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それぞれの願いが交差するとき……
忙しい日々を送っていても、僕はまだ十代になったばかり。
同僚の司書からの勧めもあって、仕事のひと段落つけた僕は休憩を取ろうと、広げた本をしまう。
そこへ、見慣れた顔が見えた。
「ユーノくーん! 手伝うよ~!」
「やあ、なのは。いらっしゃい」
彼女がここへ訪れるのは、大して珍しいことでもなかった。
司書と顔見知りするほど、本局へ来たときは決まって、無限書庫を尋ねる。
「あれ? ユーノくん。お仕事終わり?」
ユーノが本を片付ける様子を見て、なのはは傾げた。
「ううん。これから休憩に入るところ。折角だし、なのはもどう? 僕、まだお昼ご飯まだなんだ」
「そんなんだ。 じゃあ、お言葉に甘えて」
2人は笑い合い、食堂へ向かう。
昼過ぎだったこともあり、食堂では、人がまだらだった。
なのははすでに食べ終わっていたので、食事を頼んだのは、僕のみ。
「最近どう? 無限書庫のお仕事」
「結構、充実してるよ」
「最近、資料探しの依頼、けっこう来てるんでしょ?」
「まあね、主にクロノからのが結構キツイかな・・・」
「あ~、なんとなく、分かる気がするの」
「ふふふ・・・でも、クロノはまだいい方だよ。自分たちでしっかり調べてから、行き詰ったところだけ、僕の所に寄こすからね」
「え? じゃあ、他は?」
「手当たり次第」
「うあぁ・・・」
僕は肩を下ろすと、なのはは気の毒になった。
「私、少し時間あるから、ユーノくんのお手伝いするよ」
「大丈夫だよ。切羽詰まった仕事じゃないし、それに・・・」
大丈夫と答えてから、僕はなのはの顔をじっと見つめた。
彼女もそれに気づき、ちょっと、恥ずかしくなって、もじもじする。
「ど、どうしたの? ユーノくん?」
「なのは・・・ちゃんと、休んでる?」
真剣な表情で僕は、なのはに聞いた。
しょっちゅう、会っているとはいかないが、心なしか、なのはの顔色が悪い気がした。
「え? ちゃんと、休んでるよ?」
どうしてそんなこと聞くの?という顔で、なのはは傾げる。
「なのはの顔色が悪い気がするんだ」
「えぇー? そうかな? ちゃんと、休んでるんだけどなぁ・・・」
なのはは自分の顔を触る。
「なのは。ちょっと手、貸して」
そう言って、僕はなのはの手を掴む。
最初はびっくりしたなのはだったが、僕が両手で彼女の手を包み込む頃には、大人しくした。
「ゆ、ユーノくん?」
「しっ・・・なのは、目をつぶって呼吸を整えてみて」
「え? う、うん」
戸惑いながらも、なのはは僕の要求に直ぐに答えてくれた。
彼女の呼吸が整ったのを確認すると、ほんの少しだけ、僕の魔力を彼女に流す。
僕の魔力が、なのはの魔力に乗って、どんな風に体内で流れるかを、感覚で見ていた。
以前の彼女の魔力は、巨大な大河だった。一見穏やかに見える大河は、中に入れば流れが急で、それでも、河の底が見えるぐらい透き通っていた。
でも、今はどうだろう?
巨大な大河だった水流は、以前よりも細くなり、流れは遅く、水は濁っている。
そういうイメージが、僕の頭の中に流れた。
僕はそのイメージに眉をひそめた。
そこから導き出される結論は「なのはの体調がすぐれていない」という結果だった。
「なのは・・・ちゃんと、休んでないね?」
閉じていた瞼をゆっくりと開けた僕は、なのはの顔を覗き込む。
ぎくっと肩を揺らした彼女は、視線をそらす。
目を閉じてと言われても、ドキドキするなのはは、こっそりとユーノくんの顔を覗いていた。
目を閉じた彼の顔は真剣そのもので、時間が経つにつれて、その表情がみるみる
あ、怒ってる。
そう認識した直後に、怒気を含んだ声が耳に届いた。
ユーノくんと目を合わせる前に、気まずくなって、視線をそらしてしまった。
「なのは。ここのところ、学校と管理局の仕事を無理に両立させてない?」
「そんなことないよ? ちゃんと学校にも行ってるし、管理局のお仕事もちゃんとしてるよ?」
「じゃあ、聞くけど・・・授業中に魔法の練習をしたまま、休まず任務に言ってるわけじゃないよね?」
「え」
なのはは言葉を詰まらせた。
僕はその様子から、やっぱり。と確信した。
「なのは。 魔法の練習も確かに大事だよ? でも、休むことも大切だよ。今のなのはには、むしろ、そっちの方が大切」
「う、うん」
僕に怒られて、なのははしょんぼりと垂らす。
それでも、僕は彼女のことを思って、言葉を強くした。
「なのはの事だから、みんなの期待に応えようとしてるんだろうけど、少しは頼ってくれると、嬉しいな」
優しく言葉を尽くす。僕は熱を測るように、こつん、とおでこをくっつけた。
なのはは更に顔を赤くする。
ユーノくんは、私をよく見てる。
そう、なのはは思った。
同時に心の中がポカポカと温かくなる。
ユーノは顔を離すと、改めて、お互いに目を合わせた。
「うん。分かった」
なのはの返事に、ユーノは微笑んだ。
「あ、でも・・・」と続けた言葉にユーノは嫌な予感をして、顔をしかめた。
「次の任務が終わったら、休むね」
「・・・今からじゃ、ダメなの?」
僕はなのはが納得してくれたと思って喜んだのに、そうでもなかったみたいで、がっかりした。
「次の任務、ヴィータちゃんと一緒の任務なの」
なるほど。
身内と言えど、高ランクを持っている彼女たちからすれば、同じ任務に就くことは余程じゃない限り、滅多にない。
「そうは言ってもなぁ」
僕は頭をかく。
「次の任務が終わったら、絶対休むから!」
お願い! と両手を合わされたら、いくら僕でも強くは言えなかった。
しょうがないなぁ。と呆れつつ、もう一度、念を入れた。
「わかったよ。でも、絶対、無理しないでね」
「うん」
「少しでも調子が悪くなったら、直ぐに言う事。例え、それが任務中であっても」
「うん! わかった」
大丈夫かなぁ? と思いつつも、僕はなのはを信じることにした。
「じゃあね。ユーノくん」
「うん。 またね、なのは。 気を付けて」
「うん。いってきます!」
時間となり、なのはは笑顔で任務に向かった。
僕はその後ろ姿を見送った。
不安は消えない。
でも、彼女だから大丈夫だろうと、過信していたのかもしれない。
それを後悔することだと知らずに……―――
***
ドクター.Jの研究室。
「ふむ・・・・・・」
ジェイルは上からの命令書と睨めっこしていた。
その命令書を届けに来たドゥーエは、ジェイルの姿を酔狂した眼差しで見ていた。
ジェイルが持つ指令書は、最高評議会からのものだった。
いつもなら、この
転生者であるジェイルは、この指令書が及ぼす被害が手に取るように、わかるからだ。
眉間にシワを寄せ、難しい顔で睨む。
「(“前”はこの事件が
今でも思い出す―――
自分がつくられた存在だと知り絶望し、己の中に渦巻く終わりの来ない欲望に必死に抵抗した日々。
それでも、疲れ果てた私は何かを考えるのをやめ、自分を作り出した管理局の犬になり下がった。
己が欲望に忠実に従い無意味に破壊をする兵器を作り、命を弄び、自分と同じ歪んだ生まれ方をした者たちも多く生み出してしまった。
それらが原因で、取り返しのつかない後悔を
―― あの日。自ら生み出したものが原因で、少年の命を奪ったと思っていた。
この事件がきっかけで、この世の真実を知り、目が覚めた。同時に自分の愚かさを呪い、自暴自棄にもなっていた。
それでも、彼が戻ってきたと知った時、救われた気がした。それが例え、罪は消えないと解っていても。
私は同じ
彼は……そう――― 例えるなら、“月”
底が見えない
そこで一番明るく照らす月が、足元を照らしだす。
日にあたることを拒むもの、日陰の中でしか生きられないもの―――それらを包み込む優しい月のおかげで、暗闇の中でも全く恐怖を感じない。
その優しい月に、
一輪咲けば、花を真っ赤に染め上げ、さらに咲いても真っ赤に染める。それでも飽きたらず、戦火となった。
夜空に血染めの花が咲き散らばる。
月が一番大切にしていた花を吹き飛ばしたその瞬間から、絶望という暗闇が世界を飲み込んだ。
血の涙を流し、泣き叫ぶ月の悲鳴が頭に響く。
それを招いた原因が自分にもあるのなら……
同じことを繰り返さないために。
私は……―――
「それほど悩みますか? ドクター」
ドゥーエは不思議そうに傾げた。
娘の声にハッと現実世界に意識が戻る。
「あ、ああ……悩むよ。―――こればかりはね」
そう言って薄笑いを浮かべる。
「ふむ」
再び、命令書に目を通す。
彼を巻き込まないための対策を……――― いいや、出来ればこの実験はしたくない。
だが、“上”は試したくてウズウズしているに違いない。
そうなれば、避けられないのも事実。
「さて……どうしたものか」
私は頭を抱える。
ドゥーエは頭を抱えるジェイルを珍しそうに見ていた。
そこへ、ウーノが資料を持ってきた。
「ドクター。資料が届きましたよ」
「ああ……ありがとう、ウーノ。 そこに置いといてくれ」
私は上っ面な返事を返した。
ウーノは資料を机の上に置く。
「ドゥーエ。ドクターは何に悩んでいるの?」
ウーノはジェイルが持つ命令書を指しながら、彼の邪魔にならないように、ドゥーエにヒソヒソと話す。
「“上”からの命令を渋っているみたい」
「そうなの?」
「ええ」
ドゥーエは肩を下げた。
ドクターの様子から、
ジェイルは考えても
そこに挟まれたメモ用紙を発見して、ジェイルはひらめいた。
メモ用紙には「追加資料をいつでもお受けいたします」と丁寧な字で書かれていた。
「そうだ!」
「「?」」
突然、声を上げたジェイルに二人はなんだろう?と傾げた。
ジェイルは机から紙を取り出し、何かを書き始めた。
「よし。 ウーノ、これを無限書庫に資料請求してくれ。追加の資料を頼むとね」
「はい。わかりました」
ジェイルはウーノに紙を渡した。
すっきりとした顔をしたジェイルは椅子から立ち上がる。
「さて、研究の続きを始めようか。だが、その前に……ドゥーエ。キミに頼みがある」
「はい、何でしょう? ドクター」
頼みと聞いて、ドゥーエは目を輝かせた。
「帰ってきて早々、悪いのだが、最高評議会の所に潜り込めるかね? 彼らの動向が知りたい」
「もちろん、仰せのままに。ドクター」
私の身を案じてくれるなんて、なんて優しいドクター。
ドゥーエはうっとりとした表情で頷く。ジェイルは優しく彼女の頭を撫でた。
手を振り、ドゥーエを送り出すと、ジェイルは研究室に戻る。
「(これで、彼はこの事件に直接、関わることはない。あわよくば、これが彼を救える手立てとなって欲しい)」
そう願う、ジェイルであった。
***
『解った。この任務が終わり次第、彼女には休暇を取らせるよ』
「うん。お願いね。クロノ」
ユーノはなのはを見送った後、クロノに連絡を入れていた。
資料集めの中間報告は建前で、ユーノにとって本題はなのはの事だ。
『しかし、よく気が付いたな。僕にはいつものようにしか感じないが……』
「なんとなく……かな? そういう風にしか言い合わらせないけどね」
ユーノ自身にも勘だとしか言い合わらせないものに、答えを出すことは難しいだろう。
「僕も行けたらいいんだけど、あいにく、急に依頼が立て込んでね。手が離せそうにないんだ」
ユーノはしょんぼりと肩を下ろした。
『君の仕事は、書庫の整理が基本だろう? 気に病むことはない』
クロノに指摘されて、「そうなんだけどね」と僕は、薄笑いを浮かべた。
『さて、こちらも出発する時間だ。 君も、仕事に集中するといい』
「そうするよ」
僕は頷いた。あとは、形式のあいさつを交わし、通信を切った。
「・・・――― 大丈夫だよね・・・?」
不安が付きまとう頭を振り払って、僕は仕事に集中した。