「というわけで困ってるんです!」
ここは、とある研究所の一室、ある女性研究者の研究室である。そこで銀髪の少女が眉間にシワを寄せていた。
「つまり君は、君の研究している《クラウド・ブレイン》のデータ収集のためにALOで活動していたものの、最近は活気が失われてきているせいで、研究が滞っていると……」
「そうなんです! みんなオーグマーに夢中になっちゃって、事件のせいでオーグマーが下火になっても、前ほど活気がないんです」
「それをどうにかするのが、アイドル活動もしている君の役目なんじゃないのかい?」
「もうやりました! けどそれでも前みたいに積極的に遊んでくれなくて、それで困ってるんです!」
少女は年相応に可愛らしく頬を膨らませるが、その目は至って真剣だ。そんな少女の目を、博士の青い目が真っ直ぐに見つめる。
「そうか、ならそんな君にちょうどいいゲームがあるよ。GGOは知っているかい?」
「ええ、もちろん。だって、リアルマネートレードの認められてるゲームなんて、そうそう無いもの。けど、あれってギルドみたいなものはあっても、大会とかは基本的にソロでしょ?」
「ああ、確かにGGOの一番大きな大会として知られているBoBはプレイヤー単独のソロの要素が大きい。だが、最近は変わってきていてね、今年の2月にはスクワッド・ジャムという団体戦の大会も開かれたしね」
「ずいぶん詳しいんですね。博士もしてるんですか?」
「いや、私はしてないよ。ただ知り合いが二人ほどいてね。彼らから話を聞いているんだ」
「もしかして、彼氏でも出来たの!?」
少女は博士の「彼」という言葉に、目をキラキラと輝かせて反応する。
「残念ながら違うよ。彼は私の……いや、あまり話すと守秘義務に関わってくるからね。止めておこう」
「守秘義務? ああ、そういえば博士はカウンセラーもしてるんでしたっけ、じゃあその患者さん?」
「ノーコメント」
「なーんだ。てっきり年齢イコール彼氏いない歴の研究バカの博士にもついに恋の季節が来たのかと思ったのに……」
「ははは。もし私が今後、非人道的な人体実験に手を染めるようなことがあれば、君をその実験体第一号にしてあげよう」
「じ、冗談だってば! で、そのGGOならわたしの研究がいっぱい進められるのね!」
「まあ、それは君があの世界でどんな人々に出会えるかによるね」
「どんな人に出会えるか……?」
まったくわからない、という風に少女は首をかしげる。
「せっかくだから、ヒントをあげるよ。アファシスを手に入れた少年、その子を探すといい。彼は今、沢山の出会いの中にいる。彼はこれから沢山の人たちと助け合っていくだろう」
「その人、名前は!?」
「話せないよ。まあ、すでに結構な有名人だからね。調べればすぐに分かるよ」
「うーん。わかったわ! 今日はありがとう! 博士! 早速始めてみるわ!」
「ああ、困ったことがあれば、またおいで七色・アルシャービン博士」
「うん! ダスビダーニャ!」
少女――七色・アルシャービン博士は、そう元気よく別れの挨拶をすると、研究室を出た。
「君の研究が、どうか彼の助けになることを願うよ」
部屋に一人のこった博士は、その美しい金髪をかきあげると、天井を見つめながらそう呟いた。