その日は俺とクレハ、レイン、フィリア、そしてシャロと一緒に狩りをしていた。俺たちは現在、残影の荒野をクリアした後に次のステージ、砂に覆われた孤島も順調にクリア、更なる次のステージ、オールドサウスへと向かうことだった。
「いやー楽勝だったね! この後もこんな風に順調に進めばいいんだけどねー」
「本当ね。このままこのペースで攻略を進められれば、SBCフリューゲル解放までには間に合いそうね」
戦いが終わり、大きく背伸びをするレインに対してクレハが頷く。そう。二人が話している通り、俺たちは少し攻略を急いでいる。というのも先日、シャロと一緒に街を歩いていると、たまたま出くわしたツェリスカか近々新たにアップデートが入り、新たにSBCフリューゲルという新たなダンジョンが現れるという話を聞いたのだ。しかし、そのダンジョンに挑むにはマップをクリアして解放していかねばならず、そのためニュービーである俺とレイン、フィリアは今必死にマップ解放のためにクレハに手伝ってもらいながら攻略に勤しんでいるというわけだ。
「けどやっぱり君ってゲーム上手だよねー。さっきもそのハンドガン捌き、凄かったよ!」
「その通りなのです! マスターの進化はとどまるところを知らないのです!」
フィリアが俺を誉めると、シャロが自慢げにドヤ顔をする。
現在俺は、以前ダンジョンで手に入れた二丁の拳銃、『コルトM1911A1』と『トーラスPT92』を両手に持って所謂二丁拳銃のスタイルで使っている。
ちなみにこの二丁、どちらもレジェンド武器であるらしく、これを手に入れたことでまたリアルラックが高いと話題になってしまったのはまた別の話。俺はこの二丁をワインレッドにカラーチェンジして使っている。
「まあ、けどまだまだ使いこなせてないって思うよ。今でも焦るとついつい光剣使っちゃうし・・・・・・」
「いや、そもそもガンゲーのGGOでピンチになると剣を使うっていう時点でおかしいから・・・・・・」
呆れるようにクレハが呟く。
他愛のない会話をしながら歩いているうちに、オールドサウスへと辿り着いた。
先程までずっと殺風景な砂浜ばかり見ていたために、地面に緑があるだけで謎の安心感が湧いてくる。もっとも、そんな気分に浸っていられるのも、モンスターや他のプレイヤーに出くわすまでの話だが。現に今も・・・・・・
「誰だ? そこにいるのは?」
以前、クエストで新たに得たスキル、《透視》を使って岩陰をじっと見る。このスキルはもちろん圏内で宿の中のようなプライベートルームを透視することはできないが、フィールド上においては今のように岩のような障害物や壁の向こう側、プレイヤーの顔を覆い隠すタイプのマスクなどを透視する効果がある。
岩の向こうに人の姿を確認し声をかけると、岩陰から1人の少女が現れた。長い銀髪をたなびかせるその子は、こちらを見ると無邪気な笑みを浮かべた。
「ようやく来たのね! 待ちくたびれたわ! プリヴィエート! 私の名前はセブン! あなたにお願いがあって来たの!」
※
あの後、俺たちはセブンを連れて、キリトの部屋を訪れていた。セブンからは本人がリアルで七色・アルシャービンという名前の科学者であること。自身の研究について説明され、その研究について協力してほしいということを告げられた。
その素性に関しては有名人であったことからクレハが知っていたこと、そしてなによりレインがALOにおいて知り合いだったということから信用することにした。
そして現在、彼女の研究内容からキリトたちの力も借りてはどうかということで彼の部屋に訪れたわけなのだが・・・・・・
「悪いがその話は断らせてもらうよ。俺はあくまでゲームはゲームとして楽しみたい」
キリトはキッパリと断った。アスナを始めとした他のみんなもあまり乗り気ではないようだった。
ほんの少し、重たい空気が部屋の中に流れた気がした。
「そっか。じゃあ、まあしょうがない。俺は協力させてもらうよ。あとクレハたちも。それでいい?」
俺は空気を変えるようにパンッと手を叩いてセブンに尋ねる。
「え、ええ。少し残念だけど、あなたたちがいれば一先ず十分だわ! わたしのスカードロンのメンバーもいるし!」
「あの! 僕もよかったら参加させてもらっていいかな! 研究のことはよくわからないけど、そのイベントは面白そうだからさ!」
元気よくユウキが手を挙げる。そのことにセブンは「もちろん」と快く了承する。
セブンの行う実験、それは簡単に言えば人間の脳の演算能力をネットワーク上でまとめ上げるというものだ。詳しいことはよくわからないが、要するに絆の力をお借りするようなことなのだろう。そのために彼女はGGO内最大のイベント、BoB、SJに次ぐ新たな大型イベントを企画した。その内容はSJのようにチームを組み、フィールドに配置されたモンスターを狩り、それによって得られるポイントを競うというものだ。当然PKのような妨害あり、チーム同士の協力ありのなんでもありなイベントだ。
その新たな大型イベントにどうやらユウキは釣られたらしい。
「じゃあ、イベントにチームとして参加するのは俺とシャロにクレハ、レインにフィリア、それでユウキの六人でっていうことでいいか?」
「はい! わたしはアファシスなので実験に直接は協力できませんが、全力でサポートします!」
「ええ、あんたはあたしがいないと駄目だからね。協力してあげるわ!」
シャロもクレハは元気よく頷く。フィリアとユウキもその目はやる気に満ちていた。ただ一人、レインだけはほんのわずかに、どこか複雑そうな顔を浮かべていたが・・・・・・