気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!   作:味噌村 幸太郎

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412 無理して、高級料理は食べない方が良い。味が分からない。

 

 陽が落ちて来た頃、俺はスマホで現在の時刻を確かめる。

『16:40』

 

「そろそろだな」

 

 1人、呟くとアンナに声をかける。

 

「アンナ。今日の誕生日を祝う場所なんだが、この下にあってだな」

 そう言って、床を指差して見せる。

「え? 博多タワーで祝ってくれるんじゃないの?」

 大きな瞳を丸くする。

「まあ、間違ってはないのだが……展望レストランが2階にあるんだ。そこを予約しているんだ」

「展望レストラン!? すごい! 行きたい☆」

 どうやら、喜んでくれているようだ。

 

 さっそく俺たちは階段を使って、展望部の2階へと向かう。

 階段を降りると、すぐにレストランが見えて来た。

 

 コックコートを着たお姉さんがお出迎え。

 俺たちを見るや否や、「いらっしゃいませ」と礼儀正しく頭を下げる。

 

「あの、予約していた。新宮です」

「新宮様ですね……かしこまりました。奥の席へどうぞ」

 

 俺は予め、席を指定しておいた。

 眺めが良く、2人きりの空間を落ち着いて楽しめるカップルシートだ。

 

 

 タワーの一番隅にある三角コーナー。

 真っ白なテーブルクロスをかけたテーブル。

 そして、それらを覆うように、半円型の大きなソファーが設置されている。

 

 このシートに入ってしまえば、辺りから俺たちの姿は見ることができない。

 ソファーで守られているからだ。

 実質、個室とも言える。

 何よりも他のレストランと違うのは、この景色だ。

 

 ももち浜の青い海。白い砂浜。それにオレンジがかった夕空。

 ちょっと眩しいが……ここは、最高にムードのあるデートスポットではないだろうか?

 

「すご~い☆ きれい!」

 

 座席に通されても、アンナは興奮が止まないようだ。

 視線は窓に向けられたまま、コートを脱ぎ始める。

 そこで初めて、今日の彼女の姿を、眺めることが出来た。

 

 ピンクのニットを着ているが、肩の部分だけ、透けている。白いレースだ。

 可愛いけど、こりゃコートは脱げないわな。

 ハイネックで、首元には彼女のシンボルとも言える、白いリボンが巻かれている。

 下半身は、これまた露出度高めで。

 千鳥格子柄で、プリーツの入ったミニスカート。

 

 景色に釘付けなアンナを良いことに、下から俺は彼女をガン見する。主にスカートの中。

 今日はピンクか……。

 思わず、生唾を飲み込む。

 やっぱり……ホテルにしておけば良かった。

 

 

「タッくん。アンナのために、こんな良いレストランを予約してくれたの!?」

「ああ。女の子の……誕生日を祝うなんて、初めてだからな。色々、探してみて。ここがいいなと思ってな」

 毎度のことだが、男だけどね。

 そこら辺のイタリアンレストランなんかより、安かったし。

 コスパが良かったのが、最大のポイント。

 しかし、アンナは感激のあまり、涙を流していた。

 

「嬉しい……誕生日はミーシャちゃんと2人でネッキーのアニメを見ながら、ケーキを食べる予定だったから」

「そ、そうなの」

 自分でケーキを焼いて、自分に祝ってもらうつもりだったのか。

 なんだ、同族じゃないか。

 

  ※

 

 俺が店側に頼んでいたメニューは、コース料理だ。

 『天空のペアディナー』という、ちょっとしゃれたもの。

 今回は、白金にも黙ってきた本当のデート。

 だから今日のデート代は、経費で落ちない。

 それでも俺が本当に祝いたいと思ったから、やっているにすぎない。

 

 アンナは終始、ご機嫌だった。

 海を見ながら次々と出されるコース料理。

 前菜の盛り合わせに、パスタ。それからステーキまで。

 

「カワイイ~☆ おいし~☆ 写真撮っちゃお☆」

 

 味も景色も、大満足のようで、セッティングした俺も鼻が高かった。

 しかし、俺はと言えば、どれも食った気がしない。

 緊張から何を食べても、味がしなかった。

 

 コースもラスト一品になった頃。

 俺は頬を軽く叩いて、気合を入れる。

 

 ここからが、本番だ。

 近くに待機していた店のお姉さんが、俺のそばへと近寄ってくる。

「新宮様。そろそろ、例の時間になりますが?」

「ああ、頼みます」

「かしこまりました。音楽が始まったら、合図ですので」

「了解です……」

 

 コソコソとお姉さんと話していると、アンナが首を傾げる。

 

「タッくん。どうしたの?」

 聞かれて、俺は激しく動揺する。

「いやいや! なんでもないって、それより今から面白いショーが始まるぞ」

「え、ショー?」

 

 次の瞬間、店の灯りが一気に消えてしまう。

 突然、視界が真っ暗になってしまったので、アンナも驚いていたが……。

 すぐにその不安はかき消される。

 

 何故なら、どこかの音痴さんが手を叩きながら、歌を歌い始めたから。

 

「はっぴ~ ばぁ~すでぇ~ とぅゆ~」

 

 今宵のエンターティーナーは、この俺だ。

 客はアンナ、1人。

 

 俺のアカペラと共に、店内からBGMが流れ始める。

 そしてキッチンの奥から、大勢のスタッフが出てきて、俺と一緒に歌い始めた。

 みんな一緒になって、手を叩く。

 ちょっとしたオーケストラだ。

 

「「「はっぴ~ ばぁ~すでぇ~ でぃあ、アンナちゃ~ん!」」」

 

 祝われているとも知らないアンナは、ただ固まっている。

 

「え……?」

 

 歌い終える頃、1人のスタッフがケーキをテーブルの上に置いてくれた。

 細長いロウソクが、6本載っている。

 

「アンナ。ろうそくの火を消してくれるか?」

「う、うん! ふぅ~!」

 

 小さな口だから、なかなか火を消せなかった。

 それでも一生懸命、息を吹き。全て消すことに成功。

 

 消えたことを確認したスタッフが、再度明かりをつける。

 

「「「お誕生日おめでとうございます!」」」

 

 拍手喝采を浴びるアンナ。

 未だに俺からのサプライズに、気がついていないようだ。

 

「あ、ありがとうございます……。もしかして、タッくんが用意してくれたの?」

「そうだ。俺からも言わせてくれ。16歳の誕生日。おめでとう」

「タッくん……ありがとう☆」

 

 そう言うとエメラルドグリーンの瞳を潤わせて、ニッコリと優しく微笑んだ。

 ああ……やってみて良かった。

 この笑顔のためなら、俺の音痴なんて気にしないぜ。

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