ある<守護戦士>の冒険   作:廓然大公

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第6話

 仲間が砕ける。

青色の鎧を纏った<武士>が地面へと膝を突いた。力なく正面へと倒れ込む彼に既に意識はなく、漏れ出るような虹色の気泡があたりへと散っていった。

 

「にゃんまるっ、ケンケンっ」

「無理っ、リキャスト間に合わないっ」

「こっち駄目だっ手うぁわっ」

 

 アマリリスの声に回復役の男は叫ぶように言い放った。もう一人の声を聞くことはなく、襲ったのは燃えるような炎の壁。彼女たちを分断するように走ったその壁を彼女はその身のこなしですんでのところで回避する。

 

「ああぁぁ」

 

しかし、一人。<神祇官>の青年は逃れることは出来ず、その身を焼かれていく。彼にかかっていた障壁画割れるパリンという音とともに白い狩衣が燃えていく。黒く焦がれ行く彼の悲鳴があたりへと響き、そしてゆっくりと倒れていく。

為すべきはなく、彼女は歯を食いしばる。

 

 

 

それはあまりにも唐突な侵攻だった。

調査隊として選抜されたのは<ホネスティ>でも上位と言われるような手練れの者たち。レベルはトップクラスの九十代を誇る六人だった。これまでの捜索隊としての経験も嵩ね少なくないほどの功績を重ねてきた者たち。

70台のハーフレイドモンスター、それは彼らにとって障害と成りうるものではない。エルダーテイルにおいて二十のレベル差というのは埋めがたいほどの大きな力量の断絶となる。

 事実、唐突に彼らの前に現れた禿赤鳥レッドホーンテッドヴァルチャーと引き連れたホーンテッドヴァルチャーの群れの掃討はさして厳しいものではなかった。<ゲルダイナの杜>その中庭ともいうべき広場へと入り込んだと同時に襲撃してきた襲撃者の群れを彼らは労もせずに討伐していく。慣れたように、十分な回復とヘイト管理は安定した戦線の維持を構築する。

 

 しかし、それはレッドホーンテッドヴァルチャーのHPが半分を切った時に起こった。

それは二匹目レッドホーンテッドヴァルチャーの襲撃だった。

一戦につき一体、ゲームにおいて鉄則であるはずのその約束は破られ、あたりへと飽和するように彼らを二つの火炎弾が襲う。

 

ゲームではなく、そこには無常なる生存競争があるだけだった。

 

「隊長っ」

 

彼女の声は<妖術師>の青年に届くことはなく、彼は火力を目の前の大鳥へと集中させる。

 

「だめだっ」

 

 レイド戦の鉄則、それは盾役となるタンクよりも攻撃役が出ないこと。重装甲による高い防御力や他よりも多いHPを持つタンクが、対象となる敵の注目、ヘイトを集めることによって他のパーティーメンバーへの攻撃を反らし、その間に攻撃力の高いアタッカーが敵のHPを削る。ヒーラーは最も攻撃を受けるタンクへの回復と適宜全体への補助を行うことで戦線を維持し本来であれば勝てないような圧倒的なHPを持つボスの攻略が可能となる。

逆に言えば、タンクにいない状態でアタッカーが攻撃を行えばそのアタッカーへとヘイトが向く。防御力の低いアタッカーではその攻撃に耐え切れず、それは同時に回復役の負担が増加、最終的に音連れるのは戦線の崩壊、そしてパーティー全滅という敗北の結果をもたらす。

武器攻撃職、アタッカーの役割を持つ<妖術師>のタージマンがその攻撃を与えれば次の標的は彼へと向く。

 

 やめさせなければ彼へと攻撃が向くことは必至、しかし、既にタンクだったはずの<武士>はいない。

怪鳥はゆっくりと彼へとその頭の向きを変える。彼はそれを睨みつけるように手にした杖を掲げる。見知った蒼い雷電が杖を纏い始め、それは彼自身へと広がっていく。

<ライトニングチャンバー>、

<妖術師>の扱う呪文の中でも最大級の威力を誇る単体攻撃呪文。彼へとヘイトを向けた二匹目、残りHPの多い二匹目に当てれば一定時間の麻痺による攻撃不能時間が発生する。その間に削り切ることができる。そうなれば残り一体程度ならばあと残った僅かなHPを押し切ることは出来る。

彼女は彼へと向いたヘイトを肩代わりするように手にした長鎗を握り直すと力を込める。

 

「<カーテンドロップス>っ」

 

<吟遊詩人>から放たれたそれはタージマンへと向かい透明な膜が彼を覆い隠すように包む。それはつまり彼のヘイトをさげていく。いい動きだ、彼女の糸を呼んだような仲間の<吟遊詩人>のバフにニヤリと頬を歪ませる。

 

「<ガストステップ>っ<ステルスブレイド>っ」

 

瞬きのうちに二匹目の元へと到達する。<暗殺者>のその速力を載せた一閃、本来ならば奇襲を狙うその技はその性能の半分も出されることはなく、しかし、確かにヘイトは彼女へと向く。

 

「いまだっ」

「<ライトニングチャンバー>っ」

 

長い詠唱の果て、その大魔法は青い紫電となってあたりを白く照らす。

終結への大きな一手

 

 

 

その閃光は飛来したそれへと触れ、そして弾けた。

 

 

 

巨大な雷電があたりを蹂躙し、あたりを白く包み込む。

雷電によるオゾンのような刺激臭があたりへと立ち込め、あれた大地は焦がれ、黒く焼きついている。タージマンによって放たれたそれは確かに一撃必殺の威力を表し、砂埃が収まり始めたとき、底には一つの死骸が残されている。

それは一匹目の死骸、HPの九割を削られ、すでに瀕死だったはずの一匹目の死骸だった。

 

「そんな」

「かばったってのか」

 

答えるように生き残った二匹目は、大きく雄たけびのように甲高い鳴き声を上げる。まだHPの六割を残すそれに鼓舞されたようにあたりのホーンテッドヴァルチャーも共鳴するように鳴き声を上げる。

 

「タージマンっMPはっ」

 

彼女の問いかけに彼は苦い表情を浮かべるだけ。リキャストタイムは長く、もう一度打つためのMPも既にない。

為す術はもうなく、彼らへと向けられたその捕食者の目は笑っているように見えた。

 

「ケンケンっ、障壁っ」

 

アマリリスは咄嗟に口に出すも既にその相手はいないことに気が付いた。

残ったレッドホーンテッドヴァルチャーは大きくのけぞる。それは範囲攻撃の合図、如何に格下相手とは言えダメージ軽減がないアタッカー職に耐えることはできない。然し<神祇官>は既に落ちている。<吟遊詩人>の彼女は手にした弓を取り落としていた。

 

 

全滅

 

 

その二文字が頭をよぎる。

久しぶりの感覚。

大災害以後変わってしまったその言葉。

胃酸のような苦く焼けるような痛みが遅い彼らを飲み込んだ。

陣形は崩れ、リソースは尽きた。

術は尽き、切り札はない。

 

 

ゲームのようにこれ以上出来ることはない。

 

 

 

そして

 

 

 

「<キャッスルオブストーン>っ」

 

盾を鳴らし金色に輝く彼が、空から落ちてきた。

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