回復術士は復讐出来ない 作:ルイーゼ
どうやらジオラル王国は他国との戦争中であったようだ。
余程大きな戦いなのか、ジオラル軍の中には三英雄の『
『軍神』ノルン姫は流石に幼すぎるのか此度の戦場には招かれていない。
『……ふぅ』
低い男のような声だ。
まさか声帯模写すら可能とは、全くブレイドという女はどこまで才能を秘めていたのだとルイーゼは小さく呆れてしまう。
漆黒のボディースーツと罅割れたマスク。更に剥き出しのパイプと配線のようなものを巻き付けたルイーゼはその戦乱の中で散歩でもするように悠然と歩いていた。
()
……ん?
青髪の青年が、こくこくと近づいてくる。
その手には、『聖剣』そう揶揄するに相応しい煌びやかな長剣を携えていた。
クライレット一族…か。
顔立ちがクレハに似ていた。恐らくは姉弟。非常に強い血の繋がりを感じさせられる。
その面構えや迷いのない足取りから、このような戦場には手慣れている。恐らくは何度目か当たるのであろうとルイーゼはそう判断する。
かなりの強者のようだが原作での登場がなかったことから鑑みるに、これより先の未来で討ち死んだのだろう。
それとも今回の戦場で命を落としたのだろうか。レベルは私よりも低い気がするが、もう上限に達してしまったのだろうか?
「――うぉぉぉぉ!!」
そうこう考えているうち、
青髪の青年は長剣を振りかぶり、ルイーゼへと剣の軌跡を描いてーー
(…………クライレットの剣。クレハの前座として味わうにはこれ以上ないですね)
そのモーションに合わせて腰の剣を引き抜いた。
それは気付いたら目の前にいた。
「離れろ、アーサー!」
二Mに近い異形の存在。
全く気付けなかったと狼狽する少年に、味方の男が警戒の声を飛ばした。ビクリと震え瞬時に後退する。
「チッどこから沸いて出やがった!」
両手剣を抜いた少年アーサーを横に、巨大な盾と剣を持つ男は己が武器を構え、後ろに立って杖を握りしめるローブの少女は、歯をガチガチと鳴らしながら怯えるように一歩、二歩と下がった。
「あ、ありえない…この風は魔力が漏れ出している?
まさか、残滓だけで……何なのこの馬鹿げた魔力量は…っ!」
先程、掃討するに至った人間と魔族が共存する国の兵士達。
ジオラル王国の剣聖の弟と騎士団長を警護として宛がわれた王女フレアは、人類の天敵たる魔族とその邪悪な力に魅せられた悪鬼らを人類最高と評される自慢の魔術を以て蹂躙せしめ、初陣にして晴れやかな勝利を収めた。
―――それで、終わる筈だった。
「…魔神」
誰かがそう呟く。
突如として現れたそれは、闇そのものであるかのように黒く、禍々しく、絶対者たるオーラを放っている。
先程まで戦っていた魔族を彷彿とさせるヒトならざる姿という点においては共通だった。しかし、これは魔族ではないと本能が告げる。
まず、こいつは生き物なのか?
まるで内から溢れだした骨や腸をその身に巻き付けているような見た目をしていて、魔族ですら一応生物としての原型を止めていたというのに、顔が半分砕けて平然としているこれは生あるものとしての常識を逸脱している。
目にした瞬間、フレアはどうしよもなくこの場から逃げ出したい感情に駆られた。
自らに戦士としての勘はないが、ヤツから漏れ出す突風のような魔力の残滓……豊富な魔力量を持つ高位の魔術師ともなると無意識に垂れ流してしまうというこれだけで突風が起きるということ。
仮にヤツが魔術を使えばどれ程のものになるかを想像してしまったフレアは人類最高峰の魔術師としての誇りが音をたてて崩れていくのを感じる。
――コイツは、人が、魔族が相手していい存在ではない。
フレアのみならず、この場にいる誰もが思った。
…そして、アーサーは魔神と目が合った。いや、合ってしまった。
(――――死ぬ)
全身の汗腺が開いて身体中の水分を捻り出す。
アーサーはこの一瞬で、目の前の化け物に何度も自分が殺される幻影を見た。
殺らなければやられると。歴戦の最中、鍛え上げられた肉体は無意識に剣を握り、打倒魔神に向けて跳躍する。
地面がえぐれ、音を置き去りにした。
剣聖クレハすら先手を許してしまう『最速のクライレットの剣』と云われるアーサーの一撃が縦に振るわれる。
そして、その剣ーー聖剣は魔神を前にして、魔神は無骨な長剣を打ち合いに出した。
『ハハハーー』
呆然とするアーサーに魔神は笑った。アーサーはクレハですら止められなかった一撃を防がれたことにサッと顔を青ざめながらも、自らが得意とする高速剣術で敵に斬りかかる……カンカンと軽い音で弾かれた後に、みぞを殴られた。そして体をくの字に曲げて地面に転がっていく。
『その程度か?貴様の強さは、』
その場の空気が恐怖に凍りつく。
最速の剣をほぼゼロ距離から抜刀した剣で打ち返されたショックもあったが、なりよりあのクライレットが手も足も出ないこの状況が信じられなかったのだ。
『ーーつまらん』
誰一人として動かなかった。
フレアのように心が折れたもの。重傷で動けなかったもの。
皆が等しく死を覚悟した。
剣術も魔力も身体能力すらも次元が違う。
『――ん?』
そんな時、フレアの方へと怪物が視線を向けた。
非生物的な赤い瞳が恐怖に怯える自らを写し出す。
「あ、ぁぁ……」とフレアは声にならない悲鳴を上げ杖を取り零してしまい、その太股には温かな液体が伝う。
『杖の勇者。フレアか……ふむ』
自分を殺す方法でも考えているのだろうか。それとも殺されるより酷い目に遇わされるのだろうか。フレアの無駄にある拷問の知識が恐怖を駆り立てた。
『……当初の計画通り剣聖の座を強奪する』
そんな一瞬が永遠に感じられる時間。魔神の姿は、唐突に霧散する。
まるで、あの絶望が幻影だったと錯覚するほどに足跡すら残っていない。
「……助かった、のか?」
誰かが言った。
それで初めて自分が助かったと知ったフレアはパタリと腰をついて幼子のように泣きじゃくった。
「もう゛じまぜん、ごべんなざい!!!!!」
この日より彼女は他者を見下すのを止めたのだと言う。
スキル『暗歩』で気配を消しながら移動中にフレア一向と遭遇。
威嚇の為に『魔力放出(風)』を使うも、フレアはそれを漏れ出した魔力残滓だと勘違い。
アーサー君は高速戦闘は得意だが技術が拙い。
そしてルイーゼは高速戦闘は得意で技術もそこそこ高め。よって瞬殺。
ルイーゼ「あ、フレアがいる」
フレア「殺される!?」
人物紹介
アーサー(非公式)…クレハの弟。『最速のクライレットの剣』と云われる高速剣術が得意。基本無口。
フレア…ジオラル王国の王女であり杖の勇者。自分以外の全てを見下している。