鉄華オーカミが世界最強のカードバトラーである三王の一人、モビル王の「Mr.ケンドー」とあいまみえていたその時…………
自称鉄華オーカミのライバル、鈴木イチマルは予定していた通り、大きな花束を手に、一木ヒバナの家へと足を運んでいた。どうやら今はその玄関前でヒバナの母親らしき人物と会話をしているようで…………
「ごめんねイっちゃん〜…あの子ちょうど気分転換に外に出たのよ〜」
「そ、そうなんですか!?…ナナコさん、ヒバナちゃんがどこに行ったかわかります?」
「そうね〜……アポローンか、それともタピれる場所とかだと思うけど……」
イチマルの事を「イっちゃん」と言う呼称で呼ぶこの長い黒髪の女性こそ一木ヒバナの母「一木ナナコ」……14になる娘を持つにしては凄まじくスタイリッシュで若々しい印象を受ける。
そんな彼女の証言から、ヒバナがどこかへと出掛けてしまった事が判明した。
「う〜〜む、状況的にアポローンはなさそうだな………よし、じゃあタピれる場所探して来ます!!」
「うん、心配してくれてありがとうね。じゃあ頑張って!」
「ハイっす!…うぉぉぉお!!……今行くぜヒバナちゃァァァーん!!」
「あの子結構気が短いから、あんまりしつこく言い寄ると逆効果だからね〜〜!!」
それを知るや否や近場のタピオカショップを目掛けて全力で走って向かうイチマル。ナナコはアドバイスを叫ぶと、その走り行く背中に笑顔を浮かべ、軽く手を振りながら見送った。
「イっちゃん大丈夫かな?…多分あの子花束なんか渡されても立ち直らないと思うんだけどな〜」
******
「…………」
一方その頃ヒバナはと言うと………
カードショップ「アポローン」に立ち寄っているわけでも、近場でタピっているわけでもなく、ただただ河川敷を横断する橋の上で空や河を眺め、この間の出来事を思い出しながら黄昏ていた………
ー『ウォーグレイモンを持っているならこう使うだろうと言う動きだ。オレの予想の範疇を出ない。この程度の実力でよくあの一木ハナビの娘を名乗れているモノだな』
ー『一木ヒバナ。とんだ期待ハズレだった………余程、甘やかされて育てられたのだろうな………そうでなければあり得ない。こんなヤツが一木ハナビの娘など………!』
獅堂レオン。世界中が注目する大きなバトルの祭典「界放リーグ」……そのジュニアクラスにおいて常に勝利を重ね続けた圧倒的な強者。
そんな彼に言われた言葉を思い出していた。言い方こそトゲがあるものの、ほぼ事実だ。
「なんで………なんで私のお父さんは一木花火なんだろう……?」
河を眺めながら思わずして呟くヒバナ。当然父が嫌いと言うわけではない。
ただ、彼の娘だからと期待だけされて期待通りのバトルができなかったら期待外れと称されるのが単に嫌いだった…………
それが故にヒバナは毎年この界放市で行われる界放リーグには参加しない。そんな大きな大会に参加して仕舞えば間違いなく「一木ハナビの娘」として注目されるからだ。そんな状況下に置かれて楽しくバトルなんてできるわけがない。
窮屈過ぎて気が狂いそうになる。
「はぁ……取り敢えずこんな理由で何日も学校休めないし、明日からちゃんと行かないとなぁ……」
兎にも角にもこんな事をしている場合ではない事は理解しているヒバナ。明日からは無理矢理にでも調子を取り戻そうと心に決めるが…………
そんな時だった。自分のすぐ真横から柔らかい女性の声が聞こえて来たのは…………
「こんにちわ♡」
「わぁッ……!?!」
何の脈絡もなく耳元で囁かれた声に驚くヒバナ。その声の主は余程のサゾ気質なのか、彼女の様子を見て楽しそうにニコニコと微笑んでいる。
「うっふふ、ごめんなさいね。驚かせる気はなかったんですが」
「あぁ、いえいえ………ってアオイさん!?」
「はい。偶然見かけたので、お話に来ちゃいました」
その声の正体は青くて長い髪を靡かせる高校生プロバトラーの早美アオイ。大のモビルスピリット好きであり、鉄華オーカミのバルバトスを拝見するためにアポローンに現れたのは記憶にも新しい。
そしてそのすぐ後ろには黒服とサングラスを着用した男性も確認できる。
「お、お久しぶりです……えっと後ろの男の人は……」
「あ、後ろのヤツはただの執事ですので、気にしなくて大丈夫ですよ〜」
「執事のフグタです。先程はウチのお嬢がご迷惑をおかけしました」
「ちょっとフグタ!!……貴方は自己紹介する必要ないでしょ!?…後ろにいなさいよ!!」
「うるさいぞお嬢」
「なんですって〜!?……それが主人に対する態度ですの!?」
執事とは思えない程に失礼な態度を取るフグタには珍しく無邪気な様子を見せるアオイ。だがそれは本当は仲が良好であるが故の事だとヒバナは感じていて………
「あっはは……執事さんと仲が良いんですね……」
「良くないですわ。今度給料を引いておかないと………そうそう、今日は貴女とお話がしたくて参りましたの!……是非ウチの車に乗ってくださいまし!」
「え、あ……はい、喜んで!……ん?ウチの車?」
「はい!…ドライブしましょ!」
以前会った時に『ヒバナともお話ししたい』的な事を言っていたアオイ。プロバトラーである彼女からそう言われるのは凄く光栄な事なので、ヒバナも断る理由がなくお言葉に甘えるが…………
その車がヤバかった………
******
………どうしよう、何で乗ってしまったんだ、凄く降りたい。
ヒバナはそう思っていた。
「どうですかヒバナさん!…ウチの車の乗り心地は!!」
「は、はい。凄く良い感じです……」
「それは良かったです!…お手洗いは後ろにありますので近くなったら遠慮なくご利用くださいね!」
「後ろにトイレ!?」
アオイの執事フグタが運転する高級そうな黒い車に乗ることになったヒバナ。後部座席のさらに後ろにある便器に驚愕する。
それはさておき、ハッキリ言ってこの車の乗り心地は良好、ソファは最高にふわふわしていてお尻が沈んでいくし、窓も透き通るくらい綺麗で外の眺めが凄まじくいい。
だがこんな金持ちの特権のような豪華過ぎる車。緊張して逆に車酔いしそうだ………
「さて、一息ついた所で、少しお話ししましょうかヒバナさん!」
「あ、はい!…なんでしょう?」
全然一息もつけないんだけど………
などと思いながらもヒバナはアオイの方に顔を向ける。
「貴女のお父様、一木ハナビ様についてですわ!」
「ッ……ウチのお父さん!?」
「はい!…実はワタクシ、昔から花火様の大ファンでして、是非その娘さんとお話がしたかったんですの!」
「そ、そうだったんだ……なんかちょっと意外」
「カッコいいですよね!!……ワタクシもあんなプロを目指しております!」
実は一木花火の大ファンだった早美アオイ。彼女がプロになったのも、どうやら彼の影響もあるようだ。
「この世界にデジタルスピリットを流行らせた先駆者!…そのエースたるウォーグレイモンは最早デジタルスピリット全体の顔と言っても過言ではない!…正にワタクシにとって憧れの的です!……しかし、折角プロになっても今は妹弟子さんと世界を放浪中の身であるとお聞きしております。それがちょっと残念ですわね」
「妹弟子……あぁ、椎名さんの事か」
止まらないアオイのマシンガントーク。彼女が如何に一木ハナビを推しているのかが窺える。
屈指のデジタルスピリットの使い手である彼だが、実はプロバトラーとしての活動を今は半ば休業しており、三王でもない。現在は世界を2度も救った英雄である芽座椎名と共に世界各国に蔓延る強いカードバトラーを求めて旅を続けているのだ。
「それにしてもヒバナさんが羨ましいですわ〜…尊敬できるお方が肉親にいらっしゃるのですから」
「え、えぇ……そうですね。だから私もウォーグレイモン使ってますし……全然強くはないんですけど……」
「………」
そう言われ、少し難しそうな表情をするヒバナ。
確かに尊敬はしている。だからこそ自分もウォーグレイモンを使っている。しかしそのせいで散々期待外れだと蔑まれた経験もあり、あまり素直に喜べない………
早美アオイは、そんな彼女の様子でそれを全て悟ったように黙り込み………
「ふむ………フグタ、ちょっと次の公園前で止まりなさい」
「給料上げたら止まってやる」
「なんて図々しい!!……でもまぁいいでしょう!」
「じゃあ了解した」
「??」
2人のやり取りにハテナの疑問符を浮かべるヒバナ。そしてその後何の説明もなく、車は近場の緑が広がる人気の少ない公園に泊まり、3人は表へと出て行った………
ー………
「ここは空気が美味しいですわね……」
「あの……どうしたんですか急に」
「よしヒバナさん!!…今すぐこのフグタとバトルを行ってください!!」
「え!?」
アオイからの突然の提案にヒバナは戸惑う。
「な、なんでそんな急に………」
「自信がなくなってしまったのでしょう?」
「!!」
「ふふ、だったらバトルでスカっとしませんと!……日頃からムカつくこのチンピラ執事をぶっ飛ばしてやってくださいまし!」
「えぇ……そんな強引な……って言うかそれスカッとするのアオイさんだし」
「ヒバナさんのバトル、見てみたいと思いまして!!……ダメですか?」
「!」
アオイがメチャクチャ無邪気で無垢を極めたキラキラした目でコチラを見て来る。こうなったらもう断る理由はない。
と言うか断れない。ヒバナはそのバトルを承諾する………
「わ、わかりました……やります、バトル!……任せてください!」
「やったー!!…ありがとうございます!!」
「ちょっと待てお嬢。バトルするにはまたオレの給料を上げてもらわねぇと」
「わかったわかった。勝ったら上げておくからバトルしてちょうだい」
「御意。その言葉、忘れんじゃねぇぞ」
給料が上がると言う事で執事のフグタはヒバナとのバトルを承諾する。その途端に彼はBパッドを懐から取り出し、左腕に装着、デッキをそこに装填し、バトルの準備を瞬時に行った…………
そしてヒバナもまだ少しだけ戸惑いつつも同じようにBパッドとデッキを取り出そうとしたが…………
「あ、ちょっと待って……これを」
「ッ………これって……赤のデジタルスピリット!?」
アオイが手渡してきたのは赤のデジタルスピリットのカード。しかも自分が使うアグモン系譜の新規カードだ。それもおそらく彼の父親である一木ハナビも使ってはいないカード………
「はい!…それは私からの細やかなプレゼントですわ!……是非使ってください!」
「えぇ……でもなんかコレ凄く高価そうだし……」
「遠慮は入りませんから!」
半ば強引にそのカードを受け取ったヒバナ。適当にデッキに投入すると、それをBパッドに装填した。これで両者共にバトルの準備は万端となる。
「あ、えっと……一木ヒバナです。よろしくお願いします、フグタさん」
「お客人には悪いが、給料がかかっているんでな……手加減はしないぜ……!」
「は、はは……お手柔らかに……」
揺るがない表情から感じる給料に対しての確かな熱意。この執事フグタ、かなり本気でヒバナに勝って給料を上げたい様子だ。
そして………
………ゲートオープン、界放!!
アオイの唐突な提案から始まった一木ヒバナと執事フグタのバトルスピリッツ。
先攻はヒバナだ。あまり気乗りはしないが、徐にターンを進めていく。
[ターン01]ヒバナ
「メインステップ……グレイモンの原初の姿、アグモンを召喚!」
ー【アグモン】LV1(1)BP3000
手始めにヒバナが呼び出したのは肉食恐竜をこれでもかとデフォルメした赤属性の成長期スピリット、アグモン。これが進化を重ねていく事で彼女のエースカード、ウォーグレイモンに繋がっていくのはこの世界では常識。
「召喚時効果で2枚オープン………赤の成熟期スピリット、バードラモンを手札に加えてターンエンドです」
手札:5
場:【アグモン】LV1
バースト:【無】
先行でできる限りの事をやり終え、そのターンをエンドとするヒバナ。次はデッキが未知数である早美アオイの辛口執事フグタ。
給料を上げるために彼は働く。
[ターン02]フグタ
「メインステップ……守護神獣モスラを召喚」
ー【守護神獣モスラ】LV1(2S)BP3000
「ッ……綺麗なスピリットですね……」
「フグタにはちょっと似合わないと思いますけどね」
フグタが召喚したのは巨大な蛾のスピリットモスラ。煌めくその羽は見る者を魅了する程に美しい。
「アタックステップ……モスラでアタック。効果でボイドからコア1つを自身に追加、LVをアップさせ、ソウルコアが上に置かれている事によりさらにBPを3000アップ」
ー【守護神獣モスラ】(2S➡︎3S)LV1➡︎2
早速攻勢に回るフグタ。効果で合計BP8000となった守護神獣モスラがヒバナのライフバリア目掛けて飛翔する。
BPでは圧倒的に不利なアグモンでそれを防ぐわけにもいかない。となれば彼女の選択肢は一つ………
「ライフで受けます!」
〈ライフ5➡︎4〉ヒバナ
モスラの羽で打つ攻撃がヒバナのライフバリアを1つ砕いた。
「ターンエンド」
手札:4
場:【守護神獣モスラ】LV2
バースト:【無】
こちらもできる事を全てやり終え、そのターンをエンドとする。
次はヒバナのターンだ。やり返された分の反撃をせんとターンを進めていく。
[ターン03]ヒバナ
「メインステップ……ピヨモンをLV2で召喚!」
ー【ピヨモン】LV2(2)BP4000
「……2種目の赤の成長期スピリットか。グレイモンデッキと言うよりかは赤デジタルデッキと言ったところか」
ヒバナがアグモンの横に召喚したのは桃色の小さな鳥型の成長期スピリット、ピヨモン。友達同士であるアグモンに手を振りながら地へと着地する。
そして当然ながらこのピヨモンもアグモンと同様に進化を行う事ができて………
「アタックステップ行きます!…ピヨモンの【進化:赤】により、自身を手札に戻し、成熟期スピリット、バードラモンを召喚!」
ー【バードラモン】LV2(2)BP5000
ピヨモンが青白い光に包まれて行き、その姿を大きく変化させていく。やがてその光を弾き飛ばして行くと、中より炎の翼羽ばたかせる巨鳥バードラモンが姿を現した…………
「おぉ!…これは見事な進化ですね!」
「あっはは……ありがとうございます」
【進化】の効果を使うだけで子供のようにはしゃぐ早美アオイ。そんな彼女にヒバナは苦笑い。
しかしその間にフグタは手札からカウンターのカードを引き抜き、Bパッドに叩きつける………
「進化させた所悪いが、攻撃はさせない………オレは手札にあるソーンプリズンの【ゼロカウンター】を発揮!」
「え……ゼロカウンター!?」
「相手がノーコストでスピリットを召喚した時に使える。その効果は現在のステップの強制終了!…よってこのターンのアタックステップは終了!…ソーンプリズンは2コストを支払い手札に戻る」
「な……アタックステップを終了!?」
………【ゼロカウンター】
それは相手がスピリットのコストを支払わずに召喚した時に使える文字通りのカウンター。その効果は様々だが、今回フグタが使用した緑マジック、ソーンプリズン〈R〉の効果はその時点のステップを強制的に終了させる効果。
【進化】によりアタックステップ中にノーコスト召喚を行うデジタルスピリットのデッキには余りにも部が悪すぎるカードなのだ。
「せっかくの進化スピリットもアタックできなければ宝の持ち腐れだな」
「くっ……まさかそんなカードを使ってくるなんて……ターンエンド」
手札:6
場:【アグモン】LV1
【バードラモン】LV2
バースト:【無】
「フグタのヤツ、なにヒバナさんの目の前でドヤ顔してゼロカウンターだなんて使ってるのよ!………まぁでも、カードバトラーの真の実力が試される時はメタカードを使われた直後………彼女がここからどう切り返すのか、実物ですわね」
ぷんぷんと頬を膨らませながら怒りを見せるアオイだが、プロのカードバトラーらしく冷静にバトルの状況も分析している。
そんな中、ドヤ顔でゼロカウンターを決めたフグタがターンを進めて行く。
[ターン04]フグタ
「メインステップ……2体目の守護神獣モスラを召喚」
ー【守護神獣モスラ】LV1(2)BP3000
羽ばたき舞い降りたのは2匹目となるモスラ。最初の一匹目と合わせて踊るように空を舞う。
「最初のモスラのLVを2に戻してアタックステップ……最初に召喚したモスラでアタック、効果でコアを1つ追加し、BP8000となる」
すかさず攻撃を繰り出して行くフグタ。一匹目のモスラが再びヒバナのライフバリアに目をつけ、飛翔する………
「ライフで受ける!」
〈ライフ4➡︎3〉ヒバナ
BPで勝てるスピリットもいない。ヒバナはこれをまたライフで受けるが………
同じ手は二度も食わないか、手札にあるカウンターのカードをこのタイミングで引き抜いて………
「私のライフが減って3以下の時、このマジックカード、シックスブレイズはコストを支払わずに発揮できる!」
「!」
「BP12000まで好きなだけスピリットを破壊!…よって2体のモスラを破壊です!」
彼女の背後より放たれた6つの火炎弾がそれぞれ3つずつ2体のモスラに命中。その体を焼き尽くし、爆散させた。
「手痛い反撃だな……ターンエンド」
手札:4
バースト:【無】
スピリットが全滅しても特にリアクションはせず、冷静にこのターンを切るフグタ。ヒバナにターンが渡る。
[ターン05]ヒバナ
「メインステップ!…ゼロカウンターに対する唯一の対抗手段は私が【進化】の効果を使わない事!!…ピヨモンを召喚してアタックステップ、3体のデジタルスピリットで総攻撃!!」
ー【ピヨモン】LV2(2)BP4000
前のターンの進化で手札に戻っていたピヨモンを再度召喚、直後にアグモン、バードラモンと共にアタックを行うヒバナ。
この時、バードラモンのLV2アタック時効果でヒバナはデッキから1枚のカードをドローした。
そしてフグタはこの3体の攻撃をブロックできるスピリットがいなくて………
「3体ともライフでもらおうか」
〈ライフ5➡︎4➡︎3➡︎2〉フグタ
アグモンの鋭い爪、ピヨモンの嘴、バードラモンの口内から放たれる火炎放射がそれぞれ1つずつフグタのライフバリアを粉砕して行く。
「デジタルスピリットの天敵とも呼べるゼロカウンターをくらわないよう、上手くカードを操ってますね。流石あのハナビ様の娘さんですわ。うんうん………よし、さっさとあんなダメ執事叩きのめしちゃってくださ〜い!!」
「誰がダメ執事だ。今日の夕飯にピーマンでもぶちこまれてぇか?」
「あっはは……とりあえずこれでターンエンドです!」
手札:7
場:【アグモン】LV1
【バードラモン】LV2
【ピヨモン】LV2
バースト:【無】
アオイとフグタが漫才のように会話を繰り広げる中、ヒバナの快進撃とも呼べるターンが過ぎ去り、再びフグタのターンが幕を開けた………
[ターン06]フグタ
「メインステップ………このまますんなりと勝たせてあげたい気もするが、それだとオレの給料が上がらないんでな。残念だが本気で行かせてもらう………マジック、モスラの羽化」
「!?」
「ライフが2以下の時、手札からモスラをノーコストで召喚する………銀を纏う巨蛾、鎧モスラをここに呼ぶ!」
「よ、鎧モスラ!?」
ー【鎧モスラ】LV2(3)BP15000
フグタの背後に巨大な繭が現れる。その繭の糸が次第にはち切れていくと、中より銀の外骨格を見に纏い、守護神獣モスラよりもさらに巨大な体躯を持つモスラ最強のスピリット、鎧モスラが銀の鱗粉を撒き散らしながら出現した。
状況からしておそらくこれがフグタのエースカードなのであろう。
「び、BP15000……成長期成熟期どころか完全体でも勝てない……」
「手札からマジック、真空爪破斬。疲労しているスピリット2体をデッキの下に戻す。ピヨモンとバードラモンが対象だ」
「!!」
究極体、ウォーグレイモンを呼ぶ以外に勝ち筋はない。
ヒバナがそう思考を過らせていた直後、フグタのマジックカード、真空爪破斬が炸裂。緑色の斬撃が風を纏いてピヨモンとバードラモンを引き裂き、粒子化。ヒバナのデッキの下へと送り込んだ。
「アタックステップ、鎧モスラでアタック!……フラッシュマジック、モスラの歌。この効果で鎧モスラを回復。さらにダブルシンボルにより一撃で2つのライフを破壊する!」
「!!」
ー【鎧モスラ】(疲労➡︎回復)
ヒバナのライフバリアを撃つべく本格的に羽ばたき飛翔する鎧モスラ。ダブルシンボルによる二度の攻撃を受けて仕舞えばヒバナの負けは確定………
だがそれでも耐えられないわけではなくて………
「まだ負けません!…フラッシュマジック、リアクティブバリア!」
「!」
「鎧モスラのアタックはライフで受けます!………ッ」
〈ライフ3➡︎1〉ヒバナ
鎧モスラの巨大な羽の一撃がヒバナのライフバリアを残り1つ、風前の灯になるまで追い込む。
しかし、このままもう一撃とはいかず、先程ヒバナが手札より切ったマジックカード、リアクティブバリアによりその動きは止められて………
「リアクティブバリアの効果でこのターンのアタックステップを終了させます!」
「………ん。フィニッシュはお預けか、ターンエンド」
手札:1
場:【鎧モスラ】LV2
バースト:【無】
致し方なくこのターンをエンドとするフグタだが、手札のラスト1枚は【ゼロカウンター】を持つソーンプリズン〈R〉のカード。このカードは【ゼロカウンター】だけでなく、純粋な疲労効果も持ち合わせているため、ライフが残り2つとはいえ、防御は盤石であると言える………
対するヒバナとしてはとても攻めづらい状況になっていて………
[ターン07]ヒバナ
「メインステップ………」
その時、ヒバナの手は止まった。
無理もない。おそらく残されたターンは残り1ターン。鎧モスラを倒せるのは他ならぬウォーグレイモンしかいない。
だが唯一場に残ったアグモンからウォーグレイモンに繋がるためには進化を重ねる事は必須条件。しかしそれだとゼロカウンターで止められる。どう進んでも八方塞がりであった………
………やっぱり無理だよお父さん。私じゃウォーグレイモンを使えない……
………お父さんじゃないとウォーグレイモンは………
獅堂レオンに植え付けられたトラウマが蘇るヒバナ。やはり自分にウォーグレイモンは相応しくないと思い、自己嫌悪に陥ってしまう………
だが、そんな彼女に声を掛けてあげたのは他でもない早美アオイだった。
「デッキとは、40枚以上のカードで構成されたカードバトラーの分身である。それ故にカードバトラーはカード1枚1枚に平等の愛を注がなければならない」
「!?」
「これは誰もが知っているカードバトラーの教訓です。ですがヒバナさん、貴女は今、ウォーグレイモンだけに固執し過ぎてるんじゃありませんか?」
「ウォーグレイモンだけに………」
この世界におけるカードバトラーの教訓を口にする早美アオイ。この言葉は常識として浸透しており、ヒバナもよく知っている………
「貴女のデッキはウォーグレイモンだけじゃない。一木ハナビが己のデッキのカードとして選んでいないカード達があるはず………それはもう何モノにも変え難い貴女の分身。私にはわかります、そのデッキが更なる飛躍を望んでいる事を………」
「飛躍を………!!」
アオイがヒバナにそう告げると、ヒバナはとある1枚のカードに目をつけた。それはバトルが始まる前にアオイ本人から手渡された高額そうなカード………
そうだ。ウォーグレイモンだけが一木ヒバナのデッキじゃない。このバトルは一木ヒバナのバトルであって、彼女の父親、一木ハナビのバトルじゃない………
自分だけにしかできないバトルをやるんだ…………
そう思うと、深呼吸し、自然とターンが進んでいく………
「行きます!!……アグモンのLVを3に上げてアタックステップ!!……行くよ、アグモン!!…アタック!」
ー【アグモン】(1➡︎5)LV1➡︎3
「ッ……BP15000の鎧モスラを前にして成長期のデジタルスピリットでアタックだと?」
ヒバナの指示を聞くなり元気よく地を駆けていくアグモン。彼女が取ったプレイングは一見無謀とも取れるものである。
しかし、これこそ勝利への方程式が導き出した答え。ヒバナはこのタイミングで手札にあるカードを1枚引き抜いて………
「アオイさんからいただいたこのカード、使わせてもらいます!!……フラッシュ【煌臨】を発揮、対象はアグモン!」
「!」
「このカードは自分のライフが3以下の時、アグモンに条件を無視、ソウルコアを使わずに煌臨できる!」
灼熱の炎にその身を包んでいくアグモン。その中でこれまでとは比較の仕様もない進化を遂げていく………
「アグモン究極進化!!……勇気の想いは、世界を変える!!」
「………!」
「アグモン……勇気の絆!!」
やがてその灼熱の炎を弾け飛ばしながら現れたのは、新たなるアグモン。グレイモンの頭角、人形の姿、どこまでも伸びそうな三つの尾を持つ究極体、アグモン・勇気の絆がその姿を見せる………
ー【アグモン・勇気の絆】LV3(5)BP20000
「成熟期と完全体を介さず、成長期単体で進化した………!?」
「これが……ウォーグレイモンじゃない、アグモンのもう一つの進化の形………煌臨アタック時効果、BP15000以下のスピリット1体を破壊、さらにもう一つのアタック時効果と連動してライフ1つも破壊!!」
「!」
「鎧モスラとライフ1つを貰います!!……超灼熱砲…レッドリーマー!!」
登場するなり、勇気の絆は両拳を前方に突き出し、螺旋状に炎を放つ。狙う先は当然鎧モスラ。
その螺旋炎は鎧モスラを貫き焼き尽くし、さらにはフグタのライフバリアにまで到達し、破壊して見せる。
「ぐっ……!」
〈ライフ2➡︎1〉フグタ
「煌臨スピリットはその煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ!!……だからアタック中のアグモンに煌臨した勇気の絆もアタック中です!!!」
「まったく……なんつー強烈なカードを渡しやがったんだよお嬢のヤツ、これでオレの給料アップ計画が台無しじゃねぇか…………フ…まぁいいや。来いよお客人、ライフで受けてやる………ッ」
〈ライフ1➡︎0〉フグタ
接近してきた勇気の絆が空を切り裂くようなカラテチョップでフグタの最後のライフバリアを破壊して見せる。
彼のライフが0になった事により勝者は一木ヒバナだ。フグタのBパッドからは彼の敗北を告げるように「ピー……」と無機質な音が流れる。
******
「今日は本当にありがとうございました!!……お陰様で色々と吹っ切れました!!」
「ふふ……いえいえ、吹っ切れたのはヒバナさんの心の強さ故です」
バトルも終わり、時は橙色の日差しが差し込んで来る夕暮れ。ヒバナは今一度アオイにフグタの運転する車に搭乗し、街のカードショップ「アポローン」まで運んでもらっていた。
車から出たヒバナは助手席から顔を覗かせるアオイに大きく頭を下げながら今日彼女が自分にしてくれた事に感謝を告げる。
「応援していますよ。プロカードバトラー一木ハナビの娘ではなく、一木ヒバナさん個人を。今日差し上げたカードも大事に使ってくださいね」
「はい!……あ、フグタさんもバトルしてくださってありがとうございました!」
ヒバナにそう言われ、運転席から軽くお辞儀するスーパー執事フグタ。その間に、カードショップ「アポローン」の自動ドアが開き、店長の九日ヨッカが姿を見せて………
「あ、ヨッカさん!」
「おぉヒバナ、元気そうじゃねぇか。何かいい事でもあったか?」
「はい!…とっても!」
「よかったな、オーカとミツバも店ん中いるぞ。顔合わせて来な」
「わかりました〜!…じゃあアオイさん、フグタさん、ありがとうございました!!」
「えぇ、またどこかでお会いしましょ」
ヒバナがヨッカとやり取りを終えると、ヒバナは鉄華オーカミ、雷雷ミツバのいる店内へと向かっていった。
その後、九日ヨッカと早美アオイはお互いに顔を見合わせ………
「今日は世話になったな、高校生プロバトラー早美アオイさん。お陰でアイツも悩みを振り切れたようだ」
「さん付けはよしてください店長さん。貴方にはこの間鉄華オーカミ君の事を教えてもらった恩がありますし、それに、ワタクシ自身も個人的にヒバナさんとお話がしたかったので」
2人の会話から読み取れる事は、アオイ自身がヒバナに会ったのは偶然ではなく、彼女自身が望んだ事であるという事。
ヒバナの行きそうな場所は、またヨッカから聞いたのだろう。
「オーカミ君は元気ですか?」
「はっは、アイツに元気なんて言葉は似合わないですよ。日中ずっと仏頂面だし」
「ふふ、そうでしたね」
オーカの話題になるが、直後に運転席のフグタが「お嬢、もうそろそろ」と耳打ち。アオイもお別れの時間かと言わんばかりに一旦瞳を閉じると………
「ではワタクシ、もう帰りますね……特訓の時間ですので」
「特訓?」
清楚で可憐な表情から放たれた言葉は、決して似つかわしいとは言えない「特訓」と言う言葉。これにはヨッカも疑問に感じるが…………
「えぇ……ワタクシ、目標がありますの………それは、現モビル王「Mr.ケンドー」を倒して私がモビル王になると言う事」
「!!」
思わずそのセリフに目を見開いたヨッカ。確かにタイトルマッチを三王に挑み、勝利、さらにそれに該当するデッキであれば晴れて三王になる事ができるのだが………
まさかプロとは言え、満16歳と言った年齢の少女からそんな言葉が出て来るとは思ってもいなかった。
「では、ご機嫌よう………Mr.ケンドーさん……」
「あぁ………ん?」
「ふふ、お可愛い事、やっぱり貴方がMr.ケンドーの正体だったのですね………フグタ、車を出して」
「御意」
既にMr.ケンドーの正体が九日ヨッカである事も知っていたアオイ。どうやら先程のセリフは宣戦布告も兼ねていたようだ。ヨッカは静かにアオイが乗る車を見送った…………
「………オレの変装ってバレバレなのか…………」
………まぁいい
………来るなら受けてたとうじゃねぇか!!
今日は弟分のオーカにも正体がバレた事もあり、自分の変装に自信を無くしつつあるヨッカだったが、それはそれ、これはこれ。
いずれ来るであろう早美アオイとのタイトルマッチに、同じモビルスピリットを扱うカードバトラーとして胸を躍らせていた………
******
一方ここはアポローンの店内。不登校になっていたヒバナが久し振りに店に顔を出した事で、バイトの雷雷ミツバは彼女に泣きながら抱きついていた。その近くには鉄華オーカミもいる。
「うわぁぁん!!…ヒバナちゃァァァーん!!…元気になって良かったよォォォー!!!……つーか久し振りにヒバナちゃんに抱きついたらめちゃくちゃ良い匂いする!!!……ここは天国か!?……えぇ!?…天国なんですか!?」
「アネゴうるさい」
「あっはは……ホント、ご迷惑おかけしました」
「まぁでも元気そうで良かった」
なんだかんだで心配ではあったのか、オーカがヒバナにそう言った直後に、ヒバナはミツバの抱擁を掻い潜り、オーカの方へと顔を向けると………
「ねぇオーカ……私ってどんなイメージ?」
「何その質問」
「いいからいいから」
えらく抽象的な問いかけをする。ただ、ヒバナがこのような問いかけをすると大抵の人物は「一木ハナビの娘で凄い」だの必ずと言って良いほど彼の父親である一木ハナビの名が出て来る。
だがオーカは………
「どんなイメージって言われても、ヒバナはヒバナだしな………なんか普通の女の子って感じ?」
「ッ………ふふ、そっか!!……普通の女の子か〜!!」
「??……なんで嬉しそうなの?」
「なんでもない〜!!」
一切自分の父の名を出さず、自分を普通の女の子だと称してくれたオーカにニッコリと笑うヒバナ。きっとオーカが自分の父親であるハナビについての知識が全くないのも理由の一つなのだろうが、それでも凄まじく嬉しかった。
そんな2人の様子を見ていた4つ年上のお姉さん、雷雷ミツバも和むように笑顔を浮かべると…………
「よし!!…今日は寿司だ、寿司行くぞ寿司!!……もちろん、センパイの奢りで!!」
「え?……それ大丈夫なんですか?」
ミツバのセンパイであるヨッカのお金で寿司を食べに行くと言い張る彼女にヒバナが心配そうにツッコミを入れる。
「大丈夫大丈夫〜…あの人の口座、ウミガメの卵みたいにお金詰まってるから、寿司くらい余裕よ余裕〜」
「アネゴ、そんな事言ってまたアニキに怒られても知らないぞ」
その後、寿司屋に行きはしたものの、ミツバが調子に乗りすぎて4人分の自腹を切らされたのはまた別のお話…………
******
「ヒバナちゃァァァんーー!!!……どこだァァァー!!!……どこにいるんだァァァー!!!!」
時は夕暮れを過ぎて日の光も当たらない夜まっしぐら。ヒバナを元気付けようと大きな花束をプレゼントしようとしていた鈴木イチマルは彼女を探すためにジークフリード区中をその足で駆け回っていた…………
次回、第10ターン「守護神グシオンリベイク」