艦隊これくしょん ~永遠の終わり~ リメイク   作:Mt.モロー

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5.次発装填よし:覚悟の違い

11月13日 サンタクルーズ諸島沖

 02時05分 第四航空戦隊 【吹雪】

 

 初弾として迫りくる敵機に放たれたのは【利根】と【筑摩】の左舷八門の12.7cm高角砲だった。続けて【吹雪】と【夕立】が合計十二門の長10cm高角砲を放った。

 夜間なので距離的な錯誤(さくご)があり、かろうじて二機に火をふかせただけだ。

 

「夕立ちゃん。右側をお願い」

「分かった」

 

 二個編隊が左右に分かれた。側面から後方にいる重雷装艦を狙うつもりだ。彼女たちは機銃しか積んでおらず、航空攻撃には無防備に近い。

 

「吹雪! 北上の左に回れ! 前方は吾輩と筑摩でなんとかする」

「了解」

 

 【吹雪】は減速して【北上】の左舷側にシフトチェンジした。そして砲身が赤くなるまで主砲を連射する。

 一機を撃墜する。しかし敵機は依然(いぜん)爆撃コースを維持している。夜間なので急降下爆撃はないにしても小型爆弾を多数ばら撒かれては回避しきれない。

 

(通さない!)

 

 至近距離で二機目を撃墜したが、もう一機に頭上をパスされた。

 

「当たれ!」

 

 砲身の旋回が間に合わず【吹雪】は改装時に新設された25mm連装機銃を敵機に向けて連射する。その何発かが搭載していた爆弾に命中し、敵機が爆散した。

 【吹雪】は大きく息を吐いた。

 

「夕立ちゃん!」

「大丈夫。全機撃墜した」

「特型! 筑摩が」

 

 【大井】が気を抜くなと注意を喚起する。【吹雪】が振り返ると、【筑摩】に命中弾が出ていた。

 

「!」

 

 艦隊は無傷では済まなかった。【利根】【筑摩】を襲った七機のうち数機が二艦の爆撃に成功した。

 【筑摩】が煙を上げて腕を抱えている。

 

「筑摩さん……」

「大丈夫よ吹雪ちゃん。当たったのは六番(60kg爆弾)だから。私たちは頑丈なのよ。ね、利根」

「そうじゃ、それよりも対空電探にまた反応があった第二波がくるぞ。今度は機数も多いはずだ」

「少し遠いけど雷撃する。最大戦速で突入するから援護を頼む」

「ちょ、待て! 北上!」

 

 【北上】と【大井】は【利根】を無視して②へ疾走を開始した。【吹雪】は悪い判断ではないと考えた。後続編隊が来襲する前に魚雷を撃ってしまい、次発分は投棄する。そうなれば重雷装艦の危うさが回避できる。

 ただし懸念事項もある。

 

「夕立ちゃん!」

「え……」

 

 【吹雪】は手を伸ばして【夕立】をつかんだ。そして速力の上がらない彼女をなんとか三十ノットまで加速させた。

 

「吹雪ちゃん……」

「今度は私の番だよ」

 

 【吹雪】が第三水雷戦隊に配属され、初めて実戦参加したあの日、洋上航行もままならぬ【吹雪】を支えてくれたのは【睦月】【夕立】だった。だから、今度は自分が【夕立】を支える番だ。

 

「あと五分ほどでくるぞ! 北上、急げ」

 

 【利根】が高角砲を発射しながら言った。【夕立】を引っ張りながらなので【吹雪】は【北上】たちに追従(ついじゅう)できない。ここで敵機を撃墜しなければならない。

 

「六編隊の十八機。しかも早い」

「全部は無理。夕立ちゃん、無傷の編隊を残さないように落そう。それで爆撃精度を下げられる」

 

 【吹雪】と【夕立】は蛇行しながら対空射撃を繰り返す。

 ノイズ交じりの無線が【大井】から入る。

 

『特型! あと一分だけ防ぎなさい』

「了解! だけど二人も気を付けてください」

『だれに向かってものを言っているの? 私と北上さんは雷撃のスペシャリストなのよ』

「失礼……しました」

 

 思ったより落とせない。このままだと二個編隊にパスされてしまう。

 

「北上さん……」

 

 

11月13日 サンタクルーズ諸島沖

 02時15分 第四航空戦隊【北上】

 

 【北上】は、航空部隊②への絶妙な雷撃コースに入っていた。敵は逃げようとしていた。そのため、未来位置の幅も狭くなる。

 

「雷速四一ノット。大井っちは逃げ方向に散布して」

「分かりました」

 

 【北上】と【大井】は左舷に並べられた五基の四連装魚雷発射管を微調整する。敵がどこに逃げても必ず何発かは当たる射角にするのだ。

 

「撃て!」

 

 左舷二十射線の九三式酸素魚雷が次々と射出されていく。【大井】のものと合わせて四十本もの“見えない槍”が放たれた。

 

「北上さん! 敵機がきます」

 

 上空を八機ほどの航空機が飛んでおり、その内の三機が【北上】たちの爆撃を目論(もくろ)み、緩降下(かんこうか)を始めた。

 

「当たらないよ」

 

 【北上】と【大井】は高速で蛇行して敵機の射線を外すことに成功した。これでしばらく時間を稼げる。その間に二艦は右舷側の雷撃を狙う。

 

「大井っち、取舵一杯!」

「北上さん! 敵機がそれを狙っています」

「大丈夫」

 

 【大井】の指摘どおり、取舵の進行方向に次の三機の編隊が待ちかねていた。しかし、【北上】たちには、それを外せる秘策があった。

 

「大井っち!」

「はい!」

 

 【北上】左手を伸ばし【大井】の右手とがっちり繋いだ。そして、機関を最大出力にして速力を上げる。逆に【大井】は減速する。そうすることで、通常の半分以下の半径で旋回できる。

 射線を外された敵機が上昇していく。そうだ、もう一度やり直してもらおう。

 すると突然、【大井】は繋がれていた手を強引に振りほどいた。

 

「……大井っち?」

 

 加速していた【北上】と減速していた【大井】の距離がみるみる離れていく。

 

(なぜ……?)

 

 【大井】が【北上】を見続けている。悲し気な笑顔で、まるで別れを惜しむように見ている。そして、【大井】の上空に黒いゴマのようなものが見えた。

 

「しまった!」

 

 敵機の編隊ばかりに気を取られていた。単機行動していた一機が【大井】に小型爆弾を投射していた。

 

「お……」

 

 【大井】の名前を叫ぼうとした瞬間。彼女は太陽のような閃光に変化した。遅れてきた爆風により【北上】は弾き飛ばされ、海上に叩きつけられた。

 分かっていた。自分たちがどんなに危険な存在かは分かっていた。何十本もの魚雷を甲板に並べているのだ。一本でも爆発したら容易に誘爆を起こす。

 姉妹艦であり、それ以上の存在でもあった【大井】の損失。【北上】の心に大きな悲しみが発生していた。だが、それを上回る巨大な怒りが、【北上】を立ち上がらせた。そして、即座に最大戦速を発揮し、右舷側の射線を探る。生かしてはおけない【大井】を沈めたあの艦隊を全滅させてやる。

 

「北上さん!」

 

 【吹雪】が対空射撃をしながら警告している。体勢を整えた最初の編隊がこちらに向かっていた。【吹雪】が一機爆散させたが残りの二機は健在だ。しかし、それは間に合わない。こちらの方が絶対に早い。

 

「沈めー!」

 

 【北上】は必殺の射角で二十本の無航跡魚雷(むこうせきぎょらい)を放った。敵機が二機爆撃コースに入っているが当たるわけにはいかない。【大井】と放った最初の魚雷四十本が敵艦隊に到達するまであと十分ほどで、今の二十本は二十分以上かかる。その顛末を見届けるまでは、沈むことはできない。

 【北上】は体を大きく傾けて急速旋回する。敵機が爆弾を投射した。向かってくる八個の六番は、円形から楕円形にシルエットを変えた。そして、全弾が【北上】の左舷に落ちて水柱を上げている。

 今度は【夕立】の射撃が敵機を撃ち落とした。投射する爆弾がなくなった残機が帰還していき、束の間ではあるが、海域は平穏を取り戻した。

 

(大井っち……)

 

 敵への怒りが消えたわけではない。ただ、装填されていた魚雷を撃ち尽くしたことで、怒りと悲しみの天秤が逆に傾いた。

 泣いたり叫んだりしても収まるものではない。【大井】が沈んだという事実を【北上】は受け入れることができなかった。だから、天秤の傾きを元に戻す。

 

(次発……装填)

 

 今は怒りに身を任せるしかない。残り四十本の九三式酸素魚雷を憎き敵艦隊に叩き込んでやる。

 

「北上さん」

 

 【吹雪】が【夕立】を引っ張りながらやってきた。左肩から血が出ている。対空戦闘時の機銃掃射でやられたのであろう。

 

「大丈夫?」

「はい……こんなのかすり傷です」

 

 無理に笑顔を作り、傷口を右手で圧迫している。そして、言い辛そうに口を開く。

 

「あの……」

「大井っちはね……最期まで私を見ていたんだよ」

「……」

「艦娘の別れは……どうして……こんなに突然にやってくるんだろうね」

「……北上さん」

 

 【利根】と【筑摩】も合流した。【筑摩】は電探を忙しく動かしている。

 

「北上、心残りだろうが、一時撤退しよう。大井のことはこの戦闘が終わってから改めて……」

 

 【筑摩】が敵の第三波を捉えたのだろう。これで分かった。航空部隊②は偵察スコードロンを数個に分けて展開していたのだ。それならば散発的な攻撃も納得がいく。

 

「分かりました」

 

 と、素直に【利根】に返事をした。もちろん嘘だ。ただ、あまり感情を表にしない自分の嘘は、彼女には見破れないだろう。それが分るのは【大井】だけだ。

 

「でも、もう少しで最初の魚雷の到達時間です。それを見届けてから追いかけますので、四人は先に行ってください」

「嘘はやめてください!」

 

 【吹雪】が肩を震わせて叫んだ。

 

「と……吹雪」

 

 いつものように特型と呼ぼうとしたが、途中で彼女の名前で呼ぶことにした。【大井】以外にも私は嘘を見抜ける艦娘がいた。そう考えると、少し嬉しくなった。しかし、それを認めるわけにはいかない。

 

「嘘じゃないよ。私はただ……」

「だったらどうして!」

 

 目から大粒の涙を流しながら、【吹雪】は【北上】に詰め寄った。

 

「どうして……魚雷を再装填しているんですか? 廃棄する約束じゃなかったんですか?」

「……」

「私たち艦娘は……沈むことを許されていないんですよ……」

 

 【北上】は自分の弱さを思い知らされた。

 

(そうだったね、君は、この悲しみを知っている。最愛の友が目の前からいなくなる。真の絶望を知っている。それを乗り越えようとしている君は本当に強い。でもね、私はそうじゃない)

 

「筑摩さん……敵機はあとどれぐらい?」

 

 突然、【夕立】が口を開いた。場違いではないが、唐突の質問に【筑摩】も戸惑っている。

 

「すぐよ……あと十分もかからないわ」

「そう」

 

 【夕立】は不思議な行動をした。微速で少し前進して主砲を構えている。そして、そのまま【吹雪】の方に向きを変える。

 

「吹雪ちゃん」

「……」

 

 呼ばれた【吹雪】は、砲口が自分に向いていることに気が付き、その意図を確かめようとした。

 

「夕立ちゃん……なにを?」

「ごめんね……私を憎んでもいい」

 

 そう言って、【夕立】は【吹雪】に主砲を発射した。

 不意をつかれた【吹雪】は、まともに腹部に食らい、吹き飛ばされた。

 

「夕立! なにをしとる」

 

 【利根】が慌てて【夕立】を抑えつけ、【筑摩】は海面に横たわる【吹雪】を介抱している。

 

「弱装弾です。でも、吹雪ちゃんはもう自力では航行できない」

 

 【夕立】は、主砲を下ろし、寂しそうに言った。

 

「……お前、まさか」

 

 その尊い行動を見て【北上】は自分を恥じた。

 覚悟が違すぎる。嘘でその場を取り(つくろ)うとする自分に比べ、【大井】も【夕立】も、自分のことなど考えていない。仲間のために、なにが最良であるかを考え行動している。

 

「私はもう二十ノットも出せない。二人は吹雪ちゃんを連れて撤退してください」

 

 【吹雪】ならば、だれかを残して撤退するなど絶対にしないだろう。しかし、【利根】ならば、この究極の二択にも答えを出してくれるはずだ。

 

「私と北上さんで五十鈴さんがくるまでの時間を稼ぎます」

「なんという選択を吾輩にさせるのじゃ……」

 

 【北上】は、【夕立】の肩を掴み隣に立った。

 

「その子を……【吹雪】を沈めてはいけない」

 

 そうだ。その点では、自分と【夕立】の意見は一致している。たとえ自分たちが沈んでも、きっと【吹雪】が覚えていてくれる。それは、艦娘にとってなによりも嬉しいことだ。

 

「……五十鈴がくるまでの辛抱じゃ。決して沈むなよ」

「はい」

 

 【北上】と【夕立】は、敬礼をして答えた、【利根】と【筑摩】も、【吹雪】を抱えながら返礼している。これでいい。これが現時点では最良だ。

 

(そうでしょう……大井っち)

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

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