艦隊これくしょん ~永遠の終わり~ リメイク   作:Mt.モロー

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12.トラック防衛隊:XDay

 1942年12月25日 13時30分

  呉海軍飛行場【大淀】

 

 二日前に長崎から戻った提督は、休む暇もなく、今度は【信濃】の様子を見るために横須賀へ向うと言った。本来ならば【大淀】も秘書艦として同行すべきであるが、提督より、もっと重要な任務が与えられていた、

 

 提督が搭乗した零式輸送機を見送り、【大淀】と【矢矧】は提督専用車で鎮守府に戻る。専門の運転手には別の車で戻ってもらい、今、この車を運転しているのは【矢矧】だった。しかも【大淀】が座っているのは後部座席ではなく助手席だ。車という密室で二人きりで並んで座っている。つまりは、だれにも聞かれたくない話をするためだ。

 

「凄いですね。車も運転できるなんて」

「器用貧乏ですかね。阿賀野型ですから」

「どういう意味?」

「そこそこなんでもできるけど特筆すべき点はない。それが阿賀野型です」

 

 笑うべきか迷うところではあるが、【矢矧】がそうして欲しそうだったので小さな引き笑いをした。なんという自虐性か。【矢矧】も嬉しそうに笑っている。

 

「提督は赤城さんにも伝えるつもりでしょうか?」

「信濃さんの様子を見るというのは建前でしょうね。あの情報は一航艦も……赤城さんも知っておく必要があります」

 

 二日前、提督と【大淀】たちはこれからの戦略について話し合った。その冒頭に、提督は驚愕の情報を【大淀】と【矢矧】に伝えていた。

 

「秘書艦は……あの話を信じますか?」

「もちろんです」

「……そうですか」

「正直であることは美点だと思います。到底信じられないという感情は真っ当なものです」

「すみません。この話はなかったことにしてください」

 

 【矢矧】が顔を赤くしながら運転している。本当に正直でいい子だなと思った。彼女がそう考えるのも無理がなかった。提督の話は、【大淀】でも疑問を覚えるほどのものだった。

 

「長門さんは辛かったでしょうね……」

「ええ……話が話だけに」

 

 4月の鎮守府爆撃後、提督は一か月以上行方不明になっていた。不穏な噂も流れる中、MI攻略中に提督は突如として鎮守府に復帰した。

 まるで神隠しにでもあったようだと提督は言っていた。無論、そんな話は信じられるものではない。しかし、長期間行方知れずになっていたのは事実だった。

 どこでなにをしていたのかは不明だが、その間に、同じ夢を何度も見たと提督は言った。

 

 その夢の内容について、提督はこう話した。

 

 

 ――そこは距離感のない真っ白な空間で室内か屋外かも分からない。目の前に【吹雪】がいて微笑みながら提督を見ていた。制服ではなかった。背景に溶け込むような白い服を着ていた。そして、【吹雪】が口を開いた。

 

『早く明日になると良いですね』

 

 なんのことか分からず、それに、今がいつなのかも分からない提督は、【吹雪】に今日は何日だとたずねた。

 

『8月15日です』

 

 提督は、何年だと質問を重ねる。

 

『1945年』

 

 なぜ、早く明日になれば良いのか? と【吹雪】に聞いた。すると、彼女は、笑いながらこう答えた。

 

『私たち艦娘は、8月16日を知らないんです』

 

 

 ――提督の話はそれで終わりだった。繰り返された夢では、それ以上の進展はなかったようだ。

 

「XDayは1945年8月15日……ですか」

「そこで時間が巻き戻される。提督はそう判断したのね」

「どうしたら……それを回避できるのでしょう?」

「8月15日に吹雪ちゃんが戦闘に参加していないこと。今分かるのはそれだけですね」

「吹雪ですか……なぜ提督は吹雪には教えないのでしょうか?」

「その必要がないからですかね」

「……それもそうですね」

 

 【大淀】は、提督がすべてを話しているとは思えなかった。おそらくもっと重要な、深海棲艦の根幹に係わる情報も掴んでいるはずだ。だが、今はそれを詮索(せんさく)すべきではない。提督は待っているのだ。その情報を話せるタイミングを待っている。

 提督の方針は決定している。XDayは1945年8月15日。あらゆる開発、計画で、1944前半までに戦力化、実現化が難しいと判断したものは中止か縮小とされ、必要とされるものに人的(じんてき)を含めたインフラが集中された。

 

(私が秘書艦になったのは、このためなのですね)

 

 その急激な変化により、組織の再編成及び運用には相当な管理能力が必要とされる。それに長けた艦娘として自分は選ばれたと思った。それならばそれでも良い。たしかにここからの再編成は自分以外には無理であろう。

 

「秘書艦、建造計画を見ましたか?」

「はい、航空機や装備品の開発計画も目を通しました」

「もしも、間違っていたら……いえ、失礼しました」

「だれでもそう思います。だから、妥協案として一部の長期計画を縮小して残してあるのです」

噴式震電(ふんしきしんでん)のようにですか?」

「あれは種子島博士次第でしょうか……海外では噴式機はすでに飛んでいると聞いています」

 

 艦船、航空機、装備品の建造、開発は、提督の大鉈(おおなた)により大きく計画変更された。以下はその改⑤計画の概要だ。

 

1.艦船

 

 (1)航空母艦

  計画中止、縮小

   G14型(改大鳳型)は建造中止

   潜水母艦の軽空母改造は中止 

  優先事項

   ① 雲龍型航空母艦八隻

   ② 伊吹型軽空母四隻

   ③ 建造期間が6か月以内の護衛空母の設計(設計期限は本年度中)

 

 (2)戦艦

  計画中止、縮小

   111号艦以降の建造及び開発計画は中止

  優先項目 

   ① 大和型三隻の主砲強化、高速化、対空兵装強化 

   ② 伊勢、日向の航空戦艦化

   ③ 比叡、霧島の対空兵装強化(修復不能である比叡の第四砲塔は撤去)

 

 (3)重巡洋艦

  計画中止、縮小

   超甲巡の開発計画はすべて中止

   建造中の伊吹は軽空母に転用し、重巡洋艦としての建造は中止

   最上型の改造を研究開発することを認める

  優先事項

   ① 最上型四隻を随時航空巡洋艦に改造

   ② 高尾型の対空兵装強化

 

 (4)軽巡洋艦

  計画中止、縮小

   仁淀(大淀型二番艦)は建造中止

   重雷装艦への改造計画はすべて中止

  優先事項

   ① 815型軽巡洋艦六隻

   ② 改阿賀野型四隻(建造中の酒匂も含む)

   ③ 五十鈴の兵装の半数をボ式四〇mm機関砲に換装(長良も同改造)

 

 (5)駆逐艦

  計画中止、縮小

   甲型駆逐艦の建造(現時点で50%以上建造されているものは除く) 

   島風型の追加建造

  優先事項

   ① 秋月型及び改秋月型一六隻(竣工済の四隻を含む)

   ② 超秋月型駆逐艦(北風型)六隻

   ③ 改松型四二隻

 

 (6)潜水艦

  計画中止、縮小

   甲型、乙型、潜特型は開発及び建造中止

   特殊潜航艇は改蛟龍型のみ開発継続

  優先事項

   ① イー201型

   ② イー16型の建造は継続

   ③ イー361型八隻

   ④ 搭載可能艦にシュノーケルを実装

 

 (7)その他の艦艇

  優先事項

   ① 日進型水上機母艦二隻

   ② 秋津洲型水上機母艦三隻

   ③ 迅鯨型潜水母艦二隻

   ④ 改択捉型海防艦、改鴻型水雷艇の増産

   ⑤ 一等、二等輸送艦の増産

 

2.航空機

 (1)艦上航空機

  計画中止、縮小

   彗星、天山、彩雲は開発中止

  優先事項

   流星(来年度4月より配備開始予定)

   偵察機型流星(三座式)

   烈風(1944年度には戦力化)

   零式艦上戦闘機の発動機を金星五二型に換装。防弾武装強化

  

 (2)陸上航空機

  計画中止、縮小

   大型陸上攻撃機は研究対象の富岳を除いてすべて開発中止

   双発戦闘機の開発はすべて中止

   初期設計型雷電

  優先事項

   雷電(改鍾馗)の戦力化

   爆撃機型晴空(陸上型二式飛行艇)及び輸送機型晴空、攻撃(砲撃)機型晴空

   改一式陸上攻撃機(搭載量、防御力向上型)

   東海の性能向上型

 

 (3)水上機

  計画中止、縮小

   紫雲、晴嵐は開発中止

   水上観測機の分類を廃止し以降の開発も中止

   潜水艦搭載型の水上機の開発中止(現行機の生産は継続)

  優先事項

   水上戦闘機強風改

   対潜型瑞雲(磁気探知機搭載)

   爆撃機型瑞雲 

 

 上記は改⑤計画のほんの一部である。それぞれ【矢矧】が言った噴式震電のように見込みがあるとして研究開発が縮小継続されているものもあるが、提督はこのラインナップで1945年までの戦局を見ていた。

 

(あとは電子機器と搭載砲の統一ね……本当に、やることが多すぎる。長門さん、よくもまあ、こんなことを……)

 

 【長門】はすでにこの情報を知っている。それどころか、改⑤計画は彼女が作り上げたと言ってもよかった。限られた時間と資源、その中で深海棲艦の物量に立ち向かわなければならない。そのためには、あまりにも広がりすぎた計画、研究、生産を必要最低限のものに集中する必要があった。

 

(長門さん……本当に、辛かったでしょうね)

 

 【大淀】は、XDayを知りながらも地獄のようなソロモンで指揮をとっていた【長門】を想った。

 

(『すべては自分の責任だ』)

 

 【長門】は、口癖のようにその言葉を発していた。如月事件や仲間が多数轟沈したことにより艦娘の士気は大きく下がっていた。それでも【長門】はあの戦線で指揮を取り続けた。

 

(これからは、あなただけの責任ではありません。私や矢矧さん、そして赤城さんもその責任を負うことになります)

 

 すべての反撃準備が整うまでのおよそ一年半、これからも多くの艦娘たちが海の底に消えるかもしれない。その責任は、XDayを知る【大淀】たち四艦に科せられる。

 【大淀】は目を閉じて、来年からの持久戦開始を想った。

 

(ニューギニア……そして、潜水艦狩り……)

 

 トラック泊地で深海棲艦に航空消耗戦を強いるためには、さらに多くの犠牲が発生する。その責任を負うのは提督でも【長門】でも【赤城】でもない。自分ただ一人だ。

 

「矢矧さん」

「はい」

「鎮守府に戻ったら、来年の松の内が明けたあたりで、トラック行の便を手配してください」

「……ニューギニアですか?」

「いいえ、これからのすべてですね。どうしたらトラックを守り切れるかを長門さんと根を詰めて話し合います」

「承知しました」

「迷惑をかけます。また、留守をお願いします」

 

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