ある<守護戦士>の冒険   作:廓然大公

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第3話

エルダーテイルの世界には高度な文明がある。

 

正確に言えば高度な文明が、あった。

 

 神代と呼ばれる遠い昔、現代の地球のような高度な文明を持った時代があったとされている。然しその文明も太古の昔に滅び去り、彼らの残した建造物や高度なマジックアイテムが各所の遺跡には残されている。

 

 

 

 全世界に展開していたゲーム、エルダーテイルはセルデシアを地球の地形を模して作り上げた。ヤマトと呼ばれる日本サーバーも又その例に漏れず、現実の日本列島と同じような地理地形をしており、各地にはそれぞれの特徴的な建造物や地理的特徴を模した建造物が配置されている。ヤマトサーバー最大のプレイヤータウンであるアキバにほど近いシブヤに存在する放送局跡や京の都を模したと言われている<ヘイアンの呪禁都>、マイハマにある<灰姫城>の様にご当地施設をオマージュしてゲームに登場させていた。

 

 

 彼の目の前に広がるそれもその類のものだった。モチーフは美術館か博物館か、はたまた大型商業施設でもあったのか朽ち果てた大きな建物が聳え立っている。あたりを山に囲まれ半ば森に飲まれたようなその建物、元はガラス張りであったのだろうかその正面に壁はなく割れた窓枠だけが寂しく風を通過させている。<ゲルダイナの杜>それがこのダンジョンの名前、そして彼の目的地でもあった。

 

「随分と遠くからのお客ですね」

 

 誰にともなく呟きながら暗く苔むした館内へと入り込む。唐突な刺激臭が鼻につく。

生き物の匂い。

僅かに湿ったようなその匂いが流れ込む。薄暗い入り口ロビーは風化したように外装が外れ、建材たちの鉄骨や砕けたコンクリートがあたりに散らばっている。静謐な杜の一部と化したようなその建物、剥がれ落ちた天井の化粧板が地面へと落ち砕ける。落ちた天井はところどころ砕け、空からの細い陽光がここまで降り注いでいる。僅かな光はその行き先を僅かに照らしているもののその行き先は暗い。彼はバッグの中から小さな瓶詰を取り出すとそこから小さな綿毛を取り出した。瓶の蓋を開けるとその綿毛はゆっくりと光を放ち始めると彼の周りを照らし始める。彼が歩き出すとその綿毛は彼に付き従うように彼の足取りを追いあたりを照らす。比較的細い通路、時折見える脇道には店舗でもあったのかそれとも展示室でもあったのか既に片付けられたのかガランとした小さな部屋が残されている。柱の崩れたような瓦礫を避けながら進む道にはいつの間に何かがへばりついたような、泥と朽ちた枝葉のようなものが詰まれていた。彼のレベルを畏れたのか小型モンスターが出てくることはなく、自分以外の音はない暗い廊下を行く。

 

 

 十分ほど進んだところだろうか、唐突に視界が開ける。大きなロビー、元は豪奢な宮殿だったのかもしれない、然し今そこには見る影もなく、コンクリートのような硬質な床には無数の白い汚れがへばりついている。雨に濡れることもなく、風雪にさらされることもないそれは硬質な塗布材のように固まり一種の壁の様に彼の行く手を遮っている。腐ったような淀んだような生き物の腐敗したすっぱいような刺激臭が鼻を衝く。本来あったような吹き抜けの部分には無数の枝葉が持ち込まれ絡まるようにまとめられ天井を圧迫している。まさに成れ果てたダンジョンがそこにあるだけだった。

「素材はあんましおいしくはなかったっけな」

ただの偶然か、はたまたその言葉に腹でも立てたのか寄生を揚げながら襲い掛かってきたのは見慣れた大型の鳥類、まぎれもなくそれは<禿巾鳥>ホーデットバルチャー、ノルン嬢の村を襲ったはぐれの一匹と同種のモンスターだった。

 

「うぉっと、気が立ってるのはいかん」

 

逃げるように空中からの突進を避ける。

 

「異常繁殖か、別種さんのお引越しか。どっちにしろぞっとしない話だ」

 

そういいながら彼は取り出した大盾と剣を構える。

 

「<アンカーハウル>っ」

 

 大楯を剣で叩く。

 振動する大楯は銅鑼に似た響く低温をあたりへと響かせる。割れるような、敵愾心を煽るようなその音とともに唱えたのは<守護戦士>の基本特技の一つ、<アンカーハウル>、その効果は敵のヘイトを自分に集めることで敵の攻撃から仲間を守るというタンクの役割の基本を体現するかのような特技。音と呪文はあたりへと見えない波となって伝わる。結果彼を狙うのは五対の紅い瞳だった。

 

「ちょっときつい」

 

 その声を聞き届けたようにまず二体が飛来する。

吹き抜けの惨害部分に当たる手すりから墜落するように、滑空するように向かってくる巨大な体躯。彼はその二つから目を離すことなく手にしていた二つのポーションを取り出すとそのまま口の中へと流し込む。途端にかれの周りを赤と青の光が灯る。湯気のようなうっすらと灯るその明かり。空になった瓶を飛来するその二つの蔭へと投げつける。小さな衝撃にその襲撃者はひるむことはない。小さな舌打ちとともに彼は手にしている大楯を構えた。

 

 瞬間鳴り響くのは硬質な衝撃音。

 

一匹目のかぎ爪は獲物の体をとらえることなく大楯の表面を削りとるのみ。硬質な鉄板を僅かに引き裂く甲高い音、然しその音は予想よりも速くなり止んだ。

代わりに聞こえるのは僅かな彼のステップの音。大楯は襲撃者の爪を半ばまで防ぐと彼は体を半身ずらすように受け流し、小さなステップは彼を襲撃者たちの横へと滑らせた。

 

「<シールドスイング>っ」

 

 すかさず張り上げた声に呼応舌のは唸りを揚げるその大楯。僅かな黄色のエフェクトを纏いながら彼は何かに押されるように踏み出す。構えた大楯はまさに壁の様な堅牢さをほこり、黄色の効果光を纏いながら踏み出した一歩は目で追うことも出来ないような音速へと至る。攻撃を終えた一匹目、そして爪を振り上げた二匹目は既に旋回することもできない。

盾が向かうは延長線上の二匹

逃すことはなく二匹はトラックにひき去られたように砕け、地面へと墜落していった。

 

 

 

<ゲルダイナの杜>

 

 それはエルダーテイル第四弾拡張パックの際に実装されたダンジョンの一つ。神代の娯楽施設だったそれは時を経て禿巾鳥ホーデットバルチャーを中心とした大型猛禽類系モンスターたちの巣窟となっていた。プレイヤーたちはダンジョンへと乗り込みそこに巣食うモンスターの盗伐や残されている宝の捜索、果てはサブクエストに設けられた彼らの卵を強奪、納品するといった様々なクエストの起点ともなったダンジョンとして足を踏み入れていた。推奨レベルは四十代と現在としてみれば低レベル帯のダンジョンであり、大災害以前においては既に用いられることも少なくなっていたようなよく在るダンジョンの一つだった。

 

「あーあ」

 

振り返れば残るのは六つの紅い瞳。襲撃者の力量を認めたのか、同胞の仇討ちなのか、確かにそのヘイトはこちらへと向いていく。

 

「もんすたーにもちっとは情けってものがあるのかね」

 

大楯を振り、表面にへばりついていた肉片を払いのけ、再び彼らを見据える。

その瞬間。

一匹が鳴き始める。小さく、途切れるような声はどこかモールス信号の用にも聞こえる。胸を大きく膨らませ、同時に翼を小刻みに大きくばたつかせる。

それは呼応したようにあたりの鳥たちへも伝染していく。声は重なり共鳴し始めたその声に彼はあたりへの軽快を強める。初めて見るその鳥たちの行動に目を光らせながらゆっくりと退路を確認する。

 

そしてその声は唐突に止む。

一瞬の静寂に彼は小さく身を震わせる。確信したようにあれはその両手に力を入れるように己の武具へと力を込める。同時にまるで計ったように彼の後方に開けていた入り口は天井から崩れ落ちてきた瓦礫によって隙間を塞いでいく。

彼の舌打ちは鎧兜の中に収まり、然し、その不愉快な静寂を消してくれるほどの効果はない。

 

やがて、その時は来る。

 

 

それは拝謁

それは王権

それは凱旋

 

 

奥から出てくるのはこれまでと変わらぬような大きな鷲のようなコンドルのような、どこか極最長のような大きな羽根を持った禿巾鳥ホーデットバルチャーの姿。

いいや、よく見ればその姿がこれまでの者とは違うことがわかる。襲い掛かってくるその爪はないっよりも大きく鋭い、足は大きく、牛程度なら片足で持ち上げられそうなほどの強靭さを持つ。広げた翼は小型の電車ほどはあろうかというほどに大きく膨れ上がったような羽毛はその体躯を数倍に見せる。何より大きな体は彼を囲むような他の個体とは比較にならない。本来であれば薄いピンクのような大きな禿頭は紅く、染められたように鮮やかな色へと染まり。爪の先、そして足の付け根等も同じように薄くしい赤に染まっている。そして覗くその鋭い野生の眼光はまさに自分がこの群れの主であることを否応なく感じさせる。

 

 亜種個体、禿赤鳥レッドレッドホーンデットヴァルチャー。ステータスに表示された大怪鳥にはそう名がつけられている。レベル七十五、ハーフレイドクラス。それはつまりこれまで戦ってきたような固体とは明確に違う上位種であるということ、そして何よりあいつは本来レベル七十帯が十二人そろって対応できるレベルのモンスターであるということだった。

 

「くそっ」

 

退路はない、眼前には既に大きくかぎづめを馴らす怪鳥が立ちはだかる。

視線を外すことなく鞄から二つの瓶と一つの丸薬を取り出すと、丸薬を水薬で流し込むように飲み込んだ。僅かに体の血の巡りが早くなったような熱を持つ。攻撃アップと防御アップ、会心率アップ、弱体状態無効、彼を覆う虹色にも見える蒸気は彼にかけられた数々のバフを表す。本来ならば<付与術師>や<神祇官>のような別の職業のプレイヤーたちにかけてもらうようなもの。しかし彼の場に仲間はなく、<守護戦士>である彼にはそれを代用できるような特技もスキルもない。

 

「タダじゃねぇんだぞ」

 

 最後の一滴までを飲み下した瞬間、耳をつんざくような雄たけびとともにそれは動き出した。

王命が下ったとでもいうようにその雄たけびに続く周りの小さな鳴き声。うねるように合一した共鳴は古びた彼らの寝床揺らし、襲撃者へと襲い掛かるように放たれた。

 

「うるせぇうるせぇ」

 

大楯に身を隠すように咆哮を払いのける。

 

「耳栓でも持ってくればよかった」

 

彼へと殺到するホーンテッドヴァルチャーを一刀にて切り払う。

 

「レベルが違うんだよ、レベルが」

 

一瞬にして死した同胞に目もくれることはなく、それは彼を見つめ、そしてその背後からはまるで当然のことく補充の様に二体のホーンテッドヴァルチャーが姿を表す。

 

「無限沸きかよ」

 

うんざりしたように呟き、次の瞬間には彼はその目に力を込める。

 

「じゃあお前倒したら終わりってことだ」

 

彼は大楯を叩く。

銅鑼に似たその音はあたりを流れ、彼へと注目を集める。

全ての目は彼へと向き、全ての敵意は彼へと刺さる。

 

「<タウンティングシャウト>っ」

 

轟音に載せるような鬨の声

そしてそのすべてを受けた彼はゆっくりと手にした剣を掲げ、相対する禿赤鳥へと向ける。

 

「勝った勝った、今夜は親子丼だ」

 

 

迫りくる敵に向かい彼は笑った。

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