気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!   作:味噌村 幸太郎

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128 TENJIN!

 あのあと、アンナは俺に背を向けると口元を手で隠しながら電話をしていた。

 ヒソヒソ声だが、受話器から相手の怒鳴り声が漏れている。

 

「あ、あのね…。ねーちゃん、だからさ…」

 女装しているが、声がワントーン下がったミハイルくんに戻っていた。

『あぁ!? ミーシャ、おめぇは今どこにいるんだぁ!』

 

 スピーカーモードにしているわけではないのに、ミハイルの姉のヴィクトリアがその場にいるようだ。

 大声で叫んでいるため、ホームのまわりの人々がアンナに釘付けだ。

 

「ご、ごめん、ねーちゃん……わけはあとで話すからさ…」

 あたふたしながら言い訳をするアンナ(♂)

『ミーシャ、お泊りは二十歳になるまでダメったろぉ!』

 どこのお母さんですか?

 なら喫煙とかも注意しとかないと……。

 

 アンナが叱られている姿を見るのも心苦しかった。

 やはり俺がちゃんと対応していれば、こんなことにならなかったしな。

 責任は俺にもある。

 姉のヴィッキーちゃんにも俺から一言謝りたい。

 

 心配した俺はアンナの肩をトントンと軽く叩いた。

 振り返った彼女は涙目。

 今にも泣き崩れそうだ。

 スパルタママなんだろうね、おねーちゃんだけど。

 

「アンナ、俺に代わってくれないか? ヴィッキーちゃんに説明させてくれ」

「え、タッくんが? どうして……」

「まあ、俺にも任せろ」

 俺がスマホに手を伸ばそうとしたその時だった。

 

「だ、ダメェェェ!!!」

 

 優しいアンナが初めて俺を拒絶した。

 俺の手を振り払い、スマホを隠す。

 

「し、しかし……」

 俺がうろたえていると、アンナはすかさずスマホの電源を切ってしまった。

 スマホがブラックアウトする寸前で、断末魔のようにヴィッキーちゃんの声が。

 

『お、おい、話はまだ……ブツッ』

 知らねーぞ、あとが怖いやつだろ、これ。

 

「ハァハァ……」

 肩で息をするアンナ。

 尋常ないぐらい大量の汗を吹き出し、顔が真っ青だ。

 

 やはり女装しているときに、ヴィクトリアと接触するのは良くないようだ。

 すなわち、ミハイルとアンナが同一人物であることを、俺に証明してしまうことになるからだ。

 それにアンナの存在自体を、姉に隠している様子だったし。

 俺が電話に出るのも、なにかと都合が悪いのだろうな。

 

「ヴィッキーちゃんと電話したいときは、ミーシャちゃんといるときにしてね……」

 目の色が真っ赤になっていた。

 よっぽどヴィクトリアに正体がバレるのが嫌らしい。

 俺にはバレているんだけど、知らないのは本人だけだしな。

 ついでに妹にもバレている。

 

「わかったよ……。だから落ち着いてくれ、アンナ」

「う、うん」

 頷くとスマホをバッグに隠すようになおした。

 

 そうこうしているうちに、駅に博多行きの列車が到着する。

 俺たちはヴィッキーちゃんの恐ろしさを互いに知っているため、電話のことには一切触れず、車内に乗り込んだ。

 博多につくまでしばらく無言のままだった。

 このデートのあとが怖いからだ。

 

 

 博多駅につくとすぐに天神行きのバスに乗りこむ。

 天神までは片道100円でいけるから西鉄バスのほうがお得だ。

 

 バスに乗る際、入口でICカードをかざす。

 するとアンナが物珍しそうに言った。

「それなあに?」

「ん? ニモカだ。これがあれば出入りが楽だしポイントも貯まるたからな。もっているとなにかと便利なんだ」

 おいおい、まさかICカードも知らないのか、この子は。

 昭和からタイムスリップしてきたのかな?

 

「アンナ、持ってないんだ……」

 寂しそうにアヒル口でこちらを睨む。

「それなら問題ない、俺が二人分支払っておく」

「ええ!? そんなことできるの?」

「ああ、降りるときに運転手に言えば可能だ」

「じゃあお願いしてもいいかな? あとでちゃんと払うから☆」

「おう」

 ていうか、100円ぐらいおごらせろよ。

 

    ※ 

 

 博多駅から5分ほどで、すぐに天神の渡辺通りに到着。

 バスから降りるときに「二人分」と運転手に告げる。

 運転手が「はいよ」と答え、機械のボタンを押す。

 そして、ICカードをかざして降りようとしたそのときだった。

 アンナが手を叩いて喜ぶ。

 

「すごぉい、さすがはタッくん☆」

 後ろを振り返ると、アンナが首を右に傾けてニコニコ笑っていた。

 なんかバカにされているような……。

「そうか?」

「うん☆ 二人で一緒にピッ、とか。夫婦みたい☆」

「え……」

 その発想はなかった。

 

 俺とアンナのやり取りを見て、車内からクスクスと笑い声が聞こえてきた。

 

「ヤバッ、あのふたりバカップルじゃん」

「だってペアルックだし」

「二人ともどっちも好みだ! ハァハァ……お持ち帰りしたい」

 いや、最後のバイセクシャルじゃん。

 

 無垢な顔で微笑むアンナを見て、俺は頬が熱くなる。

「夫婦……」

 言われてドキドキしてしまった。

 

 バスの階段下から俺は彼女を見つめ、少し上で微笑むアンナ。

 まるでロミオとジュリエット。

 そうだ、俺がひざまついて婚約指輪を出してしまえば、すぐさまOKをもらえそうな空間だった。

 

 そんなひと時を壊したのはおっさんの咳払い。

「おっほん! あとがつかえているので、早く降りてください」

 

 その一言で俺は我に返った。

 

「あ、すいません。アンナ早く降りよう」

 俺はアンナに手を伸ばす。

「うん☆」

 アンナは嬉しそうに俺の手を掴む。

 彼女の細く白い小さな指を握ると優しく手を引く。

 相変わらず、華奢な体型のせいか、軽々と身を俺にゆだねる。

 フワッと宙を飛ぶように、俺へ飛び込む。

 まるで天使が空を舞うかのように……。

 

 アンナを抱きかかえるようにキャッチすると、俺は優しく地面に下ろす。

「よいしょっと☆」

 何事もなかったかのように、アンナは天神の空を見上げる。

 

 まったく、こいつが女だったらめちゃくちゃあざといやつだ。

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