艦隊これくしょん ~永遠の終わり~ リメイク 作:Mt.モロー
1943年3月14日 6:00
ラエ簡易港湾施設付近 第四戦隊【摩耶】
一等輸送艦八隻がラエ簡易波止場に接岸し、総数5000名の兵員が上陸を開始していた。
【摩耶】たち第四戦隊は、第二水雷戦隊とともにその上陸の護衛と支援を行い、その後、敵に占拠されたブナを艦砲射撃するのがMO2作戦における役割だ。
【摩耶】は対空電探及び目視で忙しく辺りを警戒していた。偵察機からの情報によるとポートモレスビーの爆撃機12機の行方が不明とのことだ。あえて情報垂れ流しで進めてきたMO2だ。やつらの行く先は言わずもがなだ。
――上空警戒をしていたラバウル航空隊30機の零戦に動きかあった。
「零戦が南東になにか発見したらしい」
【高尾】の言ったとおり、オーエンスタンレー山脈越えできたと思われる敵戦闘機に半数15機の零戦が迎撃に向かった。
(まずいな……これだと重爆は止められない)
どう考えてもこれは陽動であり、重爆は南西側からに進入してくるはずだ。高い山脈が邪魔をして対空電探もかなり近距離になるまで探知できない。高尾型は各3機、合計で12機の水上偵察機を装備しているが、ブナ砲撃用に温存しており、【鳥海】の3機のみを索敵で出撃させている。
「鳥海、報告は?」
「雲が多くてなかなか見つけられないみたい」
【摩耶】の焦りがピークになった。沿岸は上陸兵でごったがえしの状態だ。今、重爆に進入されたらとんでもないことになる。
「能代!」
【摩耶】は対潜対水雷艇警戒中の第二水雷戦隊の【能代】を無線で呼んだ。
「対潜は十五駆と二十四駆に任せておまえは対空支援の応援に来てくれないか?」
二水戦は、旗艦【能代】と第十五駆逐隊、二十四駆逐隊、第三十一駆逐隊で編成されている。そのうち、第三十一駆逐隊は輸送艦の護衛してここで分派する予定だ。
『……あと10分でラバウルから増援がきますよ』
【能代】が戸惑い気味に答える。【摩耶】はいやな予感がしていた。そして、それは
「おそらく間に合わない」
『いつもの勘ですか?』
「そうだよ。悪いか?」
『それは結果次第ですね』
減らず口を叩く【能代】ではあったが、【摩耶】の要求には応えてくれた。
――その時であった。
「索敵機より報告あり! われ、四個編隊12機の重爆を発見す。方位は二二〇、高度5000」
「12機……零戦15機では無理ね……」
【愛宕】の言ったとおりだ。だからこそ”対空お化け”となった自分がなんとかしなければならない。
「姉さん! 上陸兵と輸送艦に一次退避を命令してくれ!」
【能代】が接近してくるのを確認した【摩耶】は、最高出力で彼女と合流する。
「摩耶! どこに行くの!?」
「アタシは能代と前に出る! 矢矧が言ってただろ。長8cm砲は最高だって」
1943年3月14日 6:15
トラック泊地 第二艦隊指令室【長門】
今回のMO2作戦は機動部隊が主力で低速の【長門】には出番がなかった。第二艦隊(第三艦隊含む)のほぼ全力出撃になるため、今、ここには【長門】と【明石】しかいない。
【長門】は、テーブルに広げられた海図に四個の青い駒と二個の赤い駒を置く。青い駒の内二個は四角い航空母艦の形をしており、残りはよくある船形だった。赤い駒は二個とも母艦形だ。各艦隊には無線を極力使わないように命じてある。そのため、現在の戦況は計画どおり進んでいるものと判定するしかない。
「大鳳ちゃんは大丈夫でしょうか?」
【明石】がソロモン海のど真ん中に進出した第三航空戦隊の駒をいじっている。【大鳳】たちの任務の過酷さを考えるのなら、その心配は当然ともいえた。
三航戦は敵機動部隊に見つかることを前提に行動している。【大鳳】と第七戦隊(【最上】【熊野】【鈴谷】 )、第十二戦隊(【五十鈴】【秋月】【涼月】【初月】【若月】 )はソロモン海に
装甲空母の防御力と最強の対空兵装を持つ艦娘たちで、襲来する敵機をすり潰すのが第三航空戦隊の第一目的だ。
そのため【大鳳】と【瑞鳳】は戦闘機のみ(すべて零式五四型)を搭載していた。
「瑞鳳ちゃんが首尾よく離脱できるといいですが」
「七駆と一緒に大鳳たちからかなり離れている。発見されたらすぐに逃げるように命じてある」
二艦合わせて最大70機の戦闘機を上空待機させられるが、そうは上手くはいかない。燃料の関係もあるので
「
「珊瑚海に電探装備の二式大艇が出ていますが……まだ敵発見の報告はありません」
「そうか」
敵機動部隊を発見した場合。それを攻撃するのは第四航空戦隊(【隼鷹】【飛鷹】)が行う。彼女たちは搭載攻撃機の航続距離範囲外から発艦を開始する。そんな戦法を可能にするのが前進基地となった【大鳳】の存在だ。第三航空戦隊の第二目的。それは超アウトレンジ戦法の前進基地となることだ。
(大鳳……すべてはおまえにかかっている)
【長門】は、ラバウル基地に飛行機型の駒を置いた。
「
「ブナ砲撃の時刻(7:00)に合わせて発進予定です」
四航戦の攻撃力だけでは敵機動部隊の輪形陣を破ることは難しい。そのため、敵機動部隊攻略の先鋒は砲撃型晴空6機が務めることになる。敵駆逐艦及び軽巡洋艦の対空兵装を滅茶苦茶にしてくれるだけで良い。要は、四航戦攻撃隊の道を作ってほしいのだ。
「まずは、高尾ちゃんたちからですか?」
【明石】が、今度はニューギニアのラエ付近にある第四戦隊の駒を触る。上陸部隊を護衛する彼女たちが、第二次MO作戦の戦いの火ぶたを切るはずだ。
「モレスビーから妨害が必ずある。高尾型は対空兵装を強化してあるが、敵は重爆をだしてくるかもしれない」
「ラバウルの援護は?」
「まずいことに散発的になっている。タイミング次第では上陸部隊に被害が出る」
「摩耶ちゃんならなんとかしてくれるかも」
「そう願うよ……私もね」
【長門】は出撃前に全艦娘に対して厳命したことがある。それは、あまりにも単純で、とてつもなく難しい命令だった。
(”だれ一人沈んではならぬ”。私たちが運命の
1943年3月14日 6:30
ラエ簡易港湾施設付近 第四戦隊【摩耶】
零戦隊が超重爆の迎撃をしている。距離は20000ほどだろうか。立体的な編隊を組んだ敵重爆のまわりを豆粒のような零戦が取り巻いている。
まだ【摩耶】の8cm高角砲の射程範囲外なので、今は零戦隊の活躍を見守るしかない。
(頼むぞ。なるべく減らしてくれよ)
重爆が2機ほど火を噴いて落ちていく。その倍数以上の零戦も墜落している。やはり、無傷で重爆を落とすのはベテランぞろいのラバウル航空隊でも難しいようだ。
「姉さん! 12000で迎撃隊に離れるように言ってくれ」
『了解』
まもなく
「12000だと射程ギリギリですよ」
「なーに。的はデカいんだ。当てて見せろよ能代」
重爆がもう1機落ちていく。これで迎撃網を突破した超重爆は9機だ。10000の距離は航空機にとってはあっという間だ。【摩耶】たちは、そのわずかな時間で全機撃墜しなければならない。
【摩耶】と【能代】は重爆の進行方向に対して左舷を向ける。指向できる砲門は【摩耶】が八九式8cm高角砲8門、三式40mm機関砲6門、25mm機関砲40門。【能代】は八九式8cm高角砲2門、三式40mm機関砲2門、25mm機関砲30門だ。後方には12.7cm高角砲12門、三式40mm機関砲12門、25mm機関砲90門の姉たちがいる。それに二水戦の駆逐艦からの援護も得られる。
決して楽観はできないが悲観的になる必要もない。
「矢矧が言っていたよ。長8cm高角砲は最高だってね」
「中途半端とバカにされてきましたが、本当の価値を見せつけてやりましょう」
「砲身が溶けるまで撃て」
「了解! 砲身が溶けるまで!」
【摩耶】の対空射撃装置が
『摩耶! あなたが射撃開始の合図をして』
「わかった高尾姉さん」
敵重爆が散開を始めた。こちらの対空砲を警戒してのことだ。間隔が広がりすぎると厄介なので、【摩耶】は左端の三機に狙いを定める。
「能代! 目標は左の三機だ。準備は!?」
「いつでも!」
「よーし! 撃て!」
【摩耶】と【能代】の8cm高角砲が一斉に火を噴いた。そして、毎分26発という高サイクルで濃密な弾幕を形成し、目標の重爆を包み込む。そこに、【高尾】【愛宕】【鳥海】から放たれた12.7cm砲弾も加わり、最初の3機を瞬く間にしとめた。
(ここからだ……残り6機はバラバラになっている。各個撃墜しなければならない)
敵機との距離は8000まで縮まっている。秒単位で行動が求められる。
「姉さんたちは近くの重爆を! アタシと能代は遠くから狩る」
【高尾】たちは返事をする暇がないのか、砲撃音でそれに答えた。12.7cm砲は旋回速度が遅いが、自分たちの砲は1秒で20度近く回せる。
「能代! 遠い奴からだ。全部落とせ!」
「言われるまでもない!」
【能代】が
「撃てー!」
それは自分を
対空電探が距離6000を指示している。残り4機、かなり厳しくなってきた。
「高尾さんたちが1機落とした!」
【能代】が射撃を続けながら叫んだ。いいぞ、これで残り3機だ。もう少しでボ式(三式40mm機関砲)の射程に入る。
「能代! ボ式切り替えまであと1機だ。それこそ砲身が溶けるまで撃て」
「正直、もう溶けそうだよ……」
「アタシもだ。でももうひと頑張り」
「了解!」
砲身の赤さが白みを増している。かなり高温になっている証拠だ。しかし、【摩耶】と【能代】は射撃を続けて、もう1機を撃墜した。
距離は4000を切った。敵機も機動的な動きになり長8cm高角砲では
(残り2機……やばいか)
ここからは新装された三式40mm機関砲を使う。重爆相手では直撃でもしないかぎり撃墜は難しいが、蜘蛛の巣のような弾幕でダメージを蓄積させる。
【能代】と合わせて8門を続けざまに発射する。当然姉たちも加勢し、重爆が煙に包まれる。だが、重爆はものともせずに突入してくる。
「頑丈なやつめ!」
距離が3000を切る。重爆が爆弾倉を開けて爆撃準備をしている。そこに【能代】の放った40mm砲の1発が命中し、大爆発をおこした。
「あと1機だ。全部使え!」
「落ちろー!」
ハリネズミのように装備された25mm三連装機銃も一斉に射撃開始する。四方八方から曳光弾が重爆に集中し、まるで花火のようだ。いかに頑丈な重爆でも、200門以上になる機関砲、機銃に狙われては生き残れない。距離1000で最後の重爆が爆発し、【摩耶】たちの対空戦闘は終了した。
「本当に……左舷の8cmは使えなくなりました」
疲れ果てた様子で【能代】が言った。同感だ。自分の高角砲も結構やばいことになっている。
「砲身寿命が短すぎる……帰ったら矢矧に文句を言っておくよ」
「能代姉さんもそう言っていたとつけ加えてください」
「でも、優れた砲であることは分かった。能代、片弦2門じゃ少ない。阿賀野型の弱点だよな」
「わかっています。だから酒匂から片舷6門としています」
「そうか」
「ええ」
阿賀野型は姉妹愛が強い。【矢矧】と同様に、【能代】も姉妹の話をされると嬉しそうだ。
(けどな能代……アタシたちは艦娘なんだよ。別れはね……突然やってくるものだ。だから、いつでもその覚悟はしておかねばならないよ)
次話:航空殲滅戦