「最近、何かいいことでもあったのかい?」
「え? そう見えますか?」
金髪のボブカットの、西洋系の白衣を着た美女が、流暢な日本語でそう尋ねると、少年は驚いた顔をする。
「ああ。今までと違って、とても生き生きとした顔をしているよ。ただ、同時に何か困っているような顔もしているけどね」
「まあ、いいことっていうか……久しぶりに、幼馴染みに会ったんです。ゲームの中でですけど」
「というと、またVRMMOを……?」
「ええ。迷いましたけど、やっぱり会いたいと思ったので」
「別にわざわざゲームの中でなくとも、リアルで会いたいと言えばよかったんじゃないかい?」
「向こうから誘ってきたんですよ。だからそれを断ってリアルで会おうって誘うのはアレじゃないですか」
「そうかなあ。ま、思春期特有のお悩みってところかな?」
「まあまあ、素敵な話じゃないですか。幼馴染みとまた楽しく遊べるだなんて」
クスクスと笑う白衣の女性を、その隣に座るスーツ姿のメガネをかけた美女が窘める。
「ところでその子は知っているの? あなたがこの数年、どうしていたのか」
「いや、知らないはずです。その頃電話をかけてきたこともあったらしいんですけど、その時は両親がうまく誤魔化してくれてたみたいです。おかげで心配をかけずに済みました」
「まったくあなたは本当にお人好しなのね」
「そんなことないですよ」
「ついでに頑固だわ」
「こらこら二人とも、結局いつもの流れになってるよ」
白衣の女性の言葉に、二人は「すいません」「ごめんなさいね」と謝る。
「まあ、いいさ。君がそうやって笑っていられるのなら、この場を設けたかいもあるってものさ。それで、他に変わったことはあったかい?」
「他ですか? そうですね……あぁ、そういえば、幼馴染みに誘われたゲームがGGOってゲームなんですけど、そこでレアアイテムのアファシスっていうのを手に入れたんですよ」
「何ですって!」
少年がアファシスの話をした途端、スーツの女性は飛び上がるように立ち上がり、少年の肩を掴むと揺さぶった。
「あ、あ、あ、あなたがアファシスを手に入れたっていう、あのニュービーだったの!」
「ちょっ、ちょっと苦しい……です………! ってかなんで知って……?」
「え? あっ……あぁ、ごめんなさい。思わず取り乱しちゃったわ。だって噂の幸運なニュービーがこんな身近なところにいただなんて思わなかったんだもの」
少年の言葉に、スーツの女性は我に返る。椅子に座ると、髪の毛を少しすいて整える。
「な、何でっていうのは、そりゃあ私がザスカーの社員だからよ。って知ってるはずよね? そもそも今ここにあなたがいること事態、あなたと、正確にはあなたのご両親とザスカーの契約があるからこそなんだから」
「そっか、言われてみればそうですね」
GGOを運営している企業、それがザスカーである。そして少年はとある理由により、こうしてザスカーの社員であるスーツの女性と、ザスカーに雇われた外部の心理カウンセラーである白衣の女性とこうしてたびたび会い、会話しているのである。そしてその理由と言うのは……
「そうよ。あなたが、あの世界にいた人間のなかで唯一、正常に稼働した《メンタルヘルスカウンセリングプログラム》、通称《MHCP》の試作2号と接触した存在なんだから」
「2号ってことは、1号はどうなったんですか?」
「それはわからないわ。崩壊したデータの中からサルベージできたのは、2号だけ。1号は一切のデータが消滅していたわ」
「話はもう、できないんですか?」
「ええ、正直言って難しいわ。彼女のデータはあくまでデータとしてしか残っていない。AIとしての思考能力はもう、残っていないの」
「そう……ですか……」
少年は残念そうに肩を落とす。
「また会いたい?」
「ええ。そりゃあまあ。いっぱい世話になりましたし。けど最後は突然、いなくなってしまった……」
少年はそっと窓の外の空を見る。まるでそこには存在しない、かつて自分がいた天空に浮かぶ城を懐かしむように……
「なら、あなたが手に入れたアファシスを大事にしてあげて。彼女たちの、"Type-X"のAIプログラムは、MHCPを参考に作ってあるから、実質的には彼女の妹、あるいは娘のような存在よ」
「そうなんですか……わかりました。ありがとうございます」
「よし! それじゃあ、今日はこの辺でお開きとしようか!」
白衣の女性は手を叩くと、立ち上がる。
「まあ、無理はしないように。何事もね。ゲームは1日1時間! だよ!」
「ははは。それはちょっと難しいかもしれませんね。まあ、なれるまでは、ほどほどにしておきます」
少年はそう言って部屋を出ようとドアを開く……が、途中でピタリと止まると振り返る。
「あの、それと……2号じゃないです……」
「「え?」」
聞き返す二人に、少年は笑顔で言う。かつての大切な、仲間の名を……
「彼女の名前は……ストレアです!」