フェイタル・バレット 〜新説〜   作:アークコピル

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少女 ~アファシス~

「この子が……レアアイテム!?」

 

「ああ。正確にはこの前の大型アップデートで実装された、プレイヤーサポートAI、アファシスだよ。レアすぎて情報がほとんど無くってさ、この大会がゲットできるチャンスだと思ってたんだけどなあ」

 

私の疑問に、全身黒ずくめの少年が残念そうに答える。

 

「残念だったね、キリト君。また高難易度エネミーでも狩ってドロップを狙おうよ」

 

――……キリト!?

 

「えっ? キリトって確か、第3回BoB優勝者のあの……? けどあれ? 確かキリトさんって女の人じゃあ? けどその光剣とか全身黒ずくめの衣装とかは……え? 親戚?」

 

第3回BoB。それはあらゆる意味で印象に残るものであった。特にそこで繰り広げられた戦いは凄まじいものだった。今までのGGOの常識を覆す光剣の活躍、それを成し遂げたのが、二人いる第3回BoB優勝者のうちの一人、《Kirito》であった。

しかし、あの中継映像を見る限り、キリトは黒い艶やかな長髪の美少女であったはずだ。しかし、今目の前にいるキリトと名乗る少年は見ての通り少年、男だ。

キャラクリをやり直したのだろうか、けれどもVRMMOにおいて性別の変更はできなかったはず。

 

「あー……えーっと……一応言うとあのキリトと俺は同一人物だよ。あの姿はレアアバターだったらしくって、あの時も一応"male"ではあったんだ。ただ流石にあの姿のままってのもあれだったんで今の姿に変えたんだ」

 

「え? あー……そうだったんですか……」

 

――そんな……憧れの女剣士が男だったなんて……

 

この男だらけのGGOのなかで、自分と同じ女性プレイヤーが頂点に立ったというのは私にとって衝撃だった。誰にも負けない強さを求めてこのGGOへと降り立った私にとって、あの二人の女性プレイヤーは憧れであり目標だった。もちろん性別関係なくGGOにおけるトッププレイヤーは皆、尊敬の対象であるが、数少ない女性プレイヤーというだけで親近感のわく、このGGOにおいて、さらにそのなかでクレハの目指すトッププレイヤーになった存在というのはクレハのなかで大きいものであった。

あまりに、様々なことを考えすぎて最終的に思ったのは……

 

――あのファンクラブの人達はこの事を知ったらどうなるんだろう……

 

第3回BoBの後、一部の男性プレイヤーたちによって結成された非公式スコードロン《キリトファンクラブ》。あそこに所属している男性諸君はこの事実を知ればショックを受けるのか、あるいは新たな扉を開いてしまうのか、キリトに刻まれたいと叫んでいるあの人々の考えが少し気になるところだった。

 

「あれっ? ってことは、もしかしてシノンさんも……?」

 

「いや! あいつは正真正銘の女プレイヤーだから!」

 

「あー、そうなんですね。ビックリしたー!」

 

「いやいや、シノンは元々有名だったんだから……」

 

「いや、すみません混乱しちゃって……ってことは、あれですか? キリトさんとシノンさんは恋人同士とか? 最後、抱き合ってグレネード使ってましたし……!」

 

その瞬間、空気が凍った。

 

「クレハちゃん……だったかしら? ううん、違うのよ。キリト君と付き合ってるのは私で、キリト君としののんは別にそう言う関係じゃないのよ」

 

キリトさんの隣の女性が笑顔でそう言った。けれどもその目は笑っていない。笑っているようで笑っていない、VRMMOのアバターでこんな表情ができるとは……。思わぬところで技術の進歩を感じてしまった……

 

「と、とにかく! 改めて自己紹介といこうぜ! 俺はキリト! それでこっちはアスナだ!」

 

「アスナです。よろしくね、二人とも」

 

若干ひきつった表情のキリトさんが慌てて話題を変える。一方のアスナさんのほうは先ほどまでと違って、いたって普通の、むしろ女から見ても見惚れてしまうほどの穏やかな笑顔だった。

 

「はい! よろしくお願いします! 私はクレハ。で、こっちは……」

 

「ガイアです。よろしくお願いします。キリトさん。アスナさん。さっきはすいません。熱くなっちゃって」

 

ガイアも名乗る。

 

「キリトでいいよ。それにさっきのはナイスファイトだったよ。むしろこっちこそ突然襲って悪かったな。装備を見る限り、君はまだGGOに来てまだ日が浅いんだろ?」

 

「日が浅いどころか、今日始めてログインしたんですよ!」

 

私が代わりに答える。

 

「それなのにもう、すっかりこっちの世界の動きに馴れちゃって、この大会に参加する前にもNPCガンマンの射撃をかわすゲームでスッゴくてぇ……!」

 

「あー……えーっと、クレハ」

 

ガイアの言葉に振り向くと、どことなく照れ臭そうに頬を赤らめていた。

 

「え? 何?」

 

「俺のことを誉めちぎってくれるのは嬉しいんだけど、流石に恥ずかしいし、それに今はもっと重要なことがあるだろう?」

 

ガイアはそう言うと、背後にいるアファシスの方を見た。アファシスもまた、心なしか困ったような表情を浮かべているように見える。

 

「あーそうね! そうよね! アファシス! 私があなたのマスターよ!」

 

「わたしは、ArFA System Type-X A290-00。マスター登録は、すでに完了しています。《Gaia》……この人が私のマスターです。現在、メインシステムを50%まで起動中。しばらくお待ちください」

 

「え……? そんなぁー!」

 

――すでに登録済み? マスターはガイア?

 

「最初に言っておくけど、わざとじゃないから」

 

私の視線に気づいたガイアは慌てて両手を振る。

 

「やっぱりな。だから倒しても無駄だと思ったんだ。アファシスが『マスター』と呼んでいたからな。それに……いや、何でもない」

 

「ま、まあいいわ。アンタのものは私のもの。だからアンタのアファシスは私のもの! そういうことにしてあげるわ。さっきは迷惑かけちゃったしね……」

 

「クレハはマスターの上位者。認識しました。よろしくお願いします」

 

 

 

 

あれからキリトさんたちは立ち去り、この場には私とガイア、そしてアファシスだけとなった。

その間にもアファシスはメインシステムの起動を進めている。そしてついに……

 

「メインシステム起動90……100……システムチェック……システムオールグリーン……起動完了しました。マスター! 私に名前をつけてください! 変更は可能ですが、変な名前をつければ爆発します!」

 

先程までのいかにもAIといったような喋り方とは違い、とても元気な雰囲気となった。そのことにガイアも驚き、思わず訪ねる。

 

「なんというか……急に元気になったね」

 

「それは仕様です! マスター! Type-Xは、それぞれ個性のあるとっても優れたアンドロイドなのです!」

 

「それより、早く名前をつけてあげたら? これからずっと一緒に連れ歩くんだからね」

 

「名前? そうか……俺がつけるのか。そうか……名前……」

 

私の言葉にガイアはほんの少し考え込む。

 

「そうだな……じゃあ、シャロで」

 

「登録完了! 想定よりいいセンスで安心しました!」

 

「ちなみに名前の由来は?」

 

「アニメのキャラだよ。どことなく似てるんだ。この子」

 

「それってどうなのよ……」

 

「だめ? じゃあ、AIだからアイとか?」

 

「それは安直すぎます! マスターが最初につけてくれた名前が気に入りました! 私は今日からシャロです!」

 

「そう……まあ確かにいい名前よね」

 

どうやら名前の由来は関係なく気に入ったらしい。

 

「始めて名前をくれたマスターにはプレゼントをあげます。マスターに向いている武器は……これですね! ちなみに返却は不可です!」

 

アファシス――シャロは小型の白色の銃のようなものを取り出してガイアに渡した。

 

「なにそれ? 見たこと無い銃だけど?」

 

「これは《アルティメットファイバーガン》! 略して《UFG》です! マスターは経験値0で予測不可能なので、未知の武器をあげることにしました! 実験体ではありませんよ! マスターの未来を期待しているという事です!」

 

「それって、実装前の武器ってこと!? すっごい! もうレアってレベルじゃないわよ!」

 

「そうです! 私は凄いのです! それでは早速練習に向かいましょう!」

 

シャロは得意気であり、私はただただ驚くだけだった。そしてこの場で一番の当事者であるガイアは……

 

「……?」

 

完璧に話についていけなくなっていた……

 

 

 

 

「いやーそれにしても凄かったわね、それ!」

 

あの後、俺とクレハはシャロに連れられてこの新アイテム、《UFG》の練習をした。クレハ曰く、《UFG》の存在は今後のGGOにおけるあらゆる戦術に革命をもたらすものらしい。

 

「あ! 大会の結果が出てるわよ。凄い! 優勝はキリトさんたちだって!」

 

ただでさえ興奮しているクレハが大会の結果を見てさらに興奮する。

 

「けどまあ、この大会で一番の勝者はきっとアンタね。だってニュービーなのにアファシスをゲットしちゃうんだもん」

 

視線をこちらに向けると、まるで自分の事のように得意気な顔をする。

 

「そうなのです! 私をゲットしたマスターこそ真の勝者であり、これからは私がマスターに勝利をもたらすのです!」

 

シャロも同じように得意気な顔をする。そんな得意気×2に挟まれていると、後ろから声をかけられた。

 

「やあ、君たちも生き残っていたんだね。あの後どうなったのか気になっていたんだ。こっちはモンスターとトラップだらけの道でね」

 

「俺たちのほうはラッキーな道でしたよ」

 

「どういうことだい? そっちの道には何が……って君はさっきはいなかった……ん? プレイヤーじゃない? まさかアファシス!? まさかクレハ君の……!?」

 

「いえ、残念ながら色々あって、あたしが来たときにはもう、マスター登録されちゃってたんです」

 

「へぇー。じゃあ、ニュービーの君がマスターなのか。その幸運をわけて欲しいよ……まったく、どうして僕の落としたパンは、いつもバターを塗った方が下になるんだろう……」

 

――そんなに「いつも」ってぐらいパンをしょっちゅう落としてるのか、この人……?

 

イツキの不幸っぷりに興味を抱いていると、またもや後ろから声をかけられる。

 

「やあ、おかえり! ここで待ってたら会えると思ってたんだ!」

 

「よかったら、いっしょにお疲れ様パーティーをしないかなと思って」

 

そこには今大会優勝者であるキリトとアスナが立っていた。

 

「仲間たちと一緒にちょっとしたパーティーをしようかと思ってね。あとアファシスの話も聞きたいし。あれ、君はさっき戦った……」

 

キリトはイツキに視線を向ける。

 

「どうも。さすがは第3回BoB優勝者だね。仲間もあっさり倒されちゃったし、僕も時間切れにならなければ危なかったよ」

 

「うぅ……バレてたのか……」

 

「ふふっ。君の正体のことかい? そりゃあまあ、この銃の世界で光剣を振り回す凄腕プレイヤー、しかもプレイヤー名まで一緒となると、逆に気づかない方がおかしいよ」

 

「くぅ……やっぱり出るべきじゃなかったか」

 

「おおかた、噂になってたレアアイテム、そこのアファシスの話を聞いて、欲にかられて出場したってところかな?」

 

どうやらイツキのその言葉は図星らしく、キリトは「うっ……」と小さく声を漏らした。

 

「しょうがないだろ。ゲーマーとしての血が騒いだんだ。そんなことより、君も一緒にどうだ? イツキ」

 

「僕は遠慮しておくよ。自分のスコードロンの相手をしないといけないからね」

 

少しうんざりといった感じで首を振ると、イツキは再び俺の方へと向いた。

 

「アファシスを手に入れ、トッププレイヤーに興味を持たれる。どうやら君は、今日世界一幸運な人間だと思うよ……それじゃあね、また会おう」

 

そう言うとイツキは立ち去った。

 

「それで、君たちはどうかな?」

 

キリトが改めて尋ねる。

 

「マスター! パーティーは初めての経験です! ものすごく興味があります! 是非とも行きましょう!」

 

どうやらシャロはパーティーに興味津々らしい。クレハの方を見ると「ええ、参加させてもらいましょう!」と乗り気の様だった。

 

「うん。参加させてもらうよ」

 

そう答えると、俺たちはキリトたちと共にキリトの部屋へと向かったのであった。

 

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