無限書庫。
ユーノは無限書庫の仕事に追われていた。
「あっちの資料持ってきて~!」
「なぁ! 誰か、ベルカ方面に詳しい人いないか!?」
「あぁぁぁ! もう! なんで、急に忙しくなるのよ! 信じらんない!」
「俺……今日、休みだったのに……」
「まぁまぁ。 その分、休めるからさ、きっと」
「どこがだよ(涙目)」
他の司書同様、忙しなく動き、あっちこっちから資料をかき集める。
ユーノは他の司書の中でも、人一倍働いていた。
スクライア独自の検索魔法と、持ち前のマルチタクスを駆使して、次々に本をヒットさせて資料作成を進めていた。
「皆さん! 頑張ってください!」
ユーノは司書たちに声を掛ける。
『は~い!』
司書たちも人一倍頑張るユーノに励まされながら、作業を進めていく。
本がユーノを囲み、複数の本が一度にめくられていく。
ビッビッ
ユーノの所に通信が入る。
「はい! こちら無限書庫、ユーノ・スクライアです。ご用件はなんでしょう?……って、クロノか」
ついつい、慌ただしさを残したまま、通信に出ると、クロノだった。
『・・・・・・』
クロノは無言だ。
ユーノは通信していても、期限が短いものが多いため、スピードを落とさずにクロノの相手をしていた。
「どうしたの? クロノ? 資料なら、さっき渡したよね? あ、追加資料? 今からだと、今日中って言うのは無理なんだけど・・・」
怒っているのか、それとも、もっと、別の事なのか。
黙ったままのクロノの表情は見えない。
「クロノ?」
『すまない・・・』
「え、 何?」
クロノの小さな声は、聞き取りにくく、ユーノは聞き返した。
『なのはが落ちた』
「え?」
ピタリと本が止まる。
急に止まったユーノに気づく、数人の司書たち。
『君に、忠告されていたのに・・・・・・ボクは・・・・』
「なのはが・・・落ちた?・・・それって・・・・・・」
認めたくない。聞きたくない。信じたくない。
それらの言葉が、頭を埋め尽くす。
『あ~・・・ユーノくん? ちょっと、いいかな』
クロノの隣から、エイミィさんが顔を出した。
「エイミィ・・・さん」
『あのね、ユーノくん・・・・よーく、聞いてね』
冷え切ったユーノの表情に、うっと怖気づきながらも、エイミィは続けた。
『なのはちゃん、任務先でアンノウンと接触して、それから、重傷を負ったの。今、アースラから本局に運ばれて、治療中なんだ』
僕はエイミィさんの言葉を聞いて、めまいがして体がふら付いた。
「ユーノ、大丈夫かい?」
近くにいた年配の女性司書に体を支えられた。
女性司書は心配そうに顔を覗き込む。
「はい・・・だい、じょうぶ、です」
上っ面に返事を返した。
「なのはちゃん、そんなに悪いのかい?」
女性司書はエイミィに聞いた。
『はい。当たり所が悪いらしくて、今、緊急手術を受けています』
二人の会話が遠くに感じた。
なのはが、落ちた。
さっきまで、笑ってた彼女が・・・
気づいてたのに。
具合が悪いって、気づいてたのに・・・
僕が、あの時・・・・もっと強く、休むように言っていれば・・・
いや、「行かないで」って
一言、言えれば・・・・なのはは・・・・
なのはは・・・・
『手術が成功するのが80%……たとえ、成功しても、五体満足でいられるかどうか、解らないそうです』
「それは、術後のあの子の努力次第って事かい?」
『ええ、それはもちろんそうですけど。 魔力が非常に不安定で、治癒魔法が掛けにくいんだそうです』
「なるほど、それで、重傷ってことかい。 治癒魔法が使えれば、もっと良かったんだけどねぇ」
治癒魔法が・・・使えない?
ユーノの脳内で、得られたキーワードから次々と
魔法 ―――
リンカーコア ―――
肉体への負担 ―――
魔導師とリンカーコアの密接なる関係 ―――
魔力素とリンカーコア ―――
リンカーコアの破壊と再生 ―――
リンカーコアの蘇生・・・・移植・・・―――
ユーノはふら付いた体を立て直す。
停止していた本が再び動き出した。
風が吹き抜け、それまであった本が次々に処理され、本の整理と依頼をこなしていく。
「ユ、ユーノ?」
『ユーノくん?』
再起動したユーノを見て、女性司書とエイミィは戦慄を覚えた。
嵐に吹き荒れるかのように、本が躍り出す。
「エイミィさん。僕は仕事が残っていますので、しばらく、動けません」
『え、う、うん』
エイミィは押され気味に答えた。
女性司書は考えた。
忙しいのは山々だし、能力が高いユーノが抜けるのは痛いけど、大切な人が重傷だっていうんだから、仕事を抜け出せないほど、
そのため、女性司書は気を利かせる。
「ユーノ! 別に、良いんだよ。こっちはうちらで何とかするから。行ってあげな」
「――― いいえ ―――」
それでも、ユーノは冷たく答え、首を振る。
「これは僕の仕事ですから」
怖いぐらいに冷静でいるユーノを見て、女性司書とエイミィだけでなく、それまで黙っていたクロノでさえ、背筋が凍った。
クロノは『ユーノ・・・』と呟いた。
「クロノ。お前は仮にもなのはの上司でしょ? なに、そこでボサッとしてるのさ? 僕に通信を入れて、
ぴしゃりと言い放つ。
『な・・・ん・・・』
クロノは思いがけないユーノの言葉に口をパクパクさせる。
それでも、彼に
そう。ユーノの言う通り、やるべきことをやっていない。
何一つ・・・
『フッ・・・君に怒られる日が来ようとは』
ユーノはクロノの返事を聞いて、ニヤッと笑う。
「そうそう。そっちの方がクロノらしいよ。腹黒執務官」
『そういう君こそ。一言余計だぞ。フェレットもどき』
悪態をつくほど、精神的に回復した二人。
その様子をみて、女性司書とエイミィはホッと息をついた。
ユーノは宣告通り、仕事がひと段落つくまで無限書庫に
「(確か、前にリンカーコアについて調べた時に・・・)」
無限書庫の仕事をし始めてすぐ、リンカーコアに関する依頼を受けた。
その時の資料に、リンカーコアが回復する方法が記された資料があることを思い出した。
昔の依頼書をひっくり返すと、直ぐに出てきた。
「あった・・・」
並行で仕事の依頼を片付けながら、ユーノは一冊の本を抱え込んだ。
それはなのはを救えるかもしれない方法が書かれた本だった。
***
僕は手術中だという、なのはの所に最後に駆け付けた。
息を切らせながら僕はクロノに聞いた。
「なのはは?」
「今は集中治療室だ。峠を越えて、意識が目覚めるのを待つだけだ」
集中治療室に居るということは、手術には間に合わなかったんだ。
クロノとリンディはベンチの隣で立っていた。
ベンチにはこの世の終わりだというような表情をしたフェイトと、彼女を足元で見守るアルフと、はやての腕の中で泣きじゃくるヴィータと、お互い支え合う様に座るすずかとアリサがいた。
その向かい側にシグナムとザフィーラがいた。
皆、病院の廊下で暗い表情を浮かべている。
ぐるりと見渡して、高町家の面々が居ないことに気づく。
「士郎さんたちは?」
「中だ」
「そう」
姿が見えないだけで、ちゃんとなのはの傍にいると聞いて、僕はホッとした。
「ユーノ・・・」
ふらりとアリサが立ち上がる。
「アリサ」
アリサはふら付きながらユーノに近づく。
「なんで? ・・・なんでよ」
震えた小さな声を出すアリサを、僕は受け止めた。
「どうして、なのはがこんなことになんなきゃ、いけないの?」
チクリと僕の心に棘をさす。
「なんでよ。ねぇ・・・なんで、なのはが!・・・」
アリサは力が入らない拳で、何度もユーノをたたく。
彼女から大粒の涙が廊下に落ちる。
「アリサ・・・・ごめん」
僕はそれしか、言えなかった。
一番、それを伝えなきゃいけない人は、まだ、ベッドの上で眠り続け。
その彼女の家族は病室の中で、彼女を見守っている。
『――― 「会わなかったら」なんて、考えたくないなぁ ―――』
少し前に聞いた彼女の言葉が僕の頭の中で響いた。
僕もだよ。なのは。
でも、今回だけは・・・・会わなかったら。
君と僕が出会わなければ、きっと ―――
――― なのははそこで眠っていることなんて、なかったんじゃ、ないかな・・・?
僕はアリサに視線を向けたまま、クロノに聞いた。
「皆は容態、聞いたの?」
「ああ。聞いた」
「じゃあ、聞いてないのは、僕だけか」
僕はアリサから、なのはが眠っている部屋の扉に、視線を移した。
扉の向こうにいる彼女を見守るように。
そこに扉が開かれ、中からシャマルが出てきた。
「シャマルさん」
「ユーノくん」
疲れ切った様子のシャマルに、ユーノは声を掛けた。
泣きじゃくるアリサを、すずかに任せ、僕はシャマルさんに近寄った。
「なのはの容態、聞いてもいいですか?」
「ええ。もちろんよ」
***
別の病室に案内された僕は、なのはの容態を聞いた。
そこで聞かされたのは、なのはの現状と治療方法だった。
しかし、これまで蓄積されていた疲労も含めると、全開するためには相当なリハビリが必要だった。
しかも、リハビリしても魔導師として活動できるかどうか、解らないぐらいに深刻化していた。
「そうですか・・・」
僕は予測を斜め上をいく結果に、肩を落した。
「気を落さないで。ユーノくん」
シャマルはユーノが気がかりだった。
先ほど、他のメンバーになのはちゃんのことを話した時に、「彼女の事を頼むと頼まれたばかりだったのに」と、拳を握るクロノくんから聞いていたのだ。
俯くユーノ。
膝の上でギュッと握りしめる拳が、悔しさと後悔を物語っていた。
「シャマルさん」
「何?」
僕は覚悟を決めて、顔を上げると、ポケットから端末を取り出しシャマルに渡した。
「これは?」
シャマルは何だろう?と首を傾げた。
しかし、端末の中身を確認したとたん、戦慄を覚え、背筋が凍った。
「こ、これは!!」
視界を埋め尽くさんばかりの資料の山に、シャマルは
リンカーコアに関連した資料と、怪我を負った魔導師のリハビリプランが書かれていた。
その途中経過や、回復した時の最悪の状態と最高の状態の事例。
先人たちが築き上げた治療法が資料の中にあった。
それだけではない。
なのはが“どちら”を選んでもいいように、魔導師への復帰と非魔導師―― つまり、魔導師ではない人生 ――の両方のリハビリプランが書かれていた。
「(この量を、この短時間で!?)」
シャマルは恐る恐る、ユーノを見た。
ユーノは出された資料を眺めていた。
彼の横顔は、何かの覚悟を決めた瞳を宿した虚無の表情をしていた。
「シャマルさん ――― お願いできますか?」
ユーノは資料からシャマルに視線を移し、頭を下げた。
「・・・っ!――― もちろんよ! 全力で取り組ませて貰うわ!」
自分たちを救ってくれた恩人のために、なのはちゃんを心配するはやてちゃんやみんなのために。
何より、彼女を救いたいという思いが人一倍あるユーノくんのためにも。
シャマルは気合いを入れ直し、再び資料に目を通す。
その様子にユーノはもう一度「お願いします」と下げ、席を立つ。
「ユーノくん」
病室から出て行く直前にシャマルは呼び止める。
「ありがとう。 あなたも休んでね」
「はい」
シャマルはユーノに笑いかけ、彼はぎこちない薄笑いを浮かべてドアを閉じた。
***
Dr.Jの研究室。
地下にある研究室とは思えないほど、明るい研究室に、一室だけ暗い部屋があった。
外の明るさが隙間の空いたドアから入り込む。
真夜中を回ったその時間、ジェイルはチンクからの勧めもあり、ベッドの中で寝ていた。
薄暗い部屋の中で、モニターの蛍火が付き、着信が来たことを報せた。
ジェイルはむくりと起き上がると、モニターを付けた。
彼は寝ていなかった。
いや、眠れなかった。
「! ―― これは!」
開いたメールにジェイルは
***
『
新暦65年 ××月 ○○日
Dear. J.S
ありがとうございます。
一言、それが言いたくて、このメールを送りました。
あなたのおかげで、僕は大切な人を助けることができました。
本当に感謝しています。
Thank you.
Yuuno scria
』
***
ジェイルは崩れ落ちた。
何故、こんなメールを送ったのか。
どうやって、送ることができたのか。
何故、感謝されるのか。
ジェイルの頭の中は、理論や理屈よりも感情に
それでも、“無限の欲望”と歌われた彼はコートを