艦隊これくしょん ~永遠の終わり~ リメイク   作:Mt.モロー

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9.トラック防衛隊:【大淀】の戸惑い

1942年12月21日

 鎮守府 艦隊司令部専用車両内【大淀】

 

 トラック泊地でのガダルカナル攻防戦の事後処理は煩雑(はんざつ)を極めた。損傷艦の療養と移動手配。それによる第二艦隊の再編成。南方戦域全体の防衛プランの見直し。山積みされた仕事を【大淀】は寝る間を惜しんで処理した。結局、鎮守府に移動しての第一艦隊復帰は12月18日になってしまった。

 【長門】から秘書艦の大任を引き継いだ【大淀】には休息の暇はなかった。提督が不在だったために新しい秘書艦補佐の【矢矧(やはぎ)】とともに事務手続きをすませ、昨日より秘書艦として執務を始めた。本日の予定の大半は新兵器の視察となる。

 艦隊司令部の乗用車後部座席に【大淀】は座っていた。道路もかなり整備されており、揺れはさほど感じなかった。ただ、乾燥しているせいか土煙(つちけむり)は相当に舞っていた。

 

「あと5分ほどで工廠(こうしょう)に到着します」

 

 隣に座っている【矢矧】が腕時計を見ながら言った。

 

「提督は明日戻るのでしたね?」

「はい、長崎で武蔵さんをなだめていると聞いていますが……」

「竣工が二年も遅れたら武蔵さんだって怒りますよね」

「竣工直前での大改装ですから……三番艦の信濃さんよりも遅れるかもしれません」

 

 この【矢矧】は、【武蔵】とは逆に完成が早められた艦娘の一人だ。第二水雷戦隊旗艦【神通】の損失により、第一艦隊で秘書官代理をしていた【能代】が第二艦隊に編入され二水戦旗艦となる。そのため、同じ阿賀野級の【矢矧】が【大淀】の補佐艦として抜擢(ばってき)されていた。

「みんな忙しそうですね」

「師走も師走ですから」

 年末にもなると鎮守府もあわただしくなる。商店や工場は、年末に備えてフル稼働の状態だ。道行く人々も大きな荷物を抱えて、忙しそうに走り回っている。

 

 【大淀】はトラック泊地の癖で、車の窓を開けてしまった。予想以上の冷たい風が進入し、慌てて窓を閉めた。

 

「トラックはまだ暖かかったですか?」

「四季というものを思い出しました」

 

 【矢矧】が笑っている。クールに見えるが、表情も豊かで、穏やかな話し方もできる。【大淀】は彼女を気に入ってしまった。

 

「大淀秘書艦は提督から今後の戦略を聞いているのですか?」

「いいえ。着任時に電話で五分ほど話しただけです。詳しくは明日だということです。それまでは矢矧さんに従えと」

「秘書艦……私のことは呼び捨てでお願いします」

「それは困ります。私はそういうのに慣れていませんから」

 

 【矢矧】が半ば呆れた顔をしている。

 自分は【長門】のような強烈な指導力があるわけではない。はっきり言えば、【大淀】は自分の秘書艦としての資質に疑問を持っていた。だから、自信がつくまでは、そういった行動は自制しようと考えていた。

 

「……到着しました。秘書艦、今日は忙しいですからね」

「ええ」

 

 ――【大淀】と【矢矧】が最初に向かったのは、十四試局地戦闘機 雷電の試験飛行場だった。そこでは頭でっかちな戦闘機がダイブ・アンド・ズームのデモンストレーションを(おこな)っている。素晴らしい機動力だが、その雷電のシルエットに【大淀】は違和感を覚えた。

 

「これが雷電ですか?」

「秘書艦がご存知の雷電はモックアップの段階で提督が開発中止にしました」

「すると、やはりこれは……」

「はい、陸軍の二式戦闘機 鍾馗(しょうき)です」

「もしかして火星を積んでいるのですか?」

「さらに頭でっかちになっています。でも当初の雷電よりは視界は良いと聞いています」

 

 【矢矧】の説明によれば、二式戦闘機からの変更点は多数あった。エンジンの大口径化により機銃はすべて主翼に納められることになった。ただでさえ狭い雷電(鍾馗)の主翼にデコボコふくらみをつけて20mm機銃と12.7mm機銃を各2丁装備している。最高速度は630kmと”元祖”雷電を上回っているが、航続距離は増槽をつけても1500kmとかなり低下した。

 

「私としては12.7mm4丁のままで良かったと思っています」

「深海棲艦の航空機は頑丈になっています。20mmは必須でしょう」

「それではマ弾を使いましょう」

「あれって効果あるの?」

「良く燃えると聞いています」

「却下します」

 

 マ弾とは空気信管を使用した炸裂弾のことだ。【矢矧】も冗談で言っているのだが、同じ口径の機銃で統一するとういうのは正しい。しかし、この雷電では無理な相談だ。提督も折衷案(せっちゅうあん)としてこの装備にしたのだろう。

 

「長門さんは三個飛行隊を要求していましたが?」

「三月の輸送を目標にしています」

「三月ですか……」

 

 三月では遅すぎる。【大淀】は即座にそう思った。リコリスの復旧は年明け早々には完了する。深海棲艦の生産能力はこちらの倍以上だ。ぐずぐずしていたらトラックはなす(すべ)もなく落ちてしまう。

 

「心配はごもっともです。それでは、次に行ってみましょう」

 

 妙に明るく【矢矧】が提案する。予定表では次は爆撃機と水上機のはずだ。トラックはこれから完全な防衛戦に入る。両機ともそれほど重要でないと思うが。

 

 ――大型機の飛行場は別の場所にある。そのため、二人は再び車に乗り込み移動している。

 

「あれは……」

 

 飛行場に近づくと高翼の四発機が見えた。【大淀】の記憶にある開発中の四発機といえば深山と連山(両機とも中翼機)だった。しかし、今見えている機体は、そのどちらでもなかった。

 

「深山も連山も提督が開発を中止しました。おそらく間に合わないとのことです」

「……間に合わない? なにに対して?」

「それは明日直接お聞きください。それよりも、あれはなにか分かりますか?」

 

 【大淀】は車中から謎の機体をマジマジと観察した。なるほど、すでに実績のあるものからの流用。雷電もそうだが、この機体もそれに(なら)っている。

 

「二式飛行艇ですね。陸上仕様の案は聞いていましたが……まさか本当に作っていたとは」

「さすがです秘書艦。でも、あれはただの陸上型大艇ではありません」

「どういうことですか?」

「すぐにわかります」

 

 車は滑走路の中に入り、陸上型二式飛行艇に接近した。これまで右側面しか見えていなかった機体の左側面を目の当たりにして、【大淀】は【矢矧】の言った意味が分かった。

 

「……」

 

 言葉が出なかった。ほぼ中央に突き出された高角砲と思われる砲身、その前方にはビ式かボ式の単装機銃も顔を見せている。いったいこの機体でなにをしようというのだ。

 

「仮称ですが名前がついています。この機体は晴空(せいくう)といいます」

 

 車は晴空の前で止まった。【大淀】は車を降りてその機体を見上げた。

 

「私に積まれている8cm高角砲を軽量簡略化したものです。操縦席側のものはビッカースではなくボフォースの40mmです」

「これをトラックでどう使うの?」

「いいえ、これはアフタートラック用です。秘書艦に見て頂きたいのは隣にある水上機です」

 

 たしかに水上機も本日の視察項目にあり、視界の片隅に強風と思われる水上機があったのも事実だ。ただ、なぜ強風がここにあるのかが不明だった。

 

「晴空と作っている所が同じですから。秘書艦は忙しいので一度に見せてくれと頼んだらこうなりました」

「これは失敗作だと聞いていますが」

「強風ならそうですが、これは強風改ですから」

 

 【大淀】は、その”強風改”を観察する。たしかによく見ると差異がかなりある。翼のフロートは引き込み式になっており、武装も強化されているようだ。しかし、水上機では制空戦闘はできない。

 

「千歳さんと千代田さんのことは御存じですか」

「……彼女たちにこの”強風改”を装備するとでも?」

 

 少し強めの口調で言い返した。驚くことに【矢矧】は、それが嬉しいらしい。

 

「ようやく秘書艦らしくなってきましたね」

 

 【矢矧】が笑顔で答える。もっとも、質問への答えではないが。

 

「……いったい提督と長門さんはなにを考えてこんなものを」

 

 【大淀】は混乱していた。最初に見た雷電はともかくとして、晴空や強風改は使い道のないガラクタに見えてしまう。

 

「矢矧さん。次の予定は?」

「次は港湾に出ます。新型潜水艦と改秋月型の視察です」

 

 秘書艦は提督の戦略を否定してはならない。それは分かっているが、五里霧中では正常な判断もできない。そして、なによりも、【大淀】は心の支柱が欲しかった。

 

「少し寄り道してもいいかしら」

「寄り道ですか? どちらに?」

「駆逐艦寮です」

「……」

「あなたにも紹介したい……特型駆逐艦ネームシップ【吹雪】を」

 

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