気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!! 作:味噌村 幸太郎
226 動物には優しくしよう! 給料もらってないから
散々な昼食タイムだった。ひなただけだが……。
また彼女のテンションが下がってしまい、
「私ってなんか厄日なんですかね?」
と嘆くので、俺は再度も盛り上げるために、今度は動物たちと身近に触れ合えることができる屋外エリア、かいじゅうアイランドを勧めた。
アザラシやペンギン、イルカなどにエサをあげたり、自身の手で触れるという、動物好きからしたら、たまらないイベントも用意されていると聞く。
それを提案すると、ひなたは大喜び。
「あ、私。そこ大好き! 早くいきましょ!」
どうやら、気分が上がってきたようだ。
※
地下のレストランから一階にあがり、水族館の一番奥へと進む。
暗い館内を歩くこと数分後、ようやく明かりが見えてきた。
かいじゅうアイランドは、屋外に建てられた円形の二階建てのプールだ。
二階でエサを買い、水面からニョキッと顔を出すアザラシに食べさせることができる。
と言っても、ポイッとトングで魚を放り投げるだけのなのだが。
「うわぁ、可愛い~!」
かれこれ、3回もエサを買ってはアザラシの鳴き声に喜ぶひなた。
しかし、あれだな。
アザラシの鳴き声っておっさんみたいだな。
「うごおええ!」
なんて、クレクレするんだから。
アザラシにエサを与えて満足したひなたは、次は「一階へと降りたい」と言う。
先ほどのアザラシおじちゃんたちは、基本エサをあげる時以外は、水面下の深いプールで泳いでいるからだ。
らせん状のスロープを下っていくと。
所々に小さな窓があり、そこから泳いでいるアザラシが見える。
時折、ぬおっと顔を出してくれて。
「アハハ! 可愛い~」
とひなたは手を叩いて喜ぶ。
アザラシを堪能したあと、一旦外に出て、次は反対方向にあるペンギン達を観に行く。
よちよちと歩いて、スタッフのお姉さんと戯れている。
「センパイ、一緒に写真撮りましょ!」
「おお……」
ひなたがスマホを取り出し、自撮り棒を向けてペンギンたちを背景にパシャリ。
「やったぁ! センパイとペンギンさんたちの写真撮れたぁ! これって激レアじゃないですか?」
「え、なんでだ?」
「だって、センパイってこういう所、一人じゃ来ないでしょ? 多分、私が誘わなかったら、一生撮れない写真でしょ♪」
「そ、そうか?」
なんだろ。軽くディスられた気が……。
最後は、イルカと一緒に記念撮影が出来るプールに行ってみた。
かなりの人気ぶりで、カップルや家族連れで賑わっている。
俺たちも行列に、並んでみる。
「センパイ、ここで撮影するの初めてでしょ?」
「ああ、子供の頃に来たが、こういうのはやらなかったな。ていうか記憶が曖昧だ」
「ははは! やっぱりセンパイっておっさんくさい! 撮る時にイルカさんに触れるんですよ♪」
「ほう。それはなかなか経験できないことだな」
ていうか、いちいち人をおじさん扱いすな!
俺たちの番になった。
イルカは水面から出てきて、プールサイドで大人しくスタンバっている。
隣りにスタッフのお姉さんが座っていて、無賃労働のイルカさんに報酬として、小魚をあげている。
床は水でかなりヌルヌルしていて滑りそうだ。歩くたびに転んでしまいそうになる。
俺もひなたもペンギンのように、よちよち歩きで慎重に進んだ。
やっとのことで、イルカとご対面。
俺がイルカの背中側、ひなたは頭を撫でている。
「きゅ~」
なんて声をあげている。
『早く終われや。わし、疲れとんじゃ』
ていう意味なのだろうか?
ひなたはスタッフの人にスマホを渡し、撮影をお願いする。
俺もイルカの背中に恐る恐る触れてみる。
柔らかい……そして、僅かだが鼓動を感じた。
「では、一枚目いきますよ~ 彼氏さんもこちら向いてくださ~い!」
スタッフにそう言われて、視線を戻す。
ひなたが「ピ~ス!」なんて言うので、俺も一生懸命、笑って見せる。
「はい、チーズ! あ、もう一枚いっときましょう! お二人ともスタンバイいいですか?」
「あ、は~い! センパイ笑って笑ってぇ~」
「に~!」
なんだか作り笑顔していると、歯ぎしりしているみたいに感じる。
二枚目の写真が終わり、撮影した写真をひなたが確認し「よく撮れている」と満足していた。
記念撮影も無事に終わったので、俺たちはプールサイドから出ることにした。
次の客が待っているし。
俺はひなたが転ばないように手を繋いで、アシストしてみる。
「センパイ、優しい……」
こういう待遇に慣れていないひなたは、相変わらず頬を赤くしていた。
二人して歩いていると、次の客とすれ違う。
ハンチング帽を被り、サングラスにマスク姿。夏だというのにトレンチコート。
「あ」
思わず、声に出る。
こいつ……ひなたを押した犯人じゃないか?
そう思った時、もう全てが遅かった……。
227 水族館殺人事件
ハンチング帽を被り、サングラスにマスク姿。夏だというのにトレンチコート。
「あ」
俺がこいつだと思った瞬間、物凄い力で手を引っ叩かれた。
ひなたと繋いでいた方の手だ。
強制的に二人の手は遮断される。
「いってぇ!」
「痛い!」
互いにその痛みに驚いているのも束の間。
「フン!」
とハンチング帽がドスの聞いた声をあげると……。
ズボン! と何かが水の中に落ちる音が背後から聞こえてきた。
振り返ると、後ろにいたはずのひなたがいない。
イルカさんが「クエ?」なんて首を傾げている。
一匹しかいないはずのプールにもう一匹、活きのいい大きなメスが。
「きゃあああ! うぼぇ! ぐ、ぐえぇええ!」
ひなたがプールから顔を出して、泳いでいた。口から水を吐きながら。
かなり深いのに、上手いことバタバタ手足を動かして、どうにか水中に浮いている。顔だけ。
「ひなた! 今助けるぞ!」
咄嗟に俺がプールサイドに駆け寄ろうとしたが、脚がピクリとも動かない。
なぜならば、誰かが俺の左腕をがっしりと掴んでいるから。
そして、グイッと強引に出口へと引っ張られていく。
「ちょ、ちょっと! なんなんだ! お前は誰だ! 俺は連れを助けに行かないとならないんだ!」
「……」
だが相手は沈黙を貫く。
物凄い力で、俺の腕をがっしりと掴み、自由を許されない。
なんて馬鹿力だ。
女の握力じゃないぞ?
気がつけば、かいじゅうアイランドから出て、水族館に戻ってきてしまった。
両足はずっと地面に擦り付けられて。
ようやく、解放された俺は、犯人の女に向かって激怒する。
「お前! 一体なんなんだ! 俺たちに恨みでもあるのか!? 事によっちゃ、警察を呼ぶぞ!」
俺が威嚇してみるが、相手は一切動じることはない。
「ふふ……」
不気味に笑い、余裕さえ感じる。
しばしの沈黙の後、何を思ったのか、その女は被っていたハンチング帽を取って見せる。
すると、隠されていた美しい金色の長い髪が肩にかかる。
サングラスもマスクも取る。
キラキラと輝く宝石のようなグリーンアイズ。
ピンク色の小さな唇。
「タッくん、アンナだよ☆」
「え、えええ!?」
不審者は、僕のメインヒロインでした。