「ちひろ先生を探す…………?」
私のその提案に疑問符を浮かべる乃々。確かに砂漠から一粒の砂を見つけるような途方もない話だ。だけど、待ってるだけじゃ、負ける。
「私がここにいられるのは十二時まで…………それが過ぎたらまた消えてなくなる、だからそれまでにアイツを倒して────」
そう言いかけて止まったのは、乃々が心底悲しそうな顔をしていたからだ。気持ちは分かる。もし私が逆の立場だったら、十二時の魔法が解けない、そんな夢のような方法を探すことを提案するだろう。だが、残念ながら私は乃々じゃないし、そんなことをしている時間もない。時計の短針は既に十を指し示しているのだから。
「凛さんは………………怖くないんですか? 嫌じゃないんですか?」
消えることが、その言葉を避けたのはそれが優しさからだろうか。
「私だって消えるのは嫌だよ────でもね、乃々を見殺しにするのはもっと嫌」
「…………………………そう、ですか…………」
納得しきれていないだろうその面持ちに、やるせない気持ちが溢れてくる。でも止まることは出来ない。あの暗闇から出たときに今度こそ守り抜く、と決めたから。
「────────こんなところで何をやっているんですか? 乃々ちゃん」
ふと声をかけられ、そちらを振り向くとそこには緑の事務服を着た忌々しい顔の主催がいた。
「乃々、下がって!」
「い、いや凛さんあの方は多分…………ちひろ先生じゃないと思います…………」
そう言って私の背から進み出る乃々。どうやらこの世界の元いた千川ちひろらしい。
「こんな夜遅くまで…………あぁ…………そういう事ですか────」
言葉の途中で私の存在に気が付いたらしいちひろさんは、私と乃々を交互に見ながら何か納得したように頷いた。
「どうやら本来の役割から飛び抜けたお仕事をしている事務員がいるみたいですね」
「ちひろさん………………?」
「着いてきてください、あなた達が行きたい場所へ、ご案内します」
事の顛末を知っている様子のちひろさんは、その場所へ向かいながら色々と話してくれた。
曰く、アレは美穂に倒された千川ちひろの残留思念で、黒いバケモノと同じ類いのモノであること。
曰く、アイツはシンデレラが登る階段で待っているだろう、と。
「あの…………なんでこちらのちひろさんはその事を知っているんですか…………?」
「それは守秘義務があるので詳しくは言えませんが彼女は別世界の私、自然と理解出来るんですよ」
「とは言え、凛ちゃんのことはスッカリ忘れてしまっていましたし、それどころか凛ちゃんを見るまで彼女の存在すら忘れていましたから大きな口は叩けないんですけどね」
自嘲気味に笑うちひろさん。その言葉には、どこか切なさが混じっていたような気がする。
「さて、着きましたよ。もう一人の千川ちひろはこの階段の先にいます」
そこは事務所のエントランスにある階段だった。普段と何も変わらないそれだったが、一つだけ違う部分が見受けられた。
「透明な扉…………!」
階段を登りきったところに、見覚えのある透明な扉がポツンと佇んでいた。
「残念ながら私はあそこにはいけません、あそこに行っていいのはシンデレラだけ…………さぁ、覚悟は出来ましたか?」
覚悟という言葉にはチラリと乃々の方を見る。彼女のその瞳には不安の二文字が入り交じっていたが、覚悟は決めたらしい。
「それじゃ、行こうか」
内気なシンデレラの手を引いて階段を登る。今度こそ決着を着けることを心に決める。この夢の階段に─────。
シンデレラガール(物理)って何よ