ジェイル・スカリエッティの奮闘   作:灰恵

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第03話 後悔 yuuno side.

 

無限書庫。

 

 

ユーノは無限書庫の仕事に追われていた。

 

「あっちの資料持ってきて~!」

「なぁ! 誰か、ベルカ方面に詳しい人いないか!?」

「あぁぁぁ! もう! なんで、急に忙しくなるのよ! 信じらんない!」

「俺……今日、休みだったのに……」

「まぁまぁ。 その分、休めるからさ、きっと」

「どこがだよ(涙目)」

 

他の司書同様、忙しなく動き、あっちこっちから資料をかき集める。

ユーノは他の司書の中でも、人一倍働いていた。

スクライア独自の検索魔法と、持ち前のマルチタクスを駆使して、次々に本をヒットさせて資料作成を進めていた。

 

「皆さん! 頑張ってください!」

 

ユーノは司書たちに声を掛ける。

 

『は~い!』

 

司書たちも人一倍頑張るユーノに励まされながら、作業を進めていく。

本がユーノを囲み、複数の本が一度にめくられていく。

 

 

ビッビッ

 

 

ユーノの所に通信が入る。

 

「はい! こちら無限書庫、ユーノ・スクライアです。ご用件はなんでしょう?……って、クロノか」

 

ついつい、慌ただしさを残したまま、通信に出ると、クロノだった。

 

『・・・・・・』

 

クロノは無言だ。

ユーノは通信していても、期限が短いものが多いため、スピードを落とさずにクロノの相手をしていた。

 

「どうしたの? クロノ? 資料なら、さっき渡したよね? あ、追加資料? 今からだと、今日中って言うのは無理なんだけど・・・」

 

怒っているのか、それとも、もっと、別の事なのか。

黙ったままのクロノの表情は見えない。

 

「クロノ?」

『すまない・・・』

「え、 何?」

 

クロノの小さな声は、聞き取りにくく、ユーノは聞き返した。

 

 

『なのはが落ちた』

「え?」

 

 

 

ピタリと本が止まる。

急に止まったユーノに気づく、数人の司書たち。

 

『君に、忠告されていたのに・・・・・・ボクは・・・・』

「なのはが・・・落ちた?・・・それって・・・・・・」

 

認めたくない。聞きたくない。信じたくない。

それらの言葉が、頭を埋め尽くす。

 

『あ~・・・ユーノくん? ちょっと、いいかな』

 

クロノの隣から、エイミィさんが顔を出した。

 

「エイミィ・・・さん」

『あのね、ユーノくん・・・・よーく、聞いてね』

 

冷え切ったユーノの表情に、うっと怖気づきながらも、エイミィは続けた。

 

『なのはちゃん、任務先でアンノウンと接触して、それから、重傷を負ったの。今、アースラから本局に運ばれて、治療中なんだ』

 

僕はエイミィさんの言葉を聞いて、めまいがして体がふら付いた。

 

「ユーノ、大丈夫かい?」

 

近くにいた年配の女性司書に体を支えられた。

女性司書は心配そうに顔を覗き込む。

 

「はい・・・だい、じょうぶ、です」

 

上っ面に返事を返した。

 

「なのはちゃん、そんなに悪いのかい?」

 

女性司書はエイミィに聞いた。

 

『はい。当たり所が悪いらしくて、今、緊急手術を受けています』

 

二人の会話が遠くに感じた。

 

 

 

なのはが、落ちた。

 

さっきまで、笑ってた彼女が・・・

 

気づいてたのに。

 

具合が悪いって、気づいてたのに・・・

 

僕が、あの時・・・・もっと強く、休むように言っていれば・・・

 

いや、「行かないで」って

 

一言、言えれば・・・・なのはは・・・・

 

 

なのはは・・・・

 

 

 

『手術が成功するのが80%……たとえ、成功しても、五体満足でいられるかどうか、解らないそうです』

「それは、術後のあの子の努力次第って事かい?」

『ええ、それはもちろんそうですけど。 魔力が非常に不安定で、治癒魔法が掛けにくいんだそうです』

「なるほど、それで、重傷ってことかい。 治癒魔法が使えれば、もっと良かったんだけどねぇ」

 

 

 

治癒魔法が・・・使えない?

 

 

ユーノの脳内で、得られたキーワードから次々と樹状図(じゅじょうず)が作られる。

 

 

魔法 ―――

 

リンカーコア ―――

 

肉体への負担 ―――

 

魔導師とリンカーコアの密接なる関係 ―――

 

魔力素とリンカーコア ―――

 

リンカーコアの破壊と再生 ―――

 

リンカーコアの蘇生・・・・移植・・・―――

 

 

ユーノはふら付いた体を立て直す。

停止していた本が再び動き出した。

 

風が吹き抜け、それまであった本が次々に処理され、本の整理と依頼をこなしていく。

 

「ユ、ユーノ?」

『ユーノくん?』

 

再起動したユーノを見て、女性司書とエイミィは戦慄を覚えた。

嵐に吹き荒れるかのように、本が躍り出す。

 

「エイミィさん。僕は仕事が残っていますので、しばらく、動けません」

『え、う、うん』

 

エイミィは押され気味に答えた。

女性司書は考えた。

忙しいのは山々だし、能力が高いユーノが抜けるのは痛いけど、大切な人が重傷だっていうんだから、仕事を抜け出せないほど、無限書庫(ここ)は融通が利かないわけじゃない。

そのため、女性司書は気を利かせる。

 

「ユーノ! 別に、良いんだよ。こっちはうちらで何とかするから。行ってあげな」

 

 

「――― いいえ ―――」

 

 

それでも、ユーノは冷たく答え、首を振る。

 

「これは僕の仕事ですから」

 

怖いぐらいに冷静でいるユーノを見て、女性司書とエイミィだけでなく、それまで黙っていたクロノでさえ、背筋が凍った。

 

クロノは『ユーノ・・・』と呟いた。

 

「クロノ。お前は仮にもなのはの上司でしょ? なに、そこでボサッとしてるのさ? 僕に通信を入れて、()びのひとつ言う暇があったら、お前はお前のやるべきことをするべきじゃないの? シャキッとしろ。この腹黒執務官」

 

ぴしゃりと言い放つ。

 

『な・・・ん・・・』

 

クロノは思いがけないユーノの言葉に口をパクパクさせる。

それでも、彼に叱咤(しった)されて、だんだん頭が正常に働いてきた。

そう。ユーノの言う通り、やるべきことをやっていない。

何一つ・・・

 

『フッ・・・君に怒られる日が来ようとは』

 

ユーノはクロノの返事を聞いて、ニヤッと笑う。

 

「そうそう。そっちの方がクロノらしいよ。腹黒執務官」

『そういう君こそ。一言余計だぞ。フェレットもどき』

 

悪態をつくほど、精神的に回復した二人。

その様子をみて、女性司書とエイミィはホッと息をついた。

 

 

 

 

 

ユーノは宣告通り、仕事がひと段落つくまで無限書庫に(こも)った。

 

「(確か、前にリンカーコアについて調べた時に・・・)」

 

無限書庫の仕事をし始めてすぐ、リンカーコアに関する依頼を受けた。

その時の資料に、リンカーコアが回復する方法が記された資料があることを思い出した。

 

昔の依頼書をひっくり返すと、直ぐに出てきた。

 

「あった・・・」

 

並行で仕事の依頼を片付けながら、ユーノは一冊の本を抱え込んだ。

それはなのはを救えるかもしれない方法が書かれた本だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

僕は手術中だという、なのはの所に最後に駆け付けた。

息を切らせながら僕はクロノに聞いた。

 

「なのはは?」

「今は集中治療室だ。峠を越えて、意識が目覚めるのを待つだけだ」

 

集中治療室に居るということは、手術には間に合わなかったんだ。

 

クロノとリンディはベンチの隣で立っていた。

ベンチにはこの世の終わりだというような表情をしたフェイトと、彼女を足元で見守るアルフと、はやての腕の中で泣きじゃくるヴィータと、お互い支え合う様に座るすずかとアリサがいた。

その向かい側にシグナムとザフィーラがいた。

皆、病院の廊下で暗い表情を浮かべている。

ぐるりと見渡して、高町家の面々が居ないことに気づく。

 

「士郎さんたちは?」

「中だ」

「そう」

 

姿が見えないだけで、ちゃんとなのはの傍にいると聞いて、僕はホッとした。

 

 

 

「ユーノ・・・」

 

ふらりとアリサが立ち上がる。

 

「アリサ」

 

アリサはふら付きながらユーノに近づく。

 

「なんで? ・・・なんでよ」

 

震えた小さな声を出すアリサを、僕は受け止めた。

 

「どうして、なのはがこんなことになんなきゃ、いけないの?」

 

チクリと僕の心に棘をさす。

 

「なんでよ。ねぇ・・・なんで、なのはが!・・・」

 

アリサは力が入らない拳で、何度もユーノをたたく。

彼女から大粒の涙が廊下に落ちる。

 

「アリサ・・・・ごめん」

 

僕はそれしか、言えなかった。

一番、それを伝えなきゃいけない人は、まだ、ベッドの上で眠り続け。

その彼女の家族は病室の中で、彼女を見守っている。

 

 

『――― 「会わなかったら」なんて、考えたくないなぁ ―――』

 

 

少し前に聞いた彼女の言葉が僕の頭の中で響いた。

 

僕もだよ。なのは。

でも、今回だけは・・・・会わなかったら。

君と僕が出会わなければ、きっと ―――

 

――― なのははそこで眠っていることなんて、なかったんじゃ、ないかな・・・?

 

 

 

 

 

僕はアリサに視線を向けたまま、クロノに聞いた。

 

「皆は容態、聞いたの?」

「ああ。聞いた」

「じゃあ、聞いてないのは、僕だけか」

 

僕はアリサから、なのはが眠っている部屋の扉に、視線を移した。

扉の向こうにいる彼女を見守るように。

そこに扉が開かれ、中からシャマルが出てきた。

 

「シャマルさん」

「ユーノくん」

 

疲れ切った様子のシャマルに、ユーノは声を掛けた。

泣きじゃくるアリサを、すずかに任せ、僕はシャマルさんに近寄った。

 

「なのはの容態、聞いてもいいですか?」

「ええ。もちろんよ」

 

 

 

***

 

 

 

別の病室に案内された僕は、なのはの容態を聞いた。

 

 

 

そこで聞かされたのは、なのはの現状と治療方法だった。

しかし、これまで蓄積されていた疲労も含めると、全開するためには相当なリハビリが必要だった。

しかも、リハビリしても魔導師として活動できるかどうか、解らないぐらいに深刻化していた。

 

「そうですか・・・」

 

僕は予測を斜め上をいく結果に、肩を落した。

 

「気を落さないで。ユーノくん」

 

シャマルはユーノが気がかりだった。

先ほど、他のメンバーになのはちゃんのことを話した時に、「彼女の事を頼むと頼まれたばかりだったのに」と、拳を握るクロノくんから聞いていたのだ。

 

俯くユーノ。

膝の上でギュッと握りしめる拳が、悔しさと後悔を物語っていた。

 

 

「シャマルさん」

「何?」

 

僕は覚悟を決めて、顔を上げると、ポケットから端末を取り出しシャマルに渡した。

 

「これは?」

 

シャマルは何だろう?と首を傾げた。

しかし、端末の中身を確認したとたん、戦慄を覚え、背筋が凍った。

 

「こ、これは!!」

 

 

視界を埋め尽くさんばかりの資料の山に、シャマルは眩暈(めまい)さえ感じた。

リンカーコアに関連した資料と、怪我を負った魔導師のリハビリプランが書かれていた。

その途中経過や、回復した時の最悪の状態と最高の状態の事例。

先人たちが築き上げた治療法が資料の中にあった。

 

それだけではない。

 

なのはが“どちら”を選んでもいいように、魔導師への復帰と非魔導師―― つまり、魔導師ではない人生 ――の両方のリハビリプランが書かれていた。

 

 

「(この量を、この短時間で!?)」

 

 

シャマルは恐る恐る、ユーノを見た。

ユーノは出された資料を眺めていた。

彼の横顔は、何かの覚悟を決めた瞳を宿した虚無の表情をしていた。

 

 

「シャマルさん ――― お願いできますか?」

 

 

ユーノは資料からシャマルに視線を移し、頭を下げた。

 

「・・・っ!――― もちろんよ! 全力で取り組ませて貰うわ!」

 

自分たちを救ってくれた恩人のために、なのはちゃんを心配するはやてちゃんやみんなのために。

何より、彼女を救いたいという思いが人一倍あるユーノくんのためにも。

 

シャマルは気合いを入れ直し、再び資料に目を通す。

 

その様子にユーノはもう一度「お願いします」と下げ、席を立つ。

 

「ユーノくん」

 

病室から出て行く直前にシャマルは呼び止める。

 

「ありがとう。 あなたも休んでね」

「はい」

 

シャマルはユーノに笑いかけ、彼はぎこちない薄笑いを浮かべてドアを閉じた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

Dr.Jの研究室。

 

地下にある研究室とは思えないほど、明るい研究室に、一室だけ暗い部屋があった。

 

外の明るさが隙間の空いたドアから入り込む。

時折(ときおり)その中で、(うごめ)く影。

 

真夜中を回ったその時間、ジェイルはチンクからの勧めもあり、ベッドの中で寝ていた。

 

 

薄暗い部屋の中で、モニターの蛍火が付き、着信が来たことを報せた。

 

 

ジェイルはむくりと起き上がると、モニターを付けた。

 

彼は寝ていなかった。

 

いや、眠れなかった。

 

 

「! ―― これは!」

 

開いたメールにジェイルは驚愕(きょうがく)した。

 

 

 

 

***

 

 

                                新暦65年 ××月 ○○日

                                Dear. J.S

 

 

ありがとうございます。

 

一言、それが言いたくて、このメールを送りました。

 

 

あなたのおかげで、僕は大切な人を助けることができました。

 

 

本当に感謝しています。

 

 

                                Thank you.

                                Yuuno scria

 

 

 

***

 

 

ジェイルは崩れ落ちた。

 

何故、こんなメールを送ったのか。

 

どうやって、送ることができたのか。

 

何故、感謝されるのか。

 

 

ジェイルの頭の中は、理論や理屈よりも感情に翻弄(ほんろう)され、まともに考えも浮かばなかった。

それでも、“無限の欲望”と歌われた彼はコートを(ひるがえ)すと、行動に移した。

 

 

 

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