艦隊これくしょん ~永遠の終わり~ リメイク   作:Mt.モロー

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19.トラック防衛隊:第五戦隊

 

【挿絵表示】

 

 

 1943年3月14日 10:30

 第五戦隊 【妙高】

 

 第二次MO作戦において、【妙高】等第五戦隊には、状況により二つの役割が【長門】から指令されていた。一つは、第三航空戦隊が大きな損害を受けた場合が該当する。第五戦隊、第四水雷戦隊は、決死の覚悟で第三航空戦隊の撤退援護をしなければならない。戦国時代にたとえるのなら、殿軍(しんがりぐん)というやつだ。

 

 もう一つは、瀕死の敵艦隊が攻撃範囲内に存在する場合だ。夜戦を想定した追撃戦を行い、敵艦隊を壊滅させる。そのために【長良】や【五月雨】など、鉄底海峡の地獄を生き残った夜戦のベテランが配置されていた。

 

 現状は、そのどちらでもなかった。攻撃範囲内に敵艦隊は存在するが、正確な位置はまだ確認できておらず、航空兵力がどの程度残っているかも把握できていない。むやみな追撃戦は「サンタクルーズ沖夜戦」のような悲劇(夜間航空攻撃よる【大井】【北上】の沈没)を繰り返す恐れがあった。

 

「羽黒、零式からの報告は?」

「はい……」

 

 妙高型は水上偵察機を三機搭載可能だ。【長良】が対空兵装強化のため水偵搭載機能を撤去していたので【妙高】たちの目は、姉妹の六機の零式水上偵察機しかなかった。そして、その六つの目は、数時間前に二式飛行艇が発見した敵機動部隊の南南東に向けて発進していた。

 

「あの……お姉さまはヲ級だけじゃないと?」

「三航戦に襲来した航空機が多すぎます。どこかにヌ級がいるはずです」

 

 

 【妙高】は、「サンタクルーズ沖夜戦」を生き残ったヌ級(軽空母)二隻がこの戦闘に参加していると考えていた。ヲ級一隻だけで三航戦を攻撃したのならば、文字通り、上空援護を考慮しない全力出撃をしたことになる。それは、これまでの深海棲艦の戦術ではない。 

 

「妙高、撤退はしないよね」

 

 走り寄ってきたのは、第四水雷戦隊旗艦の【長良】だ。彼女は、「第二次サボ島沖夜戦」と「第三次ソロモン海戦」で多くの艦娘が沈むのを見てきた。そのため、この戦いに対する意気込みには凄まじいものがあった。

 

「敵艦隊を発見してから判断しましょう」

「航空機が枯渇しているのなら、夜襲で仕留めようよ」

「枯渇しているのなら……でしょう?」

「いや、強襲でも行うべきだよ」

 

 【妙高】たちは、立場上無線や電探の使用はできない。ただ、受けることはできた。断片的な情報から、敵機動部隊は航空兵力を使い果たしたと【長良】は判断しているのだ。しかし、【妙高】はそう思えなかった。

 

「長門さんから無茶をするなと言われなかった?」

 

 少しむくれたような顔で【長良】は反論した。

 

「ちょっとやそっとの航空攻撃なら、私が撃退するよ」

 

 と言って、新設された三式40mm機関砲を叩いて見せた。彼女は【五十鈴】と同様の対空軽巡に改造されていた。対空強化が後回しにされた第五戦隊の補助として【長良】は配備されていた。とは言っても、最上型、秋月型という強力な対空艦が揃っていた第三艦隊に甚大な被害与えた敵の航空攻撃を侮るべきではない。

 

「アイアン・ボトム・サウンドで地獄を見たのはあなただけじゃない。私も、羽黒も……いいえ、あそこで戦った艦娘は……みんなそうなのよ」

「ちがう!」

 

 【長良】は激怒していた。その剣幕には【妙高】も【羽黒】も目を丸くするしかなかった。

 

「あれは……本当に地獄だった。電探死角のサボ島から突然現れた深海棲艦との遭遇戦……敵がどこで、味方がどこか分からない大混戦だった」

「……」

「神通は……自らを犠牲にして探照灯を……」

 

 鉄底海峡で行われた最悪の戦闘と言われる「第二次サボ島沖夜戦」の惨状は【妙高】の耳にも入っていた。【神通】【暁】が沈み【雷】が大破し、無傷の艦娘は中破した【比叡】を曳航していた【雪風】と【時雨】だけだった。

 【神通】の機転もあり、結果的には辛勝ではあったが、参加していた艦娘達は、心に大きな傷を負っていた。

 

「長良……あなたは地獄を繰り返したいの?」

「私も……五月雨も……毎日のようにあの日を思い出す」

 

 【長良】は、頭に手添えてうつむく。その目からは涙が(こぼ)れ落ちている。消えることのない悪夢から逃れる方法を探し、彼女は、もがき苦しんでいるのだ。いつの間にか【五月雨】も隣に来ており、やがて、第四水雷戦隊の七名が【妙高】と【羽黒】の周りに集まっていた。

 

(…… 深海棲艦への憎しみだけではこの戦いは終結しない)

 

 それは分かっている。しかし、それは理想論でしかない。姉妹が轟沈し、仲間を失った艦娘達には、無意味なお題目(だいもく)なのだ。

 

「……見つけました」

 

 【羽黒】の言葉に、艦娘たちが緊張している。

 

「ごめんなさい……お姉さまの予想どおりでした。ヌ級二隻が本体の北東十(カイリ)にいました。護衛は艦種不明の四隻」

 

 やはりヌ級が存在していた。だとするならば、まだ相当数の航空兵力を擁しているはずだ。彼女たちは、ヲ級がバヌアツまで撤退する援護を請け負っているはずだ。

 

「ヌ級なら速度が遅い。夜には追いつけるよ」

「でも、リコリスの攻撃範囲に入るわ」

「リコリスはまだ再建途中だよ!」

「そんなはずはない! 大和さんの砲撃から四か月も経っているのよ。深海棲艦の回復力を甘く見ないで」

「妙高! MO2作戦の目的は航空殲滅戦のはずだ! ヌ級二隻は絶対に見逃せない」

「そうじゃない! 航空殲滅戦は空母の撃沈が目的ではない。航空兵力そのものを削ぐことよ。それならば、もう目的は達せられた」

 

 【長良】の意見もよく分かる。だが、自分はそんなリスキーな指示は出せない。なぜならば、第二艦隊司令である【長門】から、可能な限り戦力を温存せよと命令されていたからだ。小規模ながら無傷の機動部隊との交戦は無謀すぎる。

 

「妙高さん……」

 

 物静かな【五月雨】さえも【妙高】を睨みつけていた。ヌ級二隻への夜襲。それが第四水雷戦隊の総意になっていた。その期待に応えるのが旗艦としてのあるべき姿なのだろう。

 

(頑固さは自負しています……)

 

 しかし、自分は違うのだ。その場の感情などに流されたりはしない。険悪な雰囲気になることなども恐れない。

 

「旗艦は撤退を命令します。異論はトラックにて受け付けます」

「妙高!」

 

 怒髪天(どはつてん)を突く勢いで【長良】が叫んだ。【妙高】は表情一つ変えずに【長良】に目を合わせる。

 

「長良、聞こえませんでしたか? 撤退です」

「……」

 

 【羽黒】が眉を八の字にしてあたふたしている。だれがなんと言おうと、自分には皆を無傷で帰還させる責任がある。弱腰だの、消極的だの、そんな批判などは気にならない。提督から『艦娘は決して沈んではならない』と言われた。その言葉の正しさを疑うべきではない。

 

 

 1943年3月14日 11:35

 トラック泊地 第二艦隊司令部【長門】

 

 航空兵力優勢の流れは止められない。まともな対空兵装がなければ戦艦でも空母でも生き残れない。それを踏まえて、MO2作戦は、現状考えうる最高の布陣で挑んだはずであった。対空強化された最上型三隻、防空駆逐艦の秋月型四隻に守られ、装甲空母【大鳳】には、零式五四型のみ50機が搭載されており、盤石(ばんじゃく)を期して敵前中継基地としてソロモン海に進出していた。

 

「思い通りにはいかないものだな……」

 

 【長門】は独りごちた。

 

 【大鳳】たちは濃密な低雲により、自慢の迎撃機と艦隊が分離され、敵攻撃機に輪形陣への侵入を許してしまった。しかも、第四航空戦隊の攻撃機収容のタイミングと重なってしまい、十分な回避行動が行えず、【若月】が大破、【大鳳】【最上】が中破という損害を出してしまった。さらに、航空機の損害も馬鹿にならないという報告だ。

 

「明石、最終的な航空機損失は?」

「大鳳だけでは無理がありました。損傷の大きい雷撃機12機、爆撃機7機が海上投棄されました」

「四航戦に帰還したのは?」

「隼鷹から報告がありませんのでまだ確定ではありませんが、大鳳、瑞鳳の補給後に飛び立ったのは、40機です」

 

 深海棲艦との戦力差を考えるのなら、航空機の損失率は1:3以下でなければならない。

第四航空戦隊はほぼ全力の72機で出撃し、32機損失した。ラエの防空戦でも9機損失しており、四航戦は航空隊の再編成が必要になる。第三航空戦隊も8機失っており、合計50もの損失だった。それに加え、新兵器の晴空が2機、強風改が6機失われた。唯一の救いは、搭乗員の損失が少ないことだ。

 

「推定でかまわん。敵機の撃墜報告は?」

「まずは、モレスビー航空隊です。四航戦とラバウル航空隊により重爆12機、戦闘機11機撃墜」

「三航戦は?」

「第一次攻撃の約60機は全機撃墜。第二次攻撃の約70機の九割は撃墜したとの報告です。そのほか四航戦の攻撃隊が敵艦隊の護衛戦闘機を10機撃墜したとのことです」

「そうか……」

 

 戦果だけなら満足できる数字だ。これで、この海域での敵母艦戦力は壊滅状態だ。だが、味方の損害も想定を超えていた。これでは、航空殲滅戦が成功したとは言えない。 

 

「妙高から連絡です」

「良い話か?」

「さあ……どうでしょうか」

「続けてくれ」

 

 【明石】が言いづらそうにメモ紙に目を移した。

 

「第五戦隊及び第四水雷戦隊はトラックに撤退中」

「いい話だよ。明石」

「ヌ級二隻とヲ級を見逃した形になりますが……」

「妙高でなければ……長良を説得できなかっただろうな」

「長門さん……私は長良と五月雨の苦悩を知っています」

 

 ガダルカナル撤退戦後、多くの艦娘はトラックで【明石】から応急処置を受けていた。そのため、【明石】は、処置した艦娘の身体や心の状態をよく知っていた。

 

「そうだな……目の前で、神通と暁が沈むのを見ていたのだからな」

「正直、今回の作戦に二人を参加させたくありませんでした」

「妙高を恨んでいるだろうな。大丈夫、私が説明するよ。妙高は私の命令を守っただけだとね」

「お願いします」

 

 第二次MO作戦はこれで終了した。結果的には成功とはいえないものの、これからの戦局をこちらが定めることができた。

 

「明石、大鯨は入港しているか?」

「剣埼と一緒に明日入港予定です。千歳、千代田も同時に入港します」

 

 深海棲艦はニューギニアをこのままにはしておけないはずだ。必ず航空戦力を回復させて奪回にくるだろう。

 

「イー201型は足が短いからね」

 

 潜高型の弱点は騒音と航続距離だ。音の方は新型スクリューでなんとか対応できたが、航続距離はどうしようもなかった。提督は、軽空母に改造されようとしていた【大鯨】と【剣埼】を潜水母艦のままとして、新たに迅鯨改型潜水母艦二隻の建造も進めている。

 

(航空殲滅戦は空の闘いだけではない)

 

 よほどの大型機でなければ、航空機の補充は船で行う必要がある。輸送船ごと沈めてしまえば、効率よく無力化できる。

 

「千歳、千代田の編成は変わりないか?」

「二人とも瑞雲12機、強風改12機ですね。対潜装備も間に合いました」

 

 それは深海棲艦も考えることは同じだろう。この海域は、これから敵味方の潜水艦がひしめき合う状態になる。こちらが新たに切れるカードは、第三潜水戦隊(【大鯨】)の潜水艦八隻と第四潜水戦隊(【剣埼】)の潜水艦六隻だ。【千歳】【千代田】と連携しながら、なんとかトラック防衛隊の準備が整うまで耐えてもらわねばならない。

 

「深海棲艦にはニューギニアに張り付いてもらうよ」

「私たちは……いつになったらソロモンの呪いから解放されるのでしょうか?」

「時間稼ぎだよ……ニューギニアもブーゲンビルも……このトラックもいずれは放棄する」

「……」

「私たちにはソロモンの呪い以上の呪いがかかっていることを忘れてはならない」

「……はい」

「拠点防衛はフェイクにすぎない。なによりも大事なのは――」

「……」

「――艦娘がだれも沈まないことだ」

 




次話:トラック防衛隊:出陣、トラック防衛隊
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