フェイタル・バレット 〜新説〜   作:アークコピル

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無冠の女王 ~ツェリスカ~

ある平日の夕方のこと、GGOにログインすると、いつものようにホームでシャロが出迎えてくれた。クレハたちもまだログインしていなかったため、二人で街を見て回ることにした。

だが少し歩いたところで、いつの間にかシャロはいなくなっていた。

メッセージを送っても反応はなく、フレンド欄から確認すると、市街地のなかにいることは確認できたため、探しに行くことにした。

そういうわけで俺は今、一人街を歩いていた。ショップの方へと向かっていると、イツキが声をかけてきた。

 

「やあ、今日は君一人かい? 珍しいね」

 

「実はシャロ……アファシスと一緒にいたんだけど、いつの間にかはぐれちゃって、イツキは見てない?」

 

「いや、残念だけど見ていないよ。そうか、名前をつけてあげたんだね」

 

「うん。まあね。ただイツキが呼ぶときはレイって呼んであげて。どういうわけか、俺以外には俺がつけた名前で呼ばれるのを嫌がるんだ。だから代わりにレイって呼んであげて」

 

そう。あの日――シャロと出会ったあの日、キリトたちに自己紹介した日にシャロは俺以外のプレイヤーに名前を呼ばれるのを嫌がった。そのため俺以外の皆はシャロのことを"レイ"と呼ぶようになった。

正直、皆がレイと呼んでいるのに一人だけシャロと呼ぶのは、逆に俺が変な人みたいになっているのではないだろうかと不安になってくる。

 

「なんだい? 惚気かい? まったく聞けば聞くほどあの時アファシスを手に入れられなかったことを悔やむよ……」

 

イツキはやれやれというように、ややオーバーに首を振る。

 

「ところでさ……君はあの時、どうしてアファシスを庇ったんだい?」

 

イツキは理解できないと言う風に顔をしかめながら尋ねてきた。

 

「確かにアファシスはレアアイテムだ。けどあそこで君がゲームオーバーになれば、どのみち手に入れられなくなるかもしれない。それなのにどうして……」

 

「さあ、よくわからないけど、体が動いたんだ」

 

俺が答えると、イツキはポカンとした顔をした。

 

「っていうか、キリトと同じ事を訊くんだね。以外と二人って似てるのかな?」

 

「ははは。それはないんじゃないかな。強いて言うなら君と知り合った人間が皆同じ疑問を抱くだけなんじゃないかな? まあ、それはさておき、もし見かけたら君に伝えるよ。うちのスコードロンの皆にも声をかけてみる」

 

「いや、それは悪いよ」

 

「いいんだよ。これも何かの縁だ。それに、こういう機会でもなければ君とフレンド登録できないと思ってね」

 

イツキはそう言うと画面を表示し、操作を始める。

 

「そんなの、普通に言ってくれればしたのに」

 

俺もそれにならい、操作を始める。

 

「そうか、なるほど……君はそういう子なんだね」

 

イツキはなぜかそう言いながら満足そうに笑うとフレンド申請を送ってきた。もちろん俺もそれに承諾し、これではれて俺とイツキはフレンドになった。

 

 

 

 

あの後、イツキと別れてからも街のなかを探し回ったものの、シャロを見つけることはできなかった。そして結局、ホームの前へと戻ってきてしまったのだが……

 

「マスター!!」

 

シャロが元気よく手を降りながら走ってきた。途中、転びそうになったがなんとか建て直す。そしてその後ろには、プラチナブロンドの少女が一緒に走っていた。そちらは危なげなく、転ぶようなことはない。

 

「もう! どこに行ってたのですかマスター! 迷子になるだなんて! 心配しましたよ!」

 

「迷子はあなたの方でしょう……」

 

呆れるように後ろの少女が首を振り、そして俺の方を見る。

 

「はじめまして。わたしはデイジー。彼女と同じく、アファシスType-Xです」

 

後ろの少女ーーデイジーは、そう言って丁寧にお辞儀をする。

 

「急に走ったら危ないわよ。デイジーちゃんと迷子ちゃん」

 

二人が走ってきた方向から、今度は銀髪の女性が現れる。

 

「マスター、わたしの運動に関するプログラムは規定値を十分クリアしています。この程度の運動で衝突や転倒を起こす心配はありません」

 

少女の言葉に、先程転びそうになったどこかのType-Xさんは「うっ……」と声を漏らし視線を遠くにやる。

 

「あなたたちのようなかわいい子には別の危険もあるの。だからわたしの傍から離れてはだめよ」

 

女性はデイジーの頬を撫で、デイジーのもまた、女性の言葉に「承知しました」と頷く。

 

「あなたが、迷子ちゃんのマスターさんかしら?」

 

女性は俺の方を見る。

 

「噂は聞いているわ〜。うちのデイジーちゃんと同じ、超劇レア中のレア、Type-Xを手に入れた幸運なニュービーさんの話はね。GGO中の注目の的だもの。でも、だからといって街中で目を話すのは感心しないわ〜。アファシスの、特にType-Xの仕様は全て明らかにされてるわけではないけど、アイテム扱いだとすれば、盗まれる可能性だってゼロではないもの〜」

 

言葉とは裏腹に、女性は優しげな視線を俺に向ける。

 

「すみません。まさか迷子になるとは思わなくって」

 

「ふふふ。確かにわたしも街で彼女を見つけたときは驚いたわ〜。けど、アファシスは、自発的に考え、高度な学習型AIを搭載! 特にType-Xはそれぞれに個性が設定されたプログラマー泣かせの仕様なの! ほんっとうに大変なのよ! それでさらに戦闘だけじゃなくて、マスターの資産管理にコーディネート、あらゆる面でマスターたるプレイヤーのサポートをしてくれるのよ! 実はSAOのメンタルヘルス・カウンセリングプログラムを参考に……」

 

女性はアファシスについて熱く語る。本当に、熱く語る。

 

「おほん。要するに、それだけ高度なAIだからこそ、こういう迷子になっちゃう子もいたっておかしくないってことよ〜」

 

女性は軽く咳払いをし、改めて話を仕切り直す。

 

「とにかく、性能面にビジュアル面。あらゆる意味で欲しがる人は多いわ〜。だから、ちゃんと大事にしてあげてね〜。まあ、あなたなら大丈夫だとは思うけどね〜」

 

「……どこかでお会いしましたっけ?」

 

「え?」

 

「いや、俺のこと知ってる風だったので……」

 

「……あぁ! そういうことね。いいえ、あなたとはこれが初対面よ。ただ、あなたは見た感じアファシスを大切にしてくれる人だと思ったのよ〜」

 

女性は一瞬キョトンとした顔になるが、またすぐに穏やかな、ちょっぴり怪しい雰囲気の笑顔に戻る。

 

「それじゃあ改めて、わたしはツェリスカ。よろしくね〜」

 

これが俺と、《無冠の女王》ツェリスカとの出会いだった。

 

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