今尚、オーカミがアルカナを倒すためにコントと死闘を繰り広げて行く中、ノヴァ学園の医務室でも、同様かそれ以上の死闘を繰り広げている者がいる。
その名はシグマ。
アルカナによって仕組まれたオーカミとの戦いの果てに、太陽王者だけでなく、月王者までもをその身体の内に内包してしまったキング王を救うため、1人彼の手術に臨んでいた。
「キング……」
医務室の外にあるベンチに腰を下ろしているのは、キングの彼の親友、新城サンドラ。
両掌を合わせ、キングの無事を、今か今かと待ち望んでいた。
その刹那。医務室の扉が開き、中からタバコを一服しながら出て来る。
「フー」
「ッ……き、キングは!?」
「なんだいマフラーボーイ、その青ざめた顔は。アタシを誰だと思っている」
「じゃ、じゃあ」
「あぁ、成功したよ」
報告を受けたサンドラは、居ても立っても居られなくなり、医務室内部へ突入。
そこには、ベッドの上で横たわり、浅い呼吸をしながら眠っているキングの姿が。
「キング……よかった。本当によかった」
安堵し、サンドラは涙を流すと、膝から崩れ落ちる。
「……ありがとう。貴女のおかげだ」
サンドラは、涙を上着で拭うと、シグマに感謝の言葉を贈る。
「感謝される筋合いはないよ。アタシはコイツをアルカナを倒すための道具としか思ってなかったんだからねぇ」
「そうか?…オレには、とてもそう言う風には見えなかったが」
「大人は上っ面を隠すのだけは得意なのさ」
そう告げると、シグマは窓から外の空を確認する。
未だ昼の時間だと言うのに、そこはまるで夜のような暗雲に包み込まれていた。
「まだ戦いは終わってないみたいだね。伝えるなら、今のうちか」
そう呟くと、シグマは己のBパッドを取り出し、ある人物へ着信した。
******
ここは界放市ジークフリード区にある大きな病院。その一室には、負傷し、包帯巻きとなって病院のベッドで横になっている九日ヨッカと、彼を取り巻くように、春神ライと、アルファベットがいた。
「で、これで正式にオーカの彼女になったってわけ」
「ウソつけ、全部オマエの作り話だろ」
「ウソじゃないもん」
「第一あのオーカが恋愛なんて興味あるかよ」
「……」
ヨッカとライが楽しく談笑している中、ふと、アルファベットは自分のBパッドに着信が来ていることに気がつき、それに応答する。
「なんだ」
《アルファベット。時は来たよ》
「そうか」
その相手は自分が世話になっている人物、シグマ。アルファベットは以前、彼女から任を受け、オーカミに陰ながら鉄華団のカードを渡し続けていた。
《この戦い、私は正直もう負けると思っている。カグヅチが息子の月王者の力を半分抜き取り作った鉄華団。アレにアルカナを倒せる程の力があるとは考えられないのさ》
「貴女にしては随分と弱気じゃないか。で、負けそうだからオレに逃げろと」
《……》
無言は肯定を意味する。シグマは少しでも身内への被害を減らすために、アルファベットへ着信を寄越したのだ。
ちょうどこの辺りから、ヨッカとライは、アルファベットが妙な内容の電話をしていることに気がつき始める。
「第一、逃げろと言っても、どこへ逃げろと言うのだ」
《逃げろとは言ってない。ただの現状報告さね》
「ブイはどうした。今も尚戦っているんじゃないのか?」
《……》
「なら、兄であるこのオレが逃げるわけには行かない。今からそっちへ向かう。少し待っていろ」
そこまで言うと、アルファベットはシグマの返答を待たずして着信を切る。
「野暮用ができた。至急ゲートシティに行く」
ヨッカとライに自分が注目されていると知りながらも、アルファベットは2人にそう告げた。
「いやいやアルファベットさん、なんか物騒なこと言ってなかったか、「負けそう」とか「逃げろ」とかなんとか」
「ゲートシティで何かあったの?」
「……」
無言のまま病室を去ろうとするアルファベット。その進行方向に、ライが立ち塞がる。
「どけ、春神」
「嫌だ、私も行く」
「命の保証はできない」
「だからって、ほっとけるか。それに、ゲートシティで何かあったら、オーカが何もしないわけがない」
「……」
今更ながら一旦病室を出てから通話すればよかったと思うアルファベット。
こうなってしまったら、もう止まらない。ライも、ヨッカも。
「そうだぜアルファベットさん。オレらは嵐マコトの脅威に立ち向かった仲だろ?…オーカが戦ってるって言うなら、行かなきゃ、オレ達3人で」
「いや、ヨッカさんは病室いろよ」
「いや、九日は休め」
「なにィィ!?」
さりげなく自分も行こうとしたヨッカに、ライとアルファベットは総出でツッコミにかかる。
「まぁ行くメンバーは追々考えるとして、どうやってゲートシティに行くんだよ。こっからかなり距離あるぞ。ライの言ってた特急は?」
「え、いや、アレは、1日1回と言うか、なんかそんな感じで」
「そっかダメか」
実はフウから空間移動アプリを譲渡してもらい、ここまで飛んで来たライだが、フウが過去にやった行いのことを考えると、どうしてもヨッカ達に話すことができなかった。
しかし、今ここで最短最速でゲートシティに向かうためには、それをヨッカ達に教え、使うしかなくて。
「じ、実はさ」
意を決して。
ライはヨッカとアルファベットに話し始める。
大好きな鉄華オーカミの元へ向かうために。
******
視点は、ノヴァ学園の屋上へ。
鉄華オーカミと光裏コントのバトルは、佳境を迎えていた。
「コレこそ、オレの主人公デッキの頂点。真のエースカード、Mement Mori主人公&タナトス」
アルカナの力によって生み出された、邪悪な黒い空で、コントが叫ぶ。
その側で死を呼び寄せるような不気味な咆哮を張り上げるのは、ペルソナスピリット、死神タナトス。
遂に彼は、自身の最凶スピリットをフィールドへと呼び寄せたのだ。
「誰が相手だろうと関係ない。オレはオマエを助け出す」
「助け出すだぁ?…主人公のオレに、如何なる助けなど不要。図に乗るな」
そう告げると、コントはMement Mori主人公&タナトスの効果発揮を宣言するため、人差し指を黒き空へと向けて。
「Mement Mori主人公&タナトスの煌臨時効果。相手スピリット全てのコアを2個ずつリザーブへ送る」
「!」
「消え失せろ雑魚ども」
タナトスから放たれる闇の波動。それがオーカミのフィールド全域に広がり、その場にいた3体のスピリット、ルプス鉄華、フラウロス、ランドマン・ロディに直撃。
ルプス鉄華はLV1にダウンするのみでことなきを得たが、フラウロスとランドマン・ロディは耐え切れず、粒子となって消滅した。
これだけで十分に強力と言えるMement Mori主人公&タナトス。しかし、その本領発揮は、寧ろこれからで。
「そして、このターン、オマエはフィールドのコア2個と手札2枚をトラッシュへ捨てない限り、アタックとブロックはできない」
「なに!?」
ただでさえ、コントはMement Mori主人公&タナトス以外にも、愚者オルフェウスと、3体のコロマルの大軍隊を率いていると言うのに、オーカミはスピリットを減らされた挙句、ブロックに大きなコストまで要求されてしまう。
「くっ……鉄華団がフィールドを離れた時、手札からグレイズ改弍を提示。コレをノーコスト召喚する」
ー【流星号[グレイズ改弍]】LV2(5)BP3000
仲間の死に反応するように、フィールドへ現れたのは、マゼンタカラーの小型モビルスピリット、グレイズ改弍。
「さらにこの瞬間、パイロットブレイヴ、ノルバ・シノを提示」
「!」
「コイツをノーコスト召喚し、コア2個以下のスピリット、愚者オルフェウスを破壊」
ー【流星号[グレイズ改弍]+ノルバ・シノ】LV2(5)BP7000
「グレイズ改弍の召喚時効果、1枚ドロー」
グレイズ改弍は、斧のような武装で、愚者オルフェウスの首を切断。爆散へと追い込む。
「その程度の除去が効くか。コロマルのアタックは継続中だぜ」
「そのアタックはライフで受ける」
〈ライフ3➡︎2〉鉄華オーカミ
「ぐぅぅぅう!?」
「コロマルはライフを減らした時、カウント+1とコアブーストを行う」
コロマルの突進が、オーカミのライフバリア1つを砕き、リアルダメージを与える。
足元がふらつき、倒れそうになるが、オーカミは負けてたまるかと言う思いで、倒れず、その場に踏み止まり、さらに1枚のカードを手札から引き抜き、使用する。
「オレのライフが減った時、手札から絶甲氷盾をノーコストで使用」
「!」
「オマエのアタックステップは終了だ」
ここで絶甲氷盾が決まる。
コントのアタックステップは終焉を迎え、強制的にエンドステップへ。
「なんで耐える。なんで耐えるんだよォォォ!!…これだと、まるでオマエが主人公みたいじゃないかァァァァ!!!」
ターンエンド直前。コントは前のターンから常に抱き続けていた怒りを叫ぶ。
その怒号は、コントの中に眠るアルカナの力を増幅させて。
「コント、オマエの求めている主人公って言うのは、そんな姿なのか?」
「なに……!?」
オーカミに言われてから、コントは気がついた。
自分の身体全体が、黒き闇の瘴気に覆われていることを。
「う、うァァァァ!?!…な、なんだ、なんだこれ!?」
驚愕し、困惑するコント。
無理もない、もはやその姿は人間ではなくただの怪物。主人公とは最も程遠い存在なのだから。
「何故こんな姿に、オレは主人公になれるんじゃなかったのか、アルカナ!?」
「素晴らしい。ここまで私の力を引き出せるなんて、流石は私の見込んだ子。大丈夫ですよコント、その姿こそ、これからの未来を収める、真の主人公。貴方も言っていたではありませんか。「オレ色に染め上げる」と。最初はみんな貴方を否定するかもしれません。ですが、そのうち必ず認められるようになります。だって貴方は、世界が誇る、最高の主人公なのだから」
「最高の、主人公」
アルカナの言葉に、正気に戻りかけていたコントは、再び惑わされる。
彼ももう、今目の前にいるバケモノを信じ、これまでのモノを全て否定するしかないのだ。
そうでもしなければ、オーカミのような主人公にはなれないと、本気で考えてしまっている。
「さぁ、戦いなさい、主人公コント!!」
「うぉぉお!!…かかって来い、鉄華オーカミィィイ!!……ターンエンド!!」
手札:4
場:【[Mement Mori]主人公&タナトス】LV2
【コロマル】LV2
【コロマル】LV2
【コロマル】LV2
【[月光館学園制服]主人公】LV2(6)
【[月光館学園制服]山岸風花】LV1
【イゴール】LV1
バースト:【無】
カウント:【9】
アルカナの口車に、コントが感化され、今一度バトルスピリッツへのモチベーションを取り戻す。
このままだと、彼は一生アルカナに良いように利用されるだけの存在に成り下がってしまうに違いない。
「待ってろコント。今助ける」
だが、それを止めるのが鉄華オーカミだ。
今、彼の最後のターンが幕を開ける。
[ターン08]鉄華オーカミ
「メインステップ。コイツで決める」
ターン開始早々に、オーカミは手札にある1枚のカードを手に取り、Bパッドへと叩きつける。
それは、誰もが想像してすらなかった、意外な1枚。
「ルプスも、ルプスレクスも超えたその先で、未来を掴め!!……バルバトス第6形態、LV3で召喚……!!」
ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]】LV3(4)BP12000
オーカミの元に現れたのは、白き重装甲に身を包んだモビルスピリット、バルバトス第6形態。
召喚口上の通り、ルプスでもルプスレクスでもなく、このカードが、勝利の未来を掴む。
「アタックステップ開始時、オルガの【神技】を発揮。トラッシュから三日月を召喚し、バルバトス第6形態と合体」
ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]+三日月・オーガス】LV3(4)BP18000
鉄華団伝家の宝刀、オルガの【神技】……
それにより、バルバトス第6形態に、これまで幾度となく様々なバルバトスと合体して来たパイロットブレイヴ、三日月・オーガスが合体。
「バルバトス第6形態でアタック、LV2からの効果で、回復状態のコロマル1体からコア1つをリザーブに置き、回復。さらに三日月の効果。コロマルのLVコストを1つ上げ、オマエのリザーブのコア3つをトラッシュへ」
「くっ……」
バルバトス第6形態が真っ先に狙いを定めたのは、3体もフィールドにいるコロマルだ。
バルバトス第6形態は、己の武装である巨大な戦棍、レンチメイスで、その内の1体を潰し、破壊する。
「バルバトス第6形態のもう1つの効果。オマエはブロックするスピリット以外のスピリット1体を破壊しなければ、ブロックできない」
「なら、疲労しているコロマルを破壊。オレと、タナトスでブロックする!!」
タナトスが、疲労状態により脚を伏せて休憩していたコロマルを鷲掴みにし、握り潰す。
これにより、バルバトス第6形態をブロックする権利を獲得。コントと共に迎撃へ向かう。
「BPはこっちが上なんだよ!!」
コントが飛び、剣で一閃。バルバトス第6形態の二角のツノの内、片方が切断された。
直後にタナトスが、直刀をバルバトス第6形態の首元へと振るう。バルバトス第6形態は、それをレンチメイスで防ぐが、その威力は凄まじかったのか、レンチメイスは粉々に砕け散り、バルバトス第6形態自身も倒れ、膝をついてしまう。
「これで終わりだ。オレこそが、この世界の主人公なんだァァァァ!!!」
一方的にバルバトス第6形態を痛みつけるコントとタナトス。トドメを刺すべく、2人で剣と直刀を振るう。
もうダメかと思われた、その時。
「なにやってんだオォォォカァァァァ!!!」
「ッ……!!」
背後からの声。
オーカミは、後ろを振り向くまでもなく、魂でそれが誰なのかを察する。
九日ヨッカ、アニキだ。酷い事故に遭いながらも、生き残り、おそらく重体の身体を引き摺りながらと言う無茶までして、応援しに来てくれたのだ。
オーカミにとって、それがどれほど嬉しいことか。
「ォォォォォォオ!!…バルバトス第6形態の【零転醒】を発揮」
「なに!?」
「相手によってフィールドを離れる時、オレのカウントが0なら、バルバトス第6形態は裏返る。全てを斬り裂け!!」
バルバトス第6形態にトドメが刺されようとした、その瞬間。バルバトス第6形態は、自ら重装甲をパージし、それを身代わりとすることで、この危機を脱出。
ー【ガンダム・バルバトス[第6形態・太刀装備]+三日月・オーガス】LV3(4)BP19000
バルバトス第6形態は、新たな武器、日本刀を背部から抜き取り、再び最終決戦に臨む。
「転醒時効果。最もコア数の少ない相手スピリット1体を破壊、最後のコロマルを破壊する」
コントとタナトスの目から逃れたバルバトス第6形態は、すかさず足元にいたコロマルに日本刀の先端を突き刺し、爆散させた。
「そして、LV2の効果、転醒後のバルバトス第6形態が、相手スピリットを破壊した時、ライフ1つも砕く!!」
〈ライフ5➡︎4〉光裏コント
「な……ぐぁ!?」
バルバトス第6形態の日本刀による太刀筋が、コントのライフバリア1つを斬り裂く。
これにて、一度目のバトルは終了。その間に、コントのフィールドは遂に己とタナトスのみとなってしまった。
決着をつけるべく、オーカミは、再度Bパッド上にある、回復状態のバルバトス第6形態のカードを捻る。
「もう一度バルバトス第6形態でアタック。アタック時効果、転醒時と同じだ。オマエとタナトスを破壊し、1点のダメージを与える」
「オレとタナトスのLV2効果。相手によって倒される時、オマエがライフ2つを破壊しなければ、同じ状態で残る。オマエの残りライフは2。つまり、オレとタナトスはフィールドに残る」
「だけど、もう1つの効果でライフ1つはもらう」
〈ライフ4➡︎3〉光裏コント
「お、ぉぉぉ!?!」
快進撃が始まる。
バルバトス第6形態の日本刀による一撃は、タナトスと翼と、コントのライフバリア1つを斬り裂いた。
「オーカ!!」
「ライ?」
今度はライの声が、オーカミの後ろから聞こえて来た。
「九日、オマエ、その怪我で無茶をするな」
「へへ。弟分の背中を押すのが、アニキって言う生き物だからな」
今度はアルファベットの声。
みんな、来てくれたのだ。
「オーカの相手、コント!?…なにあの姿、て、フウちゃん!?……ちょ、大丈夫!?」
「椎名。しっかりしろ、椎名!!」
ライはフウの元へ、アルファベットは椎名の元へ急ぐ。
一方バトルは、バルバトス第6形態が、再びコントに日本刀の刃を向けていて。
「何故オマエは次から次へと慕ってくれる者達が現れる!?…オレにはいないのか、オレには!!」
「フラッシュ、クーデリア&アトラの【神技】を発揮。バルバトス第6形態を回復。ライフ2つを砕け」
〈ライフ3➡︎1〉光裏コント
「ぐぁぁあ!!?!」
バルバトス第6形態の日本刀が、コントのライフバリアへ突き刺さる。
そのライフは遂に残り1つ。アルカナの力が大きく抜けてしまったことで、コントは立つことすらままならなくなり、地面に両膝をつく。
「負けてはダメですコント。貴方は私が認めた、この世界の主人公。立つのです、立って戦うのです!!」
「そ、そうだ、オレは主人公……決して負けてはならない」
アルカナの口車に奮い立たされ、コントは今一度立ち上がる。
その様子を見届けたオーカミは、彼に対して口を開き………
「なぁコント。負けないのが、本当に主人公なのか?」
「!!」
「オレは、負けても負けても、その都度立ち上がって強くなる奴こそ、本当の主人公になれると思う。だからオマエも、そんな変なのに縋ってないで、自分の足で立ち上がって見せろよ!!」
「オーカミ……」
そうか。
やっとわかった。
アイツは、何度負けても、打ちのめされても、その都度必ず立ち上がって来た。
そんなアイツだからこそ、みんな好きで、後ろについて行く。
こんな簡単なこと、さっさと気がつけよ、バカタレ。
「バルバトス第6形態でラストアタック!!…その効果、コントとタナトスを破壊して、最後のライフを砕く!!」
オーカミのおかげで、主人公の真理に気がついたコントは、完全に戦意を喪失。
薄ら笑いを浮かべながら、バルバトス第6形態の一撃を受ける。
「愚かな、やめろコント。諦めるな、やめろ。やめろォォォォォォ!!」
〈ライフ1➡︎0〉光裏コント
そして。
バルバトス第6形態の最後の一撃は、タナトスと、アルカナの悲痛な叫びごと、コントのライフバリアを切断。
その数を0にして見せ、鉄華オーカミに勝利を掴ませた。
「やった、オーカが勝ったよ、ヨッカさん!!」
「あぁ。アイツ、また何かを救ったみたいだ。やっぱり、大した奴だな」
バトル終了に伴い、バルバトス第6形態や他の鉄華団スピリット、タナトスが消滅して行く中、ライとヨッカが、オーカミの勝利を喜んでいた。
しかし、この一件、まだ完全には解決していなくて。
「この、地を這うだけの、ムシケラどもがァァァァ!!!」
「!!」
人の悪意の塊、アルカナがコントの影より飛び出して来る。先程のバトルでほとんどの力を消されてしまったのか、かなり消耗しており、声が女性から男のや太いものに変わり、言葉遣いも幼稚になっている。
「500年練った私の計画を、よくも台無しにしてくれたな。だが、覚えておけ、私は人の中に悪しき心がある限り、500年ごとに必ず蘇る。次こそは、次こそはこの世界、我が手中に収めてみせるぞォォォォォォ!!!」
「オマエ、もう消えろよ。天地を揺るがせ、未来よ唸れ。召喚、バルバトスルプスレクスファイナル」
オーカミは、アルカナにトドメを刺すべく、Bパッドにカードをセット。赤き眼を持つ、最終にして最後のバルバトス、バルバトスルプスレクスファイナルを召喚した。
「オマエが何しようが勝手だ。だけど、オレの仲間と友達を傷つけることは、絶対許さない!!……行け、ルプスレクス、ファイナルッッ!!」
刹那。
ルプスレクスファイナルの激爪が、アルカナを貫く。
「う、う、うぁぁぁぁぁあ!!!」
トドメを刺されたアルカナが消滅して行く。
それと同時に、黒き力は完全に消失。コントは元の姿に戻り、空は晴れ渡って、光を取り戻した。その光景はまさに夜明け、黎明だ。
ー………
「空に、光が戻って行く」
「まさか、勝ったのかい?」
一方、ノヴァ学園の医務室。サンドラとシグマの2人は、窓から外の空を確認。
明るくなって行くその様子は、ブイやオーカミ達の勝利を表していることをすぐに察した。
「ったく、この老ぼれにも、まだ生きろと言うか。つくづく、厳しい世界だよ。なぁ、カグヅチ」
亡き教え子のことを思い、一雫の涙を流すシグマ。
その間に、ベッドで横たわっていたキングが人知れず目覚める。
「……」
キングもまた、窓の外から刺して来る日差しで、アルカナを倒したことを察した。
彼に関して言えば、それを成し遂げたのが鉄華オーカミだと言うことにも気がついて。
「ありがとう。鉄華オーカミ」
その声で、サンドラとシグマは、彼が目覚めたことに気がつき、喜びを分かち合う。
ー………
「勝ったよ。父さん」
再び場面はノヴァ学園の屋上へ。
空の鮮やかな光を瞳に映しながら、オーカミはバルバトスルプスレクスファイナルのカードを手に取ると、どこに消えたかもわからないカグヅチに向かって、初めて彼のことを「父」と呼んだ。
「オーカミ」
「コント」
その間に、コントはオーカミの元へ。当然だが、非常に申し訳なさそうな表情をしている。
「ごめんオーカミ。オレはまた、取り返しのつかないことを」
アルカナに暴走させられていたものの、その間の記憶は残っていたために、コントは自責の念に駆られる。
「コント、そう言う時は、助けてくれてありがとうって言うもんだぜ」
「ッ……ライちゃん」
そんな2人の間に割って入って来たのは、何も事情を知らない春神ライ。
しかし、彼女の言う通りだ。
こう言う時に言葉は「ごめん」ではない。
「あぁ、ありがとうオーカミ。オマエのおかげで、オレはまた前を向いて生きていける」
コントは涙を流しながら、今できる最高の感謝の意を、オーカミに伝えた。
そんな彼の言葉に、何も響かないオーカミではない。
「大袈裟。でもまぁ、せっかく前向いてるなら、やることは1つだろ。って、昔アニキが言ってたっけ」
「ッ……はは、そうだな」
次の瞬間。2人は再び互いにBパッドを向け合う。
バトルスピリッツだ。
ただし、今から行われるそれは、さっきのような殺し合いのものではない。親しい友人間で行われる。ただの楽しい、普通のバトルスピリッツだ。
「オレの契約カードは……」
コントの手に握られていた「主人公」のカード。
それはアルカナ消滅の影響により、他のカード達と共に、塵芥となって消え去って行った。
「やっぱ、オマエじゃないとな」
コントは、未練はない。とでも言いたげな笑顔を、Ξガンダムのカードへと向け、それをデッキに入れ、さらにそのデッキを、Bパッドへと装填する。
「今度こそ負けないぜ、オーカミ」
「あぁ、行くぞコント。バトル開始だ!!」
……ゲートオープン、界放!!
平和になった明るい空の下。ノヴァ学園の屋上にて、ライ、ヨッカ、アルファベットらが、微笑ましく見守っている中、鉄華オーカミと、光裏コントによるバトルスピリッツが幕を開ける。
遂に、戦いは終結。この時代の太陽王者と月王者の役目は終わった。
アルカナはまたいつか蘇る。しかし、何度復活しようと、結果は同じだ。王者に選ばれたカードバトラーと、絆がある限り、永遠に。
******
徳川フウは、1人、暗闇の中にいた。
暗く冷たく、出ようと思っても出られない、まるで孤独を表したような、不思議な空間。
しかし、本当は彼女1人ではなくて。
「ヌフフフ」
「!!」
突然響いて来た、自分以上に不気味な笑い声に驚いた。
無理もない、何せこの声の主は、死んだはずの実の祖父、悪のカリスマとして数々の悪行を歴史に刻んだマッドサイエンティスト、Dr.Aこと徳川暗利のものだったからだ。
「お祖父様……!?」
「久しいな、フウよ」
フウが声の方へ振り向くと、本当にDr.Aはそこにいた。
見た目はただの老いぼれた老人だが、その姿をフウが忘れるわけがない。今、目の前にいるのは、確実にDr.A、彼女の祖父だ。
「な、なにしに来たの。まさかまた私の身体に何かを埋め込む気じゃないでしょうね」
フウが祖父に訊いた。
過去に彼の手によって、王者を無理矢理身体に捩じ込まれたせいで、余命わずかとなってしまったことを、彼女は未だに恨み続けている。
それが彼女の人生が苦しみの塊となった発端と言っても過言ではないからだ。
「その逆だよ」
「え」
「抜きに来たのだ。王者の力を」
祖父から掛けられた意外な言葉に、フウは返す言葉を失った。
そして、次の瞬間、フウの身体に王者の赤い刻印が浮き出たかと思えば、一瞬にして消え去り、取り除かれる。
「これでオマエはまだ生きて行ける。今まで、辛い思いをさせてしまったな」
「な、なんで今更こんなことするのよ。貴方、本当に私の知っているお祖父様!?」
目の前に存在する老人を、本当はまた嵐マコトの変装等で、自分の祖父ではないのかもと疑った。
なんと言っても、死後も多くの悪人達に影響を及ぼした、悪のカリスマだ。無理もない。
「祖父とは、孫娘を何よりも愛する生き物なのだよ。もっとも、生前の私は、その理から外れていたがね」
「そうよ。昔の貴方はもっと残酷で残忍な男だった!!…どんなに私に優しくしても、同じく実験動物にした、お父様とお母様はもう帰って来ない」
「あぁ、そうだね」
「貴方のしでかしたことのせいで、私がどれだけ周囲から煙たがられていたか、それにたった1人で耐えるのが、どれだけ辛かったか、貴方にわかるか!?…答えてみろよDr.A!!」
凡そ10年越しに受け取る、祖父からの大きな愛。
しかし、だからと言って、フウは彼がやって来たことを許すことはできなかった。彼の影響で生まれた、辛く悲しい過去の数々を、涙ながらに列挙して行く。
「世界は、進化するべきだ」
「!」
「惨たらしい空襲の爆撃音。溢れかえる血飛沫。繰り返される戦争の日々は、まさに人々の退化を象徴している。だから私は、世界をオーバーエヴォリューションで包み込み、変えるべきだと考えた」
おそらく、今語られているのは、かつて彼が行った、最後にして最大の事件「A事変」の動機。
思考回路の規模の違いに、フウは思わず唾を飲み込む。それと同時に、繰り返される戦争を止めるためと言う優しい動機があることを知ってしまう。
そう。知ってしまうのだ。
「しかし、それは間違いであると気付かされた。芽座椎名の手によって」
「……」
「人々は退化などしていない。戦争を繰り返す愚か者に進化する者もいれば、芽座椎名のように、他者を思いやれる者に進化することもある。進化とは、非常に多様性のあるものだったのだ」
知らない間に、自ら涙を拭い、祖父の話を真剣に訊いてしまっていた。
いつもなら、真面目には訊かず、憎まれ口の一つでも挟むと言うのに。
「それを私に話してなんになるって言うのよ」
「ヌフフフ。ジジイは話したがりなのさ。特に孫娘にはね」
フウは不思議で仕方なかった。
あれだけ祖父、徳川暗利を恨み、憎み続けたと言うのに、いざ対面してみればどう言うわけか、心が安らいでいるからだ。
「さて。そろそろ時間のようだ」
「!!」
すると、Dr.Aの肉体は、足元から徐々に粒子へと変換され始める。
「時間って、どこに行く気なのよ」
「死人だから、当然死の世界さ。天国と地獄と2つあってね、私はもちろん地獄の方」
「妥当ね」
「ヌフフフ。意外といこごちは良いんですよ」
粒子化が腹部まで迫って来た。もう残された時間は少ない。
「さぁ我が孫フウよ。その目で、私の代わりに進化して行く世界を見届けるのです」
「……お祖父様。ありがとう」
祖父は、悪のカリスマ。
自分の王者を引き剥がしたのも、きっと悪しき理由がある。そうフウは考えていたが、同時に自分への愛情も感じ取ったためか、らしくもない、澄み切った笑顔で、祖父に感謝の意を伝えた。
「ヌフフフ。孫に感謝されるとは、まだ私も、捨てたもんじゃないかもしれませんね」
最後にそう呟くと、Dr.Aは完全にこの場から消滅。
その様子を見届けたフウは「さよなら」と一言だけ言葉を贈った。
そして次の瞬間、暗闇は白い光となり、彼女もまた、この場から退場する。
ー………
「………どこ」
気がつけば、フウは一筋の涙を零し、知らないベッドで横たわっていた。
「ッ……春神、ライ?」
自分のベッドに、ライが突っ伏していた。直後に寝惚けが完全に覚めて、辺りを見渡す。
「そう。勝ったのね、オーカミさん」
最初の視線の先は窓の外。夜で真っ暗だが、昼間のような邪悪さは一切感じられないことから、アルカナは鉄華オーカミに敗北したことを察する。
その次に視線が止まったのは……
「やっと起きたかい?」
「ッ……貴女は、確か」
「シグマ。なぁに、そう警戒すんな。しがないババアさ。ついでにここはノヴァ学園の医務室さね」
そこにいたのは、非常に若々しい老婆、シグマ。
彼女が吸い終わったタバコを灰皿に擦り付けると、フウから話し始める。
「なんで私がここに?」
「そこで寝ているお気楽ガールが、私のところに運んで来たのさ。キングを助けたことを耳にしたんだろうね。そりゃもう必死な表情だったよ」
「……」
フウは、お気楽ガールと呼ばれているのがライのことを瞬時に察して、状況を理解する。
目の前の怪しげな老婆から治療を施されたのだ。先ず間違いないだろう。
「なんで私を助けた」
「なんで、とは?」
「私は仮にもDr.Aの孫。貴女にとって、助ける理由なんてこれっぽっちもなかったはずだ」
「アンタ、そんなしょうもないことに拘っていたのかい?」
「しょうもない!?」
「しょうもないだろ。たかがヤバい奴の血筋如きにさ。仮に本当に血筋だけで人間の全てが決まるとしても、アンタにはそれ以外の連中の血も通っているんだから」
「……」
あのフウが、珍しくぐうの音も出なかった。
それ程までにシグマの話は正しい。Dr.Aの血を継いでいるとは言え、所詮は別個体。それ以外の血も混ざっているため、助けないと言う理由にはならない。
そう言う考え方ができる者達が、昔から彼女の周りにいれば、どれだけ未来は変わっていたことか。
「そうそう。アンタの身体に負担を掛けていた王者の力。アレは抜いておいたから」
「抜いたの!?」
大事なことだと思い、シグマはフウに王者の力を抜いたことを伝えるが、それを訊いたフウは驚愕する。
「抜いてはダメだったかい?…アレを抜くことで、オマエの寿命はかなり伸びたはずだよ」
「い、いや、そう言うわけでは」
ただ、アレを抜くことができると言うことは、Dr.Aと同等程度の力を持つ者でなければ不可能。
だから、フウは、散々別途で生きながらえる方法を模索していたのだ。
「貴女、何者なの?…王者を引き抜けるなんて、普通の医者にできることじゃない」
フウがシグマに訊いた。
「言ったろ。ただのしがないババアさ」
はぐらかすシグマ。フウとて、仮にも命の恩人を、無理に問い詰めようとは思わない。
一旦肩をすくめると、話題を変える。
「でも安心したわ。王者の力を抜いたのが貴女で」
「どう言うことだい」
「夢でお祖父様に会ったわ」
「!」
新しい話題に、今度はシグマが驚かされる。
「夢の中で王者の力を抜いたと言ってたけど、あの悪のカリスマのお祖父様が、そんなことを理由もなくするはずがないもの。きっとあのお祖父様は、私の願いの結晶。理想の存在だったんでしょうね」
もっと言えば、死者が一時的に蘇るわけがない。
あのDr.Aは、きっと自分が作ったまやかしなのだと考えた。それ以外はありえない、とも。
だが……
「それは違う」
「?」
「アイツはオマエを、愛していたよ」
「は?」
それを否定したのは、まさかのシグマだった。
「何を根拠にそんな」
「あの愚かな男は、孫だけは愛していた。己の理想とする進化した世界では、普通の人間は塵芥となり、死ぬ。だから奴は孫に王者の力を植え付けた」
「!?」
「もっとも、その孫は既に死んだと思っていたがね。まさか生きていたとは」
シグマの口から、信じられない事実が告白される。
ただ、そんなことよりも驚きなのが……
「仮にそうだとして、なんで貴女がそんなこと知っている」
「……」
「何故だ。答えろ」
シグマの年齢からして、フウはあることを想像していた。
見たことも聞いたこともない、いや、本当は過去が辛過ぎて忘れていただけなのかもしれない。
自分がいて、両親がいて、祖父がいる。と言うことは、もう1人、欠けてはならない存在がいる。
「ひょっとして、貴女は私の、お」
「Dr.Aとは、元々研究仲間なのさ。アイツがS級の犯罪者になってからは、流石に縁を切ったけどねぇ。ついでに芽座椎名と芽座葉月の祖父とは幼馴染。だからアイツらを私の横に置いているのさ」
「……そう。ですか」
過呼吸気味で、前のめりにフウはシグマを問い詰めたが、予想は外れ。
落ち着きを取り戻す。
「いけないねぇ。歳を重ねると、それに比例して話が長くなってしまう。もう寝な。明日からリハビリ地獄だよ」
「えぇ。今から地獄に慣れておくのも、悪くないですね」
そう告げると、シグマは医務室を後にしようと、扉の前まで足を運ぶ。
が、それを開ける直前で、また立ち止まり。
「生きろよ。ババアは孫と言う生き物が、この世で1番好きなんだ」
「ッ……!!」
偶然か必然か、シグマはフウの夢の中のDr.Aとほぼ同じことを口にし、逃げるようにこの場から去って行った。
それを訊いたフウは、彼女からの過剰とも言える愛に、涙が止まらなくなる。
「ありがとう。お祖母様」
自分が生き残るため、今まで大勢の者達欺き、騙し、犠牲にして来た徳川フウ。
決して、その罪が消えることはない。
しかし、どうか許してあげて欲しい。彼女はただ、己の受けて来た憎しみと同じくらい大きな愛を欲していただけなのだから。
次回、第96ターン「晴朗、王者を決める闘い」
******
最終話まで、後2話!!
次回からは遂に最終バトル。
対戦カードはもちろんオーカミとキング!!