年に一度、ノヴァ学園で開催される催し、ノヴァリーグ。
その優勝を賭けて争う鉄華オーカミとキング王。
広大なバトルスタジアム、グランロロスタジアムにて行われているそれは、遂に佳境へ。果たして勝利を手にするのは………
******
大熱狂の渦に包まれているグランロロスタジアム。
その高さを軽く超える巨躯を有する、史上最強のゴジラ、ゴジラ・アースが、まるで世界の終わりでも告げるかのような咆哮を張り上げる。
「機は熟した。幕引きだ、鉄華オーカミ。貴様はよく戦った」
「そう言うの、オレのライフを0にしてから言ってくれる?」
「フッ。それもそうか」
オーカミのフィールドには、シノと合体しているフラウロスのみ。ライフは4。
対してキングの方は、アースと2体のフィリウス。ライフは同じく4。
そして、今はキングのアタックステップ。アースがフィールドにいる彼の方が圧倒的に有利だ。
「ならば、ライフを焼き尽くしたのちに吠えさせてもらうとしよう。アースでアタック……!!」
遂にキングは、アースへアタックの宣言。
そのアタック時効果、史上最強たる所以の1つが発揮される。
「ブラフマーの【契約域】で1ドロー。そしてアースのアタック時効果。このスピリットのBP以下の相手スピリット全てを破壊し、破壊した時、貴様に3点のダメージを与える」
「……」
「フラウロスとライフを焼き払え!!」
背鰭と口内に力を溜め込んだアースが、それを熱線として、オーカミのフィールドへと放出。
フラウロスは、両腕をX字にしてそれを耐え抜こうとしたが、無駄な努力だった。すぐさま塵芥となり、焼き尽くされる。
「ぐうッッ!?」
〈ライフ4➡︎1〉鉄華オーカミ
その熱線の勢いは収まらず、オーカミのライフバリアまでをも飲み込む。すると、豪快に砕け散る音と共に、それを一気に3つも破壊した。
「貴様を守護するスピリットはもういない。アースの本命のアタックで終わりだ」
風前の灯となったオーカミのライフ。彼は、これを今からあのアースを相手に守り切らなければならなくて。
「バカタレ。この程度の困難、オマエが乗り越えられないわけないだろ。なぁ、オーカミ!!」
会場のどこかで、オーカミの友、光裏コントが叫ぶ。
周囲の熱い歓声により、その声は掻き消されているはずだが、オーカミは、それに合わせたかのように、1枚のカードを手札から引き抜く。
「残念だったなキング。オレも、オレの鉄華団も、絶対に倒れたりしない。フラッシュマジック、ネクロブライト」
「!」
「効果により、トラッシュからコスト3以下の紫スピリットを呼ぶ。来い、始まりのバルバトス、第1形態!!」
ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV2(3S)BP5000
大地を穿ち、地中より現れたのは、オーカミが最初に目にした、始まりの鉄華団スピリット。
その名をガンダム・バルバトス第1形態。
「愚かな、たかが3コストの脆弱なスピリット如きで、アースが倒せると思ったか?」
「いや、今は思ってないよ。今はな」
「なに」
「召喚時効果、デッキから3枚オープンし、その中の鉄華団を1枚手札に加える」
幾度となく発揮して来た、バルバトス第1形態の召喚時効果。それにより、オーカミは捲れた3枚のカードの内1枚を手に取る。
「オレはこのカード、バルバトスルプスを手札へ」
「!!」
「バルバトス第1形態は始まりの姿。ここから進化を重ねて、オレ達は強くなって来たんだ。フラッシュ【煌臨】を発揮、バルバトス第1形態は進化する」
発揮される【煌臨】の効果。
バルバトス第1形態は、背部のスラスターを逆噴射させ飛翔し、上空の雲へと突入する。
「天空斬り裂け、未来を照らせ。ガンダム・バルバトスルプス、LV2で煌臨!!」
ー【ガンダム・バルバトスルプス】LV2(2)BP8000
突入した雲を斬り裂き、陽光による逆光を背後に姿を見せたのは、バスターソード状のメイス、ソードメイスを構えたバルバトス、バルバトスルプス。
「ルプスの煌臨時効果。デッキ上2枚を破棄し、その中の鉄華団1枚につき、コア3個以下の相手スピリット1体を破壊する」
破棄されたカードは「ガンダム・バルバトスルプスレクス」と「ガンダム・バルバトス[第6形態]」
いずれも鉄華団カードだ。
「2枚とも鉄華団カードだ。2体のフィリウスを破壊する」
上空から現れたルプスは、そのままフィールドへと急降下し、キングのフィールドにいる2体のフィリウスに向かって、弧を描くようにソードメイスを振るう。
2体はたちまち爆散。これでキングの操るスピリットは、アースのみとなる。
「クーデリア&アトラの【神域】でドロー」
「やるな。だがアースを倒さない限り、貴様に勝機はないことを忘れるな」
仲間の死を嘆いているのか、アースは再び強い咆哮を張り上げ、その視線をオーカミのルプスへと向ける。
「忘れるわけないだろ。ルプス、アースをブロックだ」
始まるルプスとアースの対決。
先手必勝と言わんばかりに、ルプスは両腕部から滑腔砲を展開。そこから鉛玉を連射する。
しかし、あまりにサイズ差があり過ぎるか、アースの強固な皮膚には全くと言っていい程に効き目がなかった。
ルプスを捕らえようとアースが手を伸ばすが、ルプスは一旦上空へと逃げ、それを回避。
「アースのBPは、ブラフマーの【契約域】と合わせて55000。対してルプスのBPは8000。勝ち目はない」
「いや、ある。諦めず、立ち止まりさえしなければ、必ず道は作れる。フラッシュマジック、火星の王へ」
「!」
「デッキから1枚破棄。それが鉄華団なら、オレのスピリット1体は、このターン、トラッシュの鉄華団1枚につき、BP+1000」
オーカミの放った1枚のマジックにより、デッキからまた1枚破棄される。そのカードは「ガンダム・バルバトスルプス[鉄華団]」
「破棄されたカードは鉄華団。そして、今オレのトラッシュにある鉄華団は23枚。よって、ルプスのBPは+23000!!」
ここに来て怒涛のBPパンプ。ルプスのBPは30000を超える。
しかし、それでもまだ、史上最強のスピリット、ゴジラ・アースの足元にも及ばなくて。
「BP31000か、流石だな。だが、私のアースが負けることはない」
フィールドでは飛翔するルプスが、今度はソードメイスを片手に突撃。その一撃を振るうが、アースの咆哮ひとつで吹き飛ばされる。
負け時と踏ん張り、二度目の攻撃を叩き込もうとしたルプスだったが、直後、アースの巨大な手によって、上からはたき落とされ、大地に叩きつけられてしまう。
「オーカ、勝てぇぇぇええ!!!」
「!」
オーカミの背後、入場口前で、彼を応援していたライが、腹の底から大声で叫ぶ。
その声を聞き入れたオーカミは、後ろへ振り返ることもなく、「フッ」と、鼻で笑い、また1枚のカードを引き抜く。
「フラッシュマジック、火星の王へ!!」
「なに、2枚目だと!?」
「デッキの上からカードを1枚破棄し、それが鉄華団なら、ルプスのBPを上げる」
まさかの2枚目の「火星の王へ」
これで成功すれば、ルプスのBPはさらに跳ね上がる。アースを超えるBPも夢ではない。
「だが引けるか?…このタイミングでさらなる鉄華団を」
キングがオーカミに訊いた。
しかし、それは彼にとって愚問である。
「引けるかじゃない、引くんだ。そしてオレは、オレ達は、必ずオマエに勝つ」
「…….」
「行くぞ、キング!!」
覚悟を決め、オーカミはBパッドに装填されたデッキの1番上のカードをドロー。
そのカードは………
「オレが引いたカードは、バルバトス第4形態」
「!?」
「これを破棄し、ルプスのBPを上げる!!」
効果は成功。その瞬間、フィールドにこれまでの鉄華団スピリット達が次々と集結。光となってルプスに再び立ち上がる力を与えて行く。
「照らした未来のため、全ての鉄華団スピリット達が、ルプスの糧となり、力となる。オレのトラッシュにある鉄華団カードの合計は25枚、これでルプスのBPは58000だ!!」
「BP、58000だと!?」
全ての鉄華団スピリット達の力が、ルプスに集い、それを黄金色に変化。
ルプスは飛翔し、今一度アースと対峙する。
「もう負けない。みんながいるから」
黄金に輝くルプスは、同じく黄金に輝くソードメイスをアースへと振るう。
さっきは全く通じなかった一撃だが、鉄華団スピリット達の力を束ねた影響か、その威力は前とは比較しようがない程に凄まじく、あのアースにダメージを与え、怯ませた。
しかし、アースもやられてばかりではない。すぐさま体勢を立て直すと、ルプスへ向かって熱線を吐きつける。
だが、今のルプスは、微動だにすることなく、それを受け切って………
「行け、バルバトスルプス!!」
最後はオーカミの叫びと共に、ソードメイスをアースの脳天へ突き刺す。
あの史上最強スピリット、アースも流石にこれには応えたか、激しい断末魔を張り上げながら、大爆発。仲間の力を束ねたルプスが、勝利を収めて見せた。
「アースが、負けた」
アースの敗北に狼狽えるキング。だがその表情は直ぐに笑顔へと変わって……
「よもや、こんなことがあろうとは。ハハ、ハハハハハハ!!!」
「あぁ、どんなことだって起こるさ。バトルスピリッツはだから面白いんだ」
「オマエといると飽きない、私は楽しいぞ鉄華オーカミ。ターンエンド」
手札:5
場:【創聖の契約神ブラフマー+大神剣アラマンディー】LV2(5)
バースト:【無】
カウント:【10】
迎えるは、アースを倒し、キングを大いに喜ばせたオーカミのターン。
それを返して仕舞えば、おそらくもうターンは巡って来ない。事実上のラストターンだ。
「行くぞ、鉄華団」
オーカミは、今まで自分と共に戦ってくれたカード達の想いと共に、全身全霊を込めてターンをスタートする。
[ターン06]鉄華オーカミ
「メインステップ。仲間を束ね、未来を覆せ。ガンダム・バルバトスルプスレクスファイナル、LV2で召喚……!!」
ー【ガンダム・バルバトスルプスレクスファイナル】LV2(2)BP13000
この闘いに終止符を打つべく、最後の最後で呼び出されたのは、赤き眼を持つ、最強最終のバルバトス。
バルバトスルプスレクスファイナル。
「アタックステップ。ルプスレクスファイナルでアタック、そのLV2効果。トラッシュの鉄華団を13枚除外。このバトル終了時、オマエのライフ2つを破壊する」
「フラッシュ、ブラフマーの【契約技】を発揮。リグ・アバタードラゴンを生成」
ー【リグ・アバタードラゴン】LV1(1)BP4000
「そしてブロック」
ルプスレクスファイナルの行手をリグ・アバタードラゴンが阻む。
が、力の差は雲泥の差。早々に首根っこを鷲掴みにされた挙句、激爪で胸部を貫かれ、呆気なく爆散してしまう。
「フラッシュ、クーデリア&アトラの【神技】を発揮、ルプスレクスファイナルを回復」
リグ・アバタードラゴンの爆発による爆煙を、無音の咆哮で吹き飛ばしながら、ルプスレクスファイナルが再び姿を見せる。
「そして、このバトル終了時。オマエのライフ2つをボイドへ」
〈ライフ4➡︎2〉キング王
「ぐっ!?」
ルプスレクスファイナルの背面の剣が、尾のように伸び、キングのライフバリアに強烈な勢いで突き刺さる。
一気に2つも砕かれ、窮地に陥る彼だが、まだ奥の手がトラッシュに眠っていて。
「この瞬間、トラッシュのブリザードウォールLTの効果。トラッシュのコア全てをリザーブに戻したのち、トラッシュからこれを使用できる。このターン、私のライフは、アタックによって1しか減らされない」
トラッシュからの防御マジック。
これにより、オーカミのスピリット達のアタックでは、キングのライフを1しか減らせなくなる。今は2なので、今一歩届かない。
「だけど、抜け道はある」
「!」
「アタックによっては減らせない。だけど、効果でのダメージなら」
オーカミの言う通り、強力なブリザードウォールLTにも抜け道はある。
スピリットで直接アタックする際は1しか減らせなくなるのだが、効果でなら問題もなく減らすことが可能なのだ。
そして、オーカミのフィールドには、効果によるダメージを与えられるスピリットが1体………
「ルプスレクスファイナルでアタック」
「ルプスレクスファイナルの二度目のアタックだと!?」
「この時のために、トラッシュを増やしておいたんだ。LV2からの効果、トラッシュの鉄華団を13枚除外し、このバトル終了時、オマエに2点のダメージを与える」
ルプスレクスファイナルで再度アタックを仕掛けるオーカミ。
ルプスレクスファイナルは強力な分、召喚アタックするたびに強制的にデッキとトラッシュのカードが除外されて行く諸刃の剣。
そのLV2からの効果を使うとなるとなおさらだ。
しかし、今回オーカミは、キングのブリザードウォールLTの対策として、このカードの効果を二度使うため、フラウロスやシノの効果などで、トラッシュを散々ためていたのだ。それも、キングに悟られないよう、繊細かつ豪胆なプレイングで。
「ブリザードウォールLTは、ルプスレクスファイナルの効果を防げない。これでトドメだ!!」
「……見事」
次の瞬間、ルプスレクスファイナルの背面の剣、悪魔の尾が、再びキングのライフバリアへと突き刺さる。
「おぉぉぉぉぉぉおお!!!」
〈ライフ2➡︎0〉キング王
そして、貫かれ、それは跡形もなくガラス細工のように砕け散って行った。
直後、「ピー……」と言う無機質な機械音が、キングのBパッドからこだまし始めた。
そう。オーカミのではなく、歴史史上最強とまで言われたカードバトラー、キング王からのだ。会場中のほとんどが、この光景を信じられないような目で眺め、固まっていた。
そして、徐々に、誰が勝者なのかを理解し始める。
「き、決まったァァァァ!!!…長きに渡る激戦を制し、勝利したのは、鉄華オーカミ!!……ノヴァリーグ、優勝だァァァァ!!」
司会進行役のブイのアナウンスを歯切りに、会場はこれまでで一番の熱狂に包み込まれた。
無理もない。あの最強カードバトラー、序列1位のキング王を倒し、勝利を収めれば、誰だって興奮してしまう。
これまでのライバル達も皆、拍手喝采で2人の熱きバトルスピリッツに賞賛を送る中、スタジアムの中央で、その2人は顔を見合わせる。
「これが敗北。なるほど、確かに悔しいな」
キングがオーカミに言った。
「あぁ。でも悔しいからこそ、次は絶対に勝つってなるんだ」
「それも、わかるな」
キングは己の手を強く握りながら、オーカミにそう言い返した。
幼い頃からの鍛錬の日々のせいで、知らぬ間に敗北を忘れていたキングは、初めて悔しいと言う純粋な感情が芽生えたのだ。
「鉄華オーカミ、ありがとう。貴様のバトルスピリッツは、私に足りない多くのものを作ってくれた。心より感謝する」
「そう言う固いのはいらない。バトルが終わった時の挨拶は、もっと簡単でいいよ」
オーカミの言葉を受け止めたキングは、次第に爽やかな笑顔を作り……
「あぁ、またやろう。次は私が勝つ」
「いや、次も、オレが勝つ」
完全に和解を果たし、握手で固く繋がり合う2人に、会場の誰もが拍手喝采。
これにて、今年のノヴァリーグの全プログラムは無事に終了。鉄華オーカミの優勝と言う形で幕を下ろした。
「さぁて会場の皆様、ノヴァリーグは、以上を持ちまして終了いたします」
はずだった。
司会進行役を務めていたブイと言う、サングラスを掛けた女性教師が、2人のバトルスピリッツを見てうずうずし出すまでは………
「と言うのはウソで、ここからはエクストラマッチのお時間です。先程見事キング王を下し優勝を決めた、鉄華オーカミと相対するのは……」
そこまで告げると、ブイは掛けていたサングラスを外し、投げ捨て、その素顔を晒す。
「この私、芽座椎名だ!!」
正体は知っての通り、Dr.Aから世界を救ったとされる伝説の英雄、芽座椎名。
誰もが知る超有名人。熱りが冷めかけていた会場は再び大盛り上がりし、熱気に包まれ始める。
「やはり、そうだったか」
ブイの正体に勘づいていたキングがそう呟く。
「何をやってるんだあのバカは」
観客席で腰を下ろしている椎名の兄、アルファベットこと芽座葉月が、身勝手な行為をする妹に肩をすくめる。
「カッカッカ。まぁいいじゃないか。居ても立っても居られなくなったんだろう。元主人公としてはね」
アルファベットの横で腰を下ろしている若々しい老婆、シグマがそう言った。
「夢のドリームマッチだ。これは面白くなるな」
入場口前で観戦していた九日ヨッカが、今から始まるであろう2人のバトルスピリッツに心を踊らせていた。
「ブイ姉、オーカァァァァ!!……どっちも頑張れ!!」
春神ライもまた、変わらずオーカミを応援している。
その声援に何も応えないオーカミではない。
「へぇ。ブイって結構有名なカードバトラーだったのか」
「え。本気で言ってる?…自分で言うのもアレだけど、私ガチで有名だと思うよ」
「まぁなんでもいい。やるならさっさとやろうよ」
「へへ。そうだな」
長話は不要か。2人は互いにBパッドを展開し、それを左腕に装着したのち、そこへ己のデッキを装填。バトルの準備を完全に完了させる。
そして………
「始めようか。最高のバトルスピリッツを」
「あぁ、行くぞ。バトル開始だ!!」
……ゲートオープン、界放!!
鉄華オーカミと芽座椎名。
2人の主人公によるバトルスピリッツが幕を開けた。
少年、鉄華オーカミの物語は、自分と同じ名が刻まれたバトスピカード、鉄華団を手に入れたその日から、大きく動き出した。
そしてこれからも、彼は自分の物語を突き進んで行く。バトルスピリッツによって得た仲間達と、鉄華団と共に。
******
そう。
これが、今からおよそにして20年前、私のパパ、鉄華オーカミが成し遂げた偉業である。
ぶっちゃけ。
当時の最強カードバトラーを倒しただけって、あんまり凄いと思わないし、イマイチピンと来ない。
しかも。
そのおかげで、今日も私はこの男に追われている。
「おいヒカリ、待ちなさいって!!」
「ヨッカおじさん、いい加減うざいし。おっさんが、15の女子中学生追いかけんな」
「おっさんじゃ……いや、おっさんか。今年で43だった」
「私がマジ顔して警察に相談したら、ヨッカおじさん変態罪でしょっぴかれるよ?」
「変態罪ってなんだ。ふふ、しかし残念だったな。オレは界放警察の警視長と知り合いなのだ。ちょっとやそっとじゃしょっぴかれないぜ」
「うわ、なんでそんな無敵でいられるの」
私は鉄華ヒカリ。
かの有名なプロのカードバトラー、鉄華オーカミの娘である。特徴は、父親譲りの赤い髪、まん丸ショートヘア。母親譲りの美人顔。ただしチビ。
そんな私が、なぜ今界放市ジークフリード区の街中で、こんな冴えない白髪長身イケメンおっさんに追われているかって?
それは……
「今日こそはやってもらうぞ、バトスピ」
そう。このイケメンおっさん、私が鉄華オーカミの娘だからって、必要以上にバトスピを誘って来る。
正直私、めっちゃバトスピ興味ないんだよね。
あれのカードにお金使うなら、もっとオシャな服とか買って、インスタ映えしたいって感じ。
「い・や。誰がバトスピなんてやるもんですか」
取り敢えず強めに拒否っとく。
「オマエ絶対才能あるのに、もったいないって。な、一回でいいからやろう。おじさんと一緒に、な?」
キモいキモい。
イケメンだからってこの発言は流石にやばい。軽く引く。
紹介し遅れたけど、この私をしつこく追いかけてる、白髪の長身イケメンおっさんが、九日ヨッカおじさん。なんかよくわからないけど、パパとママが世話になっていた人らしい。
多分、自分が可愛がってた2人の間に生まれた子だから、一緒に遊びたいんだろうなと思う。まぁ気持ちはわからんでもない。
だが断る。理由は単純、シンプルイズダルイ。これに尽きる。
「捕まえた!」
「ゲ」
「ふふ。なぁにそんな怖いことはしないさ。ただオレやオマエのパパとママの知り合い達とバトスピしてもらうだけだからな」
いやいや多分本当にそうなんだろうけど、話し方怖。
捕まってしまったが大丈夫。こんな時は奥の手だ。
「キャー痴漢!!…ここに痴漢がいまーす!!」
「え、やば。あ、いや違うんすよ」
ヨッカおじさんが、周囲の人達の視線に気を取られた。
よし、今だ。私は強引に手を振り解き、走り去って行く。
「そんじゃあねヨッカおじさん。来年のお年玉、期待してるから」
「あ、おい待てよヒカリ!!…つかお年玉って、まだ5月だけど!?」
取り敢えず、ヨッカおじさんが通らなそうな、人通りの少なそうな道から帰ろうっと。
******
いや〜にしてもしつこいよな、ヨッカおじさん。
興味ないって言ってんのに。私がやりたいことは、私に決めさせろっての。
大体、どいつもこいつも、私が鉄華オーカミの娘と知るや否や、「バトスピは強いの?」だの、「バトスピは何色使ってるの?」だの、直ぐにバトスピをやっていると決めつけて来る。そう言う奴、マジムカつく。
「だぁ。もっと好き勝手に生きてぇぇえ!!」
むしゃくしゃしたから、取り敢えず腹の底から叫んでみた。
何も変化はない。そりゃそう。
まぁいいや。気分はスッキリしたし、今日はもう帰ろ。今日の夕飯は何かな、ママが作る料理、大体美味いから、毎日超楽しみにしてんだよね。
「ちょっと、そこのお嬢さん」
「うわ!?」
急に後ろから声を掛けられてビックリした。
私が振り返るとそこには黒いローブを羽織った女性が………って、見た目怖。絶対ヤバめな人じゃん。
「聞きましたよ。貴女、好き勝手に生きたいそうですね」
「え、あぁ、聞こえてました?…メンゴメンゴ、ちょっとイラついてて」
アレ聞かれてたのかよ、恥ず。
つか、この人、おばさんかと思ったら、結構顔若いっぽいな。精々30前後、パパやママとかと同じくらいじゃね?
「そんな貴女におすすめの逸品があります」
「ッ……いやいや、いいです結構です。私帰らないと、ほら、門限が」
「まだ昼の2時ですよ?」
ヤバい。この人ガチでヤバい。絶対高いネックレスとか数珠とか押し付けて来るタイプのヤツだ。早く逃げなきゃ。
「はい、おかしなデッキ」
「え」
そう言って女性が私に手渡して来たのは、バトルスピリッツのデッキだった。
何度も言うが、私はバトルスピリッツには全く興味はない。微塵もだ。
だけど、ほんの一瞬。ほんの1mm。手渡されたデッキの先頭にあった「仮面ライダーガヴ」と言うカードに目を奪われてしまう。
「はい。じゃあこれのお代」
「あ、ヤバ」
「無料ね」
「え。無料?」
「もちろん。女の子からお金なんて巻き上げませんよ。ニッヒヒ」
え、じゃあ他の人からはお金巻き上げるの?
つか、笑い方、怖。魔女かよ。
「ではご機嫌よう、赤い髪の可愛らしいお嬢さん。因みにそのおかしなデッキ、確かに好き勝手できますが、言葉通りおかしな呪いがかかってるから、気をつけてね♡」
「え、いや待ってまだ買うとは」
「ニッヒヒ。じゃあ、バイバーイ」
「あ、ちょっと!!」
今勝手に私が名付けた謎の女性、黒魔女お姉さんは、不気味な笑みを浮かべながら、私におかしなデッキを押し付けて去って行く。
「行っちゃった。どうしようこのデッキ、おかしな呪いとか言ってたけど」
いや怖。何これもうホラーじゃん。
絶対捨てた方がいいやつ。
だけど、この時の私は、これからこのデッキを使って、大いなる戦いに身を投じて行くことを、まだ知らない。
ー………
バトルスピリッツ。
それはカードとコアが織りなす奇跡のカードゲームであり、それにまつわる幾多もの伝説は、多くの人々の心に刻まれていった。
少年、鉄華オーカミは、そこへ新たな伝説を刻み込んだ。
次に伝説を刻むのは、君かもしれない。
『バトルスピリッツ 王者の鉄華』 -完-
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七転八倒四苦八苦として来た今作でしたが、ようやく完結です。
読者の皆様、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!!
ですが、急遽アイギスが始めたレジェンダリーバトル。執筆しようと思います。
ただ、王者の鉄華本編は終了したため、表記の方は一旦「完結」とさせていただきます。
来年度から始まるバトスピの新スタンダード。その環境でまたコラボ中心の、全く新しい世界観の小説を執筆する予定ですので、レジェンダリーバトル編は、これまでの世界観に一区切りつけようと言うのと、あとはシンプルに息抜きが目的ですね。
アンケートも行いますので、執筆は9月上旬から、投稿はそれ以降となります。だいぶ遅くなってしまいますが、ご了承ください。
外伝「勇者と魔女」も、忘れずにゆっくり執筆して行きます。
重ね重ねになりますが、読者の皆様、今まで本当にありがとうございました!