およそ1時間後の事である。

 

 






次回、第56ターン「特別編!! 鉄華団VS仇敵軍団」


******


次回は特別編、ちょっぴり寄り道します。
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