艦隊これくしょん ~永遠の終わり~ リメイク   作:Mt.モロー

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16.トラック防衛隊:航空殲滅戦(前編)

 1943年3月14日 7:30

  ソロモン海 第三航空戦隊【大鳳】

 

 第三艦隊は二つに分離して行動中だった。第三航空戦隊(【大鳳】【瑞鳳】)はソロモン海のど真ん中に進出し、敵機動部隊の攻撃を誘引するべく(さか)んに電探を使用している。第四航空戦隊(【隼鷹】【飛鷹】)は、ブナ砲撃艦隊(第四戦隊【高尾】【愛宕】【摩耶】【鳥海】)の後方(西方)に位置しており、アウトレンジで敵機動部隊を攻撃する。

 

「最上、まだ見つからない?」

「珊瑚海もかなり雲が多いみたいだよ。あわてないで瑞雲を信じよう」

 

 【大鳳】は上空を見上げる。【最上】が言ったように厚めの雲が、かなり低空まで広がっていた。上空護衛中の零戦が、雲スレスレを警戒飛行している。

 

 【大鳳】と【瑞鳳】は戦闘機しか搭載していないので、索敵は航空巡洋艦三隻に頼るしかない。その【最上】【熊野】【鈴谷】は、15機の強風改と18機の瑞雲を搭載しており、すべての瑞雲が南西方向に扇状(おおぎじょう)に索敵をしている。

 

「晴空の援護機の準備はできてる?」

「もちろん。でも、僕たちはこれですっからかんだよ」

「強風改は想定どおりの性能を出せるのかしら?」

「制空戦闘は無理だけど護衛戦闘なら問題ないよ。速度も500Km以上出るしね」

 

 航空巡洋艦に改造された最上型三隻(【三隈】は【最上】との衝突被害が大きく大規模修理中)の存在が、MO2作戦実行の決め手になったようなものだ。【大鳳】や秋月型と行動を共にできるほど強化された対空性能。通信、電探などの電子装備も充実している。

 

「最上、対空電探に感あり! 方位一五〇、距離4000」

 

 【鈴谷】から敵偵察機発見の報告だ。電探は方位や距離は識別できるが高度は分からない。どうやら雲を利用して接近したようだ。

 これで、こちらは発見されてしまった。想定どおりの展開ではあるが【大鳳】は、若干焦りを感じていた。

 

「まとわりつかれては面倒ね。零戦隊に追い払うように命じるわ」

「瑞鳳に見つかったことを連絡する?」

「そうね、お願い」

 

 軽空母で装甲がほぼゼロといえる【瑞鳳】は、【五十鈴】と第七駆逐隊の護衛で【大鳳】たちの一〇浬(20Km)北方にいた。

 

「最上! 瑞鳳に艦載機を発進次第三四〇に針路変更するように言って。予定通り航空殲滅戦の開始よ」

「了解……て、熊野、どうしたの?」

「姉さん、やったよ。うちの瑞雲が機動部隊を見つけた。方位一七〇、距離二五〇浬(460Km)」

「編成は!」

「”空母は一隻しか確認できず” だってさ」

「……」

 

 実に悩ましい報告だった。空母は必ず二隻いるはずだ。どこかにもう一つの機動部隊が存在している。

 

「大鳳……どうする?」

「晴空は?」

「予定ではあと10分で上空を通過するけど」

「それでは、最上たちは強風改の発進準備をして、私は第四に敵機動部隊の位置を連絡するわ」

「大鳳……もう一個機動部隊がいるよ。それはどうするの?」

 

 戦果を考えるのならば、敵機動部隊を撃破が最優先だろう。しかし、本作戦の【大鳳】の役割は完全なアシストだった。いや、そうではない。と【大鳳】は考え直す。敵がもっと嫌がることはなにか? 再建に時間のかかる航空兵力を消耗することではないのか? だとするのならば、この自分を(おとり)にした航空殲滅戦(こうくうせんめつせん)こそが、本作戦のメインテーマであるはずだ。

 

「第五戦隊も四水戦も偵察機を出している。見つけたらその時に考えましょう。今は、見えている敵に全集中です」

「輪形陣を広げます!」

 

 【秋月】が対空戦闘準備に入ることを報告しにきた。大丈夫、自分は秋月型四隻と最上型三隻という一航戦でも(うらや)むような布陣に守られており、50機以上の最新型零戦も上空展開可能だ。それに自分は50番の爆撃にも耐えられる装甲空母なのだ。

 

「敵機動部隊との距離を詰めます。針路一八〇、第三戦速(24ノット)」

 

 

 1943年3月14日 7:45

  ニューギニア北方 第十一戦隊【時雨】

 

「おーい時雨! 四航戦が飛行機飛ばすって。早くクジラを探して」

 

 なんとも呑気な【阿賀野】からの指示だ。航空母艦は艦載機発艦時は風向きに合わせて直進するため無防備になってしまう。【時雨】たち第二十七駆逐隊は、【雪風】の所属している第十六駆逐隊と共同で潜水艦狩りをしていた。一時間ほど前に、第四戦隊が潜水艦から雷撃を受けたとの報告があった(全艦被害なし)。四〇浬(75Km)離れているとはいえ、四航戦も類似した航路を進んでいるので、待ち伏せを受ける危険がある。

 

(絶対にいるはず……本当に早く見つけないと)

 

 水中探信儀は、速度をを上げると自艦の航行音で探知できなくなる。そのため、【時雨】は12ノット(22Km)に速度を落としている。それでも探知範囲は3000mほどでしかない。

 

「時雨! 早く見つけなよ」

「ちょっと、ユキ! もっと遠くを走ってよ」

 

 【雪風】たち第十六駆逐隊が高速で【時雨】たちの前方にでる。海水が泡立ち、落ち着くまでに数分かかる。まったく、この間にすり抜けられたらどうすると言うのだ。

 

(まずいね……隼鷹たちの全機発艦まで20分はかかる。この位置だとかなり危険だよ)

 

 低速の隼鷹型とはいえ、発艦時は25ノット(45Km)ほどの速度だ。わずかに先行している【時雨】たちに追いついてしまうのは時間の問題だ。

第二十七駆逐隊はそれぞれ3000mほど間隔を空けて潜水艦探知をしている。【時雨】は、その最も南側を担当していた。【雪風】が搔き乱した海中も落着き、四艦の発信音が耳に響いていた。

 

(これは……)

 

 【時雨】が違和感を覚えた情報は、水中探信儀ではなく水中聴音器から得られた。

 

「白露、30秒だけ静かにして」

「なにか見つけたの? 時雨」

「……」

 

 【時雨】は全神経を耳に集中していた。リーダーである【白露】は、それを察し、二十七駆全艦に発信を停止するように命じていた。

 

(泡の音……本当にクジラかな?)

 

 大型哺乳類のひれの音かもしれないと思った。しかし、近付くにつれ、規則的なキャビテーションノイズに変化した。間違いない。これはヨ級のスクリュー音だ。

 

「いたよ……距離は約3000、6時の方向」

「進行方向は?」

「隼鷹に向かっている」

「よし、有明と夕暮は頭を抑えに行って。時雨は接近して探信儀で脅かしてよ」

「分かった……囲んで沈めよう。逃がしちゃダメだ」

 

 四艦は推定される潜水艦の位置に対し、どう動いても逃げられないように陣取る。ここからは読み合いだ。三次元機動で逃げ切ろうとする潜水艦。速度と物量で有利な【時雨】たち。適切な予知予測が勝負を決める。

 

「爆雷は私が合図してからだよ」

 

 爆雷が爆発すると、しばらくのあいだ何も探知できなくなる。標的を見失う恐れがあるのだ。そのため【白露】は包囲を狭めてからの攻撃を指示していた。

 

「発信するよ」

 

 時雨は聴音器の情報から、ほぼ真下に標的がいる位置で探信音を発した。

 

(真下だ……深度は200……)

 

 強い音の反射で鼓膜が破れそうだが、【時雨】は発信を連続する。

 

「敵は3時方向に変針! 速度はおよそ5ノット」

「有明! そっちに行ったよ。発信して」

「了解!」

 

 逃げ出す隙間がないように、【時雨】たちは包囲の輪を閉じていく。

 

「さらに変針12時! 深度200!」

「かかったよ! 私と時雨は同航する。夕暮、爆雷投下!」

「はい!」

 

 敵の進行方向にいる【夕暮】からの爆雷投下だ。続いて自分と【白露】が投射器で挟むように爆雷を打ち出した。最後に【有明】が蓋をするように投下する。もう敵艦は爆発の衝撃波から逃げられない。

 

 しばらくして、海底火山噴火のような連続した水柱が立ち上がる。その中に、敵ヨ級の残骸と思われるものが混じり、海面には油も浮かんできた。

 

「仕留めたね……」

 

 【時雨】の淡白なつぶやきに【白露】が驚いている。

 

「嬉しくないの?」

「嬉しいさ。僕だってね」

「……時雨」

「心配しないでよ。もう、迷ったりしないよ。吹雪さんと約束したから」

 

 ”幸運艦”【時雨】の役割は、すべてを見届けることだ。これは自分が決めた。そして、同じ思いを持つ【吹雪】に出会い、もう一つの希望を見つけることができた。ただし、それは、【時雨】にしか理解できない奇妙な希望であった。

 

(吹雪さん……上がらない雨はありません。だから、永遠だって……いつかは終わります)

 

 艦娘と深海棲艦の戦いは、永遠のくびきのように繰り返している。【吹雪】はそれを止めようとしていた。互いの関係を考えると、それは不可能にも思える。

 

だが、【時雨】は、そう考えなかった。

 

 ”永遠”とは観測者がいてこそ成立するものだ。だから、その者がいなくなれば、静かに、自然に、”永遠”も終わるはずだ。

 

 そう、雨が上がるように。

 

 

 

 1943年3月14日 8:55

 ソロモン海 第三航空戦隊【大鳳】

 

 20分ほど前に、先行している【涼月】が距離130kmで敵攻撃隊を十三号電探で発見した。彼我(ひが)の距離を考えると、まもなく有視界に入るはずだ。

 

(雲が多いわね……)

 

 雲が多いと、電探性能は低下する。断片的な情報からおおよその位置は判明してるが、いまだに上空援護の零戦隊からの発見報告はなかった。

 

「大鳳! うちの瑞雲が敵を見つけたよ。8時方向、距離七〇〇〇〇、約60機」

「60……ほぼ全力ね。二次攻撃はないと判断します。零戦隊に全力迎撃を命じます」

 

 【最上】の報告に、【大鳳】はホッと胸をなでおろす。上空には瑞鳳航空隊と合わせて50機以上の零戦五四型がいた。【大鳳】の指示で、直掩機を除いた42機が迎撃に向かう。

 

「秋月たちは?」

「こちらに合流させて。零戦が打ち漏らした敵機が彼女たちの得物です」

「了解!」

 

 これで敵機はすべて撃墜できるはずだ。たとえ何機か生き残ったとしても、【大鳳】には(かわ)しきる自信があった。

 

 そこに、【熊野】からバッドニュースが飛び込んできた。

 

「大鳳、秋津洲から報告だよ! 大艇がもう一つの機動部隊を発見した。方位は一一〇、距離一六〇浬(300Km)」

「そんなところに……」

「10分ほど前だけど、艦載機を発進中だって」

 

 だとすると、あと一時間半ほどで攻撃を受ける。まずいことになった。ちょうど帰還機(四航戦含む)の着艦でてんやわんやの時間帯だ。

 

「どうする? 帰還機は瑞鳳に?」

「瑞鳳だけでは無理です。私が半分引き受けます」

「無茶だよ! 戦闘しながら着艦させようっての?」

「あなたたちがいるじゃない。それに……」

「それに?」

 

 【大鳳】は自慢の飛行甲板を叩いてみせた。

 

「私をなんだと思っているの? 私は装甲空母なのよ、爆弾の一発や二発、魚雷の一本ぐらいは耐えて見せる」

「それじゃあ……三発目の爆弾、二本目の魚雷が当たらないように、僕たちは大鳳を護衛するよ」

 

 【最上】の嫌みな笑顔に、【大鳳】は少々ムカついた。だが、それでいい。元々無傷ですむなどとは思っていない。要は沈まなければ良いのだ。

 

(私たちは沈むことが許されない……そうですよね、提督)

 

 

【挿絵表示】

 




次話:航空殲滅戦(後編)
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