「ハァ……ハァ」
「……大丈夫?」
「いや、何のこれしき、まだ若者に遅れは取らんよ」
児雷也森林の北東の奥深くに位置する巨大な塔。そこの最上階までの階段を急いで駆け上がっている1人の少年と1人の男性。
鉄華オーカミと春神イナズマだ。若く、体力のあるオーカミはこれくらい余裕だが、イナズマは運動不足もあって息を切らしていた。しかしそこは娘であるライのため、彼も根性を見せる。
「……ところでオーカミ、君は娘とどう言う関係なんだ」
「どう言う?」
少しだけ先を走っていたオーカミに追いつきながら、イナズマがオーカミにそう質問した。
これに関しては事件のうんたらと言った話ではない。純粋な、ライの父親としての質問だ。
「普通に友達だけど」
「本当か?……本当に普通の友達同士か?」
「なんか急にうるさいな。オレはそう思ってるけど、ライは知らない、後でアイツに聞けば?」
「そ、それはなんか怖いから嫌だな」
「??」
まだ齢14歳のオーカミには、イナズマの父親としての感情は、到底理解できないだろう。
「じゃあもう1つ質問」
「今度は何」
「もし仮に、だ。ライが今の記憶や優しさを失い、心のない怪物になって、皆を襲い始めた時、君ならどうする?」
「………」
難しい質問だ。だが、オーカミは少しだけ考えると、直ぐに言葉を発する。
「難しい事は苦手だ。そう言うのはだいたいアニキが、アンタの弟子が考えてくれる。でもなんとなく、そうなったらオレはアイツを容赦なく倒す気がする」
「……嫌にならないか?」
「嫌だけど、大好きなみんなを襲う事になる、アイツの方が多分辛いと思うから」
「そうか」
不思議と、心の蟠りが溶けて行く感じがした。この少年なら、自分の代わりに娘を任せられると確信したからか。
「達観しているな、君は」
「そう?」
「私に何かあった時、ライを頼む。全力で守ってやってくれ、娘を任せられるのは、ヨッカと君だけだ」
「……」
「それ、もう少しで最上階だ。ここからは競争で行こう」
「え、競う意味ある?……オレ、片腕動かないから、全力で走りづらいんだけど」
オーカミと言う少年に触れ、この少年なら娘を任せられると確信したイナズマ。その後、2人は何1つ会話を交える事なく、最上階までの階段を駆け上がって…………
******
……ゲートオープン、界放!!
児雷也森林の北東にある巨大な塔、その最上階にて、春神ライと徳川フウ、自由を賭けた2人のバトルスピリッツが幕を開ける。
先攻はフウだ。己が「儀式」と呼称するこのバトル、全てを見通しているかのような、余裕のある笑みを浮かべながら、ターンを進めて行く。
[ターン01]徳川フウ
「メインステップ、ネクサス、鈴原トウジを配置」
ー【鈴原トウジ】LV1
「その配置時効果により、手札から相田ケンスケを配置して1枚ドロー」
ー【相田ケンスケ】LV1
「ネクサス、相田ケンスケの配置時効果、手札から紫のパイロットブレイヴ、碇シンジを召喚して1枚ドロー」
ー【碇シンジ】LV1(0)BP1000
「碇シンジの召喚時効果で1枚ドロー」
「手札を減らさず、フィールドに3枚のカードを展開した」
「これが私の本気のデッキ、凄いでしょ、ターンエンド♡」
手札:5
場:【碇シンジ】LV1
【鈴原トウジ】LV1
【相田ケンスケ】LV1
バースト:【無】
僅か1ターン、手札を減らさず、ブレイヴ1枚、ネクサス2枚、計3枚ものカードをフィールドに並べたフウ。
ライはその大量展開をモノともせず、迎えた己のターンを進めて行く。
[ターン02]春神ライ
「メインステップ、行くよ、エアリアル……!!」
ー【ガンダム・エアリアル】LV2(2)BP3000
フィールドに出現するのは、風に包まれた球体。それを振り払い、中より全体的に柔和で白いビジュアルのモビルスピリット、春神ライの相棒、エアリアルが姿を見せる。
「契約カード。これがエアリアル、迫力満点ね」
「アタックステップ、エアリアルでアタック。その効果でカウント+1、デッキ下から1枚ドロー、OCを満たしたことにより、BP4000アップ!!」
契約カードを多用するデッキは、大抵の場合、カウントを増やす事に長けている。
エアリアルもその例に漏れず、ライのカウントエリアに1つのコアを貯めた。
「そのアタックはライフで」
〈ライフ5➡︎4〉徳川フウ
背部に携行しているビームライフルを、吸い付かせるように右手は収めると、エアリアルはその銃口をフウへ向け、ビーム砲を放つ。
それは彼女のライフバリア1つを打ち貫き、粉砕した。
「契約カードにはそれぞれ意思と感情があり、契約者とのみコミニケーションを取ると言われてる。破壊されたライフの断片、砕けた時の衝撃から伝わって来た、そのモビルスピリット、怒ってるね。ニッヒヒ、そんなにライちゃんが大事なんだ」
「……ターンエンド」
手札:5
場:【ガンダム・エアリアル】LV2
バースト:【無】
カウント:【1】
ライを苦しめた事に対して怒る、エアリアルの一撃。それが彼女に貴重な先制点を齎す。
バトルは二周目を迎え、次はフウのターン。不気味な笑みを浮かべながら、それを進めて行く。
[ターン03]徳川フウ
「メインステップ、エアリアルのお礼に、ライちゃんに紹介してあげる。私の最高のエースカード」
「!」
そう告げ、満面の笑みを浮かべながら、フウは手札から引き抜いた1枚のカードを己のBパッドへ置く。
「私は今、神話になる。エヴァンゲリオン初号機!!……LV2で召喚」
ー【エヴァンゲリオン試験初号機-決意の出撃-】LV2(3)BP9000
黒々としたワームホールのような渦が開くと、それを咆哮を張り上げながら荒々しくこじ開け、フィールドへ飛び出して来る何か。
それは、紫色の体色と一角を持つエヴァンゲリオンスピリット、初号機。フウのエースカードにして、災厄そのモノ。
「ッ……紫のエヴァンゲリオンスピリット!?」
「ニッヒヒ、碇シンジを初号機に合体」
ー【エヴァンゲリオン試験初号機-決意の出撃+碇シンジ】LV2(3)BP13000
「アタックステップ、初号機でアタック。その効果でエアリアルを指定アタック」
「エアリアルを破壊する気か」
「いや、まだ破壊しないよ、まだね。ブロックされた時、初号機の【転醒】を発揮、バトルをただちに終了させ、自身にコアブーストし、裏返す」
エヴァンゲリオンスピリットの原点、初号機は、地獄の咆哮とも呼べる雄叫びを上げながら、更なる進化を遂げて行く。
「転醒せよ、シン化第1覚醒形態!!」
ー【エヴァンゲリオン試験初号機 擬似シン化第1覚醒形態+碇シンジ】LV2(4)BP17000
緑だった装飾は赤く発光し、より残忍性が増した事を告げるように、口が大きく開口する。
これがシン化第1覚醒形態。エヴァンゲリオン初号機が更なる力を得た姿だ。
「転醒によりカウント+1。さらに転醒アタック時効果で回復」
【転醒】の効果により、初号機のバトルが強制終了となったが、転醒時効果により回復したため、このターン、もう一度だけアタックが可能となった。
「転醒を果たした、第1覚醒形態で再びアタック。その効果でエアリアルのコア2個をリザーブに置き、消滅」
「くっ……」
荒々しい獣のような勢いでエアリアルに迫り来る、初号機第1覚醒形態。エアリアルはビームライフルを撃ち、迎撃するが、第1覚醒形態は、半透明のバリア、A.T.フィールドを掌から展開し、それを弾く。
そして、第1覚醒形態はエアリアルの眼前へと到達し、その胸部を拳で殴打。エアリアルを吹き飛ばして爆散させる。
「さらに消滅したら相手ライフ1つをリザーブに置く、貫通効果」
「ッ……」
〈ライフ5➡︎4〉春神ライ
「ッあぁ……!!」
「まだよ。第1覚醒形態本体のアタックがある」
「ライフで受ける」
〈ライフ4➡︎2〉春神ライ
「うあァァァ!!!」
エアリアルを倒した第1覚醒形態。その拳で次はライのライフバリアを砕き始める。
何度も殴りつけ、累計で3つのライフバリアを粉砕し、ライに大きなダメージを与えた。
「ライちゃんの苦痛に歪む顔、最高」
「……この感じ、妙だ。まさかスピリットが実体化してる?……本当に私の目の前にいるの……!?」
「あぁ今更気がついた?……まぁ最近のBパッドの技術は、本物と差し支えないくらい繊細で美しいからね。そうだよ、私のBパッドはマコト先生作の特別製、スピリット達は実体を持ち、真のバトルダメージを与える」
ここでようやくフウの操るスピリットが実体化している事に気がつくライ。真のバトルダメージが身体に刻まれ、恐怖で右手の指先が小刻みに震えるが、すぐさまそれを押し殺すように拳を握る。
「……破壊された契約スピリット、エアリアルは魂状態となって、私のフィールドに残る」
エアリアルの爆散による爆煙が晴れると、ライの横に破壊されたはずのエアリアルが、色のない半透明の姿となって片膝をついていた。
これは魂状態と言われる、契約カード特有の状態。相手によってフィールドを離れる契約カードは、代わりにアタックもブロックもできない魂状態となってフィールドに残る事ができるのだ。
「怖いのに無理しちゃって、可愛い。ターンエンド」
手札:5
場:【エヴァンゲリオン試験初号機 擬似シン化第1覚醒形態+碇シンジ】LV2
【鈴原トウジ】LV1
【相田ケンスケ】LV1
バースト:【無】
カウント【1】
実体化するスピリットを使い、ライに死と言う恐怖を与えるフウ。
しかしライは、イナズマやヨッカ、己の家族のため、その恐怖を胸に押し殺して耐え、第4ターン目を進めて行く。
[ターン04]春神ライ
「メインステップ、みんなのためなんだ、怖くなんて、ない!!……黄のネクサス、ミオリネ・レンブラン、さらに黄のパイロットブレイヴ、スレッタ・マーキュリーを召喚」
ー【ミオリネ・レンブラン】LV2(1)
ー【スレッタ・マーキュリー】LV1(0)BP1000
フィールドには何も出現しないが、ライはネクサスの配置と、パイロットブレイヴの召喚を行う。
ただ、合体先のスピリットがいないため、少なくともこのターンでの反撃は不可能であり………
「ターンエンド」
手札:4
場:【スレッタ・マーキュリー】LV1
【ミオリネ・レンブラン】LV2
【ガンダム・エアリアル】《魂状態》
バースト:【無】
カウント:【1】
劣勢をひっくり返せず、そのターンをエンドとする。
反撃できなかったライを見て、口角を上げるフウ。また初号機を従える彼女のターンが始まる。
[ターン05]徳川フウ
「メインステップ、第1覚醒形態のLVを3、相田ケンスケのLVを2にアップ」
メインステップの開始早々、フウはフィールドのカードのLVを上げる。これにより、初号機のBPは最大の21000まで上昇。
「アタックステップ。ニッヒヒ、早くも決着がつきそうだねぇ、第1覚醒形態でアタ」
「その前に、アタックステップ開始時、ネクサス、ミオリネ・レンブランの効果を発揮」
「なに……?」
決着をつけようと、第1覚醒形態で再びアタックを仕掛けようとしたフウに、ライが待ったを掛ける。
「ミオリネは、自分のスレッタがいる時、各アタックステップの開始時、相手のスピリット1体を指定し、このターン、そのスピリットは可能なら必ず一番最初にアタックしなければならない。さらに、それが持つアタック時効果1つを発揮させない」
「ッ……アタック時効果を無力化する効果」
「私が指定するスピリットは、初号機第1覚醒形態、発揮させないアタック時効果は【A.T.フィールド】」
ライが発揮させたミオリネの効果。
それはスレッタがいる時に限り、アタックステップの開始時に相手スピリット1体を指定し、このターン、それは可能なら必ず一番最初にアタックしなければならなず、アタック時効果1つが無効となる。
これにより、フウは【A.T.フィールド】のない初号機第1覚醒形態でのアタックを強制させられた。
「ニッヒヒ、そんなまどろっこしい戦術を携えて、いったい何を企んでいるのかな〜〜?」
「……」
「まぁでもいいよ、強制されたし、乗ってあげる。第1覚醒形態でアタック、転醒アタック時によりターンに一度回復」
自ら罠に掛かりに行くフウ。第1覚醒形態が咆哮を張り上げながらライの元へと迫って行く。
このアタックが通れば彼女の勝利となるが、ライがこのタイミングでわざわざ自分の1ターンを潰してまで【A.T.フィールド】の効果を無力化したのには、当然意味があって。
「フラッシュ【契約煌臨】を発揮。対象は、魂状態のエアリアル……!!」
「ッ……【契約煌臨】……契約カードが持つ力」
ライが発揮させたのは、ただの【煌臨】ではない、魂状態の契約カードも対象にできる【契約煌臨】だ。
半透明になり、ライの横で片膝をついていたエアリアルは、再び色を取り戻し、ライを守り抜くべく立ち上がる。
「LV2で来い、エアリアル・ビームブレイド」
ー【ガンダム・エアリアル[ビームブレイド]】LV2(2)BP14000
「この瞬間、スレッタの効果発揮。契約煌臨したエアリアルとただちに合体」
ー【ガンダム・エアリアル[ビームブレイド]+スレッタ・マーキュリー】LV2(2)18000
復活したエアリアルは、ビームライフルの銃口からビームブレイドと呼ばれるビーム状の刃を出現させる。
「煌臨アタック時効果、相手スピリット2体のBPをマイナス10000、スレッタがいるなら追加でもう一度発揮」
「!」
「つまり、BPマイナス20000だ。【A.T.フィールド】を発揮できない、初号機第1覚醒形態のBPは、たったの1000になる」
エアリアル・ビームブレイドは、その手に持つビームブレイドをエックスの字を描くように振い、ビームでできた飛ぶ斬撃を放つ。
初号機第1覚醒形態は、迫り来るそれをA.Tフィールドで防ごうと、片手を翳すが、それは出現せず、そのまま直撃。破壊には及ばなかったものの、そのBPは1000までダウンしてしまう。
「そしてそのアタックは、エアリアル・ビームブレイドでブロック。煌臨元の契約エアリアルの効果、アタックブロック時、カウント+1してデッキ下から1枚ドロー」
先程の攻撃で怯んだ初号機第1覚醒形態。その隙をつき、エアリアル・ビームブレイドは間合いを詰め、それの腹部にビームブレイドを突き刺す。
二度の攻撃をどちらとも諸に受けた初号機第1覚醒形態は、ビームブレイドが引き抜かれた瞬間に大爆発を起こした。
「エアリアルが相手を倒した時、合体したスレッタの効果、デッキ下から1枚ドローし、トラッシュのソウルコアをリザーブに戻す」
「合体していた碇シンジは、そのまま破壊された初号機と共にトラッシュへ。エンドステップ、相田ケンスケのLV2効果、自身のコア1つをトラッシュへ置く事で、トラッシュから碇シンジ1枚を回収。ターンエンド」
手札:7
場:【鈴原トウジ】LV1
【相田ケンスケ】LV1
バースト:【無】
突如手痛いカウンターを受けてしまったフウだが、破壊されたブレイヴは、次のターン、ライの破壊した時などのトリガーにならないようにスピリットと共にトラッシュへと捨て、ネクサスの効果でそれを回収。
そのプレイングは冷静そのモノ、余りにも無駄のなさすぎるプレイングだ。
「ニッヒヒ、さっすがライちゃん。こんな凄いカウンターを仕込んでたなんて、やっぱりエニーズ02の名は伊達じゃないね」
「……私は、エニーズ02じゃない。春神ライ、お父さんが名付けてくれたこの名前が、私の本当の名前だ」
「………へぇ」
ライの反論に、フウは少しだけ苛ついたように声を零す。
そして迎えるライのターン。全身全霊を込め、カードをドローして行く。
[ターン06]春神ライ
「メインステップ、黄のネクサス、ニカ・ナナウラをLV2で配置」
ー【ニカ・ナナウラ】LV2(2)
「配置時効果でデッキ上から2枚をオープン、その中の系統に「学園」を持つカード、2枚目のスレッタを手札に加えて、残りを破棄」
ライはデッキトップから引き当てたカードをそのまま使う。ネクサス効果により、彼女は2枚目となる「スレッタ・マーキュリー」のカードを手札へ加えた。
「アタックステップ、エアリアル・ビームブレイドでアタック。効果でカウント+1、デッキ下から1枚ドロー、さらにエアリアル・ビームブレイドのOC効果、私のライフ1つを回復する」
〈ライフ2➡︎3〉春神ライ
カウント増加に、ドロー、ライフ回復だけではない。ライは勝負を決めるべく、手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつける。
「フラッシュ【契約煌臨】を発揮、対象はアタック中のエアリアル・ビームブレイド」
再び発揮される【契約煌臨】………
そして、今からそれによって呼び出されるのは、全ての力を解放した、エアリアルの本当の姿。
「遙か未来を駆け抜ける、私の相棒!!……ガンダム・エアリアル・ガンビット、LV2で煌臨!!」
ー【ガンダム・エアリアル[ガンビット]+スレッタ・マーキュリー】LV2(2)BP22000
エアリアルのシールドが複数のビット、ユニットとして展開。それらは踊るように宙を舞い、エアリアルの周囲で球体を描く。
そのユニット、ガンビットを操るエアリアル、エアリアル・ガンビットこそ、エアリアルの真の姿にして、春神ライのエースカードだ。
「煌臨アタック時効果、スレッタとの合体により、バトル中、黄のシンボル1つを追加」
「ダブルシンボルになったか」
ダブルシンボル効果のみで終わらない、エアリアル・ガンビットの真骨頂はここからだ。
「フラッシュ、手札からエアリアル・ガンビットの効果でマジックカードとして扱っている、ミオリネ・レンブランの効果を発揮、アタック中のエアリアル・ガンビットを回復」
エアリアル・ガンビットの効果。OC2以上で、ライの手札にある系統「学園」のカード全ては、エアリアルを回復させるマジックカードとして扱っている。
それにより、エアリアル・ガンビットは、このターン二度目のアタック権利を獲得した。
「ダブルシンボルの連続攻撃で、ジ・エンドだ」
そうは言いつつも、ライはカードバトラーの本能で理解している。
徳川フウはこの程度で終わる事はない、と。
「馬鹿にしてる?……フラッシュマジック、ブリザードウォール」
「!」
「効果により、このターン、アタックによるライフ減少を1のみとする。エアリアル・ガンビットのアタックはライフで受ける」
〈ライフ4➡︎3〉徳川フウ
ガンビットを操る、エアリアル・ガンビット。複数のガンビットから放たれるビーム攻撃は、それを一気に2つ破壊するものだと思われていたが、フウの使用した白マジック「ブリザードウォール〈R〉」の効果によって出現した猛吹雪により阻まれる。
結局、1つしか破壊できず、ガンビット達はエアリアル・ガンビットの元へと帰還した。
「……ターンエンド」
手札:5
場:【ガンダム・エアリアル[ガンビット]+スレッタ・マーキュリー】LV2
【ミオリネ・レンブラン】LV2
【ニカ・ナナウラ】LV2
バースト:【無】
カウント:【3】
ブリザードウォールの猛吹雪に阻まれ、そのターンをエンドとするライ。エアリアル・ガンビットをブロッカーとして残す形でフウにターンを渡すこととなった。
「父親が付けてくれた名前?……自分はエニーズ02じゃない?……その程度で忌むべきタトゥーが消えるんなら、苦労はしねぇんだよ……!!」
「!!」
「怪物は所詮どこまで行っても怪物。それ以外になりゃしねぇ」
先程のライの発言にご乱心のフウ。巡って来たターンを進めて行く。
[ターン07]徳川フウ
「メインステップ、私は今、神話を超える。エヴァンゲリオン初号機カシウスをLV2で召喚」
ー【エヴァンゲリオン試験初号機-カシウスの槍-】LV2(3)BP12000
ライの前に立ち塞がるのは、またしても初号機。ただその両手には歪な赤い槍が握られている。鬼に金棒とはまさしくそれの事だろう。
「パイロットブレイヴ、真希波・マリ・イラストリアスを召喚」
ー【真希波・マリ・イラストリアス-お待たせ! シンジ君-】LV1(0)BP1000
「新しい初号機に、新しいパイロットブレイヴ……」
「今までのは全てウォーミングアップ。ここからが私のデッキの、本気だよ♡」
「ッ……王者、フウちゃんが」
フウの瞳孔が赤く輝く。これより、彼女の脳裏には、己の勝利する絵が浮かび続ける。
ライやオーカミなども使える「王者」と呼ばれる力だが、ライは、フウがこれを使える事は初めて知った様子。
「マリの効果。デッキ上から8枚オープン、その中にある紫のブレイヴカード、碇シンジ回収し、コア2つを初号機カシウスに追加、そのまま合体」
ー【エヴァンゲリオン試験初号機-カシウスの槍-+真希波・マリ・イラストリアス-お待たせ! シンジ君-】LV4(5)BP25000
「ニッヒヒ、マリの合体時効果で、合体している初号機カシウスのLVは1上がる。よって、LVは4だよ」
その身に紫のオーラを纏う初号機カシウス。そのLVは殆どのスピリットが持ち得ない4まで上昇する。
「アタックステップ、さぁ初号機カシウス、まだ自分の事を人だと思っている哀れな怪物に攻撃を……!!」
「……ミオリネの効果により、初号機カシウスを指定し、強制アタックに、アタック時効果1つを発揮させない状態にする」
「ニッヒヒ、でも、ライちゃんはその効果で【A.T.フィールド】しか選べない。それ以外の効果を選んでも、【A.T.フィールド】の効果で直ぐに発揮できる状態になるからね」
「くっ……【A.T.フィールド】の効果を発揮させない」
アタックステップに突入し、初号機カシウスでアタックを仕掛けるフウ。この時、ミオリネの効果を飛び越え、初号機カシウスが内包する強力なアタック時効果が発揮されて。
「アタック時効果、デッキから2枚ドローするか、相手スピリット1体のコアを全てリザーブに置く。後者を選択し、エアリアル・ガンビットを消滅」
「ッ……スレッタはフィールドに残す」
紫のオーラを槍に集中させ、エアリアル・ガンビットへ向けてそれを投擲する初号機カシウス。エアリアル・ガンビットは、己のビットを操り、それを防ぐが、槍はそれを貫通し、エアリアル・ガンビットの胸部の装甲を貫いて爆散へと追い込んだ。
「もう1つのアタック時効果、手札からエヴァンゲリオン1枚をゲームから除外する事で、回復し、フィールドに残ったスレッタを破壊」
フウは手札にある「エヴァンゲリオン試験初号機-決意の出撃-」のカードをゲームから除外し、初号機カシウスのもう1つの効果を発揮。
ライのBパッド上から、スレッタのカードがトラッシュへと誘われ、フィールドでは、初号機カシウスが投げた槍を拾い上げ、回復状態となる。
「これで終わりだ!!……って言いたいとこなんだけど、使うんでしょ、白晶防壁」
「……フラッシュマジック、白晶防壁。このターン、私のライフは如何なる手段であっても1つしか減らない」
〈ライフ3➡︎2〉春神ライ
「うァァァァッ!!」
初号機カシウスが赤い槍を横一線に振い、ライのライフバリアを砕くが、直前で発揮させていた白のマジックカード『白晶防壁〈R〉』の効果により、砕けた数は僅か1つとなった。
「ターンエンド」
手札:5
場:【エヴァンゲリオン試験初号機-カシウスの槍-+真希波・マリ・イラストリアス-お待たせ! シンジ君-】LV4
【鈴原トウジ】LV1
【相田ケンスケ】LV1
バースト:【無】
カウント:【1】
王者の力により、ライのマジックカードまで予測していたフウ。余裕とブロッカーを残し、そのターンをエンドとする。
「ぐっ……」
「痛くて、怖いはずなのに、よく頑張るね。そんなに生きたいの?……そんな権利最初から持ち合わせてないくせに」
「………」
言葉の節々から、ライを精神的に弱らせようと試みているのがわかるフウ。実際、ライの精神は既にズタズタ。
「生きたいよ。だって、もっとずっと一緒にいたい。みんなと……そう思えたから、頑張れる」
「へぇ、その「みんな」の中に、私も入ってるのかな?」
「フウちゃんが、何のためにエニーズ02である私を欲していたのかはわからない。何で今こうして自由を賭けてバトルしているのかも。でもきっと、何か大きな理由があるんだよね」
「……」
「だけど、そこにどんな理由があっても、私は負けられない。このバトルに勝って、みんなの所に帰る。さぁ」
ラストターンの、時間です……!!
Bパッドから迸る青い光。それが伝って行き、ライの目尻から顎に掛けて、同じ色の刻印が浮かび上がる。
これもまた王者だ。しかも契約カード「エアリアル」の力と合わさっているからか、他とは全く違う、特別性を感じさせるモノだ。
全ての力を解放させた、ライの全身全霊のターンが幕を開ける。
[ターン08]春神ライ・王者
「メインステップ、私のエアリアルは、無限の可能性を秘めている。その進化は、ガンビットだけじゃない」
そう告げると、ライは手札にあるカードを1枚引き抜き、己のBパッドへと叩きつける。言葉通り、それはエアリアルの可能性。
「遥か彼方をも撃ち抜く、私の相棒!!……ガンダム・エアリアル・改修型!!…LV2で契約煌臨だ」
ー【ガンダム・エアリアル(改修型)】LV2(2)BP22000
魂状態となり、色素を失ったエアリアル。神々しい光と共に、新たな姿を獲得する。
その姿に、以前の優しそうな面影は殆どない。新たな装甲、新たな武器、新たなビット。新たなエアリアルは、それらを用いて敵を穿つ、真の戦士。
「新たなエアリアル、やたら怖い顔ね」
「煌臨アタック時効果、相手スピリット全てのBPをマイナス10000、0になれば破壊し、破壊した数だけドロー」
エアリアルは進化した、新たなガンビットを展開、そこからビームを連射し、フウのフィールドを焼き尽くす。
ただ、それを受けても尚、初号機カシウスはありったけの咆哮を張り上げ、生き残る。
「初号機カシウスのBPは、まだ15000もある。アタック時でもう一度それを発揮したとしても、破壊はできないよ」
「知ってる。2枚目のスレッタを召喚し、エアリアル・改修型に合体」
ー【ガンダム・エアリアル(改修型)+スレッタ・マーキュリー】LV2(2)BP26000
「エアリアル・改修型のもう1つの効果、自分のアタックステップ中、スレッタがいるなら、エアリアルのシンボルは黄の3つとなる」
前のターンに加えた、スレッタを召喚し、即合体。それにより、エアリアル・改修型は、アタックステップ中、トリプルシンボル化、一撃で3つものライフを砕く力を得る。
「トリプルシンボル化の効果。でも結局、ブロックされたら意味のない話、初号機カシウスでブロックして仕舞えば」
そう。
フウの言う通り、いくらシンボルを足しても、合わせても、増やしても。ただ一度ブロックされて仕舞えば、ライフバリアを傷つける事はできない。
しかし、エアリアルによって、より強い王者を発揮させているライが、それを理解していないはずもなくて。
「私のラストターンは、絶対だ」
「!」
「マジック、決闘。これにより、初号機カシウスのBPを、さらに8000下げる」
ライの放った1枚のマジックカード。それにより、初号機カシウスの紫色の装甲が、僅かな時間、黄色に発光。そのBPは7000にまでダウンしてしまう。
「これでBP7000。煌臨アタック時効果で破壊できる」
「チ、ウザったいな」
外部のカードをも巧みに使いこなし、エアリアル・改修型の射程圏内を手繰り寄せるライ。
勝負を決めるべく、遂に最後のアタックステップへと駆けていく。
「アタックステップ、エアリアル・改修型で」
「アタック……の前に、最後にライちゃんに教えてあげますよ。なぜ、私が今ここで貴女とバトルしているのかを」
「え」
アタックステップ直後。フウの言葉に、ライは思わず、エアリアル・改修型のカードを捻り、アタックしようとしていた手が止まる。
「私ね、生きたいのライちゃん。もっと長く、もっともぉぉぉおっと長く」
「ッ……何、言ってるの……!?」
「私が何で王者の力を使えると思う?……これは貴女や早美ソラ、鉄華オーカミが持つような、天然物の王者じゃない。その昔、与えられた物なの。私の祖父、Dr.Aにね」
「……!!」
「もっとも、人工的に造られた貴女の王者は、天然物とは言い難いけどね」
もっと長く生きたい。与えられた王者の力。悪魔の科学者、Dr.A。
そしてフウは、その孫。
それらが結びつく答えは………
「Dr.Aは、裏切り者である春神イナズマ、嵐マコトの反逆に備え、返り討ちにするために、彼らが当時から研究していた王者の力を、己もまた研究し………」
「……」
「その力を、強引に孫である私の体に埋め込んだ」
「ッ……!!」
言葉が詰まる。フウの惨たらしい過去に、ライは右手で口を抑えた。
「最初は、覇道を突き進もうとする、お祖父様を心配した、私のお父様だった。だが適合できず、次はお母様。もちろんダメ、どちらも死んだわ、ムシケラみたいに」
「フウ、ちゃん」
「そして最後に選ばれたこの私、この私だけが適合したの。寿命が短命になるデメリットと共にね」
「!!」
「だいたい16歳。つまり、何もしなくても、後3年程度で私は死ぬ。驚いたでしょう、Dr.Aにとって、孫である私でさえ実験動物だったのよ」
凄惨過ぎる過去。母親がいない、僅かに寂しいだけの自分の過去とは訳が違う。
地獄のような過去。それをフウはずっと歩んで来たのだ。
ライは、今の話を想像するだけでも、手先の震えが止まらなかった。
「そこで目をつけたのが、嵐マコトとか言う小物のデジタル化の技術と、彼と春神イナズマが造った人造人間、エニーズ02、ライちゃん、貴女だった」
「……」
「エニーズ02は、その性質上、強靭的且つ、しなやかで、健康的な肉体を持つ。それをあの小物の技術でデジタル化し、私の身体に取り込む事さえできれば……」
「長く、生きる事ができる」
「そう!!……おそらく、どんな厄病だって治せる、万能薬となるに違いない」
フウの本当の目的。
それは、ライをデジタル化し、それを己の身体へと取り込む事で、長寿を得る事。
簡潔に説明するのであれば、ライの命と引き換えに、己が生き残る。と言う事になる。他者の命を踏み潰し、生を得る。明らかに非人道的で、倫理観が欠如している考え方である。
「でもね、障害もある。エアリアルよ」
「!」
「アレがある限り、貴女をデジタル化できない。Bパッドを通して、貴女は護られているからね。それを無効化するためには、貴女にバトルで勝つしかない」
「………」
「ここまで話せば、もうわかってると思うけど、要するに、今のライちゃんの選択肢は2つに1つ。エアリアル・改修型でアタックし、トドメを刺して自分が生き残るか、それとも私に負けて、私を生かしてくれるのか」
「ッ……2つに、1つ」
今、このバトルの状況。ライに圧倒的優勢な状況。
この状況は、ライ自身とフウの命を天秤に掛けているのと同義だった。
「……ッ……ッ」
「ニッヒヒ」
Bパッド上にある、エアリアル・改修型のカードを捻れば、それだけで勝てる。自分だけじゃない、自分のせいで苦痛な道を進む事になってしまった、父、イナズマと、ヨッカを救う事ができる。
ただ1つ、ただ1つのデメリットは………
この行為は、フウを見殺しにする事と同じである事。たったその1つの理由だけで、ライの心に迷いが生じ、鼓動が跳ね上がり、王者が解除される。
その様子を見て、フウは不敵な笑みを浮かべる。まるで、全てが計画通りだと言わんばかりの、邪悪な顔だ。
『ダメだよライ!!……ここで勝負を決めないと、君が死ぬんだよ、ライ!!……ライ!!』
「ハァッ…ハァッ…ハァッ……死ぬ、誰が?…フウちゃんが?…嫌、そんなの」
ライの脳内に直接、エアリアルの声が響く。しかし、その声は全く届いていない。それどころか徐々にまた精神が蝕まれ、弱気になっていく。
「私は、私は………!!」
カードを捻るだけで勝てる。
カードを捻るだけで自分が生き残る事ができる、みんなが自由になる。
カードを捻るだけで…………
人が死ぬ。
「ッ………これで、ターン、エンド」
手札:2
場:【ガンダム・エアリアル(改修型)+スレッタ・マーキュリー】LV2
【ミオリネ・レンブラン】LV2
【ニカ・ナナウラ】LV2
バースト:【無】
ライは、フウを殺せない。
フウが1年掛けて築き上げて来た、親友としての記憶が、それをさせないのだ。これもまた、フウの策略。
「ニッヒヒ、ラストターンになるんじゃなかったっけ。あぁ、まぁライちゃんのターンが最後って意味なら、間違ってないか」
「………」
「ありがとう、やっぱり優しいよねぇ、ライちゃんは」
ライとて、わかっている。フウが自分の事を親友などと微塵も思っていない事など。だが、それでもライは、過去の、親友としてフウとの記憶を、踏みに弄る事はできない。
その心の優しさ故に、ライは負ける。
「じゃあ私のターンね」
[ターン09]徳川フウ・王者
「メインステップ無し。アタックステップ、初号機カシウスでアタック、その効果で邪魔なエアリアル・改修型を消滅」
フウのターンに回った事で、初号機カシウスのBPも元の25000に戻っている。
ライに迫り来る初号機カシウスの道を、エアリアル・改修型が阻むが、手に持つ赤い槍でビットが次々と貫かれ、己の右腕左足さえも切断されてしまう。
「ッ……エアリアル……!!」
地面に倒れるエアリアル・改修型、それをよそに、ライの所へ向かおうとする初号機カシウス。
だが、ライを殺させまいと、エアリアル・改修型は残った右足で飛び、残った左腕で初号機カシウスを抑え込む。
しかし、それができたのも、ほんの僅かな時間、初号機カシウスは、赤い槍でエアリアル・改修型の背部から胸部に掛けて串刺しにし、それを爆散へと追い込んだ。
「今まで楽しかったよねぇライちゃん。2人でたくさん遊んだし、いろんな所にお出かけしたよねぇ」
「……」
「じゃあ死んでよ、バイバイ」
先程のターンで、完全に戦意を失ってしまったライに、実体化した初号機カシウスが、赤い槍を斜め下に斬り下ろす。
その一撃は、ライのライフバリアだけではなく、ライの身体までもを斬り裂く。
そう、思われていた………
〈ライフ2➡︎0〉春神ライ
「え」
ライフバリアと共に斬り裂かれる直前、自分を突き飛ばす誰かが現れる。
そして、その人物が、まるで自分の身代わりになるように、その攻撃を真正面から全身で受け止める。
ライは、突き飛ばされた直後、飛んで来た血飛沫と、その正体に驚愕する…………
「お父……さん」
自分の代わりに、大量の血を流し、倒れたのは、他でもない父親、春神イナズマだった。
それを知った直後、ライは彼の死と言う恐怖で顔が歪む。
「お父さんッ……!?」
慌ててイナズマの元へ駆け出すライ。その直後にオーカミもこの場に居合わせるが、今一歩、遅かった………
次回、第62ターン「血と悪魔と怒りと」