艦隊これくしょん ~永遠の終わり~ リメイク   作:Mt.モロー

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3.次発装填よし:更なる苦難

11月13日 サンタクルーズ諸島沖

 01時00分 第四航空戦隊 【吹雪】

 

 【吹雪】たち第四航空戦隊は、【利根】の夜偵が発見した敵航空部隊②の偵察範囲ギリギリを並走している。存在を意識させながら見つかってはならないという苦しい立ち回りだ。

 

「トラックから通信が入った。速度原速」

 

 旗艦の【利根】から強い口調での指令だ。良好な通信を確立するためには十ノット付近まで速度を落とす必要がある。夜間ではあるが、【吹雪】は対空対潜警戒を厳重にする。深海棲艦は威力索敵を多用するので発見されると即攻撃を受ける恐れがあるからだ。こちらには【大井】と【北上】という重雷装艦がいる。爆弾の一発、いや、機銃掃射でさえ致命傷になりうる。

 

「吹雪ちゃん、夕立ちゃん。止まって」

 

 【筑摩】が艦隊に停止命令を出した。【吹雪】は【夕立】と顔を見合わせる。状況が状況だけに、艦隊は対空電探を使えない。敵②は夜偵で位置を察知されたことは知っているはずだ。躍起になってこちらを探しているだろう。停止状態からだと奇襲された場合に対応が遅れてしまう。

 

「どうしたんですか?」

「作戦変更じゃ……」

 

 【利根】が浮かぬ顔で言った。

 

吾輩(わがはい)たちは更に厳しい立場に置かれた」

「厳しい?」

「長門殿からの指令はこれまでとは真逆。“敵に見つかれ。飛鷹がいないことを認知させろ”だ」

「どうやって?」

「②の電探範囲内に進入し、見つかり次第、最大戦速で離脱する。攻撃は苦し紛れで結構。戦果は二の次じゃ」

 

 【大井】が首を(かし)げている。

 

「北上さん……どういうことか解かる?」

「大和さんがやばいんじゃない」

 

 【利根】が頷いた。その顔は深刻そのものだ。

 

「敵主力艦隊はレ級二隻タ級四隻。その他にも対空強化した前衛艦隊がいる。それがあの海域の状況じゃ」

「挺身攻撃隊は?」

 

 その問いには【筑摩】が答える。

 

「大和さん陸奥さんと、小破の霧島さん。それに鳥海さんね。臨時に再編成した二水戦は川内ちゃんが率いているけど……数的にも、戦力的にも劣勢なのは(いな)めないわ」

「川内?……神通さんは?」

 

 【利根】が目を閉じて首を振った。

 

「暁も……」

「……」

 

 【吹雪】は、この瞬間が大嫌いだった。アイアン・ボトム・サウンドで沈む運命を拒み、生還した罪悪感。仲間を失った悲しみ。その二つが、【吹雪】の心を強烈に痛めつける。

 

「攻撃は適当ってことだけど、私は北上さんと隠密雷撃をするからね」

「馬鹿を言うな。そこまでは近づけぬわ」

「20000でいいよ……私と北上さんで八十射線。何本かは必ず当たる」

「大井っちと私は少し離れて進む。片舷四十だけでも……利根、お願い」

 

 【大井】と【北上】は球磨型軽巡の三番艦四番艦であった。同系型ではないが、同じ5500トン型としてグループ分けをされている【神通】の損失が、彼女たちの深海棲艦への憎悪をつのらせる。

 【吹雪】とて、そういう感情を持たないわけではない。だが、その悲しみと憎悪こそが地獄のような無限連鎖のエネルギーになっている。あの海底での経験が【吹雪】にそう結論させていた。しかし、【吹雪】自身もそれには疑念を持っていた。

 

「飛鷹さんがどこかにいると思わせたいのですか?」

 

 【大井】たちに冷静になってもらうために、【吹雪】は、【長門】の作戦変更の意図を確認する。

 

「大和さん、川内ちゃん……負けるとは思わないけど、戦闘が終わったら、きっとボロボロになってしまうでしょうね」

「追撃されると厄介じゃ。やつらには撤退してもらわねばならん」

 

 【利根】と【筑摩】が空気を読んで作戦変更の前提から話しはじめる。これで、【大井】たちも落ち着いてくれるといいが。

 

「だから……飛鷹さんの偽艦隊が必要なのですか?」

「飛鷹の機関故障は突然だったから敵は知らない。どこかにいると思わせるのよ」

「そんなの……引っかかるとは思えない」

 

 めっきり口数の減った【夕立】が否定的な意見を言う。それには【吹雪】も同意見だった。

 

「ラバウルから偽の飛鷹航空隊を飛ばしてもらいます。わずか数機だけど、電探なら大編隊で識別される」

「……」

 

 ばるほど、と【吹雪】は思った。痛手を負った艦隊ならば、航空攻撃を恐れて撤退するだろう。

 しかし、【大井】は納得いかない様子で、少々苛立(いらだ)ちながら【利根】につっかかる。

 

「こっちの①②はどうするわけ? 時間稼ぎはしなくてもいいの?」

「逆じゃ大井……時間稼ぎされていたのは吾輩たちじゃ。①②は、最初からこの戦闘には関与していない」

「どういうこと?」

「深海棲艦の目的は、大和さんたち主力艦の壊滅。飛鷹、隼鷹が鉄底海峡付近にいては困る。だから、①も②もイ号の哨戒圏を見つかるように突破した」

「おびき出されたのは……私たち?」

「そうじゃ……だから、今度はこっちの番じゃ。大井、北上、雷撃は可能ならば許可する。ただし、一撃分だけじゃ。次発分の魚雷は廃棄してもらう」

「……了解」

 

 

 第四航空戦隊は第三戦速で進んでいた。月も出ておらず、辺りは完全な暗闇と言えた。その中、【吹雪】たちは電探も用いずに46kmもの速度で波をかき分けている。

 万が一の臨戦を考慮して、陣形は複縦陣だった。

 

 【吹雪】と並んで先頭を走る【夕立】の速度が落ちてきている。

 

「夕立ちゃん、また調子が悪くなったの?」

「これは本格的にダメかも……二十五ノットも出せない」

「夕立ちゃん下がって、先頭は私が」

「でも……」

 

 あっという間に中央にいた【利根】【筑摩】に追いつかれた。

 

「どうした」

「夕立ちゃんが機関不調です。後ろに下げてください」

「大丈夫です。……六隻で発見されなければ、目的は果たせません」

「無茶を言うな。夕立、お主は離脱じゃ」

 

 艦隊速度が十八ノットまで下がった。【大井】【北上】にも追いつかれる。

 【夕立】の事情を聞いた【北上】が、意外な解決策を提案した。

 

「夕立は私と大井っちの後ろからついてきなよ。雷撃が終わったら、二人で引っ張っていくから。5500トン級はそれなりに馬力があるから大丈夫だよ」

「それに私と北上さんの九三式で②なんて残ってないかも。特型駆逐艦、安心しなさい」

 

 暗闇で表情は見えないが、声の感じから【大井】は笑っているように思えた。【吹雪】は不安を感じながらも、二人の提案を受け入れる。しかし、【夕立】まで失ってしまったらとも考える。【睦月】【夕立】、二人は【吹雪】にとって姉妹艦以上に大切な存在だった。だが、もう、【睦月】にはもう永遠に会うことができない。

 

 【利根】が陣形を単縦陣に変更する。先頭は、最も夜目が利く【吹雪】だ。

 

「念のために夜偵は出すが、頼りになるのはお主の目じゃぞ」

「はい。速度は第二戦速(およそ39km)とします。少し私から離れてついてきてください」

「うむ」

 

 火薬式カタパルトを使用して【利根】が九八式水上偵察機を射出した。大型の水上機で【利根】が二機装備している。

 

(お互いに演技をしているはず……②も①も針路は変えない。ガダルカナルを目指している)

 

 第四航空戦隊は航空部隊②の約三十(かいり)(約55km)の距離にいた。ここから一気に敵電探範囲内に進入し、【大井】が要求している十浬(約20km)まで接近する。しかも挺身攻撃隊を援護するために一時間以内に発見されなければならなかった。

 

「方位二一〇、夕立ちゃんついてこられる?」

「なんとか……」

 

 時間的な制約があるので、距離を詰めるには敵の速度も活用するしかない。【吹雪】たちは直線的に②の前面に出る針路を選択した。

 

(まもなく電探で見つかるはず。こっちに空母がいないと分かれば、必ず攻撃を受ける)

 

 【利根】の言ったとおりだ。自分たちは更に厳しい立場に置かれた。しかし、もうだれも失いたくはない。

 

(必ず……全員生還させる)

 

 

【挿絵表示】

 

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