艦隊これくしょん ~永遠の終わり~ リメイク   作:Mt.モロー

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7.次発装填よし:最期のメッセージ

11月13日 サンタクルーズ諸島沖

 02時50分 第四航空戦隊【北上】

 

 【北上】はS字を描きながら②へと接近する。あと数分で襲来する敵機の爆撃ラインを混乱させるためだ。

 敵編隊の前で四個の光が発生し、遅れて発砲音が聞こえた。【夕立】による対空援護だ。好ましくない状況であった。このままでは半数ほどが【夕立】に向かってしまう。

 

(目移りしちゃだめだよ。私はここだよ)

 

 【北上】はこの距離ではほとんど意味のない25mm連装機銃を連射し、まったく照準していない14cm単装砲も撃った。

 接近しつつある敵機すべてが散開し、【北上】に向けて降下を始めた。それでいい。しばらく回避を続けて、爆弾を使い切らせてやる。

 蛇行を止めて、②へ右側から45度の角度で突入する。母艦を守るべき艦載機たちは、【北上】が舷側を向ける前に攻撃を仕掛けるはずだ。

 

(敵も必死だな)

 

 なにがなんでも【北上】を沈めようとする執念が感じられた。三機ずつの三方向からの夾叉爆撃(きょうさばくげき)。【北上】の回避方向まで計算されている。

 その最初の刺客である編隊がやや右側から12発の小型爆弾を投射した。面舵方向に舵を切れば回避できるが、そこはデッドゾーンだ。残りの二編隊が待ち受けている。

 

(間に合うか……)

 

 取舵への旋回は角度的に爆弾を避け難い。しかし、それがこの窮地を脱する鍵だ。敵の予測の裏を描き続ければ良い。

 接近する爆弾が楕円形に変形していく。大丈夫だ。あれは外れる。爆弾は【北上】の後方に着弾し、無意味な水柱を上げた。

 【北上】は面舵を切り、再び45度の角度で②へ突入する。コンビネーションを崩された編隊が独自に【北上】を爆撃するが、まるでラインが合っていない。かなり離れた左舷や右舷に弾着した。【北上】は、その未熟な爆撃への回答のように25mm連装機銃で一機落として見せた。

 

(どうする? 早くしないと私はお前たちの母艦を沈めるぞ)

 

 その答えはすぐに得られた。敵の第二陣は【北上】の後方からやってきた。楔型(くさびがた)の三編隊が面制圧爆撃で【北上】を葬ろうとしていた。

 【北上】は振り返り、歯を見せて笑った。

 

「いいぞ! 私を沈めてみろ」

 

 聞こえるはずはないだろうが【北上】は大声で叫んだ。そして、芸術的な高速機動を行なった。速度では航空機が圧倒するが、小回りは艦娘の方が上だ。敵機は【北上】の動きに合わせて爆撃ラインを修正している。しかし、それは間に合わず、なにもできないまま【北上】の上空を通過していく。

 

「やりなおせ!」

 

 【北上】の機銃が今度は二機撃墜した。戦闘によるハイテンションが【北上】を鬼神に変えている。その後二度の爆撃も(かわ)し、【北上】は絶好の雷撃ラインを確保した。

 

(ここだ……軽空母が逃げる角度だけ考えればいい)

 

 しかし、それは、深海棲艦の罠だった。手が付けられない【北上】に対してあえて見せた隙なのだ。

 

(距離10000……これを逃したら次はない)

 

 正面に敵機が見え、爆弾を投下しようとしている。回避するなら今しかない。だが、【北上】はそのまま直進し、絶妙の射点で二十本の九三式酸素魚雷を射出した。

 ――それと同時に敵機が爆弾を投射した。

 

(完全な円形……これは当たるね)

 

 自分は死のうとしていたのではない。生きるために闘っていたのだ。もしも沈んだとしても、それは、ただの結果にすぎない。

 

(夕立……ごめんね。やっぱり、守れなかったよ)

 

 命中が約束されている円形の爆弾が近づいてくる。その前面に【大井】の寂しそうな笑顔が浮かび上がった。

 

(そんな顔しないでよ……今……会いに行くから)

 

 

11月13日 サンタクルーズ諸島沖

 03時10分 第四航空戦隊【夕立】

 

 【夕立】の缶は一基しか動いておらず、もはや速度は十ノットも出せなかった。そのため【北上】とは3000mも離されており、散発的な対空援護しかできることがなかった。そして、その役割は、突如発生した光球によって終わりを告げていた。

 

(ずるいですよ……約束を破るなんて)

 

 それは【北上】最期の輝きだった。

 

(私……また一人になったのかな)

 

 【北上】は自分に生きろと言ったが、どうやら、それも無理そうだ。敵航空機は【夕立】にも牙を剥こうとしている。その数、およそ十機。爆弾はないのかもしれないが、今の【夕立】ならば、機銃だけでも沈めることは可能だ。

 

(北上さん……あなた以外に、私が沈んだら悲しんでくれる人がいるでしょうか?)

 

 【北上】が()け負うと言った【吹雪】の顔が頭に浮かんだ。しかし、自分は、彼女を撃ってしまった。

 

(約束を破るわけではありません。でも、私にはまだ八本の魚雷が残っています)

 

 【夕立】は両足に装備された四連装魚雷発射管を触った。幸い無傷で、機能にはなんの問題もない。【北上】が最後に雷撃できたかどうかは分からない。それならば、自分が引き継ぐしかない。

 【夕立】は停止している缶の再起動を試みる。だが、それは上手くいかなかった。かろうじて動いている一基だけでの闘いになる。その機関を全開にしたが、速度は八ノットほどだ。敵機が目視で見える距離まで近づいている。攻撃されたら避けようがない。  

 

(落とすしかない)

 

 もはや長10cm砲の距離ではなかった。【夕立】は25mm連装機銃を敵編隊に浴びせるが、一機しか落とせなかった。残りの九機は四方八方から【夕立】に襲い掛かり、容赦のない機銃掃射を浴びせた。半分は回避したが、残り半分はまともに喰らった。そして、その中の一発が、【夕立】の右足の魚雷を爆発させた。

 

「!」

 

 言葉にならない激痛。【夕立】はその場に倒れ込んだ。右足の肉は大きく削げ落ち、骨が見えるほどだ。動くことなど到底できない。

 ――敵機が反転している。体勢を整えて、再度の機銃掃射を狙っている。

 

(吹雪ちゃん……もう私……ダメっぽい)

 

 艦娘である以上、沈むことは結果として受け入れる。ただ、【夕立】には一つ心残りがあった。それは【吹雪】に謝れないことだった。

 

(吹雪ちゃん、あなたは正しかった。なにもかも無駄だったんだね。必死になって……深海棲艦を沈めたって、もう、私たちは……睦月ちゃんに永遠に会うことができない)

 

 最後の時がきたと【夕立】は思った。旋回を終えた敵機が、獲物を狙う鷹のように降下してくる。先頭の一機の銃口が光った。まもなく銃弾が【夕立】の身体を貫くだろう。だが、【夕立】は目を閉じたりはしない。すべて見届けてやろうと思った。

 ――突然、銃撃を開始していた敵機が爆発し、そのあおりで付近の二機も煙を吹いている。そして連続した対空銃撃により、敵機は一気に四散した。

 

(……五十鈴さん?)

 

 十一基もの25mm三連装機銃が火を噴いていた。【五十鈴】は、まるで活火山のようであった。その火神のような破壊力に威圧されたのか敵機は撤退を始めた。

 

「夕立ちゃん!」

 

 【海風】が横たわっている【夕立】を抱え起こす。

 【夕立】は、彼女の耳に口を近づけ、最後の力を振り絞り、伝言を頼んだ。

 

「吹雪ちゃんに……ごめんなさいって……伝えてください」

「夕立ちゃん、しっかりして」

 

 その満足感により、【夕立】は死を受け入れていた。しかし、それを許さぬ者がいた。まだ死ぬのは早い。もっと生きなければだめだと言うものがいた。それは【北上】だった。

 水平線近くに火球が二つ出現した。内の一つは、激しく燃え盛り、黒煙をもうもうと上げている。残っていた軽空母を【北上】の渾身の一撃が葬ったのだ。

 

(さすがです……北上さん。これで、吹雪ちゃんも安心ですよ……)

 

 急に体が軽くなった。対空射撃を終えた【五十鈴】が【海風】の逆側を抱えていた。

 

「私が絶対に連れ帰るから。謝るのなら直接言いなさい」

 

 【夕立】が最後に見たものは【五十鈴】の厳しい顔だった。

 

(北上さん……喜んでください……どうやら、私にはまだ帰れる場所があるようです。あなたとの約束は必ず守ります。そして……あなたの分まで……)

 

 得も言われぬ安らぎだった。【夕立】は、その安らぎに、身を任せることにした。

 

 

【挿絵表示】

 

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