バトルスピリッツ 王者の鉄華   作:バナナ 

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第63ターン「決して散らない、鉄の華」

児雷也森林の北東にある巨大な塔にて開始される、鉄華オーカミと徳川フウによる最終決戦。

 

互いに一進一退の攻防を繰り広げる中、巧みなコンボと戦略で王手を掛けるオーカミであったが、フウは遂に己の最凶スピリットを召喚して………

 

 

******

 

 

「私の全身を駆け巡る、王者の力。それによって進化を遂げた、最凶のエヴァンゲリオンスピリット、初号機G覚醒形態。コレが私の真のエースカード」

「……」

 

 

命を賭けた、オーカミとフウのバトルスピリッツが続く。

 

フウを追い詰めたオーカミだったが、フウはそのタイミングで己の全ての力を解放。全身に王者の力による赤い刻印を駆け巡らせ、モビルスピリットであるルプスレクスとフルシティが見上げる程に巨大な、黒き邪悪纏いしエヴァンゲリオンスピリット、初号機G覚醒形態を召喚した。

 

 

「G覚醒形態のバースト効果は召喚だけにあらず。召喚後、相手スピリット全てのコアを1個になるようにリザーブへ送く。よって、そのLVは強制的に1となる」

「ッ……ルプスレクス、フルシティ」

 

 

初号機G覚醒形態の第一の効果が発揮。邪気と共に張り上げる咆哮が、空気を震撼させ、ルプスレクスとフルシティの力を奪い、跪かせる。

 

 

「さらに、G覚醒形態だけが持つ、進化した【A.T.フィールド】、【G.A.T.フィールド】の効果。互いのアタックステップ中、ソウルコアが置かれたスピリット以外の効果を受けず、このスピリットのBP以下のスピリットがアタックした時、それを問答無用で破壊する」

「なに……!?」

「ニッヒヒ。コレで貴方はもう、アタックできない」

 

 

強固な耐性。強烈な迎撃力。それら2つを併せ持つ初号機G覚醒形態。

 

それによって、このターン、もうオーカミには打つ手がなくて。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:7

場:【ガンダム・バルバトスルプスレクス+三日月・オーガス】LV1

【ガンダム・グシオンリベイクフルシティ+ノルバ・シノ】LV1

【紫の世界】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(4)

【クーデリア&アトラ】LV2(5)

バースト:【無】

 

 

ルプスレクス、フルシティと言う、今できる最強の布陣でも、フウのライフを0にする事は叶わなかった。

 

そして次はそんな彼女のターン。長き戦いに終止符を打つべく、それを進めて行く。

 

 

[ターン08]徳川フウ・王者

 

 

「メインステップ、赤マジック、イラプションドロー。効果でデッキから2枚ドローし、さらに初号機を召喚」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機-決意の初号機-】LV1(1)BP6000

 

 

「……」

 

 

フウが赤のドローマジックを使用した後に召喚したのは、最初の初号機。正直、G覚醒形態やルプスレクス、フルシティが並ぶこのフィールドでは、今更見劣りしてしまうが………

 

 

「ニッヒヒ。貴方の言いたい事はわかりますよ。なんで今更ただの初号機を?…ってね。直ぐにその答えを教えて差し上げますよ。初号機に碇シンジ・シンクロ率∞を合体」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機-決意の出撃-+碇シンジ-シンクロ率∞-】LV1(2)BP12000

 

 

「残ったコアは全てG覚醒形態へ、そのLVは3に上昇し、BPは25000に」

 

 

G覚醒形態のBPは、これまでのスピリット達とは一線を画すBP25000まで上昇。

 

オーカミにとっては、断崖絶壁で、絶望的な状況。逆に、己の望みまであと一歩と言った所まで来たフウは、勝利を確固たるモノとすべく、アタックステップへと突入して……

 

 

「アタックステップ、初号機でアタック。そして、フラッシュ【煌臨】を発揮。対象はアタック中の初号機」

「ッ……ここで煌臨!?」

 

 

突然の煌臨の宣言。

 

当然ながら、煌臨とは、ソウルコアをコストに、スピリットを新たな姿へと昇華させる効果。だが、フウは今までのバトルでそれを使用して来なかった。故に、オーカミは初号機デッキには【煌臨】の効果を持つカードはないのだと、錯覚していた。

 

そう、王者を発揮させていたオーカミでさえ、錯覚していたのだ。

 

しかし、フウはそれを今ここで使う。誰も見通せなかったその力を、最後の最後まで取っておいた切り札を、解放する。

 

 

「私は今、神話を創造する。エヴァンゲリオン試験初号機 擬似シン化第2形態、LV2で煌臨!!」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機 擬似シン化第2形態+碇シンジ-シンクロ率∞-】LV2(2)BP20000

 

 

この世の破滅を呼び寄せるような咆哮を張り上げる初号機。すると、その力を全て解放したのか、紫色の装甲を纏っていた全身が赤く発光。

 

G覚醒形態同様、エヴァンゲリオンスピリットの域を超えた極地。擬似シン化第2形態へと変貌を遂げる。

 

 

「何、アレ……!?」

 

 

最早エヴァンゲリオンスピリットと呼称できるのかも定かではない、2体の異質で畏怖を纏う姿に、ライが震えた声でそう呟く。

 

そして、やはりこうも思った。オーカミでは勝てない、と。

 

 

「逃げろ、オーカミ!!」

 

 

だから叫んだ。自分なんかどうでもいい、目の前の心のない怪物から、早く逃げろ、と。

 

 

「……」

 

 

当然、オーカミはそれに応えない。友を決して見捨てない彼は、ルプスレクスとフルシティで、それに立ち向かう気でいる。

 

だが、フウが従える2体と比較して、鉄華団のツートップなど、たかが知れている。ただ、信じられない程開いている力の差を見せつけられるだけだ。

 

 

「シン化第2形態は、全てを駆逐する力を持つ、エヴァンゲリオンスピリット、初号機の最終形態。煌臨時効果を発揮、このスピリットと合体している全ての「碇シンジ」をデッキ下に戻し、貴方のスピリット、ネクサス全てを破壊する」

「!」

「消し去れ、抹消せよ、私の目に映るモノ全てを………サードインパクトッッ!!!」

 

 

『碇シンジ-シンクロ率∞-』のカードが、フウのデッキ下に戻ると、シン化第2形態の効果が発揮。

 

膨大なエネルギーを蓄え、それを一気に放出。まるで、巨大な隕石が目の前で落下して来たかのような、強いエネルギー波が、オーカミと、そのフィールドにいるルプスレクス、フルシティ、紫の世界を襲う。

 

 

「オーカミ!!」

 

 

強い衝撃波の中、声を張り上げるライ。

 

オーカミの安否に不安を感じる彼女。しかし、サードインパクトと呼称された今の攻撃によって舞い上がった爆煙が晴れると、そこには傷だらけになって倒れるオーカミと、左腕を欠損し、その他多くの装甲と武装に亀裂が生じた、満身創痍のルプスレクスの姿があって……

 

 

「そんな、いや……オーカミ、オーカミィッッ!!」

 

 

これ以上、誰にも傷ついて欲しくないライ。この惨劇を招いたのも自分のせいだと思っている彼女は、喉が枯れるのではないかと言う勢いでオーカミの名を叫ぶ。

 

だが、それでも倒れているオーカミの耳には届かない。

 

 

「ニッヒヒ。ニィッヒッヒッヒッ!!!……少々手こずりましたが、これで私の勝ちだ。ここまでのバトルを賞賛して、せめて粉々に砕け散ってくださいよ、鉄華オーカミ!!」

「もうやめて、フウちゃん!!」

「!」

 

 

尚もアタック中のシン化第2形態で、トドメの一撃をお見舞いしようとした直後。

 

それを張り裂けそうな声で制止させるのは、エニーズ02、春神ライ。

 

 

「お願い、もうやめて。これ以上、誰かを傷つけるのは……最初から、狙いは私だけなんでしょ?……私の命で、フウちゃんが救かるんでしょ?……ならもう、答えは見えてるはずだよ」

「……ニッヒヒ」

 

 

イナズマの遺体を手放し、気を失って倒れるオーカミの前に立つライ。彼女の言動と行動の意味を、フウは高速で理解する。

 

つまり、自分の命を差し出すから、オーカミは見逃せ。そう言う事だ。己の呪いを解くための餌が自分から食べられに来たのだ、フウの口角は当然ながら上がる。

 

 

「そうそう。そうだよ、それでいい。流石ライちゃん、頭良くて、優しい。さぁ早く来て、ライちゃんの手が、私のBパッドの画面に触れるだけで、粒子となって私の一部となる」

「……」

「さぁ早く、早く。お祖父様から受けた私の呪いを、断ち切らせて!!」

 

 

全ては、オーカミを救けるため、これ以上、誰も傷つけないため。

 

意を決して、ライは倒れるオーカミの前を離れ、フウの元へ足を運ぼうとする。

 

だが、その直後、彼女に「待て」と言わんばかりに、手を掴み、制止させる存在が、1人………

 

 

「あんな奴に、従う必要ない」

「ッ……オーカミ」

 

 

意識を取り戻し、立ち上がったオーカミ。己のために命を投げ出そうとしたライを止める。

 

 

「離してよ」

「離さない。離したら、オマエが死にに行く」

「だから死なせてよ。お願いだから、それでアンタが救かるなら、安いモノでしょ」

「そんな事、言ったらダメだ。オマエの父さんが泣く」

「……じゃあどうすればいいのよ、これ以上、アンタが傷つかない方法があるわけ!?」

 

 

震えた声でライがオーカミに訴えて来る。オーカミもライも、お互い助けたい気持ちは同じである。

 

だが、それ故にすれ違う。

 

 

「姉ちゃんが言ってた。『傷つく事があっても、怖がって止まったらダメ。前を向いて進み続ける事が、人生勝利する秘訣だ』って、オマエが、優しい性格なのもわかる。だから、命を賭けてでも、オレを助けたいのもわかる」

「オーカミ……」

「でも、もう一度だけでいい、オレとオレのスピリットを信じてくれ。このバトル、必ず勝つ」

 

 

そう告げられると、ライは不思議と力が抜けた。自分でもよくわからないが、心の奥底で「生きたい」と思ったのだ。

 

オーカミをそれを感じたか、力の抜けた彼女の手を、そっと離し、バトルのフィールドへと目を向ける。

 

 

「何度立ち上がれば気が済むのです。いい加減、目障りなんですけど」

 

 

フウは、折角の餌が遠のいたからか、何度でも立ち上がって来るオーカミに怒りを燃やす。

 

 

「オマエに勝って、ライを救けるまでだ」

 

 

オーカミは、彼女の言葉に対し、そう言い返す。しかし、その強気な物言いとは裏腹に満身創痍な身体に加え、この圧倒的な戦力差。どう考えても、彼に勝ち目は残っていなくて………

 

 

「私に勝つ?……何寝ぼけた事を。そのボロボロのルプスレクスだけで何が………何が」

 

 

何故、ルプスレクスがフィールドに残っている!?

 

 

己の言葉で、ようやくそれに気がついたフウ。

 

そうだおかしいのだ。

 

ルプスレクスは確かにシン化第2形態の効果により粉砕した。耐性貫通に破壊時無効を持ち合わせているこの効果の前では、如何なるスピリットであっても塵芥に等しい。故に、ルプスレクスがフィールドに残れるはずがない。

 

 

「オレは、止まらない。止まったらダメなんだ。オマエもそう思うだろ、バルバトス」

 

 

オーカミがフィールドに残ったルプスレクスにそう告げると、それに応えるかのように、ルプスレクスの緑だった眼光が赤く光り輝き始める。

 

そして、何故ルプスレクスがフィールドに残れたのか。そのカラクリが明かされる。

 

 

「オレは手札にある、バルバトスルプスレクス最終決戦(ファイナル)の効果を発揮。このカードは、自分のバルバトスがフィールドを離れる時、全ての軽減を満たして召喚できる」

「ッ……そうか、別のカードを手札からフィールドに」

「天地を覆せ、未来よ唸れ。行くぞ、バルバトス……!!」

 

 

 

この世界には、一部地域にしか伝わらない、こんな言い伝えがある。

 

『カードバトラーとデッキ、決して離れる事のない二つの存在が一つになる時、血を代償に勝利への道を約束する』

 

そして人々は、その領域に到達したカードバトラーを、絶対的な力と言う意味合いを込めて、王者(レクス)と呼び、恐れた。

 

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス[最終決戦時]】LV3(5S)18000

 

 

目が赤く光り輝き、再び立ち上がる力を得た、バルバトスルプスレクス。左腕を失くし、装甲が半壊しながらも、エヴァンゲリオンスピリット達との最終決戦に臨む。

 

 

「ここに来て、私も知らない、新たなバルバトス……!?」

「召喚アタック時効果、オレのデッキ上、トラッシュから合計5枚のカードをゲームから除外し、オマエのスピリットのコア3個をトラッシュに置く」

「何ですって……ッ!?」

「デッキ上5枚を除外。シン化第2形態のコア3個をトラッシュに置き、消滅だ」

 

 

動き出すバルバトスルプスレクス。しかし、その動きは最早目で追従できるモノではない。フウが瞬きする間もなく、ルプスレクスは伸ばしたテイルブレードでシン化第2形態の両手を切断し、その核たるコアを右手で引き抜き、爆散へと追い込む。

 

爆発による爆煙の中、赤く染まった右手でシン化第2形態のコアを握り潰すその姿は、まさしく悪魔そのモノ。

 

 

「そ、そんな馬鹿な。シン化第2形態が、私の切り札が、一瞬で」

「さぁどうする。もう1体でアタックするか?」

「ッ……ターンエンド。ターンエンドよ」

手札:2

場:【エヴァンゲリオン初号機"G“覚醒形態】LV3

バースト:【無】

カウント:【1】

 

 

フウはここで屈辱のターンエンドを宣言。

 

流れが大きく変わった。オーカミは、限界を超えた、最後のバルバトスと共に、巡って来た己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン09]鉄華オーカミ・王者

 

 

「メインステップ、ルプスレクス最終決戦(ファイナル)に、三日月を合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス[最終決戦時]+三日月・オーガス】LV3(6S)BP24000

 

 

何度も鉄華団スピリットと合体し、フィールドに残って来た、鉄華団のパイロットブレイヴ、三日月・オーガス。

 

それが最後のバルバトスと合体し、土壇場で最強の鉄華団スピリットが誕生する。

 

 

「アタックステップ。ルプスレクス最終決戦(ファイナル)でアタック、その召喚アタック時効果をもう一度発揮。デッキ上5枚を除外し、今度はG覚醒形態のコアを3個トラッシュに置き、LVを2に下げる」

「!!」

 

 

ルプスレクス最終決戦(ファイナル)の背面の剣、テイルブレードが、今度はG覚醒形態の腹部を貫く。

 

その体内に眠るコアが弾き飛ばされ、LVは2。BPは12000までダウンしてしまう。これにより、G覚醒形態はルプスレクス最終決戦(ファイナル)のBPを下回り、自身の効果での迎撃が不可となる。

 

 

「もう1つのアタック時効果、オレのトラッシュにある13枚の鉄華団カードを除外」

「ブロックです、ブロックしなさい、G覚醒形態……!!」

 

 

フウのライフバリアを目掛けて走り出したルプスレクス最終決戦(ファイナル)を、口内から紫色の熱線を放射し、迎撃するG覚醒形態。

 

ルプスレクス最終決戦(ファイナル)は、直撃を紙一重で回避。狙いをG覚醒形態へと変え、目にも止まらぬ速さで、それの喉元へと飛び込んで行み、残された右手の激爪で切り裂こうとしたが、突然現れた、G覚醒形態の長く黒い尾に弾かれ、阻まれる。

 

 

「ぐっ……怪物め」

「オマエにだけは言われたくないよ」

 

 

尾で弾かれても尚、壁を踏み台として飛翔するルプスレクス最終決戦(ファイナル)。G覚醒形態は、それを返り討ちにしようと、再び紫色の熱線を放射するが………

 

ルプスレクス最終決戦(ファイナル)は、右手の激爪でG覚醒形態を熱線ごと切り裂いて見せる。

 

飛翔したルプスレクス最終決戦(ファイナル)が着地した直後、流石に限界を迎えたのか、死を連想させる程の存在感を放つ、エヴァンゲリオンスピリット、初号機G覚醒形態は、激しい断末魔を張り上げながら、爆散した。

 

 

「笑えない冗談だ。私の初号機が、鉄屑の獣如きに全て倒されるなど……!!」

 

 

強力な効果を持つモノが多い、エヴァンゲリオンスピリットの初号機デッキ。オーカミは、たった今、鉄華団スピリット達と共に、それら全てを撃破した。

 

故に、このバトルはもう、彼の勝ちだ。

 

 

「だが、ライフは守った。次のターンで」

「次のターンなんてないよ」

「ッ……!?」

「ルプスレクス最終決戦(ファイナル)のアタック時効果。鉄華団カードを13枚除外していれば、バトル終了時に相手ライフを2つボイドに置く」

「なッ……私が、負ける!?……最強の王者を持つ、この私が!?」

 

 

ここで、ルプスレクス最終決戦(ファイナル)の最後の効果が発揮。大量のカードを除外ゾーンに送ってようやく発揮できる、最大の大技である。

 

その効果発揮宣言がなされた時、敗北を悟ったフウは、自分の身体と声色が震え出すのを感じ取って………

 

 

「行け、決めろ、バルバトス……!!」

 

 

オーカミの指示を聞くなり、ルプスレクス最終決戦(ファイナル)は、今一度テイルブレードを放つ。

 

その向かう先は、徳川フウの残り2つのライフバリアだ。

 

 

「うぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉徳川フウ・王者

 

 

背面の剣、悪魔の尾が、ライフバリアを突き刺さし、破壊。

 

フウのライフが0となった事で、彼女のBパッドから「ピー……」と言う機械音が鳴り響く。そしてその音は、彼女の敗北と、オーカミの勝利を同時に告げていて………

 

 

「凄い、これが、バルバトスの……いや、オーカミの真の力」

 

 

目の前で仁王立ちするオーカミとバルバトスルプスレクスを見て、そう言葉を溢したのは、他でもないライ。

 

とてつもない力の根源を見た気がした。

 

いや、本当は知っていた。

 

鉄華オーカミは、本当に強い奴なのだと。どんな時でも諦めずに進み続け、奇跡を手繰り寄せる奴なのだと。

 

 

「ッ……!!」

 

 

バトルがオーカミの勝利で終わったのも束の間。突如として塔が揺れ始め、床や壁に亀裂が生じる。

 

 

「お父さん……!?」

 

 

始まる崩壊。崩れた床から、遺体となったライの父親、イナズマが落下してしまう。

 

あまりにも突然過ぎた出来事に、ライはただそれを見届ける事しかできなかった。

 

 

「ニッヒヒ、ニィッヒッヒッヒッ!!!……実体化したスピリットが散々暴れ回り、挙げ句の果てに爆破したのだ。塔の支柱が崩れたんだろうね」

「フウちゃん。1つだけ聞かせて。フウちゃんは、長く生きて、何をするつもりだったの?」

 

 

崩壊が加速して行く中、ライがフウに訊いた。生きたいのは理解できる。だが、その先の彼女のヴィジョンには、何が映っていたのかは予測できなかったからだ。

 

 

「フ……そんなの決まってる、復讐するためだ。Dr.Aの孫だからと私を虐げてきた全ての者達へのね」

「!」

「オマエには飽きたよ春神ライ。このまま生き埋めになって死んじゃえ、生き残るのは私だけだ。ニッヒヒ、死ね。ニッヒヒ、みんな死んじゃぇぇぇぇぇえ!!!」

 

 

最後は逃げるように、高らかに不気味な笑い声をあげながら、フウは己のBパッドを操作し、ワームホールを形成。その中へ飛び込み、この場から脱出する。

 

これで、残されたのはオーカミとライだけとなるが………

 

 

「オーカミ。早く私達もここから脱出しないと……ッ」

 

 

そう告げ、崩壊の中でオーカミの方へと目をやるライだったが、その先には、床に横たわるオーカミの姿があって………

 

 

「オーカミ!?」

 

 

慌てて駆け寄るライ。その間に、左腕と左足だけで必死に立ちあがろうとするオーカミの姿を見て、彼女は察した。

 

 

「まさか、今度は右足が!?」

「そうらしい」

「そうらしいって。何でそんな軽いのよ」

 

 

骨でも抜かれたかのように動かなくなった彼の右足。以前から動かなくなっていた右手右目と合わせて、ほぼ右半身付随となってしまっていた。

 

王者の代償。ここに来て、オーカミはこの場から全く身動きが取れなくなってしまう。

 

 

「私が担ぐ。じっとしてろ」

「いいよ。そんな事したら、オマエも逃げ遅れる。オマエだけでも先に脱出しろ。オレは自分でどうにかする」

「バカ、どうともできないでしょうが!!」

 

 

まさに最悪な状況を迎える。

 

折角フウに勝利し、後はライを連れて帰るだけだと言うのに。最早、大人しく生き埋めになる事しかできなくなってしまうとは。

 

 

「ライ。ひょっとしたら、アニキも今頃この塔の中にいるかもしれない。アニキを助けるためにも、頼む」

「ふざけんな!!……いやだよ、私。生き残っても、アンタとお父さんがいない世界なんて、これなら私が死んだ方が……ッ」

 

 

これなら、私が死んだ方がいい。

 

ライの脳裏にその言葉が浮かび上がった瞬間、フウとのやり取りを想起する。

 

 

ー『エニーズ02は、その性質上、強靭的且つ、しなやかで、健康的な肉体を持つ。それをあの小物の技術でデジタル化し、私の身体に取り込む事さえできれば……』

ー『長く、生きる事ができる』

ー『そう!!……おそらく、どんな厄病だって治せる、万能薬となるに違いない』

 

 

ー『さぁ早く来て、ライちゃんの手が、私のBパッドの画面に触れるだけで、粒子となって私の一部となる』

ー『……』

ー『さぁ早く、早く。お祖父様から受けた私の呪いを、断ち切らせて!!』

 

 

 

「……」

 

 

これなら、助けられるかもしれない。救えるかもしれない。命懸けで自分を救ってくれようとした、友達を。

 

そう思いながら、展開しっぱなしとなっているオーカミのBパッドの画面へと軽く触れる。

 

 

「!」

 

 

すると、少しだけ指先が粒子化し、取り込まれた。

 

どう言う原理でこうなっているのかは定かではないが、ライは確信する。これなら、右半身付随となったオーカミの身体を元に戻し、助けられる、と。

 

 

「ねぇオーカミ。私と最初に会った日の事、覚えてる?」

「?」

「ゼウスのブレイドラパン賭けてさ、バトルしたよね」

「昔話はいい、早く逃げろ!」

 

 

突然昔話を始めるライ。オーカミは早く脱出しろと声を荒げるが、それでも止める事なく、続ける。

 

無理もない、ライにとって、これはオーカミとの最後の会話になるのだから。

 

 

「私のデッキは借り物だったけどさ。勝利の未来、王者が通用しなくて、癇癪起こして、アンタを街中追いかけ回したっけ」

「……」

「そこからいろんな人と仲良くなれた。アンタとヨッカさん以外だと、ヒバナちゃん、イチマル、レオン、ソラ、後ついでにアルファベットさん」

 

 

今までの楽しかった思い出が脳裏に浮かぶ。自分は幸せ者だったと気づき、涙が雫となって彼女の頬を伝い、零れ落ちる。

 

 

「ありがとう。オーカミ達がいてくれたから、私は幸せだった」

「何もう終わりみたいな感じで話進めてるんだ。いいから早く」

「逃げるのは、アンタだけでいい」

「ッ……どう言う事だよ」

 

 

ライの言葉に、オーカミは珍しく動揺を見せる。その真意が全く読めなかったのだ。

 

ただ、わかる事と言えば、ライは自らの命を投げ出して、自分を助けようとしていると言う事であって……

 

 

「さよなら。アンタの優しい所、大好きだよ」

「何を、やめろよ……ライ……ッ!!」

 

 

最後に微笑み、そう告げると、ライは両手でオーカミのBパッドへと触れる。

 

直後、ライの身体は粒子化し、オーカミのBパッドへと吸収されてしまって………

 

 

「ライィィィィィィイ!!!!」

 

 

崩壊が続く児雷也森林の巨大な塔。その最上階にて、煉瓦が軋む音と、落石が床に落ちる音、オーカミの叫びが響き渡る。

 

そこにはもう、ライの姿はない。

 

 

******

 

 

「どこだここ………赤い、三日月?」

 

 

消滅したライ。気がつけば、赤色に輝く三日月の月明かりに照らされた草原で寝転んでいた。

 

 

「あぁそうか、死んだんだ私。アイツのBパッドに吸収されたから、ここはアイツのデッキの中?……いや、身体が治った事も考えると、アイツの深層心理の中?……まぁ、何でもいいや。アイツが元気なら」

 

 

どちらにしても、あまり大して変わることはない。

 

ライは立ち上がって一度辺りを見渡すが、直ぐにまた寝転んだ。

 

 

「そうだよ。よかったんだ、これで」

 

 

その瞳にはまた涙が溜まる。本当は全部がいいわけじゃない。オーカミやヨッカ、みんなに会いたい。ひとりぼっちは嫌だと内心で叫んでいる。

 

1人で強がろうとするのは、ライの悪い癖だ。

 

 

「おい、そこの女」

「!」

 

 

声がした。男の声。

 

まさかの自分以外の人間の存在に、思わず立ち上がり、その声の方へと身体を向ける。

 

 

「え……小っちゃい、バルバトス??」

「フン。我と会話できるのだ、光栄に思うがいい」

「なんか、ちょっと可愛いかも」

 

 

そこにいたのは人ではなく、自分の身長の半分程度しかない、これでもかと言わんばかりにデフォルメされた、小さなガンダム・バルバトス。態度は大きいが、目につぶらな瞳孔があり、やけに幼く見える。

 

 

「誰が可愛いだと?……余は鉄華団を統べる偉大なる王、バルバトスであるぞ」

「いやいや、可愛い可愛い。いつもバトルで出てる、あの物騒な姿と比べたら」

「貴様、我だけでなく、我の分身までもを愚弄しているのか?」

「してないしてない。てかさ、写メ撮ろ、記念にさ」

「フン、人の娯楽など、くだらん。1枚だけだぞ」

「結構ノリノリじゃん」

 

 

いつもと違ってやたら貫禄のないバルバトスをイジりまくるライ。

 

バルバトスも、態度は尊大だが、人の余興にはある程度興味を示している様子。

 

 

「そんな事よりだ、感謝するぞ女よ。貴様のお陰で奴は生き長らえた」

「奴って、オーカミの事?……よかった、生きてたんだ」

「奴にはまだ死んでもらっては困るからな。だが貴様は邪魔だ、とっとと元の世界に帰るがいい」

「え」

 

 

そう告げると、バルバトスは手を三日月に掲げ、空間に突如ブラックホールのようなモノを形成。

 

凄まじい吸引力で、その場にいたライのみを吸い込んでいく。

 

 

「ちょいちょい、ウソでしょ、まだ写メ撮ってないし……キャァァァァァァ!!」

 

 

完全にブラックホールに吸い込まれたライ。それにより、この場には小さなバルバトスだけが残る。

 

 

「フ……さぁ我らのカードを手に取った鉄華オーカミよ、これからもその『月王者(ルナレクス)』の力を存分に振るうがいい」

 

 

******

 

 

「!」

 

 

目が覚めるライ。

 

オーカミのBパッドに己を取り込んだ後の記憶が全くないが、瓦礫の山と化した巨大な塔。周囲の児雷也森林の木々。自分を抱き抱える、傷だらけの鉄華オーカミの存在にすぐさま気がついて………

 

 

「オー……カミ。アンタ、どうやって私を助けて……」

「……」

 

 

オーカミは傷だらけではあるものの、右半身は元通り回復していた。だが、不思議なのは自分の存在だ。

 

いったい、オーカミはどうやってBパッドに吸収された自分を引っ張り出したと言うのか。そもそも吸収された自分を引っ張り出したら、また右半身付随になってしまうのではないのか………

 

兎に角、この状況に対する疑問は尽きなかった。

 

 

「二度と」

「え」

「二度と、誰かのために命を投げ出そうとするな」

「………」

「するな……!!」

「う、うん」

 

 

数々の激戦で傷ついたオーカミ。最後の力を振り絞り、ライを怒鳴りつけるような勢いでその言葉を告げる。

 

ライは、その彼の言動に戸惑いながらも、首を縦に振った。

 

 

「ライ、オーカ!!……オーカ、ライ!!」

「!」

 

 

やや遠くから、2人の聞き慣れた声が聞こえる。とても耳馴染みの良い、落ち着く、落ち着かない声。

 

九日ヨッカだ。その後方には復活したアルファベットも確認できる。どうやら、ヨッカが嵐マコトに界放市の外に飛ばされた後に合流し、急いでここまで戻って来た様子。

 

 

「ヨッカさん、アルファベットさん……ヨッカさん!!」

 

 

目に涙を溜め、ライは二度名前を呼んだヨッカの元へ慌てて駆け寄る。

 

ヨッカは、その勢いよく走って来たライを優しく抱き締めた。そうすると、もらい泣きか、彼もまた、少しばかりの涙を流す。

 

オーカミとアルファベットの2人は、顔を見つめ合わせると、その光景に小さな笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての戦いが終わった。

 

誰よりも狡猾で邪悪だった敵、徳川フウを退け、オーカミ達は元の平穏な日常を取り戻す。

 

だが、いつものその平穏な日常では、父親を失った、ライの悲しみを埋めるには不十分であって………

 

 






次回、第64ターン「心の糧、バルバトスVSエアリアル」



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