艦隊これくしょん ~永遠の終わり~ リメイク   作:Mt.モロー

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6.次発装填よし:生きるための戦い

11月13日 トラック泊地

 02時35分 第二艦隊司令部【長門】

 

 戦況は急展開を迎えていた。西のガダルカナル島沖では【大和】たち挺身攻撃隊が二倍の戦力の敵主力部隊と殴り合いをしている。サンタクルーズ島沖の第四航空戦隊では【大井】が爆沈し、【吹雪】【夕立】が中破、【筑摩】が小破しているという報告があった。現在、重巡二隻で【吹雪】を曳航(えいこう)して撤退中。【北上】と【夕立】は殿(しんがり)を務めているらしかった。

 

(殿だと? 戦国時代じゃあるまいし)

 

 その【北上】と【夕立】に説得をするべく、【長門】は通常の平文の通信(暗号を混ぜない)で彼女たちと連絡しようとしている。

 

「大淀、まだか!」

 

 【長門】は、通信器を操作している【大淀】を急き立てる。急がなければならない。特に【北上】は、死に場所を探しているに違いない。

 

「繋がりました。北上さんです」

 

 乱暴に【大淀】からマイクを受け取る。

 

「北上! 長門だ。聞こえるか?」

『……い』

 

 雑音がひどいが、なんとか繋がっている様子だ。

 

「いいか北上、夕立と一緒に針路を二五〇に変えろ。五十鈴と海風がその近海にいる。彼女たちと合流して撤退しろ」

『じ…………』

「生き延びるんだ。大井だってそれを望んでいるはずだ」

『…………し』

 

 ほとんど聞き取れない音声の悪さに、【長門】はイライラして【大淀】を怒鳴りつける。

 

「大淀! なんとかしろ!」

「はい」

 

 【大淀】が汗をかきながら周波数を調整する。すると、奇跡的に雑音が除去されたクリアな通信が確立された。

 

『よし』

「なに? 北上、もう一度だ。もう一度言ってくれ」

『次発装填よし!』

「……なんだと」

『……』

 

 【大淀】が首を振っている。

 

「切れました」

「死に神に()りつかれたか……北上」

 

 無力感が【長門】を支配していた。サンタクルーズはあまりにも遠すぎる。自分にできることは少ない。

 

「明石! 夕立は?」

「応答がありません。通信器が故障しているのかもしれません」

「そうか……それでは、五十鈴に督戦(とくせん)だ」

「はい」

 

 【北上】と【夕立】を救う最後の望みは、第三航空戦隊から分離された【五十鈴】と【海風】だった。

 

「急げ、北上と夕立を救え」

「長門さん……それは督戦でしょうか?」

「いいのだ。このまま伝えてくれ。返信は不要だ。位置が敵に特定されるからね」

「……送ります」

 

 急坂を転がる小石のように、戦況は目まぐるしく変化していた。想定を超えるおびただしい損害は、【長門】に作戦自体の失敗をも意識させた。深海棲艦は繰り返される戦闘の経験則を持っている。提督と立案したこの作戦も、彼女たちにとっては想定の範囲内ではないのかと考えてしまう。

 

(信じろ……私が信じないでどうする)

 

 【長門】は、血が出るほど唇を噛み締めた。

 

 

 

 

11月13日 サンタクルーズ諸島沖

 02時40分 第四航空戦隊【北上】

 

 【北上】が【長門】との通信を切ったのは、今、目の前に広がる光景が理由であった。水平線に輝く三本の松明(たいまつ)のような明かり。その内一本はほかのものよりも大きかった。

 

「やった……やったよ大井っち」

 

 【大井】と二人で放った四十本の九三式酸素魚雷が敵航空部隊②に到達し、三隻に命中していた。大きな明かりは航空燃料に引火した軽空母のものだろう。九三式の破壊力を考えるのなら撃沈は間違いない。

 

「もう一隻ですね」

「そうだね、軽空母は二隻とも沈めなきゃね」

「私はもう十五ノットぐらいしか出せません。対空援護しかできませんが……」

 

 さきほどまで続いていた敵の第三次攻撃。十二機と少数であったが、こちらの対空防御は【夕立】だけなので手薄だった。そのため【北上】は回避するのが精一杯で、有効な雷撃射線を得ることができなかった。

 【夕立】はその戦闘中に小型爆弾二発を被弾して、速度がさらに低下していた、

 

「夕立はここまででいい……すぐ近くまで五十鈴がきているから。彼女と合流して」

「北上さんは?」

「もう少し接近して軽空母を確実に沈める。敵も、損害を出しているから、吹雪たちを追撃しないとは思うけど、念を入れておくよ」

「……分かりました。でも、少しだけ追いかけますよ。きっと、また攻撃がきます。敵だって報復したいでしょうから」

 

 【夕立】はここで死のうとしている。【北上】はそう思った。【睦月】を失ったことによる孤独感。助けるためとはいえ、友人である【吹雪】を砲撃してしまった罪悪感。それらの要因が、【夕立】の心から帰るべき場所を奪っているのかもしれない。

 

「夕立……私はね、長門さんから言われたんだよ。『死んでも大井は喜ばない』って」

「……」

「同じだよ……夕立が沈んでも吹雪は喜ばない」

「そうでしょうか?」

()()うよ。だからね。絶対に生きて帰ろう」

 

 嘘を言っているつもりはなかった。しかし、本心でもなかった。それでも【長門】が言ったことは真実だと思う。自分が沈んでも決して【大井】は喜ばない。

 

「北上さん…それじゃあ約束してください。いっしょに生きて帰るって」

「いいよ……でも」

「守れるかどうかはわかない……ですか?」

 

 本来は水雷戦隊に所属する【北上】と【夕立】は夜目が利く。だから、この弱い月明かりの元でも相手の顔が見える。

 笑っている。【夕立】も自分も、そのとおりだと言うように笑っている。

 

「夕立が沈んだら私は悲しい……だから沈まないでくれ」

「私も、同じ気持ちです」

 

 【北上】は頷き。「それじゃあ」と言って【夕立】と別れた。そして全速力で②へ向けて疾走する。11月にもなると、この辺りでも気温が低くなる。顔に当たる風も冷たい。それが、【大井】の復讐に燃えていた【北上】の心を冷ましていった。なんのために【大井】は自分を助けたのか? そうだ。【大井】は生きろと言っているのだ。自分の分まで生きてほしい。それが【大井】の願いのはずだ。

 ――松明がもう一本増えた。【北上】が怒りに任せて撃った右舷側の二十本のどれかが命中したのだ。ただ、その大きさかからして軽空母ではない。

 

(きたか……)

 

 新たに発生した光源により、上空にいた攻撃隊を発見できた。敵も本気で【北上】を潰そうと思っているらしく三十機近い大編隊だった。

 【北上】は後方を確認する。もう【夕立】は見えなくなっている。ここからは完全な一人旅だ。

 

(夕立……もういい。もう引き返せ。君にはまだ待っている人がいる)

 

 航空部隊②までの距離は13000ほどだ。雷撃しようと思えば可能ではあったが、【北上】は10000まで接近しようと思っていた。必中ではないが(魚雷の必中距離は1500とされる)確実に軽空母を仕留めたかった。それに、【夕立】に攻撃隊を向かわせてはならない。

 

(私を放っておくと大変なことになるよ。だから全機、私に向かってきな)

 

 

【挿絵表示】

 

 

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