闇の書事件から数か月後。
ユーノ・スクライアはその時の功績から、無限書庫から司書のスカウトを受け、司書として働いていた。
混沌とする未整理のままの本の山、山、山・・・
気の遠くなるような量の本に囲まれた、無重力の空間にユーノはいた。
「・・・ふう、これで、ひと段落かな?」
ユーノは、ふぅ、と一息ついた。
無限書庫への就職に一役買った、腹黒執務官の依頼にひと段落つけた。
「ユーノくーん。新しい、依頼だよぉ~」
「はい! ありがとうございます」
ユーノから見て、下の方から来た年配の女性司書から新しい依頼書を受け取った。
「これ、クロノ執務官からのご依頼だろう?」
「ええ。まだ、中間報告程度のモノですけど」
サラリと答えたユーノに女性司書は驚いた。
「ええ!? この量がかい?」
ユーノの周りに浮いている本の数。それは十数冊にも及んだ。
少なくとも、女性司書がこれだけの量を集められる自信がない。
かといって、混沌とした無限書庫の中からこれだけの量を見つけ出すには相当時間と手間がかかる。
それをさらりと言ってのけるユーノの才能に、女性司書は脱帽極まりない。
「ええ。この量では不十分でしょうけど、あちらも急いでいると思うので、この資料を、クロノ執務官に届けていただけますか?」
ユーノは申し訳ない程度に女性司書に頼む。
新しい依頼が来たために、自分では届けられそうになかったのだ。
「もちろん! OKさ」
女性司書もそれを分かっているため、女性司書は気にすることなく承諾する。
言い方は悪いが、彼女は自分が依頼を受けるよりも、ユーノが依頼を受けた方が効率がいいと考えたからだ。
「ありがとうございます」
ユーノは頭を下げ、彼女に頼んだ。
彼女が離れたところを見計らって、ユーノは黒いファイルから取り出し、新しい依頼書に目を通していた。
「なになに? “リンカーコアの資料全般”? “リンカーコアに関することなら種類を問わない”」
なんだこれ? と大雑把な依頼書に首を傾げた。
普通の図書館でも直ぐに見つかるような大雑把な依頼に首を傾げる。
けれど、よくよく考えれば、リンカーコアは謎の部分が多いことも確かだ。
ユーノは無限書庫を眺める。
今まで発見されたリンカーコアの資料よりも、それ以上にこの中から探し出す。
闇の書事件の時のような切羽詰まった状況で調べていた時と違い、宝の山とも言える無限書庫で僕自身がどこまで探し出せるか。
それが、胸の奥から湧き上がる探究心と高揚感で胸が高鳴った。
もう一度、資料を確認する。
差出人は“J.S”と書かれていた。
数日後。ドクターJの研究室。
転生者の記憶を元に、少なくとも、この先10年近くの時空管理局の行動は予測できる。
ジェイルは自分を生み出した最高評議会をうまく利用しながら、なるべく物語の流れを変えないように、娘たちを生み出し、ガジェットを生み出し、聖王のゆりかごの整備を進めていた。
さらに、転生者だからこそ、やりたいこと、やり遂げたいものを生み出す為。日夜、研究を続け、あるプロジェクトを進めていた。
「ドクター。例の資料が届きました」
「ほう。 思ったより早かったな」
ウーノから資料を受け取る。
「なるほど、思っていた以上の集まり方だ。 ・・・さすがだよ」
ジェイルは資料を集めた人間の顔を想い描きつつ、感心した。
「これで、詰まっていた研究も進むというものだ」
「よろしいのですか?」
「ん? 何がだね?」
「最近、部署が出来始めたとはいえ、無限書庫は管理局の
「心配しているのかい? ウーノ」
「もちろんです。 ドクターの研究の邪魔はさせません」
「ははは・・・いい子だね。ウーノ。さすが、私の最高傑作」
ジェイルはウーノを手招きすると、頭をなでた。
ジェイルの胸の中で、ウーノは頬を赤く染める。
「大丈夫さ。 仮にも、部署の一角をになう人間だ」
ウーノは上を見上げる。遠くを眺めるジェイルの眼差しは、自信があふれた目だ。
「それに、彼は信頼できる」
ジェイルはウーノを見つめた。
自信家で傲慢で、何より、自分たちを愛してくれる存在。
「はい。ドクター」
彼を疑った自分を恥じるのと同時に、大好きな父親の夢を達成させてあげたい。
ウーノはより強く、そう思うのだ。
―― 数年後。無限書庫。
ユーノはすでに見習い司書から司書へと昇進していた。
そして、相変わらずだだっ広い無限書庫の一角で本の整理を続けていた。
スクライア一族はアウトドアの一族だ。ダンジョンのような遺跡調査をすることもある。
しかし、ユーノはすっかりインテリになっていた。
「えっと、次は・・・っと」
―― ビッビッ
電子音が聞こえ、通信画面が開く。
『やあ、ユーノ司書。調子はどうだい?』
「相変わらずですよ。クロノ執務官。ご用件は何でしょう?」
2人は数年前からの付き合いだが、形式上はしっかりと受けごたえをする。
『ああ。久々に
今度はそっちか。とユーノは思った。
クロノがユーノに通信を入れる時は大抵、二つ。
いつものように、無理難題を押し付ける資料請求か、訓練のお誘い。
今回は後者だった。
クロノは無重力の無限書庫で働くユーノを気遣って、体力づくりの一環として訓練に誘うことがあるのだ。
「ごめん、今日は無理。忙しいし」
『そうか。なら、次にしよう。 いつがいい?』
「んー・・・そうだなぁ・・・とりあえず、一週間は時間は欲しいな」
『なら、一週間後に、また連絡を入れる』
「うん。ありがとう。クロノ」
通信が切れ、ユーノは遅くなっていた資料集めに集中する。
ユーノの周りに浮かぶ本数々は、主に、人体に関する資料が点在していた。
―― ビッビッ
再び電子音が聞こえ、通信画面が開く。
しかし、出てきたのは個人名義の添付文書だけだった。
「やっぱり、来たね」
クロノには忙しいとは言ったものの、実際は大して忙しくはなかった。
しかしそれも、さっきまでだ。
極秘と書かれた請求書に目を通し、ユーノはため息をついた。
「あちゃぁ・・・的が外れちゃったな。 今度は、ベルカ方面か」
せっかく、次に来る請求の予想を立てて集めていた資料もフイになってしまった。
それでも、ユーノはわくわくしていた。
なにせ、クロノからの資料請求よりも、こちらの方が面白いからである。