回復術士は復讐出来ない 作:ルイーゼ
「しくじった」
新兵でもするかしないかのミスをして、俺は地べたに寝転がっている。
「しくじったなぁ~」
背中は真っ赤に焼け焦げ、とても一人で起き上がれる状態じゃない。
「勇者と言えど、所詮は人ということなのかねぇ」
勇者。世界でただ一人の神に選ばれた男。【砲】の勇者ブレット。
それが俺の名だ。
これでも国お抱えの諜報部隊として若き頃は活躍し、それから一世代に十人も存在しないというレア中のレアスキル『勇者』として覚醒してからは神造武具という、神の裁きを思わせる強力な武器を担いで戦場を駆けずり回った。
前途に言った通り、勇者は複数人居ると言うが、この時代にはまだ俺以外に勇者はいなかったから結構好きにさせてもらった。念願の孤児院の建設や“男の子”だけの引き取りについてはかなり融通を効かせて貰ったと思う。
『あの子』の変わりになるような存在はまだ現れていないが、自分の経営する孤児院の子供らは、とても良い子たちばかりだ。
純粋無垢であり、穢れというものを知らない。
けれど、そんな良い子たちも何れは嘘と欺瞞に満ちた薄汚い大人へとなっていくのだろうと思うと途端に胸が苦しくなる。
それをブレットという男は耐えられなかった。
何故完璧な存在である愛しい子供達が腐っていかなければならないのか。
純白のキャンバスに泥が塗られていく様を許容せねばならないのか。
それに抗おうと、よりよい教育というものを探求しても、肉体の
どうして、どうして、どうして。
若きブレットは悩み、葛藤して……ある日、真理に至った。
―完璧な魂、完璧な肉体であるときに、
最も完成された時に終わるべきだという思想。
その魂を自らの記憶へと収めて肉体をホルマリン漬けにすれば永遠に清くあれる筈だという異端した思考回路。
ブレットという男は狂気に飲まれていた。
元々この男がそういう人間であったのか、後天的に目覚めたのかは分からない。
ただブレットが今回の戦場が終われば、第一回目の“卒業式”を執り行う予定であったことは確かだ。
そして、神はそんな悪行を許さないとでもいうのか、ブレットは流れ弾に被弾して重傷を負っていた。
卒業式を前に気分が高揚していたせいか、いつもより注意力が散漫していた結果だろう。
「…でも、これであの子達を殺さなくてもすむならいいのかもな」
仰向けになったブレットは全身の痛みに顔を歪めながらも、雲一つとない鮮やかな青空を見上げて息を吐く。
毒気が抜けたように霧の晴れた意識の中で、今さらながら自分が行おうとした狂気の沙汰に身震いした。
だが、これは一過性のものだ。この戦場から生き残って十分に休息を取れば、きっと定刻通り“卒業式”を行うに違いない。
そして砲の勇者ブレットはこんな所では死なない。あと少しすれば、駆けつけた味方に助けられてしまうのだろう。
―――だから私はこう呟くのさ。
ネタ解説。
【
ルイーゼのクラスは完現術や回復術士ではない為、【
……と、剣の勇者となったルイーゼの過大解釈から生まれた非物質を斬り裂く能力である。
今回、ブレットの何を斬ったのかはヒミツ。