気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!   作:味噌村 幸太郎

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478 四時間目、マリアの場合

 

 ミハイルが正気を取り戻したのは、午前中の授業が全て終わった昼休みだった。

 俺を警戒していたここあも、ようやく彼を解放してくれた。

 

「タクト。オレ、なにをしていたのかな? なんか記憶がないんだけど?」

 記憶が無いのなら、好都合かもな。

「ああ……きっと廊下で滑って転んだ時、頭を打ったからだろう」

「そうなんだ。でも、なんかベロがしびれているんだよね。タクトは知らない?」

「知らんな」

 嘘ついて、ごめん。

 また思い出して、トリップされると困るからな。

 

「ま、いっか☆ タクト、お昼ごはんはまだだよね? オレ、たくさん作ってきたからさ。一緒に食べよ☆」

「もちろんだ」

 

 お互いの机をピッタリとくっつけると、ミハイルが大きな弁当箱を取り出す。

 相変わらず、たくさんのおかずで埋め尽くされていた。

 彼の愛を感じる。

 

 二人して手を合わせて、「いただきまーす」と叫んだところで、ジーパンのポケットから振動が伝わってきた。

 スマホが鳴っているようだ。

 誰だろうと、ジーパンから取り出すと。

 

 着信名は、マリア。

 

「あ……」

 

 忘れていた、最後のサブヒロイン。

 いや、ミハイルが唯一ライバル視していた最強のヒロインだ。

 冷泉(れいせん) マリア。

 

 実は前々から計画していたのだ。

 今日、1日で全てのヒロインたちに結婚を報告し、契約を解消しようと。

 マリアは10年前からの長い付き合い。

 それに彼女は命をかけてまで、俺との約束を守ろうとした女の子。

 簡単に諦めてくれるとは思えない。

 

 でも、愛するミハイルのためだ。

 俺は事前に彼女へメールにて、『話がある』と今日の午後に会おうと約束していた。

 ただスクリーングが終わる、夕方だったのだが。

 

「電話に出ないの? タクト」

 とミハイルに言われるまで、固まっていた。

「ああ……実は相手はマリアからなんだ」

 彼女の名前を口から出すと、ミハイルも顔が凍りつく。

「え? もしかして、マリアに会うの?」

「そりゃ、マリアにも直接会わないとな……」

 

 とりあえず、電話に出ることにした。

「もしもし?」

『タクト。ごめんなさい、まだスクリーングの際中でしょ? ちょっと急遽、予定が入ってね……』

 強気な彼女にしては、随分と覇気のない声だった。

「え? じゃあ会えないのか?」

『そうね。タクトとは、しばらく会えないかも……』

「しばらく? ど、どういうことだ? ちゃんと説明してくれ!」

『もうタイムリミットなの……あと一時間後には福岡を出るのよ』

「福岡を出る? どこへ行くんだ?」

『アメリカよ……』

「なっ!?」

 

 言葉を失う俺に、優しく話しかけるマリア。

『珍しくあなたからメールが届いて、すぐに理解できたわ。結婚の話でしょ? それから私たちの関係は終わり……と伝えたいのよね。でも、ごめんなさい。タクトの顔を見たらまた泣きそう……。その前にサヨナラしたかったの』

「……」

 

 しまった、事前に予定を組んだのがまずかったか。

 逆にマリアから気を使ってもらうとは。

 でも、このまま彼女と顔も見ないで、電話で別れを告げていいものだろうか?

 

 それはダメだっ!

 ここで、しっかり彼女に自分の気持ちを伝えないと絶対に後悔する。

 

「一時間後だな?」

『え?』

「空港にいるんだろ? 搭乗まであと一時間なら、まだ間に合うかもしれない」

 そう言い終えるころには、俺は席から立ち上がり、リュックサックを背負う。

『ちょっと、タクト。無理よ……やめて』

「いいや。最後ぐらい顔を見て、話がしたい」

『タクト……あなたって人は』

 受話器の向こう側で、すすり泣く声が聞こえる。

 

「じゃあ、福岡空港でな」

『……』

 

 無言の回答をYESと見なした。

 ひとり教室から出ようとする俺を見て、ミハイルが慌てて止めに入る。

 

「ちょっとタクト! どこへ行くの?」

「マリアのところだ。今からアメリカへ行くそうだ。しばらく会えない、だから最後に顔を見ようと思ってな……」

「そうなんだ……マリア、アメリカに戻るんだね」

 一番憎んでいたはずの存在だが、日本から離れることを聞いて、なぜか寂しそうな顔をしていた。

 

「ミハイル、お前も来るか?」

「え、いいの?」

「だって近くにいないと、また不安になるだろ?」

「うん☆」

 

 彼が作ってくれた弁当は、口惜しいがここあに渡して。

 俺たちは学校から飛び出て、タクシーで福岡空港へ向かうことにした。

 

 ~約50分後~

 

 タクシーの運転手を急かして、ギリギリ空港のロータリーへ到着した。

 ミハイルが気をきかせ、「料金を払っておくから」と車から俺を押し出す。

 

 スマホを片手にマリアの姿を必死に探す。

 彼女がアメリカへ旅立つと言っていたから、国際線のターミナルビルへ向かい、カウンターにいたお姉さんへ声をかける。

 

「あ、あのっ! アメリカ行きってどこから出ますかっ!?」

「え? アメリカ行き……でございますか? そのような便はありませんが」

 ヤベッ、細かい目的地を聞いてなかったわ。

「その……冷泉 マリアという名前で呼び出し……いや、もう時間がないか、クソっ!」

 と焦りから、床を蹴ってしまう。

 

 そんな俺を見て、受付のお姉さんが優しく声をかける。

「お客様、失礼ですが……お話からきっと、探していらっしゃる相手の方は国際線ではなく。国内線に乗るのではないですか?」

「え?」

「あの、福岡空港から直行便で、アメリカへ向かうことは無いと思うので……たぶん、羽田空港へ向かうのだと思います」

「……」

 またしくじった。

 

 受付のお姉さんに礼を言うと、国内線のターミナルビルへと急ぐ。

 二階へ上がる階段を登っていると、見慣れた姿の少女が目に入る。

 

 黒を基調とした、シンプルなデザインのワンピース。

 胸元には、白い大きなリボン。

 細くて長い脚は、白のタイツで覆われている。

 

 その姿を見た途端、俺は叫んでいた。

 

「マリアッ!」

 

 振り返る金髪の少女……。

 しかし、その瞳は確認できなかった。

 なぜなら、黒いサングラスをかけているから。

 

「タクト……」

 

 俺の声に反応した彼女は、一瞬動揺したように見えたが。

 手にしていたキャリーバッグを、床に投げ捨てる。

 そして、俺めがけて飛び込んできた。

 

 避けるという選択肢もあったが、ここは黙ってマリアを受けとめることにした。

 もう最後だから。

 

「間に会ったな、マリア」

「バカッ! あなたにこんな顔を見せたくないから、黙って行こうとしたのに……」

 

 そうは言うが、彼女の両手は俺の背中を離さない。

 むしろ、抱きしめる力はどんどん強くなっていく。

 

 サングラスをかけているから、わからないが。

 きっと例の動画を見て、ひなたのように泣いていたのだろう。

 だから、俺に顔を隠しているのか。

 

 

 胸の中に顔をうずめて、すすり泣くマリア。

「一分で良いから、このままでいさせて……」

「ああ」

 ここまで来て、これを拒むことは出来ない。

 時間も限られているし。

 

「でも……私、逃げるためにアメリカへ旅立つわけじゃないからね」

「え?」

「もう一度、自分を磨くために日本から離れることにしたの。まだ信じていないもの……タクトが同性愛者だって」

「……」

 返す言葉が見つからない。

「それに、タクトがいくらアンナ……いえミハイルくんと結婚をしたとしても、私は永遠の愛だと思えない。同性愛って、あまり長く続かないって聞くし」

 

 俺はそれを聞いて、思わず彼女を引き離す。

 サングラス越しだが、彼女の瞳をじっと見つめる。

 

「マリア、俺は本気だ。男のミハイルと一生を共にしたいと誓った。だから、そんなことは絶対にないっ!」

「……そう。なら、証明してよね? 私が諦めの悪い女だって知っているでしょ。毎年、福岡に戻って、あなたたちが別れていないか……確かめてあげるわ」

 

 彼女は俺の胸を人差し指で小突くと、怪しく微笑む。

 しかし、これは去勢を張っているだけだ。

 認めたくないだけで、本当は傷ついている。

 

 ここは、優しくするのではなく、敢えて彼女の挑発に応えるべきだろう。

 

「望むところだっ! 毎年確かめてくれ、俺とミハイルの愛が永遠であることを必ず、証明してやる!」

 

 俺が言い切るころには、彼女の顔から笑みが失せ、唇が震え出す。

 涙をこらえているようだ。

 

「じゃあ、一分経ったから……さよなら、タクト。大好きよ」

 

 背中を向けるマリア。

 これが最後の別れだと思うと、寂しい……。

 咄嗟に彼女の手を掴んでみたが、振り払われてしまう。

 

「マリア……」

「やめておきなさい、みじめなだけよ。それにさっきから、後ろであなたの大事なパートナーが、こちらを見張っていることに、気がついてないの?」

「え?」

 

 振り返ると、近くのソファーに隠れているミハイルに気がつく。

 涙目でこちらを睨んでいる。

 

「ふぅ~! ふぅ~!」

 

 今にもこちらへ飛び掛かってきそうだな。

 もうマリアを追いかけることはせず、未来の嫁を優しく抱きしめることにした。

 

 こうして……最強のヒロインは、日本から旅立っていった。

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