わたしたちは現在、レイちゃんのパーツを手に入れるために、ダンジョンに潜っている。
パーティーメンバーはわたし、クレハとガイア、そしてレイちゃんとレインさんの4人パーティーだった。
最近はわたしがGGOで遊ぶときはこのメンバーであることが多い。ガイアのほうはキリトさんたちともちょくちょく遊んでいるらしい。最近少し驚いたのがあのイツキさんともたまに会話をしているのを見かけることだ。前に一度、ガイアと一緒にイツキさんのスコードロンに誘われたこともあった。結局ガイアが断ったため、わたしも断ったが、あの時は改めてガイアの交遊関係が気になったものだ。
「ねえ、ところであんた。わたしの知らないところでどんどん知り合いが増えていってない?」
「え? そうかな?」
「そうよ。いつの間にかイツキさんと仲良くなってるし。それにバザルト・ジョーともパーティー組んでるでしょ」
「イツキはともかく、ジョーさんはシャロと遊びたいだけでしょ」
「えー? そうかなあ? それにしてはガイくんのこと凄く気に掛けてると思うけど」
「そうなのです! ジョーもマスターのことが大好きなのです!」
レインさんとレイちゃんもそう言う。やはりこの男は基本的に人たらしなのではないだろうか。当の本人は自覚がないらしく「そうかあ?」と首をかしげているが。
「そのうちまたすぐに増えるんでしょうね」
「また女の子だったりしてねー」
「マスターはモテモテなのです!」
この時、わたしたちはあくまでも冗談のつもりで言っていた。決して、言っている傍から本当に新しくガイアの知り合いの女の子が現れるなんて、思いもしなかった。
※
「誰だ?」
ボス部屋の前までたどり着くと、突然ガイアが足を止め、腰のホルスターからハンドガンを引き抜き構えた。そしてボス部屋の巨大な扉の横の片隅に無造作に積み上げられたコンテナに向けてそう言った。
「いやーバレちゃったかぁ。出来れば驚かしたかったんだけどなあ」
ガイアに気づかれたことに観念したのか、残念そうに頭を掻きながら、コンテナの陰から金髪のショートヘアーの少女が現れる。
「あなた、何者!?」
わたしたちも慌てて銃を構える。しかし、それとは逆に、ガイアは気が抜けたように銃を下ろした。
「お前、フィリアか?」
「覚えててくれたんだー! そうだよ! フィリアだよ!」
「え? ちょっと! また知り合い!?」
わたしの驚きの声を気にすることなく、フィリアと呼ばれた少女はガイアに駆け寄り、空いている左手を握った。
「やっぱり君だったんだね! ネットの記事で君の名前を見つけて、もしかしたらと思って来たんだよ! よかったー! また君に会えて! ってああ! ごめんね! 急に手なんか握っちゃって!」
フィリアさんは慌てて手を離す。その頬はほんのりと赤く染まっていた。
「ええっと、もしかしてあなたも昔彼とゲームの中で知り合ったのかな?」
レインさんがわたしも知りたかったことをフィリアさんに訊ねる。
「うん。そうなの。ごめんね、いきなり興奮しちゃって。改めまして、私はフィリア。彼とはその……昔やってたゲームで困ってたときに助けてくれて……命の恩人みたいな人なの……」
フィリアさんは先ほどまでと違い、少し歯切れが悪くなりながらも自己紹介をする。
「別にそこまで大袈裟なものじゃあ……」
「ううん。大袈裟なんかじゃないよ……あの時、不安と恐怖で押し潰されそうだったわたしを助けてくれたのは、他でもないあなただもの」
謙遜するガイアに対し、フィリアさんは首を振ってそれを否定する。その言葉には重みがあり、ただのゲームで助けられた話にしては、二人の間に流れる空気が言葉と同様、少し重いものに変わったように感じた。
それを感じ取ったのか、いつも明るいレインさんが、いつもよりさらに少し明るい声で自己紹介を始めた。
「わたしはレイン! わたしも彼とはゲームの中で彼と知り合ったの! よろしくね! フィリアちゃん!」
「わたしはクレハ。こいつとはリアルで幼馴染みなの。よろしくね」
レインさんに続き、わたしも挨拶する。
まさか先ほどまで冗談のつもりで言っていたことが 、本当になってしまうとはとわたしは驚いていたのだが、どうやらそれはわたしだけではなかったらしい。フィリアさんが目を向けた先を見ると、レイちゃんが驚いた顔をして固まっていた。
「び、びっくりなのです! マスターはどれだけ女性の知り合いが入るのですか!? GGOの男女比から考えてもこれは凄いことなのです!」
「いや、そんなこと言ったらキリトやイツキはどうなるんだよ……」
「確かに! それもそうですね……けどやっぱりマスターが凄いことに変わりはないのです! あ! 遅くなりました! 私はアファシスType-X、レイちゃんと呼んでください! 本当の名前はマスターだけのものなのです!」
「うん! よろしくね、レイちゃん!」
「ところでフィリア、俺達はこれからボス戦なんだけど、どうする?」
そうだった。これからわたしたちはボス戦に挑むところだったのだ。フィリアさんのレベルがどれくらいなのかは分からないが、少なくともここにたどり着けるレベルなのであれば、もし一緒に戦ってくれるとなれば心強い戦力になるだろう。
「そうだった! これが欲しいんだよね!」
フィリアさんが何かを思い出したように手をポンと叩くと、何やらアイテム画面を操作し始め、ガイアにアイテムを送ったようだった。
アイテムを受け取ったガイアはそれを確認すると、驚いたように目を見開いた。
「これって……!」
「そう! アファシスの三つ目のパーツ! ここのボスから低確率でドロップするんだよね!」
「ええ! 嘘でしょ!」
わたしたちは慌ててガイアのアイテム画面を覗き込む。アイテム画面は本来プレイヤー個人にしか見ることが出来ないため、ガイアに早くわたしたちにも見えるよう設定するよう急かし、ガイアがそうすると、わたしたちも改めて驚く。
そう。三つ目のパーツは今までと違い、アファシスの持ち主以外にもドロップするのだが、その確率が低く設定されているらしく、何度か周回する覚悟で今日は来たのだが、目の前にいるフィリアさんはそれをすでにゲットしてしまったらしい。
「けど、どうやって? ボスをソロで周回したのか?」
「ううん。違うよ。わたしはトレジャーハンターだからね! 鍛え上げた窃盗スキルとそれを活かすために極振りしたLUKのステータスで見事一発で盗んできたんだよ!」
えっへん、というように両手を腰に当ててフィリアさんは自慢する。
「なるほど……けどどうしてフィリアさんはわたしたちがパーツを探していたのを知ってたの?」
わたしの疑問に対し、フィリアさんは「ええっと……それは……」と目を泳がせる。
「おおかたアルゴから俺の情報を買ったんだろ?」
「なんでわかったの!?」
「忘れたのか? 情報を買った情報すら売り物になるんだぞ」
「ああ! そうだったぁ! 油断してたぁ!」
頭を抱えるフィリアさんに、 ガイアは「ありがとな」と礼を言う。
「わたしのこと嫌いにならないの? こっそり情報を買ってたんだよ?」
「なんで? 別に気にしないよ。俺のこと助けようと思ってしてくれたんだろ?」
ガイアの言葉に、少し涙目になり、しゃがみこんでいたフィリアさんは顔をパッと明るくし、「うん!」と元気よく頷くと立ち上がった。
「それじゃあ、どうする? パーツは手に入ったけど、折角だしボスも倒していくか?」
「そうね。ここのボスはアクセサリーの強化アイテムも落とすし、倒していきましょうよ」
こうしてわたしたちは新たに増えた仲間、フィリアさんと一緒にボス部屋へと入っていくのであった。