「またか……」
送られてきたメールを見て、俺はため息をつく。ここはGGO。そしてGGO内では登録したフレンドとメールでメッセージのやり取りをすることができる。
そしてこんかい送られてきたメールの送り主の名はバザルト・ジョー。GGOのトッププレイヤーの一人にして、GGOというゲームのイメージを体現したような、なかなかにイカしたおじさんだ。
彼とのはじめての出会いは、まだ俺がGGOを始めてすぐの頃、ショップで胡散臭いプレイヤーに武器の売買の話を持ちかけられていたときに助けてもらったことだった。
そういった事情や、彼自身の裏表のない真っ直ぐなところに、個人的にはわりと彼のことは好意的に見ているのだが、如何せん一つだけ問題がある。
「どうしたの?」
「ジョーさんから。またシャロをかけて勝負しろだって」
何故か俺のベッドを占拠しているクレハが訊いてきたため答える。
「またぁ? まだ諦めてなかったのあの人!? 前にも一度負けたくせに」
そう。彼はどうやらシャロのことを気に入ったらしく、以前、彼女をかけて勝負しようと持ちかけられたのだ。もちろんシャロは大切な仲間だから賭け事の対象には出来ないし端から譲る気もないということを伝えたのだが、どういうわけか彼は返ってその返答を気に入ったらしく、結局勝負する羽目になったのだ。
その時はこちらは俺とクレハとシャロ、あちらはジョーと彼のスコードロンのメンバー二人のチーム対決をし、こちらが勝利することとなった。その後、こちらはそもそもシャロを渡すつもりはなかったのだから、受け取れないと断ったにも関わらず、強引にルビーとクレジットを渡して去っていった。
「え? なになにどういうこと?」
「あーそれはね……」
同じく何故かクレハの横で俺のベッドを占領しているレインが事情を尋ね、それにクレハが答える。この前は初対面でどこかぎこちなかったが、どうやら仲良くなってくれたようだ。
それはそれとして、二人揃って俺のベッドを占領するのは止めて欲しい。美少女二人が同じベッドで、それも自分のベッドで横になって楽しく談笑しているというのは目の保養を越えてむしろ毒だ。薬の過剰摂取は危険だ。医師の診断を受けて適量でないと。
「なるほどー。それでどうするの?」
つまらないことを考えていた俺に、事情を聞き終えたらしいレインが尋ねてくる。
「ジョーさんは別に悪い人って訳じゃないから。とりあえず会いには行くよ。で、断る。多分なんだかんだでまた戦うことになりそうだけど……」
「なら私たちも一緒に行くよ! ね! クレハちゃん!」
「ええ。そうね。またチーム対決とかになるかもだし」
二人はそう言ってベッドから起き上がる。
「ああ。助かる。シャロも呼ぶよ」
こうして俺たちは、散歩に出掛けたシャロが帰ってくるのを待ってから、共にバザルト・ジョーの待つ残影の荒野へと向かうのであった。
※
「よう! よく来たな! 待ってたぜ!」
やがて待ち合わせ場所につくと、厳つい顔のオッサン、バザルト・ジョーが岩の上から声高らかに叫ぶ。
「あのー! シャロのことかけるつもりはないんですけどー!」
俺も岩の上のジョーに向かって叫ぶ。
「それはそれ、これはこれだ! たとえアファシスちゃんを賭けなくても、俺のかっこいい姿を見せつけたら、俺についてきてくれるかもしれないからな!」
「ないです」
ジョーの言葉に、バッサリと切り捨てるシャロ。
「くぅ……! そのマスターを一途に思う心! ますます気に入ったぜ! ……ってところで、なんかお前さん、一人増えてねえか?」
「レインって言います! 彼の……友達です!」
「またなかなかの可愛こちゃんじゃねえか。なあ、お前さんもまさかあの黒い光剣使いみたいにはならないよな?」
「いや、なんの話だよ……」
どうやらジョーはキリ……どこかの黒い光剣使いのことがあまりお気に召さないらしい。まあ、何かと美少女に囲まれている彼を撃ち殺そうとするプレイヤーが沢山いることは知っているから(なんなら彼と二人で狩りに出たときに実際にそういうプレイヤーたちに出くわしたから)ジョーの反応も分かるが……
「まあ、いい! ならまた三対三の勝負だ! アファシスちゃんには立会人になってもらおう!」
「やっぱ結局戦う流れなのか……」
「仕方ないわよ。こっちだって始めからそのつもりだったでしょ?」
「うーん。まあ、それもそうだな」
クレハの言葉に頷き、俺も戦う覚悟を決めるのだった。
※
「くぅ……!また負けたぁ!」
バザルト・ジョーが悔しそうに膝をつく。
「というかなんだよ! お前さんとそっちの嬢ちゃん! しかもお前さんに至っては光剣であんなにこっちの弾をスパスパと……! 最早別ゲーじゃねえか!」
そう。以前はまだ覚えていなかったため披露できなかったが、今回の俺は銃弾を光剣で弾くスキルを使った。レインの方はまだそのスキルには慣れていないため、主にサブマシンガンで銃撃し、弱ったところに一気に詰めよって光剣で切り裂くといった戦闘スタイルをとっていた。わりと危険な戦いかただが、恐らくまだ剣での戦いかたが抜けきっていないのだろう。だからこそ無意識のうちに剣で止めを刺そうとしてしまう。
「それにそっちのクレハちゃんも。お前さんとの息がピッタリじゃねえか」
「え? 私も?」
確かに、俺が銃弾を光剣で弾いたことに驚いたジョーの仲間を一瞬の隙をついて一気にそのHPを削って倒したのはクレハだ。その後も俺が援護が欲しいときにしてくれたり、逆にクレハが必要としていると感じたときには俺が援護した。
「どうやら、俺たちのスコードロンも連携がまだまだのようだな。よしっ! それじゃあ、お前さんたちにとっていいものをやろう!」
とても負けたとは思えないような堂々とした仁王立ちになり、ジョーは笑う。
「いったい何をくれるのですか?」
シャロが興味津々といった様子で訊ねる。
「情報だ!」
「「「「情報?」」」」
思わず四人全員が聞き返す。
「そうだ! アファシスちゃんの足りないパーツの情報を一つだけゲットできたからな! それを教えてやろう!」
「なんでジョーさんが知ってるのよ……」
「そりゃあ、なんたってアファシスちゃんに関係することは沢山調べているからな! お前たちが三つのパーツのうち一つ目を集めて、今二つ目を探していることは知ってるんだぜ!」
「え? 何? もしかしてストーカー……?」
軽く引いているクレハに対する答えに、さらにレインもドン引きと言った様子になる。
「違う! 俺様はただアファシスちゃんことを見守っているだけだ! そして! 俺はアファシスちゃんのマスターじゃないから遠くから見守っているだけだ!」
――それをストーカーというのでは?
俺たち三人はいぶかしんだ。なんならジョーのスコードロンの二人も軽く呆れている。唯一シャロだけが、キョトンとした様子でこの場に立っていた。
※
「かわいさが上がりました! これで、おこづかい機能が使えるようになりました!」
「おこづかい機能?」
「はい! 私におこづかいをくれれば、色々なものを買ってきます! たまにマスターに素材や掘り出し物を買ってきちゃったりもします!」
――「たまに」なのか。
「まあ、いいか。それじゃあ、早速はいこれ。おこづかい」
とりあえず手始めに10万クレジットほどあげてみた。
「わぁ! ありがとうございます! マスター! これだけあれば、今まで欲しかったけど買えなかったあんなものやこんなものまで、なんだって買えちゃうのです!」
――うん。なんかごめんね……
なんだかとても申し訳ない気分になってきた。これからはどんどん、おこづかいをあげていくことにしよう。
「あんた、あんまりレイちゃんにおこづかいあげすぎて、自分の弾代がなくなっちゃわないようにしなさいよー」
まるで俺の心を呼んだかのようにクレハがニヤニヤ笑いながら言ってくる。
「けどちょっとガイくんの気持ちも分かるなー。私も妹のことは甘やかしてあげたいって思っちゃうもん」
「あれ、レインさんって妹さんいるの?」
「うん。一応ね。ただ子供の頃に離れ離れになっちゃってそれっきりなんだけどね……もしかしたら向こうは私がいたことも覚えてないかもだし……」
「あっ……ええっと、ごめんなさい……」
「ううん。気にしないで! それに、もしかしたら近いうちに会えるかもしれないんだ!」
「そ、そうなんだ! よかったわね!」
「……うん!」
それから4人でしばらく話をした後、俺たちはそれぞれログアウトした。レインの妹の話はそれ以降、出てこなかったが、妹の話をしている時の彼女の表情は、どこか寂しそうだった……