気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!   作:味噌村 幸太郎

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31 ヒーローと小説家

 

 風呂上がり、いつものルーティンでリビングに向かう。

 冷蔵庫のキンキンに冷えたコーヒーをとるためだ。

 もちろん、背後にはミハイルもいる。

 きゃわゆ~い女物のフリルとレースのピンクパジャマ(ショーパン)

 

 俺は「本当に『それ』でよかったのか?」と一度訊ねたがミハイルは「ん? なにが?」とキョトンとしていた。

 意味がわからん。

 自分なら罰ゲームとして屈辱を噛みしめるが……。

 

「ミハイル、お前はなにを飲む?」

「んと……」

 冷蔵庫の中を二人してのぞき込む。

 ミハイルの髪からほのかに甘い香りを感じた。

 頬もくっつきそうなぐらい近距離で、ミハイルは飲み物を物色する。

 こいつ……女だったら最強だったろうな……いろんな意味で。

 

「じゃあ、オレはこれ☆」

 手に取ったのはいちごミルク。

 これまたカワイイご趣味で。

 

「いただきまーす☆」

「ああ」

「うぐっ……ごくっ……」

 なんだ? いやらしい音に聞こえるのは俺だけか?

「プッ、ハァハァ……おいし☆」

 よかったね、満面の笑みが見られて、嬉しいです。

 

 

「ミーシャちゃん! あとでパジャマパーティーですわよ!」

 

 と現れた妹のかなで。

 その姿はブラジャーとパンティーのみ。

 キモい巨乳がブルンブルンと上下に揺れて、身震いが起きそうだ。

 まあ見慣れた格好ではあるのだが。(うちの女性陣は基本裸族)

 

「か、かなでちゃん!?」

 顔を真っ赤にするミハイル。

 フッ、お前も童貞なんだろうな。

 

「タクト! 見るな!」

 眼前がブラックアウト……。

 どういうことだってばよ?

 

 ミハイルが赤面していたのは、恥じらっていたからではない。

 どうやら、怒っていたようだ。

 

「かなでちゃん! 早くお風呂場にいって!」

「なんでですの? これはおにーさまへの今晩のおかず提供ですが?」

「おかず? さっき食べたじゃん!」

 会話になってない。

 

 俺は視界を塞がれたまま口を動かす。

「かなで。お前の裸なんぞ、俺の脳内では生ごみに分類されている」

「ひどい~! ですわ~」

 ドタバタとやかましい足音が響く。

 どうやら、その場をさったようだ。

 だが、依然と俺の視界はブラック企業なんだが?

 

「なあミハイル? もうかなでがいないなら、手を放してくれ」

「あっ……ご、ごめん……」

 視界がしばらくボヤけていた。

 目をこすると、俺の前には一人の可愛らしい少女がいた。

 ……だったらよかったのに!

 

 ミハイルは頬を赤らめてこちらをチラチラと見つめている。

 どうやら俺の顔に触れていたのが、恥ずかしかったようだ。

 

 

「さ、ミハイル。そろそろ寝るぞ」

 アイスコーヒーを一気に飲み干すと、自室へとミハイルを連れていく。

「え? もう寝るの?」

「ああ、俺は明朝に仕事がある」

「タクトって小説家以外にも仕事してんの!?」

 そげんビックリせんでも……。

 

「新聞配達を朝刊、夕刊としているが……」

「それって朝は何時から?」

「明日は午前3時だ」

「わかった!」

 ん? 何がわかったんけ?

 

 

 自室に入るとスマホのランプが点灯していることに気がついた。

 

『一通のメッセージ』

 

 スマホのアドレス帳といえば、母さん、かなで、それか死んだことになっている六弦(ろくげん)とかいう男。

 それ以外は『毎々(まいまい)新聞』の店長、一ツ橋高校。

 あとは……。

 

 スワイプすれば、ゆるキャラのアイコンだ。

 間違いない、ヤツだ。

 

『先生、はじめてのスクリーングどうでしたか? そろそろ好きな子とかできませんでした?』

 

 できるか! ボケェ!

 怒りで手が震える。

 こんの『クソ編集』の思いつきで、俺は一ツ橋高校に通うことになったんだ。

 好きな子だと……。

 

「タクト? 誰からメールなんだ?」

 怪訝な顔つきで俺をのぞき込む、美少女……。

 じゃなかった古賀 ミハイル。

 

「ああ、コイツか? クソきもいババア」

「ば、ばばあ?」

「そうだ、『もう1つの仕事』の相手だ」

「もーひとつ? ん……あ! 小説のほうだな☆」

「そういうことだ」

「すげーんだな、タクトって☆ 1つも仕事こなして」

 そんな羨望の眼差しせんでも、よかろうもん。

 

「でも……どうして、タクトの年で仕事してんだ?」

 よくぞ聞いてくれた。

「さっき夕飯のときにも触れたが、六弦とかいう父親が関係している。我が家はほぼ俺の収入で暮らしている」

「え!?」

「というのもだ……母さんの美容室は人を選ぶし、(BLなだけに)一日に10人も集客できない」

「そうなんだ……でも、六弦さん? とーちゃんが働いているんだろ?」

「うむ、残念だが六弦は無職だ」

「……え?」

 その反応が通常だ。

 

「ヤツのことをかなでが『ヒーロー』と呼称していただろ? まんまだ」

「ど、どういうことだ?」

「六弦はその名の通り、自称『スーパーヒーロー』というボランティア活動をいきがいとしている。だが、その実は無職であり、俺から毎月3万円も無心してくるクズ中のクズだ」

 

 新宮 六弦。36歳にして無職。ボランティア活動を生きがいとし、震災や災害時には現地にかけつける伝説の男。

 助けられた人々からすれば、ヒーロー扱いなのだが、家族の方からすればさっさと「ハローワークいけや!」が第一声なのだが、母さんが許しているのだ。

 

 

「オレ……知らなかった……」

 拳をつくりプルプルと震えるミハイル。

 そうか、お前も怒ってくれるか。

 

「か……カッコイイ!」

 

「え?」

「タクトのとーちゃんって超かっけーのな☆」

 ファッ!

 

「な、なにを言っているんだ? 息子を働かせる父親だぞ?」

「でも……見返りを求めないで、こまっているひとたちを助けているんだろ!?」

 それって美化しすぎてません?

「確かにそうだが……」

「オレ、タクトのとーちゃんに会ってみたい☆」

 そんなに目をキラキラさせんでも。

 

「だがそれは無理だ。ヤツは日本各地を飛び回っていて、冠婚葬祭をのぞいたら年に3回ぐらいしか帰ってこんぞ? 電話もなかなか出ない」

「そっか……」

 ミハイルが肩を落とす。

 ふと、視線を壁に向ける。

 時計の針は、深夜の0時を指そうとしていた。

 いかん! 睡眠時間が大幅に削られていく。

 

「すまんがミハイル。俺は寝るぞ」

「え!? さびし……。な、なんでもない!」

 驚いたり怒ったり忙しいヤツだ。

「でも、かなでちゃんとパジャマパーティーするから安心だゾ☆」

 なにが?

 

「じゃあ、おやすみな」

「うん、タクト……今日はありがとう☆」

 はにかむミハイル。

「どうした? 急に改まって」

「なんでもない☆ おやすみ☆」

 

 俺は二段ベッドの梯子をのぼり、布団に潜った。

 その日は初めてのスクリーングもあってか、五秒で寝落ちした。

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