ジェイル・スカリエッティの奮闘   作:灰恵

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第04話 消失

 

 

 

 

あの事件から、数日後。

 

無事になのはは目を覚ました。

目を覚ました彼女に、良い知らせと悪い知らせが届けられた。

 

良い知らせは、これまでに蓄積された疲労が大きく、ゆっくりではあるが、傷の治りは回復に向かっていた。

悪い知らせは、リンカーコアの異常により、「魔導師としての復帰が望めない」と診断されたのだ。

 

 

 

 

 

「・・・あの、なんとか、ならないんですか?」

 

顔を青くし、言葉を失ったなのははようやく、言葉を絞り出した。

 

「そうしたいのは、山々なんだけど」

 

事実を告げたシャマルは肩を落した。しかし、「ただ・・・」と続けた。

 

「しっかり、リハビリを受けて、身体も自由に動かせるようになれば、以前のようにとは言わないけど、魔法が使えるようにとはなると思うわ」

「そうなんですか?」

 

それを聞いて、落ち込んだなのはも、少しは希望が持てた。

 

「リンカーコアと肉体は密接に関わっているの。魔法を駆使しすぎると、身体がだるくなるのと同じ効果よ」

 

ふむふむ。となのはは聞く。

 

「逆に言えば、身体を鍛えることで、身体が魔力に対応できるようになって、肉体的な負担が軽減するの」

 

ズイっと、シャマルはなのはに近づき、念を押した。

 

「だから、リハビリはしっかりやってもらいますからね」

「はい!」

 

なのはは元気よく返事をした。

 

 

 

 

 

それから、なのはは動けるようになると、少しでも、身体を動かす努力をした。

歩くことすらままならない、全く動かない体を、手を借りながら、ゆっくり、確実に歩けるようにリハビリに専念した。

 

もう一度、空を飛ぶことを夢見て―――

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

ユーノは、忙しかった無限書庫での仕事を終えて、なのはの所に来ていた。

リハビリに専念するなのはと直接会わずに、リハビリセンターのガラス越しから眺める形で。

 

 

「ユーノ」

 

 

後ろを振り向くと、そこにフェイトがいた。

 

「フェイト」

「なのはと会わないの?」

 

フェイトはユーノの隣に並んだ。

 

「うん。邪魔しちゃ、悪いし」

「そんなこと、ないと思うけどな」

 

二人はなのはを見守る。

 

ガラス越しから見えるなのはは、苦悶の表情を浮かべていた。

動かしたいのに、動かない体にジレンマを感じながら、それでも、夢のために、地を這いつくばってでも、懸命に歩こうとする。

 

そんな様子に、フェイトはハラハラしながら、今すぐにでも飛び出したい衝動をぐっと押さえて見守っていた。

 

「我慢してるんだ」

「うん。手伝いたいけど、あれもこれもってしちゃったら、なのはのためにならないから」

 

なのはのリハビリは心配性のフェイトにとって、試練にも近い状況だった。

 

「強いね」

「ううん」

 

フェイトは首を左右に振る。

 

「はやてに言われたの、『あんまり、手ぇ出しすぎるとなのはちゃんのために、ならへんよ』って」

「なるほど」

 

はやてなら、長期入院やリハビリの経験がある。

そのため、一番説得力があるのだろう。

フェイトは、それから心配性の世話好きを抑えているのだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「あ、フェイトちゃん。ユーノくん!」

 

なのはは、一旦、休憩を入れて、一息ついた時に、二人が来ていることに気が付き、喜んだ。

気を利かせた先生は、そのまま、お昼休憩を入れてくれた。

 

 

 

「フェイトちゃん! ユーノくん!」

「なのは!」

 

なのはは、車いすを押しながら近づく。

リハビリセンターから出てきたなのはに、フェイトは一目散に近づいた。

ユーノはその場にとどまった。

 

「なのは、大丈夫?」

「うん! これくらい、全然平気。 先生がお昼休みくれたんだ。一緒にご飯どう?」

「うん。うん! もちろん!」

 

コクコクとフェイトは首を縦に振る。

 

「ユーノくんも!」

「うん」

 

少し離れたところにいるユーノにも、なのはは声を掛けた。

なのはは自分の手で、車いすをこぎ、ユーノの方へ行く。

 

「なのは、車いす、押すよ」

「え、大丈夫だよ?」

 

車いすのハンドルを持つフェイトを、なのはは見上げた。

 

「でも・・・」

 

心配性の世話好きを押さえていると言っても、世話を焼きたいフェイトは、オロオロしていた。

 

「なのは、手を貸して」

「はい」

 

見かねたユーノはなのはに近づき、ユーノはなのはの手を取ると、腕の筋肉を確かめるように、もみもみと触る。

前回の事もあるので、なのはは素直にユーノに任せた。

どうしよう。とフェイトが悩んでいると、ユーノが助け舟を出した。

 

「さっきまで、リハビリして腕も駆使(くし)してるから、少し休むつもりで、フェイトに押してもらったら?」

 

確認し終えたユーノは立ち上がり、そう答えた。

それを聞いて、フェイトはパァァと明るくなり、なのはもそういう事なら、とフェイトに押してもらうことにした。

 

 

 

 

三人で食堂でお昼を食べながら、他愛のない話をした。

執務官の受験を控えてるフェイトは、昼食を食べ終えた後、心配だ心配だと心配性を全面に出しながらも帰って行った。

 

 

 

***

 

 

 

 

午後からの検診まで時間があるなのはのために、ユーノは車いすを押しながら、外を歩いていた。

 

「ユーノくん。ごめんね」

「どうしたの? 急に」

 

木陰の下を、ゆっくりと景色を眺めながら歩く。

 

私はユーノくんに謝ろう、謝ろうと思ってた。

でも、お互いに会う機会がなくて、ようやく廻り廻ったチャンスに、なのはは謝った。

ユーノは気にする様子もなくなのはを見守る。

 

「ユーノくん、気づいてくれてたのに・・・自分の事なのに、何もわかってなくて・・・」

 

なのはは後悔と罪悪感で声が小さくなる。

陽射しが雲に隠れる。

 

「ケガまでして・・・」

 

ユーノは彼女の前に移動すると、そっと手をとった。

“大丈夫だよ”

(うつむ)く私をまっすぐ見つめた彼の瞳は、そう言っているような気がした。

 

「治療方法だって、ユーノくんが頑張って集めてくれてんだよね?」

 

 

 

 

なのはは目覚めてすぐ、「ユーノくんは?」と聞いた。

そのときは、彼はそこにおらず、私が目覚めたことで安堵した顔と“ユーノ”と聞いて渋った顔が良く見えた。

それからしばらくして、シャマル先生から治療方法とリハビリプラン、それらを「一から調べて直してくれたのはユーノくんなのよ」と聞いて、余計に謝りたいと思っていたのだ。

きっと、責任感の強いユーノくんの事だから、自分を責めてるんじゃないかって。

「ユーノくんのせいじゃないよ。悪いのは私なの!」って言いたくて。

 

 

 

 

この様子だと、聞いているのだろうと判断したユーノは、彼女の頭にそっと触れた。

 

「僕はそんな言葉より、もっと別な言葉が聞きたいな」

 

私はじわりと潤み、口をぎゅっと結んだ。

言いたいことを言わせない彼に、ズルいと思った。

同時に、優しすぎるよ、とも思った。

私は涙をゴシゴシと拭いて、震える声で答えた。

 

雲が通り過ぎ、陽射しが降り注ぐ。

 

「ありがとう。ユーノ、くん」

 

ユーノは優しく微笑んだ。

彼は真剣な表情に変えて、もう一度聞く。

 

「なのは・・・もう一度、空を目指すの?」

「うん・・・飛ぶの好きだもん」

 

しっかりと答える。

 

「また、怪我するよ?」

「うん」

「それでも?」

「うん」

 

彼女の瞳は諦めていない。

ユーノはなのはを眩しく感じながら、ギュッと抱きしめた。

なのはは顔を赤くする。

 

「大丈夫・・・なのはなら、絶対飛べるよ」

「ありがとう。ユーノくん」

 

ユーノくんの応援に私は、元気をもらった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

ユーノはなのはを病室に届けて、そこで別れた。

彼女は午後から検診があるから忙しいからだ。

ユーノはここ数日忙しかった無限書庫での仕事を終えて、まとまった休暇が取れた。

 

なのはには、ああは言ったものの、僕は後悔していた。

だからこそ、彼女が望むのなら、力を惜しまない。

 

ユーノはベンチに座り込み、青空の広がる空を見上げた。

本局の中での空は、人工的なものだ。

基本的に空模様は、ミッドチルダと同じにしているようだ。

雨雲が近づき、湿った空気のにおいがした。

 

もう少しで、雨が降る。

 

そう思っても、公園のベンチから動く気にはなれなかった。

僕は彼女とつないだ手を見つめた。

 

ぽつりと雨が頬にあたる。

 

ぎゅっと手を握りしめ、腕で目元を隠した。

 

 

雨が降る。

 

 

雨の冷たさで体温が奪われていく。

雨で服の色が少し変わっていく。

それでも動かない。

 

 

 

 

ユーノはなのはに触れた時、確認したのだ。

彼女のリンカーコアが今、どうなっているのかを。

 

 

 

 

――― ひびが入ってた ―――

 

 

 

ユーノは漏れる声を押し殺す。

 

 

 

――― それも、砕け散る一歩手前だった ―――

 

 

 

 

無限書庫でリンカーコアについて、直接調べたから分かる。

 

 

 

 

――― なのはは、もう・・・飛べないと ―――

 

 

 

罪悪感と後悔と悔しさと。

 

ユーノはそれらの感情で押し潰れる。

 

 

 

命の恩人。大切な人。守りたい人。――― 好きな人。

 

 

 

ユーノは走馬灯のようになのはの笑顔が頭を横切る。

その度に、胸が締め付けられた。

 

 

 

雨が止む。

雨上がりの冷たい風が頬を撫でた。

 

 

 

ユーノは立ち上がる。

 

 

 

顔を上げた彼の瞳に、光が灯る。

 

 

 

 

「――― 待ってて ―――」

 

 

 

なのはがいるであろう病棟を見上げる。

 

 

 

「――― もう一度、君に・・・・翼をあげるから ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

数日後。

松葉づえを頼りに、一人で外に出られるぐらいに、なのはは劇的に回復していった。

 

時折、ふら付いて倒れても、不屈の心で立ち上がる。

それでも、休憩をはさみながら、病院の外を歩いた。

 

ちょうど木陰があるベンチに、なのはは座った。

 

「ふぅ・・・」

「こんにちは」

 

一息ついた時に、上から声がした。

見上げると、見慣れない長身の男性がそこにいた。

 

「こんにちは」

「隣、いいかね?」

「はい、どうぞ」

 

私は松葉づえをどかすと、男性は「失礼」と言って、コートを翻し、一人分開けて座る。

眼鏡をかけた男性は、スッと飲み物を差し出した。

 

「少し、君と話がしたいのだが、いいかね?」

「私、ですか?」

 

開けていない缶と男性を見比べて、私はこくりと頷き、缶を受け取った。

キンキンに冷えた缶は、歩いてきて火照った体に気持ち良かった。

開けて口に含むと、スポーツ飲料の甘さが心地よい。

男性も缶コーヒーを開けて飲む。

 

「あの、私に聞きたいことってなんですか?」

「あぁ、そうだね・・・」

 

じっと、私を観察する男性。

 

「君は、魔導師かい?」

「はい、そうです」

 

病院の患者服を着ていれば、魔導師かそうでないかは見分けがつかないのだろう。

 

「そうか。見たところ、ひどい怪我をして、リハビリの真っ最中といったところかな?」

「そうです」

 

なんで、こんなこと聞くんだろう?となのはは内心、首を傾げた。

不思議そうな顔が表に出てしまったのか、男性は慌てて弁解する。

 

「これでも、私は医者の端くれでね。キミのような実験・・・失礼。あー ―― 患者を診ると、つい、手を出したくなるのだよ」

 

その様子に、私は少し、笑ってしまった。

 

「ごめんなさい。お医者さんというより、科学者の方が似合うなぁって思っちゃって」

「いや、いいんだ。 私も、自覚はしている」

 

男性は照れくさそうに頭をかいた。

 

「随分と回復しているようだが?」

「はい! ここ数日、ものすごいスピードで回復してるって、シャマル先生が言ってました」

「そうか」

 

男性はどこか寂しそうな薄笑いを浮かべたような気がした。

 

「お手を拝借」

「?」

 

男性は片手を差し出した。

私は「なんだろう?このデジャヴ」と思いながら、男性の手に自分の手を乗せる。

男性は軽く手を握り、私の手の上に手を乗せて、包み込んだ。

見上げると、男性は目をつぶっている。

私は自然と呼吸を整えて、終わるのを待つ。

 

 

「・・・あぁ ―――」

 

男性は悲痛な声を漏らし、目を開けた。

男性は手を離すと、落ち込んだように肩を落した。

 

「ありがとう。大体、わかったよ」

「あの・・・私、どこか悪いんでしょうか?」

 

男性の落ち込み具合から、何か悪いのかと不安になった。

男性は首を振り答えた。

 

「いいや、どこも悪くない。 むしろ、健常人とほぼ変わらんよ」

「そうですか」

 

それを聞いて、ホッとした。

なら、どうして、この人はこんなに落ち込んでいるんだろう?

 

「あの・・・」

「もう一つ、聞いていいかね」

 

男性は私の言葉を遮り、質問した。

 

「はい、何ですか?」

「“ユーノ・スクライア”という人物に心当たりは?」

 

え?

 

「私の・・・友達、ですけど?」

「そうか・・・“まだ”覚えているんだね」

「?」

 

それはいったい、どういうことだろう?

 

 

 

「――― なのはーー! ―――」

 

 

 

遠くから呼ぶ声が聞こえた。

 

「さて、私はそろそろ、行こうとしよう」

 

男性は立ち上がった。

 

「あの・・・!」

「君の命。大事にしなさい」

 

引き留める私を差し置いて、男性はそう言い残して、去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ・・・なのは、こんなところにいた」

「フェイトちゃん」

 

全力疾走で走って来て、フェイトは息を整えた。

 

「探したよ、なのは。 部屋に居ないから、心配しちゃった」

「ごめんね、フェイトちゃん。天気もいいから、ここまで歩いてきたの」

 

なのはは「飲みかけだけど、飲む?」とさっきまで自分が飲んでいた缶を、フェイトに差し出した。

「ありがとう。なのは」と言って、ゴクゴクと飲み干した。

 

「ねぇ、フェイトちゃん」

「なに? なのは?」

 

「・・・あれ?」となのはは首を傾げた。

フェイトちゃんに聞きたいことがあったのに、忘れてしまっている。

 

「?」

 

フェイトも首を傾げて、なのはの言葉を待っている。

 

「えっと、フェイトちゃんに、聞きたいことがあったんだけど・・・」

「けど?」

「・・・ごめん、忘れちゃった」

 

ぺろっと舌を出した。

フェイトはがくっと肩を落した。

 

「もう、なのはったら」

「ごめんね」

「あ、ところでなのは」

「ん?」

「このジュースどうしたの?」

「ああ、さっき貰ったの」

「貰った? 誰に?」

「さぁ? 知らない人」

「ええ!? なのは! 知らない人から、貰っちゃダメだよ!」

「そう? 親切な人だったよ」

「もう・・・」

 

フェイトはなのはに呆れて、肩を落した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはがフェイトに聞こうと思っていた存在が、手紙とともに消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 








予定より長くなった_:(´ཀ`」 ∠):_ …
あと、おそらく残り1、2話ほどかと。
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