ノヴァ学園の生徒「キング王」とのバトルに敗北してから、3日が経った。
あれからオーカミは、キング王、基ノヴァ学園について調べ始めていて。
「キング王。ノヴァ学園の1年。ゴジラデッキの使い手。そのカリスマ的実力で、バトルスピリッツの申し子とも言われている。ノヴァ学園入学から僅か1年で、序列1位。歴代最高傑作とも。まさしく名実共に王の中の王……アイツ、そんな凄い奴だったのか」
中学の教室。ホームルーム前にオーカミが読んでいたのは、ノヴァ学園の特集雑誌。そこにはあの時バトルしたキング王が掲載されていた。
どうやら彼は、バトスピ学園最難関であるノヴァ学園の中でも、最高傑作、序列1位などと謳われる存在らしく、オーカミを軽く捻る程度の実力があるのも納得の肩書きを持っていた。
「面白い。こう言う相手を待ち侘びてたんだ。行ってやるぞ、ノヴァ学園」
珍しく積極的な行動力を見せるオーカミ。余程あのキング王に勝ちたいらしい。
「やっほーオーカ。おはよ」
「あぁヒバナ、おはよう」
そんな折、着席している彼に話しかけて来たのは、同じ学年、同じクラスの少女、一木ヒバナ。黒くて後ろ髪を2つのシュシュで束ねたツインテールが特徴的だ。
「ッ……その雑誌、オーカまさかノヴァ学園に行くの!?」
「うん、まぁ」
「よかった〜〜昨日までずっと進学しないって言ってたから。うんうん、やっぱりこの世に住む物皆バトスピ学園は通って行かないとね」
ヒバナも、進学する気になったオーカミを見て一安心。彼女も中卒になろうとしていたオーカミを流石に心配していた様子。
「って、アレ?」
「どうしたの」
何かの情報をハッとなって思い出したヒバナ。歯切れの悪い言い方でそれをオーカミに告げる。
「えぇっと、オーカ」
「うん」
「ノヴァ学園。今年の入試、もう終わってる」
「……え」
今年はまだ始まったばかりだが、今年で一番大きなショックを受けた。
どんなに入試最難関でも、キング王に勝てるなら頑張れた。もちろん苦手な勉強だって。
だが、入試そのモノがなければ、受かるモノも受からない。オーカミのノヴァ学園へのモチベーションは、著しく低下した。
******
「まさか、入試が終わってたとは。折角やる気になってたのに」
放課後、帰路についたオーカミは、ノヴァ学園の入試が受けられない事をぼやいていた。
「……ヒバナには悪いけど、やっぱアポローンに就職しよ。あそこ学費とか高そうだったし、やっぱりこれでよかったのかも」
元々学費が払えないから進学しなかった事を思い出す。残念そうにはしているが、オーカミは自分なりに割り切り始める。
そして、そこから数分後、彼は自分の家のマンションに辿り着く。
「……」
鍵がかかってない事を確認すると、無言で自分らの部屋、402号室の扉を開ける。
鍵が要らない時は、大体2パターンに別れている。姉である「鉄華ヒメ」が多忙なモデルの仕事から戻って来た時か………
もしくは。
「よっ、オーカ。おかえり」
「……」
自分を笑顔で迎え入れたのは、黄色味がかった白髪をサイドテールに束ねている美少女、春神ライだった。
そう。もう1つのパターンは『ヒメに家事を頼まれたライが家にいる』だ。
「ライ、なんか最近頻度増えてない?」
「いいじゃん別に。他でもないヒメさんからのお願いだし。それに、家帰ったら可愛い子が待っててくれるシチュなんて、ギャルゲーでも早々ないぞ」
「自分で言うな。まぁ飯あるのはありがたいか」
「ふふん。そうだろそうだろ」
あの戦いから1年以上、ライはオーカミの知らない間に彼の姉と交流を深めていた。故に、偶にこうして家事を頼まれて家にいる事がある。オーカミ的には最近頻度が増えて来ていると感じているみたいだ。
まぁそれでも、別に嫌なわけではない。寧ろ嬉しい寄りだ。オーカミは鞄をソファに置き、リビングのテーブルに着いて、ライが用意した食事を頂くことにする。
「食べる前に、先ずは手洗って来いよ」
「だる」
「だるくない、行く!!」
「えぇ……」
母親じみた注意の仕方のライ。オーカミは渋々洗面所で手を洗う。
手を洗うと再びテーブルに着席。白ご飯始め、ハンバーグやら味噌汁やらやたら家庭的な料理を食べ始める。
「そう言えばさ、オーカはバトスピ学園に進学しないんだったっけ?」
ライが、オーカミにお手拭きを手渡しながら、さり気なくそう訊いた。
「うん」
「そうなんだ、珍しいね。まぁかく言う私も行く気ないし、そもそも学校すら行った事ないけど」
「絶対オマエの方が珍しいだろ」
ライが学校すら通った事がないと言うのは、亡き父親である春神イナズマと世界中を旅をしていた事と、彼がライに対して過保護だった事が理由にあげられる。
「……本当は行きたい学校あったんだけど。今年の入試終わっててさ」
「え、何やってんのよアンタ、ドジ?」
「ドジはアニキだろ」
「あっはは、それ言えてる。今日帰ったらちくろー」
年相応の軽口を叩き合える仲のライ。あの事件以降、2人の絆がより強まっている事を、会話の言葉の節々から理解する事ができる。
「今日近くのデパートで新しいクレープ屋が開店したらしいんだけど」
「なんか藪から棒だな」
「でさ、食後のデザートがてら、一緒に行かない?」
「だる」
「え〜いいじゃん。今日バイト休みなんでしょ?…あそこカップル限定で半額なんだよ」
つまりはオーカミを彼氏役にして、半額でクレープを美味しくいただきたいと言う事だ。
もちろん、それ以外の理由もありそうだが……
「何でわざわざオレを彼氏役にするんだよ。アニキでいいだろ」
「ヨ、ヨッカさんだと年齢差ありすぎて怪しまれるのよ。その点、アンタとは身長ほとんど同じだし」
「……最近オレの方が2センチデカくなったよな?」
「たかが2センチで威張るな、どっちにせよ誤差じゃない」
アレから1年以上の時が経過し、かなり伸びたオーカミの身長。今は156だ。因みにまだまだ小さい方である。
「ほら、いいから行くぞ。楽しみだな、半額クレープ」
「もう行くの確定みたいになってるし」
『まぁ暇だし別にいいか』……
こうなったライが言う事を聞かない事を知っているオーカミは、根負けしてそう考える。食後、オーカミは制服から私服に着替え、ライと近所のデパートへと向かった。
こんな形でもいいから、彼とカップルのフリをしたい、彼女の乙女心があるのもつゆ知らずに。
******
ジークフリード区にある大きなデパート。十数年前よりグランドオープンして以降、安定した売り上げを維持している事で有名。
バトル場もあり、カードバトラー達の憩いの場としても近年名乗りをあげている。
「はい。では、カップルの証として手を繋いでください。恋人繋ぎで!!」
「こ、恋人繋ぎ!?」
「……」
「こ、こんな感じでいいですか……!?」
そんなデパートの一角を担う事になった、新しいクレープ屋。多くの人々で賑わう中で、若い女性店員の指示に従い、恥ずかしながらも、恋人繋ぎでオーカミと手を取り合うライと、それに対して終始虚無な様子を見せるオーカミの姿があった。
「オーカ、少しくらい笑いなさいよ」
「そう言われてもな」
小声で告げ口して来るライ。自分から笑うのが苦手なオーカミは、それでも無表情のままだ。
「はい、証明完了です!!……クレープ半額になります」
「やった、ありがとうございます」
「中学生?…初々しくてとても素敵なご関係ですね」
なんだかんだで証明は成功。しかし、この若い女性店員は2人の色々と察していそうだ。きっと、中学生と言う事でオマケで通してくれたに違いない。
「にゃっはは、素敵なご関係だってさ」
「そんなに嬉しい事か?」
「う、嬉しいに決まってるでしょ」
「まぁお陰で半額になったんだから、そりゃそうか」
「もう……」
クレープを片手にウキウキのライ。先程の店員にオーカミとの関係性を褒められた事もあるのだろう。ただ、肝心のオーカミは、彼女の気持ちを半額になったから嬉しいと勘違いしているようだ。
無事にクレープの購入を半額で終えた2人は、クレープ屋の指定されたテーブルへと腰を下ろした。
「いただきま〜す」
「オレ、そう言うの高い割にあんまり量なさそうだから普段食べないんだけど、美味しいの?」
「うめぇに決まってるだろ。毎週1回。こう言うのを食べるために生きてるといっても過言じゃないね」
「ふ〜ん。そう言うもんか」
因みにクレープを購入したのはライのみ。オーカミはただ彼女のすぐそばでそれを美味しそうに頬張っているのを見届けているだけだ。
「一口いる?」
「いいの?」
「ま、まぁアンタにも一役買って貰ったしね。このくらいは……はい、あ〜ん」
「あ〜」
お言葉に甘えて口を大きく開けるオーカミ。因みにこれは全てライの計算の内。彼とカップルみたいな事をしたいと言う、彼女の欲求の表れとも例えられるだろう。
クレープ屋でクレープを分け合う、しかも「あ〜ん」して食べさせてあげると言う行為に、咄嗟に恋人繋ぎをした時以上に緊張するライ。ゆっくりそのクレープを持っている手を、緊張感なく開いた口に突っ込もうとする。
だが………
「白昼から、こんな所でガールフレンドとデートとは。流石鉄華オーカミ君。界放リーグ優勝者は伊達じゃないって事かな?」
「ん?……誰」
突然近づいて来た声に、ライの手が止まり、オーカミがその声主の方へと振り向く。
若く、幼さが顔の印象に残る大人の女性だった。短く切り分けられたオレンジ色の髪色に、触覚のようなアホ毛。さらに服装は黒服のスーツにサングラスだ。
「ガールフレンドとデート?……オーカ、私達、デートしてるように見えるんだってさ!!」
「何でそんな嬉しそうなの」
そんな見ず知らずの女性にオーカミとの関係性を指摘されて、ライはえらくご機嫌になる。
「いや〜〜お邪魔して申し訳ない。ノヴァ学園、序列1位のキング王からの差し金って言えば、わかってもらえるかな?」
「!」
ノヴァ学園にキング王。今のオーカミの意識を向けさせるには十分過ぎる言葉だ。
「私の名前は『ブイ』……ノヴァ学園で先生やってます。よろしく」
「ブイ?…また変な名前だな」
「この世を凌ぐための仮の名前さ。あと君には言われたくないぞ、オーカミって」
女性の名前は『ブイ』……
本人曰く偽名だそうだが、あの最難関校のバトスピ学園の1つ、ノヴァ学園の教師と言う肩書きを持っている。おそらく、バトルの腕前も相当立つモノがあると、この時点で予想できる。
「……」
「『何でそんな奴がオレに会いに来たんだよ』って顔してんね。予想できない?……君に特別推薦入試を設ける事が決定したからだよ」
「!」
「しかも、オーカミ君の家庭環境に合わせて、学費も寮費も全てタダ」
そう告げられ、驚いたのはライの方だった。オーカミはいつもと変わらない、平然とした表情を見せる。
「オレ、まだ入試したいとか何も言ってないはずだけど」
「君程優秀なカードバトラーを、ノヴァ学園は見逃さないって事さ。入学条件は、私とバトルする事」
「……」
「つー訳で行こうか、このデパートのバトル場に」
半ば唐突ではあったが、オーカミの特別推薦入試を行うべく、3人はデパートのバトル場へと移動する。
デパートのバトル場は、まるで、大きなバッティングセンターのよう。床に敷かれた芝生や、目に優しいLEDなど、外よりも快適にバトルを楽しめるよう、工夫が施されている。
「確認なんだけどさ。このバトルでアンタに勝てば、ノヴァ学園に行けるって認識でいい?」
「あぁ、そう思ってもらって構わないよ」
「よしオーカ、頑張んなさい!!」
「あぁ」
ノヴァ学園の女教師、ブイに勝利すれば、ノヴァ学園へ入学できる。
その認識の元、オーカミはBパッドを展開し、そこに己のデッキを装填。バトルの準備を完了させる。ブイもまた、それに合わせてバトルの準備を済ませた。
「行くぞ、バトル開始だ」
……ゲートオープン、界放!!
ノヴァ学園への切符を賭けたバトルスピリッツが、コールと共に幕を開ける。
先攻はブイだ。最難関校の教師の実力や如何に。
[ターン01]ブイ
「メインステップ、七大英雄獣ヘクトルの【アクセル】を発揮」
「!」
「効果でコア1つを私のトラッシュへ追加、発揮後このカードを手元に置く」
ブイが初手に発揮させたのは、緑属性のアクセル持ちスピリットカード。
その効果によりコアが1つ増えるが、その本領はそれの発揮後、手元に置かれた後にある。
「ヘクトルくらい知ってるよね。コレが手元にある間、お互いに赤紫黄青のスピリット、ネクサス効果でドローできない。紫属性の鉄華団を扱う君のデッキには辛い効果だ」
「……」
ヘクトルの効果は、特定のカードらのドローを封じ込める効果。オーカミの鉄華団デッキもその例外なく、ほとんどのカードのドロー効果が使えなくなってしまう。
「ターンエンド」
手札:4
バースト:【無】
手元:【七大英雄獣ヘクトル】
ヘクトルでドロー効果のメタを貼り、第1ターン目を終えるブイ。ヘクトルの採用や言動から察するに、彼女はオーカミの鉄華団デッキを研究して来ている様子。
「ヘクトルがなんだ、行けオーカ!!」
だがオーカミに負ける気はない。ライの声援が聞こえて来る中、巡って来た己のターンを進めて行く。
[ターン02]鉄華オーカミ
「メインステップ、グレイズ改弍をLV1で召喚だ」
ー【グレイズ改弍[流星号]】LV1(1)BP2000
オーカミのフィールドに飛来して来たのは、マゼンタのカラーを持つ、一つ目の小型モビルスピリット、グレイズ改弍。
「悪いけど、それの召喚時のドロー効果はヘクトルによって封じられている」
「そんなの折り込み済みだ。流星号の名を持つスピリットが召喚された時、手札からパイロットブレイヴ、ノルバ・シノの効果を発揮」
「!」
「手札から自身をノーコスト召喚し、グレイズ改弍に直接合体」
ー【グレイズ改弍[流星号]+ノルバ・シノ】LV1(1)BP6000
流星号が召喚された時に自身もノーコストで召喚できる強力な鉄華団パイロットブレイヴ、ノルバ・シノ。それの効果が発揮されて、流星号の名を持つグレイズ改弍と合体を果たす。
見た目に変化はないが、ダブルシンボルを持つ合体スピリットが、僅か2ターン目に爆誕した。
「さらにランドマン・ロディを召喚」
ー【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000
追加で呼び出されたのは、丸みを帯びた、小型の鉄華団モビルスピリット、ランドマン・ロディ。
これでオーカミのフィールドには早々に2体のスピリットが並んだ。
「アタックステップ。グレイズ改弍でアタック」
「ライフで受ける」
〈ライフ5➡︎3〉ブイ
速攻だ。ノルバ・シノのドロー効果はヘクトルによって封じ込められているも、ダブルシンボルのアタックが、グレイズ改弍の斧を振り回す攻撃が、ブイのライフバリアへと炸裂。
そのライフバリアの数は残り3つとなる。
「続けて行け、ランドマン・ロディ」
「それもライフで受けようか」
〈ライフ3➡︎2〉ブイ
ランドマン・ロディが、復活したライフバリアに向かって瞬時にマシンガンを掃射。1つ砕き、彼女の残りライフを早くも2つにする。
「ターンエンド」
手札:2
場:【グレイズ改弍[流星号]+ノルバ・シノ】LV1
【ランドマン・ロディ】LV1
バースト:【無】
「やるね。ドローができないと見て、早期決着をつけに来たのか、良い判断力だ」
「そう言うのいいから。早くターン進めてよ」
「ふふ、そう急かすな」
オーカミが最初のターンで、いつもとは一風変わった戦略を見せたのには訳がある。
ヘクトルによってドローが封じられている今、長期戦は不利。故に、オーカミは短期決着を狙うべく、早めにスピリットを多量展開し、連続をアタックを仕掛けたのだ。
[ターン03]ブイ
「メインステップ、マッチュラLTをLV2で2体連続召喚」
ー【マッチュラLT】LV2(2)BP3000
ー【マッチュラLT】LV2(2)BP3000
ブイのフィールドに、背中に白い胞子を背負った小さなクモ型のスピリット、マッチュラLTが2体召喚される。
一見するとただのBPの低い弱小スピリットであるが、召喚時に発揮される効果は、嫌がらせそのモノとも言える効果であり……
「召喚時効果、相手は手札1枚を選んで破棄。それが2回」
「!」
「そう。君の手札は残り2枚。よって今ある手札は全てトラッシュ送りだ」
マッチュラLT2体の体が緑色に発光すると、オーカミの2枚の手札も同様の色に発光を始める。
すると、それら2枚はオーカミの手を離れ、トラッシュへと破棄される。これでオーカミの手札は0枚。次のターン以降のスピリット展開はおろか、敵の攻撃を回避するためにマジックカードを使う事すらできない状態となってしまう。
「ハンデス。ハンドデスの略称で、手札破壊を意味する。このデッキはそれが得意なの」
ブイのデッキの特徴はハンデス。相手の手札を破壊し、何もさせずに勝利を捥ぎ取る。
実に恐ろしい戦略だ。バトルしていてコレほど嫌になる対面は珍しいだろう。
「ハンデスくらい知ってるよ」
「へぇ、手札はなくなっても威勢はまだあるんだ。それじゃあこれはどうかな。バーストをセットしてアタックステップ、マッチュラLT2体でアタック」
手札がなくなっても、特に冷静さを見失わないオーカミに対し、追い討ちを掛けるように、ブイがマッチュラLT2体に攻撃を指示した。
「全部ライフで受けるよ」
〈ライフ5➡︎4➡︎3〉鉄華オーカミ
マッチュラLT2体の体当たりが、オーカミのライフバリアに直撃。それぞれ1つずつ粉砕され、残り3つとなる。
「ターンエンド」
手札:2
場:【マッチュラLT】LV2
【マッチュラLT】LV2
バースト:【有】
手元:【七大英雄獣ヘクトル】
ライフと手札を砕き、そのターンをエンドとするブイ。
次は手札を0にされたと言うのにもかかわらず、未だにドローを封じ込まれたままと言う泣きっ面に蜂の状況に陥ってしまったオーカミのターン。
しかし、彼と、彼の鉄華団の底力は、この程度でへし折れるモノではなくて……
[ターン04]鉄華オーカミ
「メインステップ、ネクサス、ビスケット・グリフォンをLV2で配置」
ー【ビスケット・グリフォン】LV2
「効果発揮、自身を疲労させ、デッキ上1枚をオープン、それが鉄華団なら手札に加える。よし、オルガ・イツカを手札に加え、さらにコレも配置」
ー【オルガ・イツカ】LV1
「配置時の神託。オルガにコア+3」
「オープンカードを回収する効果か。確かにそれならヘクトルの効果を無視して手札を増やす事ができる。やるね」
トップドローからの流れるようなネクサス2枚の展開。ドロー効果を封じ込めるヘクトルだが、オープンカードを手札に回収する効果には一切反応しない。
そのため、このタイミングで毎ターンオープンカードを回収できるビスケットをドローしたのは、オーカミにとってはかなり大きなアドバンテージとなったと言える。
「アタックステップ。その開始時、トラッシュにあるバルバトス第2形態の効果、自身を召喚する」
ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV2(2)BP6000
トラッシュからオーカミが呼び出したのは、相棒のバルバトス、その第2形態。小型でBPは低いが、何度でもトラッシュから召喚できる強力な効果を持っている。
「手札がなくとも、トラッシュからスピリットを展開するか。紫属性らしい」
「アタックステップ継続。グレイズ改弍でアタック」
オーカミの指示を受け、グレイズ改弍は再び斧を取り出して構える。
「オーカのスピリットは3体。しかもアタック中のグレイズ改弍はダブルシンボル。対して女先生の残りライフは3。打点は足りてる。けど……」
バトルは目に見えてオーカミが有利になったが、ライはブイの伏せているバーストカードを懸念していた。
そしてそれは、案の定、このタイミングでのカウンターとして発動されて………
「流石は噂の鉄華オーカミ君。少しだけ本気出しちゃおうかな。アタック後のバーストを発動。青と緑の究極体デジタルスピリット、インペリアルドラモン ドラゴンモード!!」
「!」
「効果により、先ずはLV2で召喚。不足コストは2体のマッチュラLTから確保、よって1体は消滅する」
ー【インペリアルドラモン ドラゴンモード[2]】LV2(3)BP12000
マッチュラLTが1体消滅した直後、大気を震撼させる程の衝撃が伝わって来た。
背部に大砲を背負った、雄々しくも美しい巨大なドラゴン、インペリアルドラモン ドラゴンモードが、激しい咆哮と共にフィールドに出現。オーカミの鉄華団スピリット達と対峙する。
「このタイミングで超大型のデジタルスピリット!?」
「凄いだろ。ドラゴンモードの効果、バースト効果で召喚後、スピリット1体を重疲労させる」
「!」
「ランドマン・ロディ。私らの前に跪け」
突如現れたインペリアルドラモン ドラゴンモード。背中の大砲からエネルギー弾をランドマン・ロディへと放ち、命中させる。
ランドマン・ロディは破壊こそされなかったものの、ショートしてしまい、電流を纏い、片膝をついて動かなくなってしまう。
「グレイズ改弍のアタックは、召喚したドラゴンモードでブロック。そしてこの瞬間、ドラゴンモードのアタックブロック時効果を発揮。自分のデッキ上1枚をオープンし、それが対象のカードならば召喚配置ができる」
ブイがデッキ上1枚のカードをオープンする。そのカードは3枚目の『マッチュラLT』……
対象カードではないため、召喚配置する事はできないが。
「オープンカードは『マッチュラLT』……召喚はできないけど、この効果でオープンして残ったカードは手札に加えられる」
「!」
「そう。ビスケット同様、私のヘクトルの効果をすり抜け、手札を増やす事ができるって事だ」
ブイはオープンカードを手札に加える。ヘクトルをデッキに組み込んでいるのであれば、その状況下でも手札を増やせるカードを仕込むのは当然か。
「ドラゴンモード、そのままグレイズ改弍を叩き潰せ」
攻め込むグレイズ改弍を、ドラゴンモードは前脚1つで抑え込み、大地に叩き伏せて爆散させる。
「……エンドステップ、バルバトス第2形態の効果。このターン、オレがアタックしていた時、トラッシュからコスト4以下のバルバトスをノーコストで召喚する。来い、バルバトス第1形態」
ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000
「召喚時効果でデッキ上3枚をオープン、その中の鉄華団カード、フラウロスを手札に加えて、残りを破棄」
「またトラッシュからスピリットを展開しつつ、オープンカードを回収する効果で手札を増やすか。面白い」
バルバトス第2形態の効果でトラッシュから呼び出すのは、バルバトス原初の姿、バルバトス第1形態。
その効果でヘクトルの効果を無視し、手札を増やす。
「ターンエンド」
手札:1
場:【ランドマン・ロディ】LV1
【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1
【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV2
【ノルバ・シノ】LV1
【オルガ・イツカ】LV2(5)
【ビスケット・グリフォン】LV2
バースト:【無】
結果的にライフは奪えず、バルバトス第1形態と第2形態がブロッカーとして残る事になった。
次は、強力なデジタルスピリットの究極体、インペリアルドラモン ドラゴンモードを召喚したブイのターンだ。
[ターン05]ブイ
「メインステップ、3体目のマッチュラLTをLV2で召喚。その効果でまた手札を1枚破棄」
「くっ……」
ー【マッチュラLT】LV2(2)BP3000
呼び出される3体目のマッチュラLT。
その効果でバルバトス第1形態の効果で手札に加えた『ガンダム・フラウロス[流星号]』のカードがトラッシュへとはたき落とされた。
「再びバーストをセット。さらに最初に召喚したマッチュラLTのLVを2に、ドラゴンモードにコア1個を追加」
「またバーストか」
再び伏せられるバーストカード。前のターン、それで召喚されたドラゴンモードの存在から、そのプレッシャーはより強くなる。
「アタックステップに入る。ドラゴンモードでアタック……」
「焦るなよ。その前に、互いのアタックステップ開始時、オルガの【神技】の効果を発揮。トラッシュから鉄華団1体を召喚する」
ブイが、ドラゴンモードでアタックを行おうとした直後、オーカミはオルガのコアを4つ取り除き、その【神技】の効果を発揮させる。
「来い、漏影。ビスケットからコアを借りて、LV1で召喚」
ー【漏影】LV1(1)BP3000
トラッシュから呼び出される鉄華団スピリットは、4つ目にバスターソードを武器として持つ漏影。
その効果は、ヘクトルの状況下でも手札を増やせるモノであり……
「漏影の召喚時効果、デッキ上3枚を破棄、その後トラッシュから鉄華団カードを手札に戻す。オレの手札に来い、バルバトスルプス」
オーカミが漏影の効果でトラッシュから手札に戻したのは、バルバトスの未来の姿、煌臨の効果を持つバルバトスルプス。
それを見るなり、アタックしようとしていたブイの手が止まる。
「凄いな。ドローができない状況でもここまで動いて来るか」
アタックしたらフラッシュでルプスを煌臨される。そうなれば次のターンまでに全滅は必然か……
「ならアタックはしないよ。ターンエンド」
手札:2
場:【マッチュラLT】LV2
【マッチュラLT】LV2
【インペリアルドラモン ドラゴンモード[2]】LV2
バースト:【有】
手元:【七大英雄獣ヘクトル】
そう考え、ブイはそのターンをエンド。アタックされる事なく、オーカミへとターンが巡って来る。
「チャンス到来だぞ、オーカ!!」
「あぁ、このターンで決める」
勝機が見えたこの瞬間、ライの声援を受け取りながら、オーカミは己のターンを進めて行く。
[ターン06]鉄華オーカミ
「……行くぞ」
「本気モードって感じだな」
オーカミの雰囲気が、少しだけ刺々しくなる。本気モードだ。ブイもそれを察した。
「メインステップ、先ずはもう一度ビスケットの効果だ。疲労させてデッキ上1枚をオープン、鉄華団カードなら手札に加える」
ビスケットの効果でオープンされたカードは鉄華団カード『三日月・オーガス』……
よって、オーカミはそれを己の手札へ加えた。
「今手札に加えたパイロットブレイヴ、三日月を召喚」
ー【三日月・オーガス】LV1(0)BP1000
フィールドには何も出現しない。が、鉄華団スピリットを極限まで強化できるパイロットブレイヴのカードが、オーカミのBパッドへと置かれた。
さらに、彼はそれと合体させるためのスピリットを、この場へと呼び寄せる。
「天空斬り裂け、未来を照らせ、ガンダム・バルバトスルプス、LV2で召喚!!」
ー【ガンダム・バルバトスルプス】LV2(2)BP8000
「不足コストはバルバトス第2形態をLV1に、未だ疲労状態のランドマン・ロディから全てのコアを確保」
天空より降り立つのは、バルバトスの強化形態の1つ、バスターソード状のメイス、ソードメイスを持つバルバトスルプス。
前のターン、重疲労状態にさせられたが故に、このターンでも疲労状態のままのランドマン・ロディが消滅。その上に置かれていたコアは、ルプスの力となる。
「シノを漏影に、三日月をルプスに合体」
ー【漏影+ノルバ・シノ】LV1(1)BP7000
ー【ガンダム・バルバトスルプス+三日月・オーガス】LV2(2)BP14000
ここに来て爆誕する2体の合体スピリット。
オーカミのフィールドには、コレらを含め、4体のスピリットが揃った。残りライフ2つのブイを倒すには、十分過ぎる頭数だ。
「アタックステップ、バルバトスルプスでアタック。その合体時効果でドラゴンモードとマッチュラLT1体から1個ずつ、合計2コアをリザーブへ」
勝負を決めるべく、アタックステップに突入する。ソードメイスを大地へ打ち付け、土の破片をブイのフィールドへと飛ばす。
それを受けたドラゴンモードとマッチュラLT1体は、体内のコアを取り除かれる。ドラゴンモードはほぼ無傷だが、マッチュラLTはLV1になり、弱体化した。
「ルプスのもう1つの効果。煌臨アタック時、オレのデッキ上2枚を破棄、その中の鉄華団カード1枚につき1体、相手のコア3個以下のスピリットを破壊する」
ルプスの効果で2枚破棄されるオーカミのデッキ。その2枚は、いずれも鉄華団カードであり………
「2枚とも鉄華団。よってLV2のマッチュラLTと、ドラゴンモードを破壊だ」
ルプスは左腕から滑腔砲を展開、それを掃射し、LV2のマッチュラLTを撃ち抜き、爆散させる。
さらにブイのフィールドへと切り込んで行き、そこにいたドラゴンモードを背中の大砲ごとソードメイスで叩き斬り、コレも同様に爆散へと追い込んだ。
「まだだ、三日月の合体時効果。残ったマッチュラLTのLVコストを+1し、消滅。発揮後、バルバトスと合体していれば、オレのフィールドの鉄華団1体につき1つ、相手リザーブのコア1つをトラッシュに置く」
「……」
「オレのフィールドにいる鉄華団スピリットは4体。4つのコアを、リザーブからトラッシュへ」
足元にいた、最後のマッチュラLTを踏み潰すルプス。そしてその眼光を緑色に強く輝かせると、ブイのリザーブにあるコアを4つもトラッシュへと送った。
「これでアンタを守るスピリットは全て消えた。残り2つのライフは、ダブルシンボルのルプスが砕く」
再び優勢に立つオーカミ。だが、相手はあのノヴァ学園の教師になる程の実力者ブイ。
そう簡単にバトルは終わらなくて………
「守ってくれるスピリットならいるさ。そこにね、相手のアタック後のバーストを発動。2枚目のインペリアルドラモン ドラゴンモード」
「ッ……まだあったのか」
「効果により、コレを召喚」
ー【インペリアルドラモン ドラゴンモード[2]】LV2(4S)BP12000
バーストゾーンに伏せられているカードを指差しながら、ブイはそれの発動を宣言。
カードは勢い良く反転し、フィールドには2体目のドラゴンモードが顕現する。
「その後、相手スピリット1体を重疲労。対象はブレイヴと合体している漏影だ」
現れるなり背中の大砲からエネルギー弾を放つドラゴンモード。今度はそれを漏影に直撃させ、片膝をつかせる。
「ルプスのアタックは、そのまま召喚したドラゴンモードでブロック」
「だけど、BPはルプスが上だ」
行手を阻むドラゴンモードへ向けて、左腕から展開した滑腔砲を掃射するルプス。
ドラゴンモードはそれを一度の咆哮で弾き返すと、仕返しと言わんばかりに、背中の大砲からまたエネルギー弾を放つ。その対象となったのは当然ルプスだが、ルプスはソードメイスを縦一線に振い、それを叩き落とす。
「漏影を重疲労させ、ルプスのアタックをブロックしても、オレのフィールドにはまだバルバトス第1形態と第2形態がいる。この2体のアタックで終わりだ」
「それはどうかな?」
「!」
「ルプスをブロックしたこの瞬間、ドラゴンモードのアタックブロック時効果が発揮。デッキ上1枚をオープンし、それを手札に加える」
ルプスとドラゴンモードが競り合う中、発揮されるドラゴンモードの効果。
ブイの手札は残り1枚。口振りからして、おそらく彼女はここのオープンカードで逆転の1枚を引くつもりなのだろう。
「まさか、このタイミングで逆転のカードを引くつもりなのか」
幾ら強力なデッキであろうとも、それができる可能性はほんの僅か。カードバトラーとしての運命力が試されている場面だと言える。
「見てな。私の右手は奇跡を呼ぶ。カードオープン!」
勢い良く1枚のカードをオープンするブイ。
そのオープンされたカードは『インペリアルドラモン ファイターモード』のカード。彼女はそれを見るなり口角を上げる。
「来た。私は『インペリアルドラモン ファイターモード』のカードを手札に加え、そのままフラッシュでコレの【煌臨】の効果を発揮。対象はブロック中のドラゴンモードだ」
「煌臨のカード!?」
「モードチェンジ。皇帝竜、インペリアルドラモン ファイターモード!!」
ー【インペリアルドラモン ファイターモード】LV2(3)BP15000
ルプスとの戦いの最中、突如輝きを放つドラゴンモード。そしてその姿は人型へと変形していき、真なる姿ファイターモードへと覚醒した。
「ファイターモードの煌臨時効果を発揮、相手スピリットを10体を疲労させる」
「10体……!?」
「バルバトス第1形態と第2形態の2体を疲労だ。ポジトロンレーザー!!」
右腕に移動した巨大な大砲から、極太のビーム光線を照射するファイターモード。それを受けたバルバトス第1形態と第2形態は片膝をつき、少なくともこのターンは行動不可能となってしまう。
「そして、ファイターモードになった事により、BPが増加。ルプスのBPを僅かに上回った」
「くっ……」
ルプスがソードメイスを手に、ファイターモードへと突撃する。が、ファイターモードはそのソードメイスによる一撃を片手で受け止め、ゼロ距離からポジトロンレーザーを放つ。
それによりルプスは腹部を貫かれ、力尽きて爆散してしまう。
「合体していた三日月は場に残す」
「これで、アタックできるスピリットは全て疲労状態。君はアタックステップを終了せざるを得ない」
「……ターンエンド」
手札:1
場:【漏影+ノルバ・シノ】LV1
【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1
【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV1
【三日月・オーガス】LV1
【オルガ・イツカ】LV2(3)
【ビスケット・グリフォン】LV1
バースト:【無】
たった1枚のバーストと、1枚のドローで優勢だった状況全てをひっくり返された。しかも、それがさぞかし当然であるかの如く。
オーカミは悟る。コイツには多分、まだ勝てない、と。
[ターン07]ブイ
「さぁメインステップ。そうだな……」
互いに一進一退を繰り返したバトルは遂に最終局面。緊張感が迸る中、ブイがしたプレイは………
「うん、終わり。君は合格だよ」
「……え」
手を合わせ、バトルの終了と、オーカミのノヴァ学園合格を宣言。
フィールドではその影響で、残っていた全てのスピリット達がゆっくりと消滅して行く。この行動には、流石のオーカミも開いた口が塞がらなかった。
「なんで。まだオレ、アンタにバトルで勝ってないけど」
「勝てれば満点だったけどね。でも、勝てば合格の認識でいいとは言ったけど、必ず勝つのが合格の条件とは一言も言ってないだろ?」
「えぇ……」
「ヘクトル置かれて、ハンデス食らった中で、あそこまでできるなら上々さ」
ブイはそう告げると、デッキとBパッドを懐にしまい、新たに『合格証明書』を取り出す。
そこには『鉄華オーカミ』の名前が刻まれていて………
「はい。合格おめでとう」
「……」
それを受け取るオーカミだが、その表情はとても嫌そうだ。
無理もない。不利だった上に途中で中断させられたのだ。カードバトラーとしてこれ程の屈辱はないだろう。
「そんな嫌そうな顔すんなって。再戦なら受け付けるよ、ゲートシティの、ノヴァ学園でね」
「……」
「それじゃ、待ってるから、絶対に入学するんだぞ」
最後にそう告げると、ブイはオーカミらの元を去って行った。オーカミの手には、デッキとノヴァ学園の合格証明書だけが残り……
「オーカ、やったじゃん。合格おめでと」
「うん……」
「全然嬉しそうじゃないな」
駆け寄って来たライがオーカミにそう告げて来る。当の本人は未だご機嫌斜めだが………
「なにいじけてんのよ」
「いじけてない」
「いやいや、いじけてるでしょその顔は。まぁまだまだ伸び代があるってわかっただけ、マシなんじゃない?」
「……」
思い返す、ゲートシティのカードバトラー達との2連戦。キング王、ブイとのバトル。両者共に規格外の強さで、今のままでは、とてもではないが足元にも及ばない事を通知痛感した。
しかし、それと同時に、これからそれらを追い越せると思うと、背筋がゾクゾクして来て堪らなくなって来た。
「キング王にブイ。ノヴァ学園にはオレより強い奴がゴロゴロいるんだな。面白くなって来た」
そう呟くと、オーカミは静かに己のデッキを握り、心中で、必ずゲートシティ、そこにあるノヴァ学園へ行くと誓うのであった。
次回、第68ターン「閃光のモビルスピリット」