プラチナブロンドのロングヘアーの少女は帰宅するなりいきなりベッドに突っ伏した。ベッドに顔を埋めたまま「あ〜〜〜」と呻くと、仰向けになる。そしてため息をつく。
今日も一日が終わる。つまらない一日だった。朝起きて学校へ行き、先生の面白い話やつまらない話が入り交じった授業を受け、放課後にはメイド喫茶でバイトをする。そしてバイトが終われば帰宅して宿題を済ませて眠る。ここ最近の、最早ルーティーンと化した日常。
ほんの少し前まではこの日常を取り戻したかった。けれども、いざこうして現実の日常を取り戻してみると退屈だと言うのだから、人間というのは、わがままなものだ。いや、正確には今の日常の方が望ましい。ほんの少し前の生活には戻りたくない。ただ、一つだけ足りないものがある。正確には、一人。
――今日も会えなかったな……
少女はまたため息をつく。ため息の理由はひとつ。かつて、自身が囚われていたあの世界で一時の間ではあるものの、ともに時間を過ごした少年を見つけることができなかったからだ。
彼をこちらで探し始めてから、すでに一年は過ぎた。といっても、もう一人現状を知らなければならない人間がいるため、彼を探すのはあくまで休み時間に学校の中を探すぐらいだ。
あの世界に囚われていた同世代の少年少女たちのほとんどは同じ学校に通っているはずだ。具体的に彼に年齢を聞いていたわけではないが、彼と交わした言葉の端々からほぼ同世代なのは確かだ。
だから彼を学校で見つけられないのであれば、考えられる理由は二つ。一つは運悪く未だに校内で出会えていないということ。これはまずないだろう。彼の顔ははっきりと覚えている。それなのに一年近く学校中を探し回って見つけられないというのは、ほぼないであろう。
だとすれば、残された可能性は一つ。同じ学校に通ってない、一部の人間であると言う可能性だ。だとすれば、もう彼に会える可能性はほとんどない。そう思うと、胸がぎゅっと締め付けられるように痛む。
――会いたいよ……
ベッドの傍においてある台の上を見る。そこにはフルダイブゲーム機《アミュスフィア》があった。
※
妖精たちの世界《ALO》にダイブした少女は、街中をふらついていた。そして広場を歩いていたとき、プレイヤーたちの会話が聞こえてきた。
「なあ、最近ALOも活気がなくなってきたよなー」
「ああ。やっぱりオーグマーが一時期流行って、それでプレイヤーが流れちまったせいなのかねぇ」
「それだけじゃねえぜ。最近はGGOにも結構コンバートしてる連中がいるらしい。なんでもあの《絶剣》まであっちに行ってるって噂だ」
「おい、マジかよ! あっちは銃の世界だろ! 《絶銃》にでもなるつもりかよ?」
「いやいや、なんでもあっちの大会で剣で銃弾を弾き返しまくったヤツがいるらしいんだ。それに影響されたんじゃねえかって噂だぜ」
「マジかよ……けどそれはあくまで《絶剣》だからだろ? 他のプレイヤーはなんであっちに行ってんだ?」
「それがよお……なんでも大型アップデートで超激レアアイテムとして超高性能AIを組み込んだアファシスってのが手に入るようになったんだ」
「へえ、ちょっと面白そうだな。俺もやってみるか」
「やめとけやめとけ。超激レアだって言ったろ? 未だにゲットしたヤツの情報がほとんど出てないんだぜ。トッププレイヤーですらゲットできずに困ってるって噂だ」
「それじゃあ、仮にコンバートしたって手に入れるのは無理か」
「いや、実はそうとも限らないんだ」
「おい、どっちなんだよ!」
「いやいや! だってよぉ! 今一番GGOで有名な話題がその超激レアなアファシスをニュービーが手に入れたって話なんだぜ!」
「マジかよ。どんな強運の持ち主なんだよ!」
「まったくだよな。まぁ、そのせいでニュービーなのに早くもプレイヤー名晒されてるらしいけどな。確か名前は……」
※
茶髪のショートヘアーの少女は暗い部屋のなかでベッドに潜り、スマホを覗いていた。
この少女もまた、ある少年の行方を探していた。かつて、恐怖に怯え、絶望していたあのときに自分を救ってくれたあの少年。あの命の恩人を、心の恩人を探していた。
少女は呻く。
「うー。どこにいるんだよー」
学校では見つからなかった。あの世界にいた、同世代の少年であれば、ほぼ間違いなく同じ学校に通っているはずなのに。リアルで見つからないのであれば、バーチャルの世界で探すしかない。そう思っていくつかの世界を見て回ろうとしたが、当然全てのゲームを買えるわけではない。だからあらかじめVRMMOの記事を見て目星をつけようとしていたのだ。無論、すぐ確定できるような記事があるとは思っていないが、それでもなにか手がかりになるような記事はないかと探していた。
そしてバーチャルの海をサーフィンしていると、その記事を見つけた。
「これって……!」
その記事は、GGOというゲームでとあるニュービーがレアアイテムをゲットしたというものだった。そして、その記事にご丁寧に晒されてしまっていたそのニュービーのプレイヤー名を見た瞬間、少女は息を飲んだ。
同名なだけのプレイヤーかもしれない。けれどその記事についていた写真を見たとき、少女は確信した。
翌日、少女は朝一でGGOを買いに出た。そして帰って来たその足で、少女はGGOの世界へとダイブした。